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10章 破滅か支配か 『選択肢。俺か、俺以外』
書の6後半 闘技場跡『涙は望む果てに』
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■書の6後半■ 闘技場跡 Far from east island
リオさんが悲鳴を上げたのを聞いて驚いて振り返る。
風は一層激しくなっているようで……周りの景色が霞んで見える。こう、光が引き延ばされているような感じに風景が……見えなくなる?
「では、契約だ」
カオスの声にその不思議な光景から目を離す。
「……だがその前に一つ言っておこう」
「何だ?」
「お前の命を取りたい理由がもう一つある」
取りたい理由ね、さっきは意地と言ったが。いや、そこであえて人間的な感情で理由を述べたのは真意を隠す為か?
「私達の都合にとても見合っているのだ」
「……都合ねぇ。なんだよ、レッド曰わく悪魔の都合ってのは諸説あって何が正しいかよく分からんとか言うが」
「分かりやすい言葉で言えば扉を開きたいのだ」
それは……全然分かりやすくは無いような気がするのだが。
俺の頭の悪い感想を、心のバイパスから聞き取ってカオスの野郎間違いなく笑った。
てめぇ、悪魔で無心とかいう『心が無い』存在とか言う癖に!そんな風に笑うからそれが信じられねぇんだよ。
「お前の命は重い」
「重いだぁ?重いも何もないだろう」
命の重さは平等です、だなんて事を言いたい訳じゃないが、せめてそれ位は等しくあって欲しいとは思っている。
だが実際問題として人の命の重さは等しくない。俺はそう思う。
例えて田舎戦士の俺と、一国の王であるミストの命の重さは違うだろ?いやその場合重い軽いは命ではなく、背負っている歴史と責任の違いか?
それに俺は……正しく生きていない。間違いなくエラーを出している。
赤い旗は見えなくなったけど俺の存在はバグだ。
既に死んでいる、何か裏技的なバグで生きている俺の命のドコが重いというのだろう。
……と、このあたりカオスは事情分かるはずないのだが。これって経験値マイナスの対象になる?心の声まで相手に届いてしまうのはこれだから困る。
いろいろ考えるに、命の重さって何よという疑問が湧く。
「説明しても理解はされまい」
「あーそうですか。どうせ俺には理解力など皆無ですよ」
「……お前の命が得られたら、恐らく扉は開くだろう」
扉、トビラ?カオスの望むその扉とはドコのトビラだ?
その扉は、開いてもいいものだろうか。
ちょっとそのように不安に思ってしまった。
例えば俺達の例がある。
トビラを開いたばっかりに、この世界は存在の危機に瀕している。
誰がトビラを開いたのか知らんが……そうだな、この場合トビラを開いた奴がいるのか?一方通行で繋がるトビラを誰かが開いたから俺達はここにいるのか。
今ではそんな思考がスムーズに出来てしまう俺である。
前だったら俺はそんな風には考えなかっただろう。だって、ここゲームなんだからそういう仕様だろうと片づけたに違いない。
でもあんまりリアルすぎるゲームで、作られた世界だという事の方が信じられない。果てにこの世界は俺にとって現実だ、それが真実だと見事に脳味噌騙されてる。
そんでもって、騙されてもいいや思っている。
あーもぅ、カオスを前にして思考までゲームルールで縛ろうったって無理!
いいや、自重しない。
この声は相手に聞こえているのか、聞こえているなら疑問の一つもあるだろうにカオスは何も聞いてこない。
まぁいい、
何も心配する事はない。
いずれこの夢は覚めると言う事を俺は、知っている。
知った上でこの世界に夢の中、脳はすっかり順応してこの世界の都合で考えられる。ただ一つだけ特異な事は……。
俺達は異邦人で、一方通行のトビラを通って違う世界から来ていると言う事も忘れていない、ちゃんと知っているという事だ。
カオス、俺達は……知っているんだぜ。
トビラが開いたら……たとえば、どうなるのか、とか。
命を賭けた契約に、カオスは俺に賭け事を問う。
望みには望みに。そう前置いてカオスは俺に言った。
『いずれこの世界は救われるか否か』
その途端俺が心の中で何と答えたか分かるか?
まぁ、当然そうなるよな。そうなっちまうだろ。
その途端契約は結ばれ、悪魔と俺との縁が成立する。
てゆーかカオス。
俺とお前の賭け事は本当にそんな事でいいのか!
あと、少しくらいどっちを取るかくらい俺に考えさせるヒマをくれよ!
「どちらを取るのかがそれによって、変わるのか?」
いや。
変わらないけど。
ならばいいではないかと……間違いない。ローブに隠れた顔が間違いなく微笑んでいて俺は、その悪魔の微笑の意味は何なのだろうとヘンに勘ぐってしまうのだった。
気が付いたら暗い色のレンガが視界前に広がっていて目を瞬いている。
「お、……っと……?」
陥没した土地で目の前に岩の壁があったはずなのに、やけに人工的な景色の所に来てしまいました……ね?
俺は辺りを見渡すに従い……冷や汗を流し始めた。
ちょっと待てカオス。
俺はギルと、ギルが絡んでいる封印術を動かせと願ったんであって俺達をどっかに連れていけとは一言も!
願ってないぞ俺は!
