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第六十筆 創作の夜明けを求めて!
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「お疲れ様」
龍は古田島より労いの言葉をかけられた。
その意味するところは『読物マルシェの終わり』である。
時刻は既に午後の五時を周り、周囲のブースでは片付けが始まっている。
「楽しかった?」
「はい、とても楽しめました!」
古田島の言葉に、龍はいつになく元気に答えた。
それはとてもハキハキしたもので、職場で見せる龍の姿と全く違っていた。
職場での龍を知る人からすれば「お前、転生したのか?」というくらいの変わりっぷりである。
それは一つに、この読物マルシェに参加したことによる『収穫』が大きかったことに他ならない。
(世界は広いのものだ。俺は何と狭い世界に生きていたことか)
龍は後片付けを始める参加者達の姿を見ていた。
この同人誌即売会は色とりどりのフェスティバルであった。
そこにはラノベ的異世界ものだけではない。
詩もあれば、旅行記、エッセイ――更には画集、写真集など様々な読物があったのだ。
(創作はWeb小説だけではない)
龍は購入した画集と写真集を見つめる。
Web小説に固執していた龍にとって、それは実に新鮮で感動に満ちたものであった。
生まれたての赤ん坊が産声を上げ、周囲に映る様々なものが新しく映るかのように見えていたのだ。
そう、世の中はラノベだけが読物ではない。また文学作品だけが創作ではないのである。
人間の魂を具現化する精神活動は一つのものはない。
全てが尊く、何が優れているとか、何が上であるか、何が下であるかを比べるなど非常に愚かなことである。
それを龍はこの読物マルシェに参加し、体験することで知ることが出来たのだ。
そして、何より――。
「阿久津川くん、そういえばお昼休みから戻ってきたときに泣いてたって聞いたわよ」
「ほ、ほぎー! なぜそれを!」
「ラスターニさんからダイレクトメールが送られたのよ。阿久津川くんが凄いことになってるって」
「ラ、ラスター二?」
「アレッサンドロの店長さん。ほら、ちょびヒゲを生やした」
「あ、ああ……あの人ですか」(名前のわりに顔が思いっきり日本人だな)
龍はそういえばそんな人いたなと思い出していた。
あの時は世界樹の記憶のことで頭がいっぱいだったので、話しかけられたことに気づいていなかった。
それほどまでに、あの一冊には不思議な魔力と縁があり、作品と読者を結びつける『見えざる手』が働いていたのだ。
「何でも全然こっちの話を聞かずに、一人で泣いて、一人で『やるぞッ!』なんて右手を突き出してたとか?」
「あ、あくー!」
両手で頭を抱える龍、その顔は恥ずかしさで真っ赤となる。
漫画やアニメのインプットが多い影響のためか、龍は「飛龍クリック!」を始め、普通の人が外から見ると非常に日本の未来を不安にさせる仕草が多いことは読者の皆様も御存じだろう。
しかし、龍はこの無意識のアイタタな動作を自分では全く気付いていないのが現状。
今、龍は無意識下でのアクションをしてしまう自分を呪っていた。
「良い本に巡り合ったようね」
そんな龍に古田島が優しく声をかけた。
龍は顔をあげると、そこには女神ともいえる古田島の笑顔があった。
「その本ね、あなたを変えたのは」
「俺を変えた?」
古田島の視線の先には、まだバッグに直されていない世界樹の記憶。
購入した画集や写真集と共に、今は龍の右手に握られている。
「ここに戻ってきたときの阿久津川くん、いつもより少しだけ表情が違っていたわ」
「ひょ、表情が違う?」
「いい書物は人を変えてしまうことがあるの。それは人間の心を変えて、心の在り方が行動や仕草を変えていく――」
「な、何だか魔導書みたいですね」
龍の解答に古田島は深く頷いた。
