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10章 破滅か支配か 『選択肢。俺か、俺以外』
書の4前半 大円団『脊髄反射感情論』
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■書の4前半■ 大円団 Spinal Reflex Passion Utopia
鮮やかに紅葉を始めた森を越えてトライアン地方に入った。事前情報通りまぁ警戒されておりますなぁ……。俺達が目的としている地域をぐるりと囲むようにファマメント国軍が展開している。
「……ちょっとこの警戒、異常じゃねぇか?」
「……ええ、そうね」
ヘタにウロウロしていて声を掛けられると面倒が起りそうなので、俺達コソコソ森の中で作戦会議。足下にはこんもりと落ち葉が降り積もっている。このあたりは針葉樹と落葉樹が混じってんだな。
別に顔が割れている、良い意味でも悪い意味でも有名人というわけじゃないが……ちょっとばかり面子がオカしいだろ?
仮面を被った青年とか、全身真っ黒い鎧の人とか、明らかに遠東方人のアベルとか、余り人前に出ない種族である暗黒貴族種のマツナギとか。
普通だったらふぅんめずらしいで済むのだが、あの警戒ッぷりの中では目立つのは致命的だ。職務質問されたら……リオさんだけで上手く場を切り抜けられるだろうか?心配である。
ここにレッドがいるなら嘘八百で突破してくれるんだろうけどなぁ。そういう技能は文句なしに奴は頼れる。リオさんとの付き合いはまだ短いからな、手腕がどれ程のものかよく把握してないのもある。
「貴方の言う通り、ここが魔王軍の本拠地で間違いないようね」
「ようやく信じてくれたようだね」
クオレは偉そうに頷いている。
最初からリオさんの方でも魔王軍の出所を絞り込んでいたようだが、クオレがはっきりここだだと場所を示してきたんだよな。で、実際その通りの場所をファマメント軍が包囲している。おかげさまで俺達、こっから先に進めない。
俺は地図を見せて貰っているが……トライアンのどこが本拠地って……小さな山を含む杜だな。
都市部郊外の農村酪農地域にぽつりとある、何も変哲な感じは受けない杜。……別におかしい所はないが針葉樹は無い。冬になったら丸裸になるんだろう広葉樹で成形されている杜だ。
そこをファマメント軍は少し距離を取って取り囲んでいるように配置している。どっかに包囲網の切れ目はないかとアインとマツナギで手分けして探って来てくれたんだがダメだったらしい。
逆にこの杜が目的地だとはっきり知らしめている位、がっちり包囲が固められているってさ。
「見た感じ単なる杜だよな」
間に平原を挟んで伺える問題の杜を俺は遠くに伺う。そこは一つの、取り残された森と云う感じではない。明らかに人工的に作られた『杜』だ。全部広葉樹だと言ったよな?辺りの森とは明らかに、生えてる木の種類が多くて不自然である。その杜を……何故か木の生えない草原が取り囲んでいる。視界を遮るものが少ないので、ファマメント軍がばっちり監視していてヘタに出て行って近づけそうにない。
あとは……夜の闇に紛れるしかないかなぁ。
こんな時ナッツさんがいれば姿眩ましの術とか使ってくれるだろうに。
「あそこに何か、怪しい施設があるの?」
アインの質問にリオさんは小さく息を付く。
「……そうね、見た目は何って事はないわね」
「あの中に何か……タトラメルツみたいに建物でもあるのかしら?」
アベルの言葉に、その通りとリオさん頷いて答える。
「ええ。冬になると建物らしいものが見えるらしいけど……私が調べた限り、あの杜はこの辺りでは明らかに恐れられていて禁忌の扱いよ。近くの村にでも行って話を聞けば分かると思うわ……怪物が出ると言われて子供の頃から近づかないように教育されている。ほら、あの杜の周りの平原。手付かずでしょ?」
「手付かず……って?」
「西方は農地を巡ってずっと戦争やってたくらいの所よ?土地は慢性的に不足している。勿論、土地が痩せていて放置されている、という場合もあるでしょうけどここは、そうじゃないわ」
俺は今潜んでいる森の地面を手で少し穿る。枯れ葉を掻き分け腐葉土の下には赤い土の粘土層が現れた。田舎者の俺は分かるな、この土地が枯れているかどうか。土を掘るまでも無く、生えている植生だけで把握出来ちまう。
リオさんの言う通りここの土地は肥えている方だ、農作地として悪く無い筈。
アベルとアービスが分かってない顔をしているので俺は土を手の中で弄りながら言った。
「平原になってるのがおかしいんだよ。ようするに、人の手が入ってないって事だろう。森が自然に開けているんだぜ?一々木を切り倒さなくても畑に出来る土地があるのに放置って、おかしいだろ。川だって近い、森もあるって事は地下水脈もあるはずだから……」
俺はリオさんを振り返る。
「ここは、タトラメルツのあの古城と同じなんだな」
「ええ、そう。昔住んでいた人や、そこにあった施設の関係で人が恐れて近づかない。そういう杜よ」
「じゃぁやっぱりまた同じ施設か?」
何と同じって……あれだ。タトラメルツの元魔王本拠地。
「その通り。私はその研究者だから」
三界接合、だったな。
これは東方魔導師の専門用語だ、分かりやすく言えば『合成獣生成理論』の事で、タトラメルツで魔王八逆星が本拠致にしていた施設もその、三界接合という禁忌を研究していた者が居たと云われ恐れられていた。人払いが済んでいる場所として、魔王八逆星が根城にしたのだと思っていたが、もしかすると逆かもしれないんだな。
魔王八逆星、あるいは……ナドゥの都合でその施設跡だと都合の良い何かがあったのかもしれない。
この杜も同じく、大昔に合成獣を研究していた奴の研究施設があったとされる場所だって事だ。
三界接合の研究者だというリオさん曰く、同じ流派で西方から東方コウリーリス付近にかけて幾つかの研究施設があった歴史がサルベージ出来ているんだ、とか。サルベージっていうのは要するに……ええと、魔導書の解読の事らしいが、とにかくそういうのがあったって云う歴史を裏付ける書物があったって事なのだろう。
ルドラン、ってリオさんが前に言ってたな。これはコウリーリス国側にある今はディアス国で統治されている町の名前だ。タトラメルツの東隣、黒竜海側にある町である。
ここにも同じ施設があったそうだが、その区画はやっぱり恐れられてて人の出入りがあんまりなかったようだ。
人の出入りがない、恐れられていて誰も近づかない。隠れる側にはもってこいの場所になるよなぁ。
コウリーリスをデスマーチしてた頃リオさん達は、そのルドランに立ち寄っているらしい。理由はなんか聞いたけどよくわからんかったが……とにかく都合で偶々立ち寄ったらた、そこがマジ魔王軍の拠点でアタリ引き当てちゃったーとかで。
その頃はまだランドールもマトモというか、相応というか。
爆裂『勇者』だったのでルドランに魔王軍の拠点があるのを無視は、しなかった様だ。在るって分かったから勢いで潰したという話であった。
なんでも、そこで魔王軍……混沌の怪物が『生産』されているのを目の当たりにしてしまったらしい。
おかげさまでリオさんらは知っている。魔王軍という混沌の怪物がみんな、例外なくもとは人間であるって事実を……な。
多くの人間が、ルドランにあった『忌避されている土地』の地下で、怪物に変えてしまう工場っぽいのがあったんだってさ。そりゃぁもう酷い施設だったらしいと顔色悪く話してくれた。
ただ、実際リオさんは直接それを見た訳ではないそうだ。偶々留守番をしていたが、ワイズから事情を詳しく聞いて……それでも具合が悪くなるような事が行われていたと言っている。
そこで行われている恐ろしい実体を知っている俺はしきりに頷いてしまうな。
囚われて、怪しい薬剤ぶち込まれて……だろ?