「これは、貴方の願いの仕業じゃぁないようね」
俺のそんな青い顔を見て、リオさんがため息を漏らした。
「うわ!なんだ?どうして俺達もここに来てるんだよ!」
「まぁ……仕方がない事なのかもしれない」
リオさん、自分の足下を指さしている。
「見なさい、地面ごとこっちに運ばれてしまったのよ。というか……恐らく転移したわね」
「だから、転移なら!」
「転移というのはね、種類にもよるけれど基本的には相互交換なの。一方的に送りつけるんじゃない。魔導的な話になるけど転移門と転移扉、どっちが上級術になるかと言ったら扉なのよ。扉は一方通行だから一方的に運ぶわ、その方が技術が上なの。扉だと逆門を探知されにくいしね……。で、悪魔というのがどれだけの存在かはわからないけど地面に根ざしている魔法を壊さずに運ぶ、しかも規模が小さくない。容易くはないのに扉術が使われた可能性は低いわ」
いまいち理屈が把握できない俺ですが、リオさんしゃがみ込んで足下の砂を掘り始めた。すると……古い石板が出てくる。
「見えているものが表層的なものでしかないようね。もっと大掛かりな魔法構築陣が足下に埋もれているはずよ」
「じゃ、それごとこっちにあたし達、連れてこられちゃったって事?」
アインが小さな手で頭を支えて叫びのポーズになった。
「……ようするに……あれか?ここの石畳と交換であっちの空間がまるっと……」
「交換になったんでしょうねぇ」
ギル、相変わらずふて腐れた顔で繋がれている。
アービスが状況に惚けた顔をしてその隣に突っ立っている。
それからリオさんもいるしアインも居る訳だが。
「マツナギとアベルは!」
「……はぐれたわね」
この場にいないのだ。そう云う事になる……よな。
彼女らは一旦、地下施設に潜ってしまっていたらしい。地下施設はこっちに運ばれてきている様子はない……入り口が見あたらない訳だし。
そこで、俺は大きく息を吐き出していた。
「よかった……」
安堵した俺に対して当然リオさんが怪訝な顔になる。
「なんで良いのよ。ここがどこだか知らないけど、あの場に置いてきてしまったのよ?」
「いや、この場合はいいんだ。いいけど……まいったな」
俺はだだっ広い空間を改めて見渡していた。
「ヤト、ここがどこだか分かるの?」
アインがぱたぱたと飛んできて俺の頭上に収まった。
「そりゃなぁ、この景色は長らく見てきたし……いや、こうやってのんきに見回すヒマは与えられないからちょっと新鮮だな」
黒い石の建物には人気がない。管理もされていない建物のあちこちには鳥が巣を作っていたり、白いフンが垂れ流されるのが放置されている。所々でそれから種が芽吹いて草が生えているのも見受けられる。
要するに廃墟だ。
でも……そんなに昔から放置されている訳ではなく比較的近年放置されたな、という感じ。
立派な黒っぽい煉瓦でつくられた建物の、中央部分に俺達は突っ立っている。
「見た感じ、闘技場よね?」
リオさんの言葉にアイン、思い当たって首を上げる。
「ああ、もしかしてここって例のエズ?」
俺は苦笑を返していた。
対し、リオさんの笑みが引きつっております……。
「だとしたら、はぐれたのは彼女達じゃなくて私達の方だわね」
なんでかってそりゃ、エズだとするならここはイシュタル国と言う事になる。遠東方だ。
西方ファマメント国からは相当に遠い場所って事になる。東方じゃないぞ、ここはそこからさらに遠く、なのだ!
イシュタル国からしてみるとカルケードなんて『世界の裏側』に匹敵するような遠い場所に位置するんである。
ずいっとリオさんが俺に詰め寄ってきた。
「あなた、ここがどこだか分かっているって事は貴方がここを選んだって事かしら?」
「や、待て、俺らまで連れてこられるとは聞いてない!カオス!」
くそ、あの野郎!
やる事だけやってさっさと行方を眩ましやがったのか!
「どうなのよヤト、ここを選んだの?」
「いや、俺は別に選んだ訳では……」
出来るならここじゃない方が良いだろ。もしかすればアベルとかアベルとかアベルとかをこの場所に連れてきてしまう可能性もあったんだからな!というか……。
やっぱりここじゃまずいと俺は思うのだがッ
「どうするのよ!イシュタル国じゃカルケードに連絡する手立ても無いし、アベルとマツナギをあの場に残して来たのも気がかりだし……ふぅ、文句を言っても仕方がないわ」
リオさん、散々不満を漏らした後にため息を漏らしてようやく立ち直る。
「とにかく急いで戻りましょう」
「どうやって戻るんだ?」
「決まっているでしょ、さっさとセイラードに向かって船に乗ってファマメント国に帰るのよ!偏西風があって助かったわね……これが逆だったらペランストラメールを自力で南下するしかないんだから!」
「え、セイラード港から西方大陸に渡れるのか?」
それするには、外海を越えないといけないと思うのだが……こう、地図で見る限り。外海って広いんだわ、例えて太平洋の非じゃねぇくらい。船って存外補給地を転々と移動するものなのだ。巨大な海を一気に渡り切る程長い航海というのは、この世界の技術レベル的には難しいのでは?
