異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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10章  破滅か支配か  『選択肢。俺か、俺以外』

書の6前半 闘技場跡『涙は望む果てに』

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■書の6前半■ 闘技場跡 Far from east island

 立ちはだかったアービスに向けて俺は厳しい視線を向ける。
 何かあったのかという、問い。
 クオレを突然手に掛けて、今度はギルも動けないこの隙に殺すと言った俺の行動に納得が行かないらしいアービスは俺に、何かあったのだろう、何があったと聞いてきている。
 ……その問いに俺は、厳しい顔を向けたまま適当に答えた。
「まぁ、何かしらあったといえばあった」
「後悔しただろう?」
 背後から掛かったギルの言葉に俺は素直に頷く。
「ちょっとな。けどおかげさまで俺はお前を楽に倒す手段を手に入れられたって考えれば……全然釣り合う話じゃねぇか」
「くくく……そうだな、そうとも言える」
 戸惑っている、アービスの胸を叩いてすれ違いながら俺は告げる。
「安心しろ、次はお前だ」
「……ッ!」
 その辺りはすでに『了承済み』だってのにアービスの奴、俺の前にしつこく立ち塞がる。そして地面に打ち込まれている楔の一つに手を置いて言った。
「待て、私は……俺にはその前にやる事がある」
「ああ、弟君を『救う』んだったよな。勿論分かってるって。別にその後でもいいから」
 俺はそのように譲歩したが問題はどうやらそこではないようでアービスは睨んでまだ止めようとするのな。
「君にはギルを殺す理由があるのか?」
 バカな事を聞く。
「理由が無ければ殺せないという程俺は、頭良くないんだぜ」
 にこやかに言ってやるぜ。
 この物わかりの悪いお兄さんに、赤旗がついているからという事情を赤旗という単語を使わずに説明する手間を省いて俺はそのようにぞんざいに答えた。
 ようするアービスの奴、自分はともかくギルなどの『関係者』に対してすげぇ甘いんだな。他大勢多数、自分と関係ない者には無関心なだけに、関係が在るものに対しては酷く依存する。
 それが酷い偽善であり、端から見るとウザい上に幼稚で浅はかなドキュン対応だってのがこいつは分かってねぇ。けど、俺はバカなのでコイツにそれを分かりやすく説明する言葉を持ってない。
 説得は、まぁレッドあたりなら上手い事やるんだろうが俺には無理だ。無理ならいちいちやろうとは思わない。
「まぁいいじゃねぇかアービス」
 ギルは笑って目を閉じた。
「折角こいつがやる気になってんだから。俺も気が変わらないうちとっとと首差し出してぇだけだ」
「しかし……!」
「ちょっと待ってヤト」
 背後から掛かった声に振り返る。
 リオさんだ、何やら難しい顔をしている。
「どうかしたか?」
「うん……別に魔王八逆星を倒すのに反対というわけじゃないのよ。ただ……その、彼が縛られている封印式がちょっと気になってね……」
 ……この、楔と鎖か?今横から見ているので全体像は分かりづらいが、上から見た感じ8柱結界とかいう奴だったとリコレクト。封印術に特化しているワイズが図式でご丁寧に説明してくれたんだよな。
 魔王八逆星が『8人』必要な理由ってのがあるらしい。
 理由までは分からないと言っていたがとにかく8人必要だと、アービスが言っていた。何に8人も必要かというと……トビラを封じるに必要なんだそうだ。魔王八逆星の連中さえ近づくのを忌避する、何かとてつもなく恐ろしいもの。それを閉じこめているトビラを閉じて封じるに必要な数だと言う。
 恐らく封じる相手は9人目の大陸座、バルトアンデルトだろう。
 タトラメルツで俺は、そのトビラを覗いた。
 そんでもってまぁ、意識ぶっ飛ばされたんだよな。おかげさまでその後からのログが未だにちゃんと戻ってこない。
 アービスが言うに定期的にその封印を施し直さなきゃいけないものらしい。封印が不完全だとか何とかで……タトラメルツで運悪く、俺はその仕直しに付き合わされてしまったんだろうと思っている。
 四点二重結界、とかワイズが専門用語で言ってたと思ったな。結び方にもよるけど~とか何とか難しい事を図式で説明していた。
 今ギルが囚われている結界はまさしく、その時ワイズが図に書いて見せたものだったかもしれない。
 8つの楔に渡されている鎖。外周と、二つの四角形と、8つを繋ぐ星の形。
「それ、貴方を封じるだけのもの?」
「さぁな、俺はそういうのは門外漢だ。分からん」
 ギルは苦笑して肩をすくめて言った。
「けどまあ、そう言われてみると他にも何か仕掛けはありそうな気はする。俺を封じるにしちゃぁちょっと大掛かりな、とは思ったし……そもそも……コイツを作った奴はコレに、俺が引っかかったのに驚いてた気もするな」
「つまり、最初からここに仕掛けられていたって事よね?誰かを封じるために」
