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11~20話
12c、やっぱりなんでもないです
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注ぎ口にはコルクを詰め、中身が零れないようにと蓋つき水差しの蓋の上からさらに布をあてがって紐でぐるぐると縛ってあるので、見た目はなんとも不格好だ。
そして触って気付いたけれど、金属製の水差しの表面はもうすっかりぬるくなっていて冷たさなど微塵も感じない。
この様子では、恐らく中身も同じだろう。
「ぁ……」
当たり前だ。いくら布を巻いて保冷を図ったとはいえ、この炎天下に何時間も屋外に置いていたのだから。
せっかくの差し入れが台無しになり、先ほどまでの高揚していた気持ちがしゅるしゅると萎んでいく。
うなだれて視線を落とせば、グレニスの足元が目に入った。
精緻な彫刻の施された、立派な甲冑。
足底から脛当てに至るまで厚く付着した土は、野外訓練の激しさを物語る。
目の前にいるのは他でもない、数万からなる騎士を率いるこの国唯一の騎士団長、グレニス=ジェルム侯爵。
そのグレニスに対して、自分が渡そうとしているものは何だ?
不格好な水差しに、生ぬるい果実水。
偉大な騎士団長相手に、自分はなんて見すぼらしいものを差し入れようとしているのか。
「……あー、えっと……、やっぱりなんでもないです! あの、もう帰りますね!」
もっと気の利いたものを用意するべきだった。
訓練後の差し入れだからといつも通りはちみつレモン水を用意するだけで、ここがどこか、相手がどんなに偉い人かなんて、何も考えていなかった。
自分の愚かさが恥ずかしい。
一刻も早くこの場から消えて、全部なかったことにしてしまいたい。
そそくさと水差しをバスケットにしまおうとすると、大きな手のひらにパシッと手を掴まれた。
「……?」
水差しを持つ手を掴まれていては、水差しがしまえないのだけれど……。
そして触って気付いたけれど、金属製の水差しの表面はもうすっかりぬるくなっていて冷たさなど微塵も感じない。
この様子では、恐らく中身も同じだろう。
「ぁ……」
当たり前だ。いくら布を巻いて保冷を図ったとはいえ、この炎天下に何時間も屋外に置いていたのだから。
せっかくの差し入れが台無しになり、先ほどまでの高揚していた気持ちがしゅるしゅると萎んでいく。
うなだれて視線を落とせば、グレニスの足元が目に入った。
精緻な彫刻の施された、立派な甲冑。
足底から脛当てに至るまで厚く付着した土は、野外訓練の激しさを物語る。
目の前にいるのは他でもない、数万からなる騎士を率いるこの国唯一の騎士団長、グレニス=ジェルム侯爵。
そのグレニスに対して、自分が渡そうとしているものは何だ?
不格好な水差しに、生ぬるい果実水。
偉大な騎士団長相手に、自分はなんて見すぼらしいものを差し入れようとしているのか。
「……あー、えっと……、やっぱりなんでもないです! あの、もう帰りますね!」
もっと気の利いたものを用意するべきだった。
訓練後の差し入れだからといつも通りはちみつレモン水を用意するだけで、ここがどこか、相手がどんなに偉い人かなんて、何も考えていなかった。
自分の愚かさが恥ずかしい。
一刻も早くこの場から消えて、全部なかったことにしてしまいたい。
そそくさと水差しをバスケットにしまおうとすると、大きな手のひらにパシッと手を掴まれた。
「……?」
水差しを持つ手を掴まれていては、水差しがしまえないのだけれど……。
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