異世界創造NOSYUYO トビラ

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1章 REM SLEEP革命 『望んで迷い込む作法と方法』

書の6 レム・スリープⅡ『聞きますか?聞いときましょうガイダンス』

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■書の6■ レム・スリープⅡ rem sleep 2

「時間は僕らには関係無いという話を聞きましたが……僕はそれについて、もっとはっきりとした理由を聞いておきたいのです」
 レッドは、どこにいるとも限らないメージンに語りかけた様だ。
 実際、口にしなくてもメージンには意見を求められるらしいが……ここは、レッドだけが分かってればいい話じゃない。

 その話、正直に言えば興味がある。

 分かりやすく俺たちの現状を説明してくれるなら、確かに聞いておきたい所ではある。
 仕組みがわかれば、なお一層どんなゲームなのか理解して色々と考えられるはずだしな。
 けど、一方でさっさと本題であるゲーム世界をさっさと堪能したいってのも本音なんだよ!
『みなさん、4時間以上ゲームが出来ない、と最初に聞きましたよね』
「……ええ」
 だがレッドの奴、早速何か気がついたな。ちょっと顎を引いて答えやがった。言葉の前に何か思考してやがる。
『みなさんは、眠っているんです』
「やっぱり」
 と、アベル。
 自分達はどうやら寝た、という認識は全員にあるようだ。俺もあの状況だと間違いなく寝てるな、うん。
 目の前が真っ暗で、刺激が無くて、楽な姿勢で、どちらかといえば気持ちの良い音楽で満たされた空間。
 取りとめ無い空想と思考の果てに、きっと俺は今、眠っている。
 とすると、こうやって起きているメージンと会話したり、眠っている者同士が会話する現状は、何なんだ?
『ぶっちゃけると、MFCというのは……寝ている間にゲームをするハードのようですね。眠ってゲームするんです』
「眠って、」
「ゲームする?」

 ……だったら、もうちょっと睡眠を強調した名前をハードにつけたらどうなんだ?

 S 睡眠的のS
 R 範囲的のR
 P 叙景的のP

 とか。
 あれ、どっかでそんな小説読んだな。
 ……ともかく。

 どうやら確かにコレは今までのハードとは、一線を画するゲーム機である事は……確かな様だな。
 覚醒している時にゲームするのではなく、眠っていないとゲームが出来ない。

 なんだそれは。

 どういう必要性でそんなハードを開発する事になったんだ?

『要約して説明しますが……人間は、約7時間の睡眠の間大体2時間位のレム睡眠を取るそうです。個人差はありますけど。で、夢を見ているのは、レム睡眠の間と言われています。大凡1時間と30分ごとにレム睡眠と、ノンレム睡眠を行き来しているんです。だから、みなさんは物事を連続的に感じるかもしれませんが、実際は所々途切れ途切れに夢を見ている可能性が在ります。でもそれは関係ないのですね、時間軸が無いのですから、経験を積み上げていく形で、与えられる情報が管理されている以上、皆さんは一つの長い旅で異世界を眺める事ができるんです』
「つっても、俺たち薄っぺらいスコープかけただけだぜ?どこにそんな風になる仕掛けがあったんだよ」
『もちろんそのスコープです。目の網膜から情報を入れる方法もあったようですが、目への負担が大きすぎるから止めたそうです。情報の玄関である、海馬へのアクセスを行っています。あのスコープ、本体は柄の所ですよ……耳に掛けた部分が本体みたいですね』
 そいつは騙された!
 成る程それなら、寝ている間にゲームっていうハードのあり方も考えられるよな。
 耳に引っ掛けるだけなら、よっぽど酷い寝返りでも打たない限り邪魔にはならないだろう。
「当然通信トラブルや覚醒などがあった場合は、ゲームは中断するんだよね?」
 ナッツの質問にメージンは、そうしないとコミックな展開になりますから、と少し苦笑がちに答えた。
『夢から、醒める様に戻ってくるんだそうです』
「夢から……醒めるように。じゃぁ、もしかしてゲームの内容覚えてないの?」
『ええ、ちゃんと『セーブ』しないと、記録が残らないという事です』
「なるほど、セーブはそういう意味になるのか」
 なんだかすでに相当作りこまれてる感じがするな。本当に、テストプレイが目的なのか?
 だが、これは脳に直接データを送り込むって事なわけだからな、そりゃぁ慎重にもなるだろう。
 問題点は徹底的に調査しないとだろうな。
「具体的な仕組みの説明できそうですか?どうやって、僕等が見る『夢』を、MFCで統合できるのか、など」
『具体的、ですか……。ちょっと説明は難しいです。統合しているというよりは、MFCは夢を見せるという仕組みに……近い様ですね。データを送り込むんですね、そして結果を選ばせる。基本的なゲームと同じです。その間に視覚的なモニターや、聴覚的な音などが挟まっているかどうかの問題です』
「……そもそも、夢の中に自我などありましょうか」
 レッドが小さく呟いた。隣でナッツが苦笑する。
「確かにね、現在の脳の研究では夢の中では『我』は無く、無秩序で、記憶の断片があるだけ、という見解が大きいけれど……実際、それが正しいという確証が得られにくい研究分野だよ、本当の所はわからない」
「多分、これは『夢じゃない』って事じゃない?」
 ドラゴンのアインは、小首を傾げて俺たちを見上げる。
「レムスリープ中に情報処理してるわけだけど、実際には夢を見ているんじゃなくて、夢を見る機関を借りてゲームをさせる、そんな感じ」
「成る程、ですがそうすると脳自体への負担はどうなのでしょう?重いのでは?」
『それが、そうでもないらしいんだ。人は脳のごく一部しか使っていないとも云うとかで。夢を見る間は、普段使っていない容量を使うらしくてむしろ脳には良いんじゃないか、とか高松さんが言ってます。とりあえず、最低起動時間内であれば障害は無いそうです』

