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10章 破滅か支配か 『選択肢。俺か、俺以外』
書の3後半 光と影の『被害者連合会結成の件』
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■書の3後半■ 光と影の Organize Alliance with a Victim
で、どうなったかというと、だ。
白い仮面を被った『クオレ』を連れてだな。俺達は西方ファマメント国の三国隣接地帯の一つ、トライアンに向かう事になっている訳だ。
王様に頼まれちゃしかたがねぇ……っていうか。
恐らくは、コイツを南国に置きっぱなしにするのも色々とまずいのだろう。
クオレを魔王八逆星達がどのような扱いにしているのかいまいちよく分からないのだが……。
例えば捕えて牢屋に入れておいたり、エルークとして裁いてしまったり、果ては主張の通り殺してしまったりすると、だな。
魔王八逆星側に南国カルケードを攻撃する口実を与えてしまう事に成りかねないのだそうだ。
攻め入りたいなら口実もお膳立ても面倒だ、堂々と入り込んでくればいいだろう。俺はそう思うんだが……魔王連中の思惑ってのはもう少し高等なのな。
要するに、縁が結べるか結べないかって事だとか天使教的にナッツが言っていた。
これが在るか無いかで『外部』に向ける情報が違ってくる。
まずケースその1。
カルケード国で魔王八逆星クオレを仕留めた、という事になったとしよう。この場合辿る展開は二つある。一つは、クオレが実はエルークだという情報が悪意を持って意図的に流され、カルケード第二王子が魔王だったとはどういう事だ?的な不満を煽られる場合。それから……魔王八逆星達が討ち取られたクオレの報復に出る、という場合だな。魔王八逆星が何をしたいか、にもよるだろうが。
魔王との縁を辿ってファマメント国がカルケード国に戦を仕掛けたいという意図を持っていたとすると案外、有り得無くはないという事が分かるだろう。一体全体どこの国で魔王が飼われいるのかよく分かってないだろ?少なくともカルケードは白だけど、ファマメント国はどうなのだろう。魔王討伐隊を出しているとは言え、天使教と逆サイドにあたる政治部門の裏側など分かったものじゃないってのはランドールの件とか含めよーくわかった。
ケースその2。
クオレあるいはエルークとしてカルケードで拘束、幽閉した場合はどうなるか。ケース1の場合とほぼ同じだな。殺せばいいってもんじゃない、生きてても問題だ。そもそもクオレにはカルケードに向けた圧倒的な悪意がある。これが解消しない限り……ケース1と同じ事になるだろう。
ケースその3。
カルケード国でクオレをエルークと認知し、エルークとして裁いた場合。生死の問題はケース1,2と同じく。違うのはクオレがカルケード第二王子だと国で認めた上でこれを裁くという厳粛な態度を取った事。これが出来れば色々とカルケードにもお膳立てが成立するんだよな。ようするに、きっかり縁が切れる。ケース3が成立するならカルケードは魔王ときっちり縁が切れるので余計な計略に巻き込まれなくて済むだろう。
身内から出した魔王に厳粛に処罰した、と言えばファマメント国も強く追求は出来まい。何しろファマメント国なんて以下略だもんな。
魔王討伐隊第一陣が現行魔王八逆星って事実があるだろ?
ふむ、そう言えばその事実を知っているのは異端、天使教のお二人になるんだよなぁ。だからワイズは狙われてナッツも恨みを買っている?……いや、よく分からん。
そんならケースその3を実行すりゃいいじゃん、と言いたい所なのだが。
ぶっちゃけ、ミストお兄ちゃんは出来れば……ケース3を選びたくないみたいなので可能性が開けてないんですね……。
以上、レッドさんのまとめから引用。
そこでどうする事にしたかと云うと、俺の場合と同じく一旦カルケード国から追い出してしまおう……てな具合になるわけですよ。とかくエルーク……もとい、クオレがひねている。この態度を軟化させない事にはカルケードでエルーク……もといクオレを受け入れる体勢が整わない。
それこそ、あとはもう問答無用で裁くしかなくなるだろう。
きっとエルークもといクオレは最後までカルケード国に毒を吐き、邪魔なら殺せばいいだろう言って最後まで、兄を嘆かせるだけだろうな。
望むならお前の手を取れる。
ミストラーデ王の言葉を思い出し、ホント、その通りだよなと俺は思う。望まないで腕を掴んだってその先に幸せは無い。双方合意が重要なのだ。
というわけでトライアン行きのメンツは以下の通り。
まず俺、それからアービス。道案内のリオさん、マツナギとアイン、あとアベル。そんでもってクオレ。エルークと呼ぶなと言うので今後は統一してクオレとお呼びします。
まーなんだ、こいつも双子とはいえ弟だし。この辺りどうもテリーと事情が似ていて、なんだかなぁ。
つまり、レッドとナッツ、テリーとマースが居残りだ。意識が戻らないワイズも当然な。
気が付くとバカとアホな子ばっかり集められてる気がします。
いや、マツナギとアインに失礼かすまん。引率のリオさんお疲れ様。
戦力的に……俺達の方に魔法使いらしい魔法使いがいないのだが良いのだろうか?トライアンに乗り込むに下手な小細工は必要ないって事なのかそれとも、強引に乗り込んじゃうつもりなのか。ちょっと不安と言えば不安だったりする。
クオレは荷物にならないといいが……リオさん、この引率大丈夫なのか?
最初こそその様に心配していた俺だったが、思いの外クオレが大人しくってな。口調こそ辛辣というか、ムカつくんだけど思っていた程悪い奴じゃない。
カルケード国を脱出するに砂漠を北上、毎度おなじみルートであるマイリー経由でワイドビヨン川を渡る1週間の間に、その様にクオレに対する評価を変えてしまった俺である。
例えば手分けして作業が必要な時……野宿でテント張ったり雑用こなしたり、だな。文句は言うけどちゃんと手伝ってくれる。道中のどうでもいい話に付き合ってもくれるし。何より……空気読める子なんですよこの子。
俺とアベルの仲が悪い事はちゃぁんと把握してくれてんのな。ナイスタイミングでケンカ仲裁してくれたりする。
あれ?コイツ結構良い奴?
それとも……俺達単に騙されてるだけなのか……?
