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31~40話

35b、そんなの嘘

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「…………私はさ、庶民だから、貴族の結婚がどういうものかなんて全然わからないけど……それでも、恋する気持ちの大切さはわかるわ」

 マニーの言葉に、胸の奥がぎゅううと反応を示す。
 まるで、ここにいることに気付いてくれとでも言うように。

「『結婚』とか『今さら』とか、そんなの関係ない! ちゃんと自分の心と向き合って! リヴはどうしたいの!? リヴのを守ってあげられるのは、リヴだけなんだからね……!!」

 ——————嘘。

 私の想いを守れるのが私だけだなんて、そんなの嘘。

 だってほら。
 マニーは今、こんなにも必死になって私の想いを守ろうとしてくれているじゃないか。
 私なんかより、よっぽど『私』のためを思って。

 私だけが自分に嘘をついたまま気持ちを誤魔化すの?
 向けられたこの真心から、また顔を背けるの?
 ———ううん。

「マニー…………私、旦那様とお話ししたい」

 落としていた視線を上げると、真っ直ぐにマニーを見つめ返した。

「リヴ……っ!」

 私の答えを聞き、唇をわななかせながら歓喜に顔を歪めかけたマニーは、次の瞬間パッと真剣な表情に変わった。

「じゃあ急いで! 時間がないわ! 管理人のトニカさんが寝る時間になったら、使用人棟の入口が施錠されちゃう!」

「えっ、えっ!? 明日の早朝鍛練の時じゃ———」

 言いかけて気付く。
 昨日、私はここを辞めるとメイド長に話したのだ。
 鍛練の付き添い役もすでに他の人に引き継がれているだろう。

 グレニスは鍛練を終えると素早く支度を整えてさっさと出かけてしまうから、朝に話す時間を設けてもらうのは難しい。
 登城すればまた城に泊まり込む可能性も高く、私の迎えの馬車だって到着の日は迫っている。

 忙しいグレニスと二人きりで話したいのなら、恐らくチャンスは今夜しかない———。
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