異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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1章 REM SLEEP革命 『望んで迷い込む作法と方法』

書の7 そして、トビラは開かれる『レッツゴー、おいでませ異世界』

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■書の7■ そして、トビラは開かれる and,open the TOBIRA


 その時、トビラは開いたの。


 世界のトビラは開くでしょう。
 そう宣うた、黄金の女神は今や昔の幻。

 そして、世界が変わったのを私は知っているの。


 あふれ出る光と闇を最後に空に見て、そして私は平凡な少女に戻る。


 そのトビラは、いずれ世界の有り様をすっかり変えるの。


 私は、女神に代わって予言する。


 だけど、格言はきっと生きている。
 だって、そうあると信じれば、全ては叶う。
 それがこの世界の、歪んだ約束なのだから。


 ようこそ、世界へ。

 名も無き世界の人達。


 エイトエレメンタラティスへ、ようこそ。




 光の四角いトンネルをひたすら歩く。
 目の前に見えて来た、白以外の色彩を目指して。

 ふいと誰かと行き違い、すれ違った気配がして俺は眩しくて細めていた目を横に向ける。
 ちらりと、よぎる影が後へ消えていく。

 俺はその途端言い知れぬ、不安な気持ちに襲われた。
 実に根拠の無い、よくわからない、漠然とした不安。

「ヤト、立ち止まらないで」
 アベルの声に我に返った。俺は慌てて再び歩き出す。
 間違いなく幻だ。
 俺の異世界に対する不安が、そういう形を成したのだろう。そんな風に思い込んで、俺は再び大股に光の中を歩きつづけた。

 色彩は眩しい。

 風が吹き抜けて、青臭い匂いにどこか磯の匂いに似たものの混じる空気が、肺一杯に満ちる。
 今まできっと無味無臭だったから、途端に俺は咽て息をつまらせた。
 苦しくなって、つんのめる。

 目を、開けた。

 視界が立ちくらみを起こした時のように暗く暗転し、目の前にしろつめくさの絨毯。
 そこに突いた手は……。
 俺の、手。

 俺は膝をつき、手を付いて原っぱで俯いていた。

「うおッ!?」
 驚いて顔を上げる。目の前に、見慣れない林。
 その木の奥に、青い、海?
「転んだの?」
 声に驚いて立ち上がり振り返ると……。

 見慣れない一団が俺を窺っていた。

 いや、確かに見慣れては居ないが見た事が無いわけじゃない。
 真上の太陽の中、陰影が正しくついて、そこにはあまりにもリアルに……旅の仲間たちが立っていた。
「えっ!?ええッ!?」
 俺はバカっぷりを発揮して、無駄に驚いている。
「ちょっと待て、えっと、これは夢じゃない……のではなく、これが夢だってのか?」
 おかげで何を言っているのか支離滅裂だと自覚シマス。

 ゴメン、結構一杯一杯。

 だが、それは俺に限った話じゃないみたいだ。
 アベルだって俺を心配しておいて今は空や、周りの景色をただひたすら、ぼんやり眺めてそれから自分の手を見て、それで自分の体を触ってみたりして……。

 これがゲームだと、理解できなくて愕然としている。

「凄まじい、ですね」
 レッドが、苦笑してやはり空を見上げている。
「ここまでのリアリティはなるほど、情報を処理しているのがあくまで脳であるから実現するのですか」
 『無事、着いたみたいだね』
 メージンの声が聞こえる。
 いや、これは声とは違う。なんというか、説明しにくいが……声というか、文字情報というか、とにかくメージンの声らしいイメージが脳に勝手に入り込んで来るんだ。
『どう、どんな感じ?』
「どんな感じ、じゃねぇよメージン。これ、思いっきりリアルだ……いきなりこの領域まで持っていかれると、正直もう、どうしていいのかわかんねぇぞ?」
 俺はしゃがみこんで、三つ葉のクローバーを毟り取る。
 僅かな青臭い露が手に残り、においもあって……じっと眺めたが、3Dポリゴンのギザギザは見あたらない。
 真面目にこれはシロツメクサだ。
 リアルに本物。
「どーやってこんな世界を作るんだよ、」
 俺たちはしばらく、そうやって呆然とあまりに現実的な世界に立ち尽くしていた。

 近年、ゲームはひたすらリアルになった。

 CG画面は美しくなった。実写の中にも自然に溶け込む様なコンピューターグラフィックス、ひとえにそれを演算するハードの能力が、格段に上がっているからだ。
 創り込んだCGやアニメーションを現実世界に投影する、っていうのもあるが比較するのは論外な。

 これは、全て、コンピューターグラフィックじゃない。
 これがCGだというのなら、今のCGレベルをはるかに超えている。

 でもここは、作られた世界だよな?