そこで魔王八逆星には出会わなかったのか?と聞いたら恐らく会っていないと思う、とリオさんは言っていた。というか、その前にランドールが暴れまくっちゃって話を聞ける人がいるかどうかとか関係なく全部工場を壊してしまったとか。
え?
囚われていた人は助けなかったのかよ!
そのように驚いたらその必要は無いでしょう、とリオさんは少し言いにくそうに答えた。
殆どの人がもう殆ど自意識がない状態だった上、どうにも……。
同じ顔をした人が沢山いたとかで。それが即ち『三界接合』が禁忌である最もな理由だ、とかで。
うー……それは気持ち悪いな。
要するにナドゥの仕業って事だよな、魔王軍の材料になる……いや、正確には魔王化の実験をするに必要な『人間』を多く確保する為に、三界接合という禁忌技術を使い人間を複製していたのだろう。アービスが証言していた事にも合致する。
そんな危ない魔王軍工場があったルドランと、今目前にしているトライアンの施設は、地図で見る限り距離的それ程離れていない。
というか、このトライアン地方もルドランも、俺達が魔王八逆星と対峙したタトラメルツに近いんである。
リオさんは危惧していたのだな。
おそらく、トライアンにもルドランと同じような施設があるだろう……と。ルドランの状況を知ってからトライアンにも同じような施設があるだろうと懸念したらしいのだが、ランドールが蜘蛛のウリッグ追っかけてデスマーチ中。そっちの方がランドールパーティーにとっては『重要』ってんだから、リオさんはトライアンの件は飲み込んで、ランドールの主張に従うしかなかったんだ。
あの野郎……結局何がしたかったのか分からねぇな。
アイツがもっとマシに魔王軍相手に立ち回っていればッ!
そのように憎たらしく思ったりもするが、そうならなかったのだからしょうがない。もはや、奴の狙いは魔王の撲滅ではない可能性すら出てきているのだ。
今は怒りは腹の中に収めておこう。
この忌避されている施設付近から謎の軍隊が現れ……あちこちで被害を出しながらカルケード国まで到達している。道中ファマメント軍を突破したらしい事はミンが掴んだ情報の通り。進行道中、滅ぼされた町もあるという。
「あの謎の甲冑纏った新生魔王軍、奴らの目撃情報と被害があるって聞いたけど、具体的にどんな被害だったんだ?」
俺の質問に、リオさんは困ったように目を伏せた。
「それが、どうにもウリッグと同じような被害みたいなのよね」
「……ウリッグと同じような被害って……何だ?」
よくわからん、俺の問いにアベルがため息を漏らす。
「アンタは知らないかもね。あの時速攻攫われていった訳だし。ドリュアートを目指している最中あたし達はアレに遭遇したでしょ?」
俺が蜘蛛に攫われてた間の事か。
「ウリッグはねぇ、人間を食べちゃうみたい。血を飲み干されて干からびたようにして殺されていたわ」
アインがさらりと言った。
うげ、俺はてっきり新生魔王軍の被害って、村が略奪されて火を付けられたり壊されたり、あるいは年齢制限があるので書けない事とか。そんな被害だと思ってました。いやまぁ、アインが言っているのも十分に年齢制限掛かる事だが。
「……というよりは、レッドの話を統合するとウリッグというよりは謎の少年の仕業に近いみたいなのよね」
リオさんはアービスを伺いながら言った。ウリッグが連れていた『人食い』少年、はアービスの弟さんらしいもんな。
「じゃ、人間が食い散らかされた被害があったって事かよ」
俺は自分が色々と楽天的に考えていた事を忌々しく思い始めていた。
て事はあれだろ?カルケードで出ていた誘拐事件。あれの結末が見えて来ちまうじゃねぇか……!
「そんな怪物を……あそこで作ってるってのか」
「恐らくね、ルドランの工場の事を考えるとそうなるのではないかと私は考えているわ。彼らは姿こそ人間の様だけど、振る舞う様子はまさしく怪物。今までの魔王軍は町を襲う事はあっても人を食べる、だなんて話は聞いていないもの」
「そうなのか?」
結構初耳だ。
生物は……やっぱ、食べないと生きていけない訳だろ?でも魔王軍は怪物だ、動物でも魔物でもない。どうなんだろう……奴らは『喰う』のか?具体的に言えば死んでいる、存在が破綻している怪物だけど……。生物は食べないと生きていけないが、怪物はどうなるのだろう?
魔王軍は何かを食べる必要があるのか?いや、少し考えればこれもすでに俺は知っている。
「食べる必要はなさそうだし、食べているのを見た事がない」
ぼそりとアービスが呟いた。
「実際俺も、食べなくても大丈夫みたいだし……味覚は生きているから食べられない訳じゃないけど」
そう、少なくとも魔王八逆星は食わなくてもいいし、眠らなくてもよいという都合をすでに俺は知っている。
奴らはどこまでも生物的に破綻している。
なんて事だ。
魔王軍から喰われた、なんて被害が出たのは今回が初めてなんだ。
あの不気味な鎧の怪物達、今まで俺達が倒してきた混沌の怪物とはやっぱり規格が違う。
あの人型の、鎧を纏った魔王軍は事もあろうか人間を喰う……!
「言ったじゃないか、仕様が違うって」
クオレの言葉に、確かにミスト王の前でそんな事を言っていたのを思い出す。そうだ、新しい魔王軍は維持コストが掛るから村を一つよこせと交渉しに来たんだよな、クオレは。もちろんミスト王はこれをどこまでも拒否した訳だが……。
てことは何か、それ分かってなかったの俺だけか。だから今まで誰も説明してくれなかった訳だなッううう、今更ながらおバカな自分が呪わしい。
……その後、南国は大丈夫だろうか。何か問題が起きていなければいいのだが。
「くそ……!リオさん、どうやってあの包囲網を突破する?あの杜の中に施設があって、そこに今出てきてる新生魔王軍の生産ラインがあるわけだろ?」
「恐らくね」
「夜か?夜にこっそり行くしかねぇのか?」
「おちついてヤト……その前に。確認しておく事があるの」
「何だよ!」
リオさんは腕を組み、杜を伺う。
「本当に魔王軍の生成理論が三界接合なのかどうか、という事」
「誰に確認するんだい」
マツナギの言葉にリオさんは首を振る。
「確かに確認は出来ないわ、それをやっている暇はない。だけど推論は立てられる。私は禁忌三界接合の研究者よ。誰よりもこの技術に詳しい自負がある。だから今起きている魔王軍という怪物化について、在る程度的確だと思える推論があるの」
「魔王化の理屈って事よね?」
そこ、解明しない事には赤旗除去出来ないって事だけは理解しているアベルが食いついた。
「そうなると思う」
リオさんは頷いて目を閉じ、一時置いて言葉を続ける。
「でも、レッドは間違っているって言うのよ。というより……そうであって欲しくない、という感じなのかしらね。彼曰く私の理論は全てではない、と断言気味に言うのよね……」
「それ、俺らが理解してないとあそこには突撃できねぇ事なのかよ」
なんか、このままリオさんに話をされると重大な事実がアベルに向けてバレてしまいそうで怖いな……。そも、どうしてアベルの奴こっちについて来たんだっけ?組み分けがどういう理由でされたのか俺、よく分かんない。
「レッドはそれで全てじゃないって言うけど。魔王軍の発生技術が三界接合だとするなら残念ながら、魔王軍化したものを元に戻すことは出来ないのよね」
一瞬そんな事は分かってるよと流しそうになったがそれじゃまずいのだ。俺はちょっとだけ遅れて頷いてから言った。
「そうか……魔王軍化したのを人間に戻す手段は無い、って事だな」
「……案外簡単に納得するのね?」
やっぱりそういうツッコミは貰うよな。俺は苦笑しながら言った。
「俺達どれだけの魔王軍を蹴散らしてきたと思ってんだよ。元に戻るかも知れない、だなんて可能性考えていたら……埒あかないと思わないのか?」
「私達は私達で魔王軍を元に戻す方法がないのか色々試してきたからね。無理かも知れない……というあきらめは少しあったんだ」
マツナギが俺の言い訳に加勢してくれる。軍師連中がいないので俺が惚けていちゃダメだ。
「そう。……でもレッドはその限りではないって否定するのよ」
そりゃな。アベルに嘘ついてるからそう言う事にしておいて貰わないとまずい。
レッドさん、良い仕事!