「どう思う?」
全員が寝静まった頃、俺は野宿の番って事で一緒に起きているマツナギに話を振っていた。
「クオレの事かい?」
「ああ、案外大人しいというか。思っていた程トラブルメーカーになってないだろ。最近なんかトライアンのどこにその、魔王軍本拠地があるのかとか積極的に教えてくれるし、リオさんも強ち嘘じゃなさそうとか言ってるし……」
「信用してもいいのか、って事?」
「……感情的にはいいかな、とか思うけど。でもな」
マツナギは目を閉じ、ぽきりと枝を折りながら答えた。
「そうだね、あまり感情移入すると……いざって時に手が止まっちゃうかも知れない」
「……だよ、な」
クオレもそうだけどアービスもそうだ。
あいつらの頭上には……赤い旗がある。結末が決まっている……いずれ、彼らとその決まっている結末に向けて決着を付けなきゃいけない時が来るだろう。
それがどういう形になるかは分からない。
けど、少なくとも今後ずっと彼らに存在し続けられては困る。クオレはまだちゃんと確認してないけどアービスは間違いなく赤旗ホストだ。彼がそうしようと思えば、混沌の怪物を生み出す事が出来る。
実際、アービスは自分からその力を使った事があるとも白状している。
マースには言わないでくれ、だなんて気弱に暴露したな。西方ディアス国の北魔槍騎士団ってのを率いていた時、部下達を悉く魔王軍にした様だ。
正直部下だと愛着してたわけじゃない……だからこそ魔王軍化させたんだろ。
けどまぁ、その愛着がマースに向けてはあったみたいでな。部下として唯一信頼してたみたいでそれで……。
マースを自分の部隊から強引に引き払う事で、彼の魔王軍化を回避させたらしい。
重鎧を纏っている鱗鬼種のマース・マーズもアービスが何をしたのか、どうして自分がディアス国から追い出されたのかという理由は大凡把握しているらしい。互いにはっきり言わないまでも理解し合える、良い主従関係だったんだろうな。てゆーか多分、圧倒的にマースが有能だったんだな。間違いない。
自分の存在が世界を狂わせる。
アービスにはその自覚がある。だから有事の際には奴の事だ、ちゃんと腹はくくるだろう。
対しクオレはどうなのだろう?奴は自分が魔王八逆星という存在で、魔王軍を生み出しうるという事を分かっているのだろうか?
……少なくとも赤旗だ、ミスト王がいくら望んだ所で助ける事は出来ないんだよな。でもそれをミストに言う訳にも行かないし……。クオレに、そこん所分かっているのかと聞くに聞けずにいたりする。
そうだ、魔王八逆星の連中だって知っているとは限らない。自分がどういう状況に置かれているのか、正しく把握しているとは限らないだろう。もっとも奴らは赤旗バグをばらまく存在なのだから正式には『死んでいる』だなんて事を気にする必要はないのかもしれないけどな。
俺はため息を吐いた。
「出来るなら……敵も味方も魔王も何も関係ない。笑えなくたっていい。それでもそれぞれに、小さく幸せだと思える結末を用意出来ればいいのにな」
「……それはそうだけどね。……お前は人の事を言えるの?」
「俺は、」
アベルがちゃんと寝ているかを確認してから頭を掻きつつ言った。
「今で十分幸せだと思ってるよ」
マツナギは折り曲げた枝を火にくべながら俺を一瞥する。
「また強がりなんじゃない?」
鋭いなぁマツナギ。
「いや、結構ガチで言ってる」
でも俺は真面目な顔でそんな風に答えていた。
「何を幸せと言うかは人それぞれだ。あたしは、お前の気持ちを否定は出来ないよ。でも……疑問には思っている」
「だよなぁ」
苦笑が漏れる。理解出来ないってのは……分かってますとも。
「……ちょっと人生相談していいか?」
「あたしでよければお付き合いするよ。でも、こういうのにはナッツが向いていると思うんだけどね」
「奴は今居ないし、あいつもあいつでなんか一杯一杯みたいじゃねぇか。……珍しく弱気な事も言ってたしさ」
「へぇ、何って?」
「言っていいのかなぁ?」
「興味在るよ」
マツナギの笑みに釣られた事にしちゃうぜッ。
「ワイズが居なくなったら、ちょっと心細い、みたいな事ぼやいてた」
「ヤトにはそういう人は居ないの?」
「え?」
質問の意味が分かりませんなぁ。俺はそのようにわざと惚けただろう。
居なくなったら心細い人?勿論、居ない訳じゃない。ぶっちゃけて今、誰が欠けても俺は心細く思うだろう。
そういう俺の惚けた答えを察しているように、マツナギは顎を手の上に載せてちらつく炎を覗き込みながら言った。
「あたしにはそういう人、居るよ。ナッツに限らずみんな居ると思う。あたしの言っている意味、分かっているでしょ」
……ああ、分かってる。俺は頭を掻いて少し蹲った。
「……だから俺は幸せなんだ」
「どういう事さ」
「誰よりも先に逝ける」
少なくとも俺はその時、何も悲しまなくていい。
俺を悲しむ人はいるかもしれないけれどな。んなもんいねぇよとは笑えない。かといって俺はレッドのように……全ての人が悲しまず、死を喜んでくれるように憎しみを受けるべくお膳立てなんてできねぇし、したくもねぇ。
しょうがないだろ、と思う。
正直、悲しまれてしまう事はしょうがないよな、と俺は思っている。
ノーデライみたいに悲しむなと言ってお別れ出来ればいいよな。それでも俺の死を悼んでくれるなら。それを思うだけで俺は幸せだと思うんだ。
些細だなぁ、ちょっと自分で思って悲しくなるくらい。
だからってこれ以上の幸せを望むつもりは俺にはない。求めたって……手に入らないなら最初から望むべきじゃないんだ。
強引に手に入れたってダメだ。そう、双方の合意が重要なんだよ。
「……あたしは……。もうちょっと高望みしても良いと思っているけどね」
「何が?」
「お前の幸せの事さ」
「……どうして」
マツナギは小さく微笑んだ。ふっと手を伸ばし、対岸に座る俺の額を小さく小突く。
「他人の幸せこそ自分の幸せだと感じられるから、さ」
「………」
それは俺も同じだよマツナギ。
だからこそ、自分自身の幸せの事なんて後回しになるんだろ。……すげぇ、分かってるよ。
「あの子は賢いよね」
「ん?」
