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11~20話
楽しい昼食の時間【下】
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目の前にいるのは、家族でも親しい友人でもない男の人だ。
使いかけのフォークを差し出すなんて、これでは間接キスになってしまう! はしたない娘だと思われたらどうしよう!!
「ああああのっ、ごめんなさ――」
バクッ
「へっ」
閉じた唇が、するりとフォークの先を滑って離れていく。
少し薄い唇はむぐむぐと動いたのち、緩やかな弧を描いて止まった。
「本当だ、チーズが溶けて旨いな」
「あぅ、そっ……、はい……」
ゆるゆると手を引っ込めてフォークの先端を見つめる。
ここここのフォークを一体どうすれば……!?
なんでもない風を装って平然と使いつづけるなんて真似、自分にできるだろうか? 異様ににやけてしまったり、無意識にねぶってしまったりする予感しかしないのだけれど。ヨルグは一体どう思って――。
「こっちも旨いぞ、ほら」
「――むぐっ?」
ヨルグの長い腕で口元近くに差し出されたフリットを、反射的に頬張る。
もぐもぐもぐ……
あれ……? 私今、ヨルグと間接キス……。
「旨いか?」
「おいひい、れふ」
動かない思考で人形のようにカクカク頷くと、ヨルグは満足そうに笑みを深めた。
本当はドキドキしすぎて味なんてわからない。
ヨルグに『あーん』をされてしまった。――まるで恋人同士みたいに!
夢みたいだ。
『店員とお客』でしかなかったヨルグとの関係が、一足飛びに縮まっている気がする。
嬉しくて、恥ずかしくて、叫びだしたいような気持ち。
できることならこの『特別』が、私に対してだけであればいいのに。他の誰も、こんなヨルグを知らなければいいのに。
ヨルグがハンカチの持ち主を想っていることは知っているけれど、今日くらいは一人占めさせてほしい。
うちのお店でもない、ハンカチもないこの場所で、私だけを見ていてほしい。
好きな色も、仲のいい友人も、何も知らないけれど……。こうして一番近くにいる私に、少しでも心傾いてくれないだろうか。
「ほら」
「へっ? ――むぐっ」
ちょんちょんと唇を突つかれ、反射的に開いた口に新たなフリットが差し込まれた。
えっ? えっ??
じゅわりと旨味が口に広がって、えーと、えーと、これは何の味だっけ??
全身が心臓になってしまったように鼓動する。
無意識にフリット以外の味を探そうとする自分を抑え込み、せっせと咀嚼に勤しむ。
「旨いか?」
「ふぁい」
ヨルグはもしかして、ものすごーく面倒見がいいのだろうか?
必要以上に踏み込んでくることのない普段の態度からは、想像もつかない行為だ。
近づく距離が嬉しくて。でも、他の女性相手にもこんなことをしているかもしれないと思うと複雑で。
戸惑うあいだにも次々とフリットが差し出され、楽しそうなヨルグの『あーん』は私が満腹を宣言するまで続いた。
使いかけのフォークを差し出すなんて、これでは間接キスになってしまう! はしたない娘だと思われたらどうしよう!!
「ああああのっ、ごめんなさ――」
バクッ
「へっ」
閉じた唇が、するりとフォークの先を滑って離れていく。
少し薄い唇はむぐむぐと動いたのち、緩やかな弧を描いて止まった。
「本当だ、チーズが溶けて旨いな」
「あぅ、そっ……、はい……」
ゆるゆると手を引っ込めてフォークの先端を見つめる。
ここここのフォークを一体どうすれば……!?
なんでもない風を装って平然と使いつづけるなんて真似、自分にできるだろうか? 異様ににやけてしまったり、無意識にねぶってしまったりする予感しかしないのだけれど。ヨルグは一体どう思って――。
「こっちも旨いぞ、ほら」
「――むぐっ?」
ヨルグの長い腕で口元近くに差し出されたフリットを、反射的に頬張る。
もぐもぐもぐ……
あれ……? 私今、ヨルグと間接キス……。
「旨いか?」
「おいひい、れふ」
動かない思考で人形のようにカクカク頷くと、ヨルグは満足そうに笑みを深めた。
本当はドキドキしすぎて味なんてわからない。
ヨルグに『あーん』をされてしまった。――まるで恋人同士みたいに!
夢みたいだ。
『店員とお客』でしかなかったヨルグとの関係が、一足飛びに縮まっている気がする。
嬉しくて、恥ずかしくて、叫びだしたいような気持ち。
できることならこの『特別』が、私に対してだけであればいいのに。他の誰も、こんなヨルグを知らなければいいのに。
ヨルグがハンカチの持ち主を想っていることは知っているけれど、今日くらいは一人占めさせてほしい。
うちのお店でもない、ハンカチもないこの場所で、私だけを見ていてほしい。
好きな色も、仲のいい友人も、何も知らないけれど……。こうして一番近くにいる私に、少しでも心傾いてくれないだろうか。
「ほら」
「へっ? ――むぐっ」
ちょんちょんと唇を突つかれ、反射的に開いた口に新たなフリットが差し込まれた。
えっ? えっ??
じゅわりと旨味が口に広がって、えーと、えーと、これは何の味だっけ??
全身が心臓になってしまったように鼓動する。
無意識にフリット以外の味を探そうとする自分を抑え込み、せっせと咀嚼に勤しむ。
「旨いか?」
「ふぁい」
ヨルグはもしかして、ものすごーく面倒見がいいのだろうか?
必要以上に踏み込んでくることのない普段の態度からは、想像もつかない行為だ。
近づく距離が嬉しくて。でも、他の女性相手にもこんなことをしているかもしれないと思うと複雑で。
戸惑うあいだにも次々とフリットが差し出され、楽しそうなヨルグの『あーん』は私が満腹を宣言するまで続いた。
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