「多分な、なんで俺が引っかかるんだ、みたいな事を言われたような気もする」
「誰だ?こんなものここに仕掛けたの」
 俺の問いにギルはため息混じりに答える。
「エルドロゥだな、魔法全般は基本奴の仕業だ」
「ナドゥじゃ無いんだ」
 アインの問いにギルは笑う。
「奴が直接魔法を行使しているのは見た事ねぇな。魔法道具を使っているのはよく見るが」
 転移門を開くのも、魔法を行使するというよりは魔法を封じた道具を使用する頻度が高いと言う事だろう。アービスがナドゥから転移門を開く道具を奪い取ったりして来た通りだ。
「エルドロゥ……それは、無色魔導ね、……魔王八逆星で所有する魔導技術の漏洩は彼の仕業かもしれないわ」
 リオさんは興味深く楔の一つを眺めてから言った。彼女はこれで理力使い、魔法こそ使えないが、歪みや理力の働き方を独自の感性で読める。マツナギの方がその力は大きい訳だが、彼女は如何せん魔法知識がほとんど無い。元魔導師で、理力使いだからこそリオさんの方が様々な状況を正確に読み解く力があると言えるだろう。
 もちろん、元魔導師なのだから魔導師協会から異端の烙印を押され、色を奪われ無色魔導と呼ばれる事になったエルドロゥの事もよく知っているようである。
「うん……間違いないわ、貴方はこの封印の要になっている」
「……だから?」
「貴方が死んだらここの封印が解ける、そう言う事」
「ようするに、封じられてんのは俺じゃねぇ。俺は単なる蓋か」
 好戦的に笑いながらギルは低く言った。リオさんは少し残念そうな表情を俺に向けながら答える。
「……そう云う事になると思う」
 な、成る程な……。
 はぁ、思っていたよりギルって頭いいんだな。
 俺が答えを出す前に二人で答え出した所を見るとそうなるよな。うう、筋肉バカ度は俺の方が上と云う事か。
 その様にどうでも良い事で俺が落ち込んでいる隣で話は続く。
「貴方はどうしても、ここで殺されたいのかしら?」
「それが俺らの望みだからな」
「……望み?」
 眉をひそめたリオさんにギルは笑う。
「ま、理解されないのは分かっている。理解して貰おうとは思っていない。だから感情に訴えるっていうめんどくせぇ方法取ってる訳だ」
「……なんとなく……この封印は解かない方が良いように思えてきたの。貴方の望みは引き延ばせないの?」
 望み、滅ぼそうとする者の前に滅びを願う事。まぁ、おかしなお願いだ。
 前に俺がレッドに言った通り、とても身勝手でとても小さな……願いだ。
 しかし理力使い、すなわち精霊使いの勘は当るからなぁ、リオさんは精霊使いだ。ここは一つ、マツナギにも判断を仰いだ方が良いだろう。ガチ精霊使いで勘の的中率がすさまじい彼女が、封印を解くのを止めろと判断したら止めた方が良いと俺は、素直に信じる事が出来る。
 そんな彼女は、何やら落ち込んだらしいアベルと一緒にこの場から姿をくらましている。
 何やってんだかな、彼女ら。
 ……俺は知らん、知らないんだからっ!
 心配なんかしないぞ、だって俺は……こうなる事はある程度分かっていてやったんだ。俺が謝って済む事ならさっさと謝っている。だがそう言う問題では無いんだ。それだけは分かっている。
「は、めンどくせぇな、またお預けかよ」
 ギルは不満そうな言葉を漏らしている。逆にアービスはほっとした顔を露骨にしやがるし。
「言っておくが、何時までも同じ気分だとは限らねぇからな……もしかすればお前ら、最大のチャンスを失うかもしれねぇんだぜ?」
「素直じゃないんだ。どうして他人からどうこうしてもらおうって事になるのかしらね?」
 アインの言葉に俺は大いに頷いてしまうな。レッドもそうだ、自分の事は自分でなんとかしろっつの。
「あら、そこは結構重要なのよ」
 リオさんは俺とアインを振り返って言った。
「自殺はダメなの」
「え?」
 ダメって……何だ?
「縁が無くなるでしょ?他殺である事が重要だという彼らの主張はよく分かるわよ。他人と関係性を持つからこそ縁が結ばれ、その縁を切って貰う事で存在が終わるの。ようするに、彼らは死にたいんじゃなくて存在を終わらせたいのでしょ?」
「……そ、そうなのか?」
 ちくり、と何かが刺激するような感覚。
 リクレクト。
 俺は、それをどこかで聞いた事があるような気がする。
 ……どこでだ?
「死霊調伏に特化している天使教の教義よ?おかげでディアス国ではあまり支持されていないけど。それでも、自殺はやっかいらしいわよ、死霊化してしまうと縁を切るのが一苦労なんですって。もちろん死霊化するかどうかはまた別だけど。それに……死の国があったじゃない。あそこも変な所だけど……」
 ぴくりとアインが俺の頭の上で緊張したのが分かる。
 頼む。頭皮に爪、食い込ませるのは止めれ。
「悪性転生?ようするにあそこは生前の縁を切れない者の国でしょ?思うに自殺者は……強制的に死国送りじゃないのかしらね?」
 緊張して爪を立てているアインの小さな手を俺は、痛いと主張して掴んだ。途端自分の状況を悟ったようにアインはごめんと呟く。
「……天使教の……教義か」
 なら、その話を俺が聞いたのはブランクス先生から、なのかな。

