異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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3章  トビラの夢   『ゲームオーバーにはまだ早い』

書の2後半 王女?誘拐される 『なぜ疑問符をつけるんでしょうか、ね』

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■書の2後半■ 王女?誘拐される maybe queen,was kidnaped

「押し流せ、キャタラクト!」
 恐らくその声はキリュウか?
 突然俺達の頭上に大波が現れ、牛の怪物に向けて襲い掛かる。激しい水の流れは血に汚れた甲板を洗い流したが、生き残っていた怪物を外の海に押し流す程の力は無かったようだ。
 両手を前に組み二足歩行の蹄の足で踏ん張っていた怪物は、ゆっくり顔を露にして血走った目で俺たちを睨んで来た。下半身は筋肉隆々の牛だが、上半身は筋肉隆々の人型で、頭が牛。
 なんかめっちゃ見た事ある造形ですね、リアル俺の知識だとミノタウロスとか呼ばれるギリシャ神話由来のアレを彷彿とさせる。しかし、武器の類は無しだ。素っ裸で、下半身がリアル牛なのでグロテスクながら立派なアレも付いていらっしゃるし、明らかに牛の声帯からは出なさそうな声で低く唸っては吠え立てまくっている。
「畳み掛けるぞ!」
「おう!」
 テリーの掛け声に俺は答え、勢いよく敵に向かって行った。鋭い爪の生えた巨大な手は一掴みで人間を握りつぶしてしまうくらいデカいのだが……テリーを狙った右手は空を掴み、続いて突っ込んできた俺に向けられた左手は、槍尻で振り払ってやった。

 左腕の軸である怪物の肘近くに向けて、撃つように槍を旋回させ、振り払いつつ俺自身は敵の懐に入り込む。
 このまま突き刺してもいいが多分、一発で仕留めんのは無理だな。なんとなく、しぶとそうな気配がする。

 分厚い胸板を斬り上げつつ、俺は一旦敵の懐を潜り抜けて側面の死角に逃げ込んだ。
 そんな俺に気を取られ怪物が顔を向けた途端、上へ跳んでいたテリーから重い蹴りがクリーンヒット。牛頭を首下から蹴り飛ばす一撃が綺麗にキマっていたが……しぶとそうという俺の勘は当りだな、巨体が背後に仰け反ったものの、首をへし折るまではいって無い。
「試し撃ちさせてもらうわ」
 完全に無防備な正面にアベルが立ち、倉庫から持ち出した小型剣を振り被っている。しかし、相手は若干バーサーカーモードとでも云いますか、戦いに向けて異常なほど勘働きが鋭くなっているっぽい。テリーの一撃に発狂する前に、正面からの攻撃に気が付いた様で僅かに体を低くしている。多分、それでテリーの一撃も若干甘く入ってたのかもしれない。

 鋭い真空の刃が走り抜け、怪物の頭の立派な角を二本とも同時に切り落としていった。
 遅れて爆風が吹き抜け、船の空気の層を思いっきり掻き乱して海中へ拡散、その衝撃で船が揺れている。
 あぶねぇ、もう少しで怪物の頭を落とす所だったんじゃねぇ?って、それは俺が心配する事じゃぁねぇか。余計な心配をしつつ俺は素早く、槍を側面から突き入れていた。
 狙ったのは無防備に前にさらしていた奴の巨大な腕。二足歩行で手が人間に近いってんだ、奴の武器はこの腕だろうと思う。だから真っ先にこいつを奪っておこうじゃねぇか。
 俺が突き入れた槍は、怪物の二本の巨大な腕を串刺しにしている。勿論、骨を避けて関節を狙ってドンピシャで刺した俺の仕事がきっちり入ったのもあるだろうが……すばらしい貫通力だ、こりゃ逸品だぜキリュウ。腕一本関節からぶち抜いてやろうと思ってたのに、まさか両腕串差しにしちまうとは。

 ぐんと引っ張られる気配に俺は、素直に槍から手を離した。両腕を横から串刺しにされて自由が利かない事に驚いて反射的に、怪物は両手を上に揚げてしまっている
 そこへトンと軽快な音を立て、甲板に着地したテリーが前方へステップ、難なく敵の懐に入り込む。

 来るぞ、奴のお得意の、アレが!

