124 / 213
41~50話
遠い過去の記憶【中】
しおりを挟む
ある日パチンと目が覚めて、それまでの幸せな日々が忽然と消えてなくなってしまいそうな漠然とした不安。
好かれている理由もわからないまま、愛の言葉だけを盲信して人生を決定することはできない。
この両目がなんでも見通せる目だというのなら、ヨルグの心のなかも覗ければいいのに。どんなに金の瞳を見つめても、その熱の奥まではわからない。
「……初めて会った日から、ずっと好きだと言ったのを覚えているか?」
「はい」
コクリと頷く。
ヨルグと初めて会った日のことはよく覚えている。よろよろと歩くヨルグに声をかけ、お腹が空いているというので強引に開店前のパン屋に引っ張り込んだ。
お腹を空かせてふらつく騎士なんて、あとにも先にも見たことがない。
「おそらく『その日』は――リズが想像しているよりも、ずっと昔のことだ」
「昔……? やっぱり、以前どこかで会ったことがあるんですか?」
頬に触れていた手のぬくもりが離れ、ヨルグがのそりと上体を起こす。下りた前髪が目元を覆い、いつも通り顔の上半分が隠されてしまった。
見慣れた姿にどこか安心感を覚える反面、表情が見えなくなったことが残念でもある。
ヨルグはベッドの縁に腰かけたまま、サイドチェストからピンクのハンカチを取り出して私に差し出した。
「このハンカチがわかるか?」
「えっと……以前落として拾われちゃったところを、救出したやつですよね?」
それとも「毎晩の相棒ですよね」という答えが求められているのだろうか?
手渡されたハンカチを見る。
少し色褪せた薄ピンク地に、フリフリとした大振りのレース。拙いクローバーの刺繍からも、このハンカチの元の持ち主が幼い少女だとわかる。
好かれている理由もわからないまま、愛の言葉だけを盲信して人生を決定することはできない。
この両目がなんでも見通せる目だというのなら、ヨルグの心のなかも覗ければいいのに。どんなに金の瞳を見つめても、その熱の奥まではわからない。
「……初めて会った日から、ずっと好きだと言ったのを覚えているか?」
「はい」
コクリと頷く。
ヨルグと初めて会った日のことはよく覚えている。よろよろと歩くヨルグに声をかけ、お腹が空いているというので強引に開店前のパン屋に引っ張り込んだ。
お腹を空かせてふらつく騎士なんて、あとにも先にも見たことがない。
「おそらく『その日』は――リズが想像しているよりも、ずっと昔のことだ」
「昔……? やっぱり、以前どこかで会ったことがあるんですか?」
頬に触れていた手のぬくもりが離れ、ヨルグがのそりと上体を起こす。下りた前髪が目元を覆い、いつも通り顔の上半分が隠されてしまった。
見慣れた姿にどこか安心感を覚える反面、表情が見えなくなったことが残念でもある。
ヨルグはベッドの縁に腰かけたまま、サイドチェストからピンクのハンカチを取り出して私に差し出した。
「このハンカチがわかるか?」
「えっと……以前落として拾われちゃったところを、救出したやつですよね?」
それとも「毎晩の相棒ですよね」という答えが求められているのだろうか?
手渡されたハンカチを見る。
少し色褪せた薄ピンク地に、フリフリとした大振りのレース。拙いクローバーの刺繍からも、このハンカチの元の持ち主が幼い少女だとわかる。
77
あなたにおすすめの小説
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる