異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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7章  白旗争奪戦   『神を穿つ宿命』

書の8後半 ログアウトⅡ『一方通行のトビラ』

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■書の8後半■ ログアウトⅡ Logout-Ⅱ

「ログアウトしますか」
 色々とスキップして、朝にレッドと顔を合わせた途端。
 朝の挨拶より先にそう言われた。トボケそうになる所リコレクトし、話の続きを思い出す。
 徹夜組に合わせて休憩をして、一旦セーブしつつ……俺の、過去についてのログCCを渡したんだよな。
 それについては後で任意に見る事が出来る様にするので、とりあえず今は話を進めるぞ。
「あぁ?……まぁ。メージンもそろそろきりの良い所でとは言ってる訳だし……」
 このままログイン続けて、また強制終了でもいいんだが……。
 またややこしい事情になるのもまずいだろうとも思うんだがな。

 だがまぁ、強制終了テストも兼ねるのでギリギリまで遊んでいても構わない的には言われている。

 でも……強制終了で都合が悪いのは俺だよな。
 赤旗もそうだし俺で抱えてる問題もあり、これらがどう転ぶのかが未知数なんだし。

「……まさか」
「まさか、じゃないでしょう。最悪氷漬けでも良いって言ったのは貴方ですよ?」
「げ、つまりそのログアウトしますかというのは、俺だけログアウトしろよという事かッ!」
「貴方の現状については、昨日のエントランスで皆さんおおよそ理解出来たでしょう。ついでに僕から今の現状についてもご説明差し上げました。……魔王軍の狙いは貴方か、それともデバイスツールなのか。それとも別なのか、まだはっきりしません。何かあって、貴方をこの町で暴走させるような事だけは……避けたいと思いませんか」
「当たり前だ」
 俺は低い声で呻いて答えた。
「しかし貴方がログアウトすると何が起こるのか、それをはっきり知りたいというのも事実です」
「……でもそれで、この町に迷惑掛ける事には成らないのか?」
 レッドはにやりと笑って、渡り廊下から外を眺める。
 今日もんまり天気は良くない。
「貴方は迷惑かもしれませんが、貴方の現状や魔王について、興味を抱いている魔導師が数多くいる様です。バグの消去について、外からのアプローチで上手く行っていない……ならば、理論的に内側である僕らで追求するというのも悪い手段ではないと思うのです」
「……分かりやすく言えよお前」
「悪いようには致しません。身柄を、僕らに預けてはくれませんか」
 要するに人柱としてだな……赤旗感染している検体としてか。
「それって、俺の状態が単純に珍しいだけじゃねぇのか?」
「まぁ、それもありますけれど」
 素直になったのは良いけど、そう言う所は上手い具合言えよなお前。嬉しくないんだよ。
「なんか怪しいんだよなぁ、他にもお前、何かたくらんでない?」
 レッドは笑いながら身を翻す。
「ずいぶんと用心深くなりましたね。サトーさんの罠も大抵回避するようになりましたし」
「そりゃなぁ、必死にもなるだろありゃ」
 くるりと一回転。レッドは再び俺を振り返った。相変わらず笑っているのだがどうしてだか、腹黒い笑みじゃない方を浮かべて俺を見上げる。
「正直に言えば……手を貸して頂きたい。どうか僕を救うつもりで、お願いしたい」
 素直に頭を下げてきたので俺は、更にうさんくさい気配を感じて顎を引く。
「そういう態度が怪しいって言ってんだろうが」
「じゃぁこうしましょう。レブナントを……レオパードさんやサトーさんを救うつもりで」
「俺が人身供養になるのが、どうしてお前らを救う事になるんだよ?」
「レブナントの肩書きがこの町で、色々と忌避さている状況はご存じでしょう。僕は正直、これを改善するつもりがなかった……その理由については貴方なら推測出来る事と思います」

 レッドが抱いていた暗い望みの前には、肩書きも未来も無い。

 自身の破滅を望んだ者は、自分を取り巻く環境に興味があるだろうか?
 どうだって良いと思ってたんだろうな。
 余り引き受け先の無い魔種の弟子入りを許可するのも、どうだって良いと思っていたからに違いない。

 レブナントというブランドがどうなろうが、レッドには興味が無かったはずだ。
 自身が今、そうであっても。
 ……むしろ、だからこそとも取れるのかもしれん。
 ようやく奴の望みの根本にあるものを今、俺は見ているのかもしれないな。

 かつて、どうでもいいと思い……果てに……滅ぼそうと思ったって事だろ。
 でも、今はそうじゃないってか。無関心だったものに関心を得て、現状の改善をしたいと思ったって事か。

 レッドが下げていた顔を上げる、それが真剣な顔になっていたので俺はため息を漏らして頭を掻いた。
「俺は、お前とはもう貸し借り無しだと思っているんだが?」
「どうして貴方はそういう考え方をするんです」
 例によって腹黒い笑みが戻って参りました。
「僕らは、仲間じゃないですか」
「うわ、すげぇ信用ならねぇセリフ」



 でも俺って、そういう展開とか言葉にすこぶる弱いよな。
 ……いいよ、どーせそういう役どころだよ俺。

 スキップした朝食のやりとりの間、一旦拒否はしたんだけど結局の所……俺はそんな風に腹をくくってしまったりする。

 相変わらずサトーはまともなコーヒー出さないし、レオパードは我関せずってムカつく態度だし。
 ……レッド含めて、こいつらは努めて明るく何でも無い様に振る舞う割に、世間体から相当つらい風当たりを受けているだろう事は想像に難しくない。
 あぁ、俺こういうのに弱いんだよなぁ。うん……はい、昨晩リコレクトしたばっかりだよ。全員にログ・CC渡しちまった通りだ。

 何をするのか知らんけど……。
 ううん、いやまて。
 やっぱり怖いぞ?次にログアウトしたら体の半分くらい弄られて原型留めてないという状況もあり得るじゃないか。

 いやいやいや、ちょっと待て俺。

 そんな風に気の迷いエトセトラで悩んでいたら、危うくサトーの差し出した水を飲む所だった。あぶねぇ、こぼれた水がテーブルで白い湯気を上げやがった!
 何だこれ、水じゃねぇ?強酸?
「お前、割とホンキで俺を殺す気か?」
「大丈夫ですよヤトさん!その位で死ぬようなタマじゃないですぅッ!大怪我したら僕が付きっきりで看病してあげますから安心してください」
「安心できるかッ!」

 ……こういう奴が大勢な訳だろ?

 危険だぞ?俺がログアウトしたら戦士ヤトは、この状況を上手く捌けるんだろうか?
 そこへ、俺はてっきりまだ寝ているのだと思っていた。ナッツが珍しく息を切らして戻ってきた。

「分かったぞ、レッド」
 奴め、何時の間にか情報収集に出かけてたんだなー。

 ちなみにシェイディからの疲れが取れないのか、他の連中はまだ起きてきてない……そろそろ昼になろうかという時間だ。
 面倒だから起こさない限り起きないアインも放置してある。

