異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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3章  トビラの夢   『ゲームオーバーにはまだ早い』

書の2前半 王女?誘拐される 『なぜ疑問符をつけるんでしょうか、ね』

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■書の2前半■ 王女?誘拐される maybe queen,was kidnaped

 とりあえずキリュウの兄でシーミリオン国の英雄にして予定王様。
 すなわち女王ユーステルの伴侶『予約』の入っている、天才偏屈医師リュステルとやらの行方を、探す約束を俺達はする事にした。

 するかしないかで二人の態度は違うだろうと思う。そういう、下心も若干あります……ええ。
 ただ全力で探すという約束は出来ないけれどと、そう断ったら分かっていますと返答してくれた。

 藁にも縋るか、一縷の望みを託す、か。

 でも、二人はリュステルが死んだとは本気で、思ってないみたいだな。
 絶対どっかで生きているという確信みたいなものがあるんだろう。そしてそいつはきっと魔王の近辺にいるのではないかという、何か強い勘が働いているみたいだ。

 何も確証はないみたいだけどな。

 英雄や王になるだけの器を持ってる人だから、きっと何か行方をくらませている理由があるに違いないと、二人は信じている。
 俺たちはそんな二人の思いを信じる事にしたわけだ。
 もちろん、これにも何も確証は無いけど。



 船に戻る前まで二人はすっかり主従関係が崩れて、親しい友人のようなノリでキリュウ、ユースと呼びあうという状況だったりした。
 それは割かし普通に見えて、こっちの方が自然体で会話しているようにも思える。
 だが船に一歩乗り込むなり、完璧に女王と従者に戻ってしまうのだった。

 正直、俺はそれがちょっと残念だ。

 何ってわけじゃねぇけど。
 やっぱ国を背負っている女王なんだから、そうやって毅然と振る舞わなければいけないわけで、他人行儀に戻らざるを得ないのは仕方ないとは思うけど。
 このまま勢いで俺も彼女の事、ユースって呼べたらいいよなぁなどと思ってたりしたからさ。何と無く……根拠は無いけど『生きている』と頑なに信じ続ける、愛する人が在る、普段はすっかり隠されている女性の一面を見せられちまったら、当然とそれ以外の言葉も仕草も全てが嘘臭く見える。

 ユーステル女王だなんて呼びかけたら、俺もなんだか嘘をついてる気分になるような気がしてな……。

 再び部屋に案内されて、何故かその後をユーステルはついてきた。何か用があるんだろうかと思って気にしていたら、最後に。
 人を払って、ユーステルが小声で囁いた。

「あの、秘密ですよ?」
「へ?」

 何を、秘密にするんだ?と俺は、わざと惚けた。

 笑った顔で、肩を竦める。
 そんな俺の態度を咎めない全員。そう、ユーステルの言っている意味は俺達全員わかっているし、俺達が取るべき態度も分かっていて一致している。

 もちろん、秘密ですよ女王陛下。

「ありがと」
 砕けた様子で囁く女王は、顔を赤らめながら付け加えた。
「……ヤト」
 ぱたんと、閉まる扉。

 ん?今、呼び捨てられたな?

「どういう意味だ?」
「鈍いですねぇ」
 レッドが肩を竦めて首を振りつつ、ため息。その仕草、わざとらしさが鼻につき一々むかつくぞ。
「そうだな……。場合によっては呼び捨ててくれても構わないって、事かな」
 とナッツが苦笑して、鈍い俺に教えてくれた。



 一日の大半がスキップされちまうが、一週間飛ばされるよりはマシだと思う。


 突然一週間経過していたら、流石にちょっと、日々が過ぎさった事を自然と受け入れられる自信が無い。
 それはスキップしてみないとわからん事だけどな。でも三日寝込んだのもスキップされちまうと一瞬だったよなぁ。やっぱり、あんまり長い時間飛ばされるのは困るんだと思う。