 死にたくても自分から死に行くような事はしてはいけないよ。

 そんな幻聴が先生の声で聞こえたような気がして……。案外、俺はいつの間にかそう云う事を刷り込まれて生きてたのかも知れないな……とか思った。
 迷惑だと思っている訳じゃない。

 生きるのを諦めてしまうのは決して、自慢出来る事じゃないと俺は考えている。
 生きるのが辛い?もちろん、そう思った事もある。だからって死ねば楽になれるのか。それって単に逃げてるだけだろ。
 逃げるのが悪いって意味で言っている訳じゃない。それでも逃げ出すしかない奴もいるのかもしれねぇけど。
 努力もしないで逃げだすようなチキン野郎と笑われる事は覚悟するべきだ。それ以上の評価など貰えない、自殺ってのはそうだ。
 そいつを自殺に追い込んだ要因が他に何かあったとするならそれは、自殺じゃない。この世界に置いてそれは他殺だ。なんでかって?ちゃんと原因の相手と縁が結ばれているからだろ。
 そういうのは自害と言う。ただ……そう、リコレクトしてきた。天使教の教義ではこれもあまり良い事ではないと教えられている。そりゃそうだ、自害ってのは要するに自分が死ぬ要因となった縁者を『呪う』行為になる。ようするに死霊という存在になって仕返す事に通じてしまうからな。
 死霊を出したくない天使教にしてみりゃ、自殺も自害も悪しき行為と教えておかなきゃ行けない所だろう。
 よって、因果関係を天使教は恐ろしく修飾して語る。
 人を自殺に追い込むような行為はしてはいけない、ってな。人に恨まれたまま相手を死なせれば時には死霊となった相手が報復に来るぞ……っと。

