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21~30話
争いの果てに【下】
しおりを挟むパンを食べ終わったヤマリスが林に帰っていくのを見届けると、ディノの手を引き小声で呼びかけた。
「ディノ、ディノっ!」
「うん? チェリアもパンがいるか?」
「自分の分があるわよっ!」
相変わらず失礼である。
やっぱり勘違いだろうか、自分のこの推測は。
「あの……あのね? ちょっと確認なんだけど……。ディノはヤマリスを、『可愛い』と思ってるのよね?」
「ああ、思ってるな」
「それならもしかして、しょっちゅう私に言ってる『ヤマリスみたい』っていうのも……その、『可愛い』って意味だったり、して……?」
これでもし推測が外れていたなら、とんだ大自惚れである。
手が繋がっている以上、どんなに恥ずかしく居たたまれない状態になろうと逃げ出すことは叶わないのに。
「はぁ?」
私の言葉に心外そうに眉をひそめたディノを見て、己の失敗を悟る。
まだ何日も遠征は続くというのに、早々にやってしまった。残りの日程、気まずいままで一体どう過ごしたら――
「んなもん、チェリアが可愛いなんてこたぁ、いつも言ってんだろーが!」
「っ、言ってないわよーーー!!!!!」
林の奥でバサバサと、数羽の鳥が飛び立った。
「だーかーら! ずっと可愛い可愛いっつってんじゃねぇか!」
「ひとっことも言ってないって言ってるでしょーっ! 『ヤマリスそっくり』としか言われてないわよ!」
「ヤマリスはこんなに可愛いんだから、ちょっと考えりゃわかんだろ!」
「わかるわけないでしょ!? 魔法薬師にとってはただの害獣だもの! ずーっと貶されてるんだと思ってたわ!」
「馬鹿言え、貶すか! 山や森に入る人間にとっちゃ、周囲に強い獣がいないっつー目安んなる『安全の標』なんだよ! 見かけりゃ安心できる、遠征中の癒しみてぇなもんだ!」
「そのヤマリスが私だって言いたいわけ!?」
「あー、そーだよ!!」
ガンガンガンッ!
言い争いに、大きな金属音が割って入る。
二人揃ってそちらを見れば、空の鍋を下ろした騎士が神妙な様子で告げた。
「これ以上の争いはやめろ。死人が出るぞ……」
おたまで指された先には、なぜかしおしおに萎んだルークが転がっていた。
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