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21~30話

名誉の負傷【中】

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 手渡した干し肉を噛りながら、ディノが自嘲気味に言った。

「怪我の処置ありがとうな、お陰で助かった。守るつもりがすっかり守られちまったな……。情けねぇ」

「!? ちゃんと守ってもらったわ! ディノがいなければ今頃、私の頭に風穴が空いてたもの!」

 あのとき、ディノの広い背中に庇われて。
 角の貫通に動揺しながらも、直前までの死に差し迫ったような恐怖は消え、たしかに安心を感じていた。
 ディノが、守ってくれたから。

「ディノの背中を見て、私、本当に安心したんだから……。だから、あのね……私のほうこそ守ってくれてありがとう。——あのときのディノ、すごく勇敢で頼もしかったわ」

「惚れたか?」

 ディノの言葉にドキリと心臓が弾んでしまう。
 単なるいつもの軽口なのに、あんな活躍を見せられた直後だからちょっと平常心を保てなくなっているだけだ。

「っ、冗談は元気になってからにしなさいよね! 一日も経てば反魔法作用が薄れて、魔法薬も使えるようになるはずだから。人のことからかってばっかりいないで、ちゃんと大人しくしておきなさい!」

「——元気になったら覚えとけよ」

 ディノの挑戦的な視線に、一体どんな報復が待ち受けているのかと冷や汗がにじんだ。




 闇にくっきりと月が浮かんだ頃、馬車はヘナンズ邸に到着した。

 ディノを椅子に座らせ、怪我人に動揺する使用人たちに要望を告げる。

「香辛料のニーニックはある? すりおろして、水と一緒に持ってきて。急ぎでお願い。それとすぐにお風呂に入りたいんだけど、ぬるめのお湯を張ってもらえるかしら? 浴槽とは別に、大きめの桶に清潔なぬるま湯を入れたものも浴室に用意してほしいわ」

 本当は今すぐ横にならせてあげたいけれど、全身を清潔にしないことには寝かせられない。
 取り急ぎ傷口だけは洗浄したものの、それ以外の場所にはまだ魔獣の血がべっとりとこびりついているのだ。



 使用人からニーニックと水の載ったトレーを受け取ると、水に適量を溶いてディノに差し出す。

「飲んで。感染症予防になるから」

「ああ」

 強烈な刺激とザラザラした舌触りで飲みづらいだろうに、ディノは言われるままに迷いなく飲み干してくれる。怪我の処置中もそうだ。私を信じてすべてをゆだねてくれた。

 目に見えずとも、たしかに存在している信頼に胸が熱くなる。どんなに素晴らしい治療薬が作れたとしても、相手が信じて使ってくれないことには意味をなさないのだ。

 お風呂の用意ができたと伝えに来た使用人に、清潔な包帯と非魔法薬、なければ薬草や香辛料でもいいからあるだけ用意しておいてほしいと伝えて、お風呂に向かった。
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