 この世界はそういう世界だ。幽霊というのもアリだから。

 滅びたいという望みを抱いたら、滅ぼしてしまう理由が必要になる。変な話だ……そもそもなんで意味もなく死にたいなんて願わなければ行けない。そこは俺には、滅びたいと願っている訳じゃない俺にはよく分からん。
 ギルも自分らの望みは理解されんだろうと言ったな。
 理解しがたい、ある意味アホな望みを持つはた迷惑な連中が魔王だ。
 そのアホな行いに引きずられる世界を守らなきゃいけないのがバカな勇者のお役目ってか。

 俺はようやく剣を収め、ギル、およびアービスに向いた。

「仕方がないな、ちょっとお預けだ。リオさん、この封印……レッドか、あるいはワイズに聞いたらもっと詳しく分かるか?」
「ええ、ワイズに聞けば間違いないでしょう」
 彼が目を覚ましていれば、の話だけど、と俺はリオさんと分かっている部分を無言で確認していた。
「ちっ……しょうがねぇなぁ。もう少し辛抱してやるよ」
 ギルはため息を漏らして肩をすくめた。
「一旦カルケードに戻るか?」
 ミストに……例の報告もしないとだし。俺はその様にリオさんに提案してみる。
 正直気は進まないんだけど。でも、クオレの件は俺が選んだ事だ。……ちゃんと話すさ。
「そうしたいけれど……彼をここに残しておいても大丈夫?」
「仮にも破壊魔王だぞ、心配する意味がわからん」
「そうじゃなくって、封印が解かれたらまずいものだとしたらどうなの?目を離しておいても大丈夫?」
「今まで放置されてんだから大丈夫だ……あ、うん?そうか」

 そういや、この杜ファマメント軍に包囲されてるんだっけ。

 誰かしらこの施設に残っているかというと……そうじゃないみたいなんだよなぁ。リオさん達が向かった方にも大したものはなかったようだ。破壊するだけは破壊してきたと言っている。
「インティは……カルケードに行っちまったみたいだし」
 ギルと同じ望みを抱き、自分もそうしてもらうんだと言って消えた。おそらく奴は戻って行った。爆裂勇者がいるであろう場所に。
 ランドールが今どこいるかはよくわからんけど……移動してなきゃカルケードだろう。
 ……待てよ?て事はこの魔王軍施設。

 すでにもぬけの殻って事じゃんか?

 ギルは居るけどこの状況だ。案外誰でも殺せる程に無防備なのかもしれない。
 とすると……どういう事だよ。

「しかも、さっきインティが軍隊にちょっかい出しただろ」
 ギルの素っ気ない言葉に俺は口が引きつった。
 リオさんを振り返る。
「……まさか」
「そうね、大人しく包囲していただけのファマメント軍が、挑発されて攻め込んで来るのは時間の問題かも」
「くそ、もしかして全部最初っからこの段取りかよ……!インティの野郎!」
「成る程な、上手い具合仕掛けられてんじゃねぇか」
 笑ってはいるがギル、殺気漏れてる、漏れてますからッ
 どうすりゃいいんだ?
 ファマメント軍が攻め込んできたら……そうだ、もう誰もいない、俺達が片付けたから!と説得すればいいのか?
 いや、でもそれだと結局証拠見せろとか言ってここに入り込んでくるよな……そしたら動けない状態のギルが見つかっちまう。
 都合を説明しようにも不確定要素が多すぎる。
 破壊魔王を難無く殺せる。
 美味しい、余りに美味しすぎる状況をファマメント軍が見逃せるか?こいつに一番被害被ったのファマメント国だ。

 ぐわ、最初からこの段取りで間違いねぇ!
 俺が介入しようがしまいが結果変わらずだ!

 俺がギルを殺すか、ファマメント軍が殺すかの二択だ。そう考えると……この結界をその果てに、壊してしまうのはとっても危険な気がしてまいりました……!

 ギルがとっつかまっているこの封印、誰かに解かれる事が前提になっている!

