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1~10話

時間を止めて【上】

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 騎士棟を抜けて屋外訓練場に顔を出すと、訓練中の騎士たちがこちらを見て一斉に動きを止めた。
 カラーンと音を立て、あちらこちらで木剣が落ちる。

「??」

 薬の在庫確認や納品のため何度となくここを訪れているけれど、こんなことは初めてだ。
 普段であれば隊長のディノが姿を見せようと、挨拶のために訓練の手を止めるような人はいないのに。

 見たところ、五十人近い第六部隊員のほとんどがこの場にいるようだ。いつもの喧騒が嘘のように静まり返り、ここだけ時間が止まったかのように静寂に包まれている。

 ディノは奇妙な静寂を気にすることなく、好都合とばかりに声を張りあげた。

「全隊員にぐ! 三日後、ユニコーンの角採取のためいずれかひと班に西の森へ向かってもらう! 誰か『いざないの乙女』に当てがあるやつはいないか!?」

 よく通る低音が広い訓練場に響く。
 固まっていた騎士たちは、その声でようやく我に返って硬直を解いた。

「乙女のってもなぁ……」
「かみさんは若くも乙女でもないしな」
「ははっ、ちげぇねぇ!」

 やいやいと話しながらも誰も当てがなく顔を見合わせるなか、若い騎士の一人が手を挙げた。

「――あのっ! 俺の妹だったら協力してくれっと思います!」

 私がここを訪れるたび、人懐っこく寄ってきては作業を手伝ってくれる新米騎士のルークだ。
 なるほど、面倒見のよさは妹がいることに由来していたらしい。

「ルークご自慢の妹か」
「男に免疫のない可憐な美少女って話だろ? 見てみてぇな」
「顔はアニキの欲目って可能性もあっからなぁ~!」

 周囲の騎士たちが下世話な話で盛り上がる。

 平民出身者で構成された第六部隊に貴族のようなつつしみ深さはないけれど、腹芸もなく明け透けなので、粗野な言動にさえ目をつぶれば付き合いやすい人たちだと思う。
 なにせ平和を守る『騎士』になろうというくらいである。みんな心根は優しく、他者のために行動できる強さを持っているのだ。

 ディノはルークを見て、考える素振りで口を開いた。

「年齢と健康状態は」

「今年で十六歳、健康体っす」

「乙女の資格については」

「男とは手ぇ繋いだこともないっつってました」

「……ふむ、ルークは二班だったな。では西の森へは二班に行ってもらうこととする! 三日後までに遠征の用意を整えておくように! ルークは妹君に協力を取りつけておいてくれ!」

「はい! ところでその手――」

「話は以上だ! 各自訓練に戻れ!」

 要件だけ伝えると、ディノは方々から突き刺さる問いたげな視線に答えることなくさっさと訓練場を後にした。
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