異世界創造NOSYUYO トビラ

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1章 REM SLEEP革命 『望んで迷い込む作法と方法』

追加 書の8 モニタールームの神様『ここだけ書が一つ足りてないよね』

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■書の8■ モニタールームの神様 after open sesame 


「すまないねぇメージン君、私としてはバックアップなんて不要だとは思っているんだが」
「そうは言いますがチーフ、いきなり全員同じ条件で、っていうのは……」
 7人のテストプレイヤーがそれぞれ、リクライニングする椅子に付いている様子を俯瞰できる部屋で、僕、髙橋ランはどうしていたかっていうと、実は皆と全く同じ椅子に座って、前が見えないスコープをかけていたりする。
 僕の、仕様については暫らく皆さんには秘密なんだそうです。でも、レッドさんやデイトさんならどういう状況かは御見通しなのかもしれないけどね。

 僕だけどうして別にするのか、バックアップに残す、なんて皆には言ってあるけど結局のところ、ゲームの中に入らない事にはバックアップ作業だって出来ないんだって。
 僕は、皆とは別にゲームの仕様など、先に色々説明を受ける事になった。解説役としてみんなの冒険に付いて行く役をお願いされている。だから、皆に説明する為にも事情を通しておく人を一人作る必要があったみたい。
 MFC開発スタッフの人達とも全員、挨拶をしたのは今の所僕だけだ。
 なんというか、こういうゲームを作るスタッフだからかもしれないけど、テストプレイヤーに向け、新しいゲームをサプライズしたいという気持ちが強すぎて何も説明しないでゲームさせる方向になってるみたいだけど……全面的にそれじゃぁダメでしょ、っていう事で僕がここに残っているというワケ。

 開発スタッフの各部署代表が、僕と同じバックアップルームに集まっている。
 
 先ほど、解説をしたのがチーフ、一番権限が強い人と言う事らしい、高松雅さん。物腰は低くてエラい人っぽくないっていうのが正直な感想なんだけど、ゲームを純粋に楽しんでほしいという意欲が凄い強いのかもしれない。
 その高松さんを全面的にバックアップしているのが見た目スラっとしてて、高松さんの周りをテキパキと動きまわっている鈴木時雨さん。高松さんがちょっと猫背だからだろうか、背筋が伸びがすごく目立つね。
 次に、チーフにあれこれ鋭いツッコミをして実際に、場を〆ているのが斎藤渚さんだね、デキる女性、っていうオーラが出てると思う。コンタクト愛用者だというのがさっき、確かアベルさんだったかな?彼女のコンタクトを取り外す為に予備品を出して来た所からしてそう判明したよね。
 僕たちにゲームの簡単な説明をしたのは、先ほど名前を聞いた通り、佐々木亮さん。今はナギサさんの指示にテキパキと答えて色々な機器を起動させたり、チェックをしたり動き回っている。
 同じくリョウさんに指示を出している、関西訛りのあるのが伊藤早苗さんだね。あれこれ言いながらリョウさんと一緒に機器のチェックとか、僕が操作する事になる特殊な装置などの説明などをしてくれている。
 あまり言葉も無く、テキパキと動き回っているのは……体格はいいけど温和そうな山田大和さんと、田中葛さんだね。あ、でも田中さんはどっちかっていうとドタバタしてるリョウさんに道を開けてなるべく動かない様にしている様にも見えるな……年齢がスタッフさんの中では上の方なのかもしれない。すごく落ち着いてる。山田さんはゆっくり、重そうな機器の移動などを手伝っているみたいだ。
 で、テーブルの奥の方ですでに出力し始めているデータを、モニターでじっと見つめて何やらキーボードを叩いているのが、小野十六夜さん。ええっとねぇ……面白い事にイザヨイさん以外全員眼鏡なんだよ。まぁ僕らもあんまり人の事言えない眼鏡率だったけどね。さっきリョウさんはメガネしてなかったけど遠視みたいで、パソコンをいじる時は掛けてるみたい。
 その、唯一裸眼と見られるイザヨイさんはちょっとコミュニケーション不全な所があるらしく、自己紹介に関してもサナエさんの代理になっていた。結局一言もしゃべっている所をまだ見ていない。