多分クオレの事だな。俺は……クオレが寝袋にくるまっている姿をマツナギに倣って目で追いかける。
「多分、そう言う事もちゃんと分かっていると思うんだ。でも最後に一つ越えられない壁がある。誰もがそれを超える事が出来ずに躓くんだろうね」
「壁?なんだよそれ」
「プライドさ。要するに、意地って奴だよ。お前が拘っているのと同じ」
俺が意地張っていないとは言えないな。はぁ、マツナギから見れば俺のこの幸せ論も単なる意地かよ。
まぁ、意地だよな。
結論そうなるので俺の口からは再びため息が漏れるのだ。
「もっと求めても良いのに。素直になって……本当に望む事を得よう努力すればいいのに。悲しいよ……あたしの娘もそうやって望む事すら諦めて逝ってしまった。そう思っている」
その、娘さんの事は……ざっくりとした話はシェイディ国の時に聞いたけど、どういう事情なのか詳しく、というのは聞くに憚られてあまり話を振った事が無かった。
「マツナギは……どうすれば幸せだったんだよ」
「還ってくれば良いと……望んでいたよ」
還ってくる。それはどういう意味で、なのだろうか。
「……今もか?」
「……今は……少し違うかもね。還ってきて、それであたしは幸せでも娘はどうだろう?人の幸せを考えた時、あたしの幸せは本来そこにあるんじゃないのかって思えて……なら。人の幸せをあたしは否定出来ない。今はそう思っている」
難しいな。他人を思ってやるってのはホント難しいっていうかめんどくさいって言うか……。
「難しいね」
俺と同じ意見をマツナギが小さく呟いた。
「……ああ」
「それでも、願わずには居られないのよね」
「ホントにな」
「クオレ、無理してるんじゃないのかしら」
「無理?」
「……素直にミスト王の手を取っていればいいのに。突っぱねて、あたしにはなんだか自棄を起こしているようにも見えてしまってね……ちょっと今後が怖いというのが正直な所なんだ」
マツナギがそう言うと当っている気配がする。精霊使いの気があるからホント、マツナギの勘は当る。そういや、リオさんも精霊使いらしいが、能力値的には有能種であるマツナギの方が上らしいな。ただ、マツナギは理論的な事はすっとばしてそれこそ、先天の力として精霊干渉をしているが、リオさんは理論を突き詰めて理解に理解を重ねた元魔導師。同じ理力干渉でも、もはや使ってる理屈が違う様にも思える。
「ヤト、」
「ん?」
マツナギは小さく俺に囁いた。
「お前はもっと、感情に素直に振る舞って良いと思うよ。だから……何かあったらお前の感情のままに、彼を守ってあげればいいとあたしは思う」
テリーにぶっ壊されたフェイアーンを通り掛った。
だいぶ復興が進んでるな。危うく喰わそうになった少女達と再会し、わりかし元気そうな姿に安心したり。逆に彼女がテリーの心配してたくらいだ。気丈なもんだぜ、もっと怖がったっていいだろうに。
他人の幸せは自分の幸せ。
他人を思いやる事で自分を慰めるなんて……とか言う奴もいる。所詮自慰だなんて笑う奴もいるが自慰で何が悪い。重要なんだぜマスターベーション、コレ出来るか出来ないかで男の精神衛生はかなり違うと思われっ……てそんな話じゃねぇってか、へぇすいません。出来れば自慰じゃない方がいい……って話もやめろ?はい、ごめんなさい。
それでも自分で自分を慰めることすら出来ないで、その果てに他人に当る事の方がタチ悪いと思うし……ちっちゃいよな。
我慢しろ、出来なきゃ自慰でも何でもちゃんと自分で始末付けろって言いたくなるだろ。
他人に慰められる事を望むのもな……俺は、どうだろうと思ったりもするがそういう日もある事は否定はしません。しませんとも!
出来るなら、双方同意で慰め合えたらいいんだよな。いや、慰めるとか言うから何かこうちょっとアレな感じが漂ってるんだなオーケー言い直そう。
出来るなら、双方同意で支え合えたらいいんだよな。
そうやって思いが双方通じているなら……お互いに、些細かも知れないけど。幸せを感じる事が出来るんだろ。
そんな事を考えつつフェイアーンを出発し、バセリオン経由でトライアンに行こうと計画されてたんだが……どうにもファマメント国でトライアン地方の検問が厳しいって情報をリオさんが引っ張ってきた。
そこで、ちょっと強引だがフェイアーンからタトラメルツ寄りの森の中を通ってディアス国の国境ギリギリで移動し、検問に引っかからない隠密行動でトライアンに入る事に。
再び森歩き、なわけだが……はっはっは!
コウリーリス横断を経験した今、この程度の森など可愛いもんだぜ……!道が無ければ切り開けばいいのだよ!という具合に強引なルートを取って今強行突破してます。
この場合、慣れてないのはクオレのみ。
森開きはマツナギやアベル、アービスに任せ、俺はリオさんと荷物持ちに徹し今しがた出来たばかりの道を歩いている。当然クオレもこっちの係だ。
道、ったって遮る草を刈り蔦を裂き、枝を折るだけの獣道より酷い『道』だ。平坦じゃねぇ、山あり谷ありだし泥濘もある。
足運びも危ういので、俺はクオレに俺が歩いた後を歩くように指示した。リオさんは道案内役なので先に行かせ、俺はアインを頭に乗せてクオレと一緒に最後尾。
急勾配な坂では手を伸ばし捕まるように指示する。うん、素直に手は伸ばしてくれるよなぁ。難所からクオレを引き上げて、俺は次に待ち構える下りを見下ろした。
「……本当の事を僕が言うとしたら君は、僕の言葉を信じるのかい?」
「んぁ?」
アインを頭に乗せたまま俺は振り返った。
「……正直、……戻りたくはないんだ」
突然何を言い出すのか。俺はアインと顔を見合わせてしまった。
「戻るって、どこにだ。……トライアンか?」
今だ俺の手にしがみついたまま、相変わらず仮面装備のクオレは無言で小さく頷いた。
「どうしてだよ」
「……結局、僕は失敗した事になるからね。ミストが言った通り……僕には、居場所なんて無い」
「どうして今更そんな事を言う。それなら、素直にあの時……」
「ヤト、」
アインから窘められて口を閉じた。
態度からしてクオレもそんな事は十二分に承知って感じだな。
……マツナギが言っていたのを思い出す。
