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41~50話
はじめての……【中】
しおりを挟む大通りで馬車が停まり、御者の手によって外からドアが開かれる。
「ヨルグさん。ヨルグさん、ほらっ。着きましたよ!」
彫像のように固まったヨルグの肩を掴んで揺さぶると、「あぁ……」と空気の抜けるような音を発してヨルグが馬車を降りた。
続いて降りようとした私を伸びてきた腕がヒョイとすくい上げ、気がつけば私は地面に足をつくことなく、『馬車』から『ヨルグ』へと乗り換えていた。
「よっ、ヨルグさんっ?」
急ぐからと抱えられた『行き』と同様に、左腕一本で縦抱きにされてあわあわと狼狽える。
御者はドアを閉め直すと、こちらには目もくれずにさっさと馬車を出した。
「あの、自分で歩けますよ?」
「リズが………………」
「はい?」
なかなかやって来ない言葉の続きを待つことしばし。
「リズが…………俺のことを、『好き』だと言った気がする……」
「……気のせいじゃないですからね。何度も言いましたよ、ヨルグさんが好きだって」
恋愛対象として好きだと告げた途端、ヨルグがうんともすんとも言わなくなってしまったので、聞こえなかったのかと思って何度も好きだと口にした。
あまりにも反応がないものだから、最終的には「好きですよー、おーい」「大好きなヨルグさーん、寝ちゃったんですかー?」と呼びかけていたくらいだ。
私を抱く腕に、ぎゅっと力が籠る。
「それは、意味をわかって言っているのか……? 恋愛となれば、友愛や家族愛のようにともに過ごすだけとはいかない。側にいるだけでなく、その……、リズには想像もつかないようなことも…………」
先ほどお城で見せた勇ましい姿はどこへやら。ヨルグは顔を俯けて、後ろめたい言い訳でもするかのようにゴニョゴニョと小声になっていく。こうしてヨルグの顔の高さに抱き上げられていなかったら、きっと後半は聞き取れなかったに違いない。
太い首筋に抱きついて大きく深呼吸すると、前髪から覗く頬にえいっと唇を押し当てた。
んちゅっ!
「こっ、こういうことでしょう? ちゃんとわかってます。ヨルグさんとなら、全然嫌じゃないですから!」
堂々と言ってのけながらも、顔面は今にも火を噴きそうだ。
『恋愛対象としての好き』かどうかを気にするってことは、まだ嫌われてはいないんでしょう?
能力も、罪も全部知って、それでもまだ好きでいてくれるんでしょう……?
祈るような気持ちでヨルグの返事を待つ。
ヨルグの右手が、存在を確かめるかのようにそろりと私の頬に触れる。
すりすりと頬を撫で、そっと顎を捕らえられて。吐息が触れそうなほどの至近距離でこちらを向いたヨルグに、ドキリと息を呑む。
「……俺のものになってくれるのか?」
答えたら、どうなってしまうのだろう。
ずっと、関係性が変化してしまうことを恐れていたはずなのに。
期待か、緊張か。込み上げる唾液を飲み込んで、コクリと頷けば。
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