 なんだか小難しい話ばっかりだな。

 おいおい、いつまでそんな理屈の話してんだよ。
 俺は痺れを切らし口を開いていた。

「いいじゃんかレッド、理屈よりまずゲームの出来だ。やって見なきゃ、どんなんなのかわかんねぇだろ?」
「……一理、ありますが」

 素直に認めろ、一理じゃねぇ、ゲーマーの真理だ。

 外側からの情報や、外見や、スタッフだけ見てたって中身の良し悪しは分からねぇ。他人の評価なんてどうせ他人だけのものだ。
 正しいゲームの評価は、それをプレイしたその人だけのものだろう。レビューは参考程度にしかならないもんだ。どんなクソなゲームでも、人によってはどこかイイと思える所だってある。
「夢見てる間にやってるゲームMFC、いいじゃねぇかそれで。実際どんな仕組みなのかは、目を覚ましてからでも追及できる。俺たちは、ちゃんと現実に戻れるんだからな」
「……そうですね」
 そう、恐らく精神が迷子、だなんて事にはならないだろう。
 そんなありふれたトラブルになる危険性があるなら、まず商品として開発できない。テストプレイヤーも大々的に募集は出来ないに違いない。
 大体、精神ってな何だ?
 人間にとってそれは脳味噌から分離できるもんか?
 理屈で考えるなら、それこそファンタジーかオカルトかってんだ。

 MFCは夢を見る。
 夢の中でゲームする。
 目を覚ませばゲームは終わる。
 ゲームオーバーで夢も終わる。

 送られてくるデータ、とかいうのに人が夢を見る機関を借りて、そこでゲームを展開する。

 そういうこったろ?

「小難しい話は目を醒ましてからにしろよ」
 アベルが何か、言い返そうとしたが止めたな。口を閉じて目を逸らす。
 多分、的を得てると思ったんだろ。こいつも、頭がいい方じゃねぇからな。メージンとレッドの話はアベルにとっても難しかった事には変わりねぇだろ。
「とにかく、ゲームを楽しもうぜ?」
「そうだね、ヤトの言う通りだ」
 マツナギは素直だなぁ。
 俺は俄然自信を得て、レッドを振り向いてそうしようと頷いてやる。
「……わかりました、ではメージン、早速始めましょう」
『はい、上手く返答できずにすみません』
「いいんです、……そういえば、他の人とは話できないのですか?」
『間接的には可能です、直接席を変えるという事は、難しいですね。そもそもこのアナウンスというのは今回のみの仕組みの様です。実際時間軸が完全に異なるみなさんへのオペレーターは、負荷の重い作業のようですね。一人分の席しか用意できなかった、みたいですよ』
「大変そうだね」
『大丈夫です、早い所MFCを完成させて、僕もゲームが出来ればそれで。その為に僕というポジションが必要であれば、僕も作業にはちゃんと加わっているんです、それだけで十分です』
 ああ、やっぱりメージン、あんたは神だよ。聖人君主降臨、神のごときだ。
 メージンアンチ派はとかく上辺だけだとかなんとか揚げ足を取るが、実際本人に会って俺は益々アンタのファンになったね。

