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1章 REM SLEEP革命 『望んで迷い込む作法と方法』
書の2 使用上の注意書き『よく読んで用法をお守りください』
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■書の2■ 使用上の注意書き direcions
「まだ全然試作機だからさぁ、こう、電源入れてから現れるテロップって言うの?全然出来てないわけね」
なんだか軽い口調のおねぇさんが……何もない部屋で待つように言われた俺達に、ガイダンスを始めるとかなんとか言って一人、現れた。
「このゲーム機は色々と斬新なのよ。だから、実は使用上の注意ってのが結構大事だったりするのよね」
「でも、取り説は読ませてくれませんでしたよ?結局」
「ああ、それはね」
手をヒラヒラと振って、軽いおねぇさんはケタケタと笑う。
「出来てないだけ」
「やはり」
と、レッド、だったな。黒髪のスカした眼鏡野郎が小さく呟いたのを俺は、聞いてしまった。
何がやはりだ。
本当に分かってたのかコイツ。
「てゆーかさ、俺達お互い自己紹介もしてないぜ?」
テリーが両手をポケットに突っ込んで斜に構えている。
そーだ、そうだよ。それくらい先にさせろって。この界隈は広い様で狭いから大体知ってるメンツってのは確かだけどさ。
「いーのいーの、後でやるから」
「後で?」
「だってどーせあんた達、コンピューターゲーマーでしょ?生の顔合わせての自己紹介なんてしなくていーの。仮想現実の方が重要なの、解かる?」
「はぁ」
流石の阿部瑠も、このおねいさんのテンションにはちょっと押され気味だな。
「あたしらがここに呼んでるのは、むしろそっちの仮想の方なの」
「よく分からないな」
チチもデカいが背も相当にデカかった女が、やはりぶっきらぼうに呟いている。
「まとにかく、私の説明を何が何でも聞いて頂戴」
何が何でも、とは。
「いいか、耳ィかっぽじってよくお聞き」
おねいさんは、なぜか姉御調に言い直した。
益々訳分からんが、個人的には姐さんキャラは萌える。
「まず、このゲーム機は、連続最高4時間しか使用できません」
「4時間」
なぜか声がいくつかハモってしまった。
俺も、含む。
……4時間、だと?
4時間じゃぁ……ゲーム種類によっては最短攻略できるか、出来ないか位の微妙な時間だな。
ゲーマーにはたった4時間、と鼻で笑えるプレイ時間であると言える。
いや、今時ゲーム機は機動するたびに一時間置きに休息を入れましょう、などとご親切にも忠告してくれるが……。守ってる奴の方が珍しいだろ。
確かに、守った方が色々と守られるのかもしれないが……視力とか、な。
眼鏡率の高さに、俺はそんな事を思った。
何しろ阿部瑠は裸眼に見せ掛けて、コンタクトだ。友人である彼女も同じく、と聞いた事がある。ナッツはゲームする時は掛ける遠視だし、俺もお世辞にも視力は良い方ではない。
見た所裸眼だと断言できそうなのはテリーくらいじゃないか?童顔のあいつもメガネだ。背の高いチチデカ女は……今は掛けてないが、よく分からない。
「4時間を越えるとどうなるんですか?」
『今は試作機やからねー』
と、言葉のイントネーションが異なる声がする。
見上げるとそこにスピーカー付きのモニターがあった。他は分からないが、少なくとも俺はその設備に全く気が付いてなかったのでちょっと驚く。
『4時間運用まで制限伸ばしとーけどー、実際売りモンにすぅなら2時間から3時間程度ってとこやね』
恐らく、これは京都弁いや、大阪?どっちだ?
エセっぽくてよく分からん。
「それ以上には、引き伸ばせない?」
『てゆーか無理やわね』
「んだね」
と、目の前のリアルな方のおねいさんが深く頷いた。
いやまてそのイントネーションもおかしい。どこのクニの言葉だそれ。
「……理由はやはり、やってみれば解かると言う事でしょうか」
童顔の推定学生がモニターを見上げて聞いた。
『まぁ、リョーの説明よく聞きなはってや。あたしはバックアップやねん、教育係なんよ』
「えと、このリョウさんの?」
「佐々木亮だ、上のはあたしの直上司の伊藤早苗センパイ」
リョウさんは男らしく腕を組み、足を肩幅に開き、あ……なんかカッコイイなこの人……などという俺の妄想は置いといて!
少し険しい顔で俺達に言葉を続けた。
「4時間、それが経過したら何が何でも電源が切れる仕組みになってるわ、もちろん電源が後どれ位で切れるか、アラーム設定が出来る。いきなりブチッ!とかいう、昔の携帯ゲームみたいなハメにはならなくてよ」
「絶対に、継続できないんだ……」
「そう、これをまず絶対的に了承させないといけないのが、この新型の一つ重要な所ね。同時に、ネックでもあったりするけど……」
『リョー、まずそれは説明せんでいいー』
「はい、了解であります」
なぜかリョウお姐さんは頭上のモニターに敬礼する。
あ、この人。こっち側の人だ。
「で、申し訳ないのだけど皆には、限界値の4時間連続で機動してもらいたいのよ」
「いや、それは別に申し訳無くはないんじゃ?」
と、俺は口に出す。
4時間ゲーム出来る、って事だろ?悪い出来のゲームなら地獄だろうが……正直、期待しているんだ。
「4時間が最高限度、と規定しているのにギリギリやらせるって事なのよ?こちらとしては、本当は勧めたくない事なの」
「逆に言うと、4時間立たないとゲームを止められないとか?」
「いいえ、途中で止める事はできるわ。ただこの新型は、ゲームを始める前に機動できる時間がある程度決まってしまい、途中で止める事は出来ても引き伸ばせるケースは非常に稀なの」
それはなんだか、なぞなぞを出されている気分だな。
出来る時間が決まってしまい、途中で止める事は出来ても、プレイできる時間を引き延ばす事は出来ない、とは。
「具体的にはどういう作業になるのでしょう」
レッドが冷静に聞いた。
リョウ姐さん、と勝手に脳内で呼ばせてもらおう。姐さんはなぜか満足そうに頷いている。
「レッド君、聞いてくるポイントが違うわね」
ぬう、推定ライバルが早くも誉められているッ!
ちょっとした焦りを感じつつ、姐さんに振り返ると手を振り解いてなぜか唐突に、人差し指を突き出した。
「その前に一人、決めないといけないの」
……なんだか前フリが唐突だなぁ、姐さん。結構、いっぱいいっぱい?
「あなた達はMFCをプレイする権利があるわ。だけど、どうしても一人バックアップに残って欲しい」
「それは、つまり」
「MFCに触れないポジションか?」
一同、困った風に顔を見合わせる中、一人頷いて顔を上げる童顔推定学生。
「それは、僕でいいんじゃぁないですか?」
「ええッ、お前、いいのかよ!」
「僕は多分、その為にここに来ているのです」
にっこり推定学生は微笑んだ。うう、いい笑顔だ。神々しい。
「メージン、貴方、……わかってたのね」
「はい、最初から大体は」
「……メージン?」
やはりこれもハモった。俺含む。
「メージンというとあの、」
いやいやいや、待てよ。メージンって言ったら……。
「僕はそもそも新型ハードにはあんまり興味無いですし、」
「メージンって、あの、メージンか!」
「はぁ、どの名人を指しているのは少々微妙ですが」
そこで明らかに学生、という雰囲気なメージンはやはりにっこりと微笑んだ。
「恐らく、そのメージンで合っているかと思います」
「うおおおお!ちょ、待て、サイン」
「あ、ずるい!あたしも!」
「サインって、お前等物欲激しすぎ。この場合まず握手だろ」
テリーがキザに決める。
あああ、握手だとこの野郎!ゲーマーズの神だぞ、恐れ多い!触れるなこのバカ!
「止めてください、何度も言うようですが、そういうのは周りが言い始めて担いでいるだけですよ」
「けど実際問題、あんたの攻略はスゲェし、いろいろとデモ映像なんか見させて貰ったが……」
「神、よね」
「そうでしょうか?」
メージンは首を傾げた。
いやしかし、あのメージンが学生だとは。いやまて、学生か?
