異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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9章  隔たる轍    『世界の成り立つ理』

書の3前半 玉座にて『正しき轍に戻す手立て』

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■書の3前半■ 玉座にて After the throne

 その後、俺の意識があんまり無かった頃の状況について、マーダーさんから聞く事になった。
 俺はこの木に埋まっていて半分、夢現で……。ただでさえ状況説明ヘタだし。何処から何処までが現実だったのかもちょっと、アヤシイ。

 しかし……さっきから、レッドとナッツがちらちらとこちらに目配せするんだが……何?なんなの?

「あー、そういやランドールの奴らはどうだった?」
「こちらには来ていないないようですね、そもそも彼らは蜘蛛を追いかけている訳ですし……」
 テリーのやや突飛な振りに、レッドが応答……ん?何?
「蜘蛛……か……君達は蜘蛛?を追いかけているのかい?」
 なんとなくマーダーさんのセリフもどこかよそよそしく聞こえるぞ。何だこの流れ?
「方角的にはこちらに向かっている筈なんですよね……僕らは、その、蜘蛛の先回りをするつもりでドリュアートに来たんですから」
 ああ、そう言う事らしいよな。
 ……何か重要な事を俺、忘れているような気もするが……軍師連中のどこかそわそわした雰囲気に俺、そこまで気が回らない。
「本当にここが目的地なのかしら?」
 アベルの疑問に、それは分かりませんとレッドが答える。
 ……もしかして。
「しかし、ランドールがここに来たらちょっと、ややこしい事にならねぇかな?」
「大陸座を無視して蜘蛛を追いかけてくれればいいのですがね。蜘蛛も……まだこちらには来ていないのでしょうか?」
 マツナギが座り込んでいた所立ち上がった。
「じゃぁ、もう一度見回ってくるよ、」
 あー、ようやく俺も把握してきました。
「そっか、じゃぁ……俺もちょっと辺りを見てこようかな」
「はぁ?あんた偵察向きじゃないでしょ?」
 アベルが怪訝な顔を俺に向ける。
「そうだけど、ずっとここにいたから体が鈍ってる感じがするし……ちょっと散歩してきたい気分?どーせここにいても話には加われないし?」
 レッド、ナッツ、これでいいんだな?
 こっそり目での会話に参加する俺だ。
「ちょっと、そこら辺歩いてくるわ」
 そう言って立ち上がった俺に、やっぱりアベルも立ち上がった。
「なら、あたしも行く。見回りならアンタよか役に立つわよ」
「方向音痴だけどな」
「うっさい」
 軽く殴られながら、俺は後ろ手を軽く振って……その場を離れる事にするぜ。
 デカく育ってしまったドリュアートの木を降りて、辺りの様子を見てくる事にしよう。
 アベルの奴を引き連れて、な。

 多分、軍師連中はアベルが居て、話しを辛かったのだろう。

 アベルはバカだが、ヘタな事を喋ると俺がどういう状況にあるのかバレてしまう、かもしれない。
 というか……よく考えたら俺はナドゥから在る程度説明されているから自分の状況分かっているけど、他はまだよく分かっていないんだよな。
 どうにも、死なないように木に縛り付けられた。
 それはどういう事だとマーダーさんに詳細を聞きたいのだろうが、アベルが居る手前なかなかその話が出来ない訳で。

 アベルを連れ出してやればいいだろう。
 その間にマーダーさんが詳しく説明してくれるはずだ。マーダーさん、俺とナドゥのやり取りを一部始終見ていたんだそうだ。手が出せない分、何が起こっているのかじっと様子をうかがっていたらしい。その詳細については俺じゃなくて、軍師連中が把握して置いた方がいいだろう。
 アベルに詳しく話す必要は無い。俺並みに知能底辺であるアベルに難しい話を話すのは無駄だ。ああ、無駄だとも。

 しっかし、この木はへんてこだなぁ……。

 ぶっとい幹に、偉く細い枝。今さっき俺らがいた場所は木の股部分なんだが……細い枝が編み込むようにして太い幹を構成している。
 まぁ、細いっていっても元の木が巨大だから相当に太い枝だけどな。対比すると少々アベコベである。
 葉っぱも変だ。少し肉厚で、細かい毛が生えている……。
 こんな植物見た事無いな、少なくともこの辺りの森では見覚えがない。
 太い幹から何本も突きだしている枝を伝って降りる俺に対し、軽く跳躍してついてくるアベル。いいですねぇ、有能種は身軽で。
「どうしてこんな所にいたの?」
「ん?」
 俺はあと数メートルで地面らしい白い部分を確認した所だ。惚けてから、地面に向けて跳躍する。
 記憶違いじゃないな、なんかこの地面も変。
 ふかふかしていておかげで、着地にちょっと失敗して腰をついてしまった。でも痛くない。クッションみたいになってくれてる。
「良くわかんねぇ、気が付いたらここにいたし」
「ふぅん、そう」
「うわ、なんだこの地面……繊維か?」
 スポンジみたいな構造の床を腕で押し込みながら俺は話題を別に向けようとしたのだが……。
 アベルは飛び降りてくると、尻餅ついている俺に手を差し伸べながら別の事を聞いてくる。
「赤旗、本当に取れたのよね?」
「あ?ああ。俺は自分の事情は見えないからよく分からんけどな。血ぃ抜いてみれば分かるんじゃね?レッドの話だとそれで分かるはずだぜ。俺、ホストだったみたいだし」
 今だ赤旗なら、抜き取った血にも赤い旗が灯るはずだ。それはホストに限った仕様である。
「……よかった」
「ん、ああ」
 差し出された手に素直に捕まって、俺は立ち上がる。
「元に戻らないんじゃないかって結構、心配してるのにさ。あんたはそんなのどーでもいい見たいな顔するじゃない。すっごいそれがむかついててさぁ」
「何でだよ、じゃぁ聞くが。お前が俺の立場だったらどうなんだ?」
「決まってるじゃない」
 アベルはそっぽを向いて、強い言葉で返す。
「凄い不安で、落ち込んで……立ち止まって動けなくなってると……そう、思うわ」
「……そーかぁ?」
 俺は殴られるの覚悟で笑って返したのだが……むぅ、反応がありません。
 アベルは顔を反らし、遥か遠くに視線を投げながら呟く。
「怖くって……一人じゃ生きていけないよ」
 
 上手い事返す言葉が見つからず、仕方が無く俺は無言で歩き出す。
 木の周辺はずっと、このふかふかした白い繊維質のものが敷き詰められているな。しかし暫く歩くと、沼地に出た。
 不思議と草木があまり生えていない。しかし、景色が遠くなるにつれて植物が生え、木の育った浮島みたいなものが見える。
 とりあえず、ぐるっと廻って歩けそうなトコ歩いて、時間を潰すか……。
「分かった」
 ふいと後ろを突いてくるアベルが呟いた言葉に、俺は過剰に反応してしまった。
「何が、分かった、だ?」
 俯いたまま、俺の後ろの数メートル後ろをついて来ていたアベルは……俺の耳に届くギリギリの小さな言葉を漏らす。
「あたし、やっぱりあんたの側がいいんだ」
「………」
 俺は足を止め、小さく呟くアベルの言葉が何か、聞き間違えかと思って数歩戻る。
「こっちに来ても同じ気持ちだなんて嫌になるわ。でもさ、それ一生懸命否定してもしょうがないじゃない。ここではあたしはあたしじゃなくて、アベルなんだし」
 ……なんだそれは?
「でもそれなら、あんたもきっと同じなのかなと思うと……」
 逸らしていた顔を上げた、アベルは笑いながら……泣いているじゃぁないか。
「すっごいやってらんない。最悪な気分になるのよ、何それ。あたしってそこまで報われないキャラな訳?とかさ」
 俺はその言葉を聞き、心の中で舌打ちし眉を顰めて嫌な顔をしたいのだが……。
 なんとかその顔は表に出さずに目を細めるに留めました。

 報われないキャラなのは俺だろ?何言ってやがるこの……。

 感情的にそのように思ったのだが、余り見る事が出来ないアベルの弱気な表情に……冷静に目の前の奴の気持ちも考えてみたのだ。
 似たもの同士だというのならどっちが不幸とか、そんなの比べるのはバカな事だよな。
 きっと俺と同じくらいこいつは……不幸なんだろう。
 少なくとも不幸だって感じているんだろう。そしてそれが事実なのだ。

 そうか、お前はまだ……不幸なんだな。

 じゃぁお前にとって幸せって何なんだよ。それを聞き出せたら俺もまぁ、世話無いというか。
「でもさ、お前は……」
 少なくとも俺よりどん詰まりじゃぁねぇ。
 俺はそれを諭そうと口を開いた。所がアベルは俺の言葉なんぞ耳も貸さず突然まくし立ててくる。
「バカみたいに何で、あたしはアンタの事考えなきゃ行けないんだろうって思うんだけど、止められないんだからどうしようもないじゃない。一生懸命他に意識を向けてみるのに、どうしてさ……呆気なく、赤旗が取れちゃうのよ。こっちは諦めようって必死になってるのに、どうしてそう涼しい顔で元に……戻って来ちゃうのよ」
 酷いやアベルさん。
 俺のバグが取れたのをそんなに酷く言わなくったっていいじゃないか。そんなの、お前の勝手だ。勝手すぎる言い分だよ。
 お前の都合なんて知らん、お前が俺をどう思っているかなんてそんなの……俺は知らん。お前の都合で俺の事を言われたって俺は、困るだけだ。
 ならばそうだとはっきり言ってやれって?うん……でもほら、そうするとこの女、暴力で訴えるじゃねぇか。
 俺の、都合の悪い意見など聞きたくない……ッてな。