 MFCという次世代ゲーム機のために、作られているゲームの世界なんだよな?

『正直、どれくらいリアルなのかは、僕は分からないんです』
「え?どういうことだ?」
『皆さんが見て、感じている体験を例えて、映像化する事ができないんですよ。それを映像化し、音をつけ、感覚とかその他センスで総合的にリアルと認識しているのは皆さんの脳なのだそうです。僕は今、データ的にどういうシーンにいて、どういう音声テキストがあるのか、それを数値や、大雑把な図で見ているに過ぎないんです』
「じゃぁメージンは、この美しい世界の映像が、見えないんだ」
『いずれは見える様にするみたいですけど』
 アインがテリーの背中の上で首を巡らせる。テリーも訝しげに周りを見回した。
「てゆーか、これ絵、じゃないよな……」
「リアルにしているのは、そうか、僕等の脳なのか」
 ナッツが、神妙な顔で空を見上げる。それから自分の背中に生えている羽を何と無く見た。
「飛べる、って事なんだね」
「え?」
 ばさりと、大きな翼をナッツは突然広げた。そして大きくはばたいて……神官風な服を来たナッツが空中に浮かび上がり、あっという間に空に舞い上がった。
「ええええッ!」
「あたしも飛べるね」
 と、ドラゴンであるアインもテリーの肩から飛び立った。
「じゃ、僕も飛びますか」
 なぜか笑ってレッドが手に持っている小さな杖を掲げた。
 口の中で何かを呟き、突然レッドも空へ飛び上がる。
 俺はぽかんと、その様子を口開けて眺めているのが精一杯だ。
 ええ?何、俺未だに現状を上手く理解できてないんですけど。
「飛行魔法ね、いいなぁ、あたし実戦的な魔法しか取得しなかったもんなぁ」
「魔法ッ!?」
 俺は隣のアベルを勢いよく振り返る。
「面白いね、設定した技能がこの世界では自分自身で実施できるんだ……」
 そう言ってマツナギが、突然背中に構えていた弓を取り、矢を番える。そしてあらぬ方向へ向けて弦を引き、放った。
 風を切り、矢は向こうの木の真ん中へ突き刺さる。
「弓矢の経験なんか無かったはずなのに、どうすれば矢を放てるのか、解かるんだね」
「そう言われると、」
 俺は、まじまじと自分の手を見つめた。
 どちらかといえば体力は無い方である俺は、恐る恐る腰に差している剣の柄を握り、鞘から抜く。

 重い。
 剣って鉄の棒だもんな、当たり前だが。

 でもずっしりと重みのあるこの剣を、手に収め掲げてみても疲労を感じない。
 ゆっくりと、左右に振って見る。
 安定したバランスで思い通りに剣が弧を描く。
「……すげぇ……」
 羽を広げてナッツがゆっくり降りて来た。着地に足を二三歩ステップし、素早く羽を折りたたむ。レッドもストンとその脇に下りる。アインだけが、小さな羽をゆっくり上下させ空中にホバリング待機。
 というか、理屈上それで空に浮いてるのは無理、だよな。
 無理なのに、あまりにも自然に、小さなドラゴンが宙に浮いている。

 ……不思議だ。

 これは夢だという。
 俺たちは夢を見て、その中でこの不思議な現実を体験している。
 体験させているのがMFC、現在開発中の新型ゲームハードで、そして体験しているこの世界が『トビラ』。

 異世界だ。

 足元に広がるこの草は間違いなくしろつめ草の様だけど、だけどここには、俺たちの世界には無いルールがあり、それが当たり前だ。
 ドラゴンがいて、赤目のリアルな人間がいて。羽が生えてる人間もいて、魔法っつーわけのわからない力がちゃんと働いていて……。
 俺は、剣を握っている。