超えられない壁の所為って奴か。それでも何で今更、って思うだろ?俺にはクオレの意地が理解できない。……そう思うと、俺の意地、プライドなんて他人には理解できないものかもしれないとちょっと……不安になってしまった。
俺は俺の都合で勝手に幸せを選ぼうとしている訳だが、他人から見るとどうしてそれで満足なんだ、どうしてそれで幸せなんだと疑問に思われているのかもしれない。他人には、到底理解できない事を俺は選ぼうとしているのかもしれない。
そんな事をいまさら思い知る、俺です。
しかし、クオレは自分で築いた壁の高さに怯んでいる。まさに今更だ、怖くなって壁の上から俺を窺っているんだろう。
不安定な丘の上、クオレの手を掴んだまま訊ねる。
「それで、お前はどうしたい」
「……分からない。正直、どうしたいかなんて……未だに整理がつかない。でも望んで良いなら……」
クオレは被った仮面の下、小さく吐息を吐いて呟く。
「ミストも僕を憎んでいればいいのにな」
「……どうしてだよ」
「僕は、どうしてもあれを好きに慣れそうにないから。せめて互いに嫌いなら、決着はもっと簡単に付いたと思うんだ」
気分は良くないが確かにそうだろう。
ミストが弟を溺愛してなきゃ『ケースその3』を選んではい終了!だったろうな。
「無理だろ、あのお兄さんは誰も彼も憎める程器用じゃないぜ。むしろ不器用なくらい……」
「誰でも彼でも許したいって思っている人だものね。叔父さんにもそういう感情向けてる所があったくらいだし」
アインの言葉に俺は頷いていた。クオレは少しためらいがちに聞いてきた。
「僕にもし、望んでいない剣が向けられたらその時、君は……その時本当に僕を守ってくれるのか?」
俺は目を細めた。
んな事コイツに言ってやった憶えは無い。
かなり気は許してしまっているけど、魔王八逆星の一人には変わりないしな、警戒は緩める訳にはいかないのだ。
とすると、聞かれていたのか。マツナギと話をしていた時に。
あの時こいつは目を覚ましていて、俺達の話を聞いてたって事じゃねぇか。
「知らないんだね、僕らはもう眠らなくたっていいんだよ」
「何……?」
そんな話をアービスからは聞いた気もするがどうだったか?……食わなくても良いという話は憶えている。嗜好的にものを食べることは出来るようだが飲食は不要らしい事を言っていた。
あのボケ兄さん!きっと話したつもりであれ、まだ話してなかったっけ?とか惚けるに違いない。まったくどこまでも天然な奴だ。寝なくて良いなら寝なくてもいいんだけどと一言言って、夜の番くらい率先して引き受けてくれればいいのに!
……いや、あそこまで天然だと逆に、命を預ける行為はおっかない気持ちもあったりするけどな。
「なんで戻りたくないのにトライアンに戻ろう、だなんて言ったんだ」
「……あそこにいたらナドゥに失敗したのがばれてしまう」
それが怖かったのか。いや、トライアンに戻ったって同じなんだろう?単純に、ただ待っているのが耐えられなかったのか。
何かをして気を紛らわせたくて、救いの手を差し伸べて欲しくて、それでも悪意を存分にまき散らしながら俺達の所に来たのか。いや、その前にミストが押し掛けてきたのに反発もあり、正直こいつはうれしかったのではないかと俺は思うね。
まったく素直じゃないんだからッ
「叱られるじゃ済まないって訳だ」
「忠告は先にするものだよ。叱責なんて意味のない。……僕がアービスのように完全に君達に寝返ったとしたらナドゥにはますます都合が悪いと思うし……ね」
むむ、なんだかデレフラグが立って態度が異様に軟化してきた気配だ。
ふぅんなる程。俺達だけじゃなく、こいつもコイツで俺達に靡きつつある訳だな。どうした事かクオレに好かれつつあるようである。兄のミストだけは受け入れられそうにないと言っている。それでも少なくとも俺達には靡いてもいいかも……とか、考えを改めている訳か。
なんでまたそんな風に態度を改めているのか、レッドやナッツだったらとことん疑っている所だろう。正直俺も真に受ける訳じゃない。多少は疑っている。
しかし、突然ふっとクオレは顔を伏せた。
「いや、無理だよね。僕はアービス程戦力になるわけじゃない。単なるお荷物も良い所だ……ごめん、ちょっと疲れたのかな。変な事言った。忘れてくれ」
それ。ますますフラグ立ってですよね、ねッアインさん!恋愛シミュレーション系もしこたまやりこんでいるリアルのアインの都合からして、フラグの立つポイントなどは俺よりもむしろ彼女の方が熟知しているに違いないッ
……いや、だからリアルの都合は混ぜないって言ったじゃん俺。だめだ、これ癖なんだな……すいません。これがあるからこの話どこまでもシリアスにならないんだよな……ごめんなさい。
「おいこら、勝手に諦めるなよ」
「いいから、……何でもないんだ」
仮面の下で、一体クオレはどんな顔してやがるんだろう。
意地張って笑ってるのか、それとも……寂しそうに、不幸せを嘆いているのだろうか。
「僕は……不当に望んでいるだけだったんだ」
上手く望めない自身の幸せ。
望んじゃいけないだろ……と、自分の気持ちを抑えてしまう。
俺もそう、アービスもあれでかなりそう。
そんでもってクオレも、散々好き勝手要求をしているようで実はそうではなく、適わない望みを真に望み適わないと知って諦めてしまっているのだろう。
幸せの形は人それぞれだ。
俺達から見たら随分歪でも、クオレにとってみれば、自分と同じ感情を相手から向けられる事こそ本望なのかもしれない。
つまり、互いに憎み合う関係が幸せ……か。
俺の事例が霞む程にちっちゃい幸せだな。
俺は、坂を下りるルートを目で探しながら尋ねていた。
「……やっぱりお前に指図してんのもナドゥなのか?」
「やっぱりも何も、彼以外に魔王八逆星でまともに策略が敷ける人なんて居ないと思うけど」
おお、そう言われてみればそうだ。エルドロゥとかはあれ、魔導師だって聞いているけどダメか。興味在る所しか顔出さんのだろうな。ギルもストアもアホそうだし。インティはめんどくさいの一言で全部片付けるだろうし。
俺の不幸は元来ではあるけど、赤旗ついたりのトラブルに巻き込まれた経緯にはナドゥのおっさんが絡んでる。アービスだってあれ、ナドゥ・DSの仕打ちに腹立ててこっちに寝返ってきた訳だし。
