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1章 D Dream of Tail
-6- 『蓋される世界のソコへ』 後半
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ラーンのアドバイス通りにディザーは、岸で試し打ちをしている。すると、何も問題なくその不可思議な魔法を発動させてみせた。
空気が軋む音とともに空気の流れの無い『冷気の嵐』がディザーを中心として吹き上がり、時計回りの渦を巻いて吹き抜けたのが水の凍る様子で分った。
「うわ……すげぇ……」
僅かに波打っていた岸が見事にそのまま波紋を残したまま凍り付き霜が降りる、砂地に霜柱が立ち上り即座にそれぞれが音を立てて結びつき、魔法を唱えたディザーと中心として半径5メートル程が文字通り。凍り付いたのを私は、息を呑んで見守ってしまった。
「よろしい、今度は指向性を持たせてみましょう、そのまま前方へ意識を向け湖の表層を在る程度の厚さで凍り付かせる。事前の調査の通り真水です、指向性は……」
塩を撒く事で確保するんだ。
水によく溶ける紙で包み込んだ塩の小袋をポケットいっぱいに詰め込んでいて、それを数個取り出して湖に放り投げる。
再びディザーは凍り付いた湖面にナイフを触れさせて呪文を唱える。
すると水に溶けた異物に導かれ、氷の道が前方へと伸びていくのだった。
「十分に氷が厚く張っている事を確認しながら進むんですよ」
「わかってら、よし……行ってくるぜ!」
ディザーが背負っているトーチライトの光は、あっという間に遠ざかっていった。
この巨大な洞窟を包む闇に溶けそうで、溶けない。
ディザーが生み出す氷の橋がキラキラと光を乱反射するのを私は、気がつけば手を組んで見守っていた。
ディザーは順調に確実に真っ直ぐ地底湖の中央に進んでる。今の所異変は、無い。
先に決めてあった合図として、ロープがリズムよく何度か引っ張られる。
「目標地点に近づいた様だ、一端照明を放つ」
最初に決めた段取りの通り、何か変化が起きていないか確認するためにこの洞窟にたどり着いた時にクオレが放った閃光照明銃を構えている。
私は慌てて持っていた双眼鏡を握り直した。さほど長くない照明時間内に変わった事がないか、ラーンと一緒に探し出す役割を振られている。
アズサがロープから振動を送り返して照明をあげる合図をディザーに送った。ディザーのものであるトーチライトが左右に振られて返事が返ってくる。
「ラスハルト、一発目お願いします」
ラーンの言葉にクオレは、無言で銃を構えてトリガーを引く。一瞬の溜めの後、光がほとばしった。
流星の様に輝きが降り注ぎ、広い空間が再び目の前に現れる。暗闇の閉ざされた巨大な洞窟が夢ではなく、現実であることを私達に見せつけるように。その光の中、キラキラと光を乱反射する氷の橋の上にディザーの姿が確認出来て私は、思わず安堵のため息を漏らしていた。
それから急いで周辺を伺い、双眼鏡を当てて岸から地底湖の奥の方まで、異変が無いかどうかを伺う。
「……波?」
「どうした?」
咄嗟に口走った言葉にクオレが鋭く問いかけてくる。
「湖に波が立っている、様な気がする」
「間違いではありません、凍り付いた橋の状況を見てくださいラスハルト、波が少し高くなって来ている事を確かにディザーは凍り付かせて証拠として残しています」
「魔法の衝撃じゃないのか?」
「いえ、違います。衝撃はありません、氷冷魔法は空気の流れを二次的な作用で生み出す事はありますが基本的には無風の……」
照明が暗くなっていく。それでも……状況はよく見えたはずだ。
アズサが命綱のロープをしっかりと握り込んだ。ディザーは状況を前線で見ているからよく分っている、すでにこちらに振り返って居た。
指示を待っているんだ。
クオレが一歩前に踏み出して叫ぶ、その声は……彼の所まで届くのだろうか。
戻れ、ディザー!
その叫び声と重ならないように間髪入れず、アズサも大声で同じ事を繰返す。
薄暗く光が、消えそうになる。その中ディザーが身を翻したのが確かに見えた。
「ラスハルト、もう一度照明を!」
ラーンが言い終わる前にもクオレはライティングの魔法銃を放っていた。しかし、光が弱い……?
「魔力が切れた、」
悪態をついて古式銃を投げ捨てるクオレ、即座その手でアズサが握っているロープを手にとって指示。
「照明弾だ、」
「了解!」
命綱の持ち手を替わり、即座アズサが用意していた火薬式の照明弾の筒を湖の上に構えた。
火薬の燃える匂いとっしょに鈍い音が響いてひゅるひゅると空気を裂いて飛んでいく。魔法銃とは違う。
そのまま何かにぶつかった音がして光が炸裂する。
あ、しまった……気が付いた時には遅い。
光が強い、私は油断していてすっかり視界を奪われてしまっていた。そう、照明弾を直接目で見ちゃいけなかったのに、それくらいは基礎として教わる、実技の成績はあんまりよくなかったんだ、それをいい訳にはしてはいけないけれど……ライティングの光が照明弾のそれとは違っていたから、照明弾の時にはどうすればいいのか……その事をすっかり忘れていた。
他は、クオレ達は大丈夫だろうか?何よりディザーは……。
「刺激が強すぎましたか」
ラーンの悪態のような声が聞えた途端、水鉄砲に流された時のように誰かが私の体を抱きしめる感覚を感じる。
一瞬驚いて抵抗しようとしてしまって慌てて止めた。
「手帳を出せるか?」
至近距離で聞えるその声はやはり、クオレのものだ。私が驚いた事を察しているように優しい声色で、私は真っ白く濁った視界の中手探りで背負っていた荷物の中から手帳を取り出した。でも、これをどうするのだろう?