「……やれやれ」
 声に俺は弾かれたように顔を上げた。
「お困りのようだな」
「んぁ?その声は……?」
 ローブに埋もれた者が……何時の間にやら崖の上に立っているじゃぁありませんか。
「お前も本当に神出鬼没だな、何の用だ?」
 カオスだ。俺の記憶が正しければコウリーリスで会って以来になる。というか、奴がコウリーリスに現れたのが幻であるようにも思えるくらい記憶が怪しい。実際、俺はカオスと話をしていたような記憶はあるのだが……夢でも見ていた様にあやふやだ。
 相手が、悪魔とかいうよく訳の分からん存在とすでに知っている。
 もぅ何も驚かないぞ。今ここに現れたのだって、奴の拠点であろうタトラメルツも近いしな。
「………」
 カオス・カルマはふっと元から見えない顔をマントに埋め、少し間をおいてから答えた。
「結果を見届けに来たのだ。またあるいは……助言でもしてやろうかと思って……な」
「助言?」
「どうやら必要なさそうだと見ていたのだが」
「何時からだよ!」
 ひらり、とカオスは窪地に降りて来て、顔を巡らせるようにしてギルの結界を確認する。
「これを動かせばいいのか?」
「……動かす?」
「これがここにあるから困るのだろう」
 カオスは、水色の瞳で俺を射抜く。
「願え、私は代価を持って願いを叶える者、空の第三位カオスの悪魔だ。場合によっては状況改善に手を貸せるぞ」
 おいおい、そりゃ嬉しい申し出には変わりないけど……そもそも、何でお前が俺らに手を貸すんだ?
 そんでもって、カオスの正体をちゃんと分かってなかったリオさんが怪訝な顔をする。
「……彼、タトラメルツの領主に使えているあの……カオスさんよね?」
 カオスとはランドールパーティも顔は合わせている。タトラメルツの例の事件が起きる前に、な。
「ああ、領主が呼び出したらしい、正真正銘悪魔のカオスさんだ」
 聞きたい重要な問題点はソコだろ。俺はリオさんに向けて簡潔にその様に答えていた。
「……第三位なんて、そんな簡単に呼べるものじゃないわよ?」
 さすが魔導師、いや元魔導師。動揺を隠して冷静に状況を把握、問題点を指摘してくる。
 ん?いや、そこ問題なんか?
「……簡単って、悪魔呼び出すのに簡単とか難しいとかあるのかよ?」
「あるわ、もちろん呼び出すのは簡単なのよ。だけど呼び出せるランクは選べない……いえ、選ぼうとしたら簡単じゃなくなるの。第三位なんて……そうね、私が知っているだけで過去に遡って3例あったかどうか……いえ」
 細い目をちょっとだけ見開いてリオさんは顔を上げる。
「無色魔導が呼んだはずだわ。確か……二位狙いだったはずだけど」
「エルドロゥか」
 カオスがちょっと笑ったように思える。こいつは……ほんと、会う度に印象が異なる。ヘンな奴だ。
「二位プルトスを呼べる者は存在しない。唯一、青魔導の例があるのみ」
「そうよね、そう伝えられているわ。だからこそエルドロゥは二位を狙ったと言われている。彼は紫の更に上、許されない青の位を望んだのよ。その証明の為に……馬鹿な事をしたものよね」
 その話を聞くに……
「何か?あの馬顔と知り合いなのかカオス?」
「それに答える義務はない」
 いけずな。
「貴方……本当にタトラメルツ領主に呼び出された悪魔なの?」
「それについても答える義務がない」
「……領主の願いを叶えるために動いている訳よね?」
 その質問にはカオスは無言で頷いた。
 俺はよくわからんが、悪魔ってのはそれなりのルールでもって動く事になるらしい。リオさんはそのルールをよく知っているのだろう、元魔導師だもんな。
「私達の困難を手助けするのが……貴方の仕事、と言う訳ね。成る程……でもねぇ、悪魔と取引なんて……流石にちょっと気が引けるわ」
「リオさんがする必要はないだろ、俺が取引すればいい」
「勿論だ、私はお前の願いを求めている」
 するとアインが首を伸ばして俺を覗き込んでくる。
「また、勝手にそういう事決めちゃうし!悪魔と取引なんて怪しい気配がプンプンじゃない!危ないわよ?」
「……その、契約の具体例とかねぇのか?」
 契約書、みたいな奴。重要な事ほど小さく隅っこに書いてあるという悪徳の極みの奴な。
「……お前は、取引が下手そうだな」
「う、なんだ唐突に」
 図星なもんで怯む俺。
「一つ、契約がダメになったのだ。私はその代わりをお前に取り立てたい」
「なんだそりゃ?」