「くらい、やがれ!」
 ビンと、甲板の床板が脈動したのを足に感じる。
 頑丈かつ柔軟な船板で良かったな、ヘタすりゃ床板が割れて船が破壊されていたかもしれない。テリー、頼むから貧弱な作りの建物の中ではその技使わないでくれよ……。

 牛の怪物は、たたらを踏むまでも無く背後に倒れた。その場に立っているのはテリーだけだ。

 両足を踏ん張った体制で左手を上に下から突き上げる形でテリーが固まっている。一時置いて、ゆっくり息を吐き出してテリーは構えを解いた。
「へッ、こんなもんかよ」
 それは、すでに相手が絶命した事を悟ってのテリーの言葉だろう。素早く胸の前で十字を切るような仕草をしつつ、ある意味悪態をついている。全く、物足りないってのかこの戦闘民族。まぁな、あの一撃をマトモに喰らって、生きている訳が無い。俺も間違いなく怪物が事切れた事を察した。

 あれは拳闘士テリーお得意の『発勁』。ハドウって言った方が分かるか?リアルで言う所の空手や中国拳法系に見られる、力点移動による衝撃波を打つ一撃だな。これをテリーは時に遠距離攻撃として使って来やがる……実に、ファンタスティックな仕様な技だ。当然、近くで受けた方がダメージはデカい。
 闘技場の無差別級でこいつと当たるといっつも、この攻撃に悩まされたっけなぁ。こっちの防御点を無視する上に、武器を破壊するのに使ってくる。ヘタに獲物をぶちかますわけにもいかず、慎重に攻撃を組み立てなきゃいけねぇんだ。
 などと戦士ヤトの回想をしつつ、俺は槍を回収すべく死んだ敵に近付いた。無残にも怪物は口から血泡と臓腑を吹き、両目が……飛び出している。それらが黒く変色し、ぐずぐずと融け始めている。
 テリーの奴、斜め上に入れたな?内蔵系から心臓、果ては延髄、脳味噌まで『衝撃波』をぶち込みやがったんだ。フルコース、それだけ相手の『ボディががら空きだぜ』状態だったわけか……。合掌。

「キミ達、弱い、ってわけじゃぁ無いんだね」

 ぎょっとして俺は、槍を引き抜く手を止めて顔を上げる。すでにレッドとナッツはその人物を見上げていた。俺達が戦ってる間もすでに、奴に気が付いていた、そういう顔をしているな。

 船の高いマストの上に、腰をおろしている……人影があるんだ。

 こっちからは丁度背中なのだがレッド達からは顔が見えるはずだ。
「ちょっと甘く見たかなぁ……」
「何者だ!」
 キリュウは、今の声でその存在に気がついたらしく若干慌てている。
「何時現れた?」
 テリーも苦い顔で構えなおすも、あんな高い所に居ちゃぁお得意のハドウも届かないよな。遠距離ったってそれは間合いにおける距離感での話な訳だし。
「降りてきなさい!」
 アベルが剣振り回している。俺も急ぎ槍を引き抜くと、それと同時にマストの上の人影が音も立てずに甲板の上に飛び降りてきた。おお、アベルの言葉に応えたのかよ。素直じゃん。

 ふわりと、見えない羽があるようにゆっくりと足をつけて、手に持つ小さな杖を肩に担いで姿勢を崩す。

「先日はどうも、ウチのバカが迷惑かけたね」
 明らかに人を小馬鹿にした様に、しかも俺やアベルやテリーには尻を向けたまんま、そのガキはわざとらしくお辞儀した。
「その紋様、……魔王八星?」
 キリュウの驚いた顔を見るまでも無く、ああ、そうだろう。

 こいつは恐らく魔王関係者だろうと思ってたぜ。

 何しろ、ガキの頭上に赤い旗が見える。

「ふぅん、やっぱり見えてるんだね……」
 小さくそう呟いて、そいつは俺達にも振り返った。顔に紫色がかった左右対称の模様が在り、さらに頭の側頭葉付近から左右三本ずつ、角のような管が突き出している。明らかに人間じゃぁないな。
 しかし、何の種族なのかなんとも特定出来ない。それはあの巨漢の男、ギルも言える事だ。
「驚いたよ、気が付かない様に隠れていたつもりだったんだけどね」
「こっちは貴方が魔法を放ったのでようやく、気がついたんです。全く、何時からあそこに居たのですか?」
「てゆーかお前、何の用だ?」
 レッドの困った笑い顔と、俺の問いにガキは笑い肩を竦める。
「はは、そんなにビビら無くたっていいじゃないか」
 うるせー!別に、びびってるわけじゃねぇ!幸いこのガキんちょ、まだ俺達に敵対心は出してない所為か、威圧感的なものは無いのだが……ギルと同じ、魔王八星の一人だとするなら見た目なんかで騙されると酷い目に会うに決まっている。

 用心に越した事はねぇ。大体現れた目的なんて、今現在考えられる所一つしかねぇじゃねぇか。
 俺は黒い血に汚れた槍を下段に構えつつ、強くその柄を握り締める。

 サンプルとやらを取りに来たってんだろ?