「手放すな、腹に抱えてしっかり抱きかかえていろ」
「クオレ、私、視界が、」
「すまない、先に警告するべきだった」
その断りの声と一緒に遠くから、何かが迫ってくる音が耳に届く。視界が遮られた事に感覚が支配されていた。
氷が砕ける音、そして……激しい水音。
地底洞窟に今まで、なかった音だ。
「ディザー!」
視界が焼かれて流れる涙を必死に拭いながら、左手でしっかりと手帳を抱きかかえ私は、思わず彼の名前を叫んでいた。
強い圧迫感、空気が押し潰されるような感覚に思わず開いていた口を閉じる。頬に掛る水飛沫、足下を掬う流れがどんどん上がって来てバランスを奪われる。クオレが私の体を支えてくれているおかげで何とか立っていられた。
「何?どうしたの!?」
白濁した視界がもどかしい、全てが音と、感覚だけ起きていて私には何が起こっているのか全く分からない。それも怖いけれど、みんながどうなってしまったのかの方が心配だった。
「ラーン、凍らせてもいいんだよな!」
ディザーの声だ。
まだ視力は回復しない、でも確かに今ディザーの声が聞えた。
必死に目を拭う。ぼんやりと光が戻ってくる、すでに照明弾の光は弱くなってきていていたけれど……地底湖が溢れて、巨大な波がこちらに押し迫ってくる様子はぼんやりと理解出来た。
紫色のものが空中を翻ったのを捉える。黄色い警告色の入ったD3Sの制服だ。
「イン、ユースを支えておいてくれ」
何時の間にやらすっかりクオレにしがみついていたのに気が付いて私は慌てて手放す、その途端足下を流れる水にバランスを崩した所ラーンに支えて貰った。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ、いいのですよ」
おとなしくラーンの腕にしがみついて私は改めて状況を見る。
氷だ、氷の柱が目の前に立っている。それはディザーが渡した氷の橋がひっくり返ったものであるらしい。その氷の柱のでっぱりに足を掛け、器用にもディザーが空中を跳んでいるのが確かに見えた。
「身軽ですねぇ、彼」
身体能力がS評価、っていうのは……本当みたいだね。
彼が空中を跳び回る間にいつの間にか、アズサが低く身構えて、背負っている巨大な剣を両手に握り振り回している。
氷の柱に叩き付けて大雑把に砕いている?いや、そんな事出来るものなのかと思う反面確かにそう云う事実が目の前にある。
水飛沫を上げて氷の固まりが落ちてくる。ディザーは、そうやってアズサが砕いた氷をまるで一定の場所に蹴飛ばすように足場として跳び回ってる。
サーカスでも見ているような気分だ。
「ディザー、上だ!」
クオレの鋭い声にディザーは空中でくるりと一回転し、迫ってきていた奇妙な動きをする水にISE武具を握る手を付き出した。
ディザーが発したスペルとともに迫ってきていた水の腕が凍り付く、凍り付いた根本からヒビが入ってぼろりと、氷の塊が入り落ちて来た。私たちの真上の出来事だ、この場を逃げなければと思うけど私は、ラーンも含めて身動きが取れないんだ。足元水の流れに引きずり込まれるのに抵抗するに必死で、お互いで支え合ってかろうじて立っている。
茫然とせまってくる氷の塊を見ていた。
そこに飛び込んでくる青白い光。
クオレだ、クオレの背負う剣が落ちてくる氷の塊を捉えて真っ二つにしてしまった。その事実に、開いていた口がふさがらない。
そのままクオレはディザーとアズサが作った氷の不安定な足場で着地し、再び剣を振りかぶって跳ぶ。
バラバラと降り注いでくる氷の固まりを剣で粉砕しながら吹き飛ばし、その隙間を塗って襲いかかってくる水、迫り来る波の向こうから無制限に伸びてくる『水の腕』を大雑把に剣の一振りで切り飛ばしてしまった。
水の腕、あれはスライムみたいだ。
予想した通り……地底湖のそこには巨大なスライムが蓋をしていた?
それが氷冷魔法に過剰反応して防衛運動を起している……私達に襲い掛かってきたのか…!
もうとっくに掬われていてもおかしくない巨大な波がそのまま、そこにそそり立って視界を塞いでいた。水じゃない、これは……巨大なスライムそのもの。
青い巨大な膜がすっかり私達を覆っているのを確認する。ううん、もうとっくに私達は波に『攫われて』いるんだ。
アズサが放った照明弾がまだ生きている、明るい光が青いスライムの壁越しにぼんやりと見えた。
急速に足下を流れていた水が引く、その力はすさまじくてラーンと一緒にすっかり足を掬われて引きずり込まれた私だったけど、アズサが切り落としていた氷の固まりがそこかしこに落ちているお陰で湖の奥まで引っ張り込まれる事をなんとか凌ぐ。
引き倒されていた所必死に立上がるも今度は、頭上から覆い被さってくる巨大スライムの壁がゆるゆると迫ってくる。
もうもうと白い煙のようなものが立上がっていて視界を奪おうとする、変な匂いだ。
「このままじゃ喰われちまう!」
身軽に私の隣にディザーが着地し、魔法を放つ許可を求めるようにディザーはラーンに言った。
「いっそ喰われてしまいましょう」
「おい、冗談だろ?」
「伸ばされてくる触手を幾ら凍らせても埒があきません、地底に続くトンネルはどうせ、スライム越しに彫み込む予定だったんですし」
武器を構え狭まってくる壁に合わせアズサとクオレも身を寄せてきた。
突然再び空気が圧縮されるような威圧がある。風が吹き抜けた、壁が一気に迫ってくる。
驚いて目を閉じるも……何ともない?
恐る恐る目を開けると青い壁がすぐそこにあるけれどそこで止まってる。
「どうなってるんだ?」
「お守り効果、ですよ」
にやりと笑ってラーンは小さな結界石を取り出した。
「三点結界です」
三点結界、それは……結界石を使った強力な障壁魔法の事だ。
結界石自体はやっぱり魔法を封入したものだけど、これを複数使って特定のフォーミュラを描く事で別の強力な魔法を発動させる事が出来る、と言う技術は……聞いた事がある、けど……。
結構、発動条件がシビアだったと思うんだけどな?ああ、これは私には多分関係のない、使う見込みは無い技術だと思って、それ以上資料を読むのを止めた記憶がある。
「何を不思議な顔をしてますか、ユース、貴方のその手帳のお陰ですよ」
「え、これ?」
「ちゃんとしたマッパー用の手帳です、その手帳自体に魔除け魔法が掛っているのをご存じないのですか?」
「え?これに?し、知らない、知らなかった!」
必死に抱えていた手帳は今、ぼんやりと縁が発光しているのが見て取れる。
「た、確かにちゃんとした上級者の手帳にはそれ自体に魔除け効果が付加されている、とは聞いた事があるけれど……私、そんな上等な手帳は持ってないよ」
ラーン、すると無言でクオレを見た。クオレは剣を背に背負い直しながら小さく鼻で笑う。
「俺達のマッパーだ、彼女の仕事は報われるべきだろう」
「え?」
どういう意味だろう?ラーンが微笑んで私に振り返る。
「ユース、扉を開いてご覧なさい」
そう言われ、私は慌てて手帳のホックを外して扉を開いてみた。そこには見慣れない青いシートが挟み込まれている。
うっすらと判読不明なウィザードの『フォーミュラ』表記が見いだせた。
「これ……は?」
「俺の手帳の扉だ、お前がマッパーをするならその記録は、しっかりと残されるべきだからな。昨日のうちに挟み込んでおいた」
クオレの手帳の扉?って事は……これが手帳を保護する魔法の扉?
