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9章 隔たる轍 『世界の成り立つ理』
書の2後半 明らかに罠『例え仕組まれていても』
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■書の2後半■ 明らかに罠 Apparent black flag
というか、この木が大陸座じゃなかったのか?木だから動けないって話じゃなかったのかそーかそーか。……よく分からんが。
この喋る小さなヘビが『大陸座ドリュアート』。
開発者で言う所のヤマダーヤマトさんだそうだ。本来こっちにログインした時のキャラクターの名前はマーダーさんというらしい。
うむ?変な名前だなと正直に尋ねてしまった。
何でかって?だってマーダーって『暗殺者』って意味だ。そうしたらマーダーさん、僕ら大陸座はプレイヤーの名前の真ん中あたりから適当取って付けているんだよと、あっさり暴露してくれました。
成る程、ヤ・マーダ・ヤマトだな。
で、最初から蛇なのかというと当然、そうじゃない。
名前の通り、マーダーさんは職業暗殺者であったらしい。おいこらヤマダさん、穏和な雰囲気とは裏腹に過激なキャラクターを作ってらっしゃいますね!
ところが、やっぱり設定が災いして行動道徳が保てなくなり、ついにはとある国に捕まって処刑されるハメになってしまったそうだ。……え、それガチで言ってるんですか?
「……条件転生ですね」
「そう云う事。ある程度の経験を得て特定の条件をクリアすると、死んでも次のキャラクターに設定を持ち越す事が出来るっていう特別ルールだね」
「それで、ヘビ?」
「悪行が多くなるとろくな転生が出来ない、という実例としてこのように」
マーダーさん、声は笑っているがそれは笑い事じゃない気がします。
「条件転生は一見魅力的に見えるけど、実際には有利な形に引き継ぐのが難しいように調整されているんだ」
はぁ、成る程ねぇ。
大陸座はゲームシステムの事なんてあんまり話さないというイメージだったが、マーダーさんもといヤマダさんは元来システムエンジニアらしいのでそういう話が大好きっぽい気配だ。
「実際僕は5回位、テストもかねて条件転生してみたよ」
最初は人間で、マーダーという名前にも関わらず聖職者として徳を積んだそうだ。
おかげで、上位種族への転生が出来たらしい。その後は順繰りどうなるか、などテストをかねて色々やって……最終的に名前の通り暗殺者となり、散々悪行を重ねて現在のヘビという状況に陥ったとか。
「……テストプレイを自分でやらなくてもいいのに」
「いや、こんな酷いプレイは他には任せられないだろう。実際5人分のキャラクターを短期間で弄れたんだしね、こんな言い方も何だけど楽しかったよ」
マーダーさん、現状悔い無しって気配である。
「でも、おかげで魔王からこの木を守れないんじゃぁどうしようもないじゃないか。この木、今赤い旗が立っているんだよ?」
「え、そうなのかよ」
それは初耳だ。俺は驚いてマツナギを振り向いてしまった。マツナギは、……いや、軍師連中もその事実には気が付いていなかったようで、素直に驚いて目を瞬いている。
木に赤旗か、……もしかしなくても、木の天辺に旗があるんじゃないか?おかげで、今俺達は木を見上げてみたがフラグを目視出来ない状況である。ドリュアートが元の通りそれ程育っていない若木だったらいざ知らず、今はなんか俺から養分取って無駄にデカくなっちまったみたいだからな、十二分に巨木である。
「なんで、木に赤旗なんか……というか大陸座って木じゃなかったんだな」
「そうなんだよね、まぁ信仰対象がこの辺りは昔からドリュアートの木だから、そういう信仰と大陸座の話が混じりあってそういう風に勘違いされているみたいだよ。でも本性かこっちだってバレたら好き勝手されてるし邪魔だってあっさり踏まれたし。おかげでまた酷い条件転生になってこんな姿になっちゃったし……」
蛇のマーダーさんはちっちゃな鎌首をもたげてちっさな舌をチロチロしている。
「大陸座なのは僕だ、この木じゃない。僕は開発者からドリュアートとしての役割を振られている……とはいえ、今はこんな姿だから出来る事は限られている。外でどういわれているかは知らないけれど、事実として大陸座であるのは僕だよ」
信じてもらえてないとでも思ったのか、無駄に掌でチロチロ動き回るマーダーさん。俺達は苦笑いをして大丈夫、開発者権限の白い旗がちゃんと見えてますと主張。
「成る程……貴方は不動の大陸座なのではない。あえて動かない事を選んだだけですか」
ん?レッドも大陸座ドリュアートの姿は知らなかったのか。
ドリュアートがこんな貧弱な姿だったのを知っていたのは……昔この辺りに来た事があるというナッツだけなのかな。
「その通り、世界から大切にされている木に住んでいれば、誰も僕の事を毒蛇だ、珍しい喋るヘビだとか言って虐めないだろう?それにこの木には不思議と天敵もやってこないしね」
ちょっと待て。
つまり、大陸座ドリュアートが安寧に暮らせる場所としてこの、珍しい木を選んだだけだって事か?
魔導師連中から研究対象にされているくらい、レア植物であるこの木は……こう、なんつーか。信仰されるに値するスペシャルなパゥワーを持っているのではないのか!?
「この木は守るべきこう、大切なモンじゃねぇのか?」
「ヤト、それはゲームが違います」
「と言う事は、もしや」
「この世界においてその『世界の真ん中にあった木』はとても貴重で珍しいもので、地域によっては神聖化されている場合もありますが……学術的にはそれだけの木です。神様が居る訳じゃぁないです。ましてや花や葉っぱが死人を生き返らせるとか、世界の安定に一役買っているとか、それがないと世界が滅びる要の一つだとか。そんなものじゃぁありません」
まぁなぁ、それやっちゃったらある意味ゲーム的にはパロディになるもんなぁ。そもそも世界樹っていう考え方は北欧神話に基づくもので、コンピューターゲームRPGはそれをヒントにして作品が作られる事が多いってだけである。
割と知らない人が多いが、竜探索シリーズはモロに北欧神話モチーフなんだぜ?最後幻想は番外編として発動した方で重大なファクターとして木が重大なモチーフとして登場する。
「でも、昔は重要なモノだったんじゃないのかい?」
マツナギは何かを思い出すように言った。
「この世界における神話において、確かに過去……柱として重要な役割を振られていた……という話はありますがね。所詮過去であって所詮神話です。実際問題、ドリュアートの大樹が枯れた所で世界が乱れた訳でもないのです」
確かに、一回真面目に枯れたらしいからな。その残骸が今も辺りに散らばっている。枯れて滅びた事と、世界の在り方に連動した様な動きは俺の知る世界史的には無いな。リコレクトするに六期頃には枯れてた、とか云うらしいじゃねぇか。今八期だぞ?二期前に枯れてる訳だが、六期から八期までの間に在った重大な出来事は北方大陸が大半沈んだ、くらいだろう。しかし、それは七期の話だと歴史では教えられている。詳しい年代の事は俺に聞くな、ざっくりそういう知識があるだけだからな!
