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10章 破滅か支配か 『選択肢。俺か、俺以外』
書の1後半 お膳立て『南国だよ!全員集合!』
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■書の1後半■ お膳立て Set the stage for the my dear piece
情報屋のミンは何やら書類を抱えてやってきた。
「ん?そこにいるのは……確か白魔の」
「リオよ、久しぶりねミンジャン。いつもお世話になっているわ」
リオさんと握手を交わしながらミンは俺を伺った。
「こいつは確か、ランドールん所にいたと思ったが。引き抜いたのか?」
「いや、そうじゃなくて……今俺達……奴らと一緒に行動してんだ」
「お?いつの間にそういう事になったんだ?そうかそうか、まぁ目的が同じってんなら悪い事じゃねぇ。こっちも説明する手間が省けて良いってもんだ」
タトラメルツに在ると言われた魔王本拠地。
そこに乗り込んでいってそれから……俺達は暴走したり、バラバラになったり仲違いになっちゃったり。色々あって世界情勢に目を配る所じゃなかったよな。
その後はレッドに巣くった赤旗ついてるアーティフィカルゴーストとやらをやっつける為にも、デバイスツールが必要ってんで急遽、大陸座を目指す事になった。それから俺の頭上にもあった赤い旗をどうすれば除去出来るかって事を探して、シーミリオン国のユーステル達にお世話になりながらシェイディ国に向かい、その後転移門潜って魔導都市ランに足を延ばして。
レッドの状況は改善したものの、俺は……悪くなるばっかりだよな。
赤旗が除去出来ないばかりかどうにも魔物化も引き起こしている、とか言われるし。そもそも赤旗は……はぁ、ため息しか出ない。魔物化進めたって俺の運命はもはや変らないんだもんなぁ。
暗黒比混種、ダークミクストと呼ばれる魔物化は本来こんなに後天的に引き起こすものじゃないという。生まれた途端不幸な環境に置かれた生物が選ぶべき道だ。
俺は生まれが幸せだとは言えない。両親の記憶がない。幼い頃に自分で自分を売り払ってしまって奴隷の身分に転落し、死と隣り合わせの生活を余儀なくされた。
不幸と言えば不幸だ。不幸だと知っていたけど理解した所で生活が改善する訳じゃないのでかなり、前向きに開き直って今まで生きてきた訳だけど。
その自分の人生とちゃんと向き合ってみたら状況は、好転するかもしれないよって言われたんだよな。
少なくとも魔物化は止められるかも知れないと言われた。
でも結局問題なのは魔物化じゃねぇ、怪物化を引き起こす赤い旗、バグだ。
しかしその時はまだ赤旗が引き起こしている事がよく分かっていなかった。
見当違いのような気もするが、大陸座ドリュアートを目指す道中通るってんで俺は、久方ぶりに故郷の田舎町シエンタに行ってみたり。その途中、昔お世話になった先生に会ったり。
色々あったな。
色々あって、俺は再びとっつかまって……なんだかまたよく訳の分からない状況に陥っている。
いや、別に分からなくはないか。答えが出たから理由やら方法論は置いといて、俺の未来はすでにはっきりと定まった。
……定まったんだよ。
「タトラメルツの半壊は魔王八逆星破壊魔王、ギルの仕業って事になってるが……」
ちょっと遠慮がちにミンは俺を伺った。
ミンは分かってんだろうな。タイミング的に俺らがタトラメルツに向かったその後に半壊が起ったって事実を。俺は目を閉じ、結局なかなか言い返せなかった心中のわだかまりを吐き出す。
「俺の所為だ」
そんな俺の顔を見て、レッドは怪訝な顔をする。
「貴方一人の所為ではないでしょう。……何時からそんな風に自分を責めているのです?」
確かに最初の頃は俺一人の所為じゃない、うぬぼれんな俺、とか思って自分を立て直した訳だが、実際問題未だにタトラメルツの出来事を上手い事、心の中で片づけられない俺は……今も、そういう風に自分を責め続けてしまっているという事なのだろうな。
そうする事で俺の気持ちは……なぜか、多少は落ち着くんだよ。
「違う。何と言おうとあれは、俺の所為なんだ」
「……ヤト」
「お前の所為ってどういう事だ?報告を聞くに町が破壊されたなんてレベルじゃならしいぞ。町が半分近く砂となって崩れたって……」
さて、どうやって赤旗とかバグとか口に出さずに騙眩かすか。少し迷ってから俺は口を開けた。
「……俺、ダークミクスト種に片足突っ込んでるんだってさ。魔導都市に寄った時そう言われた。俺はあれだけの破壊を引き起こすだけの要因を、持ってる」
勿論事実としてはそうじゃないぞ。
ただ、赤旗が引き起こす魔王化という状況を上手い事説明できないから俺は、詭弁的に暗黒比混種を持って来ただけだ。しかも完全な嘘じゃねぇしな。半分くらいは事実である。
「あれは貴方が?……どうしてギルの仕業ではないとそこまで断言するの?それに、」
そうですね。そんな事実、黙ってりゃ良い事だ。俺の所為だって吐露したって墓穴以上の何ものでもない。
けど俺は、黙りしているにもう耐えられないのだ。
心の奥で黒く重くのし掛かるこの気持ちが悪いものを、吐き出したくて仕方がない。
指差されて貴様の所為だと罵らていい。どこまでドMだとか言うな。罵られずに自分の所為だと自分で自分に鞭振るっていた方がぶっちゃけて痛ぇんだよ!いろんな意味で!
「……もちろん、奴も多少は関与していると言える。俺は、いや……俺と奴が戦ったらああなったってのが……正しいのか?」
その辺り俺はいまだに上手くリコレクト出来ない。レッドを伺うと、無言で肯定した。
「なら、全て貴方の所為だと背負う必要は無いわ」
リオさんからそう慰められたが俺は、そんな言葉を望んでいた訳じゃない。目を逸らして頭を下げた。
「……そもそもランドールがあなた達に『魔王本拠地を偵察に行ってこい』と言ったのが発端じゃない」
「それは問題ない。俺達は奴から言われなくたって最初からそのつもりだった」
「……そうなの?」
レッドは再び無言で頷いたのだろう。リオさんのため息が聞こえる。
「タトラメルツの件は……残念だったわ。でも貴方の、あなた達の行いは全て悪い訳じゃないのよ?」
「そうだ、何はともあれお前は、魔王八逆星の本拠地を滅ぼした事実に変りはない」
「だからって……」
「フェリアでランドール・ブレイブが行った大戦と、タトラメルツ半壊および魔王本拠地崩壊の後、西方ファマメントにおける魔王軍の動きは目に見えて衰退した。間違いないぞ、近年ファマメントはほぼ勝利宣言を囁いていたくらいだ」
「……魔王軍の被害が無くなった?」
俺はようやく顔を上げる。
「そうだ、ここしばらく静かなもんだよ。シーミリオン国も魔王連中から解放されて鎖国を解いた情報は?」
「それは知っています」
「あれだって裏では魔王八逆星の支配があったからだぜ。多く把握している事情じゃないが、エイオールでは詳細について女王から伺っている」
ああ、何でか知らんが駐在していたギルがシーミリオンから撤退したらしいよな。政治腐敗を引き起こしていた部分をまっさらにした上で、女王に国を返還したようなものだという。
その辺りの詳細は俺らもユーステルらから直接聞いている。
その後、鎖国を解いて外交を再開した件は魔導都市で情報得ているしな。
「南国だってお前らの活躍で偽王がやっつけられた。あれも魔王八逆星の息掛かってただろ?お前らは着実に世界から魔王八逆星を排除しつつあるじゃないか」
俺は、再び伏せた顔で目を細めていた。
そうだろうか?俺にはどうにもそのようには思えない。
だって、結局魔王八逆星という根本になっている奴らを殆ど仕留めていないではないか。今ようやく一人、魔王八逆星から引き抜きに成功しただけだぞ。
……ちなみに引き抜かれた元魔王八逆星、アービスは顔こそ割れていないものの……北魔槍団長とかいう比較的公な肩書きを持っているのは事実なので、今は不用意に人と会わないように部屋に閉じこもっている。
鎧を脱いだら脱いだで問題なのだ。魔王八逆星が全身に纏っている不気味な紋様によく似たものが体の左側に出ていて大変、目立つ。魔王八逆星の中にはその姿を隠したりできる奴もいるってのに、アービスにはそういう芸当は無理なんだそうだ。化粧で誤魔化そうか?とかマツナギから提案されたが、そこまでして表に居る必要は無いって、アービスは大人しく部屋に閉じこもっている。
とにかく、元魔王だと知れたらやっかいには違いない。ミストラーデ国王の御前に出た事で、奴の素性が表沙汰にならなくて良かった。奴がマースと同じ、重鎧装備で助かっている。
俺達は魔王八逆星を確実に、倒していると云えるだろうか?
