異世界創造NOSYUYO トビラ

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1章 REM SLEEP革命 『望んで迷い込む作法と方法』

書の3 近未来の街角で『当然ですがやりたいから申し込んでます』

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■書の3■ 近未来の街角で coming on the street

 コンピューターゲームの歴史は深い。
 ゲーム自体の歴史はもっと深い。
 ところがこのコンピューターゲームと一口に言ったって、種類は様々だ。

 俺が言ってるコンピューターゲームというのは、専用のゲーム機(ハード)に、そこで走らせるゲームのソフトという形式の、コンピューターゲーム。
 パソコンというのは、何もゲームするためにあるもんじゃない。計算したり、ネットしたり、様々な事をするための電子機器だが、時代にはゲームソフトを動かすだけのゲーム専用電子機器というものが存在した。今はそういうハードに対するソフトの総称はアプリケーション、って名前に成ってたりもするな。

 ゲーム専用機ってのはもはや古いもんで、ゲーム以外にも音楽聴いたり映像を再生できたり、ネットが出来るのもあるし、様々な付属機能がついているのがやや、当たり前な時代だな。
 ゲームもゲームで、ソフトからデータを引っ張るだけじゃなくて、ネットワークに繋いでっていう形が随分多くなった。データを保管したりアップロードしたり、ダウンロードしたり、ネットワークを介さないゲームの方が今は少ないくらいかな。
 提示のされ方も様々になった。

 ゲームの世界は飛躍的に発展し、いつしかより現実的なバーチャルの世界がそこに求められるようになった。
 フルCGはなめらかで、非現実がまるで本当にある様に錯覚するほどの完成度。
 システムは複雑で、ゲーム性はより自由に。
 斬新な仕組みにメーカーはしのぎを削り、時にキャラクタ、時に世界観、時にシステム、時にただただ面白さ。
 爽快感、奥深さ、謎解き、感動。
 様々な要因を、様々な形にして送り出されてくるゲームタイトル達。
 過去の名作は時にリメイクされて甦り、より深みを増して戻ってくる事もある。

 ゲーム大国日本。

 そう呼ばれて、さて何年立ったものだか俺は世情には疎いのでよくわからない。
 しかしゲームオタクと自覚する俺は、この国の外に出たい、とは思わない。

 日本以外で、これだけ多くのゲームを好きなだけ堪能できる国が他にあるのかどうか微妙だ。海を越えたお隣もいいが、日本ほどの深みはまだ無い。
 まぁ、それは日本人だからニホン以外のゲームが性に合わないだけかも知れない、とにかく俺は日本のゲームが大好きだ。
 オタク性があろうとなかろうと、新しい作品を手にする度に都度斬新さに頭が下がる。洗練されていくクオリティに愕然とくる。

 もちろん、ああ前の奴と同じかよ、とか。
 そのネタ昔あったよな、とか。
 そういう、物足りなさも感じる事は在るけれど、それでもいつしか仮想の世界にどっぷり嵌まり、制作者の意図に踊って時に仮想な女の子にがっちり心を鷲掴みにされちゃったりする。

 俺はゲームが大好きだ。

 大好きだ、世界の中心がどっかにあるなら俺はそこできっと、そんな事を叫ぶだろう程俺はゲームが大好きなんだ。

 青色の猫型ロボットの未来的発明品で、
『もしも ゲームが 無かったら』
 とかいう世界が実現しちまったら、きっと俺はその途端この世界から消えて居なくなってるんじゃないか?という位、俺の存在はゲームというものに支えられている。

 勇気が湧かない時は、打倒魔王のRPGの主人公達に励まされ、
 ムシャクシャする時は、人をばったばった切り倒すアクションゲームで奇声を上げながら発散する。
 慰めて欲しい時は、がっちりあの手この手で親密度を上げた恋愛シミュレーションのあの子から名前を呼んでもらい、
 悲しくなったら、ちょっとレトロなクソゲーに付き合ってもらって大笑いさせてもらう。

 気がつけば俺の部屋はゲーム関連で埋まり、仕事も主にテストプレイとか、レビューとか、デバッグ処理とか、やっつけ仕事のゲーム三昧。
 そう、俺は、我が人生に悔いはない。
 悔いはないが……。

 でも本当はもっともっと、ゲームと深いところでがっちり関係性を持ちたかった。

 一応大手のゲーム開発会社に勤める為、それなりの勉強はしたんだ。
 だけどな、その為に『ゲームする時間』を削る事がどうしても出来なかった。
 てゆーか、まぁ、普通逆なんだけど。
 笑っちまう、つか笑ってくれ、このダメ人間っぷりを。
 俺はゲームバカなダメ人間だから、結局出来るのは与えられるソフトから来る、データという、末端で関わる事だけの薄っぺらい仕事が精一杯。
 どうにかしなきゃ、と思いつつ、気がつけば変わり映えのない毎日。
 どうにかしなきゃ、と思いつつ、俺はかなり現在の状況に悔いが無かったりする。

 その時点でダメなんだな。とどのつまり。



 でも、もしチャンスがあるなら、
 俺は喰いつくつもりでいたし、その為に迷ったりはしないと決めていた。

 『MFC』のテストプレイヤー募集とはまさに、廻ってきた恐らく最後のチャンスだろう。
 某大手ゲーム会社が何十周年記念だかの為に、再び斬新な新しいゲームハードを開発しているのだそうだ。
 ただ、今回はあまりに新しく全く別のコンセプトであるために、開発システムは極秘も極秘、テストプレイが可能になった段階で初めてその開発の事実が明かされたという具合だ。
 そして、全く新しいという事以外、そもそも『MFC』だなんてコードネームすら、外部には流れていないこの新型ハードプロジェクト。
 とにかく新しいゲームを作るので、その為にテストプレイヤーを兼ねた開発スタッフを募集するという。

 そして、その募集要項がこれまでに無く斬新だった。

 公募枠は八つで、全体的な公募規約は以下の通り。


 ゲーム作成に対する知識や、技術、経歴は必要ない。
 ゲームを愛し、ゲームについて一般以上の知識を持っている事を唯一の条件とする。


 ってんだから、俺はここでゲームへの愛を叫ばずに、どこで叫べばいいんだろう。
 そう、まさに、俺のようなゲームバカの為に現れた公募みたいじゃないか。

 最初に決まったのが推薦枠。
 開発に携わるべき、ゲームを愛しているであろう人物をネット投票で選出した。自薦・他薦問わずだが、他薦の場合本人が断った場合は次の順位の人、という具合に繰り下がっていく予定だったらしい。
 らしい、という書く通り。
 これはすんなりメージンに決まった。
 メージンは俺たちの間では超がつく程の有名人だ。ただ、彼は半分バーチャルな存在で、実物をリアルで拝んだ事のある人は皆無とも云われる。
 いやまさか、リアル学生だとはなぁ。

 知識枠、ってのもあった。
 これは、間違いなくレッドの独壇場だったんだろう。赤一号ことレッドとは、チャットなどで会話を交わした事があったから、こいつの情報量のスゴさと頭のキレ具合はすでに知っている。
 知識枠は、ゲームに対する一種オタクを自負する者の知識を競うものだったらしい。指定クイズ系ゲームの期限付き全クリアが条件、だったかな。

 俺のゲーム友人、阿部瑠の奴が取ったのは技術枠。
 コントローラの操作性および、各種ゲームの操作システムを使いこなせる技術を競った枠らしい。指定アクションゲームの格付けが条件だったらしいが、なかなかの激戦だったって話だな。
 阿部瑠は女だから、といって負けてる所なんかない。
 こいつの手先の器用さは俺も適わない。コントローラーの、いくつも在るボタンやそれに配属された機能を全て難なく使いこなすアイツなら、この枠を取れるだけの技量は十分にあるだろう。

 やりこみ枠、ってのもある。どうやら、阿部瑠の友人の彼女、アインはこの枠で通ってきた様だ。
 ゲームに対する飽くなき反復力を必要としています、とかいう枠だったよな?どんな課題が出ているんだと思って覗いて見たら、相当の執着的な愛という時間を費やしてコンプできる様なお題が出ていた。
 阿部瑠の友人ってだけあって、なんつーか、ゲーオタってのは見た目じゃわかんねぇもんだな……。

 スコア枠はナッツが早々と確定を決めた枠だ。
 スコアを競うわけだから、基本は1コインでなきゃいけない。そう、これはアーケードゲーム枠でもある。
 1周定まっているロールで、最も高いスコアを出すための攻略の創意工夫と、それを実現する高い技術力が必要な枠だ。確かに、ナッツの1ゲームにおける集中力はすげぇ。
 難しい場面から安地(安全地帯)を見つけ出すのも速いし、のめり込むとどうやったら一番稼げるかなど、斬新なアイデアを常に考えている。
 しかし、全国区トップレベルで通用するスコアを軽々と叩き出したのには……正直ちょっと驚いた。
 そういえば、あんまりハデな事は好かない奴なんだよな。あれでかなり恥ずかしがりやなんだよ。

 アーケード枠で格闘ゲーム枠が無い、わけがない!
 闘劇枠という格ゲーの祭典を絡めた枠が設定された様だ。格ゲーは1クレジット対戦の極みだな。俺も結構やりこんでるが、相当に運も絡むから俺はこの枠で狙うのは止めた。
 上位入賞者に参加条件が与えられて、エントリーが多い場合その場で勝ち抜き戦だそうだ。もちろんゲームが違えば不公平になるから、その場に集まった多くの猛者を相手にエントリー者は勝ち抜き戦をやる。で、最も多く勝ち抜いた者が選ばれたってわけだ。
 これは照井、テリーが勝ち取った。
 こいつ、ガラは悪いが悪い奴じゃねぇんだ。てかゲームオタクに悪い奴は居ない。俺は勝手にそう信じておく。

 今日日大型筐体枠が無い、ってのもありえない。
 大型筐体ゲーム、つまりレーシングゲーム、音ゲー、ガンシューティングなどなど。総合格付け平均で争ったようだな、ある程度苦手な項目があっても、それに見合う跳びぬけたスコアを一項目で持っていれば挽回できるように設定されていたと思う。
 これを勝ち抜いて来たのがやたらと背が高く、チチもデカい女……ナギ、というらしい。
 音ゲーはそれなりに嗜むが、正直この辺りは唯一手薄にしているゲーム区画だ。俺はよくわかんねぇ、というのが本音。

 そして、総合枠。
 俺はコレで通過してここにいる。
 多ジャンルに対する応用力を必要とする枠だな。多くのジャンルのゲームに精通してなきゃいけなくて、尚且つ操作性に優れ、知識やある程度の集中力が必要だと説明にあった。
 水泳で言えばメドレーリレーだ。短期間にあれもこれもと色々なジャンルでの実績が求められた枠で、いや我ながらよくやったな……。


 もちろん、これらの公募は大々的にされたわけじゃぁない。
 だが、周りの雑誌類は勿論ハデに公募を報じた。
 具体的にテストプレイヤー達が、どんな事をするのかは明言されていないにしろ、ゲームに愛溢れる人間はそりゃぁ沢山いる。
 公募が掛かった一年は、何か異様なお祭り雰囲気が漂っていた。

 本気にする奴、冷やかしの奴、関係ないという奴。

 世の中にはこんなにスゲぇ奴もいるんだと、ゲームへの愛に対してヘコんじまった奴だっている。
 だが、俺は負ける気は無かった。
 ゲームへの愛、それだけが求められる公募に、俺は技術力云々で負けを認めるつもりは無かった。
 一つの特出した技術力、というものに絞り込む事は、ゲーム全般を愛する俺には向いていないと公募を見回して直感で思ったんだ。一応それでも各種枠の内容を見てみたりもしたけれど。

 総合だ、俺は、総合で参加権利を取ると決めた。

 そんな風に日々上位を争う中、真っ先に決まったのが推薦枠……メージンで、そして次がスコア枠。
 というか決定にはまだ日があったのだが、もうに決まったようなものだと噂されていて、俺はその一位に輝いているスコアと、名前を見てびっくりしたわけだ。
 それは、学生時代からの友人、ナッツのハンドルネームだったわけで。
 身内みたいな近しい奴が、知らないうちにライバルとして先に決勝に進んでた、みたいな感じだ。そりゃぁもう、焦ったね。
 慌てて奴が行きつけのゲームセンターに行ってみたら、俺が総合にエントリーしていて、上位を争っているのをナッツはすでに知っていたらしい。
 がんばれよ、とか、肩を叩かれた。
 スコア枠ではすでに、なぜこんなスコアになるのか?という攻略で、スレッドは一杯だったな。いや、我が友人ながら誇らしくもあったけど、実はそれが逆にプレッシャーで。同時に、パワーを貰った様な気もしたりして。
 
 俺がエントリーした総合枠は変動が激しかった。

 おかげで最後の最後には、もう周りの公募に構っていられない状況になっていた。
 気がつけば辛くも、一位を獲得していて、そして、
 それに安堵のため息を漏らしていたらもうすぐに、『MFC』開発の顔合わせの日時が迫ってきていたって感じだな。

 結果発表のネットページは早々に閉められてしまったから、俺は結局各種公募の最終順位など、確認できないうちにアクセスが切れちまった。
 まぁ、ログとってたコピーサイトなんかや、記録を別で取ってたサイトもあったけど……なんだか疲れて、確認を後回しにしてたんだ。
 本HPの方は……惜しむ声も沢山あったが、どうやらここまで盛り上がるとは、そもそも開発チームも思っていなかったらしい。
 淡白なもんだなぁと、終わった祭りの余韻に呆然と、俺はPCモニターの前でぼんやりしてた。
 顔合わせまでの数日間、はて……何をして過ごしてたんだったか。
 なんだか憶えていない。

 全く新しいゲームを開発しているその会社は、なぜか『ソレ』がどんなものなのか、今だに何も公にしない。

 秘密にされればされるだけ、どんなものなのか期待が募る……。

 俺はドキドキしながら案内に従い、開発室のある支社のビルへやってきて……。
 そして、ナッツはともかく。
 顔見知りの阿部瑠の奴が技術枠で上がってきた事に、ああ世間は狭いと苦笑したりしたわけである。


 そうやって俺たち8人のゲームオタク達は、全く新しいというゲーム機開発『テストプレイヤースタッフ』としてこうやって採用されたのだ。

 そう、これで俺は晴れて某大手ゲーム会社の社員である!

 事務的な手続きが終わり、二週間後正式に仕事のためにもう一度ここに集まるように、俺たちは言い渡される事になる。その時が初仕事なんだ。
 とりあえずテストプレイヤーである事が仕事であるため、その間他に仕事をしていても構わないらしいが……『その日』は丸一日、拘束する事になると説明された。
 毎日テストプレイさせられる、わけでは無いのだと言う。データを取るためにテストプレイヤーは必要なのだが、その一度のテストで得られた結果を解析するのに結構な時間が掛かるのだと説明された。
 だからテストプレイは何日か、何週間置きに行うというのだけど……その詳しい話はその時にするとすっかり、回答を逃げられてしまった。

 一体全体、全く新しいなどというこのゲームはどんな仕様なんだ?
 少なくとも今までのように、電源を入れてコントローラーを握るだけだったり、ネットワークに繋がったり。
 専用ジョイスティックを振ったり、特殊なコンパネの上で跳ねたり跳んだりする、だけではないみたいな気配はするよな。
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