ワナビスト龍

理乃碧王

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第四十三筆 ワナビスト、売り子と化す!

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 古田島の後をついていく龍。
 古き良き時代のRPGキャラのようなその姿。
 彼は果たして戦士か、武闘家か、魔法使いか――はたまた遊び人か。

「こ、ここはーっ!」

 やってきたのは『アレッサンドロ』というお店。
 ここは低価格で良品質のイタ飯が喰えるリーズナブルな料理屋さんだ。

「まずはここで食事しましょう」

 ザッザッザッ。(店に入る擬音)
 古田島は店へと潜入、お連れの龍も一緒に入るぞ。

「は、はい」(食べるって……)

 ザッザッザッ。(店に入る擬音)
 龍もお店に潜入、気分はさながらダンジョンに入る気分だ。
 店内はこじんまりとしているが、内装はアンティーク調でいい雰囲気。
 お客はそこそこに入っていて、静かな感じがするがそこがまたよい。

「イラッシャイマセー。何名サマですか」

 イタリア風のちょびヒゲ店員が現れた。
 なお、顔は濃ゆいが日本人であることは明記しておきたい。
 古田島は店員に「二名だけど」と伝えると、店員は「アイテルお席にどうゾ」と返した。

「あそこが空いてるわ」

 古田島は『向かい合わせとなる席』を指差した。
 龍は「うーわ、向かい合わせの席じゃねーか!」と嘆きつつ、古田島の後を追う。
 その姿は親や学校の先生についていくキッズのようだ。

「ここよ、先に座って」
「……自分が先に座るのはちょっと」
「あら、意外と紳士ね。阿久津川くんは遠慮なしに座る『デリカシーがない人』だと思ってたけど」
「あの……古田島マネージャー……今まで自分のことをどう思ってたんですか?」
「常識がどこか欠けているオタク」
「…………」(無言)
「それじゃあ、先に座らせてもらうわよ」

 古田島は鉄仮面な表情で、龍は石仮面な表情で座る。
 ただ単に座る。
 ラブコメ特有のドキドキ展開などない、実にドライな座り方である。

「ご注文はナンデスカ」

 なお、この店員は日本人なのに片言で話す。
 しつこいようだが、この店員は日本人であることは明記したい。

「そうね……」

 古田島はメニュー表を凝視する。

「和風パスタをお願い」(和風パスタ 税込み1190円)

 当然、この小説は現代を舞台としている。
 そのため、お前らが大好きな異世界飯など当然出るはずもない。
 古田島が注文したのは和風パスタ。
 しめじとまいたけをふんだんに使用し、和風だしとめんつゆで味付けされたものだ。

「阿久津川くんはどれにするの?」 

 お次は龍の番だ。
 古田島の顔は鉄仮面のままだが、口調や言葉のトーンからどこか温かみを感じる。
 龍は「古田島が優しい。まさか『ネットワークビジネス』の誘いではないか」と訝しむも――。

「欧風ビーフカレーを所望する!」(欧風ビーフカレー 税込み1000円)

 ドヤ顔でちょびヒゲ店員に注文する。
 龍がこの料理を選んだ理由は『当店オススメ』とメニュー表にデカデカと書かれていたからだ。
 紹介文には『牛肉や野菜を具材に使い、辛さよりも玉ねぎや赤ワインを使用した甘みや旨みが強調』しているとのことだ。
 また『誰にでも食べやすい味わいでマイルド、大人から子どもまで楽しんで頂けマス』とも付け加えられている。

「かしこまりマシタ。それではごゆるりト」

 ちょびヒゲの店員は気持ち悪いまでの営業スマイルを浮かべる。
 龍は若干「こいつ本当に日本人か」と思いながら、厨房へと入っていく店員を見つめていた。
 どうにも、あの店員一人がこの店を切り盛りしているようだ。厨房で料理をしている姿が見える。

「カレーって子供ね」

 その言動、トゲがあり。
 龍はちょいとムッとしながら答える。

「いけませんか」
「いけないってワケじゃないけど」
「な、なんですか……ジッと見つめてきて」

 ムッとした表情の龍だが、一瞬で解け「わおっ!」という顔になる。
 何故なら、古田島がぐいと自分の顔を近付けて見つめるからだ。
 ああ、何というラブコメ展開であろうか。
 私、理乃碧王はこういうものが大の苦手としているのはナイショだ。