クオレはどう見ても『上級者』だ。手帳もそれなりのちゃんとしたものに違いない。自分の手帳から、魔法保護のページを私の手帳に移しておいてくれたんだ。
「いつの間に、」
「青シートとは恐れ入りましたね、流石と言った所ですかねラスハルト」
ラーンの言葉にクオレは何故かそっぽを向いてしまった。
「結界石には相性があります、この相性の組み合わせと特殊な作法によって様々な結界を展開出来る『場合がある』。……一部手帳に付加される魔除けはオールマイティ属性がありましてこれはその、全属性の穴を埋める特別なものです。おかげさまでこの通り」
ラーンも私の手帳に魔法加護シートが挟まれているの、分かってたからだよね。あるいはクオレがその手帳を持っている事を把握しての事かな。
三点結界、か。
丸く、押し迫ってきているスライムの壁を押しのけて空間を維持してくれている。
ん、でも三点なら……あ、そうか。
ディザーのポケットが片方、淡く光ってるのを見て私は顔を綻ばせていた。
その視線に気が付いたみたいにディザーは苦笑いして『家内安全』のお守りが入っているポケットを軽く叩く。
「最初っからそうだと教えてくれりゃいいのに」
「万が一の方法です、頼りにされて油断を招きたくなかったので」
いけしゃぁしゃぁと言いやがると、ディザーが悪態をつく隣で、アズサも深くため息を漏らした。
「全く……一瞬肝が冷えたわよ、あんたが余裕扱いてるから私も冷静になれたけど」
「その判断には感服しました」
「よし、じゃ今度こそ凍らせて……」
「待て、ヘタをすれば顫動して結界が崩れる」
そこを動くな、というクオレのジェスチャーにディザーは動きを止めた。
「この結界は強力だが、発動条件が厳しい。ヘタに結界触媒を動かせば即座崩れる可能性もあるだろう、あまり身動きはするな。……まだ結界は持つな?」
「もう暫くは問題ないでしょう」
「では暫く様子を見よう、」
まずこの巨大な壁はどんなスライムなのか、ラーンは蛋白質シートを丸めて投げて判断する事にしたけれど……無反応だね。
「結界の所為かな?」
「いえ、……ふむ、もしかして」
しばらく顎を差すって考えていたラーンはアズサにお願いして自分が背負う荷物の中から水筒を取り出すように言う。リュックの決まった所に水筒は入れる事になっているんだ。
ラーンは水筒を受け取るとそこから……熱い湯気を立てる液体をカップに取った。
匂いからして正体がすぐわかる、コーヒーだ。
「珈琲飲んでる場合じゃねぇだろ?」
当然の疑問をディザーが投げたけどラーンは無視して、少量のコーヒーを……足下に垂らす。
「うっ!」
奇妙な匂いが狭い空間に立ちこめた、コーヒーじゃない、少し立ち上った煙を吸い込むにちくちくする……酸だ。
ラーンは小さく頷いて残っていたコーヒーを飲み干し水筒を戻し、別の水筒を取り出して今度は、先ほど投げて無反応のままの淡泊シートの上に垂れるように水を、今度こそただの水を垂らした。
同じく嫌な匂いの煙とともに水は泡を立てて消え、水に触れた淡泊シートもそれと一緒に溶けた。
「なるほど」
そう言ってラーン、しゃがみこんであっさりと、スライムの壁に手を触れてみせる。
「おい……!」
「いえ、大丈夫です。触れても大丈夫、とはいえ長時間触れているのは危険でしょう、人の皮膚は汗を分泌する。どうやらこのスライム、水を介してでないと消化運動が出来ないようです。どういう仕組みなのかは理解しかねますが……」
「成る程、それで納得が行くな。トーチライトが取り込まれて消化されなかった、ロープが今もあんな風に漂っている理由が、な」
そう言ってクオレは真下を指さす。
目をこらす、青い光がぼんやりと見える。それは、最初に取り込まれてしまったトーチライトだ。ディザーが手に持っているトーチライトであたりを照らすと近くに、焼き切れたロープの切れ端が漂っているのを見つけ出す。
アズサが少し下がってとジェスチャーし、握ったままの両手剣を真っ直ぐ、スライムの壁に差込んだ。
「確かに……剣が腐食してる気配は無いわ」
「元来スライム種は金属は溶かせないものが多いですしねぇ」
ゆっくりとスライムを刺激しないように……そもそも痛覚なんか無いから斬撃は刺激にはならないのかもしれない。ゆっくりと大きな剣で切り開いていく。
開いた壁を手袋をした手で大きく広げて手を伸ばし、埋まり込んでいたロープをたぐり寄せる事が出来た。
ぼんやりと青い光が近づいてくる。
地底湖の底を調べる為にロープに結ばれ、水の中に沈めていたトーチライトの姿が見えて来る。プラスチックとセラミックのパーツで組み立てられているトーチはプラスチック部分に若干の腐食が見られる。あったはずの角がすっかりとれている。
辛うじて繋がっていた、ロープについても同じだ。
「すっかり溶かしてしまうつもりは無かったのか?」
照明度はレンズ面の僅かな溶解の所為か低くなったけれどまだ、十分に使える。巨大スライムに取り込まれながらも無事だったトーチライトを元の持ち主、ディザーなんだけど……に返しクオレはラーンを伺った。
と、彼は何かを手でこね回してる。
切り取った外壁、スライム……をラーンは手袋をしたまま丸めて、捏ねてみているようだ。
「だ、大丈夫?」
「ええ、今の所。……ゲル状ですね、ペタペタしますが水分分泌は見られません、おかげさまで僕らは解かされずに済んでいますが、一応サンプルに持って帰りましょう」
何故かディザーが安堵のため息を漏らした。
「どうしたの?」
「ん、ああ……喰おう、とか言うんじゃないかと思って」
「食べたら口の中で大惨事になりますよ、多分」
「え?あ……そ、そうか」
全くディザー君はおバカですねぇ、とかなんとか。二人が軽く言い合うのに私の緊張は漸く解けた気がした。軽くため息が漏れて、強ばっていた肩を下す。
「インテラール、なぜトーチライトやロープはそのまま溶けずに済んだのだろう?あのままどこまで落ちていくつもりだったのか」
「私達もその真っ最中です」
三点結界のお陰で壁に、完全に取り込まれてしまう事は免れているけれど。どうにもどんどん地底湖の底の方に沈んで行っている気がする。
「このまま、どこに運ばれていくのでしょう」
やっぱり私の気のせい、じゃないんだね。
「それはそうと、こいつを倒すんじゃなかったのか?」
ディザーはISE武具をまだ手に握ったままで、ぷるぷると震えている壁を指さした。
「そうしたい所だが、無闇にまた冷気を吹き付ければこっちはもみくちゃにされるだろう?」
「弱点を探しているのよ、ようするに核ね、こいつは明らかにプティング系のスライムとはいえここまで大きいとなると別の特徴を備えているって考えた方が妥当だわ」
アズサの言葉にラーンもその通り、と深く頷いている。
「プティング系は増殖する為に自らの設計図となる遺伝子を格納する核を一つ持っているはず。魔物とはいえスライムはそこまで特出して理解の及ばない構造をしている生命体ではない。だからこそ、研究・愛好者も多い」
そうかなぁ、確かに魔物の中にはどうやって増殖するのか物理生命学的に全く理解出来ないような種もいるというけれど、スライム愛好家が多いのってそういうのも理由の一つなんだろうか?