しかも……引き抜いた側から新しい魔王候補生が生まれてしまったじゃねぇか。
ランドール・アースド。奴は今どこにいるのだろう。そして一体何をたくらんで……そもそも何かたくらむような頭脳が奴にあるのかどうか知らんが……。とにかく、行方はとても気になる所だ。
そんな俺の態度に、ミンジャンはため息を漏らして腕を組んだ。
「何か?すでに情報は得ているのか?」
「何のですか?」
「……と、お前が聞くって事はまだか。そうか……実はな」
レッドの様子を見て深く頷き、ミンジャンは深刻そうな言葉で声を潜める。俺は顔を上げていた。
「最近大人しいからほぼ勝利宣言を囁いていたファマメントなんだが。結局、勝利宣言は出せなかったようだな」
「……また魔王軍が出現し始めたのですか?」
「ああ、その通り。トライアン地方に魔王軍らしい集団が現れたらしいぞ……ソイツで、町が一つ壊滅したらしい。ただ、正確な情報を政府が出したがらない。トライアンに駐在していた軍隊で情報を隠蔽しているっぽいな」
俺は眉を顰める。
「なんで隠すんだよ?」
「さぁな、色々憶測はつけられるが……相当にヤバに集団だってのは事実だろう。トライアンは三国境界にある都合上、常に多くの軍隊が駐屯している地域だ。そういう場所で奴らの横暴を許したって事だろう?よっぽど闇討ちされたか、よっぽど手に負えなかったかのどちらかだろう。そういう情報は隣り合う他国の手前、容易く流せなねぇんだと思うぜ」
「……成る程」
「問題はトライアンだけじゃねぇんだよ……見てくれ」
ミンジャンは持ってきた紙を広げる。
「国王には悪いが先に情報、仕入れさせて貰ったぜ」
広げられた地図は南国東北部、三国隣接のバセリオンとフェイアーンの詳細地図であちこちに×印がついている。一見ばらけているように見えるが……。×印に日付が振られているのがいくつかあるな。
「……これは、何の印でしょうか」
「目撃情報、および……被害状況だ。怪しい軍隊が森沿いに歩いている、という目撃情報が幾つか南国北東部で報告されている事は、すでにミストラーデ国王の耳にも入っているだろう。略奪にあった集落もあるらしい。その情報ちょろっと横流ししてもらってだな、ちょいとまとめてみた」
おバカな俺でも分かる。
謎の軍隊とやら、どうやら日に日に南国カルケードの中央に移動しているじゃねぇか!
「ミン、この集団はその後、どこに?……てか、今日何日だ?」
最もファルザットに近い×印には日付が記されている。ところが俺達ずっと森歩きだったから日付感覚狂ってるんだよな。つまり……今、何月何日なのかさっぱり分からん。
レッドが厳しい顔をしている。
「すでに一週間前にティラパティスを渡り、マイリーを抜けているのです。もう、処に潜伏されていてもおかしくはないでしょう。……この事を国は?」
「承知してるだろ、俺の所にあんまり情報が入ってこないんだが……余り騒ぎ立てないように警戒しているようだな。秘密裏に居場所を探る斥候部隊も行き来しているらしい」
ミンジャンは深く頷いて腕を組んだ。
「この情報入手してからしばらく船は休ませている。全員で情報を洗ってる最中だ。そしたら、どうにもお前らが戻ってきたらしい事ミスト王が俺らに教えてくれてよ。飛んできたって訳よ」
「そんで、守備は?」
ミンはため息を漏らした。
「さっぱりだ、この謎の軍隊、ファルザット方面に来ていないのかもしれない。山沿い川沿いの地域まで探査を伸ばしているが……この日以来すっかり目撃談が途絶えてな」
一番最後の目撃情報の記されたバツ印を、ミンジャンは軽く指で叩いている。
その後、夜通し詳しい情報交換が行われたようだ。俺は途中で付いていけなくなって戦線離脱。
展開は幾つかスキップして……次の日朝からナッツから買い物の荷物持ちを頼まれファルザットに向かって歩いていた。
ぶっちゃけ、あんまりまったり休息している場合ではなさそうだ。長旅で様々な物資は底を突いている。
マツナギ達も居ないと思ったら日常品の調達に出ていたらしい。
俺はナッツの付き添いな訳だから薬品類の調達であるが……。隣を歩く有翼族の顔色の悪さを覗き込む。
「お前、ちゃんと寝てるのか?」
「……大丈夫、僕はこう云う時しか役に立たないんだから」
大丈夫という割りに、ナッツの顔に生気は無い。目の下に隈っぽいものも伺える。
「ワイズは……まだ意識不明か」
一命は取り留めたらしいが、意識が戻らないという。このまま寝たきりなら衰弱死もありうるという状況で、安定しているとはいえ予断を許さない状況らしい。
「彼には何とか、目を覚まして貰わないと」
「やっぱり心配か。天使教の馴染みってトコか?」
「ま、古い腐れ縁だからね。お互い腹の裏側まで分かってる者同士……心配と言えば心配だよ。彼が居なくなったら……そうだね。ちょっと心細いかもしれない」
ナッツは苦笑して頭を掻いた。不本意ながら、みたいな言い方をするなぁお前。
「ランドールの事情。ワイズじゃないと分からない事なのかよ。お前はさ……例によって。知ってるんじゃないのか」
「いや、知らないよ。残念ながらあれは僕の管轄じゃなくってね。本来天使教が首突っ込む問題じゃぁないんだよ。ファマメント政府と天使教は仲良さそうに見えて……実際どっちも狸だから。強引にワイズが首を突っ込んで事情を探りに行ったんだ。本来なら天使教も見て見ぬ振りをする所、なんだけど」
「テリーは事情、話しそうにないのか」
「……みたいだね。僕とレッドで打診してみたけど今は話す事なんか何もないの一点張で取付く島もなかったよ。しつこく迫ったら、これ以上追求するなら俺はパーティー抜けるぞ、ってまで言われちゃった」
完全に話すつもりは無いって事だろう、とナッツは肩をすくめる。
「奴がそこまで言うか」
「……そこまで言わせる程、彼には重い過去になるんだろうね。本当はランドールの件に首突っ込むのだって嫌みたいだよ。でも……お前もそうだしみんな、自分の重い過去を少しずつバラしあって向き直っているだろう?そういうのを見ていて、自分はこのまま逃げてていいのかって、迷ってはいるようだ」
ふぅん、そうなんだ。
俺はどうにもそういう事情、テリーから聞き出した試しがないもんな。あのお兄さんは……こっちでは、一応俺より二つほど年上なんだアイツ。あいつは人の事根掘り葉掘り聞くくせに、自分の事は一切喋らない。あと、割と人の話を引き出すのが上手いタイプだろう、気が付いたらしゃべっちゃってたな、的な事も今までいくつか思い当たる。聞き上手って奴だな。
「……テリーは、今は話せないと言っていた。自分で何とか決着を付けるから今は、何も聞くなって言っていたよ」
「面倒くせぇ奴。スカっと話しちまった方がスッキリするのにな」
「お前はそれでスッキリするのかもしれないけど、人に知られるのがとっても苦痛で耐えられないって人も居るんだから」
俺は、人にエグい過去を知られる事が苦痛じゃないとでも言いたげだな。いや、そういう苦痛は甘んじて受け入れられるドMだろう、と言っているんでしょうか?事実、その通りではありますが。
ファルザットの市を通り抜ける。
様々な物を売っているこの世界最大のスークは、通りごとに商売する品が決まっているそうだ。食材や生薬、香辛料は一番奥の端にある区画なのでショートカットと称して飲屋街の半地下街を通る事に。昼間なら人通りも少ないだろうしな。
ところが、この何気ない道の選択が、カルケードの底で密かに起っていた事件を見いだす手がかりになるとはな!本当、思っても見なかった。
今回ばかりは単なる偶然である。運命でも必然でもない。
いや?いや。いやいや。うーん?
運命や必然だったら嬉しく無ぇ……だから、違うんだからねッ!と言っておく。
人通りのない散らかった半地下街、数メートル地下に掘り込んだ感じになっている区画を俺達はフツーに歩いていたんだ。別段怪しい足取りはしていない。
酒に酔いつぶれて寝っ転がってる人がいたり、吐瀉物で通路脇に掘られている小さな排水口からすえた匂いがしたりする、まぁ普通は敬遠するようなトコだ。数メートル上からスークでにぎわうざわめきが降ってくるという不思議な通路。水のない水路を思い描いて貰えれば良いだろう。
この通路、結構狭いし複雑な作りだ。方向感覚に絶対の自信を持つナッツの道案内がなかったら俺でも多少、迷子になってただろう。アベルだったら言わずもがな、だ。
ナッツの後を追いかけてフラフラ、狭い通路をあちこち眺めていると……どうにも新しい張り紙が目に付くな、これは人捜しらしい。ここいらで働いている娼婦が行方不明です、みたいなチラシがあっちこっちで見かけられる。
平和な南国とはいえ、事件が起らない訳じゃぁないんだなぁ。そんな事を思いながら歩いていたら……遠い通路の奥からかしましい声が聞こえてくる。
「あ、やっと出口があったよ、あそこの階段から上に昇れる」
「おう、目的の通路は近いのか?」
「多分、すぐ隣くらいだと思うけど……並んでいる商品を見れば……」
と、ナッツが足を止めた。
姦しい声、何かを追いかけているらしい女性達の声が近づいてきて……俺の背後で止まる。
当然俺は何事かと振り返ったが、その瞬間一斉にはたきやら箒やら物干し竿やらを振りかざされていた。俺はびっくりして後ろに飛んだが武器に手は伸ばせなくて、構えた右手が宙を掻く。
「逃げるな!」
そんなん突然向けられたらそりゃ、驚いて逃げるだろ?推し掛けて来たのは……比較的若い女の子達だ。何を言っているのか早口すぎて聞き取れんが、とにかく俺を攻撃してきているらしい事は分かる。
とはいえ、女の子相手にやり返す訳にも行かず、あっという間に狭い通路で壁際に追いやられてしまう俺。
「な、何?」
「ワト!」
「んあ?」
「惚けないで!貴方が昨日指名した女の子!ワトをどこにやったの!」
俺は状況を把握するのに数秒を必要とし、両手を上げて無抵抗を訴えた上で天上を仰いで事態の把握に努める。
ワトさん……?指名した女の子?
顔を前に戻した。出来る限り真面目な顔を装ったつもりだ。
「いや、知らん。そも俺は昨日ファルザットまで降りてない。カルケードには居たけど……」
俺の訴えに嘘はないと見たのか、はたき、箒、物干し竿を担いでいた女の子達は一瞬怪訝な顔になり、額を合わせてごにょごにょと相談をしたようだ。
「……本当に?」
「ああ、僕らは先日カルケード国入りしたばかりだよ。城下町にはいたけど、女の子と遊んでいるヒマは無かったと思うけどね?」
その様に、ちょっと疑いの視線を投げられ俺は慌ててナッツに言い返した。
「あ、遊んでませんよ!何言うんですかナッツさん!」
「他人のそら似じゃないのかい?」
やんわりと諭すナッツに、なおも女の子たちは噛付くように言った。
「同じ顔の人が何人も居るとは思えないわ。だから、同じ顔をしていた貴方に声を掛けたのよ。……本当に、ワトの事も知らないし、ファルザットにも来ていないの?」
強く再確認される。
同じ顔の人が何人も。居たらそりゃ困るなぁ。
しかし、俺達はナドゥを例にしてそういう事情もアリだという状況を知っている。
俺とナッツは思わず顔を見合わせてしまった。
「……同じ顔をしたよしみだねぇ、ヤト」
「え?何だよ」
「なんだかお困りみたいだから少し、話を聞いてみよう。ほら、言うだろう。世の中には自分と同じ顔をした人が3人は居るって。でもお前の場合、すでに一人とは出会っている」
誰って、アービスだな。色彩は違うがかなり似た顔なのだあのお兄さんと俺は。
「かといって昨日アービスがファルザットに降りた事は考えられない。そうだろう?」
そうですね。俺はともかくアービスはあれは、女遊びを出来るようなお兄さんではありません断言。俺?遊ぶ時は遊びますが何かっ!?
「なんだか奇妙な感じがしないかい?」
俺は項垂れた。
「それはもはや、奇妙所の話じゃねぇよーな気もしますが……」
あー、やだやだ。すごいやだ。
嫌な予感がビンビンしやがるぅッ。
なんか知らないけど、俺の顔と良く似た人がここ数日、飲屋街に出没しているらしいですよ。しかもだな。その後に女性をお持ち帰りしてその女性が、戻ってこないんだそうで!
それ、俺の顔でやらないでくださいよホント!
水商売ってなぁどこの世界でも真っ当な仕事とは言えないらしい。それでも南国にそれが無い訳が無い。カルケード国にだって水商売している人達はいる。では、カルケードにおけるそういう商売の人達が、堂々と日の当る場所で客引きを出来るかというと勿論そうではない。
どうしたって多少、きな臭いというか人権の抵触というか。この手の商売に関してはデリケートな問題になってしまって無法地帯化するものなのだろう。
俺が偶々半地下街を通りかかった為に発覚したこの娼婦行方不明事件。
ナッツと話を聞いて、彼女らを説得しもう少し上の方に働きかけて調べる事になった。
そうして強制的に国で介入して始めて、全貌が明らかになるのだった。
ここ一週間で行方不明になっている水商売の女性は、国で調べた所10人にも上る調査結果があっさり出て来た。実際にはもっとあるだろう、との事。
カルケードの法に触れる商売を展開している所も少なからず在るという事で……そういう場所で起った事件は闇に葬られてしまう事になる。申告しろと強要した所で沈黙される。
実害はもっとあるかも知れない事までも予測した数の記された報告が、事件のあらましに関心を持った国王に報告された所である。
「これは、どういう事だろう?」
ミストラーデ王は厳しい顔で、情報を報告した平原貴族種らしい男に問いかけた。軍隊とは別で国内治安に務める部隊の隊長さん、みたいな人らしい。平原貴族種であるから軒並み美形である。切れ長の瞳の治安部隊長は一礼してきびきびと応答。
「ただいま全力で行方不明となった者達を探っております。また、例の集団の行方が分からくなった後の出来事として符号するようです」
ミストラーデ王はため息をついて額を抑えた。
「実害が出てからでは遅いというのに……」
目を細めて苦しそうに呟いた。そこへ慌ただしく兵が駈け込んでくる。この人は軍の人だ。レッドから教えて貰ったんだが服装とターバンに付けてる紋章の形が違うのな。
「地下牢に、侵入者が!」
娼婦誘拐事件についての顛末報告をミスト王と一緒に聞いていた俺達は、それを素早く身構えていた。何が起っているのかは言われなくても良く分かる。
牢に拘束しているテニー・ウィンさんの所に何かしらのちょっかいが出されている、という事だ!
迎えに来たってのか?
奴は……ランドールはそんな事をするような奴だろうか?
とにかく現場に向かわなければいけないだろう。
俺達は無言で王に一礼し、駆けだした。
朝方思った通り、ゆっくり休んでいるヒマはないようだな。ホント。
俺は廊下を走りながら舌打ちし、アベルとマツナギに先に行けと叫んだ。奴ら俺らより足速いからな。
「そういや、テリーはどうした?」
建物から出てないので翼を広げられず、今は走って付いてくるナッツを振り返る。城を出たらナッツも一足先に行くだろう。
「案外、テニーさんの所で先に張ってたりしてね」
案外どころがそれでアタリだ。
城の外れにある、いつぞやユーステル女王(便宜上)が閉じこめられていた例の地下牢にテニーさんをお世話させている。そこに駈け込んだ所、いつの間にやら宿で休んでいるはずのマースと、引きこもっていた筈のアービスを連れて、我らがテリー・Wがすでに地下牢施設の前で謎の集団と大立ち周りを繰り広げているのが見えてくる。
すっかり夕方になっちまった。薄暗くて俺には詳細は見えないが。謎の集団は十数人、全員が鎧を着込んでいて鉄仮面を被っている。手に武器を持ち、広いとは言えない地下牢入り口を守る3人の戦士に手をこまねいている……って感じだ。
……おっと?何だあのデカい影は?