 結局真っ直ぐ俺達は西の大陸を目指す事になった。なんか、本当は城に戻るのもちょっと大変らしい。良く分からんのだが……。国の詳しい事はどうにも、あまり開示したくないっぽいな。シーミリオン国は未だ、他国に対し鎖国中だっていうからそういう都合かもしれません、とかレッドが言ってた。
 一週間ってのは西の大陸に陸続きになっている所まで、この船が航海に必要とする期間だ。海中も進める船なわけだが、だからと云って航行速度が速いわけでもないらしく、むしろ鈍い方らしい。もしかするとお城とやらはナーイアストが居たトコから遠いのかもしれない。

 エイオール船と比べるのが間違ってるんだろうな。あの船がちょっと早すぎたのだ。

 で、現在だが。
 船底に近い倉庫にキリュウから案内された俺とマツナギとアベルは、綺麗に整頓された武器庫に、感嘆のため息を漏らした所だ。
「ジメっとした所を想像したけど……」
「予想以上に整理整頓されているね」
 おいおいお前等、キリュウが苦笑してるぞ?
 仮にもこの国の女王が乗る船なんだから、そりゃぁ綺麗に整備されてて当然だろ?キリュウは微笑か苦笑か、なんとも微妙な横顔で言葉を漏らす。
「シーミリオン国と他国との国交が表上、途絶えて久しいわけですから」
 そもそもなんでシーミリオンは国を閉ざしているんだろうな?いまいち世情に疎い俺はその事情を思い出せないし、思い当たらない。……どうしてだ?と、その国の人間に聞くのもなんだか憚られる様な気がして口を閉ざした。レッドはリュステルが開発したであろう魔種移行への薬の副作用を疑っているが、この辺りも有耶無耶でちゃんとした返事が貰えてない。

 蒼白い魔法の灯火を掲げて、部屋の中央に吊り下げてキリュウは振り返った。
「どうぞ、この中からお選びください」
「いやぁ……こんな良いものから選べるとは思わなかったからなぁ……」
 と、一応社交辞令を述べつつ内心はしめしめなどと思っていたりします。ははは、宝の山を目の前にワクワクしない冒険者がいるかッ?いねぇよッ!

 何を選ぶのかってぇと、あれだ。

 ギルって奴にぶっ壊されちまった、俺の鎧だな。
 幸い、冒険者らしく軽装備の剣士ってのが俺のスタイルで壊されたのはブレストアーマー。全身鎧(フルプレート)だったら一式替えの危機でした。
 肩の部分だけだったら直してもらうかなぁとも思ったが、血糊もそのままに放置されていたのを見せてもらって、諦めた。
 こりゃ修理不可能だ。あるいは新しいの買った方が安く上がるぜって云われる奴だ。
 と、同時に俺が受けた傷がいか程のものであったのかも理解する。今やすっかり傷は癒え、うっすらと傷跡が残っている位で後遺症も無いがそれは、ナッツ曰くあまりにも『綺麗に』斬られたために、骨や筋肉、細胞、血管などを『繋げる』魔法が良く効いたから、らしい。
 当然と傷は肺まで届き、気絶していたから俺には自覚がないのだが相当量の吐血もあったそうだ。

 ばっくりとショルダーアーマーと、肩の留め具が紙をハサミで切ったみたいに真っ二つになっていた。胸の鉄板にも切り込みが入っていたが、心臓のあたりの厚い層で攻撃が辛うじて止まったらしく、奇跡的に心臓とその周辺の重要な血管は無傷で即死には到らなかったというわけだな。

 ああ思い出したらまた、無性に腹が立ってきた。俺は、はっきり言って悔しい。

 何がなんだか分からない内に一撃貰ってアウトだなんて、そういう設定ならまだしも……どっかにそういう仕様の攻撃特化機がいたよなぁ。
 俺は、パーティの先頭を担う盾役である戦士だぞ?残念ながら盾としては機能せず、物理攻撃力しかあてに成らない方の戦士になっちゃってるのだろうか?力の差に愕然として相手を恐れるよりも悔しさが勝る。多分その強さを頭が理解して、恐怖する前に気絶しちゃったからかもしれない。そう、俺はあまりギルに対して恐怖感を抱いていなかったりする。
 ……他の奴等はわかんねぇがな。

 まぁとにかくだ。折角アドミニボーナスで、良い装備を揃えたってのに早速それをダメにしちまったわけで。俺はそれなりの装備品をチョイスしなおさなければいけない状況なわけだ。

 そうしたらやっぱり、頼みごとは聞いておくもんだよなぁ。ユーステルの好意で武具をいくつか分けてくれるって話になったんだ。

 べ、別におねだりしたわけじゃないんだからねッ!