 話を聞くにこうである。

 悪魔ってのは契約交わして願いを叶えるんだけど、その時に願う者、叶える者双方で在る程度のリスクを背負う事になるらしい。
 一方的に悪魔が利益をむさぼる訳じゃねぇのな。契約内容によってば悪魔側がただ働きになって更にリスクを背負う場合がある。そういう仕組みがあるのでなんでもかんでも悪魔は願いを聞く訳じゃない、とか何とか。
 で、そのリスクだが。
 契約が完全にダメになってしまうとそこで縁が切れるんだとよ。
 要するに悪魔にとっては契約という約束事がこの世界に留まる理由になり、縁になる。縁が無くなると世界に居られなくなるんだと。いや、居づらくなる、だったかな?
 とにかく契約ダメにしちゃったら、速攻次の契約を結びたいというのが悪魔の都合だ。

 カオス曰く、俺の所為で一つ契約ダメになってんだってさ。何だよって聞いたら黙秘権がある、だとよ。
 だから替わりに俺と契約むすんで俺にリスクを負わせたいんだそうだ。

 聞いてみると酷い話だ。知るかよそんなテメェの都合。
 そのように言いたい所ではあるのだが……流石は悪魔。見事に足下見て来やがったぜ?
 今まさしく猫じゃなく、悪魔の手も借りたい状況だ。

「で、契約って何をするんだ?俺が願うと何が支払われる」
「それは難しくはない。命でいい」
 単純明快だなそりゃ。
「ただし代価として命を支払って貰うのではない。契約によって失うリスクを負うだけだ」
 だけだって、甘言ですなぁ、あえて厳しい条件にしない所に罠が仕掛けられているように思えるぜ?
「ようするに、失わずに済む場合もあるって事だな」
 そんなうまい話があるかよと笑ってしまうが、こくりとカオスは頷いて答える。俺は手を打ち合わせた。
「うし、その契約乗った!」
 カオスは俺の状況知ってないのかね、俺は……すでに正当な命を持っていないのですが。
 命の価値が張りぼてで、異常に軽い俺だから出来る事だぜ。
「ヤト!せめてナギちゃんとアベちゃんに相談してからにしようよ!勝手に決めるとまた殴られちゃうよ」
 アインの言葉に偽りはない。確かに。
 勝手に決めたらまた殴られるな。
「殴られるのが怖くて暴走が出来るか!」
「……暴走って分かっててやるのね」
 アインががっくり項垂れるのを頭上に乗せたまま俺はカオスと対峙する。
「で、何をすればいい?」
「……お前は取引が下手そうだし頭も悪そうだ」
「悪かったな、図星だよ」
 結構嫌な奴だな。そういや、俺コイツにイイ印象ねぇや。タトラメルツの時もずけずけ真実を暴露されたし。
「特別にサービスをしてやろう」
「サービス?」
 カオスは目を細めて言った。
「お前の願いに対し、私はお前と賭をする。その勝ち負けでリスクを分け合おう」
「……そんなんでいいのか?」
「これは、お前がダメにした前の契約内容でもある。特別に同じ段取りで行う、これがお前に対するサービスだ。お前にはそのように私と取引する頭も段取りもなさそうだからな」
 というか、そんな取引とか通用するとか俺知らないから。
 ようするに……カオスと契約した前の奴はその賭けに勝ったって事だよな。
「しかし、なんでそんなサービス精神働かせるんだ?」
 カオスは……俺から逸らしていた目をこちらに向ける。
「……あえて言うなら意地だな」
「意地?」
「取引するハメになったあげく競り負けたのだ。同じ手段で奪い返したいという気持ちになるものなのだろう?人間というものは」
「……はぁ」
 なんだかよく分からん都合だな、まぁいい。
「じゃぁ、何で賭するよ?」
「……では、契約を行う」
 カオスは両手を広げローブを払いのけた。体中や顔などに巻き付けている帯が舞う。風が巻き起こってアインが俺の頭の上から吹き飛ばされ、リオさんやアービスが吹き飛ばされないようにしているが……。

