異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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9章  隔たる轍    『世界の成り立つ理』

書の1後半 迷わない『選んだら後悔しないで生きる事』

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■書の1後半■ 迷わない Don't lose one way

「……つまり何か?お前は、俺の中にあるミストレアル金属が欲しいのか。生成する方法を作る為にドリュアートを復活させる必要があるとか?」
「……違うな」
 あっさり否定されたよ。
 うーん違うのか、じゃぁ……何が目的で俺をここに縛り付けているんだ?木を育てる為じゃないのか。
 他にどんな目的があるって言うんだ。
 俺、バカだからさっぱり予測が付きませんよ。……とかいって慌てて斜め上に視線を泳がす。んー……そう言えば『種』とか言っていたなとリコレクト。
 安易にミストレアル金属の事かなとも思ったが、そうじゃないという事だよなぁ。
「言ったはずだ、君を死なせ無い様にすると」
 ぶっちゃけて俺は、その言葉を信じていない。よってその話は意識してスルーしました。
 それは、どこまでも詭弁だ。
「死なないって、死なない生物は居ないだろう?」
 一応、この世界の理ではそのようになっている。
 常識だから誰でも知っている事、という訳ではないが……一応俺バカだけど、子供の頃に学校みたいなものには行ってたからな。
 天使教で開いている寺子屋で、ブランクス先生から基本的な事は教わっているんだ。だから、俺はちゃんと知っている。
 この世界、つまり八精霊大陸というのは八つの根元精霊が作ったとされる世界であって、その八つの概念、約束事でもって存在が定められている事を。
 基本的な事だからあえて説明はしないが……。

 あ、詳しく知りたい方はナッツさんのコーナーを覗いてみてください。取説の最後の方にいるそうですから。移植版でもこの話の後に追加するそうですのでヒマな人はどうぞ。

 それはともかく、世界はこの八つもしくは九つのお約束に縛られている。まぁ、実際には他にもあるらしいけど。
 世界には八つの偉大な約束があるんだよ~的に子供にも分かりやすく教えるに、それに精霊という人格を与えて、どういう約束があるのかを説明してくれている訳ですよ。
 で、今はそれが『大陸座』というはっきりとした側面をもってちょっとだけ階層は違うけど実在しちゃってる訳で。
 その、約束の一つに曰く。

 全てのものにはイーフリートの司る終焉があり、と同時にその対角上出発点としてナーイアストの司る始まりがある。
 始まった段階で『結果』は定められていて、物事は必ず死に向かうという事になっている。

 ようするにだ、世界のお約束的に『不死』というのが存在しないのだ。
 一見不死のように見える人や物事はあるかもしれないが、長い目で見ればそれは絶対不滅ではない。

 いかなるものにも死は訪れる。いずれ必ず死とか、消滅とか……とにかくちゃんと終わりがあるんだよ。

 そういう実に哲学じみているがはっきり定められたお約束がこの世界にある事を、このおバカな俺が知っていてナドゥのおっさんが知らないという事はありえない。
 と言う事は、だ。
 ナドゥは、その『あり得ない事』を『あり得る』と言っている事になる。
 死なないように、要するに不死などぶっちゃけ、ありえない。あり得るというのなら何らかの制限のある詭弁的な『不死』でしかない事になるだろ?

 だから俺は、それは有り得ないと言っている。そのからくりを教えろと聞いているのだ。

「死……とは、概念の上で命と繋がるものだ」
 まぁ、そう云う事になっているらしいよな。ナーイアストとイーフリートが対関係というのはお互いに背を向けているという事じゃない、イメージとしては輪っかなのに裏も表も直線上繋がっているメビウスの輪みたいなものであるらしい。
 ……という説明をブランクス先生がしてくれたのを俺はリコレクトしております。
 うむ、天使教の教育ガイドはしっかりしておりますなぁ。
「生物を個と見なした時、そこには死があり終焉があり、延長線上に再び命があり生がある。そしてその先に再び……終焉がある。この繰り返しであるという事は、君には理解出来るか?」
 明らかに俺をバカにしているようですが、実際バカなので反論はあえてしません。実際、ナドゥが言いたい事はおおよそ分かる。
 要するに……例えば、草とか花だ。