「ヒノトちゃんよ!」
俺の頭の上に乗っかったのはアイン。
「お、復活したのか?」
「ん……心配掛けたわね」
この所すっかりふさぎ込んで大人しくしていた様だが、そう言うお前もテリーに引っ張られて宿から出てきたんだな。
地下牢の出入り口真上に留まっている巨大な影は、ランドールパーティーんトコのデカいドラゴン、ヒノトであるようだ。
「ヒノト、と言う事は。シリアさん……ですか」
レッドが事態を把握したようにつぶやいた。
そういや彼女、死国の手前で色々事情が変わったから、南国で待っているようにと伝言飛ばしてあったはずなんだよな、ランドールパーティ側で何やら御使いを頼んでいた気配もあったが……。
その後連絡が取れなくなった、とリオさんから聞いている。
仕方がない、彼女が仕えているランドールとそのパーティーが分裂、分解しつつあるのだ。その動きを察したなら……彼女は、彼女の判断で『どちらか』を選ぶだろう。
ま、そのあたりの判断とかはレッドに任せた。俺は段差のある所を飛び降り、剣の柄に手を掛ける。
「加勢してくる!」
幽鬼のような足取りの重戦士が数人こちらに気が付き、斬りかかってくる。すでにアベルが戦いの輪に加わっていて、マツナギも珍しく曲剣を抜いて応戦中。
俺は振りかぶってきた一撃避けざま槍を叩き込み、剣を抜きはなってもう一人を切り伏せる。
「なんだ、たいした事ないな」
三人目の剣を弾いて首に剣を突き刺して蹴り倒しながらそう言ったのだが。前言撤回!
確実に急所を突いたはずだというのに、謎の戦士達は血を流しながらも立ち上がってくる。
俺は舌打ちして目をこらす。
ああ、赤旗がついてますね。新手の魔王軍か……鎧を纏っているから中身は分からんが、見た感じ混沌の獣といういつもの形式ではない。人間の形をしている。
ナドゥさん、バージョンアップでもしやがったんでしょうか。ええい、小賢しい真似をッ!
俺は好戦的に苦笑して剣を構え、マツナギ、アベルと背中を合わせる。
「とりあえずバグみたいだしな。殲滅で行くぜ、あっちと合流しよう」
満身創痍でも立ち上がる……ゾンビとは違うがイメージゾンビ兵にちょっと手こずっている、テリー達の居る方向へ俺は顎をしゃくった。
強引に道を開きながらテリー達の所に近づいていく。完全に包囲されていた輪を広げ、死角をフォロー。
「おいこら、なんだこのしぶとい奴らは!」
「それ、俺に言ったってしょうがないだろ!」
テリーの渾身の蹴りをくらって魔王軍の兜がひしゃげた。顔から血しぶきを上げながら吹き飛んでいく新生魔王軍であるが……明らかに顔が陥没しているというのにやっぱり、起き上がって来るのが見える。
それどころじゃない、腕を切断してやっても奴ら比較的短時間でその腕を接着して再び襲いかかってくるのだ。
「再生能力かよっ!」
心臓を確実に貫いてもダメなのかっ、俺は高台で様子を伺っているらしいレッドを伺った。ムカつくがここは一つ、魔法の力をお借りした方がいいかもしれん。だが様子見をしているらしくレッドはこちらに向かってくる様子はないな。
俺はアベルとマツナギが同時に両手を切断し、倒れた魔王軍を見て……それの背中を踏みつける。そうしておいて鉄仮面ごと首を切断。
一瞬上がった血しぶきはすぐに収まり逆流を始める。肉体再生だ、いつぞや馬顔の魔王八逆星エルドロゥと戦った時みたいな感じだな?って事は……俺は切断した頭を拾い上げ、鉄仮面を強引にはぎ取った。こいつはテリーから殴打はされていないから兜は歪んでいない、お蔭で剥ぎ取るのに苦労は無い……が、を剥いでみて俺は顔を顰める。
最初っから顔がグチャグチャだぞ、どういう事だ?ここだけは……再生している様子はない……切り刻まれ、抉られ、腫れ上がった無様な顔を鉄仮面の下に見つけてしまって俺は顔を顰めてしまった。
俺は鉄仮面の下が怪物か人型かを判断しようとしたのだが……なぜまた顔がここまでグチャグチャになっているのだろう?これはこれで謎だ。しかし、形状からするとやはり人型であるのは間違いない。
「ヤト、その兜の内側」
マツナギから指摘され、成る程理解。
何かぼんやりと発光する紋様が鉄仮面の裏側で点滅を繰返している。この青白い光、どこぞで見た事がありますな。
「レッド、解析しとけ!」
離れた所にいるだろうレッドに鉄仮面を投げつけて、再び襲いかかって来た魔王軍を蹴散らす。
「首切りは……有効みたいよ」
アベルが俺の足元を見ているが……本当だ。今しがた首を切って頭を取り上げた奴、俺の足下でしばらくじたじたしていたがいつのまにやら静かに……中身が、真っ黒くなって溶け出しているのが見える。
「テリー、頭を徹底的に叩け!」
「了解!」
ばしんと両手を打ち合わせ、テリーは近づいてきた魔王軍の頭を数回連打。打撃だけで首を『飛ばす』ってどんだけよ。
その隣で重鎧コンビのアービスとマースも着実に敵の首を切り落としている。繋がらないように遠くに蹴っ飛ばすのが重要だ。
ようやく対処法を得て巻き返した所であったが、突然爆音が背後で響き渡り地下牢の入り口が文字通り、吹き飛んだ。
その上で様子を伺っていたヒノトが驚いて空中に飛び上がり、崩れた石壁がつぶてになって飛んでくる。
「何だッ!」
盾を構えてやり過ごし、土埃が僅かな月明かりを拡散する。大きな翼のシルエットをその中に見出した。有翼族なんてのは割かしレア種だからな、ナッツ、いつの間にか地下牢の中に居たのか。
「ナッツ!大丈夫か!」
「や……あんまり、大丈夫じゃないかも」
その低い声に俺は、緊張して背筋を伸ばした。
「ちっ……しぶといな」
沙漠を渡る風が土埃を吹き飛ばす。いつからそこにいたのか、いつの間に地下牢に入り込んでいたのか。とにかく、地下牢をぶっ飛ばした相手が誰なのか確認出来る。
ランドールだ。
鋭く突き出した剣、その前にナッツが立っている。暗くて距離感がはっきり掴めないが……近すぎじゃねぇか?刺さっている……んじゃ、ないだろうな!
「いや、まだナッツの防御魔法が生きている、剣は止まっているよ」
逆上しそうになった俺をマツナギが俺の腕を握り、止めていた。ところが、こういう場面でキレるのは俺だけじゃないのだよマツナギさん!
反対側でアベルが走り出している。
剣を片手で真っ直ぐ突き出しているランドールが舌打ちし、一歩前に踏み出そうとした所……横から乱入する形となったアベルの剣と交差する。
瞬間はじけ飛んだ衝撃で、崩れた石壁から吹き出す塵が吹き飛ぶ。
暗いのもあるけど奴らの太刀筋早すぎて見えねぇ。俺は目を細め、マツナギの手を振りほどいて邪魔な魔王軍を蹴散らしながらナッツの元に走り寄っていた。
アベルとランドールの剣がお互いを弾き、異様な緊張を張りつめている。おかげさまで俺はナッツの無事を確認し、背後にかばう事ができた。
「……まぁいい、」
アベルとしばらく睨み合ったあと静かに腕を下ろして、ランドールは剣を収めた。
「ハクガイコウ、暫く命は預けておこう」
そう言って……あ!ランドールの奴左手でテニーさん引きずっていやがる!
気を失っているのか?殺したんじゃあるまいな……!テニーさんを抱え上げて……背後に降り立ったヒノトに素早く乗り込んだ。
そこに跳躍する陰がある。テリーだ……!。ヒノトの長い首ごと刈り取るような回し蹴りを叩きつけようとしたようだが……その足をランドールに掴まれて、投げ飛ばされた!あの野郎、なんて奴だ。テリーの蹴りを片手であしらうって、あいつはどういう体のつくりをしているんだ?