「核、ね。こんだけデカいんだから核もデカいんじゃねーの?」
「いや、そうである必要性は無い。遺伝子による異常による倍数体だというのなら比例して核も大きくなるだろうが、これは魔種だ。弱点となる核が比例して大いだろうとういうのは希望的観測にすぎんだろうな」
少し、絶望気味なクオレの言葉にラーンとアズサも同調してる……って事は。
弱点となる核が……見つけられない?
確かにこのスライムの中、湖程ではないけれどある程度透明度はある。おかげで周りを見渡せるけれど、奥に行くにつれ四方八方青い闇があるばかりで何か異質な物体は見いだせない。
大体、光をこちら側から照射しても途中で青く濁ってしまう。
「こちらの位置を調べる機器も役に立ちません、」
GPS機能を搭載した携帯電話機器をラーンが取り出してお手上げと振っている。
「おいおい、このまま地底湖の底にたどり着いてそれで、何もなかったらどうするんだ!」
「その時は何がなんでもスライムを退治して脱出を試みる事にしましょう」
「アズサ、いいのかよそれで!」
「だってしょうがないでしょ、この状況だもの。とりあえず地に足を着けないと戦えないわ、私達が今どれだけ不利なのかあんたは分かってない」
そう言ってアズサはディザーの頬を軽く叩いた。ディザーは腑に落ちない様子でラーンから貰った魔法武器を突き出す。
「これがあれば地面でもなんでも凍らせて、足場なんて作れるだろ?」
「柄尻にある宝玉をご覧なさい」
ラーンの言葉にディザーは、握り込んでいたナイフを左手でつまみ上げる。
小さなナイフの柄尻に小さな青い玉が嵌っているんだ。
「そこに魔力が込められています。魔力というものはあらゆる物質や生命体に元来備わるものですが、物質である場合振る舞いは少し異なる事情をご存じでしょう?」
「振る舞いが、異なる?」
必須科目かと思いましたが、知りませんか?というラーンの言葉にディザーは救いを求めるみたいに私の方を向く。もう、しょうがないな。
「宝石や希少金属にも魔力が含まれている場合があるんだよ、あるいは古い道具に魔力が宿っている場合もある。それは、長い間に人や他の者との接触によって物質が魔力を蓄積させる特徴があるから」
「あ、ああ!そうそう、物質の場合魔力は消費すると失われちまうんだったな!そ、そうか……氷冷魔法を使うにも限度はあるって言いたい訳か?」
「ええ。確かにこの局面、使えば有利でしょうが元来それら魔法道具が高価で取引されている理由をよく考えてください。本当に使うべき時に使うのが一番良い。売り払うにしても、魔力は残存していた方が高くなりますしね」
「う、そ、そんな使用するに迷うような事言うなよ」
その時、さっと影が差すように暗くなった気がして私達は辺りを見回していた。
何が起きていたのかはすぐに判明する。右手側面に黒い影が見えてきたんだ。
「これは?」
「洞窟の壁、ですね……大分下の方まで沈んで来たようです。残念ながら今私達が地図のどのあたりにいるのか、スライム任せにしてしまったのでよく分かりませんが」
そうこうしているうちに暗い影は四方八方から迫ってくる。
「どこか、深い縦穴に落ちているのか?」
「かもしれません」
ラーンは地図を取り出してどの縦穴でしょうかと指で差している。ディザーが必死に辺りを見回し、僅かな地形の差を見逃さないように鋭い視線を配った。
「一番深い所に潜ってんじゃねぇか?地図でここまで垂直に縦穴なの、そんなに無かったはずだろ?」
それならかなり絞り込まれますね、そういってラーンが示す地図の様子を私は見ていたけれど……その隣で、クオレが無言で口を開け、呆然と地図とは違う所を見ているのに気が付いた。
恐る恐るそちらに目をやる。
それは、私達の真下。
とたん、異質な光が私の網膜を焼き痛みとは違う、不思議な感覚が脳天を突き抜ける。
ようやく私とクオレの様子にきがついたようにラーンが顔を上げた。
「どうしました?」
「イン……下だ、あれは何だ?」
クオレの、絞り出したような言葉に全員が足元を見たと思う。
そして、あの不思議な光に目をやられ、意識を焼かれ……その何ともないはずの光景に全ての感覚が持って行かれる。
「吸い、こまれるような感覚、だ、」
クオレが必死に抗う声が遠くに歪む。
吸い込んでいるはずの空気が途端薄くなったように感じられ意識が遠退いた。
眠い。
足を支える力が急激に抜けて、不安定な床に私はへたり込んでしまっていた。みんな同じような感覚と戦っていたのかもしれない、ディザーが、ラーンが、遅れてアズサとクオレも同じく膝を突き、強い圧迫感に立っていられなくて必死に頭を支えている。
「強烈です……ね、悪い感覚ではないのですが」
いつの間にか手に持っている、小さなピンを自らの掌に突き刺してラーンが一時的に意識を取り戻した様子を私は見ていた。
ぼんやりと、霞が掛ったような視界の奥に。
夢を見ているみたいだ。
まるで全ては現実ではないみたいにぼんやりと、地に足を着けず感覚は麻痺し、そうやってふわふわ浮いているようなこの状況はとてつもなく、気持ちが良い。
ディザーが落ちた、頭から倒れ込んだのをアズサが必死に抱え起しているがそのまま、スライムの壁に寄りかかる。
「このまま意識が無くなったら……」
まずい、というアズサの言葉は聞えなかった。
私の意識が瞬間途切れたからかもしれない。
なんとか自ら叩き起こした意識はそれでも朦朧としていて今がどういう状況なのかもよくわからなくなってくる。
突然方向感覚が失われた、いや、違う。
私達は落ちているんだ。
眠りを誘う気怠い感覚の中、それは一種衝撃として私達の意識をほんの少し覚醒させる。
青白い光を反射して返す、大きな剣が私達の行き先を示している。
クオレだ、クオレの背負うあの剣が足下に突き立てられ、やわらかいであろうスライムのゼラチン状の部分に切り込みを入れ、私達は私達の重さでその切り込みに向かってずりおちていく。
届け、
そのようにクオレが叫んだ声が遠くに聞えたような気がする。
届け、それは多分……あの怪しくも優しい光を放つ、長方形の扉の場所まで。
白く光る……?あれは、光っているのだろうか?