 種が発芽して成長して花を咲かせて実を結び、種を飛ばして……枯れるとする。個として見た時その、花を咲かせた草は死んだ事になるが、同時に種を残して次に生を託す。実際ナーイアストの『結果の始まり』とは呼んで字のごとく、結実した事から新しい命が始まる事を指しているとも云うしな。
 人は、生物は、木の又から突然生まれる訳じゃない。
 必ず親となるものがいて、それらが結んだ果実より生まれ出る……みたいな事を言いたいのだろう。ナーイアストとイーフリートの関係とはまさしくそういう生と死の繋がりの事でもあるらしいからな。

 俺は、分かると言う事を示すように動かない首を何とか動かそうともがいてみたり。そんな様子を察する事無くナドゥは言葉を続ける。
「……生物を集団と見なした時、果たして死と生は個別のモノと言えるかな?それは繋がりのある繰り返しの概念であり、等価なものであり、表裏一体同じものであり……同時に存在するものだとも言える。それでも死の果てに終焉を感じるのは、その時生物を構成する三つの要素、すなわち精神と肉体と幽体の結びが解けてバラバラになってしまうからだ。この三つは三つそれぞれのバランスでもって互いに存続する、個となると途端に概念となり……存在し得なくなる……すなわち、それが死という概念の実情。存在しない、いや……存在はするのかもしれないが見えない、触れ得ないというものになって一旦世界から消滅し、世界に干渉しえない存在になる事」
 足元の、灰色がかった木の肌をナドゥはわざわざしゃがみ込んで擦る。
「だが……消滅する課程で生物は必ず何らかの種を蒔く。崩壊した個の意思など時になど関係なく、次の生命へと繋がる種をばらまく。その因果関係を完全に操る事は難しく、そして……生前の個が意図出来る事ではない」
 ……む、難しい話は勘弁してください。眠くなってきた。
 いや、眠いのは難しい話の所為だけじゃない……気がする。
 痛みが消え、もの凄く穏やかな気分になっていて……気持ちが落ち着いてきたのを通り越して……緩慢というか……こういう気分は何って言えば良いんだろう?

 死んでもいいやと投げやりになった気分と似ているが、少し違う意味で―――全ての事がどうでも良い事のように感じる。

「生物を個として、三つの概念の繋がりとして考えるのではなく……もっと多くの集団として考えた時。例えば、森」
 瞼が……落ちそうになる。せっかくエンジンが掛った脳みそが、巧みな話術というよりは退屈な話題ですっかり大人しくなってしまった。
 しかし、今眠ってしまったらなんだかずっと……眠むり続けてしまいそうな気がする。
 ナドゥが話しているのは見えるのだが、その声がすっかり俺の脳まで届かない。
「……は、すなわち…………君…………となって……」
 遠くなる声。
 全てが緩やかに遠くなる。
「君が、……死ぬ事は……無いに……等しい……。君は」
 諦めて目を閉じる。
 それでも、暖かく陽が自分を照らしている事を感じている。
「……生かされ……同時に……永遠に……等しく……生き…………続ける…………事に…………なる………………だろう………………」




「違う、そうじゃない」
 ばしんと叩かれて、折角集中して瞑想じみていた素振りを中断してしまう。
「痛ってぇ……何だよ!叩く事ないだろう?」
 竹で出来たよく撓る棒状のもの、ええと竹刀をもうちょっと体罰用に緩く縛った代物で叩かれた背中をさすり、俺は……指導監督のバックス老に悪態を付いた。
 体中、名誉の傷だらけという厳ついじいさんだ。
 まだ現役剣闘士やれるんじゃね?ってくらい背筋もピンと伸びていて筋肉も衰えた様子は見えない。だが現役時代から逆算すると実年齢60越えは間違いない。俺と同じく東方人なので人間種だ、60歳って言ったら十分に大往生だぞ?
「口先ばっかりで分かったなどと言いおって、全然分かっていないから肉体的指導をしとるんだろ。実際問題頭の弱いお前に頭で理解しろと言っても無駄だろうしな」
 うるせぇ、確かにそれは認めるが……。
 ええと、何が……違うんだっけ?

 ああ。
 意気込みが間違っている、とか指導されたんだったな。

 隷属剣闘士という間違いなく奴隷扱いの時代に、俺に剣に限らず戦いの全てを叩き込んだバックス監督は、当時相当にひねていた俺に……剣闘士とはいかなるものかというのを散々殴りながら叩き込んでくださいましたね。

 遠東方イシュタル国の闘技町エズにおいて、神聖でさえあるという国営殺戮劇場もとい、一対一で行われる殺し合いについての『心構え』なるものを俺は、思い出している。

 そも、俺は自分で転落したこの隷属剣闘士という身分に相当な絶望感を抱いていた。いつ死んでもおかしくない環境で、実際割とあっさりと、何時死んでもそれでも良いや、その方が楽かもしれん、とか思っていた。
 所が実際剣を握り、命を賭して戦いが始まると感情とは裏腹に肉体は、死ぬのが怖いと悲鳴を上げる。
 切られたり殴られたりしたら痛いだろ?
 俺、割と性格的にはMだけどそれは後天的な特徴だ。元来男は痛いのはダメな人が多いという統計もあるらしいぞ。まぁ統計でしかないがな。
 それで戦いが始まる前の、心の中に秘めている低ぅーいテンションや感情とは裏腹に……戦いが始まってしまうとつい、生きる事をがんばってしまうのだな……俺は。

 バックス老曰く、生きる事に懸命な者にこそ戦いの神は宿り、その者に勝利の栄光を授ける……とか何とか言っていたが実際そうかもしれない。
 諦めた時が死に時だ。さっさと諦めればいい癖に、俺はなぜだか生きる事を諦める勇気が無くて仕方がないなぁという風に『生きて』いた。
 監督曰く、どうもその戦いが始まる前の死んでもいいや的な思想を快く思っていないらしい。人の思考を読んでるのか?とか思うくらいの頻度で、鍛錬中あまり良くないネガティブな思いに囚われているとどこからともなくバックス老が現れては、俺に喝を入れると言っては殴ってくる。
 口ではいくら生意気言っても、このおっさんには全部お見通しだった。……かなわねぇよ。

 剣闘士は死ぬ為に剣を交え戦うのではなく。
 どちらかの死を捧げる為に殺し合うのではなく。
 その、生きようとする戦いそのものを『捧げる』のだとか。

 しかし、当然俺はこの考え方を上手い事理解は出来なかった。結局の所、命の重さの軽い奴を使った殺し合いの見せ物だろう?という考え方をなかなか改める事が出来なかったりした。
 そして実際、多くの隷属剣闘士達がその様な思いの果てに死んでいくのだ。

 結局、俺はなかなか死ねなくてなぁ。
 辛い環境でも生き続けなきゃ行けない事になり、そもそもこうなったのは誰の所為でもない、俺の所為であって……剣士になるなどという、バカげた夢も俺が選んだ道だって事を渋々ながら受け入れるようになった。

 世の中には、自分で道を選べずに生きている人も居るんだって事もボチボチ理解するようになって……。
 俺は、多分そういう人に比べたら贅沢をしているのかもしれないと思ったりもして。いや、嫌な贅沢だけどさ。
 選んじまった以上、何時までも後悔なんざしてないでおとなしく生きれる所まで生きるしかないよなぁ……とか。そんな風に考えるようになったのはそんなに昔の話じゃない。
 割と最近だと思う。
 どーせ人間、死ぬ時は死ぬんだから。黙っていても死はちゃんと俺にお迎え出してくれるんだし。
 元々頭良い訳じゃないからな。
 そんな難しい事考えてると試合で大体間抜けな結果になる。戦っている最中に余計な事考えると、余計な傷を負って俺は痛い目に合うだけだ。……ってそれ学習するのが遅いよ俺。

 おかげ様でうだうだと、迷うのを止めてしまった。

 それだから余計に頭悪くなるんだ、とか言うなそこ。



 夢から覚める。


 俺は、呼びかけられて目を開けた。実際、目を開けなくてもそこに誰かが居る事は知っていた。
 その人が、俺に呼びかけたから応答するように過去の反復を止めて……意識を呼び戻す。
「こんな所に何の用事だ?」
 ローブに埋もれた姿の人物は、水色の不気味な瞳で俺を見下ろしている。
「それは、こちらのセリフだ。お前はこんな所で何をしている」
「……さぁな、よくわかんねぇ」
 ぶっちゃけ、現状がよく分かっていないというのは本音である。
 酷く久しぶりに言葉をしゃべった気分になる。
 俺は、一体何時間寝ていただろうか?1時間?半日?三日間?数週間……数ヶ月、数年、数百年。

 なんだか途端に、刺さったままの剣が結構邪魔というか……ちょっとウザい事に気が付く。

「カオス……この剣、引き抜いてくれないか?」
 俺は目の前に立っている人物に向けてそのように願い出てみる。
 カオス・カルマ。
 タトラメルツの領主に仕えているという自称悪魔という変な奴だ。そんなへんてこな奴が……どうして今俺の目の前にいるのかよく分からんけど。
 まぁ、時間がどれだけたっているのかと同じくどうでも良い事だなと思う。
「残念ながら私にはそれを行う資格が無い」
「……なんだそれ?」
「私はお前の意思を確かめに来ただけだ。答えによっては……引き抜く事も可能だろうが」
 よく分からん、俺は手も足も動かない状況だから自力ではお手上げなんだが、カオスは要するに自分は非力だから無理だと言っているんだろうか?いや、試すくらいしろよお前。
 まぁ、ウザいだけなんだけどさ。ダメそうならそのままでも別にいいんだけど。
「前にも言った通り、私は世界の破壊者たる空の悪魔第三位無心の者だ。世界を保守するであろう輪の精霊の力が高まる事は阻止すべき事である……過去の姿に戻るようでは世界の破壊は進まない」
 んー……言っている事の意味がよく分かりませんが。
「要するに、俺を『引っこ抜きたい』訳か」
 自然と紡がれた、その言葉に俺は俺自身でちょっと戸惑う。
 引っこ抜くって何だよ?
「……お前は生きたいか。それとも、死にたいか?」

 ナドゥ曰く、俺はずーっとここで生きてなきゃいけないらしい。

 どうやらそれが目的で俺をここに打ち付けたみたいだな。
 俺に死なれては困るらしい。……何でかは知らないけど。
 俺個人としてはもう、すでに死んでいる。
 死んだにも関わらず不思議と生きる事になってしまったのは、恐らくこの世界にはびこりつつあるバグ、赤い旗の所為だろう。この予測、大凡アタリだと俺は思っている。
 俺は少しばかりの間レッドフラグによって生きていた。
 今は……どうなのだろう。
 俺『個人』としては既に死んでいるのだが、その死は延長線上再び生となって続いている。
 俺は種となり、今は……森、あるいは古い木『世界の真ん中にあった木』またはドリュアートと呼ばれているものと一緒にされて……ようするにだ。
 『個』ではなく『群』として生きるハメになっている……のかな?
 まー、そんくらいはなんとなくだが理解出来る。

「困っているだろう、そんな状態では生も死も、どちらも選ぶ事が出来ないと見えるが」
 ええと、それで困るのは何でだろうな?不思議な事に俺は全く今困っていないのだが。
 死んでいるように生きている。
 生きているようで……死んでいる。
 まさしく、何も考えていない今の俺の状況かもしれない。
 同じ道の上にありながら別のものとして隔離された二つの概念。二つの世界。
 今その境界が無くなってしまって……俺はどっちも『選べない』
 ふむ、成る程な。


 ふっと、俺は見ていた夢の事を思い出す。
 生きる事に対する迷いを捨てて、選んだからには後悔なんざしないという事。
 死にたいと望んだ所でなかなか、戦いの神イシュタルトは俺の命を刈り取ってはくれない訳でして。
 戦え、戦えと俺に死に伴う痛みの恐怖を植え付けてくれた。

 実際……俺とは違った意味で不自由に生きている人も知っていて。

 その人と半分くらい境遇を分け合えたらどんだけ良かっただろうと思ったりもした事を……思い出したりして。

 意識が不思議と鮮明になってくる。
 リコレクト、思い出している。


「……生きたい、かもな」

 俺は、死にたいとはやっぱり、上手く言えない事を思い出している。






 殴られて意識が一瞬吹き飛ぶ事はよくあったが、殴られて意識が鮮明に戻るってのは……てゆーかもっとましな覚醒パターン無いのか俺。

「……ってぇ!」
 殴られた左の頬が速攻で腫れ上がっていくのが分かるぞ貴様……!俺の左が腫れているという事は、お前右で殴ったって事か?本気で殴ったろ、本気の本気だろっ!
 意識が戻って顔を上げた所、ナッツとテリーから羽交い締めにされているアベルが俺に足蹴りを食らわせようとしていた。
 慌てて背後に後ず去ってなんとか回避。
 アベルさん、木を陥没させる程の蹴りを人間種族に食らわせるのは止めてくださいよ!
「お、お前なぁ!」
「バァカ!アンタがさっさと目を覚まさないからよ!」
「起きたみたいだから落ち着いて!」
「これ以上殴ると流石に死ぬぞ!」
 呆気なく、ナッツとテリーをふりほどくアベル。怪力娘恐るべし。

 ……あれ?もしかして俺再び死亡フラグですか?

 一歩前に踏み出したアベルが拳を固めたのを見て、俺は苦笑いするしかない。
 アベルは何か喚こうとして大きく口を開け……息を吸い込んで言おうとした言葉を止めたようだ。
 そして突然膝をついてへたり込んでいる俺の前にしゃがみ込み、その怪力で両肩を掴む。ようするに抱きついてきたのだな。
 おかげでベキッて俺の背骨が変な音を(以下略)
「そんな、何度も殺したりなんか……」
 そうしながら小さく呟いた言葉の意味を、勿論俺は知っているのだがアベル的には説明されたくない事だろうから黙っている事にします。
 てゆーか、背筋を強制的に伸ばされて苦しい。
「……ええと、状況がよく見えませんが?」
 上手い事言えない俺は、そのように惚けてみる。
 途端アベルは俺を勢いよく突き放しつつ立ち上がり……肩を怒らせるようにしてどっかにいってしまった。

 ここは……どこでしたっけ?

 足下に、俺の胸に長い事突き刺さっていたはずの剣が落ちている。……いや、刺さっていた期間は長かったのだろうか?
 刺さっていたはずの自分の胸をさすってみたが……特に痛みは無い。
 俺は意識して目を閉じ記憶を探る、リコレクト。
 俺そのものである記憶の塊、過去の出来事を思い出すべくデータベースに問い合わせる。

 コウリーリス国に入って、俺の生まれ故郷であるシエンタに行って。
 そこで変なガキと大蜘蛛に遭遇して……。
 ランドールの奴らが乱入してきて、それらを追いかける為に出発する直前、俺はどうやら単独行動になってしまったんだよな。
 そう、バグ感染していなかったはずのナドゥに赤旗が立っていて、その何とも違和感のあるナドゥから俺はとっつかまり……そうそう。
 ドリュアート跡だ。そこに連れてこられた訳だ。

 俺は落ちていた剣を拾い上げ、それを杖にして立ち上がる。
 ごつごつとした、岩よりも少しだけ柔らかなこの感触。
 ここは木の上なんだよな。
 ……思い出してきたぞ?
 ミストレアルとやらを摂取する事で成長する古代の木『世界の真ん中にあった木』とやらに俺は、のめり込んでいたんだっけ。
 視界が少し開け、思い出した通りここはどうやら木の上みたいだな。
 そんなに高い所じゃないみたいだが、三階建ての建物の屋根上くらいはあるんじゃないだろうか?幹から突き出しているいくつもの枝の先に、霞んだ湿地帯が伺える。更にその奥に濃い緑の絨毯があるのが見えた。
 さっきまで霧に包まれていたようで、今も所々霞んでいる。
「大丈夫?体の不調は?」
 早速ナッツが近寄ってきて俺の、やっぱり胸のあたりを往診しているな。そうだな、剣突き刺さっていたはずだしな。
 鎧……は脱がされていて、アンダースーツには穴が空いている。刺さっていたのは間違いない。
 だがしかし。
「……頬が痛いです……」
 ぶっちゃけ、今痛いのはアベルから本気で殴られて腫れまくっている左頬です……!


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