地面にたたきつけられたテリーをかばい、俺は飛び立とうとするドラゴンに走る。
「くそ、堂々と来やがったな!良い度胸だぜ!」
ところが、地面に吹き付けるヒノトの羽ばたきに押し返されてしまう。俺は必死にランドールに向けて剣を振り上げた。
「お前、分かってんのか!こんな訳の分からん怪物まで連れてきやがって……南国にケンカ売ってるようなもんなんだぞ!」
「……問題はない、いずれ、ここも俺の国だ」
「なんだとぅ?」
ランドールが鼻で笑ったのが見える。
その姿もヒノトが空に駆け上がっていくに従って夕闇に紛れ、見えなくなって行った。
情報屋のミンは何やら書類を抱えてやってきた。
「ん?そこにいるのは……確か白魔の」
「リオよ、久しぶりねミンジャン。いつもお世話になっているわ」
リオさんと握手を交わしながらミンは俺を伺った。
「こいつは確か、ランドールん所にいたと思ったが。引き抜いたのか?」
「いや、そうじゃなくて……今俺達……奴らと一緒に行動してんだ」
「お?いつの間にそういう事になったんだ?そうかそうか、まぁ目的が同じってんなら悪い事じゃねぇ。こっちも説明する手間が省けて良いってもんだ」
タトラメルツに在ると言われた魔王本拠地。
そこに乗り込んでいってそれから……俺達は暴走したり、バラバラになったり仲違いになっちゃったり。色々あって世界情勢に目を配る所じゃなかったよな。
その後はレッドに巣くった赤旗ついてるアーティフィカルゴーストとやらをやっつける為にも、デバイスツールが必要ってんで急遽、大陸座を目指す事になった。それから俺の頭上にもあった赤い旗をどうすれば除去出来るかって事を探して、シーミリオン国のユーステル達にお世話になりながらシェイディ国に向かい、その後転移門潜って魔導都市ランに足を延ばして。
レッドの状況は改善したものの、俺は……悪くなるばっかりだよな。
赤旗が除去出来ないばかりかどうにも魔物化も引き起こしている、とか言われるし。そもそも赤旗は……はぁ、ため息しか出ない。魔物化進めたって俺の運命はもはや変らないんだもんなぁ。
暗黒比混種、ダークミクストと呼ばれる魔物化は本来こんなに後天的に引き起こすものじゃないという。生まれた途端不幸な環境に置かれた生物が選ぶべき道だ。
俺は生まれが幸せだとは言えない。両親の記憶がない。幼い頃に自分で自分を売り払ってしまって奴隷の身分に転落し、死と隣り合わせの生活を余儀なくされた。
不幸と言えば不幸だ。不幸だと知っていたけど理解した所で生活が改善する訳じゃないのでかなり、前向きに開き直って今まで生きてきた訳だけど。
その自分の人生とちゃんと向き合ってみたら状況は、好転するかもしれないよって言われたんだよな。
少なくとも魔物化は止められるかも知れないと言われた。
でも結局問題なのは魔物化じゃねぇ、怪物化を引き起こす赤い旗、バグだ。
しかしその時はまだ赤旗が引き起こしている事がよく分かっていなかった。
見当違いのような気もするが、大陸座ドリュアートを目指す道中通るってんで俺は、久方ぶりに故郷の田舎町シエンタに行ってみたり。その途中、昔お世話になった先生に会ったり。
色々あったな。
色々あって、俺は再びとっつかまって……なんだかまたよく訳の分からない状況に陥っている。
いや、別に分からなくはないか。答えが出たから理由やら方法論は置いといて、俺の未来はすでにはっきりと定まった。
……定まったんだよ。
「タトラメルツの半壊は魔王八逆星破壊魔王、ギルの仕業って事になってるが……」
ちょっと遠慮がちにミンは俺を伺った。
ミンは分かってんだろうな。タイミング的に俺らがタトラメルツに向かったその後に半壊が起ったって事実を。俺は目を閉じ、結局なかなか言い返せなかった心中のわだかまりを吐き出す。
「俺の所為だ」
そんな俺の顔を見て、レッドは怪訝な顔をする。
「貴方一人の所為ではないでしょう。……何時からそんな風に自分を責めているのです?」
確かに最初の頃は俺一人の所為じゃない、うぬぼれんな俺、とか思って自分を立て直した訳だが、実際問題未だにタトラメルツの出来事を上手い事、心の中で片づけられない俺は……今も、そういう風に自分を責め続けてしまっているという事なのだろうな。
そうする事で俺の気持ちは……なぜか、多少は落ち着くんだよ。
「違う。何と言おうとあれは、俺の所為なんだ」
「……ヤト」
「お前の所為ってどういう事だ?報告を聞くに町が破壊されたなんてレベルじゃならしいぞ。町が半分近く砂となって崩れたって……」
さて、どうやって赤旗とかバグとか口に出さずに騙眩かすか。少し迷ってから俺は口を開けた。
「……俺、ダークミクスト種に片足突っ込んでるんだってさ。魔導都市に寄った時そう言われた。俺はあれだけの破壊を引き起こすだけの要因を、持ってる」
勿論事実としてはそうじゃないぞ。
ただ、赤旗が引き起こす魔王化という状況を上手い事説明できないから俺は、詭弁的に暗黒比混種を持って来ただけだ。しかも完全な嘘じゃねぇしな。半分くらいは事実である。
「あれは貴方が?……どうしてギルの仕業ではないとそこまで断言するの?それに、」
そうですね。そんな事実、黙ってりゃ良い事だ。俺の所為だって吐露したって墓穴以上の何ものでもない。
けど俺は、黙りしているにもう耐えられないのだ。
心の奥で黒く重くのし掛かるこの気持ちが悪いものを、吐き出したくて仕方がない。
指差されて貴様の所為だと罵らていい。どこまでドMだとか言うな。罵られずに自分の所為だと自分で自分に鞭振るっていた方がぶっちゃけて痛ぇんだよ!いろんな意味で!
「……もちろん、奴も多少は関与していると言える。俺は、いや……俺と奴が戦ったらああなったってのが……正しいのか?」
その辺り俺はいまだに上手くリコレクト出来ない。レッドを伺うと、無言で肯定した。
「なら、全て貴方の所為だと背負う必要は無いわ」
リオさんからそう慰められたが俺は、そんな言葉を望んでいた訳じゃない。目を逸らして頭を下げた。
「……そもそもランドールがあなた達に『魔王本拠地を偵察に行ってこい』と言ったのが発端じゃない」
「それは問題ない。俺達は奴から言われなくたって最初からそのつもりだった」
「……そうなの?」
レッドは再び無言で頷いたのだろう。リオさんのため息が聞こえる。
「タトラメルツの件は……残念だったわ。でも貴方の、あなた達の行いは全て悪い訳じゃないのよ?」
「そうだ、何はともあれお前は、魔王八逆星の本拠地を滅ぼした事実に変りはない」
「だからって……」
「フェリアでランドール・ブレイブが行った大戦と、タトラメルツ半壊および魔王本拠地崩壊の後、西方ファマメントにおける魔王軍の動きは目に見えて衰退した。間違いないぞ、近年ファマメントはほぼ勝利宣言を囁いていたくらいだ」
「……魔王軍の被害が無くなった?」
俺はようやく顔を上げる。
「そうだ、ここしばらく静かなもんだよ。シーミリオン国も魔王連中から解放されて鎖国を解いた情報は?」
「それは知っています」
「あれだって裏では魔王八逆星の支配があったからだぜ。多く把握している事情じゃないが、エイオールでは詳細について女王から伺っている」
ああ、何でか知らんが駐在していたギルがシーミリオンから撤退したらしいよな。政治腐敗を引き起こしていた部分をまっさらにした上で、女王に国を返還したようなものだという。
その辺りの詳細は俺らもユーステルらから直接聞いている。
その後、鎖国を解いて外交を再開した件は魔導都市で情報得ているしな。
「南国だってお前らの活躍で偽王がやっつけられた。あれも魔王八逆星の息掛かってただろ?お前らは着実に世界から魔王八逆星を排除しつつあるじゃないか」
俺は、再び伏せた顔で目を細めていた。
そうだろうか?俺にはどうにもそのようには思えない。
だって、結局魔王八逆星という根本になっている奴らを殆ど仕留めていないではないか。今ようやく一人、魔王八逆星から引き抜きに成功しただけだぞ。
……ちなみに引き抜かれた元魔王八逆星、アービスは顔こそ割れていないものの……北魔槍団長とかいう比較的公な肩書きを持っているのは事実なので、今は不用意に人と会わないように部屋に閉じこもっている。
鎧を脱いだら脱いだで問題なのだ。魔王八逆星が全身に纏っている不気味な紋様によく似たものが体の左側に出ていて大変、目立つ。魔王八逆星の中にはその姿を隠したりできる奴もいるってのに、アービスにはそういう芸当は無理なんだそうだ。化粧で誤魔化そうか?とかマツナギから提案されたが、そこまでして表に居る必要は無いって、アービスは大人しく部屋に閉じこもっている。
とにかく、元魔王だと知れたらやっかいには違いない。ミストラーデ国王の御前に出た事で、奴の素性が表沙汰にならなくて良かった。奴がマースと同じ、重鎧装備で助かっている。
俺達は魔王八逆星を確実に、倒していると云えるだろうか?