「そう、確かにそうね。良い本は良い作用を働かせて、悪い本は悪い作用を働かせる――それは人の人生を変え、世界までを変えてしまう」
本は人の人生を変え、世界を変えてしまう。
龍はこのときに心臓を射抜かれるような気分となった。
自分はそこまでのことを考えて本というものに向き合ったことがないからだ。
「ちょっとばかり妬けちゃうな、その優しい本の作者さんに……」
古田島は売れ残った自作『月夜の竜と光の湖』を見つめる。
数冊ほど売れたが完売という形にはなっていなかった。
まだ『束』という現実として残っていた。
「古田島マネージャー……いや『古田島さん』!」
龍は力強い眼差しで古田島に語りかけた。
これまで見せたこともなかった龍の活きた表情に古田島は驚く。
「な、何かしら」
「あなたの『月夜の竜と光の湖』を一冊頂けませんか」
「わ、私の?」
「ええ!」
龍は世界樹の記憶など購入した本を急いでバッグに直し、ポケットから財布を取り出した。
「値段は800円でしたよね」
「い、いいわよお金なんて、私のワガママに付き合ってもらっただけなんだし」
「ダメです!」
「もし、本が売れなかった私を慰める意味があるんだったら……」
「売れる売れないとか関係ありません! 俺はあんたの本が欲しくなったから買う! お金を支払うのは当然です!」
「ど、どうしちゃったのよ急に――」
そう述べると、龍は古田島の手を取った。
「この『月夜の竜と光の湖』で、俺を変えて下さい」
古田島の掌の上には、五百円玉一枚と百円玉三枚が置かれていた。
いつもだったら何気なく使う硬化だったが、ずっしりと重く、暖かく感じられた。
「あ、ありがとう」
古田島はそう答えるしかなかった。
それと同時に龍に教えられたような気がした。
これまで小説家という夢に破れ、何となく続けていた自分の創作活動に悩み続けていたが、今日で一つの目標が出来た。
それは自分が何気なく口にした「いい本はいい作用を働かせて、悪い本は悪い作用を働かせる」という言葉。
自分が気づかなかっただけで、最初から答えは持っていたのだ。
――人生と世界を良い方向へ導くような作品を生み出したい。
それが彼女が書き続ける創作道の根幹であったのだ。
「いつの間にか、静かになったわね」
心の中の雲が晴れた古田島は辺りを見回す。
周りのブースにいたはずの人々は数えるほどになっていた。
「あれだけ賑やかだったのに寂しいものですね」
「お祭りの後はどこも同じようなものよ。さて、帰りはみんなでアレッサンドロで食事でもする?」
みんなとは導かれし創作者。
泰ちゃんを始めとする、アレッサンドロの創作者チームのことだ。
「古田島さん、断れるはずがないじゃないですか」
「ん?」
「もうみんな集まってます」
龍が古田島の後ろを指差した。
古田島が振り返ると、そこには泰ちゃん達、創作者チームが集まっていた。
「今日は腕によりをカケテ、作るゼ」
ラスター二はちょびヒゲを撫でながら、そう答えた。
古田島は「ラスター二さんの料理とお酒を楽しみにしているわ」と述べると、泰ちゃんに語りかける。
「坂崎君は村井さん達との用事は大丈夫?」
「大丈夫です。施設長は早く帰らないと嫁さんに怒られるらしいので先程帰りましたし、里紗ちゃんは言語聴覚士の勉強にスイッチを切り替えないといけないらしいので早々に――今の俺はフリーっスよ!」
太陽のような笑顔の泰ちゃん。
だが、服装は魔法使いのコスプレのままだ。
そんなおかしな格好に龍はツッコミを入れる。
「泰ちゃん、まだそんな恰好をしているのか」
「すいません、ちょっとばかり気に入ってまして」
「それはいいんだけど、そんな非常識な格好でいると一般常識を疑われるぞ」
そんな龍の言葉に古田島はどんと叩いて笑った。
「もう、阿久津川くんが言っても説得力がないわよ!」
龍は「いてて……」と背中をさすっている。
その光景を見て泰ちゃん達、創作者チームからどっと笑いが起こった。