 非常にまずい状況だな、俺が危惧した通りの状況だ。
 そしてこの状況は憎たらしい事に、もう持ち込まないと約束した……俺の、リアル俺の、サトウハヤトの状況と同じだったりするのである。
 もう持ち込まないと約束したから、リアルでの出来事なんか俺は言わない。でも、今目の前で起こっている事を説明するとリアルの事情もバレてしまう。そういう状況にあるな……さて。
 俺は深いため息をつい少し額を押さえた。

 いや、今更何をって感じですけれど。

 ますます本当の事を言えない状態に陥っているな、これ。
 実際、赤旗は取れたが俺は……元の状態に戻ったとは言い難いのだ。それを言ってしまったらアベルはどんな顔をするだろう。
 俺はどれくらい大怪我をすれば済むだろう?

 アベルは手の甲で必死に涙を拭って俯いている。
 昔のあいつは、そんな簡単に人に涙を見せるような奴じゃなかったけどなぁ。なぁんて事を俺はリコレクトしている。
 でも、一度泣き顔を見せてしまってそれで、多分。それで、ちょっとだけ彼女は弱くなったんだ。

 俺は仕方が無く彼女の所まで戻って……しゃくりあげるアベルを支えてやる。
 そうやっておいて顔を見られていない事を良い事にげんなりしてみたり。

 そもそも、だ。

 俺は赤旗感染していようが、すでに死んでいようが、生物逸脱していようがそんなん関係無く……残念ながらこいつを支えてやる権利は無いんである。
 『俺』には無い。
 その権利があったのは『奴』だ。『俺』じゃない。
 こいつをここまで弱くしちまったのも『奴』だ。『俺』じゃないッ!

 そして、アベルもそれは知っているはずで、間違いなくアベルが追いかけているのは『俺』じゃぁなくて『奴』なのだ。

 魔導都市で別れ損ねたのが……悪かったんだろうなぁ。
 勿論、現状別れ損ねてこうやって一緒に行動するのが『運命』だった訳だけどさ。

「そうだな、お前と俺が『こっち』でも、似たような関係になっているってのは認める」
「あたしにとってはこれが経験値の多さに伴う重さ、なのかな」
「さぁな、人それぞれだろ。どの『思い』が『重い』のかなんて」
 ぶっちゃけ俺、別にそれ重くもなんともねぇしな。
「やっぱり」
 そんな俺の心の様子が顔に出ていたのか。
 ぎちりと、俺の肩にしがみつくアベルの手が怪力でっ!テテテ!イテェから爪立てるなッ!鎧脱いで木の上に放置してきた俺は軽装なんだよ!
 ふっとその手を緩めてからアベルは顔を埋めたまま呟いた。
「アベルの事なんか別に、あんたにとっては重くも痒くも無いんだ?」
「そりゃそうだろう、当たり前だ」
 俺とアベルの関係性なんて薄い。
 重いとするなら『奴』とアベルの関係性の方だ。何度も言わせるな、『俺』じゃぁない。
 それはアベルも知っているはずで……というか、いい加減理解して貰わないと困る。
 何の話をしているのかって?ううむ……話し辛い事だな。

 そうだな……俺は、何度も死んだり生き返ったりしているだろう?この冒険の書が始まってからもそうだけど、実際問題その前からも割とそうだったと言えるのだ。
 俺は、何度も詭弁的に『死んだ』事になっては『生き返って』いる。
 そういう背景を背負っているキャラクターなんである。だからその、つまりだな……一度死んだと云う事にして、切り捨てた過去があるのだ。
 一杯ある。
 死んだ事にして、笑い話とかにして、決別するようにキャラクター手放して来た。今それらは俺ではないとして、過去として完全に捨て去ったんだ。
 そいつらは、生きている事になってはいけない奴だったりもする。

 だから、俺はその『奴』の事は一切、説明は出来ないものとご了承頂きたい。

 本来なら暴露しても良いと思う、し辛い事だが全部のイタい過去も開示されている今は……『奴』の事も説明出来なくもない。だがしかし……アベルが目の前にいる以上それは言えない。
 そういう約束なんだ。
 約束だから俺は、戦士ヤトは言えない。約束破ってまで説明は出来ない。