しかも……引き抜いた側から新しい魔王候補生が生まれてしまったじゃねぇか。
ランドール・アースド。奴は今どこにいるのだろう。そして一体何をたくらんで……そもそも何かたくらむような頭脳が奴にあるのかどうか知らんが……。とにかく、行方はとても気になる所だ。
そんな俺の態度に、ミンジャンはため息を漏らして腕を組んだ。
「何か?すでに情報は得ているのか?」
「何のですか?」
「……と、お前が聞くって事はまだか。そうか……実はな」
レッドの様子を見て深く頷き、ミンジャンは深刻そうな言葉で声を潜める。俺は顔を上げていた。
「最近大人しいからほぼ勝利宣言を囁いていたファマメントなんだが。結局、勝利宣言は出せなかったようだな」
「……また魔王軍が出現し始めたのですか?」
「ああ、その通り。トライアン地方に魔王軍らしい集団が現れたらしいぞ……ソイツで、町が一つ壊滅したらしい。ただ、正確な情報を政府が出したがらない。トライアンに駐在していた軍隊で情報を隠蔽しているっぽいな」
俺は眉を顰める。
「なんで隠すんだよ?」
「さぁな、色々憶測はつけられるが……相当にヤバに集団だってのは事実だろう。トライアンは三国境界にある都合上、常に多くの軍隊が駐屯している地域だ。そういう場所で奴らの横暴を許したって事だろう?よっぽど闇討ちされたか、よっぽど手に負えなかったかのどちらかだろう。そういう情報は隣り合う他国の手前、容易く流せなねぇんだと思うぜ」
「……成る程」
「問題はトライアンだけじゃねぇんだよ……見てくれ」
ミンジャンは持ってきた紙を広げる。
「国王には悪いが先に情報、仕入れさせて貰ったぜ」
広げられた地図は南国東北部、三国隣接のバセリオンとフェイアーンの詳細地図であちこちに×印がついている。一見ばらけているように見えるが……。×印に日付が振られているのがいくつかあるな。
「……これは、何の印でしょうか」
「目撃情報、および……被害状況だ。怪しい軍隊が森沿いに歩いている、という目撃情報が幾つか南国北東部で報告されている事は、すでにミストラーデ国王の耳にも入っているだろう。略奪にあった集落もあるらしい。その情報ちょろっと横流ししてもらってだな、ちょいとまとめてみた」
おバカな俺でも分かる。
謎の軍隊とやら、どうやら日に日に南国カルケードの中央に移動しているじゃねぇか!
「ミン、この集団はその後、どこに?……てか、今日何日だ?」
最もファルザットに近い×印には日付が記されている。ところが俺達ずっと森歩きだったから日付感覚狂ってるんだよな。つまり……今、何月何日なのかさっぱり分からん。
レッドが厳しい顔をしている。
「すでに一週間前にティラパティスを渡り、マイリーを抜けているのです。もう、処に潜伏されていてもおかしくはないでしょう。……この事を国は?」
「承知してるだろ、俺の所にあんまり情報が入ってこないんだが……余り騒ぎ立てないように警戒しているようだな。秘密裏に居場所を探る斥候部隊も行き来しているらしい」
ミンジャンは深く頷いて腕を組んだ。
「この情報入手してからしばらく船は休ませている。全員で情報を洗ってる最中だ。そしたら、どうにもお前らが戻ってきたらしい事ミスト王が俺らに教えてくれてよ。飛んできたって訳よ」
「そんで、守備は?」
ミンはため息を漏らした。
「さっぱりだ、この謎の軍隊、ファルザット方面に来ていないのかもしれない。山沿い川沿いの地域まで探査を伸ばしているが……この日以来すっかり目撃談が途絶えてな」
一番最後の目撃情報の記されたバツ印を、ミンジャンは軽く指で叩いている。
その後、夜通し詳しい情報交換が行われたようだ。俺は途中で付いていけなくなって戦線離脱。
展開は幾つかスキップして……次の日朝からナッツから買い物の荷物持ちを頼まれファルザットに向かって歩いていた。
ぶっちゃけ、あんまりまったり休息している場合ではなさそうだ。長旅で様々な物資は底を突いている。
マツナギ達も居ないと思ったら日常品の調達に出ていたらしい。
俺はナッツの付き添いな訳だから薬品類の調達であるが……。隣を歩く有翼族の顔色の悪さを覗き込む。
「お前、ちゃんと寝てるのか?」
「……大丈夫、僕はこう云う時しか役に立たないんだから」
大丈夫という割りに、ナッツの顔に生気は無い。目の下に隈っぽいものも伺える。
「ワイズは……まだ意識不明か」
一命は取り留めたらしいが、意識が戻らないという。このまま寝たきりなら衰弱死もありうるという状況で、安定しているとはいえ予断を許さない状況らしい。
「彼には何とか、目を覚まして貰わないと」
「やっぱり心配か。天使教の馴染みってトコか?」
「ま、古い腐れ縁だからね。お互い腹の裏側まで分かってる者同士……心配と言えば心配だよ。彼が居なくなったら……そうだね。ちょっと心細いかもしれない」
ナッツは苦笑して頭を掻いた。不本意ながら、みたいな言い方をするなぁお前。
「ランドールの事情。ワイズじゃないと分からない事なのかよ。お前はさ……例によって。知ってるんじゃないのか」
「いや、知らないよ。残念ながらあれは僕の管轄じゃなくってね。本来天使教が首突っ込む問題じゃぁないんだよ。ファマメント政府と天使教は仲良さそうに見えて……実際どっちも狸だから。強引にワイズが首を突っ込んで事情を探りに行ったんだ。本来なら天使教も見て見ぬ振りをする所、なんだけど」
「テリーは事情、話しそうにないのか」
「……みたいだね。僕とレッドで打診してみたけど今は話す事なんか何もないの一点張で取付く島もなかったよ。しつこく迫ったら、これ以上追求するなら俺はパーティー抜けるぞ、ってまで言われちゃった」
完全に話すつもりは無いって事だろう、とナッツは肩をすくめる。
「奴がそこまで言うか」
「……そこまで言わせる程、彼には重い過去になるんだろうね。本当はランドールの件に首突っ込むのだって嫌みたいだよ。でも……お前もそうだしみんな、自分の重い過去を少しずつバラしあって向き直っているだろう?そういうのを見ていて、自分はこのまま逃げてていいのかって、迷ってはいるようだ」
ふぅん、そうなんだ。
俺はどうにもそういう事情、テリーから聞き出した試しがないもんな。あのお兄さんは……こっちでは、一応俺より二つほど年上なんだアイツ。あいつは人の事根掘り葉掘り聞くくせに、自分の事は一切喋らない。あと、割と人の話を引き出すのが上手いタイプだろう、気が付いたらしゃべっちゃってたな、的な事も今までいくつか思い当たる。聞き上手って奴だな。
「……テリーは、今は話せないと言っていた。自分で何とか決着を付けるから今は、何も聞くなって言っていたよ」
「面倒くせぇ奴。スカっと話しちまった方がスッキリするのにな」
「お前はそれでスッキリするのかもしれないけど、人に知られるのがとっても苦痛で耐えられないって人も居るんだから」
俺は、人にエグい過去を知られる事が苦痛じゃないとでも言いたげだな。いや、そういう苦痛は甘んじて受け入れられるドMだろう、と言っているんでしょうか?事実、その通りではありますが。
ファルザットの市を通り抜ける。
様々な物を売っているこの世界最大のスークは、通りごとに商売する品が決まっているそうだ。食材や生薬、香辛料は一番奥の端にある区画なのでショートカットと称して飲屋街の半地下街を通る事に。昼間なら人通りも少ないだろうしな。
ところが、この何気ない道の選択が、カルケードの底で密かに起っていた事件を見いだす手がかりになるとはな!本当、思っても見なかった。
今回ばかりは単なる偶然である。運命でも必然でもない。
いや?いや。いやいや。うーん?