 剣と、魔法と、ドラゴンと。
 すげぇ、めちゃくちゃ正当なファンタジー。

「すっげぇ!」
 俺はさっきからそればっかり言っているが、だって本当にスゲェんだ、それしかこの感動を伝える言葉が見あたらない。
「確かにな、凄い」
 テリーが腕を組んで辺りを窺いつつ頷いた。
「だが、こんなもんじゃないんだろ、メージン」
『テリーさん、冷静ですね』
「期待してんのさ」
 と、テリーは不敵に笑った。
「レッドが取得した魔法がちゃんと動く、って事は。取得した技能を俺も使いこなせるって事だろ?」
 手を解き軽く拳をぶつける。
「俺自身で戦えるって事だな?……早速、敵が欲しいぜ」
「この戦いバカ、早速対戦相手を求めてんなよ!もうちょっと、こう、世界のリアリティに驚けってんだ」
「CGじゃねぇんだろ、だったらリアルなのに何か不思議な事があるのか?」
 俺の言葉に、テリーは少し嘲笑って首を傾げた。
「俺たちはココで、現実を現実だと認識する」
 自分の頭をココだと指して、テリーは空を見上げた。
「モニター見て、そこに映ってる映像でリアルを感じてんじゃなくて、モロに『情報』だけ送りつけられて、ココがそれを仮想ながらも『現実』として処理する。それがこの世界だろ。違うか、レッド」
「確かに、ずばりそういう事でしょう。僕等にとってここは夢で処理された……リアルな仮想現実。完全な、異世界なのです」
「リアルなのは当たり前、って事?」
 アベルは肩を竦める。俺と同じで、どこか腑に落ちない顔だ。
「夢の中にいる以上僕等にとっては、目の前の事実はリアルです。そう、たとえ夢だと分かっていても」
 「だからスゲェってんだろ?」
 俺はそれでもくどく、スゴい事を主張した。
「スゴくないとは、誰もいってないよ」
 苦笑したナッツに俺は口を尖らせる。
「だったらただ凄ぇと関心すりゃいいじゃねぇか。メージン、グッジョブ!って高松のおっさんたちに伝えてくれよ」
『ええ、わかりました』
 メージンは可笑しそうに笑っている。
 おい、どっか笑える所があったか?
「で、デバックをするんだっけ?具体的にはどんな事をすればいいんだろう」
 アベルの言葉にナッツも頷く。
「ここは何処なんですか、メージン」
 しかし、声が戻ってこない。
「……メージン?」
 怪訝な顔になり、ナッツは何と無く空を見上げる。
「メージーン!!」
 俺も大きな声で呼んでみた。が、返事が無い。

 おいおいおい、早速トラブル?

 なんだか途端にこのあまりにもリアルな世界に、俺たちは置き去りにされた気分になる。
 そしてそれがゆっくりと冷たく、恐ろしくも巨大な『現実』として圧し掛かってくる。
 そう、ここが異世界だとして、俺たちはあまりにもこの異世界に現実的に存在している。

 よもや自分が夢を見ているのだとは到底思えない。

 本当に、リアルに、異世界に迷い込んできている気分になってきた。
 とするとどんなに気丈を装っても内心不安だ。
「やだ、どうしたのよメージン」
 アインが少し慌てている。
 と、ばたつかせたその羽の後からテリーが手を伸ばしていた。アインの首をつまみ持ち上げようとした、みたいだな。
 首を触られて、慌ててアインは体をひねり一段高く空へ逃れる。
「やん、あたしは猫じゃないわ」
「……じゃ、どこ摘めばいいんだ?」
「摘まないで!」
「なんつーか、その羽の羽ばたきがウザイんだよな、俺の肩でも頭でも乗っかってていいから静かにしてくんねぇもんか」
「なんだよ、テメェも落ち着かなねぇのか?」
 俺はさっきの仕返しにちょっと鼻で笑って言ってやったのだが、
「オマエモナ」
 と、お決まりの言葉を真顔で返された。
 くそ、確かに俺もちょっと落ち着かねぇけどよ。
『あ、すみません』
 唐突にメージンの声が復旧する。
『やはり、時間軸が合っていない影響は多少あるようです』
「処理能力が追いつかないのですね」
『はい、どうやらそのようです。僕の、ではなく、オペレータ用の演算システムが……』
「いざという時に、メージンからのバックアップが無いのは辛いですね」
「あんまりメージンに頼らない方がいいって事か?」
 レッドは少し考えてから俺を振り返る。
「恐らくは、僕等がメージンに質問した事にメージンが答える、という作業が煩雑なのです。時間の流れがそれだけ合わないのだと思います。僕等の会話にメージンが一方的に補足を加える作業は逆に、簡単なのではないですか?」
「なんでだよ、」
「僕等の夢で体験したログはひたすら積み上げられていくんです。メージンは、恐らく若干未来の僕等の行動まで見渡した上で質問に答えるはず。そうしないと僕等に流れる時間には間に合わない」
 メージンからの答えは無かった。レッドはそれに、逆に確信を深めたように続ける。
「僕等がこうやってこの世界に来て、もう数分は経ったと思っていても、実際メージンのいる世界ではほんの数秒、一瞬の出来事なのかもしれません。その数秒の中にコメントを返すのが難しいのです」
「じゃぁ、どうすればいいんだろう」
「異世界に……来た事にすればいいって事か?」
 俺は、レッドの意図に気が付いて顔を上げた。
「俺たちはこの、トビラの世界をよく知らない。知らない事を、知らないから教えろと一々メージンに聞いてたら返事が追いつかない」
「もしここが異世界だというのなら、あたしたちはこの世界を知らないのは当たり前だね……だから、自分達でここはどこなのか、知ろうとすればいいのか」
「その間にメージンは必要最低限のオペレーターをする……メージン、それでよければ後でもいい、返事してくれ」
『はい、すみません、それでお願いします』
 声は間違いなく聞こえた。
「じゃぁ、私達は何をすればいい?」
「ここがどこなのか。この世界はどんな所なのか。僕等はここに迷い込み、何も知らない。知らないものとして、初めてそのロールプレイングゲームを始めた時のように……自力で世界を切り開くんです」
 レッドが小さく頷いた。