俺は、奇妙な木をまじまじと見つめた。
「つまり、赤旗に感染しているから引っこ抜いて燃やしてしまってもオッケーって事だな」
「それ、研究者達は泣くと思うけどね……」
ナッツが苦笑している。その手の中で、小さなヘビが慌ててグルグルと回りながら喚いた。
「ちょーっと!ちょっと待って!燃やす?燃やすつもりなのかお前達は!」
「いや、だってほら、赤旗に感染してるし。ヤバいだろ、ほっとけないだろ?」
「バカ、だからその前にどうしてこの木が赤旗になっているかを考えてくれよ!赤旗でありながらどうして、怪物に変化していないで通常の通りなのかって事をまず、察して欲しいんだってば!」
ああ、そういえば……そうだな。
「確認しますが、この木には元来別に白いフラグは立っていないのですよね?」
ヘビは小さな頭を何度も縦に振っている。なんか、見慣れてくると可愛いな。ヘビ嫌いの人は許し難い嫌悪を逆に抱くのかもしれないけれど。
それはともかく。赤旗が立っているんだから、実際怪物化してるはずだ。もっとも、俺みたいに青旗で怪物化を抑えているという事例も無いわけじゃないが、白い旗を立てている大陸座ドリュアートはこの木ではない。ナッツの手の上にいる蛇だ。
「レッドフラグのバグに感染した場合、大抵は元来の姿や精神を保っている事が難しくなり……怪物になる。この怪物達は基本的に統率が取れていない訳ではなく……魔王と呼ばれる存在に統括されている気配がします」
レッドの纏めに、そのようだと俺達は頷いた。で、意識を保っている場合はホストとしての能力があったりする。
俺もそれに含まれている。いや、今はもう赤旗無いって話だったから……過去形になるのかな。
「……稀に、魔王軍は姿を偽ってその本性を隠している場合があります」
「ホスト・リラーズの件だね」
ナッツの言葉に、俺達は当時の事件をリコレクトしよう。
南国カルケードの軍隊に紛れて、赤旗への感染能力を持っている……すなわちホスト能力がある奴がいた。当時王子だったミストの直属部隊の女剣士で本性はヘビ女。元はリラーズという女性兵だ。
魔王軍は大体言葉も喋らない混沌の黒い怪物なのだが、このヘビが混じったような赤旗怪物は理性を持っていた。普通に会話を交わしたな。そして姿を偽り、ファマメント国と戦争をさせるべく卑劣な工作をしていた。
隠密部隊の隊長であるヒュンスの部下達がこのリラーズの毒牙に掛かって魔王軍化していたんだな。リラーズは俺達から指摘された途端魔王軍の本性を現した。つまり、それまではヒュンスが気が付かない程に……元の姿や振舞いを保っていたと言う事でもある。
恐らく魔王軍として末端の赤旗をばらまく存在、感染主ホストは、感染させた赤旗の怪物を統括する事ができるのではないか?という予測がここから出来る。
それから……魔王八逆星と呼ばれている、バカ強い設定になっている赤旗連中。こいつらは例外なく赤旗ホストだ。とりあえずコレは黒だろう。
俺は魔王八逆星『全員』から赤旗に感染させるべく血を注がれたらしいぜ。最も俺が気を失っている間の事らしいが。
ご丁寧にもナドゥがそういう事情を俺に説明してくれたもんな。
それで、無反応だったという評価をもらったはずだ。無反応というか、俺の記憶の限りだと『ほぼ無効』が正しい気がするが……。
俺は青旗持ちである。この世界のものからは見えない青い旗が、俺達のバグ感染を防いでいる。
気を失っているとはいえその時はまだログアウトはしていないからな。青旗の庇護がある以上赤旗に感染する事は理論的にあり得ない。
君に耐性があるのは何故だね?とか聞かれても、その答えは確実にあるが『答えられない』し『説明出来ない』。
この世界が『ゲーム』であるという、遙かに上層の見えないレイヤーでの話であるから、な。
で、奴ら曰く『絶対に相手を滅ぼす』と云う事で、感染能力がありながら結局魔王軍生産能力の無い……最強最悪の血を持つギルのケースを最後に試された。
これがまぁ、最悪に辛かったな。
先にデモンストレーションされた事もあり、精神的にも俺は色々参ってしまっている。……思い出すのも正直辛いが、辛いとは言わないのが俺のキャラだ。もう一回説明しておこう。
俺達の事情で言って赤旗感染に無反応、であったのだが始めて『対抗反応』が現れまして……最終的には感染しないんだが……一時的に体中をえぐられて痛みが全身で連動爆発するような状態に陥った。思い出すだけでも胃が竦み上がるような経験だ……間違いなくトラウマになっております。
しかしそれでも結局俺は、ギルの血を耐えてしまったのだ。
本来、壊れずに耐えてしまった場合はそこで見事、赤旗キャラの誕生になっているはずなのだがな。それも回避した。
何回も言うが青旗をたてている限り感染は、無い。
抵抗の果て、俺は息絶え絶えではあるが元の状態に戻ってしまう。おかげで何回も何回も試しやがって、だからその経験を俺は辛いと言っている。
で、結局どうしてどうやって赤旗に感染したのか?
うーむ、恐らく大魔王の所為だろうなぁ。推定ギガース、そして恐らくは……大陸座バルトアンデルトだな。
よくは分からない、その時俺は意識が吹っ飛んだ。それこそ強制的にエントランスに吹き飛ばされるくらい強力に。イメージとしては俺は怖くなって逃げたという感覚があるが……結局の所どっちが正しいのかは俺にはよく分からない。
ログアウトしたらキャラクターに旗は立たない。青旗が立ってないとキャラクターは赤旗への抵抗力がない。
だから、俺は赤旗に感染してしまった。
……ふむ、つまり青旗『以上』は赤旗バグへの抵抗力がある。
そこが問題なのだな。
「当然、白旗は青旗より権限上だよなぁ?」
「そう言う事になるね」
「……キャラクターがログインしてないのに、白旗が立つって状況がまず私はちょっと疑問なんだけどな。それって結局どういう事だろう?」
む、マツナギさん。それはもしかしてとても重要な事じゃぁありませんか?
ちなみに、俺はそう言われてそういえばそうだよなと今疑問に思いましたッ!
そうだ、プレイヤーが居ない限りプレイヤー在中であるという『旗』は立たない。
緑色と黄色の旗はプレイヤーを示すものではなく、イベントの道しるべだから属性が違う。この場合青と白、これがプレイヤーログインを表す旗だ。赤旗は緑旗のバグの一種じゃなかろうかって仮説は前にレッドが言っていたような。
「それは、まぁ大体予測は付く事なんだよね」
「あくまで予測なんですけどね……ついでなので確定しておきましょう」
と、ナッツとレッドが言うって事は、奴らはとっくにその辺りの仕組みは疑問に思って考えていたって事か。
「プレイヤーが居ないのに白い旗がある、つまりそれが……デバイスツールのもたらす特殊な作用なのではないでしょうか。そしてその作用こそが、赤旗に反応し、時に赤旗の症状を抑える効果として現れるのだと思います」
答えを待つ俺達の視線を受けて、小さなヘビのマーダーさんはこっくりと頷いた。ついでに黒い目をパチパチさせてくれます。……やべ、俺アインさんラブを経て、爬虫類愛に目覚めてるのかも……。
「その通り、僕は大陸座として管理者権限だからこういう知識はヤマダさんが持ってて、その都合だろうけど理解していて説明出来る訳だけど、本来こっちに作ったキャラクターは『あちら』の知識は持ていないからね。そのゲームだとかトビラだとかいう知識は、あくまでプレイヤーがこちらに持ち込んでいる事だから」
……だよなぁ。
そう、一方通行のトビラを通って来ているこの世界、この世界からあっちの現実には上手く記録を持って行けないのに。割とあっちからは無制限に近く知識を持って来る事が出来る。
制限は出来ないのか?いや、多分多くを制限すると……騙せなくなるんではないかと俺は思う。
要するにだ。
すげぇ!この世界はなんてリアルなんだ!と『思う』には、リアルかどうかを比較するべき経験が必要なのだ。
海が、綺麗だと思う。
始めて見るのに綺麗だと判断するには、その前に綺麗ではない海の経験が無ければいけない。
例えそれがモニター越しの仮想であっても、だ。
仮想経験として海を知らないとするなら、海を見ても綺麗だとは思わんだろう。
その場合は綺麗じゃなくて……もっと別の感覚ではないかと思う。例えばデカいとか、例えば凄いとか。感激とか、海の色から連想される何か、とか。……ボキャブラリ少なくてすいません。俺に語彙力は、無いです、はい。
俺は、始めてこの世界に来た時に見た海に『綺麗』だと思った。
それは、俺の知る『海』はいつも綺麗だとは言い難かったからではないかと今はそう、思う。
綺麗とは言い難い黒々しい海しか見た事が無かったから、俺はそれを真っ先に『綺麗』だと思ったんではないだろうか?