運命や必然だったら嬉しく無ぇ……だから、違うんだからねッ!と言っておく。
人通りのない散らかった半地下街、数メートル地下に掘り込んだ感じになっている区画を俺達はフツーに歩いていたんだ。別段怪しい足取りはしていない。
酒に酔いつぶれて寝っ転がってる人がいたり、吐瀉物で通路脇に掘られている小さな排水口からすえた匂いがしたりする、まぁ普通は敬遠するようなトコだ。数メートル上からスークでにぎわうざわめきが降ってくるという不思議な通路。水のない水路を思い描いて貰えれば良いだろう。
この通路、結構狭いし複雑な作りだ。方向感覚に絶対の自信を持つナッツの道案内がなかったら俺でも多少、迷子になってただろう。アベルだったら言わずもがな、だ。
ナッツの後を追いかけてフラフラ、狭い通路をあちこち眺めていると……どうにも新しい張り紙が目に付くな、これは人捜しらしい。ここいらで働いている娼婦が行方不明です、みたいなチラシがあっちこっちで見かけられる。
平和な南国とはいえ、事件が起らない訳じゃぁないんだなぁ。そんな事を思いながら歩いていたら……遠い通路の奥からかしましい声が聞こえてくる。
「あ、やっと出口があったよ、あそこの階段から上に昇れる」
「おう、目的の通路は近いのか?」
「多分、すぐ隣くらいだと思うけど……並んでいる商品を見れば……」
と、ナッツが足を止めた。
姦しい声、何かを追いかけているらしい女性達の声が近づいてきて……俺の背後で止まる。
当然俺は何事かと振り返ったが、その瞬間一斉にはたきやら箒やら物干し竿やらを振りかざされていた。俺はびっくりして後ろに飛んだが武器に手は伸ばせなくて、構えた右手が宙を掻く。
「逃げるな!」
そんなん突然向けられたらそりゃ、驚いて逃げるだろ?推し掛けて来たのは……比較的若い女の子達だ。何を言っているのか早口すぎて聞き取れんが、とにかく俺を攻撃してきているらしい事は分かる。
とはいえ、女の子相手にやり返す訳にも行かず、あっという間に狭い通路で壁際に追いやられてしまう俺。
「な、何?」
「ワト!」
「んあ?」
「惚けないで!貴方が昨日指名した女の子!ワトをどこにやったの!」
俺は状況を把握するのに数秒を必要とし、両手を上げて無抵抗を訴えた上で天上を仰いで事態の把握に努める。
ワトさん……?指名した女の子?
顔を前に戻した。出来る限り真面目な顔を装ったつもりだ。
「いや、知らん。そも俺は昨日ファルザットまで降りてない。カルケードには居たけど……」
俺の訴えに嘘はないと見たのか、はたき、箒、物干し竿を担いでいた女の子達は一瞬怪訝な顔になり、額を合わせてごにょごにょと相談をしたようだ。
「……本当に?」
「ああ、僕らは先日カルケード国入りしたばかりだよ。城下町にはいたけど、女の子と遊んでいるヒマは無かったと思うけどね?」
その様に、ちょっと疑いの視線を投げられ俺は慌ててナッツに言い返した。
「あ、遊んでませんよ!何言うんですかナッツさん!」
「他人のそら似じゃないのかい?」
やんわりと諭すナッツに、なおも女の子たちは噛付くように言った。
「同じ顔の人が何人も居るとは思えないわ。だから、同じ顔をしていた貴方に声を掛けたのよ。……本当に、ワトの事も知らないし、ファルザットにも来ていないの?」
強く再確認される。
同じ顔の人が何人も。居たらそりゃ困るなぁ。
しかし、俺達はナドゥを例にしてそういう事情もアリだという状況を知っている。
俺とナッツは思わず顔を見合わせてしまった。
「……同じ顔をしたよしみだねぇ、ヤト」
「え?何だよ」
「なんだかお困りみたいだから少し、話を聞いてみよう。ほら、言うだろう。世の中には自分と同じ顔をした人が3人は居るって。でもお前の場合、すでに一人とは出会っている」
誰って、アービスだな。色彩は違うがかなり似た顔なのだあのお兄さんと俺は。
「かといって昨日アービスがファルザットに降りた事は考えられない。そうだろう?」
そうですね。俺はともかくアービスはあれは、女遊びを出来るようなお兄さんではありません断言。俺?遊ぶ時は遊びますが何かっ!?
「なんだか奇妙な感じがしないかい?」
俺は項垂れた。
「それはもはや、奇妙所の話じゃねぇよーな気もしますが……」
あー、やだやだ。すごいやだ。
嫌な予感がビンビンしやがるぅッ。
なんか知らないけど、俺の顔と良く似た人がここ数日、飲屋街に出没しているらしいですよ。しかもだな。その後に女性をお持ち帰りしてその女性が、戻ってこないんだそうで!
それ、俺の顔でやらないでくださいよホント!
水商売ってなぁどこの世界でも真っ当な仕事とは言えないらしい。それでも南国にそれが無い訳が無い。カルケード国にだって水商売している人達はいる。では、カルケードにおけるそういう商売の人達が、堂々と日の当る場所で客引きを出来るかというと勿論そうではない。
どうしたって多少、きな臭いというか人権の抵触というか。この手の商売に関してはデリケートな問題になってしまって無法地帯化するものなのだろう。
俺が偶々半地下街を通りかかった為に発覚したこの娼婦行方不明事件。
ナッツと話を聞いて、彼女らを説得しもう少し上の方に働きかけて調べる事になった。
そうして強制的に国で介入して始めて、全貌が明らかになるのだった。
ここ一週間で行方不明になっている水商売の女性は、国で調べた所10人にも上る調査結果があっさり出て来た。実際にはもっとあるだろう、との事。
カルケードの法に触れる商売を展開している所も少なからず在るという事で……そういう場所で起った事件は闇に葬られてしまう事になる。申告しろと強要した所で沈黙される。
実害はもっとあるかも知れない事までも予測した数の記された報告が、事件のあらましに関心を持った国王に報告された所である。
「これは、どういう事だろう?」
ミストラーデ王は厳しい顔で、情報を報告した平原貴族種らしい男に問いかけた。軍隊とは別で国内治安に務める部隊の隊長さん、みたいな人らしい。平原貴族種であるから軒並み美形である。切れ長の瞳の治安部隊長は一礼してきびきびと応答。
「ただいま全力で行方不明となった者達を探っております。また、例の集団の行方が分からくなった後の出来事として符号するようです」
ミストラーデ王はため息をついて額を抑えた。
「実害が出てからでは遅いというのに……」
目を細めて苦しそうに呟いた。そこへ慌ただしく兵が駈け込んでくる。この人は軍の人だ。レッドから教えて貰ったんだが服装とターバンに付けてる紋章の形が違うのな。
「地下牢に、侵入者が!」
娼婦誘拐事件についての顛末報告をミスト王と一緒に聞いていた俺達は、それを素早く身構えていた。何が起っているのかは言われなくても良く分かる。
牢に拘束しているテニー・ウィンさんの所に何かしらのちょっかいが出されている、という事だ!
迎えに来たってのか?
奴は……ランドールはそんな事をするような奴だろうか?
とにかく現場に向かわなければいけないだろう。
俺達は無言で王に一礼し、駆けだした。
朝方思った通り、ゆっくり休んでいるヒマはないようだな。ホント。
俺は廊下を走りながら舌打ちし、アベルとマツナギに先に行けと叫んだ。奴ら俺らより足速いからな。
「そういや、テリーはどうした?」
建物から出てないので翼を広げられず、今は走って付いてくるナッツを振り返る。城を出たらナッツも一足先に行くだろう。
「案外、テニーさんの所で先に張ってたりしてね」
案外どころがそれでアタリだ。
城の外れにある、いつぞやユーステル女王(便宜上)が閉じこめられていた例の地下牢にテニーさんをお世話させている。そこに駈け込んだ所、いつの間にやら宿で休んでいるはずのマースと、引きこもっていた筈のアービスを連れて、我らがテリー・Wがすでに地下牢施設の前で謎の集団と大立ち周りを繰り広げているのが見えてくる。
すっかり夕方になっちまった。薄暗くて俺には詳細は見えないが。謎の集団は十数人、全員が鎧を着込んでいて鉄仮面を被っている。手に武器を持ち、広いとは言えない地下牢入り口を守る3人の戦士に手をこまねいている……って感じだ。
……おっと?何だあのデカい影は?