「でも、もし怪物化が三界接合だとしたら再構築は無理よ。一度ばらしてしまったら例え元の三つを揃えても元の通りには出来ないの。三界接合は縁の切れた部分を人為的に繋ぐ技……つまり理論上、死んだ者を生き返らせる事が出来る……そういう様に見える。ところが三界接合でも出来ないのよ。世の習い通り、三界接合を持ってしても命の再生は出来ない」
そうなるだろう。死んだら絶対に生き返れないと繰返してきたもんな。絶対に、だ。禁忌技とはいえ三界接合とやらでもやっぱり生き返りは叶えられない。似たような感じにはなるが、それはすなわち生き返りではないとリオさんは言っているのだろう。ぶっちゃけ、死霊召喚に近い感じではないかと俺は勘ぐる。
「でもね、ここが禁忌と呼ばれる所なんだけど……元の三界は維持出来ないのだけど別の三界にすれば維持出来てしまったりするのよね」
「……どういうこった?」
「つまり……死んで肉体が欠如したとする。そこに、別の肉体を持ってきて繋いで死を回避させるという技が可能なのよ。肉体じゃなくても良いけど肉体の例が多いかしらね……。だから、合成獣理論って一般的には言われる訳だし。ようするにまったく同じものを再生はできないのだけど、少なくとも三つのうち二つまでは同じものを再生出来てしまうの……三界接合という技術は」
そこで、リオさんは禁忌とされて記録が殆ど抹消されたという、三界接合技術の祖と呼ばれる人物に付随した伝説を教えてくれた。
かなり記録が破棄されてしまって穴も多いらしい。そこら辺を推測で埋めるに、だな。
昔西方に死人でさえ甦らせるとまで言われた伝説の医者がいたそうだ。
おおい、それ医者でいいのか?暗黒医者?
しかしこの医者、その後西方から北東あるいは北方の方に隠居してしまったそうである。この医者の伝説は、北東方位神の事じゃないか、という諸説もあるとかいうが……ええと?北東方位神に医学神と呼ばれた奴がいるとかでファーステクとかいう……リコレクトしたって事は、戦士ヤトでも知っているって事な。
てゆーかその、方位神て具体的には何よと突っ込んだら、本来見えない触れ得ない大陸座と同じようなものよ、とリオさんが答えてくれた。
手っ取り早く言うと神様だそうだ。大陸座の事は神様、とは言わないからな。それに対し方位神と呼ばれているのは『神様』に近い扱いを受けている人格者の事だ、と。
それ位の事も知らないの?とかアベルに言われて、そりゃ方位神くらいは知ってるがなんでんなモンがいるんだよ?お前分かるか?とふっかけて……ケンカになりそうになった所をクオレが仲裁してくれたと思ってください。
とにかく、北東大陸座の事を称号で呼ぶと『医学神』になるらしい。伝説となっている医者とは、その医学神の事ではないのかという説もあるようだが、リオさんはそれと西方の伝説の医者は別だって考えているようだ。詳しく調べれば分かる事で活躍している時代が違うじゃない、とかブツブツ言っていた。
死者さえ復すと言われた伝説の医者の名前は点点分からないそうだ。分からないのだが、そいつには8人の弟子がいたという。その8人の弟子の行いに怒って襲いかかり『食べてしまった』という伝説もあるんだとか。
おかげさまでその伝説の医者は、人間じゃなくて怪物として伝わっている事が多いそうだ。なんでも、八つ手があるとか、八つ顔があるとか、そんな関連事項で西方のあちこちに怖い昔話として伝承されている。 その伝承が残る地域が具体的にどこかと絞り込むと……。
ようするにタトラメルツとかトライアンとかルドランとかになるのな。ぶっちゃけて8人の弟子が居た地域になるそうである。弟子の方は名前まで残っている場合もあるようだが大体が怪物……リオさん曰く合成獣だな、そういうのを飼い慣らしているような恐ろしい存在だったらしくて、土地的に禁忌になっている……と。
その怪物とも伝わる伝説の医者、弟子を全員食い殺したという伝説の医者は、西方大陸から去って北方、あるいは北東に隠居したらしい。その後どうなったかというのはリオさんにもさっぱり分からないようである。
死者をも蘇らせると言われ、怪物を侍らせる……伝説の医者は恐らく合成獣使いであり、合成獣を作る理論からして三界接合を世界にもたらした者だろうとリオさんは推測しているようだ。
弟子喰い殺して隠居して以来、三界接合と合成獣使いは世界の歴史から消えてしまったらしい。
八本腕だか八本口だかの伝説の医者が技術、そのものを弟子もろとも『食べてしまった』からだとリオさんは考えているようだ。
以来魔導師協会においても三界接合は禁忌術として開発を禁じられ、理論がシンクしたと言う。……シンクって何よ。何?サルベージの逆?そもそもサルベージって何だと今の内だ詳しく聞いてしまうぜ。
そうしたら、リオさん丁寧に教えてくれた。
魔導師協会には、聖典に位置ずけられる謎の『手引き書』があるんだってな。青の霹靂書、あるいはリバティと呼ばれる書物で、原本は全てを解読するのが難しい古代語で綴られている……あらゆる全ての魔導が記載されている、らしい。
この古代語ってのが存外読めないらしくてな、在る程度の解読は出来ているが全部ではない。おかげでリバティに書いて在る事が全部読み出せないんだと。
魔導師達が新しい魔法とか、方法を開発する。すると、その開発した理論を元に現在分かっている古代語を当てはめる形でリバティが読み解ける場合があるという。
どういう事かというと……ようするにだ。
新しく開発した!と思ったら実は、すでにリバティにその理言が書いてあった!という事があるのだそうだ。
こういう技術の事をリバティを参考にしていても、していなくとも『サルベージ』と魔導都市では言うらしい。で、逆にリバティに記載されていて読み解けなくなってしまった技術の事を『シンク』と言うのだそうだ。
へぇ、なるほどねぇと俺達、事情を知らなかった面子ばっかりだったのでお勉強になってしまいました。
とにかくだ、三界接合と呼ばれる、理論は歪であるが死人を詭弁的に返してしまうようなとんでもない技術が世の中にはあるらしい。魔導都市ではシンクしていて技術を読み出せない状況になっている。
ところが……魔王八逆星の連中が謎の混沌の怪物、魔王軍と呼ばれるものを放っているのを見てリオさんは、そこに失われたはずの技術が使われているのではないのかと勘ぐったのだな。
それで、ランドールパーティーに加わる形で魔王八逆星の追っかけをする事になったらしい。
「三界接合があれば、あの混沌の怪物を説明出来るの?」
アベルは首をかしげる。俺達、赤いバグ旗が見えてるもんで理論もへったくれも関係無いんだよな。バグってるから存在がおかしいんだろうよ、とか簡単に結論付けてしまっていた。
「三界接合、つまり人為的に別のものをつなぎ合わせる……合成行為を行うとそれを、元に戻せないのよ。魔王軍は見た目からしてとても歪な姿をしているでしょ?精神も破綻しているし理論も歪んでいる。禁忌とはいえ三界接合を甦らせようとした魔導師はけっこういるんだけど……その実験結果の怪物とどこか、似通っている気がするわ」
元に戻せない。
確かに、そのあたりからどうにも合成獣化理論をナドゥの奴、魔王軍に応用しているようにも思える。
「でも……ルドランの例を聞いて私が想定していた方法とは少し違う事が分かった。ワイズが言うに三界接合に似た技術で生物の肉体的なコピーが大量に作られていた……と聞いているわ。そしてそれが段階的に怪物化していると聞いている。私は怪物が作られる過程で技術が使われているのだと思っていたけど、そうじゃないという事になる。怪物化する前に、人間の複製という形で三界接合と思われる技術が使われているみたいなの。……でもそれじゃぁその怪物は出来損ないよ。動かないはずだわ」
「動かない?」
俺達の声がハモっちゃいました。
「技術的な問題から三つの概念を後から継ぎ足す事はできても、後から組み立てる事は出来ないはずなのよ。ルドランにあったのは怪物の抜け殻。精神の宿らない……人形という事になる。実際動いている様子はなかったと聞いているわ。でも死んでいる訳ではない」
だから容易くランドールの奴がぶっ潰す事ができたんじゃなかろうかと俺は勘ぐるぜ。
「とすると、ルドランと同じ施設があそこの、杜の奥にあるなら……」
俺は怪訝な顔で腕を組む。ここから現れたという新生魔王軍は……間違いなく動いていたぞ?