「……要するに、白旗を立てている大陸座も赤旗に干渉される事は無いって事だよね?」
「感染はしないとしても、白旗だってプレイヤーキャラだろ?死のルールは適応するんだから殺されたりはすると思うが?」
マツナギとテリーの言葉に、ナッツの掌の上でもう一回マーダーさんは頷いた。
「うん、死ぬよ」
あっさり言ってくれますな……。
「……でも、デバイスツールがあるからすぐに条件転生出来ちゃうんだけどね」
成る程。
そういう仕掛けか。
「もしかして、ヘビになってしまったのって……」
「もしかしなくてもその通り、最後の転生先で道徳を散々守らなかったね、暗殺者設定から経験値マイナスを起してで強制転生でヘビになっちゃったんだ。経験値マイナスファンブル状態を解消しないうちに次の転生をした場合こういう事が起きるらしい。いや、実は今の状態の前にもう一段階あるんだけど……それが一般的になっている僕の姿じゃないかな」
そういえばナッツが言ってたな。随分小さくなってしまったね、とか何とか。
その前に道徳とか経験値マイナスファンブルって何かって?
俺達にはあんまり関係ない事なのでスルーしてきたが……『トビラ』というゲームに使われているシステムルールの一つだ。
簡単に言うと『悪い事』をすると経験値が下がって『運』みたいなものが低下し、良くない出来事に直面しやすくなるというゲーム上のシステムらしい。
この世界側向けに言い直せば『罰が当る』という事だ。
そういう強制運命プログラムがあるらしい。それが経験値マイナス状態になったときに現れる……ファンブル状態という訳。
えーと、こちらもくわしくは取扱説明書の方に記載されているようです。俺達の事情ではシステムなので余り関係がないらしく、今後は出ないだろう話らしい。
が、設定としてはちゃんとあるという事で。詳しいルールについて知りたい方はそちらをご覧ください……と。
「魔王八逆星は大陸座の存在を……消す事が出来ない。だから封印という形を取ったのかも知れません。彼らはデバイスツールの存在に気が付いていないのでしょうか?」
「僕らがデバイスツールを持っている限り目に見える形であるとは限らないからね。ほら、白旗になって僕らの頭上に在る通りさ。だからデバイスツールを譲渡してしまうと僕らはこの世界に存在できなくなり、開発者レイヤーって所に待避してしまうのは……知ってると思うけど」
「確かに、そのように説明されています」
「……つまり、強制的にツールを奪う事は出来ない訳だ、よし。連中の手に渡っても悪用されている危険は無い訳だな?」
「そんな事ないよ、君達が持っている状態では誰だって触れる状態だろう?」
う、そうだった。忘れてた。だからオレイアデントは扱いに気を付けろって言ったんだな。
「……マーダーさんは割と早く、魔王八逆星に目を付けられて殺されたって事……?」
ナッツは何か腑に落ちない顔をしている。
「いやいや、違う違う。最初に僕を殺したのは魔王の人達じゃない、とはいっても誰なのかもよく分からないけれどね。職業暗殺者だったから、実際誰からつけ狙われているか分かったもんじゃなかったし。その後も割と無力な姿をしていたのは君は、知ってるみたいだけど――その無力な状態を今度はその、魔王の人達に捻り潰されたんだ。道徳回復出来てないからまた酷いのに条件転生した。それで僕は今度は今の小さなヘビになった。それで……殺しても滅ぼせない、と云う事を彼らは知ったみたい」
「成る程、ようやく話が繋がりました。それで魔王八逆星は貴方の住処であるこの若い木を赤旗に感染させて行ったのですね?」
「そうなんだ、そう、そう言う事!」
レッドの言葉に待ってましたとばかりに小さなヘビのマーダーさんは飛び跳ねている。……ヘビってジャンプするんだな。つちのこは跳ぶって言うけど……いや、転がるんだっけか?まぁいい。
「デバイスツールには赤旗を押さえる働きがあるのは……分かっていますしね」
目配せされてああ、成る程。俺もようやくマーダーさんが言いたい事分かってきたぞ。
「つまり、今このドリュアートが怪物化してないのは……マーダーさんがここに居るからって事か!動けないのは、そんでもってその能力をここに固定させているから」
俺は把握して腕を組んで言った。
「よし、分かった。燃やそう」
「だから、燃やさないでってば!」
ヘビ、必死な様子が可愛いいので俺は少し虐めてしまいました。
冗談だよと笑ったが、どうも顔がにやけていたらしく一同から微妙な視線を貰ってしまったぜ。
「でもよ、別に世界の要でも何でもないならいいじゃねぇか。俺達の仕事は大陸座の全待避だ、それはあんたも知ってるんじゃないのか?」
「え?そういう事になってるの?」
……おいおい高松さん、ちゃんと説明しておいてくださいよ自分らのキャラクターに。
「まさか、待避したくないとか言わないよな?」
マーダーさんは小さな頭を項垂れる。
「それが必要な事なら仕方がないけど……でも、僕はこの木を失いたくない」
「その気持ちは分かる」
俺はそのように真面目に同情したのだが、散々燃やす言った後なので信用されていないようだ。
「それに、燃やされて困るのは君も同じだと思うよ」
「……何で?」
「君、君が今生きているのはこの木が『生きて』いるからだろう?ああ、状況理解してないんだなぁ、あの白衣の人がそういう風に君をここに縛り付けていったじゃないか」
ああ。
やっぱり、それって……俺の聞き間違いじゃなかったか。
あえてそのあたり考えないようにしてみてたんだけど……な。
せっかく赤旗が取れたってのに。一難去ってまた一難。やっぱり喜べる状況じゃなかったか。がっくり。
「……なぁ」
俺は、沈黙する一同に至って明るく提案した。
「この件、アベルには黙っててくんねぇ?」
「どうしてですか?」
どうしてって……。俺は深く息を吸い込んでから……深いため息として吐き出す。
「あいつ、俺が『元に戻る』って信じてるみたいだし……多分。知ったら、俺殴られると思うんだよな」
「だな、間違いなくフルボッコにされるな」
テリーが同情を含んだ声で頷いた。
「どうしてさ、どうしてそれで殴られるんだい?」
「俺も何でか知りたい」
大いに疑問、という風なマツナギの言葉に対し俺は苦笑する。
「殴られるのが嫌だから黙っていろ、というのもこれまた、小さなお願いですね」
うるせぇ、あの怪力女から殴られると半端無く痛ぇんだからな?しかしレッドは文句を言いたいだけで俺が意図する所は大体、把握しているみたいだ。
本気で意に反するなら、きっちりと理屈並べて反論するもんな。
「……噂をすれば、戻ってきたみたいだけど。どうする?」
マツナギが木の下に目をやって、レッドとナッツに言った。
「何時までも誤魔化せる事ではありませんよ?」
「分かってるよ、……いずれちゃんと俺から……話は付けるから」
約束するよ。ちゃんと俺から『俺の事』は話す。でも今はちょっと待ってほしい。
まだ俺も戸惑っているし、状況を全て把握できていない。自分の事を、整理する時間をくれ。
「……仕方がありませんね……ナッツさん、どう思いますか?」
ナッツは困った顔をして肩をすくめる。
「正直気は進まないけどね……確かに、彼女に向けてを思うなら、それが最善なのかもね」
はは、ナッツ。
お前も分かってるんだな。
軽々と高枝を飛び越えて、しかめっ面のままのアベルが戻ってきた。
全員から無言で迎えられ、空気がおかしいのに気が付いたらしい。
「何よ?」
「いえ、突然どこかに行ってしまわれた、との事だったので、どちらに行って居たのかな……と」
こういう時話を誤魔化すのはお前、上手いよなぁ。流石は嘘技能持ちである。レッドの少し相手を勘ぐる言葉に案の定、アベルはつんとそっぽを向く。
「別に?ちょっと周りの様子を見てきただけよ。このバカの顔見ているのが嫌になっただけ」
あーはいはい、そーですかそーですかっ!