「ふぅん、」
 しかしなぜかガキは俺達を見上げるように上目遣いになり、口に人差し指を当てて笑う。
「まぁ、最初にあのバカに当たったのは不幸だったよねぇ。とりあえず、まだ生きてるってだけで拍手を贈ってもいいくらいなんだけど。でも僕に言わせるとそれって、ただの幸運だよね」
「何が言いたい」
 テリーが、今回はなぜか強気で拳を打ち合わせる。
「僕はねぇ、あのバカと違って自分の手を汚すのって好きじゃぁないんだ」
「!」
 それにレッドが何か気がついたように顔を上げる。そしてガキもやはりレッドの動きを察したように笑ってそっちを振り返った。
「ま、そういう事だから。今回は自己紹介だけにしておくよ……僕はインティ、お察しの通り、八逆星が一人インティ・Lだよ。まぁ、あんまりで他では会わない事を祈ってるよ。厄介ごとって僕、嫌い」
 バカにし腐った笑い声を残し、すっと、姿が掻き消えた。

 俺が惚けた声をあげるのと、レッドとナッツが言葉を発したのは同時だった。

「キリュウさん、船の中を!」
「もしかするとユーステルさんが危ない!」
 しかしキリュウはいまいちその意味を理解せず、一瞬慌てて動作が伴わない。アインが嘴でマツナギを突付き、マツナギは促されるように船内へ続く扉を開けた。
 途端彼女が口というか、鼻を抑えたのが見える。俺とテリーは何事だと一瞬顔を見合わせて慌てて駆け寄った。
「何だ、この匂い……?」
「いや、僕は何も匂わないけど……」
 ナッツが鼻を鳴らす所へ俺達も近付く。確かに別に何も匂いはしないが……アベルは顔を顰めている。
「生臭い匂いがするのよ、死臭って奴じゃない?……そうか、感覚系に鋭いのって貴族種とイシュターラー(遠東方人)だけなのね?」
「いくぞ!」
 テリーが先頭を切って船の中へ駆け込む。キリュウがやや慌てて続いた。
「レッド、僕らは暫く上で状況を見ている」
 ナッツの提案にレッドが頷いてキリュウに続き、その後をアインが飛んで追いかけていった。
「アイ!」
「あたしも感覚は鋭いのよ!上の見張りはお願いねー!」




 結果から言おう。


 色々と弁解すべき事はあるし、よく分からない事も多いがとにかく、結果からぶっちゃけるとだな。

 ユーステル女王が、攫われた。

 なんで、女王なんだ?
 なんで、ユーステルが魔王一派から攫われていかなきゃならねぇんだ?

 腑に落ちねぇ、意味がわからねぇ。奴等は、赤旗を立ててる奴等は……。俺達の頭上に青い旗を見ているからこそ、俺たちが敵だと認識したんじゃぁねぇのか?


 鏡を覗いたって、自分の頭上に青い旗があるのは見えない。だけどそれはメージンが言った通り、間違いなく俺達の頭上にある。
 初対面ギルとあった時、奴が何か珍しいものでも見たように指差したのは、きっと俺達の頭上にあるブルーフラグだったのではないかと俺は思ってた。

 だから、サンプルが必要なんだろ?
 青旗立ててる相手を理解しようと、あの一緒に居た白衣の男は『サンプル』が必要だと言ったんだよな?

 それなのに青旗の俺達じゃぁなくて、偶々乱入して来ただけであるはずのユーステル女王を攫っていくってのは……一体全体、どういう意味があるんだ?

 怪物退治に気を取られ、俺達はすっかりあのインティとかいうガキに出し抜かれてしまったんだ。
 ああ、またしてやられた!俺達の前に現れたのは偽物で、幻だったわけだな。本物のインティはいつの間にか船内に侵入し、邪魔する兵士を死の魔法で声を上げる間もない無いに殺すとユーステル・S・R女王を『攫っていった』ってわけだよ!
 現れた牛の怪物は俺達を甲板に引き寄せる為のものでしかない。それが思いのほか簡単に片付けられてしまったために、インティの幻が登場して来て時間稼ぎをしたというわけだ。

 船の中に残り、女王の護衛をしていた兵士たちは全員、事切れていた。レッド曰く、死の呪文というもので即死させられていると言っていた。そういうの、やっぱりあるんですねとかいう軽口は今はナシだ。
 付き人の侍女がたった一人生かされていて、震えながらその状況を語り今だに嗚咽を繰り返している。

 しかしキリュウは彼女を責めたりせずに、なぜだか責任を感じて悲嘆する侍女を慰めている。

 くそう、俺は拳を固めて歯を食いしばった。
 もしかして、彼女は俺達のとばっちり喰ってんじゃぁないだろうな?だとしたら……どうすれば……。

「……皆さん」
 それぞれに気落ちする俺たちに、キリュウはいたって冷静に告げた。
「色々と、ご心配をお掛けして申し訳ありません」
 そう言って頭を下げるキリュウを、俺は何と言って良いのか分らずに……多分、呆然と見ていた。

 なんだ?なんでお前が、頭を下げるんだよ?

「実は彼女が攫われた理由に……心当たりが」
「何だ?」
 俺は食いつくように聞いていた。もう少しで胸倉を掴みかかる所だった。キリュウはその前に困った顔を逸らす。
「助けに、行かれるおつもりですか」
「当然だろう!」

 当然、そんな俺の言葉はどんな意味か。

 キリュウには、その言葉の本当の意味なんか分からないだろうな。だからきっとそんな俺の言葉は、俺の気質から来る『当然』だとでも思ったかもしれない。
 本当はしかし、そうじゃないんだ。
 システムデバッカーでもある俺達の、都合に巻き込むことを恐れての『当然』という俺の言葉が正しい。正義感から『当然』と言っているわけじゃねぇんだ。……くそ、我ながら嫌な事を考えちまった。

「魔王の本拠地かもしれません」
「ユースの居場所がか?」
 俺の聞き返した言葉に、キリュウは小さく顎を引いて額を下げた。それ、肯定の意味って事だな?
「国の要が攫われたって言うのに、そんな冷静でいいの?貴方は!」
 アベルの俺と同じく今にも胸倉を掴みそうな勢いを、キリュウはしかしどこまでも冷静に対応した。

 何でこいつは、こんなに冷静なのか……わけがわからねぇ。

「もしかすればこうなるだろう事は……。彼女も、ある程度は予測していたはずです」
「何でよ?」
「狙われていたのだと……、思います」
「それが鎖国の理由の一つですか?」
 レッドの静かな指摘にしかしキリュウは苦笑して首を振った。
「そうともいえるし、そうではないとも言えます」



 キリュウはまるで何か諦めた様な口調だったな。

 事務的に、とりあえず俺達をナーイアストの所に連れて行くことが第一の目的であったのだと告げて、それが適った今は、俺達をこの船に引き止める理由も無いとか何とか言い出しやがって、
 予定通り西の大陸まで運びます、とか何とか。


「何でアイツはあんなに冷静なのよ!だって、女王って事はこの国の王様みたいなものでしょ?」
 アベルが喚き散らすのとは逆に、俺はどこまでも沈み込む様な感覚に陥っていた。
 要するに落ち込んでるんだ……ほっといてくれ。
「国の都合が色々とあるんじゃぁないかな」
「どんな都合よ?」
 言葉に噛み付くアベルに、ナッツは困った顔で苦笑する。
「シーミリオン国の事情はすっかり聞こえてこないんですけれど……レッド、何か知らない?」
「……シーミリオン国の歴史についてはナッツさんの方が詳しいと思いますが……。かの国の成り立ちは元々西方皇族の3大国として数えられた、トライアンよりの派生だそうですね?」
「ああ、随分昔の事情からだね?2期前の話だよ、元々はミリオン国という名前で独立したんだけど、北西の土地を確保したとたん天変地異に見舞われて壊滅しかけたと言うね。でもなんとか北方人との折り合いをつけ、シーミリオン国として復活したのが……6期後半。ルースルーズ魔王が罰せられたのは7期の話で、その後魔王の力で5世紀は比較的、穏やかな時代を迎えていた……というよ」
「キリュウの奴も含め、水貴族種だってな……なぁ、女王ってあれ、何歳なんだよ?」
 テリーの言葉に俺は耳だけ傾けた。ああ、何時もの逞しい想像力が働かない……。逞しいってよりも、余計なってのも事実だが。
 未成年っぽい等と思ってたけど、そうか魔種だもんな。
 俺は、どこかで感付いていた事実をぼんやりと反芻した。人間である俺なんかより、実は物凄い年上だったりするのかもしれないんだなぁ……はぁぁ……。心の奥で深いため息を漏らしてしまう。
「キリュウのシーミリオン国を救った英雄、リュステルの話が本当であるならば、……ああ、そうか」
 ナッツが顔を上げレッドに目配せする。レッドはその通りと言わんばかりに頷いて返していた。
「女王、あれで数百歳は超えてるんだな……」