こうして、龍の初めての同人誌即売会『読物マルシェ』は終わるのであった。
「後、もうちょっとだけ続くんじゃ」
どこかを見つめ龍はそう呟いた。
龍は古田島より労いの言葉をかけられた。
その意味するところは『読物マルシェの終わり』である。
時刻は既に午後の五時を周り、周囲のブースでは片付けが始まっている。
「楽しかった?」
「はい、とても楽しめました!」
古田島の言葉に、龍はいつになく元気に答えた。
それはとてもハキハキしたもので、職場で見せる龍の姿と全く違っていた。
職場での龍を知る人からすれば「お前、転生したのか?」というくらいの変わりっぷりである。
それは一つに、この読物マルシェに参加したことによる『収穫』が大きかったことに他ならない。
(世界は広いのものだ。俺は何と狭い世界に生きていたことか)
龍は後片付けを始める参加者達の姿を見ていた。
この同人誌即売会は色とりどりのフェスティバルであった。
そこにはラノベ的異世界ものだけではない。
詩もあれば、旅行記、エッセイ――更には画集、写真集など様々な読物があったのだ。
(創作はWeb小説だけではない)
龍は購入した画集と写真集を見つめる。
Web小説に固執していた龍にとって、それは実に新鮮で感動に満ちたものであった。
生まれたての赤ん坊が産声を上げ、周囲に映る様々なものが新しく映るかのように見えていたのだ。
そう、世の中はラノベだけが読物ではない。また文学作品だけが創作ではないのである。
人間の魂を具現化する精神活動は一つのものはない。
全てが尊く、何が優れているとか、何が上であるか、何が下であるかを比べるなど非常に愚かなことである。
それを龍はこの読物マルシェに参加し、体験することで知ることが出来たのだ。
そして、何より――。
「阿久津川くん、そういえばお昼休みから戻ってきたときに泣いてたって聞いたわよ」
「ほ、ほぎー! なぜそれを!」
「ラスターニさんからダイレクトメールが送られたのよ。阿久津川くんが凄いことになってるって」
「ラ、ラスター二?」
「アレッサンドロの店長さん。ほら、ちょびヒゲを生やした」
「あ、ああ……あの人ですか」(名前のわりに顔が思いっきり日本人だな)
龍はそういえばそんな人いたなと思い出していた。
あの時は世界樹の記憶のことで頭がいっぱいだったので、話しかけられたことに気づいていなかった。
それほどまでに、あの一冊には不思議な魔力と縁があり、作品と読者を結びつける『見えざる手』が働いていたのだ。
「何でも全然こっちの話を聞かずに、一人で泣いて、一人で『やるぞッ!』なんて右手を突き出してたとか?」
「あ、あくー!」
両手で頭を抱える龍、その顔は恥ずかしさで真っ赤となる。
漫画やアニメのインプットが多い影響のためか、龍は「飛龍クリック!」を始め、普通の人が外から見ると非常に日本の未来を不安にさせる仕草が多いことは読者の皆様も御存じだろう。
しかし、龍はこの無意識のアイタタな動作を自分では全く気付いていないのが現状。
今、龍は無意識下でのアクションをしてしまう自分を呪っていた。
「良い本に巡り合ったようね」
そんな龍に古田島が優しく声をかけた。
龍は顔をあげると、そこには女神ともいえる古田島の笑顔があった。
「その本ね、あなたを変えたのは」
「俺を変えた?」
古田島の視線の先には、まだバッグに直されていない世界樹の記憶。
購入した画集や写真集と共に、今は龍の右手に握られている。
「ここに戻ってきたときの阿久津川くん、いつもより少しだけ表情が違っていたわ」
「ひょ、表情が違う?」
「いい書物は人を変えてしまうことがあるの。それは人間の心を変えて、心の在り方が行動や仕草を変えていく――」
「な、何だか魔導書みたいですね」
龍の解答に古田島は深く頷いた。
「そう、確かにそうね。良い本は良い作用を働かせて、悪い本は悪い作用を働かせる――それは人の人生を変え、世界までを変えてしまう」
