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11~20話

目と目で通じあう【下】

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 無骨なマントを羽織り、腰にはポーチ付きのベルト。
 見た目より容量のあるポーチは、ワリト・キズナオールと護身用のドロドロン強溶解液を入れてもまだまだ余裕がある。

 左隣に座るディノは、私と同じような装備に加えて腰の右側に剣をいていた。

「この馬車、質素なわりには全然揺れないわね」

「城の備品だからな、地味でも物はいい。森に行くってのにわざわざ豪華な馬車に乗る必要もねぇだろ?」

「それもそうね」

 ……しかし狭い。とにかく狭い。

 最初のうちは向かい合わせに座っていたものの、繋いだ手を延々と中央に差し出していなければならず、すぐに腕が痺れてを上げた。

 詰めれば四人乗れるかどうかの小振りな馬車である。
 一人でならゆったりと座れる座面も、二人並んで座るとなれば話は別だ。しかも片方は、ただでさえかさばる巨体ときている。

「……ディノ、もうちょっと小さくなれない?」

「無茶言うな」

「あーあ、こんなことなら『チヂムンデス』の開発を優先しておくんだったわ」

「おい、なんか恐ろしいこと考えてんだろ……」

「だって狭いんだもの! しかもディノの筋肉が硬いせいで、さっきから私ばーっかり押し潰されてるわ!」

「……うーむ」

 ディノにも一応、私を潰している自覚はあったらしい。
 唸りながら考え込み、何かを思いついたようにパッと顔を上げた。

「上に座ってりゃいいじゃねぇか!」

「えっ、馬車の屋根の上に!?」

 たしかに一面平らだから自由な位置に座れるかもしれないけれど、足を滑らせて落ちそうで怖い。
 雨風もしのげないし……。

「違ぇよ! 風呂んときみてぇに、俺の上に座っときゃあいい」

「でも……さすがに移動中ずっと私が乗っかってたら、ディノの脚が痺れちゃうわよ。下手したら骨が折れちゃうかも……」

「あぁん? 俺がどんだけ鍛えてると思ってんだ。ちっこいチェリア一人抱えるのなんざ、手のひらにヤマリス乗せてんのと変わんねぇよ」

「…………」

 じとりとディノを睨む。

 重くないから大丈夫だと伝えるにしても、『君は羽根のように軽い』だとか、もう少し気の利いた表現はできなかったものか。
 何かにつけて人を害獣呼ばわりして……っ!

「そこまで言うなら座っちゃうんだからね!? 脚が痺れたから下りてくれって泣きついてきても知らないわよ!?」

 お風呂のときのように背を向けて座ろうとして、前のめりに落ちかけ、結局横抱きにされる形でディノの腕に収まった。

「あー……これはなかなか快適だわ……」

 丸太のような腕に背中を預けて分厚い胸筋にもたれかかれば、ガッシリと全身を保持されているような安定感がある。

「そりゃよかったな」

「ねぇ、本当に乗せてて辛くない?」

「ヤマリス一匹」

 ディノの腹筋に、私のパンチが炸裂した。


 ――――誰か湿布薬をください。
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