「元から自意識がない怪物なんだから、別におかしくはねぇだろ?」
「そうね、元から魔王軍は自意識の無い『ゾンビ』だったのかもしれない。鎧に何か細工があるのかしらと思ったけどそうじゃなかった。あれは時間を短期間でループさせるという平面紋章魔法だったし」
それは説明を受けている。思った通りエルドロゥが使っていた『再生光』だったようである。時間を巻き戻すのに似た作用を持ち、魔王軍がなかなか倒れないようになっていた。
実際、奴らはゾンビだろ。
魔王軍は混沌の怪物の形をしていた時から知性らしいものが全く伺えない。誰かの意思によって動いている訳だろ?
ちなみに、ゾンビというのはリアルで言う所本来はアンデットなのではなく、蛇の精霊が死した肉体に以下略、とかいうレッドのうんちくを語られた気がするがそれはリアル事情なのでスルーだ、それは俺も知ってる。この世界ではその知識は関係ない。気になる奴は各自ググれ。
必要なのはこっち、すなわち『トビラ』におけるゾンビの定義だ。
実際死霊使いのあだ名を持っていらっしゃるレッドさんにゾンビはいるのかと聞いたら、そりゃリビングデッドの事をゾンビとひっくるめて言う場合もありますよ、とか言っていた。
意味的にはトビラでも、自意識が無く術者などに操られる存在はゾンビでいいらしい。
「クオレ、あれは貴方が操っていた訳じゃないのでしょ?」
すると、何かぼけっとしていたらしい。クオレは少し慌てたように答えた。
「え?何だって?」
「だから、カルケードで貴方が嗾けてきた魔王軍。あれは貴方が操っていたんじゃないでしょうって」
「……いや、あれは……僕の命令で動かしていたよ。なんだ、アービス、説明していないのかい?」
「あー……私はてっきり説明した事になっているのだと思っていたな。話を聞くに、伝わっていないようだ」
お兄さん、ちょっと苦笑気味に頭を掻いている。
「何?どういう事?」
リオさんが怪訝な様子で目を細めた。
「僕らには魔王軍を生み出す力があるんだよ。というか、そうやって相手の意識を奪ってしまう能力、かな」
「……その過程、相手を怪物にしてしまう。私は、そうやって北魔槍の兵士達を怪物にしてしまった」
「僕は正直この能力……、好きじゃないね。あれは僕の魔王軍だ……気持ち悪いよ、僕は気持が悪くて仕方がなかったんだ。手放したくても手放す方法が見当たらない、だから君達に仕向けた。……自分にあんな能力が備わっているのだって受け入れがたいのに」
「それは……どうするの?」
ああ、リオさんは知らないんだな。
レッド達もあえて、その方法は教えてないんだ。俺は頭を掻き、アービスが口ごもっているので言ってやった。
「血肉の融合だ、手っ取り早いのだと血が混じったりするとヤバいみたいだぜ」
「え?」
どうしてそれを貴方が言うの、みたいな顔をされた。
ふむ、言っちゃうか。
「俺、やられたもんな」
魔王に下るようにようするに施術されたという事だ。
「おかげで……タトラメルツ半壊させたんだって。その事はレッドは言ってなかったのか?」
「……聞いていないわ、……なら確かに魔王軍の発生は三界接合だけが理論じゃないわね……どうして頭ごなしに否定するしかしてくれなかったのかしら」
アベルは少しがっかりした顔をした。結局リオさんの理論は赤旗解決には結びついていないと察したからだ。
「さぁな、奴らの都合はよく分からん。だがとにかく魔王軍化にゃ魔王八逆星みたいな、魔王軍化できる奴の力の介入がある。それで合ってるんだろ?」
と魔王八逆星のお二方に確認する俺。ホストとしての能力、俺達は結構前にそれに気が付いている。クオレは無言で頷いた。
「じゃぁ、その元になっている魔王八逆星を倒せば力の介入をされた末端としての魔王軍は……消えるって事になるのかしらね?」
「どうなんだ、アービス」
「それは……試そうにも試せない事だと思うけど」
そらそーだな。魔王軍化させることは出来ても任意でそれを解消出来る訳ではない。
ようするに、発端となった魔王八逆星が『消滅』したら末端も引きずられて『消滅』するんじゃないのかとリオさんは言っている。今現在健在であるアービスがその事実を確かめられるはずがない。
俺はクオレを伺う。
「お前が連れてきたあの新生魔王軍、奴らお前が魔王軍化したって事だよな?」
「……正確じゃないね。僕の管轄になったんだよ」
「どういう意味だ?」
「さぁね、よく分からないよ。僕が知っている方法以外にも何かあるんだろ。その、血肉の結合?……そういえばナドゥに血を少し抜かれたね、君がタトラメルツに残された後だ。何に使うか僕は知らなかった」
「……そうか」
それ、俺にぶち込まれてたって事だろ。それを暗にクオレは言っている。……って、待て?
「……お前が知っている方法って、何だ」
クオレは小さくため息を漏らす。
「自分がどういう存在で、何が出来るかなんて僕は説明されていない。説明しろと望んでもいない。僕はそんな事はどうでも良かったんだ……。正直その魔王八逆星である僕の血肉にそういう力がある事も僕は誰にも説明されていないし」
「じゃぁなんでカルケードのあの鎧魔王軍はお前の管轄なんだよ」
「だから、そういう風に調整されたものを渡されただけであってどうやって調整したのかなんて僕は知らなかったし、正直どうでもよくって知りたいと思わなかったうえに、知りたくなかったんだ」
クオレは顔を俯かせた上で……心の中にため込んでいる不満を口に出す。
「……自分の事など何にも関係ない、僕は何も特別な人間じゃないんだって割り切って生きてきた。信じたかったんだ、この顔は偶然であってそれ以外の何ものでもないのだって」
白い仮面を抑え、クオレは肩を震わせる。
「自分がルーンザード王家の人間だなんて事も寝耳に水だよ、ただでさえアイツと同じ顔で、それで散々嫌な思いをしてきたというのに……その上本当に兄弟だった、だなんてな!」
クオレは舌打ちして拳を固めた。
「アイツを失脚させるためだけに王家に連れ戻した、アイジャンの事はアイツ以上に許せなかったな。アイツは僕という弟がいる事すら知らなかったんだものね、のんきなものさ。でもアイツは魔王八逆星にまでなって国を脅かしている叔父を斬り殺してくれるのかと思いきや、それをしなかった」
「……だから、お前が」
裁きを受けてから断罪されるはずだったアイジャンを獄中で殺してしまったのだ……エルークは。
いや、この仮面の青年クオレの事な。
「ふふっ……それで僕はアイツから憎しみを引き出せるかも知れない。そう思ったのに……見ろよ、途端にアイジャンから魔王八逆星の称号が僕に乗り移ってきた」
「……何?」
乗り移る、だと?それが……お前が知っている『方法』か。
その話は今始めて聞いたぞ……!