「これだけあると、迷うね……」
 マツナギは鞘に収まった曲刀を手にとり、しげしげと眺めている。アベルは立てかけてある剣をじっくりと目で追いながら、マツナギの意見に同調して頷いていた。
 俺の防具の他に、アベルも剣を貰う事になっている。というのもあの惨劇の砂浜で、剣を抜いて構えたはいいものの、突然血を吹いて倒れた俺を船に引き上げる為……剣を、その場に投げ捨ててきやがったんだよ、こいつ。
 当然、アホか間抜けかと詰ってやりました。
 そしてやっぱりその俺の言葉に頭にきた彼女とケンカになって、ナッツから中断されるっていう一連があったと思いねぇ。

 俺がぶっ倒れたのも悪かったろう、でも驚いて気を動転させてしまったアベルもアベルだ。

 ナッツからそのように諭されて、今は何時もの通りに戻っている。
 マツナギも一緒なのは、アベルが付き合ってと誘ったからだ。いや、もしかするとナッツあたりの差し金かもしれねぇな。俺とアベル二人っきりだと、またケンカし出すんじゃねぇかと気を回したのかもしれない。

 俺はそんな事を考えつつ、並んでいる甲冑を見回した。戦士なヤトの感覚で良いのが揃ってるが分かる。確かにこれだけ良質の物を目の前にすると、迷うな……。
「なんか、お勧めとかあるか?」
「そうですね……よろしければ、」
 キリュウは滑る様に倉庫の奥へ歩き出す。俺はそれについていくと蒼白い不思議な色の金属で出来たショルダープレートと、鎖帷子の前で俺に振り返った。
「こちらの鎧はシーミリオン国で開発された特殊な金属で作られています。鋳造術師であった、私の父の作品で、世界に二つと無いでしょう」
 見た目すげぇシンプルなんだが、キリュウからそう言われて見る目が変わった。
「ミスリル銀みたいなもんか?」
 などと言っていけないというのに『上』での事を口走ってしまった。が、キリュウは笑い、あんな高級な金属で鎧を作るのはよっぽどの金持ち皇族でしょうねと返してきた。
 ああそうか、こっちの世界にもミスリル銀と呼ばれる物質があるわけだな?しかし、それは鎧などに使うべき素材じゃぁねぇってわけだ。装飾品向けのプラチナか何かかもしれん。
「しかしこの鎧に使われている金属も、ミスリル銀に等しい程の価値はあるでしょう」
 ……って事はこの鎧、このシンプルさに見合わずものすごく高価なものって事だよな?
 俺は驚いてキリュウを振り返る。
「そんなの、貰え無いよ」
「いいのです、ここにあっても宝の持ち腐れとはまさにこの事。貴方のような相応しい戦士に着られてこそ、武具は輝くものです」
 すっかり煽てられて俺はこの鎧に決めてしまった。
 派手さは無いがそれがまた良い。鎖帷子を付け、留め具の調整をしながらサイズを合わせて見る。キリュウはそんな俺を満足そうに見てゆっくり首を振り、ゆっくりと右手を差し出した。
 右腕に大昔……地球の海に生きた海竜に似た生物をモチーフをした、篭手をつけている。こっちにもこういう海竜の怪物は居るのだろうか?
 残念ながら、戦士ヤトは知らないみたいだ。何も思い出せん。
 その金属は彼のまとう水色のローブに色が溶け込んだように不思議な色で、よく見ると俺が選んだ鎧の金属に反応が似ている。多分同じ金属で出来ているんだろう。
 キリュウは差し上げた右手をゆっくり開き掌を返して指し示すようすると……篭手が、にゅるりと動いた!そしてそれが溶けて金属の塊になったと思った瞬間縦に伸びきり、棒状になってキリュウの手に収まっている。

 彼がいつも突いている長い槍だ。それが突然彼の手の中に現れた!

