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1~10話

2b、私は置かれた状況をわかっていない

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 そして今、目の前ではオークションが開催されている。
 商品は言わずもがな……私である。

 何日も押し込められていた檻から出されると、劣悪な環境にすっかり汚れきった服を剥ぎ取られ冷たい真水とモップでゴシゴシと身体を洗われた。
 身体中くまなく、信じられないような所まで検分された後は、清潔そうな白いワンピースを着せられて眩しい照明の元に連れ出され、今に至る。

「お次の品は世にも珍しい双黒の乙女です! 愛玩奴隷に最適な健康体の処女! 500ゴールドからのスタートです」

「550!」
「600!」
 ……

 眩しすぎる照明の光は攻撃性さえ感じるし、反抗的な態度だといって幾度となく打たれた腹や背中が痛み、立っているのが辛い。

 寝不足と空腹に霞む頭で自分の値が吊り上がっていくのを聞きながら、ぼんやりと客席を眺める。
 薄暗い観客席は舞台がよく見えるよう階段状になっていて、そこに座る誰も彼もが仮面や帽子で顔を隠していた。

 ふと視界の端に誰かが遅れて会場に入ってくるのが見え、動く人影をぼーっと目で追う。
 黒いマントに身を包んだ大きな体躯のその人は、目深に被ったフードで顔も見えないけれど……なんだか目があったような気がして、視線を絡め取られたかのように目が逸らせなくなった。

「1750!」
「1780出す!」
「えぇい、1900……

「5000だ」

 ざわりと会場がどよめく。
 よく響く深い声の主は、会場中の視線が集中する先は、どうやら先ほどのフードの男らしかった。

 司会の男が何事か発しながらハンマーを打ち付ける音が遠く聞こえる。

 実際に買い手がついた事で、自分が本当に商品として売られたのだと言う実感が込み上げてきた。
 まだ見ぬ恐怖に足がガクガクと震えてくる。

 身体が崩折れそうになるのを、下働きの男に手枷から伸びる鎖を強く引き上げられて阻止された。
 そのまま引きずるように歩かされ舞台の幕の奥へとつれて行かれる。
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