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1~10話
もう君を放さない【上】
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「いっけなーい、遅刻遅刻!」
手のひらサイズの小瓶を握りしめ、王城の廊下をひた走る。
――え、パン? くわえてないけどなんで?
謁見時刻までまだ時間があるからと、新しい研究に着手してしまったのがまずかった。
同僚に指摘されて時計を見れば、針はまさに謁見時刻を指そうというところ。
「もう! どうせならもっと早く教えてくれればいいのに!」
全力疾走の息苦しさに親切な同僚を逆恨みしながら、長い廊下を謁見室目掛けて走り抜ける。
あとはあの角を曲がれば――!
ドンッ!!
「きゃあっ!」
曲がった先で壁にぶつかり、思い切り跳ね返されて尻餅をついた。
「っ悪い、大丈夫か!?」
壁が喋った。
――違う、人だ。限りなく壁に近い筋肉の塊。
「ディ……ベルグラートナー隊長」
硬そうなシルバーアッシュの短髪に、鋭いアンバーの瞳。見上げるほど大きな体躯は、服の上からでもわかるほど分厚い筋肉に覆われて見るものを圧倒する。
私など片手でぷちっと握り潰せそうなこの大男は、平民出身者で構成された騎士団第六部隊を率いる、隊長ディノ=ベルグラートナー。
自身は伯爵位を持つものの、人の顔を見ればからかってくるわ、なにかとガサツでデリカシーに欠ける人間なのだ。
右手を差し出され、片手にしっかりと小瓶を握りしめたまま空いている左手を乗せる。
掴んでクイと引かれれば、どこにも力を入れることなくストンと立ち上がれてしまった。
「チェリアか。悪いな、ちっこくて見えなかった。怪我は?」
「ふんっ、こっちだって壁かと思ったわ! 怪我はないけどっ!」
いつも通りの失礼な物言いに、ぷいと顔を背けて重ねた手を振り払……、振りっ……はらっ……、はら…………えない!
手が! 離れない!!!
「ちょっと、放してちょうだい!」
「いや、俺は掴んでねぇぞ? ほら」
ディノがパッと指を広げてみせる。
私だって掴んでなんかいない。
なのに重ねた手のひらは、くっついたように離れない。
――――くっついたように?
嫌な予感とともに自分の右手を見れば、予想通りというべきか、それだけは避けたかった最悪の事態というべきか、握りしめた小瓶の栓が外れている。
「……この手、もう離れないわ」
「は? どういうことだ?」
「とりあえず、そこに落ちてる栓を拾ってこの瓶にはめてもらえる? もっと大変なことになる前に」
左手はくっつき、右手には小瓶を握りしめているので、栓が拾えないのだ。
ディノは怪訝そうな顔をしながらも栓を拾い、私が持つ小瓶にグッと差し込んでくれた。
手のひらサイズの小瓶を握りしめ、王城の廊下をひた走る。
――え、パン? くわえてないけどなんで?
謁見時刻までまだ時間があるからと、新しい研究に着手してしまったのがまずかった。
同僚に指摘されて時計を見れば、針はまさに謁見時刻を指そうというところ。
「もう! どうせならもっと早く教えてくれればいいのに!」
全力疾走の息苦しさに親切な同僚を逆恨みしながら、長い廊下を謁見室目掛けて走り抜ける。
あとはあの角を曲がれば――!
ドンッ!!
「きゃあっ!」
曲がった先で壁にぶつかり、思い切り跳ね返されて尻餅をついた。
「っ悪い、大丈夫か!?」
壁が喋った。
――違う、人だ。限りなく壁に近い筋肉の塊。
「ディ……ベルグラートナー隊長」
硬そうなシルバーアッシュの短髪に、鋭いアンバーの瞳。見上げるほど大きな体躯は、服の上からでもわかるほど分厚い筋肉に覆われて見るものを圧倒する。
私など片手でぷちっと握り潰せそうなこの大男は、平民出身者で構成された騎士団第六部隊を率いる、隊長ディノ=ベルグラートナー。
自身は伯爵位を持つものの、人の顔を見ればからかってくるわ、なにかとガサツでデリカシーに欠ける人間なのだ。
右手を差し出され、片手にしっかりと小瓶を握りしめたまま空いている左手を乗せる。
掴んでクイと引かれれば、どこにも力を入れることなくストンと立ち上がれてしまった。
「チェリアか。悪いな、ちっこくて見えなかった。怪我は?」
「ふんっ、こっちだって壁かと思ったわ! 怪我はないけどっ!」
いつも通りの失礼な物言いに、ぷいと顔を背けて重ねた手を振り払……、振りっ……はらっ……、はら…………えない!
手が! 離れない!!!
「ちょっと、放してちょうだい!」
「いや、俺は掴んでねぇぞ? ほら」
ディノがパッと指を広げてみせる。
私だって掴んでなんかいない。
なのに重ねた手のひらは、くっついたように離れない。
――――くっついたように?
嫌な予感とともに自分の右手を見れば、予想通りというべきか、それだけは避けたかった最悪の事態というべきか、握りしめた小瓶の栓が外れている。
「……この手、もう離れないわ」
「は? どういうことだ?」
「とりあえず、そこに落ちてる栓を拾ってこの瓶にはめてもらえる? もっと大変なことになる前に」
左手はくっつき、右手には小瓶を握りしめているので、栓が拾えないのだ。
ディノは怪訝そうな顔をしながらも栓を拾い、私が持つ小瓶にグッと差し込んでくれた。
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