確かに、ゲーマーの間で実しやかに『神』と呼ばれて敬われているこのメージンというハンドルネームは、ここ数年で現れた。学生である可能性は十分にある。
「……学生?」
「あ、はい」
衝撃だ。
恐らく、メージンを知る殆どは衝撃だったらしい。一人レッドだけが何ともない風にしている。
「こんな所で実際にお会いできるとは、光栄ですよ」
「こちらこそ、巷名を聞くみなさんとお会いできて僕も嬉しいです」
と、姐さんがパンと手を打ち鳴らし、俺達の注意をすぐに戻した。
「自己紹介は後で、って言ったでしょう。まぁ、あたしが名前呼んじゃったのが悪いみたいだけど」
はい、そうですね姐さん。
「じゃぁ、残るのはメージンでいい?」
「って待て、いいのかよメージン!」
「はい。僕はほら、最初に決まったでしょう?一番最初の公募枠、推薦で」
そういえば、そういう『始まり』だった事を思い出す。
「正直ちょっと嬉しかったけど、僕はその頃すでに昔のゲームに熱を上げていたからね、譲れるなら譲りたいと思っていたくらいだったんです。でも、折角選らんで貰ったのにそんな事は言えません。皆さんはMFCがやりたくてここに来たのでしょう?だったら、バックアップは僕がやりますよ。やらせてください」
「メージン……」
やっぱ、あんた神だよ。後光が見えるよ。
「それに、僕の作業も必要なものなのでしょう?」
「ええ、かなり重要よ。正直に言えば、貴方にやってもらえれば非常に助かるわ」
「それなりの技量が必要、というわけですか」
レッドが一人、うなずいている。
いや、奴もきっとメージンの噂される通りの人の良さに感激してるんだろう。きっとそうだ。
「じゃぁ、早速次ね」
リョウ姐さんはそう言って、一旦部屋を出た。その後すぐにカートを押して戻って来る。
水差しと、紙コップ。それに、錠剤、だな。
薬か。
レッドがそれを見て目を細めて何やら、呟いた。
「え?」
レッドのスカした顔が俺に振り返る。そういや今初めて目を合わせた。
「睡眠薬ですよ、ヤト」
「あ、俺の名前知ってるんだ」
そう……。
俺の名前は……ではなく。
俺のハンドルネームは、夜兎と書いてヤトと読む。
いやしかし顔を公開した憶えはない、確かにゲーセンには通ってるけど。
だが俺はレッドとか言うコイツと面識は無いはずだし、大体、
レッドというのは誰だ?
「僕は赤一号ですよ、お忘れですか?」
「……!それかッ!」
その名前になら覚えがある。こいつは……あれ?でも、どうもしっくり来ないな。
こいつは……あれ、だよな、確か相当の特撮オタクだったと思ったが……。
あれれ?記憶違い?
そんな俺の当惑を知ってかレッドは少しだけ笑った。
くそう、美形ってな絵に成るもんだな!
「僕の名前の由来は、特撮ヒーローのお約束に基づいていますが何か?」
と、首を傾げられてそう、その文句で自己紹介してきたチャットを思い出し、俺は相槌を打っていた。
「マジかよ、」
「どうしたの?」
と、阿部瑠。俺たちのやり取りは聞いていなかったらしい。
「レッド、でいいのか?」
「ええ、構いませんよ」
チャットでは、もっと破天荒でアツい奴だと思っていたが、こいつ……想像以上にクールだ。
「アベル、こいつ赤の一号だ」
「え、だからレッドだったの?」
「やっぱりそうでしたか、」
と、苦笑したのはナッツだ。
「なんだよナッツ、分かってんなら教えろって」
「いや、僕もチャットとのギャップがあったからちょっと確信は無くて……」
「アベルさんに、ナッツ……デイトさんですね」
「あ、流石赤一号さんですね、分かりますか」
ナッツは苦笑して、頭を掻いた。
「はいはい、おしゃべりそこまでー」
姐さんは再び手を叩き、俺たちの会話をぶったぎる。
自己紹介は後でするといわれても、正直気になる所なんだから仕方が無い。僅かな隙に、俺たちはそれぞれにお互いの正体を確認しあっていたりする。
「MFC参加者の皆さんは、こちらを服用してください。怪しいものではありません」
姐さん、怪しいと言われると余計、怪しく思えるもんですが。
しかし、レッドは睡眠薬だと言ったよな。
当たってるのか?