「で、あたしが居ない間に……何か分かった?」
一々お前の為に説明しろと?まぁ……久しぶりに会うアインさんが俺の頭の上に着地したのを見上げ……アインも事情分かってないから説明はすべきかと妥協してみたり。
今までの経過と、大陸座ドリュアートのマーダーさんの件についてレッドが、上手い事『俺の事情』を隠しながら説明する。
「と言う事で、結局の所赤旗を完全除去する方法が確定していません」
俺の頭上にあったはずの赤旗が、無くなった理由が分かりません……と、結んだその後のセリフだ。
これはガチに分かっていない。まぁ『俺の事情』を考慮すれば、何かしらヒントはあるのかもしれないけれど。今はそれはとりあえずお預け。
「あんたのケースは?」
「僕の『アーティフィカル・ゴースト』の場合は特別です、僕が赤旗に感染しているのではなく、赤旗感染しているものが僕に二次的に感染していたからなんとか、完全除去が出来ている」
「成る程、そう云う事か」
アベル、今までそれを理解してなかったのかお前は。
「……僕を、一番最後にする事は出来ないかい?」
ドリュアートは困ったように小首をかしげた。……そんな事も出来るのだなヘビ!どうやら、俺らの話を聞いていてアベルに事実を隠す方向で一枚噛んでくれているようである。
いい人……じゃなかった、いい蛇だなぁマーダーさん。
「……貴方を今開発者レイヤーに待避させて、よしんば譲り受けたデバイスツールでこの木のバグを押さえたとする。しかしその場合、デバイスツールは誰にでも触れられるモノとなり、下手をすれば魔王八逆星に奪われる可能性が出てくる。対し、貴方をこのまま置いておけば無条件にこの木のバグを押さえられる。そして大陸座を滅ぼす事ができない魔王は貴方に手を出せない。そういう事ですね」
アベルでも分かる明快な説明をありがとうございますレッドさん。
「ちょっと待ちなさいよ」
しかしアベル、額を抑えて待ったコール。貴様、今の説明でも分からない事があるというのか?
「つまり、デバイスツールでも赤旗は除去出来ない事確定で話していない?そう云う事なの?」
…………。
俺は無言でレッドを伺ってしまった。
確かにそういう事になるが。それは今こいつにバレてもいい話か?
俺が無言でそのように訊ねているのだが、レッドは無言でナッツと目配せをしている。貴様ら、無言で話すのは止せ。
「ナーイアスト、ジーンウイント、オレイアデント。すでに三つのデバイスツールを所持するにもかかわらず……ヤトの状況を改善出来なかったのだからつまり、そう言う結論になるでしょう。結局最終的に何がヤトの赤旗を除去したのか分からないのです」
「方法が分からないだけじゃなかったの?」
「……方法については今現在も魔導都市で委託・考察中です」
「じゃぁ確定で話す必要はないじゃない。方法が分かったら戻ってきて、赤旗を治せばいい。それまでマーダーさんはここに置いておけばいい訳でしょう?」
「永続的にこの木を残すのであれば、魔王八逆星の問題を全面的に片づける事がまず第一、かと」
「木に執着しているのが魔王連中に知れたら、逆に利用されちまいやしねぇかな?」
テリーが頭の後ろで手を組んで低く言った。
今の、アベルに『俺の事情』を隠す現状突っ込むべき正論だ。案外テリーの奴、アベルに黙っているの反対なのかもしれん。それで無駄な事言いやがったのか?
何はともあれ、レッドが黙ってしまったぞ。どういう事だ?
アベルを騙す為の詭弁だけじゃなく、軍師連中、もしかしてまた何か黙っている事があるのか?
「……今、問題なのは末端を片づける事じゃないと思うよ。根元を断たなければ末端には着手出来ない状況だ」
流れた沈黙を破ったのはナッツだ。
「つまり、ヤトは末端問題だったって事ね?」
やや挑発的にアベルが言った。
うん、まぁ……末端問題だと俺も思うんだけどな。とりあえず、解消はしているんだからいいじゃないか。
最も……この木が死んだら俺も死ぬんだがな。俺が今陥っている状況とはすなわち、そういう事だろう。
アベルにはまだ、言えない……『俺の事情』。
それに口を閉ざして、上手い事レッドが説明してくれているはずなのだが。
さしものナッツも困っているので、俺は顔を上げた。
「俺の問題なんて魔王連中を倒す事に比べたら些細だろ」
「……本気で言ってるの?」
「本気だ、俺はイタい勇者驀進中。不本意だけどな」
睨まれた。いつものパターンだと……殴られるんだが。
拳を固めたアベルは地面を向いて黙りになってしまった。流石の奴も状況が分かっていない訳ではないようだ。多少は賢くなりやがったようである。
「……正直に言えば僕だってどうにかしたいよ」
ナッツが小さく呟いた言葉に俺は面倒ぶってに手を振る。
「まぁいい、続けろレッド」
「はい……、ですから……」
お前まで何言いにくそうな顔になってんだよ。
いつものブラックな微笑みはどうした。
「まず、大陸座を待避させて赤旗の根本を断つ事が最重要である、という事を現実での会議で、方向性として決めたはずです。その間に恐らく、ヤトの件を含めて多くの不条理な処理を成さねば為らなくなる事は皆さん承知していたはず。今は赤旗を元に戻す手段を考えている場合ではなく、根本を断ち切る事を最優先にしなければいけない」
ああ、そっか。
悪い、気が付くの遅くて。
それだとやっぱり、この木は今すぐ燃やさなきゃいけないって事か。
だってそれで片がついちまう。
俺の命がこの木に直結しているという事情を隠している現段階では……つまりそれが『最良』だ。
だからお前、言いにくそうな顔したんだな。
「赤旗バグがそれ程にやっかいなものだとは……僕は考えもしなかった。僕が押さえておけばいい、くらいにしか考えていなかった……そうか。なら仕方がない、僕も開発者人格だ」
マーダーさんに、なんか覚悟をさせてしまったらしい。俺は慌ててヘビを覗き込む。
「いや、何とかするから、別の燃やしたりしねぇってば」
「君が燃やすって言い出したんじゃないか」
「だから、俺は冗談だって言っただろう?何っていうか、森生まれの所為かな?割と親近感は沸くっていうか……」
「同類を哀れむ感覚なのね」
アインさん、それ全くフォローになってない、慰めてないんだから!
というかまだアインさんには本当の事情を話してないんだが……察しているんだろうか?彼女の勘は恐ろしく鋭いからな。しかし、正直アベルと同じくでアインにも本当の事は言いたくない。
本当は、全員に。
誰にも知られたくなかったくらいだ。
俺は努めて明るく振る舞い、両手を広げてみせる。
自分では重いとは思っていない事、連中にとってだけ重要な事実を隠したままに。
「……いいじゃん、利用される『かもしれない』なんだろ?なら、魔王八逆星から罠張られたらその時はおとなしく燃やす。それが無いようならばそれまで放置で。デバイスツールが他に渡るよりはマシだろ?」
そのように言えるのは今、俺だけだ。分かっている。
テリーさん、結局ここが肝になるって分かっててこの話を振ったのだな。そのあたりからアベルに勘ぐられる可能性をある程度除去してくれたわけだ。
と同時に、俺に肝を据えろと言ったのだと理解する。
都合が悪くなって赤旗感染しているドリュアートの木を燃やす時、その時は俺も死ぬ。
俺に与えられている『不死』とは、そういう実に危険なものであると云う事に今更気が付く。
奴ら、すなわち魔王八逆星の都合の良い事など何一つ無い。
俺は、見事に奴らから命を握り込まれているようなものじゃねぇか。
しかも、偶然の結果じゃねぇ。
ナドゥの口調からするとこれは、奴が仕組んだ必然だ。
だが例えその様に仕組まれていても……それでも俺らは前に進むしかないんである。
というか、この木が大陸座じゃなかったのか?木だから動けないって話じゃなかったのかそーかそーか。……よく分からんが。
この喋る小さなヘビが『大陸座ドリュアート』。
開発者で言う所のヤマダーヤマトさんだそうだ。本来こっちにログインした時のキャラクターの名前はマーダーさんというらしい。
うむ?変な名前だなと正直に尋ねてしまった。
何でかって?だってマーダーって『暗殺者』って意味だ。そうしたらマーダーさん、僕ら大陸座はプレイヤーの名前の真ん中あたりから適当取って付けているんだよと、あっさり暴露してくれました。
成る程、ヤ・マーダ・ヤマトだな。
で、最初から蛇なのかというと当然、そうじゃない。
名前の通り、マーダーさんは職業暗殺者であったらしい。おいこらヤマダさん、穏和な雰囲気とは裏腹に過激なキャラクターを作ってらっしゃいますね!