 僕らテストプレイヤーも8人で、メインスタッフも8人なんだね。
 聞くところ、これから入るゲームの中の世界においても8って数はそれなりに重要なんだって。僕らで言う所のラッキーセブンくらいに、トビラにおいて8は切りの良い数字の事らしい。
 世界の名前は、八精霊大陸っていう認識がされている。横文字にするとエイトエレメンタラティスって云うそうだ。
 八つの精霊の大陸か、大体の物事が8の数字に合わせてあるみたいだね。

「チーフ」
 と、低い声で誰かが、やや鋭い声を発したのが聞こえた。僕はすでにバックアップする為のモニターをする為に、特殊ログインの準備に入っていたのでスコープを掛けているし、椅子を倒して横になってる。
 僕はゲーム実況や攻略サイトや動画を趣味でやっているんだけど、……色々な事に向けて記憶力が高い事を自負しているんだ。もっと別の使い方がある、とかいう人も身の周りには居るけど、こういうのは好きな事に向けないと最大限には発揮出来ないんだよね。
 そんなわけで、僕はもう一通り聞いただけでスタッフさんの名前と顔、声などを覚えてしまっているんだけど、今の声の人のデータが無い。

 って事は、この声がイザヨイさんかな?

「……ふむ、なんだろうねこの数値」
「どうかしましたか」
「いや、ここの、この数字だが」
「なんでしょうね、想定外すぎて意味不明」
「せやね、なんやろか」
 僕には、聞かせたくないのかな?小声で何やら話しているのが……聞き取れる。僕、目は眼鏡の通りあんまりよくないですけど耳は良い方ですよ。
「今戻って来る数値じゃないですよね」
「そう、こっちの入ってる数値は想定内。でもそれに対して今、ここが特出するのはどうしてかしら?」
「出しようが無いはずですよね?」
「シグレ、ここのデータも取っとるんやろか」
「勿論です、全て記録しています」
「せやったら、とりあえず今は後回しにせんか?」
「でも、何か影響が出る可能性は?……このセクションは私の管轄外だから良く分からないけれど」
「担当の私から見ても何がどうしてなんとやら、よ」
 うーん、聞こえてますって主張して声を挟むべきかな、それとも、さっさと眠ってゲームの中に入るべきなのかなぁ……こんな状況じゃ気になって、眠れないよ。
「端的に言うとこれは、どういう状況かね」
 というのはチーフの高松ミヤビさんの声だね。
「イザ、答えんかい」
「……エントロピー拡大に対するエントロピーの放出」
「まだ、世界から溢れる程に情報量は豊和しているはずがないのに?」
「情報量の放出……だと、少し辻褄が合わない」
「そうだね、もしそれなら同量か、ある程度の理論値に収まるべきだ」
「ありえない話だけど」
 ナギサさんの声が、少し深刻そうに聞こえる。
「チーフ、要するに今彼らがログインしたのと入れ違いに、何かがトビラから出て行ったという事では?」
「出ていける様なオブジェクトは今、入り込んだばかりの彼ら以外には無いだろう」
「せやから、チンプンカンプンゆーてます」

 みんながログインしたのと入れ違いに、何かが、出て行った?

 トビラっていうのは要するに、今回のゲームの主要となる世界の事でエイトエレメンタラティスの事、だよね?
 僕は聞いてしまった情報から、どういう事なのかと考えてみる。
 まだ、僕はそのゲーム世界がどんなものなのかも見ていないし、正式な体験は出来ない特殊なログインになってしまうそうだけど……こう、イメージとしては何を考えたと思う?

 トビラという仮想世界から、何者かが現実世界にやってきてしまった。

 そういう事なのだろうか?という想像を働かせていた。
 とはいえ、話を聞く限りあくまで『戻って来た』のはデータ、情報量だけみたいだ。数値とかにしてモニタリングしたりすることは出来ても、結局のところそれを受肉するような受け皿になるようなものがこちらになければ、どうってことは無い。
 この世の中にデータだけで実世界に仇名す事が出来る現象が科学として『在る』なら問題だけど、今の所そういうのはオカルトや、精神論だからね。
 ふぅ、スタッフさんにバレないように僕は、深い溜息を洩らした。
 一瞬何事かと緊張したけど、結局のところ想定外の何らかのデータが出た、って騒ぎでしかなさそうだ。一瞬昂った分、深く息を吸い込んでみるとすうっと意識が遠のく様な感覚がある。
 さっき飲んだ、多分睡眠薬だろう、それが効いて来たのかも。

 さ、僕も早い所バックアップの為に、みんなに追いつかなくっちゃね。

 
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