「……詳しい話は後!走ってる船の数が限られているからチケット抑えるのが難しかったはずよ?私達お金持ちじゃないんだから……というか、船のチケット取れるかしら」
不安そうなリオさんを見ていて、確かに……
金銭感覚をこっちの世界的なリアルで認識して思い出し、俺もちょっとぞっとして来た。
「転移門とかは無いのかよ!?」
「無いわよ!大体、あたしは元魔導師よ?!レッドなら紫だから便宜は効くのでしょうけど私はそもそも協会から追い出された身なの、当てにはしないで!」
「うわ、すいません!」
自分がイライラしているのに気が付いたようにリオさん、深呼吸をしてから……封印に囚われているギルを振り返る。
「と云う事だから、あなた、とりあえずここに放置するわね」
「俺はとやかく文句言える状態じゃねぇ、勝手にしろ。いや……ヤト、」
「何だよ」
呼ばれて俺は邪険な顔で振り返る。
「必ず俺を殺しに来いよ?」
にやにや笑いながら、多分……挑発的に言われた言葉に俺は相手を睨み付けた。
「言われなくても!ここでテメェに暴れられるの困るしな……てか、そうだ!待ってリオさん、その前にここに立ち入り禁止令敷いて貰わないといけないだろ?」
「ここの闘技場、見た感じ長らく使われてないみたいだけど……誰にそんな立ち入り禁止令なんてお願い………ああ、そうだった。あなた達はイシュタル国の認証受けてる魔王討伐隊だったのよね!そっか、なら話は別だわ」
俺はどうすればここを立ち入り禁止に出来るだろうか、と焦った訳ですっかりリオさんに指摘された事を忘れていました。
そういや、そうだった!
「なら、カルケード直通便も手配してくれるに違いないわ」
「いやぁ、だとレイダーカに行かないといけないだろ?遠回りじゃね?」
ちなみに島国イシュタル国の地理をご説明すると、首都であるレイダーカは今居るであろうここ、エズからちょっとばかし遠い。その上、船に乗らないとたどり着けない、別の島にある。
ぶっちゃけ港町のセイラードからは島の反対側にあるとも云える、別の港町から船に乗らないとレイダーカには行けない。そういう国の決まりがある事を俺は、イシュタル国での生活が長かった都合は理解している様ですんなりとリコレクトしている。
そのあたりの地理をリオさんも把握してか、額に手を当てて呻いた。
「ああ、もう!どうしてこういう身動きし辛い場所に!」
色々テンパって来ているようだ。
「ううう、ごめんなさい……」
そんなリオさん相手にすっかり萎縮する俺だが……まぁ、右往左往しててもしょうがない。待ってりゃ誰かがなんとかしてくれるという状況ではないのだから俺が、出来る限りの事をしなきゃいかんだろ。
「俺、この国で顔利く方だ、立ち入り禁止の件は俺がどうにかしてくる。金銭の面も……そうだな、それもなんとかしよう」
懐かしい場所。
そんな事考えて感傷に浸ってる場合じゃない。それに……。
懐かしいと云う思いと一緒に、ちょっとだけ苦い思い出も喚起する。
俺はアービスにここの居残りを命じ、アインを頭に乗せたまま――廃墟になっている闘技場からエズの町に飛び出していった。
いや、飛び出したい所だがその前に……この建物から外に出ないと。
外側から閉鎖されている、俺が知っている通路は通れないようなので、仕方が無く闘技場の窓から外へ飛び降りた。
管理の失われた通路にはすっかり草が伸びているが……。
「よく考えるとヘンだな」
「何が?」
俺の頭上に乗っかっているアインが首を伸ばす。
「ここは隣の闘技場が管理権を取得したはなんだけどな、なんで廃墟なんだ?」
「あれ?ヤトがここの場所を選んだんでしょ?」
だから、違うってば!確かに……どこか良い場所ないだろうかって思って……一瞬思い浮かべたりはしたけど。
経営悪化でツブれる事になるという、この闘技場は今どうなっているだろう、廃墟なんだろうかとか考えちゃったんだよな。
そしたらカオスが『そこでいいのか』と勝手に話を進めやがった。
廃墟だったからよかったものの闘技場として機能していたら……いや、その場合は契約違反になるか。
俺はその前に『誰も来ないような所に移動したい』って言っている。この条件に反するようでは俺とカオスで交わした命の契約が途端破れる、カオスの違反って事でな。
と云う事は、カオスはこの闘技場が廃墟になっていて条件に適している事を知っていたって事なのだろう。
「気には掛けたけど俺は、適当に都合の良い所と奴には言ったんだ。カオスの仕業だ、俺の所為じゃねぇ」
「ふぅんそう。で、なんで廃墟なの?」
俺は頭を傾いでしまう。そうだな……その話はしていない。
俺とアベルとテリーの中で暗黙の了解になっている事だ。いちいち話す事じゃないと思っている。
「言わないと……ダメか?」
「なんで?いいじゃない。聞くのあたしだけよ?レッドとかにバレるわけじゃないじゃない」
「……そう云う事じゃないんだよ」
大きな闘技場を囲む塀をさて、どうやって超えるかなと見上げた上で俺は、超えられそうな場所を探して歩く。
脱走する者を見越してかまぁ立派に作ってくれやがって。内側に反り掛かっている塀の上にはさらに、鋭い鏃が並んでいる。
こんなもの無くたって誰も逃げだしやしねぇよ。ああ、そうじゃないか。出入り口を固めて出入り情報を把握したい、その為の塀か。
