異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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7章  白旗争奪戦   『神を穿つ宿命』

書の4前半 解析ツール『高望みはしないに、限る』

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■書の4前半■ 解析ツール analytical tool

 疲れてたんでその場で待ってる事にした。
 いや、もうこれ以上の不運な遭遇なんぞしょっちゅう合って堪るか。

 その場に大の字で寝ころんで……脱力してふて寝だ。

 足音が聞こえて来てスキップを抜けると案の定、慌てた様子でレッド達が走り込んでくる姿が見えて俺は、上半身起き上がって無事である事を主張する。

 安堵したのだろう。レッドは足を止めて後ろに続くアベルを先に通す。
 駆け寄ってきたアベルに軽口。
「お前、迷子になって皆を困らせてなかっただろうな?」
「バカ!あんたこそ余計な事をやって……」
 ギルと俺が一悶着起こした事はどうやら、察知してるらしい。レッドの顔を見れば何となく予測できる事だ。
「すいません、すぐに駆けつける事が出来ずに……思った以上に通路が複雑な上、魔法行使に制限が掛かっているので飛行魔法も使えず……」
「いい、しかたねぇだろ。俺もまさかあんな奴と遭遇するとは思ってもなかったし。ナッツの脅しが効いたな。無茶な事はしなくて済んだぜ」
 俺は苦笑して剣を杖に立ち上がる。
 その剣が、元の剣であると知ったアベルが怪訝な顔になった。
「それ、どうしたの」
「よくわかんねぇがギルが返してくれた」
「折れたんじゃないの?」
「折れたぜ、ああ、お前わかんないのか。明らかに刀身が違うぞ、柄は同じモノなんだけど。……打ち直しにシェイディまで来てたらしいな。そいつと偶然遭遇しちまったみたいだ」
「……剣を修復に、ですか。確かに理に適ってはいます……が」
「お前は今更ここの事情について危惧してんのか?」
「今更とは、どういう意味です」
 ここの、というのは暗闇に包まれたままの地下大地の事だな。
 少し心外そうにレッドは顔を上げる。
「ナッツはミストルーンディに居た時から何か言いたげにしてたぜ。やっぱり……八逆星の何かが絡んでるんじゃねぇのか?」
 レッドは黙り込み……俺に背を向けて言った。
「魔王八逆星の目的が『大陸座』である事は間違いないでしょう。カオスさんの指摘は当たっていると僕は思う。たとえその魔王連中それぞれに思惑があったとしても、です……僕らと同じく、八逆星も大陸座の居場所を探っているはず」
 俺は限りある天井を見上げた。
「成る程、つまり奴らの探索の手段である可能性は有るわけだな。このマシントラブルとやらは」

 朝の来ない地下大地。
 偶然だと思いたいが魔王八逆星のギルと遭遇しちまったのは……連中の作戦行為のただ中にあったから、という可能性も捨てきれないという事だ。

「ナッツさん達と……マツナギさんと早く合流しましょう。あちらでテリーさんやアインさんとも合流して、この前の宿屋でお待ちしているとの事です」
 俺は苦笑して主の居なかった鞘に主である、剣を納める。
 実は、握って抜き身のまま俺は不貞寝してたのだ。ギルが去っていた事でどっと疲れが来たと思ねぇ。
 空の鞘、捨てなかった俺の未練はこの展開を予測しての事だろうか?どうだろうな、俺にはそういう勘的な能力は備わっていない筈なんだが。
 でも……こんな邂逅があるとは驚きだ。
 ギルが言っていた通りよっぽどこの剣、よっぽど俺に縁があったって事かもしれない。

 ……あ、前ほどぴったりと収まらないな。鞘の中で暴れる剣を、収めてみて感じとれる。鞘と刀は一心同体、重心や長さなどが同じでも、やはり刃を焼きなおしたら元鞘にぴったりとはいかねぇか。
 これは、どっかで調整してもらわねぇと。

 それでも正直嬉しい俺は、そのぴったり収まりきらない剣と鞘をまじまじと見て笑ってしまった。
 はたから見ればニヤニヤという顔だったかもしれない。

 改めてレッドを見て、軽く頭を下げてやる。
「悪いな、俺ばっかり変な所に飛んだのか?」
「いえ、見事にみなさん階層バラバラに着地しまして。たまたま貴方が最後になってしまっただけです」

 なら、俺は本当に引き合ったのかもしれない。
 この剣と再び合う為に。
 ま、そういう運命も悪くは無いよな、この際。


 ……俺とアベルが合流に手間取った理由は単純だった。

 俺ら、へたに彷徨うと迷子になるの知ってて場所を動かなかったから、らしい。
 他はそうじゃないのな。
 自主的に合流しようと的確に動いたから早く合流してる。

 マツナギは地下都市に詳しいから自分が居る場所も分かったんだろう、宿屋に戻る道を選んだ。
 アインは匂いで追跡する能力を持つが、この地下都市ではそれが上手く働くか自信が無いと言っていたな。だが自信がないだけであって有る程度能力は働く。だから、マツナギと同じ理由で宿屋を目指した。
 それからテリー。奴はもっとインテリジェンス。通行人ととっつかまえて自分らが前に泊まった宿屋がどこにあるのか道を聞いて……以下略。
 ナッツはそんな3人の動きを魔法探知して自分も宿屋に。

 すいませんねぇ、方向音痴と頭の回らないおバカで。

 そういう残り二人の態度を察して、無駄足踏んでくださったレッド様々だ、畜生め。

「いいんですよ、あなた達はそれでいいんです。無駄な事して場を混乱させるよりはマシです。どうせ上手く立ち回れないに決まっているんですから」
 さわやかに笑いながら黒い事言うんじゃねぇよ。
「何はともあれ俺でよかった」
「何が?」
 不機嫌なアベルを隣に俺はため息を漏らす。
「……ギルと遭遇しちまったのが。遭遇しないに越した事ぁねぇけど。とりあえず石持ってるマツナギじゃなくてよかった」
「そうね、それは言えてる」

 デバイスツールの石は無事だ。大丈夫、まだ八逆星連中からはこいつが俺らの所にある事は嗅ぎ付けられていないはず。というか……。

 ギルの野郎がバカで助かったなぁ。

 どうして俺らがこんな所にいるのか、あいつなら自分で考えはしねぇだろう。
 剣を返すのに俺を捜す手間が省けてラッキーだったくらいしか考えてないだろう。
 間違いないぞ、なんとなく断言できる。
 もちろんギルと遭遇した俺の事情を察し、こちらの軍師連中は次の展開をしっかり把握している。俺がいちいち口を挟むまでもない。

「……僕らがシェイディにいる理由、それを八逆星が知るのは時間の問題か」
 八逆星というのは個人じゃねぇ。
 集団を指す名前だと思ってくれ。とにかく……ギルがこの町であった出来事をナドゥあたりに報告しちまったらやばい。

 ここに俺らが何をしに来たか、ばっちりバレるだろう。奴らの目的を俺らが察するように、奴らだって俺らの目的については推測できるはずだからな。

「三十六計、逃げるに如かずです」
 にっこり笑ってレッド。
 全く、その通りだ。この町で魔王連中とドンパチするのはいただけない。てゆーかそんなんやったら相手の本気度合いにもよるけど俺達勝てない。
 ここは逃げるが勝ちだ!




 とっとと地下都市を脱出するぜ。
 当初の予定通り、転移門で一気に東国ペランストラメールの魔導都市に行っちゃう事になる。これが一番てっとり早くシェイディ国を脱出できる手段でもあるしな。
 とはいえ……魔王連中も一部はバカじゃない。いきなり足取りが消えたとなりゃぁ転移門使った事くらい察するだろうがとりあえず、この閉ざされている地下大地にいるよりか、魔導都市に行った方がいいのだ。
 魔導都市からは各国への転移門があるそうだからな。俺達が魔導都市にとどまるか、そこからどこかに行ったかで魔王連中を迷わせる事は出来るだろう、との事。
 あと、魔導都市でなら八逆星とドンパチしても問題ないんじゃねぇ?っていう意見でまとまったからである。レッドからしてそう言うからな、魔導都市、実に変な所である。

 だがまず暗黒神殿からシェイディに帰ってきて半日、宿屋で軽い休息を取る事になった。
 何しろ暗黒神殿に行くまでで精魂つきてたからなぁ、時間感覚も狂っていたから、半日眠って時間感覚を元に戻す事にしたんだ。
 本当はもう少しゆっくり休みたい所だが、休むんならこんな始終真っ暗な所には居られない。

 俺は人間だ、太陽の光がないってのは耐えられん、参っちまう。



 説得はしたが……やっぱりアインは終始不機嫌。だんまりを決め込んで椅子の上で丸くなっている。なぜって、アインだけが絶対魔導都市は嫌だって突っぱねてるから、だな。
 これから早速その転移門に行くかという所、時刻的には朝なんだけど……。
「……何だお前その格好!」
 俺があざけりを含んだ声を上げたのに、レッドは例によって眼鏡のブリッジを押しあげて答えた。
「正直に申し上げれば僕は、魔導都市には戻りたくない」
 俺はちらりとアインに目を投げてから腰に手を当てレッドを振り返る。
「ま、そうだろうな。お前はサウターとはいえ育ちは魔導都市ランなんだし。やっぱり出身地にはそれぞれ都合の悪い何かはあるんだろ」

 マツナギ、アベル、それから多分ナッツとテリーも。

 今演じるキャラクターの出身地にはどうしても、重い過去の影が濃く残る。
 俺もコウリーリスのシエンタに何か残ってるかって?
 無いとは言わんな。
 あそこでの生活は短かったが俺は、あの田舎暮らしが嫌で飛び出した。そういう経緯があるなら必ずしも気持ちの良い場所とは言い難いかもしれない。今は別に平気だという自負はあるけれど。

「紫魔導だとやっぱり……目立つんだね」
「そう言う事です」
 レッドは、その名前の通りの深紅の魔導マントをどこからともなく新調して来て纏っていたんだ。
 いつもはジミな紫色のマントなのにな。だから俺はそれは何だと驚いたのである。
 ついでに……ハデすぎてすげぇ変。
「赤魔導か、下位弟子の位じゃねぇか。そこまで身分を偽る必要があるってのか?」
 俺は魔導階級制度はあんま詳しくない。テリーの言葉にへぇそんなんだと……赤い魔導マントのレッドを振り返った。
 紫、レッドがいつも纏っているジジむさい色の魔導マントは事実上魔導最高位だと言う印だという。まぁそれは何度か説明されたから分かっているけどな。

 つまり、コイツはこのなりで最高位魔導師の一人なのである。
 魔法というものを自由自在に操る、今までに何度もそのお世話になったし、その類い希なる能力を邪悪な方に働かせて迷惑被った事もある。だけど……こうも近くに居られると凄ぇ実感が無ぇんだよなホント。

「……逃亡中だとか」
「紫魔導は協会の議員も兼ねていますからね。何か面倒な事を言われる可能性は高いかと」
「一応許可取って外にいるんだろ?」
「……すいません、素直に言い直します。逃げてます」
 自分が詭弁的に言い逃れをしようとした事に気が付いたようにレッドは、思い直してきっぱり言い直した。

 ……多少は素直になったと評価していいものだろうか?

「じゃぁ、これからなんて呼べばいいの?」
 アベルの気を利かせた言葉にレッドは頷いて応えた。
「そのままレッドで構いません。前にも言ったと思いますが……これが僕の本名。魔導師としては別の名前で知られていますので」
「その、お前の魔導師としての名前は?」
 尋ねると邪悪な微笑みを返された。
「そんなもの、魔導都市に行けば自ずと知れますよ」



 暗黒神殿の件もある。魔王八逆星の件もある。
 まさしく俺達は逃げる足取りで転移門を潜った。

 ちなみに、タダじゃないのな。

 便利ではあるがこの移動機関、要するにテレポーター、起動コストだってそれなりにある。

 レッドお得意の詳しい説明によると、門というのは場を繋げて双方向行き来出来る事を意味する。だから一応は半永久的ではあるようだ。で、少なくとも最初に門を開く程の魔力コストは掛からないようだが維持コストは掛かるらしい。
 完全に空間を繋げる穴……あっちのSFだとワームホールなどと呼ばれるような代物を作るには、莫大な魔力と飛び抜けて精密かつ巧妙なフォーミュラ……ええと、魔法構築方程式だったかな……とかいうものが必要で目下解読中だとか。
 ……解読中?
 開発中じゃないのかと聞いたら、例の怪しい笑みで解読中で良いのですよと笑って誤魔化されたな。
 連中の都合はホントよくわかんねぇ。

 赤魔導師に姿を偽ったレッドは至極堂々と管理する魔導師達に代金を支払って戻ってきた。
 名前と肩書きは有名でも、割と顔は割れてないんだな。
「いくらになる?」
 宿屋もそうだけど、当然こういう出費は割り勘だ。
「いいですよ、おごります」
「……いいから払わせろ」
 お前に貸し作っておくとろくな事にならん気がする。するとレッド、杖にしては太い某を取り出して笑った。
「支払いが特殊でしてね、現在レートに換算するのが面倒なのです。独自通貨で支払ってきました。言った通り、市場通貨に変換するのが面倒なのでこれ、有り余っているんです。魔導都市ではここから支払ってください、遠慮は要りません。腐る程あります」
 そこまで言うなら世話になるか。
 仕組みについては……キャッシュカードと言えば分かるか?どうもその魔導都市で使われているのは仮想通貨であるらしい。名前もキャスと言うとか。


 転移門をくぐり抜ける。感覚は……やっぱりあのエントランスからこっちに入る為のトビラを潜るのに似ているかな。
 某ピンク色の扉と違ってつながってる向こうの景色が見える訳じゃない。光とも闇とも、何ともいえない空間に足を踏み入れて気が付くと、向こう側に到達してんのな。


「ふぅ……また来るハメになるとはなぁ」

 俺は『ここ』でかつて起きた出来事をあれこれとリコレクトしていた。
 前にも言ったかもしれないが……あんま良い思い出は無のだ。特に言えば俺と、あと……アインな。
「ここはどこだい?」
 ナッツが背中の羽を軽く広げ、伸びをするように羽ばたいてからたたみ込む。
 空気が違う。ものすごい乾燥したシェイディと違って適度に湿っていて空気が動いて……風が吹いている。
 俺の適当に流している髪が流される。
「長距離移動用の門が集中管理されている所です。町の中腹にあたります」
 初めて魔導都市に来たマツナギは目を丸くして山の上を見上げている。
 ……驚くわなそりゃ。俺も始めてきた時はまじまじと見上げてしまったもんだ。
「……人が住んでいるんだよね?」
「ははは、マツナギ。そりゃ流石に失礼だぞ」



 魔導都市ランを始めて見た時の感想って、ぶっちゃけてノースグランドに対して地上人が抱く感想に、似ていなくもない無いと思う。
 要するに、あの混沌の世界を平面に展開したらこんな具合になるのではないだろうか。
 おおよそ生活感というものからかけ離れた町の連続。しかも町全体が傾いている。
 西ファマメント国の首都レズミオ程じゃぁないがこの魔導都市ランつーのは、かなり高知にある町でな、都市内での高度差で言えばレズミオを超えるだろう。
 険しい山の斜面にびろーんと広がっている。
 うむ、びろーん。我ながら実に的を得た表現だと納得するな。
 景観は当然、様式もへったくれもない、ここだけ見ると時代特定すら難しい上に別世界ではなかろうかとも疑いたくなる平面迷路。

 それが、魔導都市ランだ。

 そのうち町全体が地滑りして流れ落ちるんではないかと不安になる、実に地に足の着かない不安定な感覚がある。
 区画整備に完全に失敗しているというか……放棄してるのかもしれん。平面ではあるが迷路という点ではシェイディとタメが張れるに違いない。

 道がまともに存在しないんだ、体力のない魔導師連中は……歩かない。
 区画移動は全部魔法転移装置に依存しているからだな。
 歩いて行けるはずの距離にフツーにたどり着けないからな。歩いて行く奴がい無ければ当然……道が無い。

「さて……では。どうしましょうかね。とりあえず僕のラボにでも行きますか」
「大丈夫なの?逃げてるんでしょ?」
 小さな声でアベルが聞くとレッドは苦笑気味に肩をすくめる。
「逃げてますよ、でも逃げているのは僕の勝手です。誰かが追いかけてきている訳ではない」
 相変わらず詭弁な事を言いやがる。おかげで俺も含めて大いに勘違いしたぜ、全く。
 ……アベルが不機嫌に顔を顰めた。
「魔導師の巣は、協会本部内にあって完全な自分のテリトリーでもあります。ここに突っ立っているよりは断然に安全ですよ」

 まるで誰かに命を狙われているような物言いは前言の通り、奴の都合ではない。
 奴は追われている訳ではなく、勝手にこの町から逃げてるだけだからな。
 ともすりゃ、狙われてるのは誰だって?……俺とアインに向けた言葉だろうな。
 不用意に外を歩くのは危険ですよ、命にかかわりますだなんて言われたってもちろん、俺がこの町に初めて来たばかりなら、何言ってんだコイツと思うだろう。

 ぶっちゃけて初めてこの町に来た時、俺はそう思っていた。

 ちょっと変わり者が多く住んでいるインテリの町くらいにしか思っていなかった。そして実際、通り過ぎるだけなら何も余計な事は知らずに済んだというのに。
 関わりを持ってしまったが為に、問答無用でトラブルに巻き込まれ続ける運命にある。そういう事を俺はすでに学習していた。好きで長く滞在した訳じゃないが、多分半年くらいこの町を拠点にしてた事があるから俺はこのように、色々詳しくこの街については語る事が出来る。
 その割に魔導師について理解してないって?
 うっせー、俺は本来この町には来たくは無いんだからな?魔導師なんて隣人筆頭に大っ嫌いだ。理解なんぞしなくていい。
 俺は魔法を習得するつもりはこれっぽっちもない訳だしな!

「こっから、そのラボは近いのか?」
「ついて来てください」
 赤いマントを翻したレッドを先頭に俺達は、周り殆ど魔導マントを羽織った連中ばかりでごった返す広場を後にした。

 狭い通路……というか家の隙間?みたいな所を抜けて行く。先にも言った通り道が退化しているのだ。
 すると先ほどの広場と同じような、転移門と思われるモノがずらりと並んだ区画に出る。
 レッドはその中の一つを迷い無く選び出しくぐり抜けて行ってしまう。次に続いていた俺はちょっとその門の前で足を止めてしまった。
 実はあんまりこの転移門通るの、気持ちいいもんじゃねぇんだよな。乗り物酔いもリアル3D酔いもしない自負があるんだが……転移魔法はそれらとはまた違った感覚で『酔う』のだ。
 今さっき長距離くぐり抜けたばっかりだったからほんの少し、躊躇してしまったんである。
 後ろが支えると悪い、すぐに迷いを振り払って足を運ぶ。
 幸い、俺のほんの僅かな躊躇を見抜いた者は居なかった……と思う。
 多分。


 代わり映えしないようだがやっぱり区画は違う。
 山の上を見上げたらさっきの所から見た景色とずいぶん違うからな。いきなり見える景色が変わるんだ、奇妙な気分だぜ?
 全員が門をくぐり抜けたのを見届け、レッドが再び歩き出した。
「気持ちいいもんじゃないね」
 背後の声に俺は歩き出す前に振り返る。マツナギだ、頭を振って不快を隠さずにいる。
「精霊干渉力がある人は魔法との相性が良くないからだと思うよ」
「そうなんだ」
 転移門は魔法産物だ。マツナギは俺以上に不快感を感じているのだろう。
 しかし、ナッツの言葉に俺は密かに頭をかしげて前に向き直る。

 ううむ、俺には先天希少の精霊干渉力は無いからな。有ると設定したのは莫大な潜在魔力だ。
 ま、あるだけで使う術がない代物なんだけど。そういう自虐なキャラを作ったからもったいないとは思っていない。そして戦士ヤトはその設定に忠実に、魔法を習得しようなどという事は頭は無いのだ。
 ついでにいえば潜在魔力というのはぶっちゃけて、魔法使いの素質が高いという事には結びつかないらしい。
 何時だったか、レッドからそんな事を聞いたのを俺はリコレクト出来る。
 魔法使いは素質より努力とセンスだと言う。潜在魔力など最後の要因だとか言っていた。
 ……俺に奴がかつて説明しながら言った言葉を俺は、ついでにリコレクトしている。

 それでも、俺の潜在魔力は相当にケタ外れである。
 とか、何とか。

 関係ないねと笑って一蹴出来る問題ならよかったんだがなぁ。
 おかげで俺、この町でどうも希少研究素材と見られている節がある。

 つまりそれが、この魔導都市ランに対して俺が嫌だと思う第一要因だったりするのだ。良い思い出が無い理由だ。追われているのが俺だという事情ひいては、安全だと言われる場所に行きたいと願ってしまう、その心である。
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