そういう疑問がわずかに脳裏に浮かぶが、その不思議な『光を遮る』不定形の影が突然躍り出て来た様な気がする。丸く、何か異質な雰囲気を感じる小さなものに確かに……青白く発光する長剣が届き、真っ二つに引き裂いたのを見ていた。
見ていたと思う。
よくわからない……見たと思ったその景色は夢だったのか、現実なのか。
空気が軋む音とともに空気の流れの無い『冷気の嵐』がディザーを中心として吹き上がり、時計回りの渦を巻いて吹き抜けたのが水の凍る様子で分った。
「うわ……すげぇ……」
僅かに波打っていた岸が見事にそのまま波紋を残したまま凍り付き霜が降りる、砂地に霜柱が立ち上り即座にそれぞれが音を立てて結びつき、魔法を唱えたディザーと中心として半径5メートル程が文字通り。凍り付いたのを私は、息を呑んで見守ってしまった。
「よろしい、今度は指向性を持たせてみましょう、そのまま前方へ意識を向け湖の表層を在る程度の厚さで凍り付かせる。事前の調査の通り真水です、指向性は……」
塩を撒く事で確保するんだ。
水によく溶ける紙で包み込んだ塩の小袋をポケットいっぱいに詰め込んでいて、それを数個取り出して湖に放り投げる。
再びディザーは凍り付いた湖面にナイフを触れさせて呪文を唱える。
すると水に溶けた異物に導かれ、氷の道が前方へと伸びていくのだった。
「十分に氷が厚く張っている事を確認しながら進むんですよ」
「わかってら、よし……行ってくるぜ!」
ディザーが背負っているトーチライトの光は、あっという間に遠ざかっていった。
この巨大な洞窟を包む闇に溶けそうで、溶けない。
ディザーが生み出す氷の橋がキラキラと光を乱反射するのを私は、気がつけば手を組んで見守っていた。
ディザーは順調に確実に真っ直ぐ地底湖の中央に進んでる。今の所異変は、無い。
先に決めてあった合図として、ロープがリズムよく何度か引っ張られる。
「目標地点に近づいた様だ、一端照明を放つ」
最初に決めた段取りの通り、何か変化が起きていないか確認するためにこの洞窟にたどり着いた時にクオレが放った閃光照明銃を構えている。
私は慌てて持っていた双眼鏡を握り直した。さほど長くない照明時間内に変わった事がないか、ラーンと一緒に探し出す役割を振られている。
アズサがロープから振動を送り返して照明をあげる合図をディザーに送った。ディザーのものであるトーチライトが左右に振られて返事が返ってくる。
「ラスハルト、一発目お願いします」
ラーンの言葉にクオレは、無言で銃を構えてトリガーを引く。一瞬の溜めの後、光がほとばしった。
流星の様に輝きが降り注ぎ、広い空間が再び目の前に現れる。暗闇の閉ざされた巨大な洞窟が夢ではなく、現実であることを私達に見せつけるように。その光の中、キラキラと光を乱反射する氷の橋の上にディザーの姿が確認出来て私は、思わず安堵のため息を漏らしていた。
それから急いで周辺を伺い、双眼鏡を当てて岸から地底湖の奥の方まで、異変が無いかどうかを伺う。
「……波?」
「どうした?」
咄嗟に口走った言葉にクオレが鋭く問いかけてくる。
「湖に波が立っている、様な気がする」
「間違いではありません、凍り付いた橋の状況を見てくださいラスハルト、波が少し高くなって来ている事を確かにディザーは凍り付かせて証拠として残しています」
「魔法の衝撃じゃないのか?」
「いえ、違います。衝撃はありません、氷冷魔法は空気の流れを二次的な作用で生み出す事はありますが基本的には無風の……」
照明が暗くなっていく。それでも……状況はよく見えたはずだ。
アズサが命綱のロープをしっかりと握り込んだ。ディザーは状況を前線で見ているからよく分っている、すでにこちらに振り返って居た。
指示を待っているんだ。
クオレが一歩前に踏み出して叫ぶ、その声は……彼の所まで届くのだろうか。
戻れ、ディザー!
その叫び声と重ならないように間髪入れず、アズサも大声で同じ事を繰返す。
薄暗く光が、消えそうになる。その中ディザーが身を翻したのが確かに見えた。
「ラスハルト、もう一度照明を!」
ラーンが言い終わる前にもクオレはライティングの魔法銃を放っていた。しかし、光が弱い……?
「魔力が切れた、」
悪態をついて古式銃を投げ捨てるクオレ、即座その手でアズサが握っているロープを手にとって指示。
「照明弾だ、」
「了解!」
命綱の持ち手を替わり、即座アズサが用意していた火薬式の照明弾の筒を湖の上に構えた。
火薬の燃える匂いとっしょに鈍い音が響いてひゅるひゅると空気を裂いて飛んでいく。魔法銃とは違う。
そのまま何かにぶつかった音がして光が炸裂する。
あ、しまった……気が付いた時には遅い。
光が強い、私は油断していてすっかり視界を奪われてしまっていた。そう、照明弾を直接目で見ちゃいけなかったのに、それくらいは基礎として教わる、実技の成績はあんまりよくなかったんだ、それをいい訳にはしてはいけないけれど……ライティングの光が照明弾のそれとは違っていたから、照明弾の時にはどうすればいいのか……その事をすっかり忘れていた。
他は、クオレ達は大丈夫だろうか?何よりディザーは……。
「刺激が強すぎましたか」
ラーンの悪態のような声が聞えた途端、水鉄砲に流された時のように誰かが私の体を抱きしめる感覚を感じる。
一瞬驚いて抵抗しようとしてしまって慌てて止めた。
「手帳を出せるか?」
至近距離で聞えるその声はやはり、クオレのものだ。私が驚いた事を察しているように優しい声色で、私は真っ白く濁った視界の中手探りで背負っていた荷物の中から手帳を取り出した。でも、これをどうするのだろう?
