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31~40話

闇夜の訪問者【上】

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 部屋の扉がゴンゴンと強いノック音を響かせた。

「っ!!?」

 驚きに声が出そうになって、咄嗟とっさに口を押さえる。
 室内に人がいるとバレるのはまずいかもしれない。

 こんな時間に一体誰が!?

 不審者……いや、入居者以外がこの寮に立ち入るには、しっかりとした身元確認があったはず。
 ならば身元の確かな相手なのだろう。
 常識は欠いているようだけれど。

 何かあれば、女性騎士上がりの寮母さんもすぐに駆けつけてくれるだろうし……。

 机の引き出しからムニキスの小瓶を出して握りしめると、恐る恐る扉に声をかけた。

「だっ……誰!?」

「俺だ」

 ……うん? 随分と聞き覚えがあるような。

「オレなんて知り合いはいないわ!」

「……ディノ=ベルグラートナーだ。チェリア=クースニルを迎えに来た」

「ディノ!?」

 慌てて扉に駆け寄って鍵を開ける。
 質素な木の扉を開けば、そこには立派な筋肉の壁――もとい、ディノが立っていた。

 数刻ぶりに会うディノが、ひどく久しく感じられる。
 きゅうっと胸が締めつけられて、ほっとして泣きたいような、その広い胸に今すぐ飛び込みたいような衝動に駆られ、ふらりと一歩前に踏み出して――背後の人影に気付き、すんでのところで踏みとどまった。

 斜め後ろから警戒心たっぷりに見守ってくれていた寮母さんに、知り合いだから心配いらないと手を振って戻ってもらう。

「……ディノ、こんな時間にどうしたの?」

 改めてディノを見て首を傾げる。
 剥離剤によるひどい副作用でもあったのだろうか? 明日の約束までも待ちきれず、こんな夜更けに訪れるほどの。

「今夜は打ち上げがあるから、のが遅くなるっつったろ。これでも途中で抜けてきたんだ」

「えっ、迎えに……?」

 言っていただろうかと、念のため記憶を手繰ってみるけれど……。

「絶対言ってなーーーいっ!!!」

 いつもながらの言葉足らずに思わず大声を出すと、方々の扉や壁からトントン、コンコンと抗議のノックが聞こえてきた。

 慌てて顔を寄せて声を落とす。

「じゃっ、じゃあ、今からディノのお屋敷に行くってこと?」

「そう言ってんだろ。なんで寝衣なんか着てんだ。んな格好してるとこの場で襲うぞ」

「なっ――!? えっ、ちょ、ちょっと待ってちょうだい! 出掛けるならすぐに着替えて支度するわ! あっ、菓子折りでも用意しておけばよかった! どこか開いてるお店ってないかしら!?」

「んなに待てるか! 上着だけ羽織ってこい! ……って、何握りしめてんだ?」

「あっ! これはなんでもないの……!」

 慌ててムニキスを後ろ手に隠す。
 うっかり早まって投げつけたりしなくてよかった。ディノがしまうところだった。
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