 俺は、テーブルに思わずつっぷしていた。

「あらヤト。思いのほかダメージ受けたの?」
「ぐぐ……お、思いのほかダメージを受けました……」
 突っ伏したまま、アベルに指摘された事を俺は素直に白状した。

 ただでさえ現状に落ち込んでいるのに、更に追い討ちをかけなくたっていいじゃぁないですかッ!ねぇッ?

「なんだ?気があったのか」
 テリーが意外そうに言う。意外か?意外なのか?可愛い女の子に気を許して何が悪いんですかッ!
「守備範囲が広すぎなんだよ、つまり惚れっぽい」
 つっぷしてて見えないがナッツが多分、肩を竦めつついつもの苦笑で言ってくれやがる。アベルが、ダウン中の俺にさり気なく追い討ちコマンド。
「この際はっきりしなさいよ。お姉さんキャラと妹キャラのどっちが本命なの?」
「だーッ!黙らんかお前等!」
 立ち上がり好き勝手言うゲーム友人どもに喚くと、マツナギやレッドから冷たい視線を受けている事にちょっとたじろぐ。
「いいじゃん、いい子じゃん!助けに行こうぜ?なぁ!」

 結局、俺が言いたいのはそれだ。

「惚れたりしてなくても、そのつもりだったがな」
 と、テリー。
「何しろ、計らずとも魔王関係ですからね」
「棚からぼた餅だね」
 したり顔で軍師どもは顔を合わせる。
「じゃぁキリュウを説得して、その恐らく魔王本拠地ってのを聞き出そうぜ!」
「ええ、そのつもりです」
 レッドが、澄ました顔で言いやがる。
「でも、何か言いたく無いみたいな気配がするわよねぇ」
 とアインが、俺が座っているテーブルの上で羽をばたつかせた。
「国の面倒な事を説明したくないのかもしれません。大体女王自ら出向いてくるのが何か……おかしいと思いませんか?」
 ふぅむ……そう言われれば、そうだよな……。
「だったら聞かなきゃいいじゃないか」
 と、マツナギ。

 俺達は一瞬黙り、彼女をまじまじと見つめてしまった。

 キリュウから事情を聞かないで、どうやって女王が攫われていった場所を特定できるんだよ?
 彼女、なんか論点がずれてないか?

 しかし、レッドとナッツが何か思い付いた様に顔を見合わせた。
「なる程、その手がありましたか」




 遠くに、陸地が見える。

 穏やかな海の上に久し振りに船は海上に出て、俺たちも清清しい空気を胸一杯に吸う事ができた。
「国境ヘルトの近くです、できれば西方大陸までお送りしたいのですが……」
「いえ、十分ですよ」
 レッドは社交辞令な微笑みを浮かべてキリュウに向き直って言った。
 奴の嘘技能はまたしても爆発している。本当は西国まで送ってもらえるといいんですが、などと俺たちに漏らしていたのを忘れてないからな。俺は。ヘルトはファマメント国だがだ分類すりゃほぼ北国である、何しろ西国最北端と云われてるトコだ。まして、ヘルトに近いって言っても船から降りたここはまだシーミリオン国領土。

 船はもう、陸のすぐ近くにいたんだな。
 だからあんな怪物に襲われる羽目になったんだろうか……などと、ああ、俺またはネガティブに考えようとしている。前向きに考えろ、ポジティブに……そう。俺たちが船から降りた後に襲撃が無かっただけ、良かったって風に考えてみたらどうだ、俺?
 船から降りた後だったらその後女王が攫われた事なんて知らずに過ごしたかもしれないんだからな!
 よしよしいいぞ、その調子だ俺!

「ところでキリュウさん。僕等は貴方が止めても、女王陛下を助けようと思っていますよ。貴方が、何も僕らに告げなくてもね」
「……そうですか」
 キリュウは視線を落とし口を閉じた。何か、迷ってる風だな。

 それほどに言い辛い事情があるってのか?

「実は、ユーステル様は……ユースは、」
 小声で、背後に立っている兵士達には聞こえないようにキリュウは言い直し、囁いた。
 レッドに握手するように見せかけて……何か、渡したのを俺は見届ける。
「彼女はシーミリオン国の女王であって、女王では、……無いのです」
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