「そう言う所ばっかり律儀に……しなくてもいいのに」
 馬鹿野郎。
 俺は目を閉じて怒りを抑える、そもそもそんな義理を通しているのは誰の所為だと思っていやがる。
「義理を崩したら俺は、俺としてやってけねぇんだよ。それが、俺の『重さ』みたいなもんだ」
「温度差が同じなんだもの」
「……温度差?」
「ああ、いいわよ。あんたってどうせそういう鈍感キャラよね」
 人の事言えるか貴様は。
「……それでも、あたしはヤトの側がいい」

 ああ、もう、だから。
 それじゃぁ俺が困るのだってば……。

 困るのだが、気持ちとは裏腹に俺はアベルの背中に手を回してしまうんだけどな。いけねぇな、こうやって優しくするからいけないのだ俺。

 俺は割と必死にこの女と距離を取ろうとしている。

 分かるか?この人知れない努力!アインさんとかに執着するのだってぶっちゃけてそれが原因だと言っても過言じゃねぇぞ!?

 俺は、アベルから離れるのに必死である。

 ………。
 一瞬リアルの方の事を混ぜそうになったが……もうそれはしないと約束したからやらない!しないんだから!

 何?実際の所俺の気持ち?
 阿呆、そんなのはどーでもいいんだよ。俺はいつでも自分の問題は棚上げしてきた。そーいうキャラだってのまだ分からんのか?
 俺の事なんかどうでもいいのだ。
 だから、実際俺が誰に一番気を使っているかの度合いで、俺の感情なんぞ推し量る必要は全くない!
 分かるか、だから俺の人生は最悪なのだ。
 分かるかッ!だから俺の人生には全く持って幸せ分が無いのだッ!

 血の涙が出そうだ……。

 たまには喚いたっていいだろう?
 死にたいが死ねない、義務的に茨の道を生きているこの俺の気持ちが貴様らに容易く分かってたまるか……!ってな。
 じゃぁ、そんな俺が幸せになるのにはどうすればいいか?
 だから、俺の事なんてどうだっていいんだって。でもまぁそれでも幸せになってとお願いされるというのなら……。
 そう……だな。

 俺は、沼のほとりで並んで体育座りで黙り込んでいる、隣のアベルをこっそり伺う。

 こいつが俺以外の誰かと幸せになってくれるなら、それが一番幸せなのかもな。

 ……これくらいは言っても良いだろう。
 だから、俺はこのお嬢様と一緒に魔導都市ランに行くハメになった。そしてそこで全部決着が付いて、お別れが出来るはずだったんだ。アベルは思い人と邂逅し、めでたしめでたしってな!
 結局それが出来なくて今に至るけど。
 しかしそんな事アベルに言ったら多分、殴られるしなぁ。でも……本当の事もまだ……やっぱり言えないし。

 可能性がある内は、こいつが誰かと幸せになるのを見守っていたいというのが俺の……生きている理由だ。
 これでいいか?これで皆様満足ですか?
 では皆さん教えてください。
 どーやったらこの怪力娘から俺は、嫌われる事が出来るでしょうかッ!?

 おかしい、俺は必死に嫌われる様な事をしてきたはずなのだが!どうして今も執着されているのだろう?これは……本気でレッドあたりに人から嫌われる方法とかご教授してもらわないといけないかもしれないなぁ……。

 目の前の沼をぼんやり見ながら、こっそりため息を漏らして俺は思った。
 やり方が、ぬるかったのだろうな。
 いまさらだがそのように俺は悟ったと思いねぇ。
 殴られないように、なんて温かったのだ。
 本気で嫌われたいのなら、時に彼女を傷つけるような事もやんなきゃいけない。その見返りに俺も殴られる訳だろう?
 そりゃ、仕方がない事じゃないか。

「あのさ、」
 俺の問いかけに、黙ってうずくまっていたアベルが少しだけ顔を上げる。
「……ぶっちゃけて俺はアインが好きな訳」


 それで殴られて吹っ飛ばされる、俺って……不幸だよなぁ。


「ぐばッ!」
 泥の水面になんとか俺は這い出て必死にもがく。
 ちょ、シャレにならん!沼、ここ沼!足掻いても足掻いても……沈みますから!!
「わぁ、何やっているんだいヤト!」
 多分、どっかで様子をデバカメしていたらしいマツナギが岸に走ってきてロープを取り出している。いやでも、それを非難はしまい!それよりも……
「マツナギ!早く、もがッ……助けて!し ず む ゥ ッ!」

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