32 / 213
11~20話
ありし日の夢【上】
しおりを挟む
「おとーぉさんっ」
「ははっ、リズ。また来たのかい?」
真剣な顔で粘土を捏ねていたおとうさんが顔を上げ、わたしに気付いてにこりと微笑む。
――この瞬間が大好きだ。
作業中だろうと寝起きだろうといつだって嬉しそうに迎えてくれて、何よりも大事だよ、と言われているみたいで。
分厚いピンク色のクッションが載った椅子を引き、よいしょとよじ登る。
「んっしょ……、あのね、今日はちゃーんとお手伝いを終わらせてから来たのよ! お洗濯ものを畳んで、おかあさんも『助かったわ』って!」
「そりゃあ偉かったなぁ」
「えっへへー」
大きな作業台に向いて立つおとうさんの対面に陣取ると、台に身を乗り出すようにして両手で頬杖をついた。
小さな手のひらに押され、まあるいほっぺがぷにっと持ち上がる。
「見ててもいーい?」
「ああ、もちろん。リズも何か作るかい?」
手元の粘土を示すおとうさんに、ふるふると首を振って返す。
一緒に粘土を弄ることもあるけれど、今はその気分ではない。
「んーん、今日は見てるだけ」
「見てるだけなんて、よく退屈しないなぁ」
「おとうさんが陶芸してるの見るの好きだもの。窯にいるときは側に行っちゃいけないし……。ねーねーおとうさん、わたしお花の形のお皿が欲しい!」
「お花の形かぁ。ふむ、可愛いお皿になりそうだ」
話しながらもおとうさんの視線は手元に戻って、体重を乗せるように力強く粘土を練り込んでいく。
「カップもお花型がいいわ! それでね、椅子とテーブルは葉っぱの形にして、おうちは木の形にするの! 絵本の小人さんの家みたいに!」
「あっはは、さすがにお家までは作れないなぁー…………」
ニコニコとした表情がふっと真剣な顔つきに変わったら、集中モードに入った合図。
いつもはどことなく頼りないおとうさんが、このときばかりは頼もしく見える。
おとうさんの手にかかれば、灰色っぽい粘土の塊が素敵な食器や壺に生まれ変わるのだ。――まるで魔法みたいに!
それにどんなに集中していたって、私が話しかければ笑顔で応えてくれると知っている。
だから私もきゅっと口を閉じ、静かに作業を見守った。
「――ズ。おーい、リズ? 寝ちゃったのかい?」
おとうさんの声がぼんやりと頭に届く。
緩やかに意識が戻ってきて、頑張れば起きられないこともなさそうだけれど、甘えたい気分で動かずにおく。
「こんな所で寝たら風邪引いちゃうぞー?」
話しかけるでもなく声が遠ざかり、部屋の隅からジャブジャブと水音が聞こえてくる。きっと粘土で汚れた手を洗っているのだろう。
ほどなくして声が戻ってきた。
「さーて、寝るならベッドに行こうな」
「ははっ、リズ。また来たのかい?」
真剣な顔で粘土を捏ねていたおとうさんが顔を上げ、わたしに気付いてにこりと微笑む。
――この瞬間が大好きだ。
作業中だろうと寝起きだろうといつだって嬉しそうに迎えてくれて、何よりも大事だよ、と言われているみたいで。
分厚いピンク色のクッションが載った椅子を引き、よいしょとよじ登る。
「んっしょ……、あのね、今日はちゃーんとお手伝いを終わらせてから来たのよ! お洗濯ものを畳んで、おかあさんも『助かったわ』って!」
「そりゃあ偉かったなぁ」
「えっへへー」
大きな作業台に向いて立つおとうさんの対面に陣取ると、台に身を乗り出すようにして両手で頬杖をついた。
小さな手のひらに押され、まあるいほっぺがぷにっと持ち上がる。
「見ててもいーい?」
「ああ、もちろん。リズも何か作るかい?」
手元の粘土を示すおとうさんに、ふるふると首を振って返す。
一緒に粘土を弄ることもあるけれど、今はその気分ではない。
「んーん、今日は見てるだけ」
「見てるだけなんて、よく退屈しないなぁ」
「おとうさんが陶芸してるの見るの好きだもの。窯にいるときは側に行っちゃいけないし……。ねーねーおとうさん、わたしお花の形のお皿が欲しい!」
「お花の形かぁ。ふむ、可愛いお皿になりそうだ」
話しながらもおとうさんの視線は手元に戻って、体重を乗せるように力強く粘土を練り込んでいく。
「カップもお花型がいいわ! それでね、椅子とテーブルは葉っぱの形にして、おうちは木の形にするの! 絵本の小人さんの家みたいに!」
「あっはは、さすがにお家までは作れないなぁー…………」
ニコニコとした表情がふっと真剣な顔つきに変わったら、集中モードに入った合図。
いつもはどことなく頼りないおとうさんが、このときばかりは頼もしく見える。
おとうさんの手にかかれば、灰色っぽい粘土の塊が素敵な食器や壺に生まれ変わるのだ。――まるで魔法みたいに!
それにどんなに集中していたって、私が話しかければ笑顔で応えてくれると知っている。
だから私もきゅっと口を閉じ、静かに作業を見守った。
「――ズ。おーい、リズ? 寝ちゃったのかい?」
おとうさんの声がぼんやりと頭に届く。
緩やかに意識が戻ってきて、頑張れば起きられないこともなさそうだけれど、甘えたい気分で動かずにおく。
「こんな所で寝たら風邪引いちゃうぞー?」
話しかけるでもなく声が遠ざかり、部屋の隅からジャブジャブと水音が聞こえてくる。きっと粘土で汚れた手を洗っているのだろう。
ほどなくして声が戻ってきた。
「さーて、寝るならベッドに行こうな」
42
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
勘違い妻は騎士隊長に愛される。
更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。
ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ――
あれ?何か怒ってる?
私が一体何をした…っ!?なお話。
有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。
※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる