異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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1章 REM SLEEP革命 『望んで迷い込む作法と方法』

書の5 出会いはエントランス 『そんなオレらの事情と事情』

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■書の5■ 出会いはエントランス entrance meeting

 気がつくと、俺は黒い部屋で黒い椅子に座っていた。
 やわらかい不思議なクッション素材の、黒い…………床屋に置いてありそうな椅子。
 左手をそっと椅子の側面に伸ばすと、ボタンがあってそれで椅子を起き上がらせたり、倒したりできる。その、仕様は変わりなし。

『ようこそ』

 声に、俺は外すなと言われたにも関わらず、思わずスコープをとっていた。
 白かったはずのスコープは真っ黒い、サングラスみたいだ。
「……?どういう事だ?」
「不思議ですね」
 声に横を向くと、黒い人影がレッドの声で答える。
「寝た、と思ったらここにいました。しかしどうやらここは現実ではないようです……」
『ようこそ、エム・エフ・シーへ』
 声に、前を向く。
 目の前には丸く膨らんだ壁があったと記憶していたが、そこは逆に丸く凹んでいる。
 そしてその凹みの奥に、小さなトビラがある。

 ……わからん、真っ白い長方形が置いてあるだけなのだけど、それがトビラだと俺はなぜか認識できてしまった。

『これから皆さんには自分のキャラクターを『立てて』もらいます。自由に設定されて構いません。そしてそのキャラクターで、『トビラ』をロールプレイングして頂きます』
「メージン?」
『はい』
 姿無き声は、少し嬉しそうに答えた。
『僕の声は皆さんににしか聞こえません、僕はオペレーターとしてみんなの旅に同行するんです』
「オペレーターねぇ……よくわかんねぇが、ロールプレイング?」
「ネトゲーみたいな奴かしら?」
 反対側を振り返るが、やっぱりそこには黒い影。
 黒い影が、女の声でしゃべっている。
「どちらかというとテーブルトークに近いのかしらね?」
『とりあえずキャラクターを立ててください。詳しい話はそれから行います』
 と、目の前に黄緑色に発光する枠が現れた。
 そしてそこに日本語が現れる。空中に浮かび上がっている文字は

 『キャラクターを作成してください』

「どうするんだ?」
 誰かが聞く。
『思念で答えるんです、言葉にしても良いそうです』
 俺は、はい・いいえの項目を選ぶイメージをして、はいを選択した気分にする。
 すると、文字が切り替わった。

『性別を選択してください』

 迷わず、男を選択する。
 男、女、それ以外とかあったら、思わずそれ以外とか選んじまうかもしれない、などとちょっと思いつつ……。
 しかし、男で確定したらしい。緑色のフレームの右上に性別男という文字が現れた。
 それから次々と選択項目が現れる。普遍的なキャラクターメイキングだ。
 最後に名前を聞かれたが……これは迷うまでもない。

 俺は夜兎、ヤトだ。

 名前を思い描き、それを確定させると……途端に両隣の人間を認識できるようになった。黒い影だったものに色彩が付き、真っ暗い世界なのにはっきりと姿が見える。
 不思議だ、闇の中にスポットライトをあびたように人の姿が浮かんでいる。
『それでは、まずこのゲームの大体の仕組みを説明しますね』
 メージンの声が、どこからともなく聞こえてくる。
『皆さんはこれからMFC開発者が現在試作ゲームとして作っている、トビラという世界に入ってもらうそうです。異世界、ですね。文化レベルは中世風な、剣と魔法のファンタジーだという事です』
 俺たちはメージンのアナウンスに、声も出ずにただ聞き入っている。

 今だ、現状がよくわからない。

 何時の間にゲームを始めたのか、その境目がドコなのか、わからないんだ。

 そう、まるで夢を見る様に。
 ゆっくりと、夜の帳が下りるように。
 グラデーションを描き、何時の間にか気がつかないうちにここにいる。

 そんな感じだ。

 よくあるよな、異世界迷い込み、って奴。
 気がつくとなんだか違うところにいる、って感じ。

 なんでここに来たのか、漠然としたその瞬間は覚えている。だけど、どうやって来たのかわからない。
  その状況があまりに突飛で、あまりに在り来たりなものだからむしろ、ヘタに口を聞けず俺たちはそれぞれに、どうしてこうなったのかを考えているんだろう。

 代表して言うならば……まさか、これ夢じゃぁないだろうな?って事だ。

 一体、どんな仕掛けがあったっていうんだ?
 新型ゲーム機、コードネームMFCとははたして『何』が本体だ?

『当然、仮運営ですので具体的には少し強めのパラメーターを持ってもらい、バグなどが無いかをチェックしてもらう……一種のデバック作業をお願いするそうです』
「デバック、ですか」
 レッドが、不思議そうな顔で首を傾げた。
『テーブルトークの経験は、みなさんありますか?』
「なんだそれは」
 一番奥にいる、がたいのデカい女が困った顔をする。
「知ってるけど、やった事はないわ」
「リプレイを読む程度ね」
 などと俺の右手側端の女性陣も首を傾げている。俺はナッツに誘われて若干だが経験がある。とはいってもやったのはチャットテーブルRPGなんだが。
 RPGは言わずもがな、ロールプレイングゲームの略な。真っ先にコンピューターゲームの竜探索シリーズや最後幻想なんかを思い浮かべる人も多いだろうけど、RPGは本来ボードゲームが祖先としてあるんだぜ。テーブルトークというのは、その祖先であるRPG……つまり、コンピューターゲームじゃない。プレイヤーが実際に机を囲み、ゲームマスターと呼ばれる者と駆け引きをしながら、キャラクターを演じて行うゲームの事だ。
 基本、人対人であるからして自由度は相当に高い。ゲームをするにあたり設定されたルールも様々にあり、現コンピュターをもってしてもその独特なプレイを完全に再現する事は不可能だと云われる。
 だから愛好家も今だ多いな。俺がやったのはチャットを介したTRPGだから、実際プレイヤーと顔は会わせていなかったりする。
「RPGはやらん」
 と、格闘ゲームバカであろうテリーはきっぱり言い切った。
 ……まぁ、そうだろうと思ったぜ。
『まぁそう言わずに。キャラクター育成面では、自由度の高いテーブルトーク風なもので構築しているそうです。ただトビラに入ってしまうと、その数値が見えなくなるんです。逆に、僕はその数値を見る事が出来るんですけど』
「なるほど、分かりやすい数値をアナウンスするのが貴方の役目なのですね」
『そのようです。もちろん数値を目隠しして、実感に頼ったプレイでも構わないようですけどね』
 再び、緑色の枠が目の前に現れた。
 今度は、全員の目の前に同じ枠が現れているのが見える。
『トビラ内での、みなさんのキャラクターのパラメータをこれから作ります。左上に数値がありますね、これが基本経験値です。これを消費、振り分けて、各種技能やパラメータを上下させます。上げる場合は消費し、下げる場合は逆に経験値を取得できるのが、TRPG風な所ですね。技能にはプラス属性のものとマイナス属性のものがあります。例えば、腕力を極端に上げるために移動力をマイナスして経験値を得て腕力に振り替える、などのパラメータ調整が可能という事です』
「なるほど」
 テリーが頷いて顔を上げる。
「技能はいいのですが、特徴はどうするんです?TRPGだと、特徴によって行動できる事が制限される場合もありますよね?」
『それですが、なるべくみなさん自身の癖を反映させた方がいいようです。というのも、実際トビラ内で取った行動によりいくら別の特徴を持たせてもそれに相反した場合は取り消されて、皆さんが持っている特徴にパラメータが修正されてしまうんだそうです。たとえば、マイナスパラメーターの寡黙、を取ったとしても、トビラ内で実際饒舌に振る舞ってしまうと、饒舌というパラメーターに自動修正されてしまいます。しかも経験値の差し引きも自動で行われてしまう。……経験値をマイナスにすることも可能なんです。ただマイナスにすると、プラスに戻すには数倍の経験値を必要とするペナルティが課せられます。なるべくマイナスにはしないように、一定の経験値を残すのがいいそうですよ』

 そんなアドバイスを聞きつつ、俺たちは相当に時間を掛けて自分の『キャラクター』を作っていった。

 この真っ暗な空間にいる俺は、現実とは違う。
 ここは仮想、バーチャルなのだ。
 よくは分からないが現実じゃないのは確かだろう。
 選んだ特徴にあわせ、俺の姿が変わる。
 種族選択に、有翼種を選べば背中に羽が現れる。貴族種、このトビラで言う所のエルフだな……なら、耳が尖る。
 髪の色、目の色もある程度の種族制限内で自由に選べる。現れた鏡のような画面に、俺のアイコンが現れて姿が自由に変えられる。
 そして変えた途端、俺の背中に実際羽が生えたり、耳がとんがったりするんだ。

 面白い、俺たちは半分以上の時間そういう設定によって変化する自身の様子を面白がって、色々試すのに費やしていた気がするな。

 メージンは特に急かさなかった。決定したら、もう直せないからじっくり選らんでと言っていたし。
 何時間そうやってキャラクターメイキングをやっていたのだろう。
 この世界に時計がないから、時間の経過はよくわからない。

 ようやく『俺』という設定が終わり、輝く白いトビラの前に進む。
 すると、まるであわせたように全員がそこに同時に現れた。
「あれ、ヤトも今できたの?」
「待ったか?」
「僕も今ここに来たばかりだけど……」
『あ、皆さんには『時間』概念が通用しないんだそうです』
 メージンの声に俺達は思わず顔を上げていた。
「時間が通用しないって、どういうことだ?」
 金髪のしなやかな体を持った男が肩を竦める。……成りが明らかーに、拳闘士だから、こいつテリーだな。
 金髪碧眼だが、顔の作りは変わってない気がする。
 俺も赤茶けた頭髪に緑掛かった瞳で、日本人設定は超えてるわけだが、顔の形や配置などは紛れも無く俺の顔だろう。顔の形なども変える事は出来るみたいだが、技能ポイント消費を考えたらそのままで良いか、ってなった。
 身長体重、色彩に種族、一部身体特徴の変更以外、どうしても変えられない部分というのはあるらしく、顔の特徴はその一つであるらしい。それでも変えたきゃ沢山経験値あるいは技能ポイント払えって事な。
『時間というのが正しく流れないんです。実際、皆さんがキャラクターメイキングに使用した時間は僕の方での時間に換算して数秒ですよ』
「そうなのか」
「ですが、それでは貴方も現実時間軸を無視していなければならないのでは?」
 レッドがなにやら難しい事を聞いた。
 俺には、はっきり言ってどういう意味なのかよくわからん……しかし、こいつは……変わってねぇな。
 黒髪、黒目に肩付近で切りそろえた髪。あ、眼鏡だけは止めたみたいだが。
『こちらの時間と、みなさんの時間も合っていないんですよ。僕がみなさんの質問に答えた言葉は過去に遡って、皆さんにもたらされた事になるんです。時間がどれだけ掛かったか、が問題ではなく、言葉の順番でどちらが前で、どちらが後か、そういう処理になっています』
「成る程、という事は貴方の方でモニターできる情報は、相当に限られた物だという事ですね?」
『ええ、さすがレッドさん、その通り。実は僕はみなさんの姿をパラメータでしかみれないんです。これから皆さんが見るであろう世界も、僕には正しく認知できない。ただ、数値としてしか見る事ができないんです』
「なんだー、それ、よくわかんねぇが俺たちの姿が見えて無ぇって事か?」
『はい、そうなんです。でもテストプレイが終わったら僕も中には入れますから、あまり気にしないでください。オペレーターアナウンスが無いと大変でしょうし』
「メージン、」
『さ、早速自己紹介が出来ますよ。僕から行いましょう。今回はオペレーターを務めます、高橋嵐です。メージン、と名乗っていますね。でも実際自分でメージンって名乗るのって、気恥ずかしいんですよね……。最初は冗談のつもりだったんですけど……でも』
 メージンの声が、一瞬迷ってからはっきりとしたものへと変わる。
『僕は仮想現実ではメージンです。それ以外のハンドルネームも、昔はありましたけど今は逆に存在を隠している事になっちゃいそうで……だから、メージンで構いません』
「もちろんだろ、メージンはメージンだぜ」
 俺は頷いてそうメージンを励ましたつもりだったが、
「あんた、それよくわかんないわよ」
 と、阿部瑠の奴から呆れられてしまった。
 赤い髪、赤目、ショートカットの軽剣士風な阿部瑠は、ふいと組んでいた腕を解きゆっくりとおじぎした。
「私は阿部瑠衣子、大体、阿部とか、阿部瑠とか呼ばれていたから、アベルってハンドルネームでやってるわ。……キャラクタ紹介もしておいた方がいいのかな?」
『はい、お願いします』
「……遠東方系(イシュターラー)、とかいう人種らしいわ。ノーマル人種より能力が高いけれど、一般常識判定に弱いらしいわよね。私は操作系には自信あるけれど情報戦には元々弱いのは自覚しているから、これでいいかなと思って。魔法と剣を使える、魔法剣士で組み立ててみたわ」
「じゃぁ、次は私よね」
 と、声がすれども彼女の姿が……見えない?
「下です、ヤト」
 レッドに言われて俺は視線を下に落とす。
 と。
 胸に抱けるくらいの人形サイズの……これは、ドラゴンか?
 黒い目が大きくクリクリしてて、これは……

 かわいい……。

 背中に羽が生えている。小さな前足と、長いしなやかな尻尾。腹は黄色から白の滑らかな鱗で覆われ、背中にはゆでたカニの甲羅を思い浮かべるちょっとゴツゴツした赤い鱗が並ぶ。
 黄色がかった角が二本生えた、幼生のドラゴンが俺を見上げた。
「本名は古谷愛、ハンドルネームとペンネームはアインでやってます、えぇと……見ての通りドラゴンサイバー種です」
「ちょっと待てよ、それ、リスク高すぎじゃね?」
 サイバー種。
 動物や魔物の姿でありながら高い知能を持つ、という設定の種族だ。特殊背景を取る必要あり、経験値は相当に消費したはずだが……。
「うん、おかげでこの通り小さいサイズになっちゃったけど……いいよね?」
「いいよね、って」
「あたし、ドラゴンフェチなの。一度ドラゴンになってみたかったのよね。龍族種とかもあったんだけど、そっちの方が選択リスクが高いんですもの、これで我慢するわ」
「いいのか?」
「設定は、自由ですからね」
 と、レッドは頷いている。
「なんだかなぁ、あ、俺の番?」
 俺は、頭を掻いてから背を伸ばす。
「東方人設定の複合剣士だな、魔法素質が高い設定を取っておきながら剣士、という」
「相変わらず変にマニアック路線だなぁ」
 ナッツが笑いやがった。うるせぇ、設定は自由なんだろ?
「本名は佐藤夙、最後の二文字を取ってヤト、夜の兎でヤトだな」
「では、次は僕ですか」
 と、レッドはアベルのようにおじぎしてから言った。
「五十嵐汀、赤の一号事レッドです。設定は南方人フレイムトライブ。この人種が一番低いコストで、高いパラメータを取得できると見ました。どちらかというと魔導師、ですかね」
 次に、ナッツが苦笑しながら軽く頭を下げる。
「ハンドルネームはDATE(デイト)なんだけど、どうせヤトがナッツって呼ぶだろうし、ナッツにしたよ」
 あ、そうだな、俺ナッツって呼んでるもんな。実際、ハンドルネームはデイトなのは分かってるんだけど。
「ヤトとは同級生なんだ、本名は加藤棗」
 そう、こいつナツメだからデイト(なつめやし)なんだ。
 しかし、ナッツもすごい思い切ったキャラメイキングしたな……。髪の毛は薄茶色で、肩に掛かる程度長く、目の色は綺麗なターコイズブルー。しかし問題は背中に背負ってる羽だ。羽の先っぽだけ、薄茶色の白い羽。
「……見ての通り有翼種で。そのために、パラメータは前戦向きではありませんが、補助系を一通り習得してみました。僕も魔導師系です」
「俺だな、」
 と、テリー。腕を組んだまま長い髪を束ねたものを揺らし、身を僅かに傾いで笑う。こいつ、元々顔は悪くないんだよな。おかげでなんつーか、結構美形なキャラに仕上がってねぇか?
 金髪に碧眼、典型的な西方人を選んだ場合の決まっている配色だ。西方人はとどのつまり、特典の無い基本的な『人間』設定でもある。その分経験値は技能に廻せるってわけだな。
「照井奉だ、」
「って、本名だったのかよ!」
 俺は、驚いてすかさず突っ込んでしまっていた。
「悪いか?」
「悪くはないが、HNって俺はてっきりネタだと」
「ま、テリーって名前で通してるのは多少笑いを取ってるがな。……格闘バカなのは自覚あるから当然格闘家でパラメータを揃えた、肉体技能には自信があるぜ」
 最後は背の高い、肌の浅黒い彼女。
「松本芒、マツナギだ」
「大型筐体枠?」
「ああ……。RPGは、あんまりやらないからちょっと戸惑ってる。色々教えてもらう事になるかもしれない」
 俺は笑って、まかせろと頷いた。
「ジョブは?」
「職業って事か?……銃、はこの世界では扱うのはちょっと経験値が足りないようだ。とりあえず剣士で、あと弓矢も使える」
 肌が浅黒く目は赤で耳が……若干尖っている、という事は、暗黒貴族種だな。北方に多い戦闘能力に長けている種族だ。ふむふむ、俺的には悪く無い。ぶっちゃけ好みなチョイスだ。

 さて、キャタクターも決まった事だし。
 ようやくゲームが始められる……と思ったのだが。

 その前にまず、俺たちのこの『状況』を、詳しく説明してくださいと、レッドが言い出した。
 ああ、もう!いいじゃん、ゲームできればそれでいいじゃん!ここまで来たのに、またお預け?
  早く始めようってば!
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