42 / 115
11~20話
目と目で通じあう【下】
しおりを挟む無骨なマントを羽織り、腰にはポーチ付きのベルト。
見た目より容量のあるポーチは、ワリト・キズナオールと護身用のドロドロンを入れてもまだまだ余裕がある。
左隣に座るディノは、私と同じような装備に加えて腰の右側に剣を佩いていた。
「この馬車、質素なわりには全然揺れないわね」
「城の備品だからな、地味でも物はいい。森に行くってのにわざわざ豪華な馬車に乗る必要もねぇだろ?」
「それもそうね」
……しかし狭い。とにかく狭い。
最初のうちは向かい合わせに座っていたものの、繋いだ手を延々と中央に差し出していなければならず、すぐに腕が痺れて音を上げた。
詰めれば四人乗れるかどうかの小振りな馬車である。
一人でならゆったりと座れる座面も、二人並んで座るとなれば話は別だ。しかも片方は、ただでさえかさばる巨体ときている。
「……ディノ、もうちょっと小さくなれない?」
「無茶言うな」
「あーあ、こんなことなら『チヂムンデス』の開発を優先しておくんだったわ」
「おい、なんか恐ろしいこと考えてんだろ……」
「だって狭いんだもの! しかもディノの筋肉が硬いせいで、さっきから私ばーっかり押し潰されてるわ!」
「……うーむ」
ディノにも一応、私を潰している自覚はあったらしい。
唸りながら考え込み、何かを思いついたようにパッと顔を上げた。
「上に座ってりゃいいじゃねぇか!」
「えっ、馬車の屋根の上に!?」
たしかに一面平らだから自由な位置に座れるかもしれないけれど、足を滑らせて落ちそうで怖い。
雨風もしのげないし……。
「違ぇよ! 風呂んときみてぇに、俺の上に座っときゃあいい」
「でも……さすがに移動中ずっと私が乗っかってたら、ディノの脚が痺れちゃうわよ。下手したら骨が折れちゃうかも……」
「あぁん? 俺がどんだけ鍛えてると思ってんだ。ちっこいチェリア一人抱えるのなんざ、手のひらにヤマリス乗せてんのと変わんねぇよ」
「…………」
じとりとディノを睨む。
重くないから大丈夫だと伝えるにしても、『君は羽根のように軽い』だとか、もう少し気の利いた表現はできなかったものか。
何かにつけて人を害獣呼ばわりして……っ!
「そこまで言うなら座っちゃうんだからね!? 脚が痺れたから下りてくれって泣きついてきても知らないわよ!?」
お風呂のときのように背を向けて座ろうとして、前のめりに落ちかけ、結局横抱きにされる形でディノの腕に収まった。
「あー……これはなかなか快適だわ……」
丸太のような腕に背中を預けて分厚い胸筋にもたれかかれば、ガッシリと全身を保持されているような安定感がある。
「そりゃよかったな」
「ねぇ、本当に乗せてて辛くない?」
「ヤマリス一匹」
ディノの腹筋に、私のパンチが炸裂した。
――――誰か湿布薬をください。
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
331
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる