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9章 隔たる轍 『世界の成り立つ理』
書の2前半 明らかに罠『例え仕組まれていても』
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■書の2前半■ 明らかに罠 Apparent black flag
暫くして、辺りの状況を見に行っていたらしい、マツナギとレッドが戻ってきた。
なんだか酷く……久しぶりだ。当たり前だが。
何日別行動していたんだって聞いたら、三週間強だとかいう。連中は俺の行き着く先がドリュアート跡だと、すぐには予測できなかった、分からなかった……とか。大蜘蛛を追いかけているランドールを追いかけて来たらしいのだが、いい加減追いつくことが出来ないので、ダメで元々ここに来てみたらこれがアタリだった―――と云う事らしい。
俺を探すのが本命で動いていた訳だからまぁ、アタリだな。
それでもここまで来るのに三週間強。
木の中に埋もれていた俺を発見したのはつい先ほど……と。
「……申し訳ありません」
なぜか顔を合わせるなりレッドが頭を下げるんだが、意味分からん。
「何で謝るんだよ」
「貴方の重要性を理解していながら、少々扱いが軽率でした」
相変わらずモノ扱いしやがるし。
「アインは……あの時……一応俺の監視役だったのか」
そういえばアインさんはどこだろうとキョロキョロしながら聞いてみる。
「……正直に暴露すれば……。お前がシエンタで一人で動いている間も僕は、探査糸を付けて行動を監視していたよ」
ナッツが素直に教えてくれる。レッドと違って反省の色濃い雰囲気と声色に俺は、逆に迷惑掛けてたんだなぁという気持ちになった。ほらちゃんと見ろレッド、態度と言葉遣いでこんだけ心象に違いが出るんだぞ!ちったぁナッツさんを見習え!!
ようするに、シエンタの潰れた実家で俺が逡巡していた一連の間、ナッツは俺を密かに監視していた訳だよな。さも偶然会ったように湧き水の川で落ち合った訳だが、そうじゃなかったって事か。
まぁ……その可能性については再び捕まった時なんとなく、想像はしたんだけど。
なんつーか、俺ってもしかしてこうやって魔王八逆星連中に変にマーキングされてたんじゃないのか、って。この俺に、一体どんな価値があるのか今もってさっぱり分からないが、連中にとっては大事な何らかの『使い道』があって、それをウチの軍師連中は密かに危惧していたのではないか、ってな。
とすれば、あの軍師連中に俺はずっと監視されてた可能性が在る事は想像出来ない事ではない。
いやまぁ、付き合いもそれなりに長くなってきましたし、連中が取り得る非道な行いにも慣れてしまったというか何というか。
なので、まぁ今更憤慨はしねぇよ。そうして、キョロキョロしている俺が、アインを探しているのを察したようにマツナギ苦笑する。
「アベルが木を一人で降りて行ってしまってね。彼女、一人だと何処に行くか分からないだろう?」
ああ、アインはアベルについていったのか。アベルは方向音痴だからな。数メートル離れるだけで迷子になれちゃう奴である。
「……本当に、大丈夫?」
と、マツナギが屈み込み、俺を覗き込むように接近する。俺より背が高いんだもんなぁマツナギは。
「ああ……そうだな、大丈夫じゃぁないはずなんだが……」
なんだか状況がよく分からない。
「カオスとは、何を話していたんだい?」
「…………」
そういえば、なぜかカオスと……話をしていた気がする。
しかし、そこん所上手い具合に思い出せない。
リコレクトしてみると目の前にカオスが立っている事までは思い出せるが……話をしたかどうかは……上手い事思い出せない。なんでだ?なんで会話をしているという場面まで思い出すのに話をした事実、ひいてはその内容を思い出せないのだ?
俺は、確か……動けなかったはずだよなぁと振り返る。
するとそこに、痛々しい程木の幹がずたずたに切り裂かれているを見付け、俺は思わず顔を強ばらせてしまた。
「お前、そこの埋まってやがったからな」
大きく避けた木の幹に近づいてみる。
触れて……そう、俺はここに埋まっていたんだろうなぁと推測は出来る。しかしその状況は観客的な情報として得る事は出来ない……当然ではあるけれど。
この木にとって俺は、余計なものだったんじゃないのかなと思う。
パラパラと手に付く、凝固すると白くなる樹液が傷口から静かに染み出している様子を俺は……ただただ眺めていた。
「新生ドリュアートの木は本来、これほど大きなものではなかったはずです」
レッドの言葉に俺は、木を見上げたまま頷いた。
「育つのに毒だという……ミストレアルが必要だって話はお前ら、知っていたのか?」
振り返ってそう聞いたら、恐らく軍師連中は知っていたらしい。
少しだけ目を逸らして言葉に迷っている。
「俺の体ん中にそのレアメタルが溶け込んでる事は?」
「……知っています」
やっぱりそうだよな。
じゃぁ、一応聞いておこう。
「それとコレとの関係はともかく、赤旗問題とかとは無関係だよな?」
「勿論です、関係があればアダモス上位も気が付いて指摘していたはずです。そもそも……体内にそれだけ多量のミストレアルを貯め込める体質が異常なのです。ミストレアルは毒だと説明したはず、それを無効化出来るだけの潜在魔力の方が貴方の場合は問題です」
「無毒無害とは説明されたがマジに大丈夫なのか?ようするにミストレアルっつーのはあれだろう。スウィート症に近いんじゃねぇのか?」
テリーが片耳を小指で穿りながら言った。
スウィート症って何だと思いながらリコレクト。……ああ、あれか。
一回目のログインで遭遇した北西の温泉町で陥った、謎の体調不良。
「鋭いね、そうらしいという話だよ。でも温泉商業の町だから怪しい物質が湧き出すシーズンがある事は公にしたがらないんだってさ」
テリーの言葉にナッツが頷いている。
「何だよ、お前知ってたのか?」
「知らないよ、知ってたらどっちかって言うと古代種に近い僕はスウィートには近づかないよ。後で色々問いつめたらそういう話だったって分かったんだ」
そういえば、ナッツはスウィートで特に酷い体調不良に陥ってたもんな。って事は、スウィートの毒性を封印しにきたワイズにこの町はどうなっているのだと色々聞き出したのだろう。
苦笑しながら俺の腫れている左頬に張る湿布を準備して、ナッツは言葉を続ける。
「スウィートではまさしく、ミストレアルに似た成分が温泉に混じって湧き出す事があるんだってさ」
その続きはレッドがするようだ。メガネのブリッジを押し上げる。
「ミストレアルというのは現在においても謎の物質ではありますが、それだけに古くから研究対象となっています。今だ制御方法ははっきりしていませんが、魔法に対する親和力が強いという傾向は魔導師に限らず知られていまして……恐らく、封印師だというグランソール・ワイズさんはその傾向を生かして魔法結合による不活性化の方法を確立しているのでしょう。一般的にミストレアルの気体の状態、毒の状態の制御は難しい。それだけに封印師の技法に興味があります」
そういやレッド、ワイズの話を聞いてお会いしたかったですね……とか言ってたな。
それはそういう意味で興味があったわけだ。
しかし……難しい話はよく分からん。
「それなら俺が、スウィートで体調が崩れたのはおかしいじゃねぇか。俺は……体内にすでにミストレアル持ってんだぞ?」
「……不活性化したものを、ですけれどね」
無毒化、無力化した状態……か。
「でもよ、ドリュアートが必要なのはミストレアルだろう?毒であるミストレアルの方だろうが。俺の中の奴が無毒化されているならどうやって?」
「恐らく、不活性化したものを活性化させる方法があるのでしょう」
そう言ってレッドが指を指す先にあるのは……俺の手にある剣か。
「それ、貴方の胸に刺さっていたんですよね?」
すこし眉を顰めている。
「誰がそんな事をしたんですか」
「というか、誰が俺から抜いたんだ?カオスか?」
マツナギは首を振って自分を指さした。
「あたしだよ、剣で串刺しにされている状況にびっくりしてね……慌てて手を掛けてみたらまるで滑り落ちるみたいに抜けてしまったんだ。血も無く、刺さっていた傷もなく。……逆にヤトの方が幻かと思ったけどちゃんと実在していたから安心したよ」
いまいち状況は分からんけど……とにかく無事に抜けたって訳だな。しかも、なぜだか俺は無傷だったと。
ううん……なんとなく話が見えてきた。
俺は問題の剣を意味も無く握ってみながら……案の定仕込まれていた事実を理解する。
ようするに、この剣が活性化とやらに一役買っていた訳じゃねぇかな?
リコレクトすればナドゥ、この剣も木と同じく『古い』ものであるとかわざわざ説明していたように思う。
理屈はよく分からないが、色々な都合が上手い具合重なってしまった、というより重なるように『仕組まれた』のではないか、と想像出来るな。
「ぶっ差しやがった奴なんて分かるだろ?俺をかっさらっていったのはナドゥなんだから奴に決まってるだろうが」
「……本当に貴方を連れて行ったのはナドゥですか?彼には赤い旗は無かった筈です」
「ああ、そうだな。でもま、感染したんじゃねぇの?近くに魔王連中一杯いる訳だし……」
と軽く言っておいて俺は……自分を例に、赤い旗の意味する答えに対する強烈な推論を『思い出し』て口を閉ざす。
「……どうしたんだよ」
「いや、そういや……お前ら」
俺はレッドとナッツに振り返る。
「赤旗ってどういう条件で付くか知ってるのか?」
「……知っていれば色々悩まずにすんでいると思いますよ」
「本当に知らないのか?」
本当は知っているんじゃないのか。
その疑問を強く持っているから俺は、しつこく聞き質す。
「分からないよ」
しかしナッツははっきりと答え、その後に続けた。
「本当の事は実証のしようが無いのだから、分からない」
「つまり、推測は付いている訳だよな」
「何か分かったのか?」
俺は、テリーを振り返ってため息を漏らす。
「……死んだ後に付くんだよ」
「……はぁ?」
「だから、一旦死んで……その後にレッドフラグの怪物として復活する。だから『元に戻す』手立てが無いんだろう」
テリーは怪訝な顔でレッドとナッツにどうなんだと、無言で促している。マツナギも腕を組み、厳しい視線を向けているな。
「確定事項でしょうか?」
しかしレッドはまだ誤魔化すつもりなのか。少し苦笑を浮かべて肩をすくめた。
「もしかするとそうなのではないか?という段階の話は事実とは違います」
そう言った後、ふいと真面目な顔になって俺の目の前に一歩踏み出してきて、これまで無かったと言う程真っ直ぐに俺を見つめてきやがる。
「それとも、それが『条件』なのだとはっきり貴方は、見聞きしたのですか?」
俺は真っ直ぐ見つめられるのに耐えられなくなって目を逸らしてしまった。確かに、ナドゥからはっきりそうだと聞いた訳じゃない。
そもそも、奴らは自分らの頭の上に赤い旗が立っているのを知ってる訳じゃないもんな。
それでも……魔王という世界から見ての『規格外』になるか、ならないかという判断くらいは付いているはずだ。
「でもさレッド」
俺は、この場にアベルが居い事に安堵している。
多分奴がいたら……この話は振っていないだろう。
「俺は間違いなく一度死んでいる。その後も一度と言わず何度も、死んでいてもおかしくない状況に陥っている。俺はそれはちゃんと憶えているんだ。お前を蝕んだアーティフィカルゴーストって何だよ?あれは人工死霊、つまり死んでいるもので生きているものじゃないよな?死んでいるはずのものが動いているのが死霊だろう。死んだら二度と生き返らない。赤旗に感染したら元に戻す方法が見つからないって事は……」
「南国のあの、王妃の件は?」
冷静に突っ込んだのはテリーだ。
南国カルケードのロッダ王妃……今のミスト王の母親だから元王妃が正しい。南国の王に成り代わっていた魔王八逆星のアイジャンといざこざやった時、目の前で赤旗に感染して怪物になってしまった。
俺達はロッダ元王妃を助け出さなければいけない状況だった。
それなのに、目の前で怪物になってしまって……これを倒す、すなわち殺す事なんか出来ると思うか?
殺しても元の姿に戻る訳ではない、もうどうしようもない状態を回避出来ないものかと……俺が暴走したよな。
その時、ロッダ王妃は魔王八逆星アイジャンの血を飲み干して赤旗に感染した。
アイジャンは赤旗ホストの能力があり、自身もそれは知っていたような事を言っていた。それで、俺達にその様子を見せつけたかった~みたいな感じだったのだ。
思い出したか?俺も今それ、思い出しました。そんな事もあったんだった。
そう、それで意趣返ししたらどうなるだろうってナッツが提案して、俺が暴走した訳よ。つまり、ロッダ元王妃に俺の、青旗勇者の血を注いだら元に戻るかも知れないと先走った訳。
結果、怪物化はなんとか押さえたんだよな。でも、元王妃は完全に元の通りには戻らなかった。
ロッダ元王妃には赤の替わりに黒い旗が灯った。
「……恐らく、それは完全に赤旗が発動していなかったから、かもしれませんね」
ロッダ王妃の場合で躓いた俺に対し、レッドは冷静に言葉を呟いた。
「バグを感染するホストの能力、在る意味毒として作用し元のキャラクターを殺す一方、混沌の怪物として再構築する。ロッダ元王妃の場合は感染してすぐに中和したからかろうじて息を吹き返した……と考える事が可能です」
テリーは頭をむしる。
「お前、先にその答え用意してただろ?ヤトの言った通り『それ』が条件だってお前、やっぱ気が付いてたな?」
「………」
レッドは目を閉じ、眼鏡のブリッジを押し上げてため息を漏らした。
「赤旗を青旗の血で防げるかどうかの実証、というのを。実は秘密に行ったのです」
その言葉に俺とテリー、マツナギが身を起こす。確かにその実証はまだしっかりとやっていなかったはずだ。赤旗の魔王軍の固体サンプル取ってるヒマがなかったから実証するヒマが無かったんだよなぁ。
しかしつい最近、魔導都市の縄張りの一つ、学士の城に魔王軍が現れた。
俺なんかはすっかり忘れていたが、レッド達は忘れていなかったのだろう。だから、いずれそれを試す機会をとうかがっていたのだろうな。
「どうだったんだ?」
「どうしてその結果を教えてくれないんだい?」
ナッツは苦笑して珍しく少し怒っているマツナギを押さえる。
「試したのは僕と、レッドと……先にサンプルもらってたヤトのだね。でもヤトはすでに赤旗感染してるからね、どうかなって話だったんだけど」
「逆にこいつの血はどうなんだ?ホストか?」
そういえば。
そういう問題もあるんだよな。
俺、その事に全く気が付いてなかったからもの凄く気が滅入ってきた。
「そもそも、赤旗の感染能力がない末端である魔王軍には、バグを示す旗は立ちますが消滅とともに印は消えます。フラグが見える、僕らだけが知っている事情ではありますけれどね。……動いている魔王軍から血を抜いたとしましょう、するとその血の上に赤い旗は立つと思いますか?」
なんだそれ、なぞなぞか?
「バグの感染能力のない魔王軍の『パーツ』にはレッドフラグは立ちません。イベントである事を示すフラグというシステムは、そのパーツ自体に意味や重要性が無ければ立たないのです」
ああ、そう云う事を言いたいだけね。
「ですから、例えば僕の血を抜いたものに青い旗が立つかというと、立たないという話になります」
おかげで状況を上手い事理解出来る。流石は……レッドだ。
「……それで、」
レッドは慌てなくともちゃんと説明しますからと、俺の言葉を手で止めた。
「ところが、混乱させると悪いかと思いましてナッツさんと相談して秘密にしていましたが……ヤト。貴方の血には残念ながら旗が立つ。赤い旗が……つまり、貴方にはホストとしての能力があるという事です。血の一滴に、何かしら意味があるという事でもある」
俺は、ゆっくり拳を握りしめてしまった。
「……だから、無駄に血は流すなとお前は言う訳だな……」
「別に、それだけの意味じゃないけどな」
「げ、じゃぁ俺とか大丈夫なのか?噛みついちまったよな?」
「青旗は赤旗には感染しないので問題なしだと前から申し上げていたはずです」
そうだったとテリーは安堵のため息を……くそ、むかつくなその態度。
「……じゃぁ、ロッダ王妃……元王妃だったね。ロッダ元王妃はどうして元に戻ったって言うんだい?」
レッドは困った顔で額を抑える。
「それが問題なのです。実証の結果その問題が立ち現れた訳で困っている。だから魔導都市に宿題を投げ渡して多くの方面から探っている訳です。全く、最初から調べ直しですよ」
「……どういう事だ?」
さっぱり分からない。俺は首をかしげた。
「そうですね……分かりやすく申し上げるとするなら」
レッドは顔を上げて少し考えてから俺を振り返った。
「ロッダ元王妃の赤旗怪物化を止められたのは、貴方だからこそという結論なのかもしれません」
「え……?」
……そういう、意味なのか。俺だからこそ、そのレッドの言葉の意味が俺には、なぜか腑に落ちる様に理解出来た。しかし意外な事には違いなく、思わず俺は息が詰まる。暫らく沈黙を返してから、いや、黙っていると理解していないと思われて解説の追撃を食らうな、そう思って考えも無く口を開く。
「でも、その時俺はまだ赤旗に感染してないし……」
「だから、最初から貴方に備わる何かしらが問題なのではないか、と申し上げている」
「その、何かしらって何だよ?ミストレアルだとか?」
「無活性化のミストレアル金属にはそんな特別な作用はありません。実際、真っ先にそれは疑って赤旗との因果関係を探ってみましたが全くそれらしい因果関係はありませんでした。ちなみに、聞かれる前に言っておきますが僕は貴方の中にミストレアル金属が混じっている『例の事件』については、僕が貴方を仲間にする前からすでにお聞きしていてこちらが一方的に了承している事です。だから何も疑問に思う必要はありませんよ。非常に珍しい案件ですからねぇ……魔導都市では瞬く間に話題になりましたから」
うげ、やっぱり魔導都市では『笑い話』としてそうなっているのね……。
だから俺、やたらめったらと魔導師達につけねらわれるハメになった訳だな。
「お手上げじゃねぇか」
テリーは呆れたように言って腕を組んだ。
「その通りです。赤旗を元に戻す手立てはすっかり、お手上げなんです」
「……本当に知らないんだな。俺の赤旗が取れた途端俺が、死ぬという訳じゃないんだな?」
「……というかヤト」
マツナギはふっと辺りを見回してから……俺を見る。
「さっきまで間違いなく意識が無かったみたいだけど……その間、ヤトの頭上には何も旗が立っていなかったよ?」
「え?」
「いやぁ、どういう状況なのかさっぱり分からないよねぇ」
「全くだ、突然連れ去られて何処に行ったかとお手上げな所、なぜだかドリュアートに埋まっていやがるし。赤旗は取れていやがるし」
「え、え、ええ……?」
「折角唯一のサンプルが、事も在ろうか無自覚で、問題の赤旗解消してしまったんです。もう、お手上げですよ」
サンプル言いやがったのも思わずスルーしてしまう。
「ちょーっ!待て、待てよ!それはつまり……」
俺からバグ表示が無くなったって事か!?
タメもなく一斉に頷く一同。
「なんで?」
「それが分からないから困っているんですが」
「だから、カオスと何か話していただろう?……この木で、お前を最初に見付けたのは私なんだ。カオスが目の前に立っていたんだ。それでびっくりしてしまってね、てっきりカオスがこんな事をしたのかと思って彼に矢を射ってしまった……追い払ってしまったみたいだ。彼から何か聞いていないのかい?」
「聞いてない、てゆーか……ちょっと待て」
なぜだか状況を喜べない、落とし穴がある気がする。俺は何か重要な事を忘れていないか?
リコレクト。
「……ナドゥが、俺を『死なないように』してやるとか言ってやがったんだが」
「そうですね、貴方に剣が突き刺さっていたそうですが……その傷はすっかり塞がっているようですし」
「でも、今さっきアベルに殴られた頬は腫れたままなんだよねぇ」
今はしっかり湿布が貼られております。かなり腫れは引いたがまだヒリヒリするのは薬の作用か?
「さっきアベルから蹴り殺されていたらはっきりしたかも知れねぇぜ?」
「ば、冗談言うな!……!」
俺は思い出したように自分の脇腹を探る。
「……種、そうだ……ナドゥのおっさん種がどーのこーの言っていたが……」
……自分の腹なんてそんな触ったりしないからな。しかし、脇腹に何か固いものが在るような気がして嫌な気分だ。ナッツがしゃがみ込み、俺に替わって触診する。
「……ふうん、何だろうな……。ここは肝臓だから普段は押したりしてもそんなに痛くないはずだけど、炎症を起こしていたりすると触られるだけでも痛いはずだ。でも、コレは炎症とは違うな……どう?痛い?」
「てゆーか、くすぐったい」
脇弱いよの俺、間違いなく性感帯。
「開腹してみようか?」
「げ、まじで?」
「待って!」
と、今何か変な声が聞こえた。
俺だけじゃなく、全員がその声を聞いたようで驚いて辺りをうかがう。
「こっちこっち!突然木が育っちゃってさ、降りられないんだよ!」
感覚に鋭いマツナギが頭上を見上げて、素早く跳躍。人には出来ない、森貴族だからこその身軽さでドリュアートの木の、更に上へ登っていく。
暫くして、マツナギは何かを両手に包み込んで戻ってきた。
「……何だ?」
ひょこり。
まさしくそんな感じに、マツナギがやんわり両手で包んでいた隙間から突き出しましたのは……小さな爬虫類系の頭。
「やぁ、びっくりしたよ、いきなり結界が解放されちゃって。君達何かやったのか?」
……何だ?
「ドリュアート、……随分小さくなっちゃったね」
え?これドリュアートなのかよ!
マツナギが手を開くと、そこには小さな……トカゲがグルグルと輪を作る様にやや忙しなく動き回っている。
違った、トカゲじゃない。足が無いので蛇だ。
黒い目がついた菱形の頭に、長いとは言えない胴。戦士ヤト知識がこの蛇をマムシみたいだと形容しているな。リコレクトするに強力な毒を持つ蛇だ、寒い地域に出る。
蛇の割に寸胴――ようするに短いって事だ。それでいて太く、攻撃的な性格で知られる毒蛇である。頭が三角な所から、俗世リアルではツチノコのモデルになったと言われている蛇だと、余計な事までリコレクトしてしまった。
まぁ、リアルの話はいい。
「蛇が喋るのか」
「ドラゴンだって喋るだろう?」
マツナギの言葉は説得力ありまくりですね。その喋るドラゴンは今ここには居ないが。
ナッツの手に移り、その中で小さな寸胴のヘビは輪を作って頭をもたげる。その頭上に一応、白い旗が立ってるぜ。
「この姿だ、悪いけど今の僕には抵抗する力がない……すまないね、傍観しているしかなくって」
いやま、こんな無力な姿を見せて頂けると、お気の毒にとかしか言えないよな。
「ドリュアート、貴方はずっとこの木に居たのですか?」
「ああ……見つかるとまた踏み潰されるかと思って姿を隠してたけど」
また踏み潰されるって……確かに小さいからつい、踏みたい気持ちになる気分は分からないでもない。
蛇の言葉にレッドはため息を漏らした。
「なる程、ではヤトよりは状況を理解しているのですね」
どーせ俺には状況を上手い事理解しておく能力もとい脳力がありませんよッ!
「ごめんね……実際こんな姿じゃ守る力もない」
……事情を整理しよう。
ええと……この小さな蛇さんはドリュアート。木の方じゃなく、大陸座の方……らしいな。
暫くして、辺りの状況を見に行っていたらしい、マツナギとレッドが戻ってきた。
なんだか酷く……久しぶりだ。当たり前だが。
何日別行動していたんだって聞いたら、三週間強だとかいう。連中は俺の行き着く先がドリュアート跡だと、すぐには予測できなかった、分からなかった……とか。大蜘蛛を追いかけているランドールを追いかけて来たらしいのだが、いい加減追いつくことが出来ないので、ダメで元々ここに来てみたらこれがアタリだった―――と云う事らしい。
俺を探すのが本命で動いていた訳だからまぁ、アタリだな。
それでもここまで来るのに三週間強。
木の中に埋もれていた俺を発見したのはつい先ほど……と。
「……申し訳ありません」
なぜか顔を合わせるなりレッドが頭を下げるんだが、意味分からん。
「何で謝るんだよ」
「貴方の重要性を理解していながら、少々扱いが軽率でした」
相変わらずモノ扱いしやがるし。
「アインは……あの時……一応俺の監視役だったのか」
そういえばアインさんはどこだろうとキョロキョロしながら聞いてみる。
「……正直に暴露すれば……。お前がシエンタで一人で動いている間も僕は、探査糸を付けて行動を監視していたよ」
ナッツが素直に教えてくれる。レッドと違って反省の色濃い雰囲気と声色に俺は、逆に迷惑掛けてたんだなぁという気持ちになった。ほらちゃんと見ろレッド、態度と言葉遣いでこんだけ心象に違いが出るんだぞ!ちったぁナッツさんを見習え!!
ようするに、シエンタの潰れた実家で俺が逡巡していた一連の間、ナッツは俺を密かに監視していた訳だよな。さも偶然会ったように湧き水の川で落ち合った訳だが、そうじゃなかったって事か。
まぁ……その可能性については再び捕まった時なんとなく、想像はしたんだけど。
なんつーか、俺ってもしかしてこうやって魔王八逆星連中に変にマーキングされてたんじゃないのか、って。この俺に、一体どんな価値があるのか今もってさっぱり分からないが、連中にとっては大事な何らかの『使い道』があって、それをウチの軍師連中は密かに危惧していたのではないか、ってな。
とすれば、あの軍師連中に俺はずっと監視されてた可能性が在る事は想像出来ない事ではない。
いやまぁ、付き合いもそれなりに長くなってきましたし、連中が取り得る非道な行いにも慣れてしまったというか何というか。
なので、まぁ今更憤慨はしねぇよ。そうして、キョロキョロしている俺が、アインを探しているのを察したようにマツナギ苦笑する。
「アベルが木を一人で降りて行ってしまってね。彼女、一人だと何処に行くか分からないだろう?」
ああ、アインはアベルについていったのか。アベルは方向音痴だからな。数メートル離れるだけで迷子になれちゃう奴である。
「……本当に、大丈夫?」
と、マツナギが屈み込み、俺を覗き込むように接近する。俺より背が高いんだもんなぁマツナギは。
「ああ……そうだな、大丈夫じゃぁないはずなんだが……」
なんだか状況がよく分からない。
「カオスとは、何を話していたんだい?」
「…………」
そういえば、なぜかカオスと……話をしていた気がする。
しかし、そこん所上手い具合に思い出せない。
リコレクトしてみると目の前にカオスが立っている事までは思い出せるが……話をしたかどうかは……上手い事思い出せない。なんでだ?なんで会話をしているという場面まで思い出すのに話をした事実、ひいてはその内容を思い出せないのだ?
俺は、確か……動けなかったはずだよなぁと振り返る。
するとそこに、痛々しい程木の幹がずたずたに切り裂かれているを見付け、俺は思わず顔を強ばらせてしまた。
「お前、そこの埋まってやがったからな」
大きく避けた木の幹に近づいてみる。
触れて……そう、俺はここに埋まっていたんだろうなぁと推測は出来る。しかしその状況は観客的な情報として得る事は出来ない……当然ではあるけれど。
この木にとって俺は、余計なものだったんじゃないのかなと思う。
パラパラと手に付く、凝固すると白くなる樹液が傷口から静かに染み出している様子を俺は……ただただ眺めていた。
「新生ドリュアートの木は本来、これほど大きなものではなかったはずです」
レッドの言葉に俺は、木を見上げたまま頷いた。
「育つのに毒だという……ミストレアルが必要だって話はお前ら、知っていたのか?」
振り返ってそう聞いたら、恐らく軍師連中は知っていたらしい。
少しだけ目を逸らして言葉に迷っている。
「俺の体ん中にそのレアメタルが溶け込んでる事は?」
「……知っています」
やっぱりそうだよな。
じゃぁ、一応聞いておこう。
「それとコレとの関係はともかく、赤旗問題とかとは無関係だよな?」
「勿論です、関係があればアダモス上位も気が付いて指摘していたはずです。そもそも……体内にそれだけ多量のミストレアルを貯め込める体質が異常なのです。ミストレアルは毒だと説明したはず、それを無効化出来るだけの潜在魔力の方が貴方の場合は問題です」
「無毒無害とは説明されたがマジに大丈夫なのか?ようするにミストレアルっつーのはあれだろう。スウィート症に近いんじゃねぇのか?」
テリーが片耳を小指で穿りながら言った。
スウィート症って何だと思いながらリコレクト。……ああ、あれか。
一回目のログインで遭遇した北西の温泉町で陥った、謎の体調不良。
「鋭いね、そうらしいという話だよ。でも温泉商業の町だから怪しい物質が湧き出すシーズンがある事は公にしたがらないんだってさ」
テリーの言葉にナッツが頷いている。
「何だよ、お前知ってたのか?」
「知らないよ、知ってたらどっちかって言うと古代種に近い僕はスウィートには近づかないよ。後で色々問いつめたらそういう話だったって分かったんだ」
そういえば、ナッツはスウィートで特に酷い体調不良に陥ってたもんな。って事は、スウィートの毒性を封印しにきたワイズにこの町はどうなっているのだと色々聞き出したのだろう。
苦笑しながら俺の腫れている左頬に張る湿布を準備して、ナッツは言葉を続ける。
「スウィートではまさしく、ミストレアルに似た成分が温泉に混じって湧き出す事があるんだってさ」
その続きはレッドがするようだ。メガネのブリッジを押し上げる。
「ミストレアルというのは現在においても謎の物質ではありますが、それだけに古くから研究対象となっています。今だ制御方法ははっきりしていませんが、魔法に対する親和力が強いという傾向は魔導師に限らず知られていまして……恐らく、封印師だというグランソール・ワイズさんはその傾向を生かして魔法結合による不活性化の方法を確立しているのでしょう。一般的にミストレアルの気体の状態、毒の状態の制御は難しい。それだけに封印師の技法に興味があります」
そういやレッド、ワイズの話を聞いてお会いしたかったですね……とか言ってたな。
それはそういう意味で興味があったわけだ。
しかし……難しい話はよく分からん。
「それなら俺が、スウィートで体調が崩れたのはおかしいじゃねぇか。俺は……体内にすでにミストレアル持ってんだぞ?」
「……不活性化したものを、ですけれどね」
無毒化、無力化した状態……か。
「でもよ、ドリュアートが必要なのはミストレアルだろう?毒であるミストレアルの方だろうが。俺の中の奴が無毒化されているならどうやって?」
「恐らく、不活性化したものを活性化させる方法があるのでしょう」
そう言ってレッドが指を指す先にあるのは……俺の手にある剣か。
「それ、貴方の胸に刺さっていたんですよね?」
すこし眉を顰めている。
「誰がそんな事をしたんですか」
「というか、誰が俺から抜いたんだ?カオスか?」
マツナギは首を振って自分を指さした。
「あたしだよ、剣で串刺しにされている状況にびっくりしてね……慌てて手を掛けてみたらまるで滑り落ちるみたいに抜けてしまったんだ。血も無く、刺さっていた傷もなく。……逆にヤトの方が幻かと思ったけどちゃんと実在していたから安心したよ」
いまいち状況は分からんけど……とにかく無事に抜けたって訳だな。しかも、なぜだか俺は無傷だったと。
ううん……なんとなく話が見えてきた。
俺は問題の剣を意味も無く握ってみながら……案の定仕込まれていた事実を理解する。
ようするに、この剣が活性化とやらに一役買っていた訳じゃねぇかな?
リコレクトすればナドゥ、この剣も木と同じく『古い』ものであるとかわざわざ説明していたように思う。
理屈はよく分からないが、色々な都合が上手い具合重なってしまった、というより重なるように『仕組まれた』のではないか、と想像出来るな。
「ぶっ差しやがった奴なんて分かるだろ?俺をかっさらっていったのはナドゥなんだから奴に決まってるだろうが」
「……本当に貴方を連れて行ったのはナドゥですか?彼には赤い旗は無かった筈です」
「ああ、そうだな。でもま、感染したんじゃねぇの?近くに魔王連中一杯いる訳だし……」
と軽く言っておいて俺は……自分を例に、赤い旗の意味する答えに対する強烈な推論を『思い出し』て口を閉ざす。
「……どうしたんだよ」
「いや、そういや……お前ら」
俺はレッドとナッツに振り返る。
「赤旗ってどういう条件で付くか知ってるのか?」
「……知っていれば色々悩まずにすんでいると思いますよ」
「本当に知らないのか?」
本当は知っているんじゃないのか。
その疑問を強く持っているから俺は、しつこく聞き質す。
「分からないよ」
しかしナッツははっきりと答え、その後に続けた。
「本当の事は実証のしようが無いのだから、分からない」
「つまり、推測は付いている訳だよな」
「何か分かったのか?」
俺は、テリーを振り返ってため息を漏らす。
「……死んだ後に付くんだよ」
「……はぁ?」
「だから、一旦死んで……その後にレッドフラグの怪物として復活する。だから『元に戻す』手立てが無いんだろう」
テリーは怪訝な顔でレッドとナッツにどうなんだと、無言で促している。マツナギも腕を組み、厳しい視線を向けているな。
「確定事項でしょうか?」
しかしレッドはまだ誤魔化すつもりなのか。少し苦笑を浮かべて肩をすくめた。
「もしかするとそうなのではないか?という段階の話は事実とは違います」
そう言った後、ふいと真面目な顔になって俺の目の前に一歩踏み出してきて、これまで無かったと言う程真っ直ぐに俺を見つめてきやがる。
「それとも、それが『条件』なのだとはっきり貴方は、見聞きしたのですか?」
俺は真っ直ぐ見つめられるのに耐えられなくなって目を逸らしてしまった。確かに、ナドゥからはっきりそうだと聞いた訳じゃない。
そもそも、奴らは自分らの頭の上に赤い旗が立っているのを知ってる訳じゃないもんな。
それでも……魔王という世界から見ての『規格外』になるか、ならないかという判断くらいは付いているはずだ。
「でもさレッド」
俺は、この場にアベルが居い事に安堵している。
多分奴がいたら……この話は振っていないだろう。
「俺は間違いなく一度死んでいる。その後も一度と言わず何度も、死んでいてもおかしくない状況に陥っている。俺はそれはちゃんと憶えているんだ。お前を蝕んだアーティフィカルゴーストって何だよ?あれは人工死霊、つまり死んでいるもので生きているものじゃないよな?死んでいるはずのものが動いているのが死霊だろう。死んだら二度と生き返らない。赤旗に感染したら元に戻す方法が見つからないって事は……」
「南国のあの、王妃の件は?」
冷静に突っ込んだのはテリーだ。
南国カルケードのロッダ王妃……今のミスト王の母親だから元王妃が正しい。南国の王に成り代わっていた魔王八逆星のアイジャンといざこざやった時、目の前で赤旗に感染して怪物になってしまった。
俺達はロッダ元王妃を助け出さなければいけない状況だった。
それなのに、目の前で怪物になってしまって……これを倒す、すなわち殺す事なんか出来ると思うか?
殺しても元の姿に戻る訳ではない、もうどうしようもない状態を回避出来ないものかと……俺が暴走したよな。
その時、ロッダ王妃は魔王八逆星アイジャンの血を飲み干して赤旗に感染した。
アイジャンは赤旗ホストの能力があり、自身もそれは知っていたような事を言っていた。それで、俺達にその様子を見せつけたかった~みたいな感じだったのだ。
思い出したか?俺も今それ、思い出しました。そんな事もあったんだった。
そう、それで意趣返ししたらどうなるだろうってナッツが提案して、俺が暴走した訳よ。つまり、ロッダ元王妃に俺の、青旗勇者の血を注いだら元に戻るかも知れないと先走った訳。
結果、怪物化はなんとか押さえたんだよな。でも、元王妃は完全に元の通りには戻らなかった。
ロッダ元王妃には赤の替わりに黒い旗が灯った。
「……恐らく、それは完全に赤旗が発動していなかったから、かもしれませんね」
ロッダ王妃の場合で躓いた俺に対し、レッドは冷静に言葉を呟いた。
「バグを感染するホストの能力、在る意味毒として作用し元のキャラクターを殺す一方、混沌の怪物として再構築する。ロッダ元王妃の場合は感染してすぐに中和したからかろうじて息を吹き返した……と考える事が可能です」
テリーは頭をむしる。
「お前、先にその答え用意してただろ?ヤトの言った通り『それ』が条件だってお前、やっぱ気が付いてたな?」
「………」
レッドは目を閉じ、眼鏡のブリッジを押し上げてため息を漏らした。
「赤旗を青旗の血で防げるかどうかの実証、というのを。実は秘密に行ったのです」
その言葉に俺とテリー、マツナギが身を起こす。確かにその実証はまだしっかりとやっていなかったはずだ。赤旗の魔王軍の固体サンプル取ってるヒマがなかったから実証するヒマが無かったんだよなぁ。
しかしつい最近、魔導都市の縄張りの一つ、学士の城に魔王軍が現れた。
俺なんかはすっかり忘れていたが、レッド達は忘れていなかったのだろう。だから、いずれそれを試す機会をとうかがっていたのだろうな。
「どうだったんだ?」
「どうしてその結果を教えてくれないんだい?」
ナッツは苦笑して珍しく少し怒っているマツナギを押さえる。
「試したのは僕と、レッドと……先にサンプルもらってたヤトのだね。でもヤトはすでに赤旗感染してるからね、どうかなって話だったんだけど」
「逆にこいつの血はどうなんだ?ホストか?」
そういえば。
そういう問題もあるんだよな。
俺、その事に全く気が付いてなかったからもの凄く気が滅入ってきた。
「そもそも、赤旗の感染能力がない末端である魔王軍には、バグを示す旗は立ちますが消滅とともに印は消えます。フラグが見える、僕らだけが知っている事情ではありますけれどね。……動いている魔王軍から血を抜いたとしましょう、するとその血の上に赤い旗は立つと思いますか?」
なんだそれ、なぞなぞか?
「バグの感染能力のない魔王軍の『パーツ』にはレッドフラグは立ちません。イベントである事を示すフラグというシステムは、そのパーツ自体に意味や重要性が無ければ立たないのです」
ああ、そう云う事を言いたいだけね。
「ですから、例えば僕の血を抜いたものに青い旗が立つかというと、立たないという話になります」
おかげで状況を上手い事理解出来る。流石は……レッドだ。
「……それで、」
レッドは慌てなくともちゃんと説明しますからと、俺の言葉を手で止めた。
「ところが、混乱させると悪いかと思いましてナッツさんと相談して秘密にしていましたが……ヤト。貴方の血には残念ながら旗が立つ。赤い旗が……つまり、貴方にはホストとしての能力があるという事です。血の一滴に、何かしら意味があるという事でもある」
俺は、ゆっくり拳を握りしめてしまった。
「……だから、無駄に血は流すなとお前は言う訳だな……」
「別に、それだけの意味じゃないけどな」
「げ、じゃぁ俺とか大丈夫なのか?噛みついちまったよな?」
「青旗は赤旗には感染しないので問題なしだと前から申し上げていたはずです」
そうだったとテリーは安堵のため息を……くそ、むかつくなその態度。
「……じゃぁ、ロッダ王妃……元王妃だったね。ロッダ元王妃はどうして元に戻ったって言うんだい?」
レッドは困った顔で額を抑える。
「それが問題なのです。実証の結果その問題が立ち現れた訳で困っている。だから魔導都市に宿題を投げ渡して多くの方面から探っている訳です。全く、最初から調べ直しですよ」
「……どういう事だ?」
さっぱり分からない。俺は首をかしげた。
「そうですね……分かりやすく申し上げるとするなら」
レッドは顔を上げて少し考えてから俺を振り返った。
「ロッダ元王妃の赤旗怪物化を止められたのは、貴方だからこそという結論なのかもしれません」
「え……?」
……そういう、意味なのか。俺だからこそ、そのレッドの言葉の意味が俺には、なぜか腑に落ちる様に理解出来た。しかし意外な事には違いなく、思わず俺は息が詰まる。暫らく沈黙を返してから、いや、黙っていると理解していないと思われて解説の追撃を食らうな、そう思って考えも無く口を開く。
「でも、その時俺はまだ赤旗に感染してないし……」
「だから、最初から貴方に備わる何かしらが問題なのではないか、と申し上げている」
「その、何かしらって何だよ?ミストレアルだとか?」
「無活性化のミストレアル金属にはそんな特別な作用はありません。実際、真っ先にそれは疑って赤旗との因果関係を探ってみましたが全くそれらしい因果関係はありませんでした。ちなみに、聞かれる前に言っておきますが僕は貴方の中にミストレアル金属が混じっている『例の事件』については、僕が貴方を仲間にする前からすでにお聞きしていてこちらが一方的に了承している事です。だから何も疑問に思う必要はありませんよ。非常に珍しい案件ですからねぇ……魔導都市では瞬く間に話題になりましたから」
うげ、やっぱり魔導都市では『笑い話』としてそうなっているのね……。
だから俺、やたらめったらと魔導師達につけねらわれるハメになった訳だな。
「お手上げじゃねぇか」
テリーは呆れたように言って腕を組んだ。
「その通りです。赤旗を元に戻す手立てはすっかり、お手上げなんです」
「……本当に知らないんだな。俺の赤旗が取れた途端俺が、死ぬという訳じゃないんだな?」
「……というかヤト」
マツナギはふっと辺りを見回してから……俺を見る。
「さっきまで間違いなく意識が無かったみたいだけど……その間、ヤトの頭上には何も旗が立っていなかったよ?」
「え?」
「いやぁ、どういう状況なのかさっぱり分からないよねぇ」
「全くだ、突然連れ去られて何処に行ったかとお手上げな所、なぜだかドリュアートに埋まっていやがるし。赤旗は取れていやがるし」
「え、え、ええ……?」
「折角唯一のサンプルが、事も在ろうか無自覚で、問題の赤旗解消してしまったんです。もう、お手上げですよ」
サンプル言いやがったのも思わずスルーしてしまう。
「ちょーっ!待て、待てよ!それはつまり……」
俺からバグ表示が無くなったって事か!?
タメもなく一斉に頷く一同。
「なんで?」
「それが分からないから困っているんですが」
「だから、カオスと何か話していただろう?……この木で、お前を最初に見付けたのは私なんだ。カオスが目の前に立っていたんだ。それでびっくりしてしまってね、てっきりカオスがこんな事をしたのかと思って彼に矢を射ってしまった……追い払ってしまったみたいだ。彼から何か聞いていないのかい?」
「聞いてない、てゆーか……ちょっと待て」
なぜだか状況を喜べない、落とし穴がある気がする。俺は何か重要な事を忘れていないか?
リコレクト。
「……ナドゥが、俺を『死なないように』してやるとか言ってやがったんだが」
「そうですね、貴方に剣が突き刺さっていたそうですが……その傷はすっかり塞がっているようですし」
「でも、今さっきアベルに殴られた頬は腫れたままなんだよねぇ」
今はしっかり湿布が貼られております。かなり腫れは引いたがまだヒリヒリするのは薬の作用か?
「さっきアベルから蹴り殺されていたらはっきりしたかも知れねぇぜ?」
「ば、冗談言うな!……!」
俺は思い出したように自分の脇腹を探る。
「……種、そうだ……ナドゥのおっさん種がどーのこーの言っていたが……」
……自分の腹なんてそんな触ったりしないからな。しかし、脇腹に何か固いものが在るような気がして嫌な気分だ。ナッツがしゃがみ込み、俺に替わって触診する。
「……ふうん、何だろうな……。ここは肝臓だから普段は押したりしてもそんなに痛くないはずだけど、炎症を起こしていたりすると触られるだけでも痛いはずだ。でも、コレは炎症とは違うな……どう?痛い?」
「てゆーか、くすぐったい」
脇弱いよの俺、間違いなく性感帯。
「開腹してみようか?」
「げ、まじで?」
「待って!」
と、今何か変な声が聞こえた。
俺だけじゃなく、全員がその声を聞いたようで驚いて辺りをうかがう。
「こっちこっち!突然木が育っちゃってさ、降りられないんだよ!」
感覚に鋭いマツナギが頭上を見上げて、素早く跳躍。人には出来ない、森貴族だからこその身軽さでドリュアートの木の、更に上へ登っていく。
暫くして、マツナギは何かを両手に包み込んで戻ってきた。
「……何だ?」
ひょこり。
まさしくそんな感じに、マツナギがやんわり両手で包んでいた隙間から突き出しましたのは……小さな爬虫類系の頭。
「やぁ、びっくりしたよ、いきなり結界が解放されちゃって。君達何かやったのか?」
……何だ?
「ドリュアート、……随分小さくなっちゃったね」
え?これドリュアートなのかよ!
マツナギが手を開くと、そこには小さな……トカゲがグルグルと輪を作る様にやや忙しなく動き回っている。
違った、トカゲじゃない。足が無いので蛇だ。
黒い目がついた菱形の頭に、長いとは言えない胴。戦士ヤト知識がこの蛇をマムシみたいだと形容しているな。リコレクトするに強力な毒を持つ蛇だ、寒い地域に出る。
蛇の割に寸胴――ようするに短いって事だ。それでいて太く、攻撃的な性格で知られる毒蛇である。頭が三角な所から、俗世リアルではツチノコのモデルになったと言われている蛇だと、余計な事までリコレクトしてしまった。
まぁ、リアルの話はいい。
「蛇が喋るのか」
「ドラゴンだって喋るだろう?」
マツナギの言葉は説得力ありまくりですね。その喋るドラゴンは今ここには居ないが。
ナッツの手に移り、その中で小さな寸胴のヘビは輪を作って頭をもたげる。その頭上に一応、白い旗が立ってるぜ。
「この姿だ、悪いけど今の僕には抵抗する力がない……すまないね、傍観しているしかなくって」
いやま、こんな無力な姿を見せて頂けると、お気の毒にとかしか言えないよな。
「ドリュアート、貴方はずっとこの木に居たのですか?」
「ああ……見つかるとまた踏み潰されるかと思って姿を隠してたけど」
また踏み潰されるって……確かに小さいからつい、踏みたい気持ちになる気分は分からないでもない。
蛇の言葉にレッドはため息を漏らした。
「なる程、ではヤトよりは状況を理解しているのですね」
どーせ俺には状況を上手い事理解しておく能力もとい脳力がありませんよッ!
「ごめんね……実際こんな姿じゃ守る力もない」
……事情を整理しよう。
ええと……この小さな蛇さんはドリュアート。木の方じゃなく、大陸座の方……らしいな。
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