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31~40話
もう独りじゃない【下】
しおりを挟む国王の頭皮から生えているのは、見覚えのある三本の紫の手。
一本は王冠を握りしめ。
もう一本は黒い王冠を握りしめ。
最後の一本は儚げな数本の毛髪を握りしめている。
そして何をどうしたことか、黒い王冠からは宰相の右腕までもが生えているのだ。――いや、宰相の右手が黒い王冠に貼りついているというべきか。
なんて賑やかな頭部だろう。
国王は泣いている。
宰相も泣いている。
私は帰りたい。
そんな地獄の光景に、ディノが一歩歩み寄った。
「――こちらの薬はお返しいただきます」
「それ……!!」
ディノがサイドボードから取り上げたのは、心から求めてやまない『スーパートレナインX』の小瓶だった。
その隣には『手生え薬』の小瓶も見える。
――すべては国王の命によってなされたことだったのだ。
国王の権限をもってすれば、王宮管理部の金庫から個人棚の鍵を持ち出すことなど容易かっただろう。
なかなか届けられない強力接着剤に焦れて犯行に及んだのだと、犯人が自供した。
すぐさま剥離剤作りに取りかかろうと、くるりと踵を返したところに泣きつかれる。
仕方がないので、人造の手に握られたあれこれは救出してあげることにした。
人造の手は保持力が高く、一度掴んだものは手のひらの付け根をくすぐる以外に取り出す方法がないのだ。方法を知らなければ、力尽くでも取り返せない。
助け出された数本の毛髪を手に、国王はさめざめと泣いた。
残る問題は、宰相の右手に引っついた黒い王冠と、国王の頭に生えた紫の手だけだ。
「剥離剤が完成次第、宰相閣下にもお持ちいたしますね。――『手』? そちらは二週間もすれば自然に取れるので、放っておかれるのがよろしいかと。もしくは頭皮ごと削ぎ落とす方法もございますが…………大丈夫、たいへんお似合いでいらっしゃいますわ」
すげなく告げて、国王の寝室を出た。
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