ところが、やっぱり設定が災いして行動道徳が保てなくなり、ついにはとある国に捕まって処刑されるハメになってしまったそうだ。……え、それガチで言ってるんですか?
「……条件転生ですね」
「そう云う事。ある程度の経験を得て特定の条件をクリアすると、死んでも次のキャラクターに設定を持ち越す事が出来るっていう特別ルールだね」
「それで、ヘビ?」
「悪行が多くなるとろくな転生が出来ない、という実例としてこのように」
マーダーさん、声は笑っているがそれは笑い事じゃない気がします。
「条件転生は一見魅力的に見えるけど、実際には有利な形に引き継ぐのが難しいように調整されているんだ」
はぁ、成る程ねぇ。
大陸座はゲームシステムの事なんてあんまり話さないというイメージだったが、マーダーさんもといヤマダさんは元来システムエンジニアらしいのでそういう話が大好きっぽい気配だ。
「実際僕は5回位、テストもかねて条件転生してみたよ」
最初は人間で、マーダーという名前にも関わらず聖職者として徳を積んだそうだ。
おかげで、上位種族への転生が出来たらしい。その後は順繰りどうなるか、などテストをかねて色々やって……最終的に名前の通り暗殺者となり、散々悪行を重ねて現在のヘビという状況に陥ったとか。
「……テストプレイを自分でやらなくてもいいのに」
「いや、こんな酷いプレイは他には任せられないだろう。実際5人分のキャラクターを短期間で弄れたんだしね、こんな言い方も何だけど楽しかったよ」
マーダーさん、現状悔い無しって気配である。
「でも、おかげで魔王からこの木を守れないんじゃぁどうしようもないじゃないか。この木、今赤い旗が立っているんだよ?」
「え、そうなのかよ」
それは初耳だ。俺は驚いてマツナギを振り向いてしまった。マツナギは、……いや、軍師連中もその事実には気が付いていなかったようで、素直に驚いて目を瞬いている。
木に赤旗か、……もしかしなくても、木の天辺に旗があるんじゃないか?おかげで、今俺達は木を見上げてみたがフラグを目視出来ない状況である。ドリュアートが元の通りそれ程育っていない若木だったらいざ知らず、今はなんか俺から養分取って無駄にデカくなっちまったみたいだからな、十二分に巨木である。
「なんで、木に赤旗なんか……というか大陸座って木じゃなかったんだな」
「そうなんだよね、まぁ信仰対象がこの辺りは昔からドリュアートの木だから、そういう信仰と大陸座の話が混じりあってそういう風に勘違いされているみたいだよ。でも本性かこっちだってバレたら好き勝手されてるし邪魔だってあっさり踏まれたし。おかげでまた酷い条件転生になってこんな姿になっちゃったし……」
蛇のマーダーさんはちっちゃな鎌首をもたげてちっさな舌をチロチロしている。
「大陸座なのは僕だ、この木じゃない。僕は開発者からドリュアートとしての役割を振られている……とはいえ、今はこんな姿だから出来る事は限られている。外でどういわれているかは知らないけれど、事実として大陸座であるのは僕だよ」
信じてもらえてないとでも思ったのか、無駄に掌でチロチロ動き回るマーダーさん。俺達は苦笑いをして大丈夫、開発者権限の白い旗がちゃんと見えてますと主張。
「成る程……貴方は不動の大陸座なのではない。あえて動かない事を選んだだけですか」
ん?レッドも大陸座ドリュアートの姿は知らなかったのか。
ドリュアートがこんな貧弱な姿だったのを知っていたのは……昔この辺りに来た事があるというナッツだけなのかな。
「その通り、世界から大切にされている木に住んでいれば、誰も僕の事を毒蛇だ、珍しい喋るヘビだとか言って虐めないだろう?それにこの木には不思議と天敵もやってこないしね」
ちょっと待て。
つまり、大陸座ドリュアートが安寧に暮らせる場所としてこの、珍しい木を選んだだけだって事か?
魔導師連中から研究対象にされているくらい、レア植物であるこの木は……こう、なんつーか。信仰されるに値するスペシャルなパゥワーを持っているのではないのか!?
「この木は守るべきこう、大切なモンじゃねぇのか?」
「ヤト、それはゲームが違います」
「と言う事は、もしや」
「この世界においてその『世界の真ん中にあった木』はとても貴重で珍しいもので、地域によっては神聖化されている場合もありますが……学術的にはそれだけの木です。神様が居る訳じゃぁないです。ましてや花や葉っぱが死人を生き返らせるとか、世界の安定に一役買っているとか、それがないと世界が滅びる要の一つだとか。そんなものじゃぁありません」
まぁなぁ、それやっちゃったらある意味ゲーム的にはパロディになるもんなぁ。そもそも世界樹っていう考え方は北欧神話に基づくもので、コンピューターゲームRPGはそれをヒントにして作品が作られる事が多いってだけである。
割と知らない人が多いが、竜探索シリーズはモロに北欧神話モチーフなんだぜ?最後幻想は番外編として発動した方で重大なファクターとして木が重大なモチーフとして登場する。
「でも、昔は重要なモノだったんじゃないのかい?」
マツナギは何かを思い出すように言った。
「この世界における神話において、確かに過去……柱として重要な役割を振られていた……という話はありますがね。所詮過去であって所詮神話です。実際問題、ドリュアートの大樹が枯れた所で世界が乱れた訳でもないのです」
確かに、一回真面目に枯れたらしいからな。その残骸が今も辺りに散らばっている。枯れて滅びた事と、世界の在り方に連動した様な動きは俺の知る世界史的には無いな。リコレクトするに六期頃には枯れてた、とか云うらしいじゃねぇか。今八期だぞ?二期前に枯れてる訳だが、六期から八期までの間に在った重大な出来事は北方大陸が大半沈んだ、くらいだろう。しかし、それは七期の話だと歴史では教えられている。詳しい年代の事は俺に聞くな、ざっくりそういう知識があるだけだからな!
俺は、奇妙な木をまじまじと見つめた。
「つまり、赤旗に感染しているから引っこ抜いて燃やしてしまってもオッケーって事だな」
「それ、研究者達は泣くと思うけどね……」
ナッツが苦笑している。その手の中で、小さなヘビが慌ててグルグルと回りながら喚いた。
「ちょーっと!ちょっと待って!燃やす?燃やすつもりなのかお前達は!」
「いや、だってほら、赤旗に感染してるし。ヤバいだろ、ほっとけないだろ?」
「バカ、だからその前にどうしてこの木が赤旗になっているかを考えてくれよ!赤旗でありながらどうして、怪物に変化していないで通常の通りなのかって事をまず、察して欲しいんだってば!」
ああ、そういえば……そうだな。
「確認しますが、この木には元来別に白いフラグは立っていないのですよね?」
ヘビは小さな頭を何度も縦に振っている。なんか、見慣れてくると可愛いな。ヘビ嫌いの人は許し難い嫌悪を逆に抱くのかもしれないけれど。
それはともかく。赤旗が立っているんだから、実際怪物化してるはずだ。もっとも、俺みたいに青旗で怪物化を抑えているという事例も無いわけじゃないが、白い旗を立てている大陸座ドリュアートはこの木ではない。ナッツの手の上にいる蛇だ。
「レッドフラグのバグに感染した場合、大抵は元来の姿や精神を保っている事が難しくなり……怪物になる。この怪物達は基本的に統率が取れていない訳ではなく……魔王と呼ばれる存在に統括されている気配がします」
レッドの纏めに、そのようだと俺達は頷いた。で、意識を保っている場合はホストとしての能力があったりする。
俺もそれに含まれている。いや、今はもう赤旗無いって話だったから……過去形になるのかな。
「……稀に、魔王軍は姿を偽ってその本性を隠している場合があります」
「ホスト・リラーズの件だね」
ナッツの言葉に、俺達は当時の事件をリコレクトしよう。
南国カルケードの軍隊に紛れて、赤旗への感染能力を持っている……すなわちホスト能力がある奴がいた。当時王子だったミストの直属部隊の女剣士で本性はヘビ女。元はリラーズという女性兵だ。
魔王軍は大体言葉も喋らない混沌の黒い怪物なのだが、このヘビが混じったような赤旗怪物は理性を持っていた。普通に会話を交わしたな。そして姿を偽り、ファマメント国と戦争をさせるべく卑劣な工作をしていた。
隠密部隊の隊長であるヒュンスの部下達がこのリラーズの毒牙に掛かって魔王軍化していたんだな。リラーズは俺達から指摘された途端魔王軍の本性を現した。つまり、それまではヒュンスが気が付かない程に……元の姿や振舞いを保っていたと言う事でもある。
恐らく魔王軍として末端の赤旗をばらまく存在、感染主ホストは、感染させた赤旗の怪物を統括する事ができるのではないか?という予測がここから出来る。
それから……魔王八逆星と呼ばれている、バカ強い設定になっている赤旗連中。こいつらは例外なく赤旗ホストだ。とりあえずコレは黒だろう。
俺は魔王八逆星『全員』から赤旗に感染させるべく血を注がれたらしいぜ。最も俺が気を失っている間の事らしいが。
ご丁寧にもナドゥがそういう事情を俺に説明してくれたもんな。
それで、無反応だったという評価をもらったはずだ。無反応というか、俺の記憶の限りだと『ほぼ無効』が正しい気がするが……。
俺は青旗持ちである。この世界のものからは見えない青い旗が、俺達のバグ感染を防いでいる。
気を失っているとはいえその時はまだログアウトはしていないからな。青旗の庇護がある以上赤旗に感染する事は理論的にあり得ない。
君に耐性があるのは何故だね?とか聞かれても、その答えは確実にあるが『答えられない』し『説明出来ない』。
この世界が『ゲーム』であるという、遙かに上層の見えないレイヤーでの話であるから、な。
で、奴ら曰く『絶対に相手を滅ぼす』と云う事で、感染能力がありながら結局魔王軍生産能力の無い……最強最悪の血を持つギルのケースを最後に試された。
これがまぁ、最悪に辛かったな。
先にデモンストレーションされた事もあり、精神的にも俺は色々参ってしまっている。……思い出すのも正直辛いが、辛いとは言わないのが俺のキャラだ。もう一回説明しておこう。
俺達の事情で言って赤旗感染に無反応、であったのだが始めて『対抗反応』が現れまして……最終的には感染しないんだが……一時的に体中をえぐられて痛みが全身で連動爆発するような状態に陥った。思い出すだけでも胃が竦み上がるような経験だ……間違いなくトラウマになっております。
しかしそれでも結局俺は、ギルの血を耐えてしまったのだ。
本来、壊れずに耐えてしまった場合はそこで見事、赤旗キャラの誕生になっているはずなのだがな。それも回避した。
何回も言うが青旗をたてている限り感染は、無い。
抵抗の果て、俺は息絶え絶えではあるが元の状態に戻ってしまう。おかげで何回も何回も試しやがって、だからその経験を俺は辛いと言っている。
で、結局どうしてどうやって赤旗に感染したのか?
うーむ、恐らく大魔王の所為だろうなぁ。推定ギガース、そして恐らくは……大陸座バルトアンデルトだな。
よくは分からない、その時俺は意識が吹っ飛んだ。それこそ強制的にエントランスに吹き飛ばされるくらい強力に。イメージとしては俺は怖くなって逃げたという感覚があるが……結局の所どっちが正しいのかは俺にはよく分からない。
ログアウトしたらキャラクターに旗は立たない。青旗が立ってないとキャラクターは赤旗への抵抗力がない。
だから、俺は赤旗に感染してしまった。
……ふむ、つまり青旗『以上』は赤旗バグへの抵抗力がある。
そこが問題なのだな。
「当然、白旗は青旗より権限上だよなぁ?」
「そう言う事になるね」
「……キャラクターがログインしてないのに、白旗が立つって状況がまず私はちょっと疑問なんだけどな。それって結局どういう事だろう?」
む、マツナギさん。それはもしかしてとても重要な事じゃぁありませんか?
ちなみに、俺はそう言われてそういえばそうだよなと今疑問に思いましたッ!
そうだ、プレイヤーが居ない限りプレイヤー在中であるという『旗』は立たない。
緑色と黄色の旗はプレイヤーを示すものではなく、イベントの道しるべだから属性が違う。この場合青と白、これがプレイヤーログインを表す旗だ。赤旗は緑旗のバグの一種じゃなかろうかって仮説は前にレッドが言っていたような。
「それは、まぁ大体予測は付く事なんだよね」
「あくまで予測なんですけどね……ついでなので確定しておきましょう」
と、ナッツとレッドが言うって事は、奴らはとっくにその辺りの仕組みは疑問に思って考えていたって事か。
「プレイヤーが居ないのに白い旗がある、つまりそれが……デバイスツールのもたらす特殊な作用なのではないでしょうか。そしてその作用こそが、赤旗に反応し、時に赤旗の症状を抑える効果として現れるのだと思います」
答えを待つ俺達の視線を受けて、小さなヘビのマーダーさんはこっくりと頷いた。ついでに黒い目をパチパチさせてくれます。……やべ、俺アインさんラブを経て、爬虫類愛に目覚めてるのかも……。
「その通り、僕は大陸座として管理者権限だからこういう知識はヤマダさんが持ってて、その都合だろうけど理解していて説明出来る訳だけど、本来こっちに作ったキャラクターは『あちら』の知識は持ていないからね。そのゲームだとかトビラだとかいう知識は、あくまでプレイヤーがこちらに持ち込んでいる事だから」
……だよなぁ。
そう、一方通行のトビラを通って来ているこの世界、この世界からあっちの現実には上手く記録を持って行けないのに。割とあっちからは無制限に近く知識を持って来る事が出来る。
制限は出来ないのか?いや、多分多くを制限すると……騙せなくなるんではないかと俺は思う。
要するにだ。
すげぇ!この世界はなんてリアルなんだ!と『思う』には、リアルかどうかを比較するべき経験が必要なのだ。
海が、綺麗だと思う。
始めて見るのに綺麗だと判断するには、その前に綺麗ではない海の経験が無ければいけない。
例えそれがモニター越しの仮想であっても、だ。
仮想経験として海を知らないとするなら、海を見ても綺麗だとは思わんだろう。
その場合は綺麗じゃなくて……もっと別の感覚ではないかと思う。例えばデカいとか、例えば凄いとか。感激とか、海の色から連想される何か、とか。……ボキャブラリ少なくてすいません。俺に語彙力は、無いです、はい。
俺は、始めてこの世界に来た時に見た海に『綺麗』だと思った。
それは、俺の知る『海』はいつも綺麗だとは言い難かったからではないかと今はそう、思う。
綺麗とは言い難い黒々しい海しか見た事が無かったから、俺はそれを真っ先に『綺麗』だと思ったんではないだろうか?
