不能だと噂の騎士隊長が『可能』なことを私だけが知っている(※のぞきは犯罪です)

南田 此仁

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41~50話

遠い過去の記憶【下】

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 『ハンカチ本体』が本命だとわかっていても、背後にちらつく女性の影に微かな嫉妬心を抱いてしまうのは許してほしい。この少女が成長していれば、きっと今頃は私と同じくらいの年齢になっているはずだ。
 『四つ葉のクローバーを身につけると願いが叶う』というおまじないが大流行したのは、私が幼い頃だったから。

 私も刺繍糸が絡んでぐちゃぐちゃになりながら、お母さんに手伝ってもらっていろいろな布小物に刺繍した記憶がある。
 叶えたい願いがあったかどうかはよく覚えていないけれど、たぶんお母さんと刺繍をするのが楽しかっただけだろう。

「そのハンカチは昔、リズに貰ったものだ」

「えっ!? 私に、ですか……?」

 ヨルグの言葉を受けて改めてまじまじとクローバーの刺繍を見つめていると、刺繍の柄に重なるようにしてふわりと、遠い過去の記憶が浮かび上がった。


『おかあさん、四つ葉にツボミが付いた!』

『はいはい、また糸が絡んでダマになっちゃったのね』

 そう言って自らの裁縫の手を止め、私の糸の絡まりを解いてくれる優しい手。
 そうして出来上がった刺繍を掲げ、まるで自分一人の力で成し遂げたかのようにお父さんに自慢しにいくと『すごいすごい』と手放しで褒められるものだから、嬉しくてまたすぐに次の刺繍を刺したいとせがむ。
 もう二度と見ることのない、懐かしい過去の光景。


 ――どうして気付かなかったのだろう。
 これは私が刺繍したハンカチの一つだ。

「なんでこれをヨルグさんが……」

 『拾った』ではなく、『貰った』とヨルグは言った。プレゼント用の品ならともかく、自分用のハンカチを誰かにあげたことなんて………………いや、一度だけあったはずだ。

 懐かしいハンカチを前に、ぼんやりとしていた記憶の輪郭が徐々に鮮明に浮かび上がってくる。

「王都に行ったとき……私を庇って怪我をした騎士様が、ヨルグさん?」

 見上げたヨルグの表情は、相変わらず前髪に隠れて見えなくて。
 けれどポカンと半開きになった口が、噛みしめるようにゆっくりと笑みの形へ変わっていくのを見て、自分の正解を知った。
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