 俺にはその風が感じられない。

「願え、その願いと契約を交わそう」
 契約を結ぶ者同士の儀式か。ようするにそれを邪魔されないようにするための措置かもな。
「あー……んんと、そこの怪しい結界丸ごとどっか、誰も来ないような所に移動したい……と。これでいいか?」
「場所の指定は?」
「出来るのか?」
「リスクを負う事で願いは叶えられるのだ」
 ああ、ようするに細かく指定すると俺のリスクが高まるって事ね。……逆か?どうなんだろ。
 いや……どっちでもいいか。
 俺は目を閉じ、さてどこなら良いだろうと考える。
「そこでいいのだな」
「ん?何?」
「そこでいいのだろう」
 どうやらこの悪魔、人の思考を読んでいるようだ。良い気分ではない。
 嫌悪を示していたようでカオスはため息を漏らして言った。
「我々は今契約の儀式の最中だ。儀式によって縁を結ぶ、その果てに命のやり取りを行う。今私とお前との間に橋が掛かっているのだ。契約に音はいらない」
 橋、リコレクト。トビラが一方通行であるのに対し相互通信可能って状態だとレッドから聞いた覚えがある。
「でも、俺にはお前の心の声?それらしいのは聞こえないぜ?」
「当たり前だろう」
「なんでだ、橋掛かってんだろ?」

 私は無心、カオス・カルマだからだと相手の意識が答える。

 無心?

 第三位悪魔には心など無い。

 そうだろうか?人間らしくないという変な感覚は確かにあるが、人間くさい所はあるだろ?俺と契約結びたいのは意地だ、とか言ったりするし……。
 いや、そういう事を人間はするのだろう?と、言ったんだっけか。
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沢野 りお
ファンタジー
なんということもない普通の家族が「勇者召喚」で異世界に召喚されてしまった。 兄、橘葵二十八歳。一流商社のバリバリエリートのちメンタルに負担を受け退職後、一家の主夫として家事に精を出す独身。 姉、橘桜二十五歳。出版社に勤める美女。儚げで庇護欲をそそる美女。芸能人並みの美貌を持つオタク。あと家事が苦手で手料理は食べたら危険なレベル。 私、橘菊華二十一歳。どこにでいもいる普通の女子大生。趣味は手芸。 そして……最近、橘一家に加わった男の子、右近小次郎七歳。両親が事故に亡くなったあと、親戚をたらい回しにされ虐げられていた不憫な子。 我が家の末っ子として引き取った血の繋がらないこの子が、「勇者」らしい。 逃げました。 姉が「これはダメな勇者召喚」と断じたため、俗物丸出しのおっさん(国王)と吊り上がった細目のおばさん(王妃)の手から逃げ……られないよねぇ? お城の中で武器を持った騎士に追い詰められて万事休すの橘一家を助けたのは、この世界の神さまだった! 神さまは自分の落ち度で異世界召喚が行われたことは謝ってくれたけど、チート能力はくれなかった。ケチ。 兄には「生活魔法」が、姉には「治癒魔法」が、小次郎は「勇者」としてのチート能力が備わっているけど子どもだから鍛えないと使えない。 私には……「手芸創作」って、なにこれ? ダ神さまにもわからない能力をもらい、安住の地を求めて異世界を旅することになった橘一家。 兄の料理の腕におばさん軍団から優しくしてもらったり、姉の外見でおっさんたちから優遇してもらったり、小次郎がうっかりワイバーン討伐しちゃったり。 え? 私の「手芸創作」ってそんなことができちゃうの? そんな橘一家のドタバタ異世界道中記です。 ※更新は不定期です ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています ※ゆるい設定でなんちゃって世界観で書いております。

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