「手放すな、腹に抱えてしっかり抱きかかえていろ」
「クオレ、私、視界が、」
「すまない、先に警告するべきだった」
その断りの声と一緒に遠くから、何かが迫ってくる音が耳に届く。視界が遮られた事に感覚が支配されていた。
氷が砕ける音、そして……激しい水音。
地底洞窟に今まで、なかった音だ。
「ディザー!」
視界が焼かれて流れる涙を必死に拭いながら、左手でしっかりと手帳を抱きかかえ私は、思わず彼の名前を叫んでいた。
強い圧迫感、空気が押し潰されるような感覚に思わず開いていた口を閉じる。頬に掛る水飛沫、足下を掬う流れがどんどん上がって来てバランスを奪われる。クオレが私の体を支えてくれているおかげで何とか立っていられた。
「何?どうしたの!?」
白濁した視界がもどかしい、全てが音と、感覚だけ起きていて私には何が起こっているのか全く分からない。それも怖いけれど、みんながどうなってしまったのかの方が心配だった。
「ラーン、凍らせてもいいんだよな!」
ディザーの声だ。
まだ視力は回復しない、でも確かに今ディザーの声が聞えた。
必死に目を拭う。ぼんやりと光が戻ってくる、すでに照明弾の光は弱くなってきていていたけれど……地底湖が溢れて、巨大な波がこちらに押し迫ってくる様子はぼんやりと理解出来た。
紫色のものが空中を翻ったのを捉える。黄色い警告色の入ったD3Sの制服だ。
「イン、ユースを支えておいてくれ」
何時の間にやらすっかりクオレにしがみついていたのに気が付いて私は慌てて手放す、その途端足下を流れる水にバランスを崩した所ラーンに支えて貰った。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ、いいのですよ」
おとなしくラーンの腕にしがみついて私は改めて状況を見る。
氷だ、氷の柱が目の前に立っている。それはディザーが渡した氷の橋がひっくり返ったものであるらしい。その氷の柱のでっぱりに足を掛け、器用にもディザーが空中を跳んでいるのが確かに見えた。
「身軽ですねぇ、彼」
身体能力がS評価、っていうのは……本当みたいだね。
彼が空中を跳び回る間にいつの間にか、アズサが低く身構えて、背負っている巨大な剣を両手に握り振り回している。
氷の柱に叩き付けて大雑把に砕いている?いや、そんな事出来るものなのかと思う反面確かにそう云う事実が目の前にある。
水飛沫を上げて氷の固まりが落ちてくる。ディザーは、そうやってアズサが砕いた氷をまるで一定の場所に蹴飛ばすように足場として跳び回ってる。
サーカスでも見ているような気分だ。
「ディザー、上だ!」
クオレの鋭い声にディザーは空中でくるりと一回転し、迫ってきていた奇妙な動きをする水にISE武具を握る手を付き出した。
ディザーが発したスペルとともに迫ってきていた水の腕が凍り付く、凍り付いた根本からヒビが入ってぼろりと、氷の塊が入り落ちて来た。私たちの真上の出来事だ、この場を逃げなければと思うけど私は、ラーンも含めて身動きが取れないんだ。足元水の流れに引きずり込まれるのに抵抗するに必死で、お互いで支え合ってかろうじて立っている。
茫然とせまってくる氷の塊を見ていた。
そこに飛び込んでくる青白い光。
クオレだ、クオレの背負う剣が落ちてくる氷の塊を捉えて真っ二つにしてしまった。その事実に、開いていた口がふさがらない。
そのままクオレはディザーとアズサが作った氷の不安定な足場で着地し、再び剣を振りかぶって跳ぶ。
バラバラと降り注いでくる氷の固まりを剣で粉砕しながら吹き飛ばし、その隙間を塗って襲いかかってくる水、迫り来る波の向こうから無制限に伸びてくる『水の腕』を大雑把に剣の一振りで切り飛ばしてしまった。
水の腕、あれはスライムみたいだ。
予想した通り……地底湖のそこには巨大なスライムが蓋をしていた?
それが氷冷魔法に過剰反応して防衛運動を起している……私達に襲い掛かってきたのか…!
もうとっくに掬われていてもおかしくない巨大な波がそのまま、そこにそそり立って視界を塞いでいた。水じゃない、これは……巨大なスライムそのもの。
青い巨大な膜がすっかり私達を覆っているのを確認する。ううん、もうとっくに私達は波に『攫われて』いるんだ。
アズサが放った照明弾がまだ生きている、明るい光が青いスライムの壁越しにぼんやりと見えた。
急速に足下を流れていた水が引く、その力はすさまじくてラーンと一緒にすっかり足を掬われて引きずり込まれた私だったけど、アズサが切り落としていた氷の固まりがそこかしこに落ちているお陰で湖の奥まで引っ張り込まれる事をなんとか凌ぐ。
引き倒されていた所必死に立上がるも今度は、頭上から覆い被さってくる巨大スライムの壁がゆるゆると迫ってくる。
もうもうと白い煙のようなものが立上がっていて視界を奪おうとする、変な匂いだ。
「このままじゃ喰われちまう!」
身軽に私の隣にディザーが着地し、魔法を放つ許可を求めるようにディザーはラーンに言った。
「いっそ喰われてしまいましょう」
「おい、冗談だろ?」
「伸ばされてくる触手を幾ら凍らせても埒があきません、地底に続くトンネルはどうせ、スライム越しに彫み込む予定だったんですし」
武器を構え狭まってくる壁に合わせアズサとクオレも身を寄せてきた。
突然再び空気が圧縮されるような威圧がある。風が吹き抜けた、壁が一気に迫ってくる。
驚いて目を閉じるも……何ともない?
恐る恐る目を開けると青い壁がすぐそこにあるけれどそこで止まってる。
「どうなってるんだ?」
「お守り効果、ですよ」
にやりと笑ってラーンは小さな結界石を取り出した。
「三点結界です」
三点結界、それは……結界石を使った強力な障壁魔法の事だ。
結界石自体はやっぱり魔法を封入したものだけど、これを複数使って特定のフォーミュラを描く事で別の強力な魔法を発動させる事が出来る、と言う技術は……聞いた事がある、けど……。
結構、発動条件がシビアだったと思うんだけどな?ああ、これは私には多分関係のない、使う見込みは無い技術だと思って、それ以上資料を読むのを止めた記憶がある。
「何を不思議な顔をしてますか、ユース、貴方のその手帳のお陰ですよ」
「え、これ?」
「ちゃんとしたマッパー用の手帳です、その手帳自体に魔除け魔法が掛っているのをご存じないのですか?」
「え?これに?し、知らない、知らなかった!」
必死に抱えていた手帳は今、ぼんやりと縁が発光しているのが見て取れる。
「た、確かにちゃんとした上級者の手帳にはそれ自体に魔除け効果が付加されている、とは聞いた事があるけれど……私、そんな上等な手帳は持ってないよ」
ラーン、すると無言でクオレを見た。クオレは剣を背に背負い直しながら小さく鼻で笑う。
「俺達のマッパーだ、彼女の仕事は報われるべきだろう」
「え?」
どういう意味だろう?ラーンが微笑んで私に振り返る。
「ユース、扉を開いてご覧なさい」
そう言われ、私は慌てて手帳のホックを外して扉を開いてみた。そこには見慣れない青いシートが挟み込まれている。
うっすらと判読不明なウィザードの『フォーミュラ』表記が見いだせた。
「これ……は?」
「俺の手帳の扉だ、お前がマッパーをするならその記録は、しっかりと残されるべきだからな。昨日のうちに挟み込んでおいた」
クオレの手帳の扉?って事は……これが手帳を保護する魔法の扉?