「……要するに、白旗を立てている大陸座も赤旗に干渉される事は無いって事だよね?」
「感染はしないとしても、白旗だってプレイヤーキャラだろ?死のルールは適応するんだから殺されたりはすると思うが?」
マツナギとテリーの言葉に、ナッツの掌の上でもう一回マーダーさんは頷いた。
「うん、死ぬよ」
あっさり言ってくれますな……。
「……でも、デバイスツールがあるからすぐに条件転生出来ちゃうんだけどね」
成る程。
そういう仕掛けか。
「もしかして、ヘビになってしまったのって……」
「もしかしなくてもその通り、最後の転生先で道徳を散々守らなかったね、暗殺者設定から経験値マイナスを起してで強制転生でヘビになっちゃったんだ。経験値マイナスファンブル状態を解消しないうちに次の転生をした場合こういう事が起きるらしい。いや、実は今の状態の前にもう一段階あるんだけど……それが一般的になっている僕の姿じゃないかな」
そういえばナッツが言ってたな。随分小さくなってしまったね、とか何とか。
その前に道徳とか経験値マイナスファンブルって何かって?
俺達にはあんまり関係ない事なのでスルーしてきたが……『トビラ』というゲームに使われているシステムルールの一つだ。
簡単に言うと『悪い事』をすると経験値が下がって『運』みたいなものが低下し、良くない出来事に直面しやすくなるというゲーム上のシステムらしい。
この世界側向けに言い直せば『罰が当る』という事だ。
そういう強制運命プログラムがあるらしい。それが経験値マイナス状態になったときに現れる……ファンブル状態という訳。
えーと、こちらもくわしくは取扱説明書の方に記載されているようです。俺達の事情ではシステムなので余り関係がないらしく、今後は出ないだろう話らしい。
が、設定としてはちゃんとあるという事で。詳しいルールについて知りたい方はそちらをご覧ください……と。
「魔王八逆星は大陸座の存在を……消す事が出来ない。だから封印という形を取ったのかも知れません。彼らはデバイスツールの存在に気が付いていないのでしょうか?」
「僕らがデバイスツールを持っている限り目に見える形であるとは限らないからね。ほら、白旗になって僕らの頭上に在る通りさ。だからデバイスツールを譲渡してしまうと僕らはこの世界に存在できなくなり、開発者レイヤーって所に待避してしまうのは……知ってると思うけど」
「確かに、そのように説明されています」
「……つまり、強制的にツールを奪う事は出来ない訳だ、よし。連中の手に渡っても悪用されている危険は無い訳だな?」
「そんな事ないよ、君達が持っている状態では誰だって触れる状態だろう?」
う、そうだった。忘れてた。だからオレイアデントは扱いに気を付けろって言ったんだな。
「……マーダーさんは割と早く、魔王八逆星に目を付けられて殺されたって事……?」
ナッツは何か腑に落ちない顔をしている。
「いやいや、違う違う。最初に僕を殺したのは魔王の人達じゃない、とはいっても誰なのかもよく分からないけれどね。職業暗殺者だったから、実際誰からつけ狙われているか分かったもんじゃなかったし。その後も割と無力な姿をしていたのは君は、知ってるみたいだけど――その無力な状態を今度はその、魔王の人達に捻り潰されたんだ。道徳回復出来てないからまた酷いのに条件転生した。それで僕は今度は今の小さなヘビになった。それで……殺しても滅ぼせない、と云う事を彼らは知ったみたい」
「成る程、ようやく話が繋がりました。それで魔王八逆星は貴方の住処であるこの若い木を赤旗に感染させて行ったのですね?」
「そうなんだ、そう、そう言う事!」
レッドの言葉に待ってましたとばかりに小さなヘビのマーダーさんは飛び跳ねている。……ヘビってジャンプするんだな。つちのこは跳ぶって言うけど……いや、転がるんだっけか?まぁいい。
「デバイスツールには赤旗を押さえる働きがあるのは……分かっていますしね」
目配せされてああ、成る程。俺もようやくマーダーさんが言いたい事分かってきたぞ。
「つまり、今このドリュアートが怪物化してないのは……マーダーさんがここに居るからって事か!動けないのは、そんでもってその能力をここに固定させているから」
俺は把握して腕を組んで言った。
「よし、分かった。燃やそう」
「だから、燃やさないでってば!」
ヘビ、必死な様子が可愛いいので俺は少し虐めてしまいました。
冗談だよと笑ったが、どうも顔がにやけていたらしく一同から微妙な視線を貰ってしまったぜ。
「でもよ、別に世界の要でも何でもないならいいじゃねぇか。俺達の仕事は大陸座の全待避だ、それはあんたも知ってるんじゃないのか?」
「え?そういう事になってるの?」
……おいおい高松さん、ちゃんと説明しておいてくださいよ自分らのキャラクターに。
「まさか、待避したくないとか言わないよな?」
マーダーさんは小さな頭を項垂れる。
「それが必要な事なら仕方がないけど……でも、僕はこの木を失いたくない」
「その気持ちは分かる」
俺はそのように真面目に同情したのだが、散々燃やす言った後なので信用されていないようだ。
「それに、燃やされて困るのは君も同じだと思うよ」
「……何で?」
「君、君が今生きているのはこの木が『生きて』いるからだろう?ああ、状況理解してないんだなぁ、あの白衣の人がそういう風に君をここに縛り付けていったじゃないか」
ああ。
やっぱり、それって……俺の聞き間違いじゃなかったか。
あえてそのあたり考えないようにしてみてたんだけど……な。
せっかく赤旗が取れたってのに。一難去ってまた一難。やっぱり喜べる状況じゃなかったか。がっくり。
「……なぁ」
俺は、沈黙する一同に至って明るく提案した。
「この件、アベルには黙っててくんねぇ?」
「どうしてですか?」
どうしてって……。俺は深く息を吸い込んでから……深いため息として吐き出す。
「あいつ、俺が『元に戻る』って信じてるみたいだし……多分。知ったら、俺殴られると思うんだよな」
「だな、間違いなくフルボッコにされるな」
テリーが同情を含んだ声で頷いた。
「どうしてさ、どうしてそれで殴られるんだい?」
「俺も何でか知りたい」
大いに疑問、という風なマツナギの言葉に対し俺は苦笑する。
「殴られるのが嫌だから黙っていろ、というのもこれまた、小さなお願いですね」
うるせぇ、あの怪力女から殴られると半端無く痛ぇんだからな?しかしレッドは文句を言いたいだけで俺が意図する所は大体、把握しているみたいだ。
本気で意に反するなら、きっちりと理屈並べて反論するもんな。
「……噂をすれば、戻ってきたみたいだけど。どうする?」
マツナギが木の下に目をやって、レッドとナッツに言った。
「何時までも誤魔化せる事ではありませんよ?」
「分かってるよ、……いずれちゃんと俺から……話は付けるから」
約束するよ。ちゃんと俺から『俺の事』は話す。でも今はちょっと待ってほしい。
まだ俺も戸惑っているし、状況を全て把握できていない。自分の事を、整理する時間をくれ。
「……仕方がありませんね……ナッツさん、どう思いますか?」
ナッツは困った顔をして肩をすくめる。
「正直気は進まないけどね……確かに、彼女に向けてを思うなら、それが最善なのかもね」
はは、ナッツ。
お前も分かってるんだな。
軽々と高枝を飛び越えて、しかめっ面のままのアベルが戻ってきた。
全員から無言で迎えられ、空気がおかしいのに気が付いたらしい。
「何よ?」
「いえ、突然どこかに行ってしまわれた、との事だったので、どちらに行って居たのかな……と」
こういう時話を誤魔化すのはお前、上手いよなぁ。流石は嘘技能持ちである。レッドの少し相手を勘ぐる言葉に案の定、アベルはつんとそっぽを向く。
「別に?ちょっと周りの様子を見てきただけよ。このバカの顔見ているのが嫌になっただけ」
あーはいはい、そーですかそーですかっ!