そんな事を考えながら、外側からがっちり閉められて開きそうにない門の所に来てしまった。
「出られないわねぇ」
「しゃーねぇ、あとはあそこだ」
俺は頭を掻き、少し駆け足で塀沿いにさらに奥へ進んでいった。
健在だ、よく見える。
大きなケヤキの木が建物の屋根を越えて生えているのを見上げ、太い枝が建物の屋根まで到達しているのを確認した。
俺が何をするのか察したようだ。アインは先に飛んで屋根の上に登っていく。
俺は、まず装備品を脱ぐ。鎧姿が目立つからって事ではない、ここは間違いなくイシュタル国エズなのだから、冒険野郎はここそこで見かける事が出来る、そういう町だ。
鎧を脱いだのは軽装になる為だ。剣を背中にくくりつけてからナイフを幾つか取り出し、それを幹に差し込みながら足場を作って枝の一つに捕まる。あとはまぁ、鍛えたこの筋力でなんとか上によじ登って屋根に上がるぜ。
まだ明るい所為で一般の人通りが多いかと思いきや、塀の向うは閑散としている。おかげで塀を越えるのに苦労しない。高い塀を飛び越え、固い石畳に着地。衝撃を緩和しながら転がり降りて、俺は再び視線がないかどうか当たりを見渡した。
「……なんだ、この閑散っぷりは?」
「落ち着いた町じゃない」
「いや、闘技場の町だぞここ?」
落ち着いててたまるか、熱気と殺気と血のっけの多い町としてエズは世界的に有名なんですけど。
「でも、ここ使われてないんだもの。人通り無いのは当たり前じゃない?」
そうじゃない。
俺は早足で再びアインを頭に乗せたまま誰もいない道を表通りに向かって歩いた。
こっちは流石に人通りはある。でも……昔はこんなもんじゃなかったんだ。
そんなに昔じゃないぞ、そんな……昔の事じゃないのに。
まるでもう、この町を離れて何年も立ってしまったのではないかと錯覚する。
大通りに面して向かい合っていた大きな闘技場、エトオノとクルエセル。
二つの看板が下ろされていた。
「……無い」
「何が?」
「なんでクルエセルが無いんだ……!?」
「クルエセル?」
「こっちの闘技場の名前だ!おかしいだろ、なんでクルエセルも潰れてやがるんだ?」
かつて二大闘技場と呼ばれた場所が機能していないんだ。その界隈の酒場もすっかり廃れている。
知っている店の殆ど店を閉じていた。ここいらの飲食店は殆どエトオノとクルエセルに流れてくる客、およびそこに属する剣闘士やスタッフなどに支えられていたはずだものな。仕方がない。
それでもなんとか生きている店を見つけ、俺は馴染みの飲み屋がどこに越したかという情報を得る。二大闘技場が潰れた理由についても聞きたい所だったが……それは、事情をちゃんと話してくれる奴に聞こう。
再び早足で町を歩く俺に、アインは首を回して覗き込んでくる。
「ヤト、まさか当てが外れたって事?クルエセルからお金借りようとしたとか」
「そりゃない、俺ぁそこの闘技場の運営者からよく思われてない。テリーならともかく……テリーはクルエセル所属だったから奴なら顔が利くんだけどな。いや、どっちみち無いんだ、当てはあそこじゃない」
「もう一つはエトオノ、だったっけ?」
「いや、エトオノは潰れた。俺はそれを見届けたようなもんだ」
「ヤトはそこの所属だったの?」
その質問は微妙だな。
俺は苦笑し、この辺りだと歩みを緩めて道行く人々の流れの間から看板を伺う。
「いや……俺は、無所属だ」
正確にはそう云う事になっている、なんだけど。
「ん、ああここ中央路に近いんだな」
目的の店を見過ごして通り越したらしい事に気がついた、いっそここまで来たなら、と道を先に進む。
そして大きな石版の並んでいる広場へ向かい、新しい石版の一つをアインに案内した。
「見ろ、これが俺がここのチャンピオンであるという証明だ」
「うわ!ホントだ!」
ホントだって、疑ってたんですかアインさん。
案内した大きな御影石に俺の名前が比較的新しく彫りこんであるのを指さすと、アインはそれを首をかしげていろいろな角度から見てから俺を覗き込む。
「ヤト・ガザミ……無所属。ホントね」
「俺はレッドみたいに無用な嘘はつかないぞ?」
「うん、それは知っているけれど。なんか3人で黙りになる事あるでしょ?何なの?」
「何なのって、俺は俺の過去は……コモンコピー渡しただろう」
他人に聞かれると経験値が減るであろう単語を小さな言葉で囁く。
「他に何が知りたい」
「具体的にはどこでアベちゃんと会ったとか」
「ここの首都レイダーカだな」
嘘付くのって体力使う。
俺はとっさにその『事実』を告げたが、そう云う事になっているという事情を説明するつもりがないので黙っているしかない。それが、まるで今アインに告げた『事実』が実は嘘であるという事になっちまってる気がして……。とっても疲れる。
「なんで?」
「魔導都市に行く為の……この場合は道案内だろうな」
「テリーと一緒に?」
「奴に道案内が務まると思うのか」
アインは頭上で唸る。
「そう言われると……当てにならないような気もしてきた」
「だろう?アイツ結局良いトコのぼんぼんだろ?割と非常識で道案内とか役に立たないんだよ。……俺がここで現役張ってた頃は、エトオノやクルエセルは大舞台だ。それがそろいも揃ってツブれてるってどういう事だよ」
「その理由に、ホントに心当たり無いのね」