赤旗は、そんな感染ルートもあるというのか?
鮮やかに紅葉を始めた森を越えてトライアン地方に入った。事前情報通りまぁ警戒されておりますなぁ……。俺達が目的としている地域をぐるりと囲むようにファマメント国軍が展開している。
「……ちょっとこの警戒、異常じゃねぇか?」
「……ええ、そうね」
ヘタにウロウロしていて声を掛けられると面倒が起りそうなので、俺達コソコソ森の中で作戦会議。足下にはこんもりと落ち葉が降り積もっている。このあたりは針葉樹と落葉樹が混じってんだな。
別に顔が割れている、良い意味でも悪い意味でも有名人というわけじゃないが……ちょっとばかり面子がオカしいだろ?
仮面を被った青年とか、全身真っ黒い鎧の人とか、明らかに遠東方人のアベルとか、余り人前に出ない種族である暗黒貴族種のマツナギとか。
普通だったらふぅんめずらしいで済むのだが、あの警戒ッぷりの中では目立つのは致命的だ。職務質問されたら……リオさんだけで上手く場を切り抜けられるだろうか?心配である。
ここにレッドがいるなら嘘八百で突破してくれるんだろうけどなぁ。そういう技能は文句なしに奴は頼れる。リオさんとの付き合いはまだ短いからな、手腕がどれ程のものかよく把握してないのもある。
「貴方の言う通り、ここが魔王軍の本拠地で間違いないようね」
「ようやく信じてくれたようだね」
クオレは偉そうに頷いている。
最初からリオさんの方でも魔王軍の出所を絞り込んでいたようだが、クオレがはっきりここだだと場所を示してきたんだよな。で、実際その通りの場所をファマメント軍が包囲している。おかげさまで俺達、こっから先に進めない。
俺は地図を見せて貰っているが……トライアンのどこが本拠地って……小さな山を含む杜だな。
都市部郊外の農村酪農地域にぽつりとある、何も変哲な感じは受けない杜。……別におかしい所はないが針葉樹は無い。冬になったら丸裸になるんだろう広葉樹で成形されている杜だ。
そこをファマメント軍は少し距離を取って取り囲んでいるように配置している。どっかに包囲網の切れ目はないかとアインとマツナギで手分けして探って来てくれたんだがダメだったらしい。
逆にこの杜が目的地だとはっきり知らしめている位、がっちり包囲が固められているってさ。
「見た感じ単なる杜だよな」
間に平原を挟んで伺える問題の杜を俺は遠くに伺う。そこは一つの、取り残された森と云う感じではない。明らかに人工的に作られた『杜』だ。全部広葉樹だと言ったよな?辺りの森とは明らかに、生えてる木の種類が多くて不自然である。その杜を……何故か木の生えない草原が取り囲んでいる。視界を遮るものが少ないので、ファマメント軍がばっちり監視していてヘタに出て行って近づけそうにない。
あとは……夜の闇に紛れるしかないかなぁ。
こんな時ナッツさんがいれば姿眩ましの術とか使ってくれるだろうに。
「あそこに何か、怪しい施設があるの?」
アインの質問にリオさんは小さく息を付く。
「……そうね、見た目は何って事はないわね」
「あの中に何か……タトラメルツみたいに建物でもあるのかしら?」
アベルの言葉に、その通りとリオさん頷いて答える。
「ええ。冬になると建物らしいものが見えるらしいけど……私が調べた限り、あの杜はこの辺りでは明らかに恐れられていて禁忌の扱いよ。近くの村にでも行って話を聞けば分かると思うわ……怪物が出ると言われて子供の頃から近づかないように教育されている。ほら、あの杜の周りの平原。手付かずでしょ?」
「手付かず……って?」
「西方は農地を巡ってずっと戦争やってたくらいの所よ?土地は慢性的に不足している。勿論、土地が痩せていて放置されている、という場合もあるでしょうけどここは、そうじゃないわ」
俺は今潜んでいる森の地面を手で少し穿る。枯れ葉を掻き分け腐葉土の下には赤い土の粘土層が現れた。田舎者の俺は分かるな、この土地が枯れているかどうか。土を掘るまでも無く、生えている植生だけで把握出来ちまう。
リオさんの言う通りここの土地は肥えている方だ、農作地として悪く無い筈。
アベルとアービスが分かってない顔をしているので俺は土を手の中で弄りながら言った。
「平原になってるのがおかしいんだよ。ようするに、人の手が入ってないって事だろう。森が自然に開けているんだぜ?一々木を切り倒さなくても畑に出来る土地があるのに放置って、おかしいだろ。川だって近い、森もあるって事は地下水脈もあるはずだから……」
俺はリオさんを振り返る。
「ここは、タトラメルツのあの古城と同じなんだな」
「ええ、そう。昔住んでいた人や、そこにあった施設の関係で人が恐れて近づかない。そういう杜よ」
「じゃぁやっぱりまた同じ施設か?」
何と同じって……あれだ。タトラメルツの元魔王本拠地。
「その通り。私はその研究者だから」
三界接合、だったな。
これは東方魔導師の専門用語だ、分かりやすく言えば『合成獣生成理論』の事で、タトラメルツで魔王八逆星が本拠致にしていた施設もその、三界接合という禁忌を研究していた者が居たと云われ恐れられていた。人払いが済んでいる場所として、魔王八逆星が根城にしたのだと思っていたが、もしかすると逆かもしれないんだな。
魔王八逆星、あるいは……ナドゥの都合でその施設跡だと都合の良い何かがあったのかもしれない。
この杜も同じく、大昔に合成獣を研究していた奴の研究施設があったとされる場所だって事だ。
三界接合の研究者だというリオさん曰く、同じ流派で西方から東方コウリーリス付近にかけて幾つかの研究施設があった歴史がサルベージ出来ているんだ、とか。サルベージっていうのは要するに……ええと、魔導書の解読の事らしいが、とにかくそういうのがあったって云う歴史を裏付ける書物があったって事なのだろう。
ルドラン、ってリオさんが前に言ってたな。これはコウリーリス国側にある今はディアス国で統治されている町の名前だ。タトラメルツの東隣、黒竜海側にある町である。
ここにも同じ施設があったそうだが、その区画はやっぱり恐れられてて人の出入りがあんまりなかったようだ。
人の出入りがない、恐れられていて誰も近づかない。隠れる側にはもってこいの場所になるよなぁ。
コウリーリスをデスマーチしてた頃リオさん達は、そのルドランに立ち寄っているらしい。理由はなんか聞いたけどよくわからんかったが……とにかく都合で偶々立ち寄ったらた、そこがマジ魔王軍の拠点でアタリ引き当てちゃったーとかで。
その頃はまだランドールもマトモというか、相応というか。
爆裂『勇者』だったのでルドランに魔王軍の拠点があるのを無視は、しなかった様だ。在るって分かったから勢いで潰したという話であった。
なんでも、そこで魔王軍……混沌の怪物が『生産』されているのを目の当たりにしてしまったらしい。
おかげさまでリオさんらは知っている。魔王軍という混沌の怪物がみんな、例外なくもとは人間であるって事実を……な。
多くの人間が、ルドランにあった『忌避されている土地』の地下で、怪物に変えてしまう工場っぽいのがあったんだってさ。そりゃぁもう酷い施設だったらしいと顔色悪く話してくれた。
ただ、実際リオさんは直接それを見た訳ではないそうだ。偶々留守番をしていたが、ワイズから事情を詳しく聞いて……それでも具合が悪くなるような事が行われていたと言っている。
そこで行われている恐ろしい実体を知っている俺はしきりに頷いてしまうな。
囚われて、怪しい薬剤ぶち込まれて……だろ?