俺達案外似たり寄ったりで、同じく被害を受けている同士なのかもしれねぇ。だからこそ俺は……いつしかクオレの嫌みったらしい所も含めてそれ程嫌いじゃないかもと思うのかも知れない。
類を哀れむ感情……な、訳だけど。
で、どうなったかというと、だ。
白い仮面を被った『クオレ』を連れてだな。俺達は西方ファマメント国の三国隣接地帯の一つ、トライアンに向かう事になっている訳だ。
王様に頼まれちゃしかたがねぇ……っていうか。
恐らくは、コイツを南国に置きっぱなしにするのも色々とまずいのだろう。
クオレを魔王八逆星達がどのような扱いにしているのかいまいちよく分からないのだが……。
例えば捕えて牢屋に入れておいたり、エルークとして裁いてしまったり、果ては主張の通り殺してしまったりすると、だな。
魔王八逆星側に南国カルケードを攻撃する口実を与えてしまう事に成りかねないのだそうだ。
攻め入りたいなら口実もお膳立ても面倒だ、堂々と入り込んでくればいいだろう。俺はそう思うんだが……魔王連中の思惑ってのはもう少し高等なのな。
要するに、縁が結べるか結べないかって事だとか天使教的にナッツが言っていた。
これが在るか無いかで『外部』に向ける情報が違ってくる。
まずケースその1。
カルケード国で魔王八逆星クオレを仕留めた、という事になったとしよう。この場合辿る展開は二つある。一つは、クオレが実はエルークだという情報が悪意を持って意図的に流され、カルケード第二王子が魔王だったとはどういう事だ?的な不満を煽られる場合。それから……魔王八逆星達が討ち取られたクオレの報復に出る、という場合だな。魔王八逆星が何をしたいか、にもよるだろうが。
魔王との縁を辿ってファマメント国がカルケード国に戦を仕掛けたいという意図を持っていたとすると案外、有り得無くはないという事が分かるだろう。一体全体どこの国で魔王が飼われいるのかよく分かってないだろ?少なくともカルケードは白だけど、ファマメント国はどうなのだろう。魔王討伐隊を出しているとは言え、天使教と逆サイドにあたる政治部門の裏側など分かったものじゃないってのはランドールの件とか含めよーくわかった。
ケースその2。
クオレあるいはエルークとしてカルケードで拘束、幽閉した場合はどうなるか。ケース1の場合とほぼ同じだな。殺せばいいってもんじゃない、生きてても問題だ。そもそもクオレにはカルケードに向けた圧倒的な悪意がある。これが解消しない限り……ケース1と同じ事になるだろう。
ケースその3。
カルケード国でクオレをエルークと認知し、エルークとして裁いた場合。生死の問題はケース1,2と同じく。違うのはクオレがカルケード第二王子だと国で認めた上でこれを裁くという厳粛な態度を取った事。これが出来れば色々とカルケードにもお膳立てが成立するんだよな。ようするに、きっかり縁が切れる。ケース3が成立するならカルケードは魔王ときっちり縁が切れるので余計な計略に巻き込まれなくて済むだろう。
身内から出した魔王に厳粛に処罰した、と言えばファマメント国も強く追求は出来まい。何しろファマメント国なんて以下略だもんな。
魔王討伐隊第一陣が現行魔王八逆星って事実があるだろ?
ふむ、そう言えばその事実を知っているのは異端、天使教のお二人になるんだよなぁ。だからワイズは狙われてナッツも恨みを買っている?……いや、よく分からん。
そんならケースその3を実行すりゃいいじゃん、と言いたい所なのだが。
ぶっちゃけ、ミストお兄ちゃんは出来れば……ケース3を選びたくないみたいなので可能性が開けてないんですね……。
以上、レッドさんのまとめから引用。
そこでどうする事にしたかと云うと、俺の場合と同じく一旦カルケード国から追い出してしまおう……てな具合になるわけですよ。とかくエルーク……もとい、クオレがひねている。この態度を軟化させない事にはカルケードでエルーク……もといクオレを受け入れる体勢が整わない。
それこそ、あとはもう問答無用で裁くしかなくなるだろう。
きっとエルークもといクオレは最後までカルケード国に毒を吐き、邪魔なら殺せばいいだろう言って最後まで、兄を嘆かせるだけだろうな。
望むならお前の手を取れる。
ミストラーデ王の言葉を思い出し、ホント、その通りだよなと俺は思う。望まないで腕を掴んだってその先に幸せは無い。双方合意が重要なのだ。
というわけでトライアン行きのメンツは以下の通り。
まず俺、それからアービス。道案内のリオさん、マツナギとアイン、あとアベル。そんでもってクオレ。エルークと呼ぶなと言うので今後は統一してクオレとお呼びします。
まーなんだ、こいつも双子とはいえ弟だし。この辺りどうもテリーと事情が似ていて、なんだかなぁ。
つまり、レッドとナッツ、テリーとマースが居残りだ。意識が戻らないワイズも当然な。
気が付くとバカとアホな子ばっかり集められてる気がします。
いや、マツナギとアインに失礼かすまん。引率のリオさんお疲れ様。
戦力的に……俺達の方に魔法使いらしい魔法使いがいないのだが良いのだろうか?トライアンに乗り込むに下手な小細工は必要ないって事なのかそれとも、強引に乗り込んじゃうつもりなのか。ちょっと不安と言えば不安だったりする。
クオレは荷物にならないといいが……リオさん、この引率大丈夫なのか?
最初こそその様に心配していた俺だったが、思いの外クオレが大人しくってな。口調こそ辛辣というか、ムカつくんだけど思っていた程悪い奴じゃない。
カルケード国を脱出するに砂漠を北上、毎度おなじみルートであるマイリー経由でワイドビヨン川を渡る1週間の間に、その様にクオレに対する評価を変えてしまった俺である。
例えば手分けして作業が必要な時……野宿でテント張ったり雑用こなしたり、だな。文句は言うけどちゃんと手伝ってくれる。道中のどうでもいい話に付き合ってもくれるし。何より……空気読める子なんですよこの子。
俺とアベルの仲が悪い事はちゃぁんと把握してくれてんのな。ナイスタイミングでケンカ仲裁してくれたりする。
あれ?コイツ結構良い奴?
それとも……俺達単に騙されてるだけなのか……?