「ご注文の品ヤデ、食べるんヤデ」

 ちょびヒゲ店員が秒速で、和風パスタと欧風ビーフカレーを持って来た。
 しかも、お客様に対して謎の関西風タメ口だ。
 料理をあっという間に持って来やがった。
 こんなことはありえるのだろうか?
 だが読者諸君、忘れてはいけないことがある。
 これもまた所詮はWeb小説、作者の「こういうことにしたい」がまかり通るのだ。

「は、速すぎまへんか?」

 エセ関西弁で店員に尋ねる龍。
 店員はこう返した。

「気にせんでエエやねん。温かいうちにハヨ食べなハレ」

 営業スマイルを浮かべ、店員は料理を静かにテーブルへと置く。

「ほな、サイナラ🦏」
(こ、この店員め……何がサイナラだよ。サイの絵文字なんぞつけやがって)

 店員は馴れ馴れしく、更にサイの絵文字をオマケをつけると厨房へ戻っていった。
 結局、龍の質問には適当に流されて良い解答をもらえなかった。

「いただきます」

 古田島は龍より先にフォークを使いながら和風パスタを食す。
 くるりんとパスタを丸めた古田島は唐突に、

「言ったかな。私、小説書いてるのよね」

 と述べた。

「はへ?」

 龍は情けない返事をする。
 スプーンですくったルー付きのじゃがいもが、テキサスヒットにライスへと落ちる。
 まるで難しい変化球を巧く当てられ、内野と外野の間に落とされた気分だ。

(むーん……前にそんなこと言ってたな……)

 龍は顎に手を当てて、まるで文豪、芥川龍之介のような顔を作る。
 左様でござい。以前、合コンの帰りに古田島から告白されたことを思い出した。
 それは安っぽい恋愛小説のような愛の告白ではなく、古田島が小説を書いていたという告白だ。

「ちなみに『小野みすゞ』名義で書いてるんだ」
(誰もそんなことまで聞いてねえ! それに何だ! その誰かと誰かをくっつけたような適当なペンネームは!)

 聞いてもいないペンネームまで教えてもらった龍。
 再びカレーからじゃがいもをすくうと口に入れてモグモグと口を動かす。

(それにしても、ペンネームを語るってことは……)

 龍は口を動かしたまま、古田島の顔を見る。

(ま、まさか『書籍化作家』なのか?)

 ペンネームを自慢げに語る古田島に一つの仮説を立てた。
 まさか、この古田島は裏の顔があり、副業としてプロの小説家をしてるのではないか。

(バ、バカな……そんなはずは……)

 龍はだんだんと額から汗をかき始める。
 これはカレーの辛さから出るものではないのは間違いない。
 そういえば、古田島のプライベートのことなんて全く知らない。
 確かに美人といえば美人だが、仕事一筋って感じで男の話など聞いたことがない。
 そんな古田島が実は小説家を書いていたなんて驚き桃の木山椒の木。
 事実は小説よりも奇なりというが、今それを強く実感し始めている。(これも小説だけどさ)

「まあ、アマチュアなんだけどさ」
(お、お前もワナビかーいっ!)

 ずこーっ!
 関西の喜劇役者のように、龍は椅子から転げ落ちそうになった。
 龍はゴクリとカレーを飲み込むと無理矢理、エビス顔を作った。

「そ、そうなんですか」

 これは龍なりの処世術。
 適当に返事して終わらせようとするが――。

「ところで阿久津川くん」
「な、なんでしょうか?」
「手伝って」
「ん?」
「同人誌即売会の売り子」
「ど、ど、同人誌即売会! う、う、うりこひめーっ!?」
「うりこひめじゃなくて、売り子よ」

 こいつは驚いた!
 な、なんと! 我らが龍は古田島に頼まれてしまった!
 売り子! つまりは店員になるように頼まれたのだ!

「ご飯おごってあげたからいいでしょう?」
「うわらばっ!?」

 龍はハメられちまった!
 何となく上司に言われるまま従ったら!
 とんでもねーことになっちまったぞ!
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