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31~40話

二人を分かつ薬【下】

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 透明なガラス瓶に入れた溶液を弱火にかけながら、ユニコーンの角の粉末をほんのひと摘まみ投じる。

「……ダメ、弾かれた」

 粉末は水に垂らした油のように、一切混ざることなく溶液の表面に浮いていた。

 反魔法作用を持つ角が魔法を受け入れる、極僅かな『隙』。
 温度、湿度、火加減、濃度、すべての条件が噛み合った一点にだけ、魔法と馴染む瞬間があるのだ。

 浮いた粉末をすくい取り、溶液の条件を微調整して再挑戦。
 ……弾かれた。

 挑戦。失敗。
 挑戦。失敗。
 挑戦。失敗。
 挑戦。失敗。
 …………
 …………
 …………

 挑戦……

「混ざった!!」

 降り注いだ粉末が、吸い込まれるように溶液に溶けて消えた。
 全神経を研ぎ澄ませ、慎重に粉末を追加していく。

 溶けて、溶けて、溶けて。

 そろそろ飽和するという頃合いで手を止め、マドラーでゆっくりと撹拌すれば、中央から滲み広がるように全体が紫色に変わった。


「でっ……できたーーー!!!」


 両手を挙げて快哉を叫ぶ。
 繋がった手を持ち上げられたディノも、反対の手まで挙げて一緒に完成を喜んでくれた。

「やったな!」

「やったわ!!」

 満面の笑みでディノを見上げた視線が、壁に掛かった時計を捉えた。

「大変! もう時間がないわっ!」

 シフォルが言っていた『決勝戦の時刻午後のお茶の時間』まで、あと一刻ほど。

 朝からいろいろなことがあって大分遅れを取ってしまった。
 粉砕から臼挽きまで自分一人でやっていたなら、絶対に間に合っていなかっただろう。

 完成したばかりの薬液をシリンジで吸い上げ、境い目が見えるよう机の上に置いた『繋がった手』の隙間に数滴垂らす。
 滴はスッと隙間に浸透して消えた。

 ……緊張の一瞬。

 ふっと手が軽くなったような感覚がしたかと思えば――抵抗なくするりと、手のひらが離れた。

「取れた……!」

「本当に取れたな……」

 自分の左手のひらを見るのは何日ぶりだろう。
 トレナインに配合していた肌の保護成分のおかげで、赤みもなく、傷もなく。つい今しがたまでくっついていたことがまるで夢だったかのように、なんの変哲もない手のひら。

 しかし……左手とはこんなにも軽いものだっただろうか?
 何かが足りないような違和感に、グーパーと手を動かす。

「……なんだか軽すぎる気がするわ」

「俺も軽すぎて落ち着かねぇな。――ま、ヤマリス乗せてりゃしっくりくんだろ」

 ディノはそう言って、右腕にひょいと私を抱き上げた。

「チェリアがここまで頑張ってくれたんだ。間に合うとなったからにゃあ、俺も急いで大会に向かわねぇとな!」
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