そこで魔王八逆星には出会わなかったのか?と聞いたら恐らく会っていないと思う、とリオさんは言っていた。というか、その前にランドールが暴れまくっちゃって話を聞ける人がいるかどうかとか関係なく全部工場を壊してしまったとか。
え?
囚われていた人は助けなかったのかよ!
そのように驚いたらその必要は無いでしょう、とリオさんは少し言いにくそうに答えた。
殆どの人がもう殆ど自意識がない状態だった上、どうにも……。
同じ顔をした人が沢山いたとかで。それが即ち『三界接合』が禁忌である最もな理由だ、とかで。
うー……それは気持ち悪いな。
要するにナドゥの仕業って事だよな、魔王軍の材料になる……いや、正確には魔王化の実験をするに必要な『人間』を多く確保する為に、三界接合という禁忌技術を使い人間を複製していたのだろう。アービスが証言していた事にも合致する。
そんな危ない魔王軍工場があったルドランと、今目前にしているトライアンの施設は、地図で見る限り距離的それ程離れていない。
というか、このトライアン地方もルドランも、俺達が魔王八逆星と対峙したタトラメルツに近いんである。
リオさんは危惧していたのだな。
おそらく、トライアンにもルドランと同じような施設があるだろう……と。ルドランの状況を知ってからトライアンにも同じような施設があるだろうと懸念したらしいのだが、ランドールが蜘蛛のウリッグ追っかけてデスマーチ中。そっちの方がランドールパーティーにとっては『重要』ってんだから、リオさんはトライアンの件は飲み込んで、ランドールの主張に従うしかなかったんだ。
あの野郎……結局何がしたかったのか分からねぇな。
アイツがもっとマシに魔王軍相手に立ち回っていればッ!
そのように憎たらしく思ったりもするが、そうならなかったのだからしょうがない。もはや、奴の狙いは魔王の撲滅ではない可能性すら出てきているのだ。
今は怒りは腹の中に収めておこう。
この忌避されている施設付近から謎の軍隊が現れ……あちこちで被害を出しながらカルケード国まで到達している。道中ファマメント軍を突破したらしい事はミンが掴んだ情報の通り。進行道中、滅ぼされた町もあるという。
「あの謎の甲冑纏った新生魔王軍、奴らの目撃情報と被害があるって聞いたけど、具体的にどんな被害だったんだ?」
俺の質問に、リオさんは困ったように目を伏せた。
「それが、どうにもウリッグと同じような被害みたいなのよね」
「……ウリッグと同じような被害って……何だ?」
よくわからん、俺の問いにアベルがため息を漏らす。
「アンタは知らないかもね。あの時速攻攫われていった訳だし。ドリュアートを目指している最中あたし達はアレに遭遇したでしょ?」
俺が蜘蛛に攫われてた間の事か。
「ウリッグはねぇ、人間を食べちゃうみたい。血を飲み干されて干からびたようにして殺されていたわ」
アインがさらりと言った。
うげ、俺はてっきり新生魔王軍の被害って、村が略奪されて火を付けられたり壊されたり、あるいは年齢制限があるので書けない事とか。そんな被害だと思ってました。いやまぁ、アインが言っているのも十分に年齢制限掛かる事だが。
「……というよりは、レッドの話を統合するとウリッグというよりは謎の少年の仕業に近いみたいなのよね」
リオさんはアービスを伺いながら言った。ウリッグが連れていた『人食い』少年、はアービスの弟さんらしいもんな。
「じゃ、人間が食い散らかされた被害があったって事かよ」
俺は自分が色々と楽天的に考えていた事を忌々しく思い始めていた。
て事はあれだろ?カルケードで出ていた誘拐事件。あれの結末が見えて来ちまうじゃねぇか……!
「そんな怪物を……あそこで作ってるってのか」
「恐らくね、ルドランの工場の事を考えるとそうなるのではないかと私は考えているわ。彼らは姿こそ人間の様だけど、振る舞う様子はまさしく怪物。今までの魔王軍は町を襲う事はあっても人を食べる、だなんて話は聞いていないもの」
「そうなのか?」
結構初耳だ。
生物は……やっぱ、食べないと生きていけない訳だろ?でも魔王軍は怪物だ、動物でも魔物でもない。どうなんだろう……奴らは『喰う』のか?具体的に言えば死んでいる、存在が破綻している怪物だけど……。生物は食べないと生きていけないが、怪物はどうなるのだろう?
魔王軍は何かを食べる必要があるのか?いや、少し考えればこれもすでに俺は知っている。
「食べる必要はなさそうだし、食べているのを見た事がない」
ぼそりとアービスが呟いた。
「実際俺も、食べなくても大丈夫みたいだし……味覚は生きているから食べられない訳じゃないけど」
そう、少なくとも魔王八逆星は食わなくてもいいし、眠らなくてもよいという都合をすでに俺は知っている。
奴らはどこまでも生物的に破綻している。
なんて事だ。
魔王軍から喰われた、なんて被害が出たのは今回が初めてなんだ。
あの不気味な鎧の怪物達、今まで俺達が倒してきた混沌の怪物とはやっぱり規格が違う。
あの人型の、鎧を纏った魔王軍は事もあろうか人間を喰う……!
「言ったじゃないか、仕様が違うって」
クオレの言葉に、確かにミスト王の前でそんな事を言っていたのを思い出す。そうだ、新しい魔王軍は維持コストが掛るから村を一つよこせと交渉しに来たんだよな、クオレは。もちろんミスト王はこれをどこまでも拒否した訳だが……。
てことは何か、それ分かってなかったの俺だけか。だから今まで誰も説明してくれなかった訳だなッううう、今更ながらおバカな自分が呪わしい。
……その後、南国は大丈夫だろうか。何か問題が起きていなければいいのだが。
「くそ……!リオさん、どうやってあの包囲網を突破する?あの杜の中に施設があって、そこに今出てきてる新生魔王軍の生産ラインがあるわけだろ?」
「恐らくね」
「夜か?夜にこっそり行くしかねぇのか?」
「おちついてヤト……その前に。確認しておく事があるの」
「何だよ!」
リオさんは腕を組み、杜を伺う。
「本当に魔王軍の生成理論が三界接合なのかどうか、という事」
「誰に確認するんだい」
マツナギの言葉にリオさんは首を振る。
「確かに確認は出来ないわ、それをやっている暇はない。だけど推論は立てられる。私は禁忌三界接合の研究者よ。誰よりもこの技術に詳しい自負がある。だから今起きている魔王軍という怪物化について、在る程度的確だと思える推論があるの」
「魔王化の理屈って事よね?」
そこ、解明しない事には赤旗除去出来ないって事だけは理解しているアベルが食いついた。
「そうなると思う」
リオさんは頷いて目を閉じ、一時置いて言葉を続ける。
「でも、レッドは間違っているって言うのよ。というより……そうであって欲しくない、という感じなのかしらね。彼曰く私の理論は全てではない、と断言気味に言うのよね……」
「それ、俺らが理解してないとあそこには突撃できねぇ事なのかよ」
なんか、このままリオさんに話をされると重大な事実がアベルに向けてバレてしまいそうで怖いな……。そも、どうしてアベルの奴こっちについて来たんだっけ?組み分けがどういう理由でされたのか俺、よく分かんない。
「レッドはそれで全てじゃないって言うけど。魔王軍の発生技術が三界接合だとするなら残念ながら、魔王軍化したものを元に戻すことは出来ないのよね」
一瞬そんな事は分かってるよと流しそうになったがそれじゃまずいのだ。俺はちょっとだけ遅れて頷いてから言った。
「そうか……魔王軍化したのを人間に戻す手段は無い、って事だな」
「……案外簡単に納得するのね?」
やっぱりそういうツッコミは貰うよな。俺は苦笑しながら言った。
「俺達どれだけの魔王軍を蹴散らしてきたと思ってんだよ。元に戻るかも知れない、だなんて可能性考えていたら……埒あかないと思わないのか?」
「私達は私達で魔王軍を元に戻す方法がないのか色々試してきたからね。無理かも知れない……というあきらめは少しあったんだ」
マツナギが俺の言い訳に加勢してくれる。軍師連中がいないので俺が惚けていちゃダメだ。
「そう。……でもレッドはその限りではないって否定するのよ」
そりゃな。アベルに嘘ついてるからそう言う事にしておいて貰わないとまずい。
レッドさん、良い仕事!