「当たり前だろ?……戻ろう、知り合いに事情とか聞き出さねぇと」
俺は元来た道を戻りようやく……昔なじみだった酒場の案内看板を見つけた。
細い路地を潜った先、まぁ時間が時間だ。準備中の札が掛かっているのを見つける。看板は昔のままこっちに運んだな、見間違えることは無い、間違いなくここだ。
「すいませーん……」
誰もいない酒場は薄暗い。その奥で、仕込みをしていた人が驚いて顔を上げる。
「お客さん!まだ準備中よ」
そう言ってバーマスターは目を細める。
そうか、逆光で眩しいんだな。俺は扉を閉めてアインと一緒に薄暗い部屋に入る。
「ども、久しぶりです」
「……!?」
……そうだった。
一つ段取りが必要だったのに今気が付く。俺はアインを頭上から引き剥がし、椅子の一つに置いた上で素早くマスターの所に近づき段取りを説明。
「マスタ、俺です。俺、ヤト・ガザミ」
「あ、ああ!ヤトね!ヤト!久しぶり!」
「……怪しい」
怪しくお互いを認識して苦笑する俺とマスターにアインは訝しげな視線を送ってくる。
「本当に馴染みなの?」
「え?そ、そうよ?あれ以来町に戻ってきていないから本当に久しぶりだけど……どうしたの?今ドコで何しているの?」
「はは、まぁいろいろと……所でマスタ、事情説明してくれよ!」
何の事情なのかは勿論、馴染みですもん。分かってくれている。
少しふくよかな体格のバーマスターは神妙な顔で頷いた。
「クルエセルの事は聞いていないのね。って事は、貴方国を出ていたようね」
「まぁ、居づらいってのもあるからな」
「……そうね」
「なんで居づらいのよ。チャンピオンなんでしょー?」
「いろいろあるのよ、この町にもね」
ここのバーの名前は『テガミ』。
そんでもって、切り盛りしているマスターの名前はメエル。分かりやすいだろ?
そんな大きな店じゃない。有名というわけでもない。でもそこが重要だったんだ……当時はな。
小さなドラゴンのアインを覗き込んで、マスターのメエルさんは笑った。
「変わったのを連れているのね。おしゃべりするドラゴンなんて、珍しいわ。かわいいわねぇ、貴方昔から歳下受けする所があったけど、こういうのにもモテるのね?」
「な、なんだよ、そんな事無いと思うけど?」
俺は慌てて否定するが……確かに。年上からは嫌われて、年下からは慕われるというのがはっきりしていた。
親しくなれるのは同年代までが限界だった。理由ははっきりしている。
俺が年上を全く敬わないからだ。
はははは、敬語?何それ!食えるの?
珍しいチビドラゴンを抱き上げて、マスタはカウンターバーに乗せる。
「私はメエル。みんなからはマスターと呼ばれている通りこの店の主よ。今は準備中だけど……ここは一見さんお断り。剣闘士だけが入れるお店なの」
「そうなんだ、あたしはアイン。魔導都市でヤトに拾われたの。助けて貰った……というのはちょっと違うみたいだし?」
う、そんな疑わしそうに言うなよアイン。最終的に助けてやったんだからいいじゃんか。
「ん、結局魔導都市に行ったんだ」
にこにこ微笑みながら聞かれてしまった。俺は、頭を掻いて口を濁す。
「あー……まぁ、な。俺も用事があったし」
「よかったわね、……おかげで貴方なのかどうかすぐ分からなかったもの」
俺とマスタはそのまま、無言でいてしまう。
何が良かったのか?ふふふ、秘密だ。
その間に……言葉になってない会話が成立したと思いねぇ。面白いもんだ。お互い考えている事が同じだと、言葉にしなくても視線を交わすだけで意思疎通って本当に成立するんだな。
よくレッドとナッツが無言で目配せしているが、それと同じように今、俺はマスタと目配せで会話している。
ん?……何か違和感を感じている……?……何だ?
「……クルエセルの事だったわね……座って。何か飲む?」
そのように進められて引っかかった件は後回しにして、深く考えないでおいてしまった俺。
「悪いな、経営時間外に」
「そうでなきゃ覗きに来れないんでしょう?なるべくなら会いたくない人もいるでしょうに」
その通り。
顔がそんなに割れている訳じゃないが、俺が『ヤト』だと知っている奴は今も多くいるはずだ。余計な事を聞いてくる奴もいるだろう。マスタみたいに俺の事情をちゃんと把握して余計な所すっ飛ばしてくれる奴だけとは限らない。
人を待たせている事を説明して、あんまりまったりもしてらんないと言ったんだがマスタ、さり気なく空腹だった俺達に軽食まで出してくれた。手早くパンに野菜やハムなどを挟み込んで豪快にパンナイフで切り分ける。
サンドイッチの少しは包んで貰ってリオさんに食べて貰おう。
アービスらは魔王八逆星だから飲まず食わずでもいいらしいのでおみやげ無し。
そんなんしながら、俺達が去った後、エズで起こった出来事を聞く事になった。
リオさんが悲鳴を上げたのを聞いて驚いて振り返る。
風は一層激しくなっているようで……周りの景色が霞んで見える。こう、光が引き延ばされているような感じに風景が……見えなくなる?
「では、契約だ」
カオスの声にその不思議な光景から目を離す。
「……だがその前に一つ言っておこう」
「何だ?」
「お前の命を取りたい理由がもう一つある」
取りたい理由ね、さっきは意地と言ったが。いや、そこであえて人間的な感情で理由を述べたのは真意を隠す為か?