 自分で世界を切り開く……。
 あ、すっげぇ、なんか物凄くワクワクしてきやがったぜ?

 そう、楽しみにしていた新作RPGを始めたばかりの時のワクワク感。
 その世界がどんな所なのか。
 自分の手でその世界って奴を切り開く、か。
「よし、いこうぜ!」
 俺は抜き身っぱなしだった剣を鞘に収め、拳を天に突き上げた。
「私たちがこの世界でやるべき作業も、自分で探す、ってわけね」
「バクでしたね。一体、何がバグになるのでしょう」
 やっぱり、メージンの声は返ってこない。
 だけど、

 なぜかもう不安じゃない。

 漠然とした不安は、この世界がゲームであるという事を思い出せた事によって、途端、期待感に変わっていた。
 見えない未来は不安ではなく、どうなるのだろうという希望に変わる。
 不安と期待は、背中合わせだ。

 先が見えない事は、不安である以上にスリリングだろ?
 ゲームであると知っていれば尚更。


 俺たちは、しろつめくさの敷き詰める草原から歩き出す。
 林の切れた所に見える、あの青い場所を目指そう。
 空気に混じる、僅かな磯の匂い。
 これが勘違いでなければ、きっとそこは海だ。
 この異世界でも海は青い。

 海か……そういえば、リアルに海を見たのはいつで最後だっただろうな。
 元々、俺の実家は盆地で海には縁遠い場所だった。多分指の数程もナマで海を生で見た経験は無い気がする。
 ましてや波打ち際の海の水に、触れる事なんて。

 都会に出て、いつも見ていたのは濁った海水の港だ。

 ああこれも海だ、とは思うけど、モニターの中に映し出されたどこかの綺麗な海の映像や、完全なバーチャルな海の絵に。
 こんなのは海じゃないと、どこか頭で否定していた。
 海、それでも俺の頭は、あれを海と認識する。

 例えば俺はリアルに、海を見た事がなかったら。
 この、夢で体験した海は、どんなにリアルでもやっぱり夢でしか無いのだろうか。
 いつしか砂地になっていく足元で、サクサクと快い音を立てる。
 静かに打ち寄せる波の音は、ずっと前から耳に届いていたはずなのに。
 目の前にして、なぜだかようやく認識できる。

 森が開けた。
 そして椰子に似た木の林を超えた先に、水色から真っ青にグラデーションした水が遠く広がっていた。
「綺麗な海……」
 隣でアベルが囁くように呟いている。
 そういや、こいつ……俺と違って海育ちだって話だな。

 綺麗な海、か。

 正直綺麗だと思える海を、生で見た憶えが俺には無い。あったかもしれないが記憶に無い。
 テレビとか、バーチャルな体験ならあるけれど。
 それでも、確かに。

 俺はこの海が、綺麗だと思った。
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