赤の一号の知識の量はマジで半端ねぇんだ。こいつは一種、ゲーム知識枠でこの場に居るのだろうが、そもそもゲームに限らず古今東西のあらゆる知識に精通している、というイメージがある。だから、多分レッドの推理は当たってるんじゃないかと俺は思うね。錠剤を見ただけでそれの種類を見抜いたんだろう。
赤一号は特撮オタクだが、同時にシミュレーションゲームとクイズ系でその系列には名が知れ渡っている傑物だ。俺やナッツ、阿部瑠が参加している某ネットゲームを介するチャットで、幾度か話し込んだ事があった。
特撮に限らず知識量で右に出る者が居ない。百科事典とか言われている奴である。
「なんでそんな物を飲む必要が、」
「企業秘密です」
チチデカ女の言葉に、姐さんはぶった切りの連続です。やべぇ、惚れそうだなその性格。
「MFCプレイヤーから、様々なデータを取るために必要、とだけ言っておきましょう」
「はぁ……そういえば、食事制限とかもありましたね」
『せやね、細かくデータが欲しいんよ』
サナエさんはモニターの中で笑っている。
「これを飲んだら早速だけどモニタールームに移動するわ。メージンは先にこちらへ」
姐さんが出てきた扉から、見慣れないメガネのおっさんが現れる。案内されるままメージンは出ていった。
「参加しないで自己紹介、できるのか?」
「安心して、さ、早く始めましょう」
姐さんは七つの紙コップに水を注ぎいれる。
そして錠剤を取り出して手を出しなさい、とにっこり微笑むのであった……。
飲まないと、やっぱダメ、なのね。
「まだ全然試作機だからさぁ、こう、電源入れてから現れるテロップって言うの?全然出来てないわけね」
なんだか軽い口調のおねぇさんが……何もない部屋で待つように言われた俺達に、ガイダンスを始めるとかなんとか言って一人、現れた。
「このゲーム機は色々と斬新なのよ。だから、実は使用上の注意ってのが結構大事だったりするのよね」
「でも、取り説は読ませてくれませんでしたよ?結局」
「ああ、それはね」
手をヒラヒラと振って、軽いおねぇさんはケタケタと笑う。
「出来てないだけ」
「やはり」
と、レッド、だったな。黒髪のスカした眼鏡野郎が小さく呟いたのを俺は、聞いてしまった。
何がやはりだ。
本当に分かってたのかコイツ。
「てゆーかさ、俺達お互い自己紹介もしてないぜ?」
テリーが両手をポケットに突っ込んで斜に構えている。
そーだ、そうだよ。それくらい先にさせろって。この界隈は広い様で狭いから大体知ってるメンツってのは確かだけどさ。
「いーのいーの、後でやるから」
「後で?」
「だってどーせあんた達、コンピューターゲーマーでしょ?生の顔合わせての自己紹介なんてしなくていーの。仮想現実の方が重要なの、解かる?」
「はぁ」
流石の阿部瑠も、このおねいさんのテンションにはちょっと押され気味だな。
「あたしらがここに呼んでるのは、むしろそっちの仮想の方なの」
「よく分からないな」
チチもデカいが背も相当にデカかった女が、やはりぶっきらぼうに呟いている。
「まとにかく、私の説明を何が何でも聞いて頂戴」
何が何でも、とは。
「いいか、耳ィかっぽじってよくお聞き」
おねいさんは、なぜか姉御調に言い直した。
益々訳分からんが、個人的には姐さんキャラは萌える。
「まず、このゲーム機は、連続最高4時間しか使用できません」
「4時間」
なぜか声がいくつかハモってしまった。
俺も、含む。
……4時間、だと?