「どう思う?」
全員が寝静まった頃、俺は野宿の番って事で一緒に起きているマツナギに話を振っていた。
「クオレの事かい?」
「ああ、案外大人しいというか。思っていた程トラブルメーカーになってないだろ。最近なんかトライアンのどこにその、魔王軍本拠地があるのかとか積極的に教えてくれるし、リオさんも強ち嘘じゃなさそうとか言ってるし……」
「信用してもいいのか、って事?」
「……感情的にはいいかな、とか思うけど。でもな」
マツナギは目を閉じ、ぽきりと枝を折りながら答えた。
「そうだね、あまり感情移入すると……いざって時に手が止まっちゃうかも知れない」
「……だよ、な」
クオレもそうだけどアービスもそうだ。
あいつらの頭上には……赤い旗がある。結末が決まっている……いずれ、彼らとその決まっている結末に向けて決着を付けなきゃいけない時が来るだろう。
それがどういう形になるかは分からない。
けど、少なくとも今後ずっと彼らに存在し続けられては困る。クオレはまだちゃんと確認してないけどアービスは間違いなく赤旗ホストだ。彼がそうしようと思えば、混沌の怪物を生み出す事が出来る。
実際、アービスは自分からその力を使った事があるとも白状している。
マースには言わないでくれ、だなんて気弱に暴露したな。西方ディアス国の北魔槍騎士団ってのを率いていた時、部下達を悉く魔王軍にした様だ。
正直部下だと愛着してたわけじゃない……だからこそ魔王軍化させたんだろ。
けどまぁ、その愛着がマースに向けてはあったみたいでな。部下として唯一信頼してたみたいでそれで……。
マースを自分の部隊から強引に引き払う事で、彼の魔王軍化を回避させたらしい。
重鎧を纏っている鱗鬼種のマース・マーズもアービスが何をしたのか、どうして自分がディアス国から追い出されたのかという理由は大凡把握しているらしい。互いにはっきり言わないまでも理解し合える、良い主従関係だったんだろうな。てゆーか多分、圧倒的にマースが有能だったんだな。間違いない。
自分の存在が世界を狂わせる。
アービスにはその自覚がある。だから有事の際には奴の事だ、ちゃんと腹はくくるだろう。
対しクオレはどうなのだろう?奴は自分が魔王八逆星という存在で、魔王軍を生み出しうるという事を分かっているのだろうか?
……少なくとも赤旗だ、ミスト王がいくら望んだ所で助ける事は出来ないんだよな。でもそれをミストに言う訳にも行かないし……。クオレに、そこん所分かっているのかと聞くに聞けずにいたりする。
そうだ、魔王八逆星の連中だって知っているとは限らない。自分がどういう状況に置かれているのか、正しく把握しているとは限らないだろう。もっとも奴らは赤旗バグをばらまく存在なのだから正式には『死んでいる』だなんて事を気にする必要はないのかもしれないけどな。
俺はため息を吐いた。
「出来るなら……敵も味方も魔王も何も関係ない。笑えなくたっていい。それでもそれぞれに、小さく幸せだと思える結末を用意出来ればいいのにな」
「……それはそうだけどね。……お前は人の事を言えるの?」
「俺は、」
アベルがちゃんと寝ているかを確認してから頭を掻きつつ言った。
「今で十分幸せだと思ってるよ」
マツナギは折り曲げた枝を火にくべながら俺を一瞥する。
「また強がりなんじゃない?」
鋭いなぁマツナギ。
「いや、結構ガチで言ってる」
でも俺は真面目な顔でそんな風に答えていた。
「何を幸せと言うかは人それぞれだ。あたしは、お前の気持ちを否定は出来ないよ。でも……疑問には思っている」
「だよなぁ」
苦笑が漏れる。理解出来ないってのは……分かってますとも。
「……ちょっと人生相談していいか?」
「あたしでよければお付き合いするよ。でも、こういうのにはナッツが向いていると思うんだけどね」
「奴は今居ないし、あいつもあいつでなんか一杯一杯みたいじゃねぇか。……珍しく弱気な事も言ってたしさ」
「へぇ、何って?」
「言っていいのかなぁ?」
「興味在るよ」
マツナギの笑みに釣られた事にしちゃうぜッ。
「ワイズが居なくなったら、ちょっと心細い、みたいな事ぼやいてた」
「ヤトにはそういう人は居ないの?」
「え?」
質問の意味が分かりませんなぁ。俺はそのようにわざと惚けただろう。
居なくなったら心細い人?勿論、居ない訳じゃない。ぶっちゃけて今、誰が欠けても俺は心細く思うだろう。
そういう俺の惚けた答えを察しているように、マツナギは顎を手の上に載せてちらつく炎を覗き込みながら言った。
「あたしにはそういう人、居るよ。ナッツに限らずみんな居ると思う。あたしの言っている意味、分かっているでしょ」
……ああ、分かってる。俺は頭を掻いて少し蹲った。
「……だから俺は幸せなんだ」
「どういう事さ」
「誰よりも先に逝ける」
少なくとも俺はその時、何も悲しまなくていい。
俺を悲しむ人はいるかもしれないけれどな。んなもんいねぇよとは笑えない。かといって俺はレッドのように……全ての人が悲しまず、死を喜んでくれるように憎しみを受けるべくお膳立てなんてできねぇし、したくもねぇ。
しょうがないだろ、と思う。
正直、悲しまれてしまう事はしょうがないよな、と俺は思っている。
ノーデライみたいに悲しむなと言ってお別れ出来ればいいよな。それでも俺の死を悼んでくれるなら。それを思うだけで俺は幸せだと思うんだ。
些細だなぁ、ちょっと自分で思って悲しくなるくらい。
だからってこれ以上の幸せを望むつもりは俺にはない。求めたって……手に入らないなら最初から望むべきじゃないんだ。
強引に手に入れたってダメだ。そう、双方の合意が重要なんだよ。
「……あたしは……。もうちょっと高望みしても良いと思っているけどね」
「何が?」
「お前の幸せの事さ」
「……どうして」
マツナギは小さく微笑んだ。ふっと手を伸ばし、対岸に座る俺の額を小さく小突く。
「他人の幸せこそ自分の幸せだと感じられるから、さ」
「………」
それは俺も同じだよマツナギ。
だからこそ、自分自身の幸せの事なんて後回しになるんだろ。……すげぇ、分かってるよ。
「あの子は賢いよね」
「ん?」
多分クオレの事だな。俺は……クオレが寝袋にくるまっている姿をマツナギに倣って目で追いかける。
