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11~20話
12d、やっぱりなんでもないです
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「カップか何かないのか?」
「……あ」
漏れない封の仕方や保冷ばかりに気を取られて、注ぐ器さえも忘れていた。
水差しだけ持参しても飲めるわけがない。
「申し訳ありませんっ! ほっ、本当になんでもないので……あの、もう離してもらえますか」
帰りたい、帰りたい、帰りたい、恥ずかしい。
グレニスの手が、無情にも不格好な水差しを取りあげる。
「これは俺のために用意したのか?」
「はい…………でもっ、あの! 飲んでいただかなくて大丈夫ですので! もう全然冷たくもないですし、それは帰って自分で飲みますから!」
休日に勝手に持参するとあって、材料だって代金を払って使用人食堂の厨房から分けてもらったものだ。
自分で飲んでしまったところで何の問題もない。
半べそをかきながら返してほしくて手を差し出せば、グレニスがぐっと眉をひそめた。
「何を言ってる、俺のものなんだろう? とりあえず俺はさっさと甲冑を脱ぎたいんだ。他に用がないなら黙ってついて来い」
水差しを持ったまま、グレニスがくるりと踵を返す。
「え? あっ、でも杭より内側は……」
「今日の訓練はすべて終わったから大丈夫だ」
そう言いながらスタスタと演習場内を歩いていってしまう。
だだっ広い演習場に一人置いていかれそうになって、私は慌ててグレニスの後を追った。
「……あ」
漏れない封の仕方や保冷ばかりに気を取られて、注ぐ器さえも忘れていた。
水差しだけ持参しても飲めるわけがない。
「申し訳ありませんっ! ほっ、本当になんでもないので……あの、もう離してもらえますか」
帰りたい、帰りたい、帰りたい、恥ずかしい。
グレニスの手が、無情にも不格好な水差しを取りあげる。
「これは俺のために用意したのか?」
「はい…………でもっ、あの! 飲んでいただかなくて大丈夫ですので! もう全然冷たくもないですし、それは帰って自分で飲みますから!」
休日に勝手に持参するとあって、材料だって代金を払って使用人食堂の厨房から分けてもらったものだ。
自分で飲んでしまったところで何の問題もない。
半べそをかきながら返してほしくて手を差し出せば、グレニスがぐっと眉をひそめた。
「何を言ってる、俺のものなんだろう? とりあえず俺はさっさと甲冑を脱ぎたいんだ。他に用がないなら黙ってついて来い」
水差しを持ったまま、グレニスがくるりと踵を返す。
「え? あっ、でも杭より内側は……」
「今日の訓練はすべて終わったから大丈夫だ」
そう言いながらスタスタと演習場内を歩いていってしまう。
だだっ広い演習場に一人置いていかれそうになって、私は慌ててグレニスの後を追った。
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