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21~30話
あなたのために【下】
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本来であれば、それぞれ天日に干したり長時間煮出したりして成分濃度を高めてから使いたいところだけれど、そんな時間はない。
薬草を『水筒の水』で洗う。
魔法で生み出した水は魔力を帯びるので、今は使えない。
ルラを軽く炙って多すぎる水分を飛ばし、すべて合わせてまな板に擦りつけるようにしながら平たい石で均一に磨り潰していく。
別の個体に遭遇することなく無事に戻った騎士からクスナを受け取ると、よく洗い紅茶葉と合わせて煮出しておくよう指示を出す。
途中途中で襲ってくる魔獣は手の空いた騎士に任せ、私は私のすべきことに集中する。
大好きな人たちの役に立てたくて身につけた技術だ。ここで使わなくていつ使う!
「針と糸はある?」
「あるにゃぁあるが、道具の補修用に使ってるやつだぜ?」
「構わないわ。針も糸も全部蒸留酒に浸してから、糸を通してこっちにちょうだい。染料の付いてない麻か綿の糸がいいわ」
「わーった!」
リモニー汁と圧迫によって出血の落ち着いてきた傷口を診ると、幸いなことに動脈は傷ついていないようだった。
平気だと強がるディノに強引に布を噛ませ、手先の器用な騎士に糸の結びを手伝ってもらいながら傷口を縫合する。
完成した薬を縫合部に塗りつけ、殺菌作用のあるブブの葉を当てて包帯できつく巻き上げてもらえば、ひとまずの処置は完了だ。
そっとディノの頭を起こし、抗菌と増血作用のあるクスナの根茶を飲ませる。
「あとは傷口が開かないよう安静にしておけば、もう大丈夫……よ……」
安心して緊張の糸がふつりと切れた途端、ずっとこらえていた涙が堰を切ったように溢れだした。
「――っく。っ、ごめっ、ごめんなさっ……! わっ、わたしが叫んだ、ひっく、せいでっ! ディノが……っ!」
ぼろぼろと大粒の涙が頬を伝う。
びっくりした。怖かった。自責の念に押し潰されそうだった。
でも、感情を揺らしている暇なんてなかった。
ディノを助けたければ自分がやるしかない。
そのための知識と技術。
繋がった手から体温が失われていくのが恐ろしくて、恐ろしくて、考えないようひたすらに処置に集中して。
なにもかも全部、私が悲鳴なんて上げたせいで!!!
「涙を拭ってやれねぇときに泣くな……。ユニコーンとの距離が近すぎて、あんときゃああするしかなかったんだよ。俺は元からチェリアを守るためについてたんだから、うまく対処できずに怪我をしたのは俺の不注意だ」
「わたっ、わたしのせい、っだもん……!」
「俺の不注意だっつってんだろ」
「ひっく、わたしのせいだって、言ってるでしょぉ! ディノのバカぁっ! うわぁぁぁぁぁぁん!!」
ディノの腹部に突っ伏して泣きわめく私を、無事な左手がポンポンと撫でた。
「あーあ、隊長がチェリアちゃん泣ーかしたー」
薬草を『水筒の水』で洗う。
魔法で生み出した水は魔力を帯びるので、今は使えない。
ルラを軽く炙って多すぎる水分を飛ばし、すべて合わせてまな板に擦りつけるようにしながら平たい石で均一に磨り潰していく。
別の個体に遭遇することなく無事に戻った騎士からクスナを受け取ると、よく洗い紅茶葉と合わせて煮出しておくよう指示を出す。
途中途中で襲ってくる魔獣は手の空いた騎士に任せ、私は私のすべきことに集中する。
大好きな人たちの役に立てたくて身につけた技術だ。ここで使わなくていつ使う!
「針と糸はある?」
「あるにゃぁあるが、道具の補修用に使ってるやつだぜ?」
「構わないわ。針も糸も全部蒸留酒に浸してから、糸を通してこっちにちょうだい。染料の付いてない麻か綿の糸がいいわ」
「わーった!」
リモニー汁と圧迫によって出血の落ち着いてきた傷口を診ると、幸いなことに動脈は傷ついていないようだった。
平気だと強がるディノに強引に布を噛ませ、手先の器用な騎士に糸の結びを手伝ってもらいながら傷口を縫合する。
完成した薬を縫合部に塗りつけ、殺菌作用のあるブブの葉を当てて包帯できつく巻き上げてもらえば、ひとまずの処置は完了だ。
そっとディノの頭を起こし、抗菌と増血作用のあるクスナの根茶を飲ませる。
「あとは傷口が開かないよう安静にしておけば、もう大丈夫……よ……」
安心して緊張の糸がふつりと切れた途端、ずっとこらえていた涙が堰を切ったように溢れだした。
「――っく。っ、ごめっ、ごめんなさっ……! わっ、わたしが叫んだ、ひっく、せいでっ! ディノが……っ!」
ぼろぼろと大粒の涙が頬を伝う。
びっくりした。怖かった。自責の念に押し潰されそうだった。
でも、感情を揺らしている暇なんてなかった。
ディノを助けたければ自分がやるしかない。
そのための知識と技術。
繋がった手から体温が失われていくのが恐ろしくて、恐ろしくて、考えないようひたすらに処置に集中して。
なにもかも全部、私が悲鳴なんて上げたせいで!!!
「涙を拭ってやれねぇときに泣くな……。ユニコーンとの距離が近すぎて、あんときゃああするしかなかったんだよ。俺は元からチェリアを守るためについてたんだから、うまく対処できずに怪我をしたのは俺の不注意だ」
「わたっ、わたしのせい、っだもん……!」
「俺の不注意だっつってんだろ」
「ひっく、わたしのせいだって、言ってるでしょぉ! ディノのバカぁっ! うわぁぁぁぁぁぁん!!」
ディノの腹部に突っ伏して泣きわめく私を、無事な左手がポンポンと撫でた。
「あーあ、隊長がチェリアちゃん泣ーかしたー」
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