「多分、そう言う事もちゃんと分かっていると思うんだ。でも最後に一つ越えられない壁がある。誰もがそれを超える事が出来ずに躓くんだろうね」
「壁?なんだよそれ」
「プライドさ。要するに、意地って奴だよ。お前が拘っているのと同じ」
俺が意地張っていないとは言えないな。はぁ、マツナギから見れば俺のこの幸せ論も単なる意地かよ。
まぁ、意地だよな。
結論そうなるので俺の口からは再びため息が漏れるのだ。
「もっと求めても良いのに。素直になって……本当に望む事を得よう努力すればいいのに。悲しいよ……あたしの娘もそうやって望む事すら諦めて逝ってしまった。そう思っている」
その、娘さんの事は……ざっくりとした話はシェイディ国の時に聞いたけど、どういう事情なのか詳しく、というのは聞くに憚られてあまり話を振った事が無かった。
「マツナギは……どうすれば幸せだったんだよ」
「還ってくれば良いと……望んでいたよ」
還ってくる。それはどういう意味で、なのだろうか。
「……今もか?」
「……今は……少し違うかもね。還ってきて、それであたしは幸せでも娘はどうだろう?人の幸せを考えた時、あたしの幸せは本来そこにあるんじゃないのかって思えて……なら。人の幸せをあたしは否定出来ない。今はそう思っている」
難しいな。他人を思ってやるってのはホント難しいっていうかめんどくさいって言うか……。
「難しいね」
俺と同じ意見をマツナギが小さく呟いた。
「……ああ」
「それでも、願わずには居られないのよね」
「ホントにな」
「クオレ、無理してるんじゃないのかしら」
「無理?」
「……素直にミスト王の手を取っていればいいのに。突っぱねて、あたしにはなんだか自棄を起こしているようにも見えてしまってね……ちょっと今後が怖いというのが正直な所なんだ」
マツナギがそう言うと当っている気配がする。精霊使いの気があるからホント、マツナギの勘は当る。そういや、リオさんも精霊使いらしいが、能力値的には有能種であるマツナギの方が上らしいな。ただ、マツナギは理論的な事はすっとばしてそれこそ、先天の力として精霊干渉をしているが、リオさんは理論を突き詰めて理解に理解を重ねた元魔導師。同じ理力干渉でも、もはや使ってる理屈が違う様にも思える。
「ヤト、」
「ん?」
マツナギは小さく俺に囁いた。
「お前はもっと、感情に素直に振る舞って良いと思うよ。だから……何かあったらお前の感情のままに、彼を守ってあげればいいとあたしは思う」
テリーにぶっ壊されたフェイアーンを通り掛った。
だいぶ復興が進んでるな。危うく喰わそうになった少女達と再会し、わりかし元気そうな姿に安心したり。逆に彼女がテリーの心配してたくらいだ。気丈なもんだぜ、もっと怖がったっていいだろうに。
他人の幸せは自分の幸せ。
他人を思いやる事で自分を慰めるなんて……とか言う奴もいる。所詮自慰だなんて笑う奴もいるが自慰で何が悪い。重要なんだぜマスターベーション、コレ出来るか出来ないかで男の精神衛生はかなり違うと思われっ……てそんな話じゃねぇってか、へぇすいません。出来れば自慰じゃない方がいい……って話もやめろ?はい、ごめんなさい。
それでも自分で自分を慰めることすら出来ないで、その果てに他人に当る事の方がタチ悪いと思うし……ちっちゃいよな。
我慢しろ、出来なきゃ自慰でも何でもちゃんと自分で始末付けろって言いたくなるだろ。
他人に慰められる事を望むのもな……俺は、どうだろうと思ったりもするがそういう日もある事は否定はしません。しませんとも!
出来るなら、双方同意で慰め合えたらいいんだよな。いや、慰めるとか言うから何かこうちょっとアレな感じが漂ってるんだなオーケー言い直そう。
出来るなら、双方同意で支え合えたらいいんだよな。
そうやって思いが双方通じているなら……お互いに、些細かも知れないけど。幸せを感じる事が出来るんだろ。
そんな事を考えつつフェイアーンを出発し、バセリオン経由でトライアンに行こうと計画されてたんだが……どうにもファマメント国でトライアン地方の検問が厳しいって情報をリオさんが引っ張ってきた。
そこで、ちょっと強引だがフェイアーンからタトラメルツ寄りの森の中を通ってディアス国の国境ギリギリで移動し、検問に引っかからない隠密行動でトライアンに入る事に。
再び森歩き、なわけだが……はっはっは!
コウリーリス横断を経験した今、この程度の森など可愛いもんだぜ……!道が無ければ切り開けばいいのだよ!という具合に強引なルートを取って今強行突破してます。
この場合、慣れてないのはクオレのみ。
森開きはマツナギやアベル、アービスに任せ、俺はリオさんと荷物持ちに徹し今しがた出来たばかりの道を歩いている。当然クオレもこっちの係だ。
道、ったって遮る草を刈り蔦を裂き、枝を折るだけの獣道より酷い『道』だ。平坦じゃねぇ、山あり谷ありだし泥濘もある。
足運びも危ういので、俺はクオレに俺が歩いた後を歩くように指示した。リオさんは道案内役なので先に行かせ、俺はアインを頭に乗せてクオレと一緒に最後尾。
急勾配な坂では手を伸ばし捕まるように指示する。うん、素直に手は伸ばしてくれるよなぁ。難所からクオレを引き上げて、俺は次に待ち構える下りを見下ろした。
「……本当の事を僕が言うとしたら君は、僕の言葉を信じるのかい?」
「んぁ?」
アインを頭に乗せたまま俺は振り返った。
「……正直、……戻りたくはないんだ」
突然何を言い出すのか。俺はアインと顔を見合わせてしまった。
「戻るって、どこにだ。……トライアンか?」
今だ俺の手にしがみついたまま、相変わらず仮面装備のクオレは無言で小さく頷いた。
「どうしてだよ」
「……結局、僕は失敗した事になるからね。ミストが言った通り……僕には、居場所なんて無い」
「どうして今更そんな事を言う。それなら、素直にあの時……」
「ヤト、」
アインから窘められて口を閉じた。
態度からしてクオレもそんな事は十二分に承知って感じだな。
……マツナギが言っていたのを思い出す。
超えられない壁の所為って奴か。それでも何で今更、って思うだろ?俺にはクオレの意地が理解できない。……そう思うと、俺の意地、プライドなんて他人には理解できないものかもしれないとちょっと……不安になってしまった。
