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11~20話

救いの手【下】

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 完成した小瓶の一つを、隣に立つディノが摘まみあげる。

「なあ、この瓶って中級傷薬か?」

「ええ、『ワリト中級・キズナオール』よ。第六部隊の人たちって『スコシ初級・キズナオール』で治るような怪我だと、唾つけておけばいいとか言って全然薬を使わないでしょ? だから『ワリト中級』と『カナリ上級』を中心に作っておくの」

「ほぉー……、いつも使ってる薬が出来てくとこを見るってのも新鮮なもんだな」

 ディノは部屋明かりに透かした小瓶を、楽しげにちゃぷちゃぷと揺らして眺める。

「それなりに楽しんでもらえてるならよかったわ。それじゃ、同じ作業をあと九回繰り返すからよろしくね」

「九回だぁ!?」

「あなたたちが大量に消費するんじゃない! ――とはいえ、魔獣相手の戦闘に怪我がつきものなのはわかってるわ。次の遠征も迫ってるし、たっぷり補充して万全を期しておかないとね!」

「……大鍋で一気にドバッと作れねぇもんなのか?」

 ディノの言葉に首を振る。

「大鍋だとどうしても均一な撹拌かくはんが難しくて、火の通りや濃度に差が出ちゃうのよ」

 魔法薬というのは隊員たちの生死に直結する重要な役割をになっている。
 病院も、薬屋も、治癒魔法の使える魔術師もいない状況では、持参した魔法薬だけが命綱となる。
 そんなところへ中途半端な薬を渡すことなどできるはずがない。

 全員が無事に帰ってきてくれることを祈りながら、私は私にできる精一杯で高品質な薬を作り上げるのだ。

「こんな途方もねぇ作業をいつも一人でこなしてんのか……」

「作る薬の種類や量は日によって違うけど、まあ一日中何かしらの魔法薬を作ってるわね。魔法薬師なんてみんなこんなものでしょ」

 仕事中は自分の作業に集中しているので同僚の働きぶりはわからないけれど、患者のいないここでできることといったら調薬しかないのだから、一日中調薬しているに決まってる。
 そう思って口にすれば、ディノは固い表情で首を振った。

「いいや、それは違う」

「……そう?」

 妙に実感のこもった断言に首を傾げる。
 ディノはうやうやしい手つきで小瓶を箱に戻すと、ぽんと私の頭を撫でた。

「チェリアには本当に感謝してんだ」

「なっ! なによ急に殊勝しゅしょうになって!? 何をたくらんでるの? 褒められたって、『ゼンブ特級・キズナオール』は王命でしか作れないんだからね!?」

「っはは!」

「きゃあ、ちょっと! そんなに撫でまわしたら髪が乱れるじゃないっ!」

 片手しか使えない今、メイドに編んでもらった編み込みが崩れたら自分では直せないのに!
 この男は淑女の身だしなみをなんだと思っているのか!

 そうして私の髪型以外はさしたる問題もなく、ディノの助力によって目標としていた数の魔法薬を作り終えることができた。






 ――その晩、事件は起こった。

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