 俺がびっくりして言葉を出せずにいると、キリュウは微笑んでその槍を俺に示す。
「ヤトさん、槍は使えませんか?」
「へッ?」

 そんな俺の間抜けな返答と、突然倉庫に響き渡った甲高い声が重なった。

「大変!大変たいへーん!」
 わかった、わかった、大変だってのは分かったが……何が大変なのかが問題だろうが!
 俺は驚いて振り向くと、上へ続く階段から転げ落ちるように小竜アインが喚きながら飛び降りてきた。
「どうしたのアイ?」
「何か、変なのが……」
 と、ぐらりと足元から揺れてキリュウも例外ではなくその場でバランスを崩した。
「襲撃?」
「表へ!」
 キリュウが動いたのに俺も続く。
 その時に、さり気なくキリュウは俺の手に問題の槍を押し付けてきた。何がなんだか分からない内にそれを受け取ってそれを持ったまま甲板まで、俺は上がるハメになってしまった。
 ん?いつの間にやらアベルも新しい剣を手にしているな。
「こっちだ!」
 甲板へと続く扉の前でテリーが呼んでいる。テリーを先頭に、海面近くの海中を進む船の上から差し込む光が眩しく出迎えた。

 そしてその船を囲む、怪しい黒い影も、な。

「潜行!」
 キリュウが鋭く手を差し上げ叫ぶと、すぐそこにあった海面が遠ざかっていく。
 船は揺れる事無く深く海に潜り始めた。比較的浅い海を進んでいたんだな。
 しかし、怪しい黒い影も追って来る。今や、光に目も慣れて俺達はその影の正体を目の当たりにした。

 それは懸命に水を掻き、船を追って泳いでいる怪物3匹だ。

 立派な牛の角を生やした、筋肉隆々の巨大な体は黒い毛が覆っている。見える所足はやっぱり蹄だ。しかし必死にそれが平泳ぎでこっちを追いかけてくる様は、余りにも滑稽で、俺は思わず吹き出した。我慢できなかった。
 息を止めているらしく、頬を膨らませて口を閉じている牛の怪物の顔は……恐怖よりも先にその必死の形相がリアルな事もあって、とても笑えるものに仕上がっていたんだよ。

 他人の苦労は蜜の味だな。

 しかしテレビ番組で罰ゲームを受けるコメディアンは、それで笑いを取ってナンボであるが、怪物達は別に俺達を笑わせる為に必死に潜って来ている訳じゃぁねぇ。
 奴等は突然、グワッと口をあけて空気を吐き出した。多分、俺が笑ったのを怒ったんだろう。しかしおかげで口を開けて水を吸い込み……。

 恐らく、彼らは溺れた。

 わたわたと水を掻き、こっちの船を追いかけるのを諦めて海面へあがっていってしまった。
「……何なんだアレは」
 俺は呆れて手にした槍を構えつつ、再び笑いそうになって痙攣する頬を震わせながら呟いた。
「気ィ抜くな、あれで大人しく諦める奴らじゃねぇ」
 と、テリーが横で怒鳴るが……。
「それって、お前の希望じゃねぇの?」
 対戦大好き格闘民族であるテリーは上を睨んだまま、俺にだけわかる様にニヤリと笑った。
「そうとも言う」