俺は俺の都合で勝手に幸せを選ぼうとしている訳だが、他人から見るとどうしてそれで満足なんだ、どうしてそれで幸せなんだと疑問に思われているのかもしれない。他人には、到底理解できない事を俺は選ぼうとしているのかもしれない。
そんな事をいまさら思い知る、俺です。
しかし、クオレは自分で築いた壁の高さに怯んでいる。まさに今更だ、怖くなって壁の上から俺を窺っているんだろう。
不安定な丘の上、クオレの手を掴んだまま訊ねる。
「それで、お前はどうしたい」
「……分からない。正直、どうしたいかなんて……未だに整理がつかない。でも望んで良いなら……」
クオレは被った仮面の下、小さく吐息を吐いて呟く。
「ミストも僕を憎んでいればいいのにな」
「……どうしてだよ」
「僕は、どうしてもあれを好きに慣れそうにないから。せめて互いに嫌いなら、決着はもっと簡単に付いたと思うんだ」
気分は良くないが確かにそうだろう。
ミストが弟を溺愛してなきゃ『ケースその3』を選んではい終了!だったろうな。
「無理だろ、あのお兄さんは誰も彼も憎める程器用じゃないぜ。むしろ不器用なくらい……」
「誰でも彼でも許したいって思っている人だものね。叔父さんにもそういう感情向けてる所があったくらいだし」
アインの言葉に俺は頷いていた。クオレは少しためらいがちに聞いてきた。
「僕にもし、望んでいない剣が向けられたらその時、君は……その時本当に僕を守ってくれるのか?」
俺は目を細めた。
んな事コイツに言ってやった憶えは無い。
かなり気は許してしまっているけど、魔王八逆星の一人には変わりないしな、警戒は緩める訳にはいかないのだ。
とすると、聞かれていたのか。マツナギと話をしていた時に。
あの時こいつは目を覚ましていて、俺達の話を聞いてたって事じゃねぇか。
「知らないんだね、僕らはもう眠らなくたっていいんだよ」
「何……?」
そんな話をアービスからは聞いた気もするがどうだったか?……食わなくても良いという話は憶えている。嗜好的にものを食べることは出来るようだが飲食は不要らしい事を言っていた。
あのボケ兄さん!きっと話したつもりであれ、まだ話してなかったっけ?とか惚けるに違いない。まったくどこまでも天然な奴だ。寝なくて良いなら寝なくてもいいんだけどと一言言って、夜の番くらい率先して引き受けてくれればいいのに!
……いや、あそこまで天然だと逆に、命を預ける行為はおっかない気持ちもあったりするけどな。
「なんで戻りたくないのにトライアンに戻ろう、だなんて言ったんだ」
「……あそこにいたらナドゥに失敗したのがばれてしまう」
それが怖かったのか。いや、トライアンに戻ったって同じなんだろう?単純に、ただ待っているのが耐えられなかったのか。
何かをして気を紛らわせたくて、救いの手を差し伸べて欲しくて、それでも悪意を存分にまき散らしながら俺達の所に来たのか。いや、その前にミストが押し掛けてきたのに反発もあり、正直こいつはうれしかったのではないかと俺は思うね。
まったく素直じゃないんだからッ
「叱られるじゃ済まないって訳だ」
「忠告は先にするものだよ。叱責なんて意味のない。……僕がアービスのように完全に君達に寝返ったとしたらナドゥにはますます都合が悪いと思うし……ね」
むむ、なんだかデレフラグが立って態度が異様に軟化してきた気配だ。
ふぅんなる程。俺達だけじゃなく、こいつもコイツで俺達に靡きつつある訳だな。どうした事かクオレに好かれつつあるようである。兄のミストだけは受け入れられそうにないと言っている。それでも少なくとも俺達には靡いてもいいかも……とか、考えを改めている訳か。
なんでまたそんな風に態度を改めているのか、レッドやナッツだったらとことん疑っている所だろう。正直俺も真に受ける訳じゃない。多少は疑っている。
しかし、突然ふっとクオレは顔を伏せた。
「いや、無理だよね。僕はアービス程戦力になるわけじゃない。単なるお荷物も良い所だ……ごめん、ちょっと疲れたのかな。変な事言った。忘れてくれ」
それ。ますますフラグ立ってですよね、ねッアインさん!恋愛シミュレーション系もしこたまやりこんでいるリアルのアインの都合からして、フラグの立つポイントなどは俺よりもむしろ彼女の方が熟知しているに違いないッ
……いや、だからリアルの都合は混ぜないって言ったじゃん俺。だめだ、これ癖なんだな……すいません。これがあるからこの話どこまでもシリアスにならないんだよな……ごめんなさい。
「おいこら、勝手に諦めるなよ」
「いいから、……何でもないんだ」
仮面の下で、一体クオレはどんな顔してやがるんだろう。
意地張って笑ってるのか、それとも……寂しそうに、不幸せを嘆いているのだろうか。
「僕は……不当に望んでいるだけだったんだ」
上手く望めない自身の幸せ。
望んじゃいけないだろ……と、自分の気持ちを抑えてしまう。
俺もそう、アービスもあれでかなりそう。
そんでもってクオレも、散々好き勝手要求をしているようで実はそうではなく、適わない望みを真に望み適わないと知って諦めてしまっているのだろう。
幸せの形は人それぞれだ。
俺達から見たら随分歪でも、クオレにとってみれば、自分と同じ感情を相手から向けられる事こそ本望なのかもしれない。
つまり、互いに憎み合う関係が幸せ……か。
俺の事例が霞む程にちっちゃい幸せだな。
俺は、坂を下りるルートを目で探しながら尋ねていた。
「……やっぱりお前に指図してんのもナドゥなのか?」
「やっぱりも何も、彼以外に魔王八逆星でまともに策略が敷ける人なんて居ないと思うけど」
おお、そう言われてみればそうだ。エルドロゥとかはあれ、魔導師だって聞いているけどダメか。興味在る所しか顔出さんのだろうな。ギルもストアもアホそうだし。インティはめんどくさいの一言で全部片付けるだろうし。
俺の不幸は元来ではあるけど、赤旗ついたりのトラブルに巻き込まれた経緯にはナドゥのおっさんが絡んでる。アービスだってあれ、ナドゥ・DSの仕打ちに腹立ててこっちに寝返ってきた訳だし。
俺達案外似たり寄ったりで、同じく被害を受けている同士なのかもしれねぇ。だからこそ俺は……いつしかクオレの嫌みったらしい所も含めてそれ程嫌いじゃないかもと思うのかも知れない。
類を哀れむ感情……な、訳だけど。
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