 でも、これで裏で何か別の事をたくらんでいるってんなら……相当な腹黒キャラだな。

 ……いやいや、そんな風に見えねぇし。
 そりゃ、ちょっとは体験できないがっかりな気持ちはあるんだろうぜ、でも……。

 ああ、そうか。違う、彼はやっぱり神じゃない。
 メージンは我慢強い。多分ただ、それだけなんだ。

「メージン」
『はい?』
 俺は、どこにいるとも見えないオペレーターに向かって親指を立てた。いやこの仕草、メージンに見えているとは限らないんだが。
「早い所MFCを仕上げて、俺たち全員、8人でゲームしような!」
『……はい!』
 そう、俺たちの立場が羨ましく無い、はずがない。
 メージンだって早くゲームがしたいんだ。だけど、彼は彼なりに遠慮して……。もしかすれば『彼』という『アイコン』のために、バックアップオペレーターを選ばざるを得なかったのかもしれない。
 そう、彼はゲーマーズの神ではなく。
 もしかすると、神であるように今も努力しているだけなのかもしれない。
 メージンとして、そういうキャラクターとして、このプロジェクトに参加しているのだと、きっと彼は理解している。
 だから自分がどんな役を演じるべきなのか、きっとメージンは分かっているんだ。

 俺たちは、沢山のライバルと戦ってそれぞれの参加枠を確保したが、メージンはそうじゃない。いや、メージンというキャラクタを確立した、その努力があるからこそ推薦枠でここに来たんだろうに。
 一体何が彼の心に遠慮を生んだのか、俺には正直はっきりとは分からない。
 だけどメージンだって本当は、MFCに参加したいのだろう、その気持ちは絶対に当たっている。俺は、そう勝手に思いこむ事にする。

 顔を前に向けた。

 白い光を放つ、異世界への扉。

 仮想(バーチャル)に意識が行くのではなく。
 意識が、仮想を構築する。

 てか、基本的にはそうだ。

 仮想ってのは仮な想い、仮想世界というものは独立してそこにあるのではなく、あくまで仮の世界として人が構築したものだろう。
 それは異世界であって多分、人が多く認識している所の『異世界』とはちょっと違う。

 結局の所、異世界ってのはどっかにあるもんだと仮定し、基本的には人間がそう『仮想した』物だ。
 その事実は変えられない。

 本当に『異世界』があるんだと『仮想した世界』を信じ込む事が、どんだけ常識逸しているのか、分からない奴ぁちょっと危ない。

 その点MFCってのは悪いゲームじゃねぇよな。

 体験する事は、絶対的に夢なんだ。モニターごしの事実じゃない。
 全部、自分の頭の中にある経験にしかならない。共有できる夢だとしても、それを認識しているのは多数ではなく、あくまで自分という個人でしかない。

 きっぱりと、このゲームは夢として、醒めてしまう。

 これをリアルと混同するとすりゃ、これはゲームが悪いんじゃねぇ、混同する個人がおかしいって事だ。それをすっぱり言い切れる。

 混同させる程すげぇゲームが『悪い』ってのは屁理屈だ。
 精神的な弱さをそうやって覆い隠して何になる?
 MFCはその点、混同するべきなのが『夢』で片付く。
 昨日見た夢を、現実だと勘違いする人間は明らかに精神がおかしいと斬り捨てられる。
 夢は夢だ。
 そりゃあいくらリアルでも、お告げでも、デジャヴでもない。
 ただの、夢だ。

 それでも夢を現実と取り違えるなら、それは個人の弱さだろ?
 言い訳を夢に置いて、本当の現実を見据えない、そういうこった。

 ゲームオタクは確かに、仮想現実を愛してる。
 現実なんかより、二次元の恋人の方がいいと本気で思っている奴もいる。
 だが、二次元は二次元だからいいのだ。異論は認める、これはあくまで俺の主張。