「でも、もし怪物化が三界接合だとしたら再構築は無理よ。一度ばらしてしまったら例え元の三つを揃えても元の通りには出来ないの。三界接合は縁の切れた部分を人為的に繋ぐ技……つまり理論上、死んだ者を生き返らせる事が出来る……そういう様に見える。ところが三界接合でも出来ないのよ。世の習い通り、三界接合を持ってしても命の再生は出来ない」
そうなるだろう。死んだら絶対に生き返れないと繰返してきたもんな。絶対に、だ。禁忌技とはいえ三界接合とやらでもやっぱり生き返りは叶えられない。似たような感じにはなるが、それはすなわち生き返りではないとリオさんは言っているのだろう。ぶっちゃけ、死霊召喚に近い感じではないかと俺は勘ぐる。
「でもね、ここが禁忌と呼ばれる所なんだけど……元の三界は維持出来ないのだけど別の三界にすれば維持出来てしまったりするのよね」
「……どういうこった?」
「つまり……死んで肉体が欠如したとする。そこに、別の肉体を持ってきて繋いで死を回避させるという技が可能なのよ。肉体じゃなくても良いけど肉体の例が多いかしらね……。だから、合成獣理論って一般的には言われる訳だし。ようするにまったく同じものを再生はできないのだけど、少なくとも三つのうち二つまでは同じものを再生出来てしまうの……三界接合という技術は」
そこで、リオさんは禁忌とされて記録が殆ど抹消されたという、三界接合技術の祖と呼ばれる人物に付随した伝説を教えてくれた。
かなり記録が破棄されてしまって穴も多いらしい。そこら辺を推測で埋めるに、だな。
昔西方に死人でさえ甦らせるとまで言われた伝説の医者がいたそうだ。
おおい、それ医者でいいのか?暗黒医者?
しかしこの医者、その後西方から北東あるいは北方の方に隠居してしまったそうである。この医者の伝説は、北東方位神の事じゃないか、という諸説もあるとかいうが……ええと?北東方位神に医学神と呼ばれた奴がいるとかでファーステクとかいう……リコレクトしたって事は、戦士ヤトでも知っているって事な。
てゆーかその、方位神て具体的には何よと突っ込んだら、本来見えない触れ得ない大陸座と同じようなものよ、とリオさんが答えてくれた。
手っ取り早く言うと神様だそうだ。大陸座の事は神様、とは言わないからな。それに対し方位神と呼ばれているのは『神様』に近い扱いを受けている人格者の事だ、と。
それ位の事も知らないの?とかアベルに言われて、そりゃ方位神くらいは知ってるがなんでんなモンがいるんだよ?お前分かるか?とふっかけて……ケンカになりそうになった所をクオレが仲裁してくれたと思ってください。
とにかく、北東大陸座の事を称号で呼ぶと『医学神』になるらしい。伝説となっている医者とは、その医学神の事ではないのかという説もあるようだが、リオさんはそれと西方の伝説の医者は別だって考えているようだ。詳しく調べれば分かる事で活躍している時代が違うじゃない、とかブツブツ言っていた。
死者さえ復すと言われた伝説の医者の名前は点点分からないそうだ。分からないのだが、そいつには8人の弟子がいたという。その8人の弟子の行いに怒って襲いかかり『食べてしまった』という伝説もあるんだとか。
おかげさまでその伝説の医者は、人間じゃなくて怪物として伝わっている事が多いそうだ。なんでも、八つ手があるとか、八つ顔があるとか、そんな関連事項で西方のあちこちに怖い昔話として伝承されている。 その伝承が残る地域が具体的にどこかと絞り込むと……。
ようするにタトラメルツとかトライアンとかルドランとかになるのな。ぶっちゃけて8人の弟子が居た地域になるそうである。弟子の方は名前まで残っている場合もあるようだが大体が怪物……リオさん曰く合成獣だな、そういうのを飼い慣らしているような恐ろしい存在だったらしくて、土地的に禁忌になっている……と。
その怪物とも伝わる伝説の医者、弟子を全員食い殺したという伝説の医者は、西方大陸から去って北方、あるいは北東に隠居したらしい。その後どうなったかというのはリオさんにもさっぱり分からないようである。
死者をも蘇らせると言われ、怪物を侍らせる……伝説の医者は恐らく合成獣使いであり、合成獣を作る理論からして三界接合を世界にもたらした者だろうとリオさんは推測しているようだ。
弟子喰い殺して隠居して以来、三界接合と合成獣使いは世界の歴史から消えてしまったらしい。
八本腕だか八本口だかの伝説の医者が技術、そのものを弟子もろとも『食べてしまった』からだとリオさんは考えているようだ。
以来魔導師協会においても三界接合は禁忌術として開発を禁じられ、理論がシンクしたと言う。……シンクって何よ。何?サルベージの逆?そもそもサルベージって何だと今の内だ詳しく聞いてしまうぜ。
そうしたら、リオさん丁寧に教えてくれた。
魔導師協会には、聖典に位置ずけられる謎の『手引き書』があるんだってな。青の霹靂書、あるいはリバティと呼ばれる書物で、原本は全てを解読するのが難しい古代語で綴られている……あらゆる全ての魔導が記載されている、らしい。
この古代語ってのが存外読めないらしくてな、在る程度の解読は出来ているが全部ではない。おかげでリバティに書いて在る事が全部読み出せないんだと。
魔導師達が新しい魔法とか、方法を開発する。すると、その開発した理論を元に現在分かっている古代語を当てはめる形でリバティが読み解ける場合があるという。
どういう事かというと……ようするにだ。
新しく開発した!と思ったら実は、すでにリバティにその理言が書いてあった!という事があるのだそうだ。
こういう技術の事をリバティを参考にしていても、していなくとも『サルベージ』と魔導都市では言うらしい。で、逆にリバティに記載されていて読み解けなくなってしまった技術の事を『シンク』と言うのだそうだ。
へぇ、なるほどねぇと俺達、事情を知らなかった面子ばっかりだったのでお勉強になってしまいました。
とにかくだ、三界接合と呼ばれる、理論は歪であるが死人を詭弁的に返してしまうようなとんでもない技術が世の中にはあるらしい。魔導都市ではシンクしていて技術を読み出せない状況になっている。
ところが……魔王八逆星の連中が謎の混沌の怪物、魔王軍と呼ばれるものを放っているのを見てリオさんは、そこに失われたはずの技術が使われているのではないのかと勘ぐったのだな。
それで、ランドールパーティーに加わる形で魔王八逆星の追っかけをする事になったらしい。
「三界接合があれば、あの混沌の怪物を説明出来るの?」
アベルは首をかしげる。俺達、赤いバグ旗が見えてるもんで理論もへったくれも関係無いんだよな。バグってるから存在がおかしいんだろうよ、とか簡単に結論付けてしまっていた。
「三界接合、つまり人為的に別のものをつなぎ合わせる……合成行為を行うとそれを、元に戻せないのよ。魔王軍は見た目からしてとても歪な姿をしているでしょ?精神も破綻しているし理論も歪んでいる。禁忌とはいえ三界接合を甦らせようとした魔導師はけっこういるんだけど……その実験結果の怪物とどこか、似通っている気がするわ」
元に戻せない。
確かに、そのあたりからどうにも合成獣化理論をナドゥの奴、魔王軍に応用しているようにも思える。
「でも……ルドランの例を聞いて私が想定していた方法とは少し違う事が分かった。ワイズが言うに三界接合に似た技術で生物の肉体的なコピーが大量に作られていた……と聞いているわ。そしてそれが段階的に怪物化していると聞いている。私は怪物が作られる過程で技術が使われているのだと思っていたけど、そうじゃないという事になる。怪物化する前に、人間の複製という形で三界接合と思われる技術が使われているみたいなの。……でもそれじゃぁその怪物は出来損ないよ。動かないはずだわ」
「動かない?」
俺達の声がハモっちゃいました。
「技術的な問題から三つの概念を後から継ぎ足す事はできても、後から組み立てる事は出来ないはずなのよ。ルドランにあったのは怪物の抜け殻。精神の宿らない……人形という事になる。実際動いている様子はなかったと聞いているわ。でも死んでいる訳ではない」
だから容易くランドールの奴がぶっ潰す事ができたんじゃなかろうかと俺は勘ぐるぜ。
「とすると、ルドランと同じ施設があそこの、杜の奥にあるなら……」
俺は怪訝な顔で腕を組む。ここから現れたという新生魔王軍は……間違いなく動いていたぞ?