「で、あたしが居ない間に……何か分かった?」
一々お前の為に説明しろと?まぁ……久しぶりに会うアインさんが俺の頭の上に着地したのを見上げ……アインも事情分かってないから説明はすべきかと妥協してみたり。
今までの経過と、大陸座ドリュアートのマーダーさんの件についてレッドが、上手い事『俺の事情』を隠しながら説明する。
「と言う事で、結局の所赤旗を完全除去する方法が確定していません」
俺の頭上にあったはずの赤旗が、無くなった理由が分かりません……と、結んだその後のセリフだ。
これはガチに分かっていない。まぁ『俺の事情』を考慮すれば、何かしらヒントはあるのかもしれないけれど。今はそれはとりあえずお預け。
「あんたのケースは?」
「僕の『アーティフィカル・ゴースト』の場合は特別です、僕が赤旗に感染しているのではなく、赤旗感染しているものが僕に二次的に感染していたからなんとか、完全除去が出来ている」
「成る程、そう云う事か」
アベル、今までそれを理解してなかったのかお前は。
「……僕を、一番最後にする事は出来ないかい?」
ドリュアートは困ったように小首をかしげた。……そんな事も出来るのだなヘビ!どうやら、俺らの話を聞いていてアベルに事実を隠す方向で一枚噛んでくれているようである。
いい人……じゃなかった、いい蛇だなぁマーダーさん。
「……貴方を今開発者レイヤーに待避させて、よしんば譲り受けたデバイスツールでこの木のバグを押さえたとする。しかしその場合、デバイスツールは誰にでも触れられるモノとなり、下手をすれば魔王八逆星に奪われる可能性が出てくる。対し、貴方をこのまま置いておけば無条件にこの木のバグを押さえられる。そして大陸座を滅ぼす事ができない魔王は貴方に手を出せない。そういう事ですね」
アベルでも分かる明快な説明をありがとうございますレッドさん。
「ちょっと待ちなさいよ」
しかしアベル、額を抑えて待ったコール。貴様、今の説明でも分からない事があるというのか?
「つまり、デバイスツールでも赤旗は除去出来ない事確定で話していない?そう云う事なの?」
…………。
俺は無言でレッドを伺ってしまった。
確かにそういう事になるが。それは今こいつにバレてもいい話か?
俺が無言でそのように訊ねているのだが、レッドは無言でナッツと目配せをしている。貴様ら、無言で話すのは止せ。
「ナーイアスト、ジーンウイント、オレイアデント。すでに三つのデバイスツールを所持するにもかかわらず……ヤトの状況を改善出来なかったのだからつまり、そう言う結論になるでしょう。結局最終的に何がヤトの赤旗を除去したのか分からないのです」
「方法が分からないだけじゃなかったの?」
「……方法については今現在も魔導都市で委託・考察中です」
「じゃぁ確定で話す必要はないじゃない。方法が分かったら戻ってきて、赤旗を治せばいい。それまでマーダーさんはここに置いておけばいい訳でしょう?」
「永続的にこの木を残すのであれば、魔王八逆星の問題を全面的に片づける事がまず第一、かと」
「木に執着しているのが魔王連中に知れたら、逆に利用されちまいやしねぇかな?」
テリーが頭の後ろで手を組んで低く言った。
今の、アベルに『俺の事情』を隠す現状突っ込むべき正論だ。案外テリーの奴、アベルに黙っているの反対なのかもしれん。それで無駄な事言いやがったのか?
何はともあれ、レッドが黙ってしまったぞ。どういう事だ?
アベルを騙す為の詭弁だけじゃなく、軍師連中、もしかしてまた何か黙っている事があるのか?
「……今、問題なのは末端を片づける事じゃないと思うよ。根元を断たなければ末端には着手出来ない状況だ」
流れた沈黙を破ったのはナッツだ。
「つまり、ヤトは末端問題だったって事ね?」
やや挑発的にアベルが言った。
うん、まぁ……末端問題だと俺も思うんだけどな。とりあえず、解消はしているんだからいいじゃないか。
最も……この木が死んだら俺も死ぬんだがな。俺が今陥っている状況とはすなわち、そういう事だろう。
アベルにはまだ、言えない……『俺の事情』。
それに口を閉ざして、上手い事レッドが説明してくれているはずなのだが。
さしものナッツも困っているので、俺は顔を上げた。
「俺の問題なんて魔王連中を倒す事に比べたら些細だろ」
「……本気で言ってるの?」
「本気だ、俺はイタい勇者驀進中。不本意だけどな」
睨まれた。いつものパターンだと……殴られるんだが。
拳を固めたアベルは地面を向いて黙りになってしまった。流石の奴も状況が分かっていない訳ではないようだ。多少は賢くなりやがったようである。
「……正直に言えば僕だってどうにかしたいよ」
ナッツが小さく呟いた言葉に俺は面倒ぶってに手を振る。
「まぁいい、続けろレッド」
「はい……、ですから……」
お前まで何言いにくそうな顔になってんだよ。
いつものブラックな微笑みはどうした。
「まず、大陸座を待避させて赤旗の根本を断つ事が最重要である、という事を現実での会議で、方向性として決めたはずです。その間に恐らく、ヤトの件を含めて多くの不条理な処理を成さねば為らなくなる事は皆さん承知していたはず。今は赤旗を元に戻す手段を考えている場合ではなく、根本を断ち切る事を最優先にしなければいけない」
ああ、そっか。
悪い、気が付くの遅くて。
それだとやっぱり、この木は今すぐ燃やさなきゃいけないって事か。
だってそれで片がついちまう。
俺の命がこの木に直結しているという事情を隠している現段階では……つまりそれが『最良』だ。
だからお前、言いにくそうな顔したんだな。
「赤旗バグがそれ程にやっかいなものだとは……僕は考えもしなかった。僕が押さえておけばいい、くらいにしか考えていなかった……そうか。なら仕方がない、僕も開発者人格だ」
マーダーさんに、なんか覚悟をさせてしまったらしい。俺は慌ててヘビを覗き込む。
「いや、何とかするから、別の燃やしたりしねぇってば」
「君が燃やすって言い出したんじゃないか」
「だから、俺は冗談だって言っただろう?何っていうか、森生まれの所為かな?割と親近感は沸くっていうか……」
「同類を哀れむ感覚なのね」
アインさん、それ全くフォローになってない、慰めてないんだから!
というかまだアインさんには本当の事情を話してないんだが……察しているんだろうか?彼女の勘は恐ろしく鋭いからな。しかし、正直アベルと同じくでアインにも本当の事は言いたくない。
本当は、全員に。
誰にも知られたくなかったくらいだ。
俺は努めて明るく振る舞い、両手を広げてみせる。
自分では重いとは思っていない事、連中にとってだけ重要な事実を隠したままに。
「……いいじゃん、利用される『かもしれない』なんだろ?なら、魔王八逆星から罠張られたらその時はおとなしく燃やす。それが無いようならばそれまで放置で。デバイスツールが他に渡るよりはマシだろ?」
そのように言えるのは今、俺だけだ。分かっている。
テリーさん、結局ここが肝になるって分かっててこの話を振ったのだな。そのあたりからアベルに勘ぐられる可能性をある程度除去してくれたわけだ。
と同時に、俺に肝を据えろと言ったのだと理解する。
都合が悪くなって赤旗感染しているドリュアートの木を燃やす時、その時は俺も死ぬ。
俺に与えられている『不死』とは、そういう実に危険なものであると云う事に今更気が付く。
奴ら、すなわち魔王八逆星の都合の良い事など何一つ無い。
俺は、見事に奴らから命を握り込まれているようなものじゃねぇか。
しかも、偶然の結果じゃねぇ。
ナドゥの口調からするとこれは、奴が仕組んだ必然だ。
だが例えその様に仕組まれていても……それでも俺らは前に進むしかないんである。
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子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
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断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
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