4時間じゃぁ……ゲーム種類によっては最短攻略できるか、出来ないか位の微妙な時間だな。
ゲーマーにはたった4時間、と鼻で笑えるプレイ時間であると言える。
いや、今時ゲーム機は機動するたびに一時間置きに休息を入れましょう、などとご親切にも忠告してくれるが……。守ってる奴の方が珍しいだろ。
確かに、守った方が色々と守られるのかもしれないが……視力とか、な。
眼鏡率の高さに、俺はそんな事を思った。
何しろ阿部瑠は裸眼に見せ掛けて、コンタクトだ。友人である彼女も同じく、と聞いた事がある。ナッツはゲームする時は掛ける遠視だし、俺もお世辞にも視力は良い方ではない。
見た所裸眼だと断言できそうなのはテリーくらいじゃないか?童顔のあいつもメガネだ。背の高いチチデカ女は……今は掛けてないが、よく分からない。
「4時間を越えるとどうなるんですか?」
『今は試作機やからねー』
と、言葉のイントネーションが異なる声がする。
見上げるとそこにスピーカー付きのモニターがあった。他は分からないが、少なくとも俺はその設備に全く気が付いてなかったのでちょっと驚く。
『4時間運用まで制限伸ばしとーけどー、実際売りモンにすぅなら2時間から3時間程度ってとこやね』
恐らく、これは京都弁いや、大阪?どっちだ?
エセっぽくてよく分からん。
「それ以上には、引き伸ばせない?」
『てゆーか無理やわね』
「んだね」
と、目の前のリアルな方のおねいさんが深く頷いた。
いやまてそのイントネーションもおかしい。どこのクニの言葉だそれ。
「……理由はやはり、やってみれば解かると言う事でしょうか」
童顔の推定学生がモニターを見上げて聞いた。
『まぁ、リョーの説明よく聞きなはってや。あたしはバックアップやねん、教育係なんよ』
「えと、このリョウさんの?」
「佐々木亮だ、上のはあたしの直上司の伊藤早苗センパイ」
リョウさんは男らしく腕を組み、足を肩幅に開き、あ……なんかカッコイイなこの人……などという俺の妄想は置いといて!
少し険しい顔で俺達に言葉を続けた。
「4時間、それが経過したら何が何でも電源が切れる仕組みになってるわ、もちろん電源が後どれ位で切れるか、アラーム設定が出来る。いきなりブチッ!とかいう、昔の携帯ゲームみたいなハメにはならなくてよ」
「絶対に、継続できないんだ……」
「そう、これをまず絶対的に了承させないといけないのが、この新型の一つ重要な所ね。同時に、ネックでもあったりするけど……」
『リョー、まずそれは説明せんでいいー』
「はい、了解であります」
なぜかリョウお姐さんは頭上のモニターに敬礼する。
あ、この人。こっち側の人だ。
「で、申し訳ないのだけど皆には、限界値の4時間連続で機動してもらいたいのよ」
「いや、それは別に申し訳無くはないんじゃ?」
と、俺は口に出す。
4時間ゲーム出来る、って事だろ?悪い出来のゲームなら地獄だろうが……正直、期待しているんだ。
「4時間が最高限度、と規定しているのにギリギリやらせるって事なのよ?こちらとしては、本当は勧めたくない事なの」
「逆に言うと、4時間立たないとゲームを止められないとか?」
「いいえ、途中で止める事はできるわ。ただこの新型は、ゲームを始める前に機動できる時間がある程度決まってしまい、途中で止める事は出来ても引き伸ばせるケースは非常に稀なの」
それはなんだか、なぞなぞを出されている気分だな。
出来る時間が決まってしまい、途中で止める事は出来ても、プレイできる時間を引き延ばす事は出来ない、とは。
「具体的にはどういう作業になるのでしょう」
レッドが冷静に聞いた。
リョウ姐さん、と勝手に脳内で呼ばせてもらおう。姐さんはなぜか満足そうに頷いている。
「レッド君、聞いてくるポイントが違うわね」
ぬう、推定ライバルが早くも誉められているッ!