「私達の都合にとても見合っているのだ」
「……都合ねぇ。なんだよ、レッド曰わく悪魔の都合ってのは諸説あって何が正しいかよく分からんとか言うが」
「分かりやすい言葉で言えば扉を開きたいのだ」
それは……全然分かりやすくは無いような気がするのだが。
俺の頭の悪い感想を、心のバイパスから聞き取ってカオスの野郎間違いなく笑った。
てめぇ、悪魔で無心とかいう『心が無い』存在とか言う癖に!そんな風に笑うからそれが信じられねぇんだよ。
「お前の命は重い」
「重いだぁ?重いも何もないだろう」
命の重さは平等です、だなんて事を言いたい訳じゃないが、せめてそれ位は等しくあって欲しいとは思っている。
だが実際問題として人の命の重さは等しくない。俺はそう思う。
例えて田舎戦士の俺と、一国の王であるミストの命の重さは違うだろ?いやその場合重い軽いは命ではなく、背負っている歴史と責任の違いか?
それに俺は……正しく生きていない。間違いなくエラーを出している。
赤い旗は見えなくなったけど俺の存在はバグだ。
既に死んでいる、何か裏技的なバグで生きている俺の命のドコが重いというのだろう。
……と、このあたりカオスは事情分かるはずないのだが。これって経験値マイナスの対象になる?心の声まで相手に届いてしまうのはこれだから困る。
いろいろ考えるに、命の重さって何よという疑問が湧く。
「説明しても理解はされまい」
「あーそうですか。どうせ俺には理解力など皆無ですよ」
「……お前の命が得られたら、恐らく扉は開くだろう」
扉、トビラ?カオスの望むその扉とはドコのトビラだ?
その扉は、開いてもいいものだろうか。
ちょっとそのように不安に思ってしまった。
例えば俺達の例がある。
トビラを開いたばっかりに、この世界は存在の危機に瀕している。
誰がトビラを開いたのか知らんが……そうだな、この場合トビラを開いた奴がいるのか?一方通行で繋がるトビラを誰かが開いたから俺達はここにいるのか。
今ではそんな思考がスムーズに出来てしまう俺である。
前だったら俺はそんな風には考えなかっただろう。だって、ここゲームなんだからそういう仕様だろうと片づけたに違いない。
でもあんまりリアルすぎるゲームで、作られた世界だという事の方が信じられない。果てにこの世界は俺にとって現実だ、それが真実だと見事に脳味噌騙されてる。
そんでもって、騙されてもいいや思っている。
あーもぅ、カオスを前にして思考までゲームルールで縛ろうったって無理!
いいや、自重しない。
この声は相手に聞こえているのか、聞こえているなら疑問の一つもあるだろうにカオスは何も聞いてこない。
まぁいい、
何も心配する事はない。
いずれこの夢は覚めると言う事を俺は、知っている。
知った上でこの世界に夢の中、脳はすっかり順応してこの世界の都合で考えられる。ただ一つだけ特異な事は……。
俺達は異邦人で、一方通行のトビラを通って違う世界から来ていると言う事も忘れていない、ちゃんと知っているという事だ。
カオス、俺達は……知っているんだぜ。
トビラが開いたら……たとえば、どうなるのか、とか。
命を賭けた契約に、カオスは俺に賭け事を問う。
望みには望みに。そう前置いてカオスは俺に言った。
『いずれこの世界は救われるか否か』
その途端俺が心の中で何と答えたか分かるか?
まぁ、当然そうなるよな。そうなっちまうだろ。
その途端契約は結ばれ、悪魔と俺との縁が成立する。
てゆーかカオス。
俺とお前の賭け事は本当にそんな事でいいのか!
あと、少しくらいどっちを取るかくらい俺に考えさせるヒマをくれよ!
「どちらを取るのかがそれによって、変わるのか?」
いや。
変わらないけど。
ならばいいではないかと……間違いない。ローブに隠れた顔が間違いなく微笑んでいて俺は、その悪魔の微笑の意味は何なのだろうとヘンに勘ぐってしまうのだった。
気が付いたら暗い色のレンガが視界前に広がっていて目を瞬いている。
「お、……っと……?」
陥没した土地で目の前に岩の壁があったはずなのに、やけに人工的な景色の所に来てしまいました……ね?
俺は辺りを見渡すに従い……冷や汗を流し始めた。
ちょっと待てカオス。
俺はギルと、ギルが絡んでいる封印術を動かせと願ったんであって俺達をどっかに連れていけとは一言も!
願ってないぞ俺は!