「ヒノトちゃんよ!」
俺の頭の上に乗っかったのはアイン。
「お、復活したのか?」
「ん……心配掛けたわね」
この所すっかりふさぎ込んで大人しくしていた様だが、そう言うお前もテリーに引っ張られて宿から出てきたんだな。
地下牢の出入り口真上に留まっている巨大な影は、ランドールパーティーんトコのデカいドラゴン、ヒノトであるようだ。
「ヒノト、と言う事は。シリアさん……ですか」
レッドが事態を把握したようにつぶやいた。
そういや彼女、死国の手前で色々事情が変わったから、南国で待っているようにと伝言飛ばしてあったはずなんだよな、ランドールパーティ側で何やら御使いを頼んでいた気配もあったが……。
その後連絡が取れなくなった、とリオさんから聞いている。
仕方がない、彼女が仕えているランドールとそのパーティーが分裂、分解しつつあるのだ。その動きを察したなら……彼女は、彼女の判断で『どちらか』を選ぶだろう。
ま、そのあたりの判断とかはレッドに任せた。俺は段差のある所を飛び降り、剣の柄に手を掛ける。
「加勢してくる!」
幽鬼のような足取りの重戦士が数人こちらに気が付き、斬りかかってくる。すでにアベルが戦いの輪に加わっていて、マツナギも珍しく曲剣を抜いて応戦中。
俺は振りかぶってきた一撃避けざま槍を叩き込み、剣を抜きはなってもう一人を切り伏せる。
「なんだ、たいした事ないな」
三人目の剣を弾いて首に剣を突き刺して蹴り倒しながらそう言ったのだが。前言撤回!
確実に急所を突いたはずだというのに、謎の戦士達は血を流しながらも立ち上がってくる。
俺は舌打ちして目をこらす。
ああ、赤旗がついてますね。新手の魔王軍か……鎧を纏っているから中身は分からんが、見た感じ混沌の獣といういつもの形式ではない。人間の形をしている。
ナドゥさん、バージョンアップでもしやがったんでしょうか。ええい、小賢しい真似をッ!
俺は好戦的に苦笑して剣を構え、マツナギ、アベルと背中を合わせる。
「とりあえずバグみたいだしな。殲滅で行くぜ、あっちと合流しよう」
満身創痍でも立ち上がる……ゾンビとは違うがイメージゾンビ兵にちょっと手こずっている、テリー達の居る方向へ俺は顎をしゃくった。
強引に道を開きながらテリー達の所に近づいていく。完全に包囲されていた輪を広げ、死角をフォロー。
「おいこら、なんだこのしぶとい奴らは!」
「それ、俺に言ったってしょうがないだろ!」
テリーの渾身の蹴りをくらって魔王軍の兜がひしゃげた。顔から血しぶきを上げながら吹き飛んでいく新生魔王軍であるが……明らかに顔が陥没しているというのにやっぱり、起き上がって来るのが見える。
それどころじゃない、腕を切断してやっても奴ら比較的短時間でその腕を接着して再び襲いかかってくるのだ。
「再生能力かよっ!」
心臓を確実に貫いてもダメなのかっ、俺は高台で様子を伺っているらしいレッドを伺った。ムカつくがここは一つ、魔法の力をお借りした方がいいかもしれん。だが様子見をしているらしくレッドはこちらに向かってくる様子はないな。
俺はアベルとマツナギが同時に両手を切断し、倒れた魔王軍を見て……それの背中を踏みつける。そうしておいて鉄仮面ごと首を切断。
一瞬上がった血しぶきはすぐに収まり逆流を始める。肉体再生だ、いつぞや馬顔の魔王八逆星エルドロゥと戦った時みたいな感じだな?って事は……俺は切断した頭を拾い上げ、鉄仮面を強引にはぎ取った。こいつはテリーから殴打はされていないから兜は歪んでいない、お蔭で剥ぎ取るのに苦労は無い……が、を剥いでみて俺は顔を顰める。
最初っから顔がグチャグチャだぞ、どういう事だ?ここだけは……再生している様子はない……切り刻まれ、抉られ、腫れ上がった無様な顔を鉄仮面の下に見つけてしまって俺は顔を顰めてしまった。
俺は鉄仮面の下が怪物か人型かを判断しようとしたのだが……なぜまた顔がここまでグチャグチャになっているのだろう?これはこれで謎だ。しかし、形状からするとやはり人型であるのは間違いない。
「ヤト、その兜の内側」
マツナギから指摘され、成る程理解。
何かぼんやりと発光する紋様が鉄仮面の裏側で点滅を繰返している。この青白い光、どこぞで見た事がありますな。
「レッド、解析しとけ!」
離れた所にいるだろうレッドに鉄仮面を投げつけて、再び襲いかかって来た魔王軍を蹴散らす。
「首切りは……有効みたいよ」
アベルが俺の足元を見ているが……本当だ。今しがた首を切って頭を取り上げた奴、俺の足下でしばらくじたじたしていたがいつのまにやら静かに……中身が、真っ黒くなって溶け出しているのが見える。
「テリー、頭を徹底的に叩け!」
「了解!」
ばしんと両手を打ち合わせ、テリーは近づいてきた魔王軍の頭を数回連打。打撃だけで首を『飛ばす』ってどんだけよ。
その隣で重鎧コンビのアービスとマースも着実に敵の首を切り落としている。繋がらないように遠くに蹴っ飛ばすのが重要だ。
ようやく対処法を得て巻き返した所であったが、突然爆音が背後で響き渡り地下牢の入り口が文字通り、吹き飛んだ。
その上で様子を伺っていたヒノトが驚いて空中に飛び上がり、崩れた石壁がつぶてになって飛んでくる。
「何だッ!」
盾を構えてやり過ごし、土埃が僅かな月明かりを拡散する。大きな翼のシルエットをその中に見出した。有翼族なんてのは割かしレア種だからな、ナッツ、いつの間にか地下牢の中に居たのか。
「ナッツ!大丈夫か!」
「や……あんまり、大丈夫じゃないかも」
その低い声に俺は、緊張して背筋を伸ばした。
「ちっ……しぶといな」
沙漠を渡る風が土埃を吹き飛ばす。いつからそこにいたのか、いつの間に地下牢に入り込んでいたのか。とにかく、地下牢をぶっ飛ばした相手が誰なのか確認出来る。
ランドールだ。
鋭く突き出した剣、その前にナッツが立っている。暗くて距離感がはっきり掴めないが……近すぎじゃねぇか?刺さっている……んじゃ、ないだろうな!
「いや、まだナッツの防御魔法が生きている、剣は止まっているよ」
逆上しそうになった俺をマツナギが俺の腕を握り、止めていた。ところが、こういう場面でキレるのは俺だけじゃないのだよマツナギさん!
反対側でアベルが走り出している。
剣を片手で真っ直ぐ突き出しているランドールが舌打ちし、一歩前に踏み出そうとした所……横から乱入する形となったアベルの剣と交差する。
瞬間はじけ飛んだ衝撃で、崩れた石壁から吹き出す塵が吹き飛ぶ。
暗いのもあるけど奴らの太刀筋早すぎて見えねぇ。俺は目を細め、マツナギの手を振りほどいて邪魔な魔王軍を蹴散らしながらナッツの元に走り寄っていた。
アベルとランドールの剣がお互いを弾き、異様な緊張を張りつめている。おかげさまで俺はナッツの無事を確認し、背後にかばう事ができた。
「……まぁいい、」
アベルとしばらく睨み合ったあと静かに腕を下ろして、ランドールは剣を収めた。
「ハクガイコウ、暫く命は預けておこう」
そう言って……あ!ランドールの奴左手でテニーさん引きずっていやがる!
気を失っているのか?殺したんじゃあるまいな……!テニーさんを抱え上げて……背後に降り立ったヒノトに素早く乗り込んだ。
そこに跳躍する陰がある。テリーだ……!。ヒノトの長い首ごと刈り取るような回し蹴りを叩きつけようとしたようだが……その足をランドールに掴まれて、投げ飛ばされた!あの野郎、なんて奴だ。テリーの蹴りを片手であしらうって、あいつはどういう体のつくりをしているんだ?
地面にたたきつけられたテリーをかばい、俺は飛び立とうとするドラゴンに走る。
「くそ、堂々と来やがったな!良い度胸だぜ!」
ところが、地面に吹き付けるヒノトの羽ばたきに押し返されてしまう。俺は必死にランドールに向けて剣を振り上げた。
「お前、分かってんのか!こんな訳の分からん怪物まで連れてきやがって……南国にケンカ売ってるようなもんなんだぞ!」
「……問題はない、いずれ、ここも俺の国だ」
「なんだとぅ?」
ランドールが鼻で笑ったのが見える。
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