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21~30話
27a、さっき食べた飴の味
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薄暗く閑散とした本屋の中、眠そうな店主のいるカウンターとは反対奥へと進んでいく。
周囲に誰もいないのを確認して本棚に背を預けると、ようやく息を止めていたのに気づいてぎこちなく吐き出した。
「は……っ」
グレニスは……グレニスはきっと、彼女のお願いを断らない。
私の時だってそうだった。
『泣いて嫌がるものを取り上げるほど鬼じゃない』
『女性を悲しませるのは騎士道に反する』
そう言って、ただの行儀見習いである私に嗅ぐことを許してくれた。
グレニスは、優しい人だから。
それはとてもいいことで、グレニスの魅力の一つだとも思うのに……どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。
まるで胸の中に大きな石を詰め込まれたみたいだ。
いっそあの場で彼女よりも泣いてみせれば、行かないでいてくれたんだろうか……。
俯いて、すん、と鼻をすする。
古びた紙とインクの匂い。
私のことは気にせずごゆっくりなんて言ってしまったし、今頃二人は私を置いてどこかへ移動しているかもしれない。
いや、グレニスなら移動する前に声くらいはかけてくれるだろうか。『俺たちは二人で行くことにしたが、リヴは一人で帰れるか?』と、彼女の腰を抱きながら。
……嫌だ。そんなものを見せられる前に辻馬車でも拾ってさっさと帰ろう。
まだあの場にいたなら、極力二人を見ないように断りを入れて。
そう思って顔を上げたと同時に、すっぽりと大きな影に捉われた。
周囲に誰もいないのを確認して本棚に背を預けると、ようやく息を止めていたのに気づいてぎこちなく吐き出した。
「は……っ」
グレニスは……グレニスはきっと、彼女のお願いを断らない。
私の時だってそうだった。
『泣いて嫌がるものを取り上げるほど鬼じゃない』
『女性を悲しませるのは騎士道に反する』
そう言って、ただの行儀見習いである私に嗅ぐことを許してくれた。
グレニスは、優しい人だから。
それはとてもいいことで、グレニスの魅力の一つだとも思うのに……どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。
まるで胸の中に大きな石を詰め込まれたみたいだ。
いっそあの場で彼女よりも泣いてみせれば、行かないでいてくれたんだろうか……。
俯いて、すん、と鼻をすする。
古びた紙とインクの匂い。
私のことは気にせずごゆっくりなんて言ってしまったし、今頃二人は私を置いてどこかへ移動しているかもしれない。
いや、グレニスなら移動する前に声くらいはかけてくれるだろうか。『俺たちは二人で行くことにしたが、リヴは一人で帰れるか?』と、彼女の腰を抱きながら。
……嫌だ。そんなものを見せられる前に辻馬車でも拾ってさっさと帰ろう。
まだあの場にいたなら、極力二人を見ないように断りを入れて。
そう思って顔を上げたと同時に、すっぽりと大きな影に捉われた。
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