ちょっとした焦りを感じつつ、姐さんに振り返ると手を振り解いてなぜか唐突に、人差し指を突き出した。
「その前に一人、決めないといけないの」
……なんだか前フリが唐突だなぁ、姐さん。結構、いっぱいいっぱい?
「あなた達はMFCをプレイする権利があるわ。だけど、どうしても一人バックアップに残って欲しい」
「それは、つまり」
「MFCに触れないポジションか?」
一同、困った風に顔を見合わせる中、一人頷いて顔を上げる童顔推定学生。
「それは、僕でいいんじゃぁないですか?」
「ええッ、お前、いいのかよ!」
「僕は多分、その為にここに来ているのです」
にっこり推定学生は微笑んだ。うう、いい笑顔だ。神々しい。
「メージン、貴方、……わかってたのね」
「はい、最初から大体は」
「……メージン?」
やはりこれもハモった。俺含む。
「メージンというとあの、」
いやいやいや、待てよ。メージンって言ったら……。
「僕はそもそも新型ハードにはあんまり興味無いですし、」
「メージンって、あの、メージンか!」
「はぁ、どの名人を指しているのは少々微妙ですが」
そこで明らかに学生、という雰囲気なメージンはやはりにっこりと微笑んだ。
「恐らく、そのメージンで合っているかと思います」
「うおおおお!ちょ、待て、サイン」
「あ、ずるい!あたしも!」
「サインって、お前等物欲激しすぎ。この場合まず握手だろ」
テリーがキザに決める。
あああ、握手だとこの野郎!ゲーマーズの神だぞ、恐れ多い!触れるなこのバカ!
「止めてください、何度も言うようですが、そういうのは周りが言い始めて担いでいるだけですよ」
「けど実際問題、あんたの攻略はスゲェし、いろいろとデモ映像なんか見させて貰ったが……」
「神、よね」
「そうでしょうか?」
メージンは首を傾げた。
いやしかし、あのメージンが学生だとは。いやまて、学生か?
確かに、ゲーマーの間で実しやかに『神』と呼ばれて敬われているこのメージンというハンドルネームは、ここ数年で現れた。学生である可能性は十分にある。
「……学生?」
「あ、はい」
衝撃だ。
恐らく、メージンを知る殆どは衝撃だったらしい。一人レッドだけが何ともない風にしている。
「こんな所で実際にお会いできるとは、光栄ですよ」
「こちらこそ、巷名を聞くみなさんとお会いできて僕も嬉しいです」
と、姐さんがパンと手を打ち鳴らし、俺達の注意をすぐに戻した。
「自己紹介は後で、って言ったでしょう。まぁ、あたしが名前呼んじゃったのが悪いみたいだけど」
はい、そうですね姐さん。
「じゃぁ、残るのはメージンでいい?」
「って待て、いいのかよメージン!」
「はい。僕はほら、最初に決まったでしょう?一番最初の公募枠、推薦で」
そういえば、そういう『始まり』だった事を思い出す。
「正直ちょっと嬉しかったけど、僕はその頃すでに昔のゲームに熱を上げていたからね、譲れるなら譲りたいと思っていたくらいだったんです。でも、折角選らんで貰ったのにそんな事は言えません。皆さんはMFCがやりたくてここに来たのでしょう?だったら、バックアップは僕がやりますよ。やらせてください」
「メージン……」
やっぱ、あんた神だよ。後光が見えるよ。
「それに、僕の作業も必要なものなのでしょう?」
「ええ、かなり重要よ。正直に言えば、貴方にやってもらえれば非常に助かるわ」
「それなりの技量が必要、というわけですか」
レッドが一人、うなずいている。
いや、奴もきっとメージンの噂される通りの人の良さに感激してるんだろう。きっとそうだ。
「じゃぁ、早速次ね」
リョウ姐さんはそう言って、一旦部屋を出た。その後すぐにカートを押して戻って来る。
水差しと、紙コップ。それに、錠剤、だな。
薬か。
レッドがそれを見て目を細めて何やら、呟いた。
「え?」
レッドのスカした顔が俺に振り返る。そういや今初めて目を合わせた。
「睡眠薬ですよ、ヤト」
「あ、俺の名前知ってるんだ」
そう……。
俺の名前は……ではなく。
俺のハンドルネームは、夜兎と書いてヤトと読む。
いやしかし顔を公開した憶えはない、確かにゲーセンには通ってるけど。
だが俺はレッドとか言うコイツと面識は無いはずだし、大体、
レッドというのは誰だ?