「これは、貴方の願いの仕業じゃぁないようね」
俺のそんな青い顔を見て、リオさんがため息を漏らした。
「うわ!なんだ?どうして俺達もここに来てるんだよ!」
「まぁ……仕方がない事なのかもしれない」
リオさん、自分の足下を指さしている。
「見なさい、地面ごとこっちに運ばれてしまったのよ。というか……恐らく転移したわね」
「だから、転移なら!」
「転移というのはね、種類にもよるけれど基本的には相互交換なの。一方的に送りつけるんじゃない。魔導的な話になるけど転移門と転移扉、どっちが上級術になるかと言ったら扉なのよ。扉は一方通行だから一方的に運ぶわ、その方が技術が上なの。扉だと逆門を探知されにくいしね……。で、悪魔というのがどれだけの存在かはわからないけど地面に根ざしている魔法を壊さずに運ぶ、しかも規模が小さくない。容易くはないのに扉術が使われた可能性は低いわ」
いまいち理屈が把握できない俺ですが、リオさんしゃがみ込んで足下の砂を掘り始めた。すると……古い石板が出てくる。
「見えているものが表層的なものでしかないようね。もっと大掛かりな魔法構築陣が足下に埋もれているはずよ」
「じゃ、それごとこっちにあたし達、連れてこられちゃったって事?」
アインが小さな手で頭を支えて叫びのポーズになった。
「……ようするに……あれか?ここの石畳と交換であっちの空間がまるっと……」
「交換になったんでしょうねぇ」
ギル、相変わらずふて腐れた顔で繋がれている。
アービスが状況に惚けた顔をしてその隣に突っ立っている。
それからリオさんもいるしアインも居る訳だが。
「マツナギとアベルは!」
「……はぐれたわね」
この場にいないのだ。そう云う事になる……よな。
彼女らは一旦、地下施設に潜ってしまっていたらしい。地下施設はこっちに運ばれてきている様子はない……入り口が見あたらない訳だし。
そこで、俺は大きく息を吐き出していた。
「よかった……」
安堵した俺に対して当然リオさんが怪訝な顔になる。
「なんで良いのよ。ここがどこだか知らないけど、あの場に置いてきてしまったのよ?」
「いや、この場合はいいんだ。いいけど……まいったな」
俺はだだっ広い空間を改めて見渡していた。
「ヤト、ここがどこだか分かるの?」
アインがぱたぱたと飛んできて俺の頭上に収まった。
「そりゃなぁ、この景色は長らく見てきたし……いや、こうやってのんきに見回すヒマは与えられないからちょっと新鮮だな」
黒い石の建物には人気がない。管理もされていない建物のあちこちには鳥が巣を作っていたり、白いフンが垂れ流されるのが放置されている。所々でそれから種が芽吹いて草が生えているのも見受けられる。
要するに廃墟だ。
でも……そんなに昔から放置されている訳ではなく比較的近年放置されたな、という感じ。
立派な黒っぽい煉瓦でつくられた建物の、中央部分に俺達は突っ立っている。
「見た感じ、闘技場よね?」
リオさんの言葉にアイン、思い当たって首を上げる。
「ああ、もしかしてここって例のエズ?」
俺は苦笑を返していた。
対し、リオさんの笑みが引きつっております……。
「だとしたら、はぐれたのは彼女達じゃなくて私達の方だわね」
なんでかってそりゃ、エズだとするならここはイシュタル国と言う事になる。遠東方だ。
西方ファマメント国からは相当に遠い場所って事になる。東方じゃないぞ、ここはそこからさらに遠く、なのだ!
イシュタル国からしてみるとカルケードなんて『世界の裏側』に匹敵するような遠い場所に位置するんである。
ずいっとリオさんが俺に詰め寄ってきた。
「あなた、ここがどこだか分かっているって事は貴方がここを選んだって事かしら?」
「や、待て、俺らまで連れてこられるとは聞いてない!カオス!」
くそ、あの野郎!
やる事だけやってさっさと行方を眩ましやがったのか!
「どうなのよヤト、ここを選んだの?」
「いや、俺は別に選んだ訳では……」
出来るならここじゃない方が良いだろ。もしかすればアベルとかアベルとかアベルとかをこの場所に連れてきてしまう可能性もあったんだからな!というか……。
やっぱりここじゃまずいと俺は思うのだがッ
「どうするのよ!イシュタル国じゃカルケードに連絡する手立ても無いし、アベルとマツナギをあの場に残して来たのも気がかりだし……ふぅ、文句を言っても仕方がないわ」
リオさん、散々不満を漏らした後にため息を漏らしてようやく立ち直る。
「とにかく急いで戻りましょう」
「どうやって戻るんだ?」
「決まっているでしょ、さっさとセイラードに向かって船に乗ってファマメント国に帰るのよ!偏西風があって助かったわね……これが逆だったらペランストラメールを自力で南下するしかないんだから!」
「え、セイラード港から西方大陸に渡れるのか?」
それするには、外海を越えないといけないと思うのだが……こう、地図で見る限り。外海って広いんだわ、例えて太平洋の非じゃねぇくらい。船って存外補給地を転々と移動するものなのだ。巨大な海を一気に渡り切る程長い航海というのは、この世界の技術レベル的には難しいのでは?
「……詳しい話は後!走ってる船の数が限られているからチケット抑えるのが難しかったはずよ?私達お金持ちじゃないんだから……というか、船のチケット取れるかしら」
不安そうなリオさんを見ていて、確かに……
金銭感覚をこっちの世界的なリアルで認識して思い出し、俺もちょっとぞっとして来た。
「転移門とかは無いのかよ!?」
「無いわよ!大体、あたしは元魔導師よ?!レッドなら紫だから便宜は効くのでしょうけど私はそもそも協会から追い出された身なの、当てにはしないで!」
「うわ、すいません!」
自分がイライラしているのに気が付いたようにリオさん、深呼吸をしてから……封印に囚われているギルを振り返る。
「と云う事だから、あなた、とりあえずここに放置するわね」
「俺はとやかく文句言える状態じゃねぇ、勝手にしろ。いや……ヤト、」
「何だよ」
呼ばれて俺は邪険な顔で振り返る。
「必ず俺を殺しに来いよ?」
にやにや笑いながら、多分……挑発的に言われた言葉に俺は相手を睨み付けた。
「言われなくても!ここでテメェに暴れられるの困るしな……てか、そうだ!待ってリオさん、その前にここに立ち入り禁止令敷いて貰わないといけないだろ?」
「ここの闘技場、見た感じ長らく使われてないみたいだけど……誰にそんな立ち入り禁止令なんてお願い………ああ、そうだった。あなた達はイシュタル国の認証受けてる魔王討伐隊だったのよね!そっか、なら話は別だわ」
俺はどうすればここを立ち入り禁止に出来るだろうか、と焦った訳ですっかりリオさんに指摘された事を忘れていました。
そういや、そうだった!