 例えばマンガが実写版のドラマになったとして。マンガの中のキャラクターが好きだったとして、実際に実写のキャラクターも好きになれるか?
 もちろん好きになれる場合も在るだろうけど、実写というのはあくまでそいう仮想を演じてるだけだ。役者には仮想の他に、現実の顔がある。結局マンガだろうが実写だろうが、そこにリアリティなど在りはしないんだな。
 仮想は仮想だ、ドラマ化は、現実化とは違う。

 好きなゲームが色々なメディアに変換されて行くにあたり、俺はそれらとどう接すればいいのだろう。
 そんな事をだな、俺は結構真面目に考えた事があったりする。
 ははは、ガラじゃねぇって?俺も正直そう思う。
 だがそれでも真面目に考えたのは、単純だ、それは大好きなゲームの事だからだ。
 そうでなきゃこんな難しい事に頭を使ったりしない。ああ、断言するね。

 だがおかげで俺は、仮想と現実の区別はちゃんとつけられたと思っている。
 そう、ちょっと考えれば解かるのだが、これが意外と気が付けなくて混同するんだよな。

 俺も、そういう時期が無かったわけじゃない。そう思う。

 好きな事になら、どんな難しい哲学だって追及できる。
 オタクってのは悪い言葉じゃない、愛があり、執着するってのは日本人には結構重要な事だと思うぜ。
 そうしないと表面の、薄っぺらい所だけ分かってて本質を考えない。
 どこか、オタクである事が敬遠されるのは何故かと考えれば、そういう風に敬遠する奴等は、執着する事になぜか恥じらいを持ち、何も考えないようにしているからだと俺は思うね。

 だって、好きでもない事に人は熱中出来ると思うか?

 俺は無理だと思うな。
 好きだから、のめり込めるんだ。
 勉強だってそうだろ、学ぶ事が楽しくなきゃ成績だって伸びるはずが無い。

 とか言って、俺の学業成績は散々だったがな!

 ま、とにかくだ。

 あの、真っ白いトビラを潜った向こうに在る世界。
 それがどんな世界であれ。
 それは異世界ではあるが、仮想現実に変わりは無い。

 どんなリアリティを感じたとしても、それは俺たちの脳味噌が騙されてるに過ぎないわけで、目が醒めれば全部夢で片付く。


 ……夢オチっすか?
 うっは、なんだか以外にあっさりとしてる話になるなぁ。


 真っ白い、トビラが目の前にある。
 だからだろうか、この扉の向こう側は『トビラ』というらしい。
 異世界想像の主要、トビラ。
 行こう、推定『異世界』へ。 


 俺は静かに一歩を踏み出した。

 鈍色の具足が音も無く前に歩を進める。
 そういや設定上相当に重い装備なんだが、体力的ステータス的にペナルティ無しなんだよな。
 おかげで重いはずなんだがなんとも感じない。正しくは重い、という意識は特に働かない。
 腰にぶら下げた剣を、しっかりと手で握る。
 もう一歩前に踏み出すと、後に全員続く気配を感じる。
 俺は入口の手前で立ち止まり、後を振り返った。
「行くぜ?」
 全員がゆっくりと頷いた。
 って、アインの奴、ちゃっかりテリーの肩に乗ってやがる。
 俺は、その光景にちょっと和んで笑ってしまった。
 そんなにやけた顔のまま、すっかりリラックスして肩の力が抜ける。

 歩き出す。

 光の枠を超えて、
 俺は闇の部屋を跨ぎ、光の世界へ足を踏み入れた。
 目が眩む、いや、眩むというこの経験でさえ夢なのか。
 目を細め、耐えられず腕を掲げて光を遮る。

 俺はその体勢のまま、ひたすら前に向かって歩き続けた。
 ちょっと不安になって振り返れば、全員俺に続きやはり眩しそうに目の前を遮ったり、目を閉じたりしてひたすら前に進んでいる。

 立ち止まってられない、いつしか大股に歩き、光が脳天まで染み渡ったような気配に一瞬、意識が遠のいた。


 夢を見る、境の様に。
 光が、グラデーションを奏でながら景色を呼び起こす。


 俺の脳の、夢を見る部分に。 
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