本は人の人生を変え、世界を変えてしまう。
龍はこのときに心臓を射抜かれるような気分となった。
自分はそこまでのことを考えて本というものに向き合ったことがないからだ。
「ちょっとばかり妬けちゃうな、その優しい本の作者さんに……」
古田島は売れ残った自作『月夜の竜と光の湖』を見つめる。
数冊ほど売れたが完売という形にはなっていなかった。
まだ『束』という現実として残っていた。
「古田島マネージャー……いや『古田島さん』!」
龍は力強い眼差しで古田島に語りかけた。
これまで見せたこともなかった龍の活きた表情に古田島は驚く。
「な、何かしら」
「あなたの『月夜の竜と光の湖』を一冊頂けませんか」
「わ、私の?」
「ええ!」
龍は世界樹の記憶など購入した本を急いでバッグに直し、ポケットから財布を取り出した。
「値段は800円でしたよね」
「い、いいわよお金なんて、私のワガママに付き合ってもらっただけなんだし」
「ダメです!」
「もし、本が売れなかった私を慰める意味があるんだったら……」
「売れる売れないとか関係ありません! 俺はあんたの本が欲しくなったから買う! お金を支払うのは当然です!」
「ど、どうしちゃったのよ急に――」
そう述べると、龍は古田島の手を取った。
「この『月夜の竜と光の湖』で、俺を変えて下さい」
古田島の掌の上には、五百円玉一枚と百円玉三枚が置かれていた。
いつもだったら何気なく使う硬化だったが、ずっしりと重く、暖かく感じられた。
「あ、ありがとう」
古田島はそう答えるしかなかった。
それと同時に龍に教えられたような気がした。
これまで小説家という夢に破れ、何となく続けていた自分の創作活動に悩み続けていたが、今日で一つの目標が出来た。
それは自分が何気なく口にした「いい本はいい作用を働かせて、悪い本は悪い作用を働かせる」という言葉。
自分が気づかなかっただけで、最初から答えは持っていたのだ。
――人生と世界を良い方向へ導くような作品を生み出したい。
それが彼女が書き続ける創作道の根幹であったのだ。
「いつの間にか、静かになったわね」
心の中の雲が晴れた古田島は辺りを見回す。
周りのブースにいたはずの人々は数えるほどになっていた。
「あれだけ賑やかだったのに寂しいものですね」
「お祭りの後はどこも同じようなものよ。さて、帰りはみんなでアレッサンドロで食事でもする?」
みんなとは導かれし創作者。
泰ちゃんを始めとする、アレッサンドロの創作者チームのことだ。
「古田島さん、断れるはずがないじゃないですか」
「ん?」
「もうみんな集まってます」
龍が古田島の後ろを指差した。
古田島が振り返ると、そこには泰ちゃん達、創作者チームが集まっていた。
「今日は腕によりをカケテ、作るゼ」
ラスター二はちょびヒゲを撫でながら、そう答えた。
古田島は「ラスター二さんの料理とお酒を楽しみにしているわ」と述べると、泰ちゃんに語りかける。
「坂崎君は村井さん達との用事は大丈夫?」
「大丈夫です。施設長は早く帰らないと嫁さんに怒られるらしいので先程帰りましたし、里紗ちゃんは言語聴覚士の勉強にスイッチを切り替えないといけないらしいので早々に――今の俺はフリーっスよ!」
太陽のような笑顔の泰ちゃん。
だが、服装は魔法使いのコスプレのままだ。
そんなおかしな格好に龍はツッコミを入れる。
「泰ちゃん、まだそんな恰好をしているのか」
「すいません、ちょっとばかり気に入ってまして」
「それはいいんだけど、そんな非常識な格好でいると一般常識を疑われるぞ」
そんな龍の言葉に古田島はどんと叩いて笑った。
「もう、阿久津川くんが言っても説得力がないわよ!」
龍は「いてて……」と背中をさすっている。
その光景を見て泰ちゃん達、創作者チームからどっと笑いが起こった。
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