クオレはどう見ても『上級者』だ。手帳もそれなりのちゃんとしたものに違いない。自分の手帳から、魔法保護のページを私の手帳に移しておいてくれたんだ。
「いつの間に、」
「青シートとは恐れ入りましたね、流石と言った所ですかねラスハルト」
ラーンの言葉にクオレは何故かそっぽを向いてしまった。
「結界石には相性があります、この相性の組み合わせと特殊な作法によって様々な結界を展開出来る『場合がある』。……一部手帳に付加される魔除けはオールマイティ属性がありましてこれはその、全属性の穴を埋める特別なものです。おかげさまでこの通り」
ラーンも私の手帳に魔法加護シートが挟まれているの、分かってたからだよね。あるいはクオレがその手帳を持っている事を把握しての事かな。
三点結界、か。
丸く、押し迫ってきているスライムの壁を押しのけて空間を維持してくれている。
ん、でも三点なら……あ、そうか。
ディザーのポケットが片方、淡く光ってるのを見て私は顔を綻ばせていた。
その視線に気が付いたみたいにディザーは苦笑いして『家内安全』のお守りが入っているポケットを軽く叩く。
「最初っからそうだと教えてくれりゃいいのに」
「万が一の方法です、頼りにされて油断を招きたくなかったので」
いけしゃぁしゃぁと言いやがると、ディザーが悪態をつく隣で、アズサも深くため息を漏らした。
「全く……一瞬肝が冷えたわよ、あんたが余裕扱いてるから私も冷静になれたけど」
「その判断には感服しました」
「よし、じゃ今度こそ凍らせて……」
「待て、ヘタをすれば顫動して結界が崩れる」
そこを動くな、というクオレのジェスチャーにディザーは動きを止めた。
「この結界は強力だが、発動条件が厳しい。ヘタに結界触媒を動かせば即座崩れる可能性もあるだろう、あまり身動きはするな。……まだ結界は持つな?」
「もう暫くは問題ないでしょう」
「では暫く様子を見よう、」
まずこの巨大な壁はどんなスライムなのか、ラーンは蛋白質シートを丸めて投げて判断する事にしたけれど……無反応だね。
「結界の所為かな?」
「いえ、……ふむ、もしかして」
しばらく顎を差すって考えていたラーンはアズサにお願いして自分が背負う荷物の中から水筒を取り出すように言う。リュックの決まった所に水筒は入れる事になっているんだ。
ラーンは水筒を受け取るとそこから……熱い湯気を立てる液体をカップに取った。
匂いからして正体がすぐわかる、コーヒーだ。
「珈琲飲んでる場合じゃねぇだろ?」
当然の疑問をディザーが投げたけどラーンは無視して、少量のコーヒーを……足下に垂らす。
「うっ!」
奇妙な匂いが狭い空間に立ちこめた、コーヒーじゃない、少し立ち上った煙を吸い込むにちくちくする……酸だ。
ラーンは小さく頷いて残っていたコーヒーを飲み干し水筒を戻し、別の水筒を取り出して今度は、先ほど投げて無反応のままの淡泊シートの上に垂れるように水を、今度こそただの水を垂らした。
同じく嫌な匂いの煙とともに水は泡を立てて消え、水に触れた淡泊シートもそれと一緒に溶けた。
「なるほど」
そう言ってラーン、しゃがみこんであっさりと、スライムの壁に手を触れてみせる。
「おい……!」
「いえ、大丈夫です。触れても大丈夫、とはいえ長時間触れているのは危険でしょう、人の皮膚は汗を分泌する。どうやらこのスライム、水を介してでないと消化運動が出来ないようです。どういう仕組みなのかは理解しかねますが……」
「成る程、それで納得が行くな。トーチライトが取り込まれて消化されなかった、ロープが今もあんな風に漂っている理由が、な」
そう言ってクオレは真下を指さす。
目をこらす、青い光がぼんやりと見える。それは、最初に取り込まれてしまったトーチライトだ。ディザーが手に持っているトーチライトであたりを照らすと近くに、焼き切れたロープの切れ端が漂っているのを見つけ出す。
アズサが少し下がってとジェスチャーし、握ったままの両手剣を真っ直ぐ、スライムの壁に差込んだ。
「確かに……剣が腐食してる気配は無いわ」
「元来スライム種は金属は溶かせないものが多いですしねぇ」
ゆっくりとスライムを刺激しないように……そもそも痛覚なんか無いから斬撃は刺激にはならないのかもしれない。ゆっくりと大きな剣で切り開いていく。
開いた壁を手袋をした手で大きく広げて手を伸ばし、埋まり込んでいたロープをたぐり寄せる事が出来た。
ぼんやりと青い光が近づいてくる。
地底湖の底を調べる為にロープに結ばれ、水の中に沈めていたトーチライトの姿が見えて来る。プラスチックとセラミックのパーツで組み立てられているトーチはプラスチック部分に若干の腐食が見られる。あったはずの角がすっかりとれている。
辛うじて繋がっていた、ロープについても同じだ。
「すっかり溶かしてしまうつもりは無かったのか?」
照明度はレンズ面の僅かな溶解の所為か低くなったけれどまだ、十分に使える。巨大スライムに取り込まれながらも無事だったトーチライトを元の持ち主、ディザーなんだけど……に返しクオレはラーンを伺った。
と、彼は何かを手でこね回してる。
切り取った外壁、スライム……をラーンは手袋をしたまま丸めて、捏ねてみているようだ。
「だ、大丈夫?」
「ええ、今の所。……ゲル状ですね、ペタペタしますが水分分泌は見られません、おかげさまで僕らは解かされずに済んでいますが、一応サンプルに持って帰りましょう」
何故かディザーが安堵のため息を漏らした。
「どうしたの?」
「ん、ああ……喰おう、とか言うんじゃないかと思って」
「食べたら口の中で大惨事になりますよ、多分」
「え?あ……そ、そうか」
全くディザー君はおバカですねぇ、とかなんとか。二人が軽く言い合うのに私の緊張は漸く解けた気がした。軽くため息が漏れて、強ばっていた肩を下す。
「インテラール、なぜトーチライトやロープはそのまま溶けずに済んだのだろう?あのままどこまで落ちていくつもりだったのか」
「私達もその真っ最中です」
三点結界のお陰で壁に、完全に取り込まれてしまう事は免れているけれど。どうにもどんどん地底湖の底の方に沈んで行っている気がする。
「このまま、どこに運ばれていくのでしょう」
やっぱり私の気のせい、じゃないんだね。
「それはそうと、こいつを倒すんじゃなかったのか?」
ディザーはISE武具をまだ手に握ったままで、ぷるぷると震えている壁を指さした。
「そうしたい所だが、無闇にまた冷気を吹き付ければこっちはもみくちゃにされるだろう?」
「弱点を探しているのよ、ようするに核ね、こいつは明らかにプティング系のスライムとはいえここまで大きいとなると別の特徴を備えているって考えた方が妥当だわ」
アズサの言葉にラーンもその通り、と深く頷いている。
「プティング系は増殖する為に自らの設計図となる遺伝子を格納する核を一つ持っているはず。魔物とはいえスライムはそこまで特出して理解の及ばない構造をしている生命体ではない。だからこそ、研究・愛好者も多い」
そうかなぁ、確かに魔物の中にはどうやって増殖するのか物理生命学的に全く理解出来ないような種もいるというけれど、スライム愛好家が多いのってそういうのも理由の一つなんだろうか?