 しかしテリーの言った通り、3匹の牛の怪物達は海面と思しき所まで引き返した後、再びこちらを目指して潜ってくる様子が窺えた。残念ながら先にも説明した通り、この船の航海速度は遅いのでヘタすれば追いつかれるだろう。
 そして、今進んでいるのはサンゴ礁が見事な、海としては地形が複雑であまり深くは無いコーラリアルである。
 もっと深く潜って逃げる事も難しい。
「追って来る気満々だな……」
 その時ようやくレッドやナッツも甲板に上がって来て、状況を素早く確認する。
「敵ですか……しかし、海の中に素潜りとは」
「必死だなぁ……」
 流石の軍師も呆れ顔、ナッツは素直に苦笑している。
「どうする?倒した方がいいのかな?」
「っても、海の中では自由に動けないだろ?」
「だからってこのまま泳がせて連れて行くのか?甲板の上に連れて来るわけにも行かないし……」
 甲板はそれなりに広いが、それでもあの怪物3匹が上がりこんだら相当に狭い。船は相変わらずノロノロ運航。振り切れる……と、キリュウは判断してるっぽいな。あとは奴らの根性次第だ。
「海という壁は僕等にも不利の様ですね……」
 確かに。レッドの言う通りこっちが一方的に攻撃を加えられる状態でもない。
「海流を操って奴等を流しちまえばいいじゃねぇか。そういう、魔法はねぇのかよ」
 レッドは例によって無い眼鏡を押し上げる仕草をしてテリーの言葉に返した。
「やはり、そうするしかありませんかね」

 なんだよそれ、つまりそういう魔法が『在る』って事か?

 レッドは紫色のマントから両手を差し出し、天へ差し上げた。
「イオンの海は雷を伝える、渡しの礎よ、現れよ」
 奇妙な呪文詠唱の後に、見上げた海中に二つの白いものが現れた。金属っぽい気配がするが、よく見えない、小さなものだ。
「電気が流れているね」
 俺の隣でマツナギが目を細める。俺には二つの白い金属片と海水の様子に差異は見出せないんだが、マツナギは暗黒貴族種で、若干の精霊干渉能力があるからな。
 彼女はその場にどんな変化があるのか独自の解釈で『見える』らしい。
 と、白い金属片が膨張した?違う、何だ?勢いよく気泡を吹き出し始めた!

 レッド、お前は一体何の魔法を唱えてるんだ?

 瞬く間に海中に現れた金属片を中心として、泡が立ち上がる。
 レッドは掲げていた手を下ろし、一瞬俺たちを窺って笑ってから再び海を見上げ、そして指を鳴らした。
「アースン」
 今度は実に分かりやすい『呪文詠唱』だな。しかし、意味は良く分からん。
 俺は魔法素質は持ってるが、魔法を使う訓練を一切やった事が無いという戦士って肩書きだ。当然、魔法に対する知識は無いに等しい。
 レッドが何か意味ありげな言葉を発し、指を鳴らした途端頭上の海が爆発した。
 衝撃で船を覆う空気の膜が揺れる。低く鈍い音が僅かに伝わり爆発は、何度も何度も起こっている事を物語った。そして爆発が起こるだけ海が膨張し、湧き上がり、激しい無秩序の海流が巻き起こる。
 それに干渉されて……こっちの船も揺れ出したぞ?
「おい、レッド!やりすぎだ!」
「いえ違います、これは……相手も魔法を?」
 全員が身構えた。海が突然秩序を持って黒く渦巻き、レッドのかました魔法を巻き込み光を遮って、あたりは薄暗くなってきた。

 空気の膜を突き破り、黒い渦巻きが甲板の上に崩れ落ちる。

 それはレッドの魔法の所為か、それともその禍々しい渦の所為なのか……。すっかり体が殆ど引き千切られて事切れてるさっきの牛の怪物達の死体だった。

 しかしその黒い肉の塊の奥から、勢いよく何かが起き上がる。

「一匹生きてたらしいな!」
 テリーが好戦的に一歩前へ出る、3匹のうち1匹の怪物はなんとか生きていたらしい。無傷……では無いようだが、しかし受けた傷の所為で少々逆上しているっぽい気配がする。
 びりびりと空気の膜を振るわせる激しい咆哮をかまし、俺たちをビビらせようとするが……恐くねぇな。

 全然だ。
 そんな、威勢だけの大声なんて大した事無い。

 あの無駄に研ぎ澄まされた、ギルの殺意に比べたら全然、可愛いもんだぜ。
 俺は手に持たされていた槍を構えていた。ええと、遅くなったがキリュウ、返答しよう。

 俺は、槍もイケる口だ。
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