「どうしました?」
「魔王連中の目的だよ、今回は随分と幼稚な手で来たね」
「どうしたって言うんだい」
 マツナギはちゃんと起きている。シェイディの地下世界は彼女にとっては特にストレスじゃぁなかったって事だろう。
 ナッツが起きているのは……ま、奴は色々律儀な奴だから、無茶してんだろうな。
 不言実行な縁の下の補佐役だ。
 レッドも、破壊された二階の整理を止めて階段を下りてきた。
「どこかにまた魔王軍でも出たのですか?」
「らしい、ここからもっと南下した山の方角へ進む魔王軍が確認されたって……なんでも、そこは魔法防御されている古代遺物があるとか無いとか言われているらしいけど。僕はそういうのはよく知らないんだ、何だろう?」
「魔法防御されている……古代遺物。……ここより南というと……学士の城の事でしょうかね」
「何だそりゃぁ?」
「うはぁ、学士の城!」
 サトーがこぼれた危ない液体を処理しながら顔を上げた。……なんか白い粉っぽいのをまぶして……やっぱり酸か貴様。
「方位神が住んでいるって言われている幻のお城ですよぅ。でもしっかり存在が隠されてて、なっかなか辿り着けないんです。一説には中央大陸と同じで……辿り着いたら生きて戻れないとか言われたりもしてます」
「げ、そんな所に何の用事だ奴ら?」
「決まっているだろう?大陸座だよ」
「……どうして決まっている」
 ナッツの言葉に俺は腕を組んだ。意味分かりません。
「東国にいる大陸座はジーンウイントとドリュアートだと言われている。ドリュアートは不動でコウリーリスにいるだろう?不思議と大陸座っていうのは八つある国に一人ずつ存在している。はっきりした事じゃないけどそう言われているじゃないか」
 確かに、そうみたいだな。リコレクトして俺は頷く。
 シーミリオン国にはナーイアスト。
 シェイディ国にはオレイアデント。
 西方ファマメント国には同じ名前のファマメントが居ると言うし、南方カルケードの最果てにはイーフリートがいるというのは……アインの談。
 コウリーリス国にはドリュアートが居て、南東に位置しているが西国に数えるという特殊な国、ディアスのどっかにユピテルトが居ると言われている。
 いやでも、ディアスの場合は特殊なんだよな。国で『居る』と語っているんだけど『騙っている』可能性があるらしくて今一その情報が信用されていない。
 そして東のどこかにジーンウイントが居ると言われる。消去法的に、だろうな。
 東のどこかっていうのは要するに、ペランストラメールだろう。なぜなら、コウリーリスにドリュアートがすでに居る。他に『東』と要ったらペランになる。だからペランの領地のどこかにジーンウイントが居るだろうと言われているのだ。
 とすりゃ、当然遠東方イシュタル国にはイシュタルトが居るって事になるだろう。
 イシュタルトは一番ドコにいるのか分からんと言われているらしいが……ま、この流れなら間違いなく遠東方のどっかにいるんだろうな。
 しかしオレイアデントが地下大地のどこかに、というのと規模が違う。
 東国ペランストラメールは広すぎる上に、過去遺跡とか怪しい所がいっぱいあるから目星がつかないのだ。
 だから、ジーンウイントが何処にいるかというのは、この考える事に特化した魔導都市がお膝元にありながら全く判明していなかった。ウチの軍師連中もあえて追及してなかった所があるだろう。

 って事は、この『幼稚』という手段はこう言う事かな。
  
「……魔王連中はそこに、大陸座がいるって分かってるってか。暴露して主張してやがる、と」
 というか実は、大陸座と方位神の違いが割と分かってないみたいなんだけどな、戦士ヤト。
 ちょっと混乱している俺。
 違いというか、関連性があるのか無いのかよく分からんのだ。

 シェイディのオレイアデントは『別だ』と言っていたよなぁ?暗黒神は方位神イン・テラールの事らしいが、大陸座オレイアデントはこれとは別だと本人が言っていた。
 方位神ってのは……何だ?
 無学とか言うな、俺は元からバカな設定なんだから!

 しかしそれを今追求すると、レッドだけではなくサトーやレオパードからも『こいつバカ?』的な視線を貰う事間違いないので……追求できねぇ。
 今回はパス、いずれアベルがボケるのを待て、次回!
 って、前も同じような事があったような?

 そんな俺の密かな迷いに気付く筈もなく、ナッツは頷いて答えた。
「みたいだね。こtrhs、どうやらそれを僕らに教えたい様だとは思わないかい?」
 ふぅむ、でも問題は……何故って奴だろう?それくらいは俺にも分かるぜ。

 魔王八逆星が大陸座を攻撃していると仮定したのは……カオスだったな。この所見かけないが、まぁ奴は西国ディアス領土になっているタトラメルツを拠点にしている訳だし。会いたい訳でもない。

 この世界へ大陸座が触れられないように小細工したのが魔王八逆星の連中だとすると……なんでそんな事をしたのだろうという疑問が残る。

 ……ああ、俺にも何となく見えてきたぞナッツ。
 もしかすると連中には、そのように大陸座と世界を切り離すのが『限界』であるかもしれないのだな。
 大陸座が世界を破壊しかねないガンだと認識している魔王八逆星という組織は、そうやってなんとか大陸座の影響を弱めている。本当は抹殺したいのだが何か都合が合ってそれが適わず、一先ず封印という手段を取った、的な。
 しかしその封印、壁を突破出来てしまう俺達の存在は連中にとっても想定外かもしくは。

 想定内って事もある訳だ。

 レッドが隣に立ったのを見て、俺はサトーらに聞こえないように囁いた。
「デバイスツール。やっぱりまだ、俺達はそれを手に入れなきゃいけないもんか?」
 とりあえず、レッドのアーティフィカル・ゴーストはそれでやっつけることが出来た。しかし、俺のバグの方はデバイスツールをどのように使えば解消できるのか分かっていないのだ。
 手掛かりを求めてタガ・アダモスに預けられた俺であるが、タガさんには俺が抱える異常性を見つけられないと言った。暗黒比種化は、この世界では『有る』事だ。魔王連中が大陸座を異物として見做した様な、異常性を間違いなく俺は、レッドフラグとして抱えているはず。だがやっぱりそれは例外なく、こちらの世界の者達には認識できないって事なのだろうか。

 オレイアデントとの出来事で俺は、少しの迷いを持っていた。
 どんな力にもなる、使い方に気を付けろ。
 そう言ってオレイアデントが渡すのを渋ったよな。いやでも、それはあいつが消える訳にはいかない事情があったからだっけか。

「魔王軍がソレを、手に出来ない、という保証がないでしょう?」
 デバイスツールの事、だな。
「ブルーフラグの権限で使えるように仕様変更がなされています。しかし、レッドフラグの設定は『誰も』関与していないのです。赤旗が使用出来ないとは……赤旗の規格を全て把握していない『上』には保障できない事でしょう。ともすれば……先に僕らが得ておかなければいけない」
「そっか」
 俺は厳しい顔になった。いつしか、白旗……デバイスツールの争奪戦に突入していたんだな。
 目の前にナッツが座る。
「でも間違いなく僕らを呼んでいる……彼らにどういう目的があるのかも確かめたいから……この誘いには乗るしかないのだろうけれど」
「ですね、……明らかに罠でしょうけど。無視する訳にはいかないでしょう。大体その情報、魔導都市に流れている訳でしょう?魔導師達が先走ります、八逆星が張った大陸座を隔てる轍を魔導師達が解析しない……とも、限りません」
「マジか、すげぇ何でもありだな、混沌としてきたぞ?」
 大陸座の所に何が何でも、俺達が先に辿り着かなきゃいけない状況なのか。
「どうにか現状を落ち着かせる事は出来ないのだろうか?」
「……ありますよ、いい手が」

 そう言ってレッド、俺を見た。
 嫌な予感がする。

「僕も色々と腹を据えたんです、あとはヤトの返答待ちなんですけれど」
「げぇ、何すんだよ」
「僕らはイシュタル国お墨付きの魔王討伐隊です。この権限は勿論この町およびこの国でも通用します。そして僕が魔王を目指す事はこの町では知られている事」
 ……だから?
「世界を騒がす魔王相手に、連携無く挑んでも仕方がありません。プロジェクトを広げるのです。僕らを中心として魔王討伐兼魔王調査チームを組む事をペランストラメール政府に進言し、その指揮を握ればいい。これでこの町を舵取りする事が可能でしょう」
 うぅむ……確かに正論だ。
 不可能には聞こえない。
「しかし、お前が言い出しっぺで人集まるのか?」
「僕らのリーダーは貴方でしょ?」
 つまり俺が言った事になるわけか。全部。
 ……頭痛がしてきて額を抑えた。
「任せようヤト、今更始まった事じゃないじゃない」
「マツナギィ、確かにそうだけどさぁ」
「貴方の存在そのものが良い広告塔になる。貴方が発現するであろう『魔王化』についても、僕以外の専門的な多くの知恵を借りる事が可能になるでしょう。ついでに……今朝も言いましたけれど」
 ああ、はいはい。

 レブナントが背負っている悪いイメージを払拭できるってんだろ?どういうマジックを使う気かは知らんけど。

「全く、分かったよ……お前に任せる」
 ま、一応俺の意見を尊重してくれているんだ。ここまで言われちゃ俺はキャラ的に拒否は出来ん。
 俺は、戦士ヤトはそういうキャラだよ。ああ、全く損な役どころだよなぁ。
 大体レッドの野郎、俺がいずれこういう事に折れるだろうキャラなの分かってて事を進めてやがるんじゃねぇのか?
 そんな風に疑い始めたら……ほんと、切りがねぇ。

 いーよもう、ああもう。
 どうせ俺は人柱ですよ。
 ……ログ・CCしちゃって、俺はちょっと自暴自棄になっているんだと思う。

 まだ起きて来ないけど……アベルとテリーは、起き抜け俺に何と言うだろう?
 俺の過去を知っているあいつらは、俺にどんな言葉を投げつけてくるんだろう。

 割とそれが怖いのな、俺。



「で、氷付けにされるのか?」
「最悪の場合は」
「……最悪じゃない場合は?」
「貴方が再びログインするまで、貴方がもし暴れるようなら押さえ込むように魔導師を手配しましょう」
「具体的案は」
「それはこれから協議するのです……課題を与えると喜んで解こうと必死になるのが魔導師ですよ」
 ため息を漏らして、幾重にも魔法陣が敷かれたホールに足を踏み入れる。

 もうこの建物自体がすげぇ厳重なフィルターに覆われてるのな。半地下で何人もの魔導師によって維持されている様々な壁魔法。

 これから、俺はナッツ特製の眠り薬を一服してセーブに入り……一足先にログアウトする。

 俺が腹を据えて数時間後だ。
 このやろうレッド、やっぱり俺の許可無く話を進めてやがるじゃねぇか。
 でも今更文句は言わん……。幸い、テリーとアベルに顔を合わせず今回はログアウトして、俺のささやかな恐れを先送りできるってんだ。
 悪いが俺は一足先にこの世界から逃げるとしよう。
 ぶっちゃけ、リアル-サトウハヤトは逃げ出してここに来てるんだがなぁ。笑えるぜ、再び逃げ足で現実に戻るってんだ。

 連中は俺が先にログアウトして、それで一体何が起こるのかある程度見届けてから時間差でログアウトするんだそうだ。
 そうする事により起こる現象、ってのはもう開発者のテストプレイで有る程度分かっているらしいんだが、バグ発現後も問題が無いのかテストしなきゃいけない所なんだと。
 ついでだからやっちまおうって腹だな。

 飲み薬の瓶を開けてコルクを投げる。
 律儀にレッドがそれを拾った。……魔法陣敷かれているからゴミは邪魔だったかな。
 けどちょっと乱暴になるのは……やっぱり腹では現状が怖いからか。
「……頼むぞレッド」
「はい、」
 短く答えたレッドに、俺はその時にはすでに殻になっている空き瓶を手渡した。
 息を吸うたびに意識が遠のく。
 俺はゆっくり膝を突き、所定の位置に横たわった。石床に、薄い布が敷かれているだけだ。半地下ってだけあって冷たい。
 俺は今、武器も鎧も付けてない軽装である。
 呼吸が意識してないのにゆっくりになる。
 息が吸えない、合わせるように視界に靄が掛って精神が浮遊するような奇妙な感覚に支配されていく。
 覚悟して目を閉じた。
 もう暫く、こっちには戻って来れない。……とはいっても、リアル時間での話でこっちの時間的にはほんの一瞬の出来事らしいんだけれど。

 じゃぁな『トビラ』。
 八精霊大陸、だったっけか。

 俺はこの世界で夢を見て……奇妙な世界に行ってくる。

 あっちから見ればこっちが奇妙でも、こっちから見ればきっとあっちが奇妙だ。そう思う。

 戦士ヤトが俺が現実とする、あの世界に行ったら何って言うだろう?
 まぁ、無い事なんだけどな。
 そんな事を思いながら……俺はエントランスをめざし同時に、ログアウトする事を意識した。


 黒いトビラを潜る。


 展開を……スキップしたのとは違う。
 ぶつりと、夢から覚める。何かが……例えば、回線が切れるのに似ている。
 突然訪れる全てに対する忘却は、現実で覚醒するにあたって避けて通れない……夢として処理されている通過儀式で……。



 薄暗い中、俺は体を起こして眼鏡を下ろす。
 何が起こっているのか分らない訳ではない。眼鏡型の装置をはずし、居心地のよい椅子で寝ている事の意味を即座に理解していた。

 そう、俺はゲームのテストプレイヤーとしてここにいるんだって事を。

「おつかれさんー今回もログアウト第一号やね」
 微妙ななまりのある声に、ぼうっとする頭を振った。
「あー……そっか。……トビラやってるんだったな……俺」

 だけど唯一。

 やっていたゲームの内容を、――すなわち見ていた夢が、どんなものだったかだけは……はっきりと、思い出せないんだ。

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