「核、ね。こんだけデカいんだから核もデカいんじゃねーの?」
「いや、そうである必要性は無い。遺伝子による異常による倍数体だというのなら比例して核も大きくなるだろうが、これは魔種だ。弱点となる核が比例して大いだろうとういうのは希望的観測にすぎんだろうな」
少し、絶望気味なクオレの言葉にラーンとアズサも同調してる……って事は。
弱点となる核が……見つけられない?
確かにこのスライムの中、湖程ではないけれどある程度透明度はある。おかげで周りを見渡せるけれど、奥に行くにつれ四方八方青い闇があるばかりで何か異質な物体は見いだせない。
大体、光をこちら側から照射しても途中で青く濁ってしまう。
「こちらの位置を調べる機器も役に立ちません、」
GPS機能を搭載した携帯電話機器をラーンが取り出してお手上げと振っている。
「おいおい、このまま地底湖の底にたどり着いてそれで、何もなかったらどうするんだ!」
「その時は何がなんでもスライムを退治して脱出を試みる事にしましょう」
「アズサ、いいのかよそれで!」
「だってしょうがないでしょ、この状況だもの。とりあえず地に足を着けないと戦えないわ、私達が今どれだけ不利なのかあんたは分かってない」
そう言ってアズサはディザーの頬を軽く叩いた。ディザーは腑に落ちない様子でラーンから貰った魔法武器を突き出す。
「これがあれば地面でもなんでも凍らせて、足場なんて作れるだろ?」
「柄尻にある宝玉をご覧なさい」
ラーンの言葉にディザーは、握り込んでいたナイフを左手でつまみ上げる。
小さなナイフの柄尻に小さな青い玉が嵌っているんだ。
「そこに魔力が込められています。魔力というものはあらゆる物質や生命体に元来備わるものですが、物質である場合振る舞いは少し異なる事情をご存じでしょう?」
「振る舞いが、異なる?」
必須科目かと思いましたが、知りませんか?というラーンの言葉にディザーは救いを求めるみたいに私の方を向く。もう、しょうがないな。
「宝石や希少金属にも魔力が含まれている場合があるんだよ、あるいは古い道具に魔力が宿っている場合もある。それは、長い間に人や他の者との接触によって物質が魔力を蓄積させる特徴があるから」
「あ、ああ!そうそう、物質の場合魔力は消費すると失われちまうんだったな!そ、そうか……氷冷魔法を使うにも限度はあるって言いたい訳か?」
「ええ。確かにこの局面、使えば有利でしょうが元来それら魔法道具が高価で取引されている理由をよく考えてください。本当に使うべき時に使うのが一番良い。売り払うにしても、魔力は残存していた方が高くなりますしね」
「う、そ、そんな使用するに迷うような事言うなよ」
その時、さっと影が差すように暗くなった気がして私達は辺りを見回していた。
何が起きていたのかはすぐに判明する。右手側面に黒い影が見えてきたんだ。
「これは?」
「洞窟の壁、ですね……大分下の方まで沈んで来たようです。残念ながら今私達が地図のどのあたりにいるのか、スライム任せにしてしまったのでよく分かりませんが」
そうこうしているうちに暗い影は四方八方から迫ってくる。
「どこか、深い縦穴に落ちているのか?」
「かもしれません」
ラーンは地図を取り出してどの縦穴でしょうかと指で差している。ディザーが必死に辺りを見回し、僅かな地形の差を見逃さないように鋭い視線を配った。
「一番深い所に潜ってんじゃねぇか?地図でここまで垂直に縦穴なの、そんなに無かったはずだろ?」
それならかなり絞り込まれますね、そういってラーンが示す地図の様子を私は見ていたけれど……その隣で、クオレが無言で口を開け、呆然と地図とは違う所を見ているのに気が付いた。
恐る恐るそちらに目をやる。
それは、私達の真下。
とたん、異質な光が私の網膜を焼き痛みとは違う、不思議な感覚が脳天を突き抜ける。
ようやく私とクオレの様子にきがついたようにラーンが顔を上げた。
「どうしました?」
「イン……下だ、あれは何だ?」
クオレの、絞り出したような言葉に全員が足元を見たと思う。
そして、あの不思議な光に目をやられ、意識を焼かれ……その何ともないはずの光景に全ての感覚が持って行かれる。
「吸い、こまれるような感覚、だ、」
クオレが必死に抗う声が遠くに歪む。
吸い込んでいるはずの空気が途端薄くなったように感じられ意識が遠退いた。
眠い。
足を支える力が急激に抜けて、不安定な床に私はへたり込んでしまっていた。みんな同じような感覚と戦っていたのかもしれない、ディザーが、ラーンが、遅れてアズサとクオレも同じく膝を突き、強い圧迫感に立っていられなくて必死に頭を支えている。
「強烈です……ね、悪い感覚ではないのですが」
いつの間にか手に持っている、小さなピンを自らの掌に突き刺してラーンが一時的に意識を取り戻した様子を私は見ていた。
ぼんやりと、霞が掛ったような視界の奥に。
夢を見ているみたいだ。
まるで全ては現実ではないみたいにぼんやりと、地に足を着けず感覚は麻痺し、そうやってふわふわ浮いているようなこの状況はとてつもなく、気持ちが良い。
ディザーが落ちた、頭から倒れ込んだのをアズサが必死に抱え起しているがそのまま、スライムの壁に寄りかかる。
「このまま意識が無くなったら……」
まずい、というアズサの言葉は聞えなかった。
私の意識が瞬間途切れたからかもしれない。
なんとか自ら叩き起こした意識はそれでも朦朧としていて今がどういう状況なのかもよくわからなくなってくる。
突然方向感覚が失われた、いや、違う。
私達は落ちているんだ。
眠りを誘う気怠い感覚の中、それは一種衝撃として私達の意識をほんの少し覚醒させる。
青白い光を反射して返す、大きな剣が私達の行き先を示している。
クオレだ、クオレの背負うあの剣が足下に突き立てられ、やわらかいであろうスライムのゼラチン状の部分に切り込みを入れ、私達は私達の重さでその切り込みに向かってずりおちていく。
届け、
そのようにクオレが叫んだ声が遠くに聞えたような気がする。
届け、それは多分……あの怪しくも優しい光を放つ、長方形の扉の場所まで。
白く光る……?あれは、光っているのだろうか?
そういう疑問がわずかに脳裏に浮かぶが、その不思議な『光を遮る』不定形の影が突然躍り出て来た様な気がする。丸く、何か異質な雰囲気を感じる小さなものに確かに……青白く発光する長剣が届き、真っ二つに引き裂いたのを見ていた。
見ていたと思う。
よくわからない……見たと思ったその景色は夢だったのか、現実なのか。
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