「元から自意識がない怪物なんだから、別におかしくはねぇだろ?」
「そうね、元から魔王軍は自意識の無い『ゾンビ』だったのかもしれない。鎧に何か細工があるのかしらと思ったけどそうじゃなかった。あれは時間を短期間でループさせるという平面紋章魔法だったし」
それは説明を受けている。思った通りエルドロゥが使っていた『再生光』だったようである。時間を巻き戻すのに似た作用を持ち、魔王軍がなかなか倒れないようになっていた。
実際、奴らはゾンビだろ。
魔王軍は混沌の怪物の形をしていた時から知性らしいものが全く伺えない。誰かの意思によって動いている訳だろ?
ちなみに、ゾンビというのはリアルで言う所本来はアンデットなのではなく、蛇の精霊が死した肉体に以下略、とかいうレッドのうんちくを語られた気がするがそれはリアル事情なのでスルーだ、それは俺も知ってる。この世界ではその知識は関係ない。気になる奴は各自ググれ。
必要なのはこっち、すなわち『トビラ』におけるゾンビの定義だ。
実際死霊使いのあだ名を持っていらっしゃるレッドさんにゾンビはいるのかと聞いたら、そりゃリビングデッドの事をゾンビとひっくるめて言う場合もありますよ、とか言っていた。
意味的にはトビラでも、自意識が無く術者などに操られる存在はゾンビでいいらしい。
「クオレ、あれは貴方が操っていた訳じゃないのでしょ?」
すると、何かぼけっとしていたらしい。クオレは少し慌てたように答えた。
「え?何だって?」
「だから、カルケードで貴方が嗾けてきた魔王軍。あれは貴方が操っていたんじゃないでしょうって」
「……いや、あれは……僕の命令で動かしていたよ。なんだ、アービス、説明していないのかい?」
「あー……私はてっきり説明した事になっているのだと思っていたな。話を聞くに、伝わっていないようだ」
お兄さん、ちょっと苦笑気味に頭を掻いている。
「何?どういう事?」
リオさんが怪訝な様子で目を細めた。
「僕らには魔王軍を生み出す力があるんだよ。というか、そうやって相手の意識を奪ってしまう能力、かな」
「……その過程、相手を怪物にしてしまう。私は、そうやって北魔槍の兵士達を怪物にしてしまった」
「僕は正直この能力……、好きじゃないね。あれは僕の魔王軍だ……気持ち悪いよ、僕は気持が悪くて仕方がなかったんだ。手放したくても手放す方法が見当たらない、だから君達に仕向けた。……自分にあんな能力が備わっているのだって受け入れがたいのに」
「それは……どうするの?」
ああ、リオさんは知らないんだな。
レッド達もあえて、その方法は教えてないんだ。俺は頭を掻き、アービスが口ごもっているので言ってやった。
「血肉の融合だ、手っ取り早いのだと血が混じったりするとヤバいみたいだぜ」
「え?」
どうしてそれを貴方が言うの、みたいな顔をされた。
ふむ、言っちゃうか。
「俺、やられたもんな」
魔王に下るようにようするに施術されたという事だ。
「おかげで……タトラメルツ半壊させたんだって。その事はレッドは言ってなかったのか?」
「……聞いていないわ、……なら確かに魔王軍の発生は三界接合だけが理論じゃないわね……どうして頭ごなしに否定するしかしてくれなかったのかしら」
アベルは少しがっかりした顔をした。結局リオさんの理論は赤旗解決には結びついていないと察したからだ。
「さぁな、奴らの都合はよく分からん。だがとにかく魔王軍化にゃ魔王八逆星みたいな、魔王軍化できる奴の力の介入がある。それで合ってるんだろ?」
と魔王八逆星のお二方に確認する俺。ホストとしての能力、俺達は結構前にそれに気が付いている。クオレは無言で頷いた。
「じゃぁ、その元になっている魔王八逆星を倒せば力の介入をされた末端としての魔王軍は……消えるって事になるのかしらね?」
「どうなんだ、アービス」
「それは……試そうにも試せない事だと思うけど」
そらそーだな。魔王軍化させることは出来ても任意でそれを解消出来る訳ではない。
ようするに、発端となった魔王八逆星が『消滅』したら末端も引きずられて『消滅』するんじゃないのかとリオさんは言っている。今現在健在であるアービスがその事実を確かめられるはずがない。
俺はクオレを伺う。
「お前が連れてきたあの新生魔王軍、奴らお前が魔王軍化したって事だよな?」
「……正確じゃないね。僕の管轄になったんだよ」
「どういう意味だ?」
「さぁね、よく分からないよ。僕が知っている方法以外にも何かあるんだろ。その、血肉の結合?……そういえばナドゥに血を少し抜かれたね、君がタトラメルツに残された後だ。何に使うか僕は知らなかった」
「……そうか」
それ、俺にぶち込まれてたって事だろ。それを暗にクオレは言っている。……って、待て?
「……お前が知っている方法って、何だ」
クオレは小さくため息を漏らす。
「自分がどういう存在で、何が出来るかなんて僕は説明されていない。説明しろと望んでもいない。僕はそんな事はどうでも良かったんだ……。正直その魔王八逆星である僕の血肉にそういう力がある事も僕は誰にも説明されていないし」
「じゃぁなんでカルケードのあの鎧魔王軍はお前の管轄なんだよ」
「だから、そういう風に調整されたものを渡されただけであってどうやって調整したのかなんて僕は知らなかったし、正直どうでもよくって知りたいと思わなかったうえに、知りたくなかったんだ」
クオレは顔を俯かせた上で……心の中にため込んでいる不満を口に出す。
「……自分の事など何にも関係ない、僕は何も特別な人間じゃないんだって割り切って生きてきた。信じたかったんだ、この顔は偶然であってそれ以外の何ものでもないのだって」
白い仮面を抑え、クオレは肩を震わせる。
「自分がルーンザード王家の人間だなんて事も寝耳に水だよ、ただでさえアイツと同じ顔で、それで散々嫌な思いをしてきたというのに……その上本当に兄弟だった、だなんてな!」
クオレは舌打ちして拳を固めた。
「アイツを失脚させるためだけに王家に連れ戻した、アイジャンの事はアイツ以上に許せなかったな。アイツは僕という弟がいる事すら知らなかったんだものね、のんきなものさ。でもアイツは魔王八逆星にまでなって国を脅かしている叔父を斬り殺してくれるのかと思いきや、それをしなかった」
「……だから、お前が」
裁きを受けてから断罪されるはずだったアイジャンを獄中で殺してしまったのだ……エルークは。
いや、この仮面の青年クオレの事な。
「ふふっ……それで僕はアイツから憎しみを引き出せるかも知れない。そう思ったのに……見ろよ、途端にアイジャンから魔王八逆星の称号が僕に乗り移ってきた」
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乗り移る、だと?それが……お前が知っている『方法』か。
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