「僕は赤一号ですよ、お忘れですか?」
「……!それかッ!」
その名前になら覚えがある。こいつは……あれ?でも、どうもしっくり来ないな。
こいつは……あれ、だよな、確か相当の特撮オタクだったと思ったが……。
あれれ?記憶違い?
そんな俺の当惑を知ってかレッドは少しだけ笑った。
くそう、美形ってな絵に成るもんだな!
「僕の名前の由来は、特撮ヒーローのお約束に基づいていますが何か?」
と、首を傾げられてそう、その文句で自己紹介してきたチャットを思い出し、俺は相槌を打っていた。
「マジかよ、」
「どうしたの?」
と、阿部瑠。俺たちのやり取りは聞いていなかったらしい。
「レッド、でいいのか?」
「ええ、構いませんよ」
チャットでは、もっと破天荒でアツい奴だと思っていたが、こいつ……想像以上にクールだ。
「アベル、こいつ赤の一号だ」
「え、だからレッドだったの?」
「やっぱりそうでしたか、」
と、苦笑したのはナッツだ。
「なんだよナッツ、分かってんなら教えろって」
「いや、僕もチャットとのギャップがあったからちょっと確信は無くて……」
「アベルさんに、ナッツ……デイトさんですね」
「あ、流石赤一号さんですね、分かりますか」
ナッツは苦笑して、頭を掻いた。
「はいはい、おしゃべりそこまでー」
姐さんは再び手を叩き、俺たちの会話をぶったぎる。
自己紹介は後でするといわれても、正直気になる所なんだから仕方が無い。僅かな隙に、俺たちはそれぞれにお互いの正体を確認しあっていたりする。
「MFC参加者の皆さんは、こちらを服用してください。怪しいものではありません」
姐さん、怪しいと言われると余計、怪しく思えるもんですが。
しかし、レッドは睡眠薬だと言ったよな。
当たってるのか?
赤の一号の知識の量はマジで半端ねぇんだ。こいつは一種、ゲーム知識枠でこの場に居るのだろうが、そもそもゲームに限らず古今東西のあらゆる知識に精通している、というイメージがある。だから、多分レッドの推理は当たってるんじゃないかと俺は思うね。錠剤を見ただけでそれの種類を見抜いたんだろう。
赤一号は特撮オタクだが、同時にシミュレーションゲームとクイズ系でその系列には名が知れ渡っている傑物だ。俺やナッツ、阿部瑠が参加している某ネットゲームを介するチャットで、幾度か話し込んだ事があった。
特撮に限らず知識量で右に出る者が居ない。百科事典とか言われている奴である。
「なんでそんな物を飲む必要が、」
「企業秘密です」
チチデカ女の言葉に、姐さんはぶった切りの連続です。やべぇ、惚れそうだなその性格。
「MFCプレイヤーから、様々なデータを取るために必要、とだけ言っておきましょう」
「はぁ……そういえば、食事制限とかもありましたね」
『せやね、細かくデータが欲しいんよ』
サナエさんはモニターの中で笑っている。
「これを飲んだら早速だけどモニタールームに移動するわ。メージンは先にこちらへ」
姐さんが出てきた扉から、見慣れないメガネのおっさんが現れる。案内されるままメージンは出ていった。
「参加しないで自己紹介、できるのか?」
「安心して、さ、早く始めましょう」
姐さんは七つの紙コップに水を注ぎいれる。
そして錠剤を取り出して手を出しなさい、とにっこり微笑むのであった……。
飲まないと、やっぱダメ、なのね。
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