異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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7章  白旗争奪戦   『神を穿つ宿命』

書の8前半 ログアウトⅡ『一方通行のトビラ』

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■書の8前半■ ログアウトⅡ Logout-Ⅱ

 突貫工事で二階の穴を塞いで、後片づけが終わって一息ついたらもう日が暮れている。

 忌避されているとはいえ、払う物を払えば家の修理は、本業の人がやってくれるみたいだ。
 というか驚いたんだけど、魔導都市ってホントに魔導師ばっか住んでんな。大工家業も魔導師でやんの。基礎骨組みを魔法による遠隔操作で組み立てて、コンクリと思われる粘土をこれまた遠隔操作で塗りたくって魔法で速攻に安定させて……。
 ちょっと不思議な感じだ。重い資材も転移魔法でどこからともなく運んでくる。
 いや天…便利でお手軽と思ったけど、その一方で魔法行使している連中が必死に呪文を唱えて精神集中しているの見てると……。

 割とこれはこれで大変なのかもと考え直したり。


「いやぁ、ふんだくられました」
 魔導都市の独自通貨である、キャスの入っている棒で肩を叩きつつ、なんとか片づいたラボにレッドが戻ってきた。
 テーブルの下には小さくなったドラゴンが震えているぞ。
「レッド、お前腐るほどそのキャスとやらがあるんだろ?今回の件、アインは許してやれよ」
「ヤト……ッ、あたし今度から貴方の事人柱なんて言わないわッ」
 にゅっとテーブル下から目をウルウルさせているアインの首が付きだした。
 ……いやまてドラゴン。お前涙腺無いだろう。
 引っ張り出したら小さな手にナッツの薬品袋の中に入ってた目薬持ってやがる。
 こいつぅ、泣き落とし作戦かよッ!
「経験というのはお金では買えませんからねぇ」
 びくぅ、となって肩をすくめるドラゴン。レッドは苦笑した。
「ま、仕方がないでしょう。少なくとも僕は持ってる書物は殆ど頭に入ってますし」
「高位ィ、私は研究資料を集め直しなんですが」
 レオパードの恨めしい声にレッドは、手にしていたキャスをテーブルに置いた。
「これは置いていきます、好きなだけ使ってください」
「……高位……。戻らないつもりですか?」
「どれだけの損失なのかの計算するのが面倒です」
 レッドはにっこり笑いながら言った。……この場合、笑ってる方が怖いよな。
「預けていた資金が足りなくなって苦労も掛けたくないですし、面倒だから置いておきます。でも、あなたにあげる訳じゃぁありませんから」
「……分かりました」
「大体、僕の仲間のやった事です」
 その言葉にアインは小さく呻いた。もちろん、それは嬉しかったから漏らした音である。
 よかったなぁアイン。僕の大切な実験体とか、ペットとか、そういう扱いじゃぁなくって。
 ちょっぴり羨ましい、俺である……。
「何かしらのトラブルに巻き込まれる事は承知していたんです、仕方がありませんよ」
「レッドぅ……」
「僕の大切な何かに損失が出ていなくてよかったですねぇアインさん」
 ……お前、やっぱり怒ってるだろ?
 アインが俺にしがみついたのを宥めつつ、いい加減にしろよと俺は視線を投げておいた。
「しかし、お前の大切な何かって何だ?」
「秘密です」
 相変わらずにっこり笑って誤魔化された。
 まーいーや。興味ねぇし。
「そういや、気が付いたらロキは?もう帰ったのか?」
「ええ、後片づけでドタバタしていた昼過ぎに上位が来られまして、一緒にお帰りになりましたよ」
 上位、ああ……浅葱位の魔導師だとちょっと遅れてリコレクト。要するにアベノ・アダモスさんの事だな。
「報告書、見たって事だな……じゃぁ。俺がこれから言う事も大体推測してるなお前?」
「ええ、分かってはいますが?」
「俺ぁ説明すんのがヘタだから、お前から話してくれないか?」
 するとレッド、明らかに俺をバカにするような笑みを浮かべて言いやがった。
「自分でお話しするのが怖いのですか?」
 俺はまともに突っかかっていく事の愚を承知しているから、惚けるように斜め上天井に視線を投げる。
「怖いのなら黙ってろと言う。上手い事説明する自信が無いだけだ」
「そのまま上位にお話しなさった事を復唱すればいいのですよ?」
「あー、わかったよもう。面倒だな。……レオパード」
「何だ?」
「ちょっと席外せ」
 勿論どうして俺から指図されなければいけない、という部類の視線で俺を一別した後レッドの顔を伺った。
 ちなみにサトーは夕食の手配中でこの場には居ない。
 俺が何を言いたいのか、勿論分かっているのだろうレッドは相手は弟子だというのに例の敬語で、少し秘密の会議をさせてくださいとか言って、レオパードの退席を促した。

「何?部外者には話せないような事?」
 呆れているのか、バカにされているのか。アベルから微妙な口調で聞かれて俺はそんなんじゃぁ無いから憮然とした態度で腕を組んだ。
「どーせもうそろそろタイムアップだ。だから、お前らに俺の過去についてのログCCをくれてやる」
 そういう事かとすぐに理解した人と、しなかった人に分かれたな。
 ちなみにアベルは理解しなかった方である。当たり前だ。こいつ俺並にアホだもん。
 と云う事でレッドが補足してくれます、よろしく説明係。
「ログ・コモンコピーの事や、タイムアップという話題はレオパードさんを前にしては出来ませんからね。僕らは昨日の夜、別件で起きていてヤトのログをエントランスで取れていません。ですから、一旦ログアウトして現実でメモリスティック持ち寄ってログのコピーをしないとログ・CCコマンドが使えません」
「ああ、なんだ。そう言う事か」
「そう言う事だ」
 マツナギも分かってなかった人の一人で、ようやく事情を理解して何故か苦笑を浮かべる。
「って事は、全部そのまま伝えると言う事だろう?その、過去の事?」
「ああ、そうだけど?俺は前から言ってただろうが。背負ってる過去が重いのかどうか、そんなん分からんってな。実感してねぇみたいだからな、アダさん曰く、それが問題だって言いたいみたいだけど」

 ランドールパーティーに身を置く緑の巨人事、封印師のワイズが言っていた言葉を思い出している。
 傷が無いのに何かを覆う、かさぶた。
 それは、俺が設定した余計な背景、戦士なのに潜在魔力が桁外れという裏設定の事だろうと思っていた。そして事実その関連性は無きにしもあらず……で。

「で、どうするの?」
 それは、今後の方向性の話だろう。俺のバグ、レッドフラグを除去する為に何をする必要が有るのか、という事。
「ぶっちゃけてみろって言われた」
「ぶっちゃけろ?」
「シエンタに行ってみろ、だってさ。……色々考えて無駄足になるのも嫌だよなぁとか思ったんだけど、東側からならシエンタに行くのに峠越えで行けるし……。って事で、次はドリュアートを目指す方向でどうだ?シエンタからは山脈沿いにドリュアートの大樹に行けるからルート的には悪くないぞ?」
「ですね、このまま手がかりがなければドリュアートを目指そうと僕も考えていた所ですし、そうすれば自ずとシエンタ付近は通ります。そのルートが一番歩きやすいでしょう」
 歩きやすい、ね。
 確かに……ペランストラメールとコウリーリスを隔てる巨大な山脈、グランドラインを越えて向こう側はペラン以上に道らしいものが無い、原森林があるばかりだ。
 人が住んでいる近辺をたどるルートを選ばないと、道を自分で切り開く必要に迫られる。地図だってろくなモノがない。現地人に有る程度地理についての情報を集めながら進むしかないのだ。
 しかし、アベルが聞きたかったのはもっと簡単な『答え』だったようだ。しょうがない、コイツは俺と同じレベルのアホだからな。
「そうじゃなくって、アンタの抱えてるものはどうすればいいのよ」
「ああ、それがなぁ、それが俺には正直よく分からんから困ってんだけど」
 俺はアダさんから調査票を受け取ったであろうレッドを振り返った。
「いいじゃないですか、単純に申し上げればいい。貴方も何度か言っていた事です」
「……まぁな」
 確かに間違いなく何度か口に出して言った覚えがある。冒険書の中身でも勿論、個人向けに追求された時にも何度か。
 ふっと俺の意識がアベルやテリーに向く事に気が付いた。
 ああ、そうか。俺、それを自分の口から言いたくないのかも。素直に認めて、口を濁す。
 俺は今までそれを冗談のようにそれを口にしてきた。

 不具合で、理不尽なバグだから直るものだという前提で気楽に口に出してきたんだ。

「おっかしいな、背景って、俺らテストプレイヤーが重いモノとしてすでに、背負ってるもんだよな?」
 笑いながら言うんだけど、どうしても苦笑になっちまうよ。
「どうしたよ」
「……いや、どうもバグじゃないみたいで」
「バグじゃねぇ?」
「現在進行形で俺、なんかちょっとイタいもん背負っちゃったぽいな」
 なんとか気楽に構えて、今進行形で俺の気持ちをえぐる問題を吐き出す。
「過去はどうでもいいのに、現状を言うのが結構辛いなんて……困ったな」

 ようやく自覚した。
 俺にとって、今俺を襲っている現状は辛い。
 過去なんぞよりよっぽど辛い。

 出来れば誰にも言わずに黙っていたい。
 俺の中にいる『俺ではないモノ』が暴走するのをただ黙って耐えて、何でもないと誤魔化してしまいたい。

 どうして辛いんだ?
 それは、俺に辛いと思わせる何かしらの過去があるからじゃないのか。
 この状況がなければ過去は、どこまでも昔話だったのに。笑い話として重くもなく、何ともなく話す事が出来るのに。
 過去の出来事が今になって、俺に痛みを与える。
 現状の出来事が過去も含め、俺に辛みを与える。

「メージン?」
 俺はため息を漏らしてやや頭を抱えつつ、バックアップを行っている8人目の名を呼んだ。
『……どうかしましたか?』
 なるべく負担をさせないために、こちらから自発的に呼ぶ事はなるべく控えている。
 だが俺は、今すぐ知りたい事が一つあったのだ。
「ログCCてのは、俺らがログインする前のログについてはどうやって公開すりゃいいんだ?コピーはすでに渡っているのか?それとも……俺がリコレクトしたログをコピーしなきゃいけないもんか?」
 暫く沈黙が続く。答えが用意されていた事じゃぁなかったみたいだ。
「あんた、何をするつもりよ」
「面倒なんだよ、余計な事は喋りたくないし」
 その、余計な事とはどんな事であるのか、大体察しているのは当然アベルとテリーだろうな。

 戦士ヤトにとって、もっとも古い馴染みなのだ。
 だから……俺ら3人は割と長い間ログが重複していると言えるだろう。
 同じ、イシュタル国エズで過ごした日々がある。
 それぞれ別にじゃない、割とお互い近しい環境だったんだ。まぁ……立場はそれぞれ違うけれども。

「ログCCってのは、説明ベタな俺みたいな奴が抱えてる現状を、相手に誤解無く伝える為のコマンドだろう?言葉にしなくても状況を伝えるという、このゲーム特有の情報交換ツールだと俺は思うが、違うか?」
「確かに、そういう趣旨だろうね」
 ナッツは頷いた。
 メージンの答えを待つ。
 数十秒後に帰ってきた答えは……コピー不要の言葉だった。

 俺が許可すれば、いかな過去もCC可能という事だ。

 ただし全体的な記憶のサーバーみたいなもの……があるらしい。
 これにアクセスして道を作らないと行けない。一度に膨大な量のログにアクセスするのだから、今すぐにという訳にはいかんのな。

 どうすればいいかって?
 ログ・CCを与えたい連中の為に、過去をリコレクトして俺が、まずそのデータを呼び出さなければ行けない。エントランスに行って、俺自身で。

 俺はともかく、他の連中は殆ど昨日から徹夜で休んでない。顔には出さないが疲れているはずだ。
 サトーが外から手配してきた……要するに出前みたいなもんだ……を食べた後、さっさとセーブする事になった。

 魔導都市に現れた魔王軍についても気になるが……深追いしたくてもこの奇妙な町じゃぁそれも難しい。変な所突いて蛇が出てくるポイントが多すぎるんだよ。
 今は、とりあえず休息を選んでもいいだろう。



 個人的なリコレクトという作業は、ようするにこのサーバーに問い合わせている事とイコールであるようだ。
 システム的にはそういう仕組み、脳が騙されて見ているこの夢の中、俺の脳が戦士ヤトの記憶を全てダウンロードしている訳ではない。
 ゲーム的に言えば、戦士ヤトというのは俺という意識とは別に、どっかのサーバーにデータベースとして置かれている記録の塊だ。俺はそれに随時アクセスして必要な情報をひっぱって来たり、データを返したりしている。
 この世界では、時間を巻き戻すような行為が基本的に出来ないようになっている。
 ……魔法においても『基本的には』時間を前に戻す事は出来ないそうだ。基本的には、と繰り返した訳だがそれは勿論、色々と不具合を起こす事を承知で戻す事は不可能ではないからだ。レッドが例のにやりとした笑みを浮かべて言っていた。

 それはともかく、ヤト・ガザミというデータベースに、ひたすら遭遇した経験が積み上げられていく。で、俺はそのデータベースにアクセスしてサブルーチン関数を打ち込む権限がある。それによって戻り値となって俺に戻ってくるのがリコレクトされた記憶という事だ。……工学的に言うと、だな。
 この個人のデータベースに、他の連中はアクセス出来ないかというと……そうじゃないのな。
 ログ・コモンコピーというのは実際にはログ情報のコピーをしているように見えるだろう。だがそうじゃない。

 実際新型ハードMFCに差しているメモリスティックの容量などたいしたものじゃない。普通に流通しているフラッシュメモリを使ってるんだからな、当たり前だけど。
 そこにこの膨大な、脳を騙すほどのログが直接入っている訳が無いのだな。

 ちょっとリアル俺の記憶に基づく、コンピューター系な話になるが重要だろうから続けるぞ?

 つまり、メモリスティックの中にあるのはログそのものではなく、MFCに繋がっているどこかにあるサーバーに繋がる為のキーが入っている、という考え方が出来る。
 前にも一度言ったと思う。
 現実においてメモリスティックは、新型ハードMFCに差し込んでこの異世界『トビラ』にアクセスするための『鍵』だって。
 きっと膨大であるのだろう、データベースの中の一つの人格に繋がる為の鍵をなくしてしまったら、そしてそのデータベース自体が消えてしまったら……。
 戦士ヤトとしてこの世界に居る事および、この世界に繋がる事が出来なくなってしまう。

 戦士ヤトというデータベースにアクセス権があるのは俺、リアル-サトウハヤトなのであるが、元来の『データ』として割り切ってしまえばアクセス権さえあれば誰だって『俺』の過去を覗く事が出来るのだ。
 ようするにその手続きが出来るか、出来ないかというのを今さっき、俺はメージンに聞いたと言う訳である。
 ログ・コモンコピーというのはコピーという名前ではあるが実際にはログのコピーをしている訳じゃぁあるまい。なぜなら、同じデータがログ・CCで個人のデータベースに上乗せされていったら、サーバー容量はいくらあっても足りんだろう。折角データベースを組んでいるのにそんな要領の悪い事をやるはずがない。

 つまり、コピーとは便宜上であり、実際には部分的にデータベースにアクセスする権限を与えるという事になるはずだ。

 その許可を下ろす手順を、リアルでの手続きおよびエントランスでの道造りを経由させて煩雑にさせている理由は、重要なものだから容易に壊されたら困るという事情がある、って事を前にメージンも言ってたよな。
 獲物がデータベースだという事が問題なんだな。コピーじゃなくて、随時相手のデータベースにアクセスして関数を打ち込める。だから軽々しく共有出来ないようにされてる。

 コンピューター上だとな、参照するだけってのは簡単に見えて簡単ではない。コピーを持ちだすなら問題ないんだが……そういう要領を増やすような事はシステム上出来なかったのだと思う。

 データベースは、打ち込むルーチンによっては容易に内容が書き換えられちまう場合がある。

 戦士ヤトの経験は積み上げられていく。基本的に一度積み上げた過去は変わらない?そう思うか?ところがこれが、そうじゃないのだ。
 ……記憶を違えて、過去を変えてしまう事が不可能ではない。何しろ出来るのは思い出す事だけだ。人の記憶とは絶対的なものじゃない、些細な事で忘れてしまう。勘違いをしてしまう。

 このリアルな世界では、当然そのあたりも無駄にしっかりと再現されている。脆弱な記憶の世界が再現されてるのだ。
 でも、その曖昧さが人に記憶のもっともたる所だろう?だからリアルだと感じるのだと思う。
 データベースが本性であるというのなら、常に『戦士ヤトの行動』という『関数』によって過去に遡ってログが書き換えられてしまう事も容易にあり得るのだ。情報を細分化してマルチに呼び出すというのがデータベースの特徴であり、それ故にリレーションする情報を書き換える事が容易である。だから起こりうる事だとも言える。
 他人のアクセスを許可するというのがログCCだ。この許可はデータベースのフルアクセス権を持つ者がそれぞれにキーを発行するという事。
 同時に、キーを渡した部分が他人からアクセスされる事を権限主は理解し、そういう関数をデータベースに打ち込んだ事になる。
 公開するログのモジュールを無意識に作る訳だな。
 ログCCの場合、嘘の記憶を相手に送る事が出来ないという前提があるが、それはこういう事情に寄る訳だ。
 絶対的であるデータベースに直接ログを取りに行ってるんだからな。そこに任意のものを挟み込む事は出来ない。

 ログCCの許可を出した部分は、他者からアクセスされる。すなわちそのログを参照して他者から、俺の情報であるデータベースに、他人の関数が打ち込まれる。

 場合によってはそれによって、俺のデータベースが変化するんだ。

 うーん……なんか、ずいぶん難しい例えをしてしまったなぁ。悪い、ちょっとガチすぎたかも。
 アベルあたりは全く理解しない部類の話だろう。何で俺がこんな事をって……工学弄ってりゃ多少は詳しく成っちまう事なんだよ。

 ……ようするに、過去をぶっちゃけて相手に伝えると云う事は、それをぶっちゃけた自分を含めて変化させてしまう可能性があると云う事だ。
 ついでに俺も過去を思い出して、それについてあれこれ考えるだろ?そうすると今起こった『思い出し』というその経験が再び俺というデータベースに蓄積されて、過去に向けていた俺のという評価値が変化する事だってある。
 相手に話して相手から何か言われたら、それに影響されて色々と考えを改める場合だってあるだろう。

 要するにデータベースというのは記憶の蓄積というより、この世界においての俺、戦士ヤトそのものだと言ってもいい。というか、そう言った方が分かりやすいよな?
 もっかい、同じ事だが纏めて繰り返すぞ?

 俺は戦士ヤトが生まれてこの歳になるまでずっと寄り添ってきた訳じゃない。この世界にやってきた俺という意識は、数ヶ月前に戦士ヤトの頭上にやって来たばかりだ。
 だが昔から『俺』であるように錯覚するのは……戦士ヤトの記憶を思い出すというコマンドでリコレクトできるからだ、というのは、散々言ってきたはず。
 ログ・コモンコピーはプレイヤー同士に限り、このリコレクトコマンドを相手に許可するというものである。
 実際にログを渡しているのではない。データベースへのアクセス許可を与えるものだ。
 それにより、包み隠さず俺が伝えたいリコレクトされる記憶を相手に送りつける事が出来る。
 しかし、名前に関わらず理論的なコピーじゃない。
 相手がどんなサブルーチン関数を打ち込んで、戦士ヤトとしてあるデータベースにアクセスするかはそれぞれだと云う事は要するに、俺は言いたいのだ。

 ああ、サブルーチン関数の意味がわからんって?

 ええとそうだな、ようするに記憶に対するアプローチの仕方だよ。テレビで垂れ流される映像と音があるだろう?同じモノを見ているはずなのに、そこから感じる事は人それぞれだ。
 海の映像を見てたとして、海が大好きな人は綺麗だと思うかもしれない。そこが一見綺麗でも東京湾だと知ってる奴は汚いと思うかも知れない。
 同じモノを見て、どう感じるかは千差万別と言う事。それが戻り値のある関数『サブルーチン』だと俺は言ってる訳だが、今だとファンクションと言った方が理解できるだろうか?あるいはメソッドとか。余計に分からんか……。

 とりあえず、オッケー?了解?無理?

 例え俺の口から語っても、ログ・CCにしても、その『話』をどう受け取るのかは個人で違う。そしてそれによって、俺がまたどう影響を受けるのかは……これから起こる事だ。どうなるかはこれからがお楽しみというか……何というか。

 経験がある。

 それを見て、どう思うかは……思い出した都度に変わる。
 思いだって細分化され、データベースとして格納されているはずなのに。
 思いは常に、思い出して反芻する度に変化するんだよ。
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