「なら、カルケード直通便も手配してくれるに違いないわ」
「いやぁ、だとレイダーカに行かないといけないだろ?遠回りじゃね?」
ちなみに島国イシュタル国の地理をご説明すると、首都であるレイダーカは今居るであろうここ、エズからちょっとばかし遠い。その上、船に乗らないとたどり着けない、別の島にある。
ぶっちゃけ港町のセイラードからは島の反対側にあるとも云える、別の港町から船に乗らないとレイダーカには行けない。そういう国の決まりがある事を俺は、イシュタル国での生活が長かった都合は理解している様ですんなりとリコレクトしている。
そのあたりの地理をリオさんも把握してか、額に手を当てて呻いた。
「ああ、もう!どうしてこういう身動きし辛い場所に!」
色々テンパって来ているようだ。
「ううう、ごめんなさい……」
そんなリオさん相手にすっかり萎縮する俺だが……まぁ、右往左往しててもしょうがない。待ってりゃ誰かがなんとかしてくれるという状況ではないのだから俺が、出来る限りの事をしなきゃいかんだろ。
「俺、この国で顔利く方だ、立ち入り禁止の件は俺がどうにかしてくる。金銭の面も……そうだな、それもなんとかしよう」
懐かしい場所。
そんな事考えて感傷に浸ってる場合じゃない。それに……。
懐かしいと云う思いと一緒に、ちょっとだけ苦い思い出も喚起する。
俺はアービスにここの居残りを命じ、アインを頭に乗せたまま――廃墟になっている闘技場からエズの町に飛び出していった。
いや、飛び出したい所だがその前に……この建物から外に出ないと。
外側から閉鎖されている、俺が知っている通路は通れないようなので、仕方が無く闘技場の窓から外へ飛び降りた。
管理の失われた通路にはすっかり草が伸びているが……。
「よく考えるとヘンだな」
「何が?」
俺の頭上に乗っかっているアインが首を伸ばす。
「ここは隣の闘技場が管理権を取得したはなんだけどな、なんで廃墟なんだ?」
「あれ?ヤトがここの場所を選んだんでしょ?」
だから、違うってば!確かに……どこか良い場所ないだろうかって思って……一瞬思い浮かべたりはしたけど。
経営悪化でツブれる事になるという、この闘技場は今どうなっているだろう、廃墟なんだろうかとか考えちゃったんだよな。
そしたらカオスが『そこでいいのか』と勝手に話を進めやがった。
廃墟だったからよかったものの闘技場として機能していたら……いや、その場合は契約違反になるか。
俺はその前に『誰も来ないような所に移動したい』って言っている。この条件に反するようでは俺とカオスで交わした命の契約が途端破れる、カオスの違反って事でな。
と云う事は、カオスはこの闘技場が廃墟になっていて条件に適している事を知っていたって事なのだろう。
「気には掛けたけど俺は、適当に都合の良い所と奴には言ったんだ。カオスの仕業だ、俺の所為じゃねぇ」
「ふぅんそう。で、なんで廃墟なの?」
俺は頭を傾いでしまう。そうだな……その話はしていない。
俺とアベルとテリーの中で暗黙の了解になっている事だ。いちいち話す事じゃないと思っている。
「言わないと……ダメか?」
「なんで?いいじゃない。聞くのあたしだけよ?レッドとかにバレるわけじゃないじゃない」
「……そう云う事じゃないんだよ」
大きな闘技場を囲む塀をさて、どうやって超えるかなと見上げた上で俺は、超えられそうな場所を探して歩く。
脱走する者を見越してかまぁ立派に作ってくれやがって。内側に反り掛かっている塀の上にはさらに、鋭い鏃が並んでいる。
こんなもの無くたって誰も逃げだしやしねぇよ。ああ、そうじゃないか。出入り口を固めて出入り情報を把握したい、その為の塀か。
そんな事を考えながら、外側からがっちり閉められて開きそうにない門の所に来てしまった。
「出られないわねぇ」
「しゃーねぇ、あとはあそこだ」
俺は頭を掻き、少し駆け足で塀沿いにさらに奥へ進んでいった。
健在だ、よく見える。
大きなケヤキの木が建物の屋根を越えて生えているのを見上げ、太い枝が建物の屋根まで到達しているのを確認した。
俺が何をするのか察したようだ。アインは先に飛んで屋根の上に登っていく。
俺は、まず装備品を脱ぐ。鎧姿が目立つからって事ではない、ここは間違いなくイシュタル国エズなのだから、冒険野郎はここそこで見かける事が出来る、そういう町だ。
鎧を脱いだのは軽装になる為だ。剣を背中にくくりつけてからナイフを幾つか取り出し、それを幹に差し込みながら足場を作って枝の一つに捕まる。あとはまぁ、鍛えたこの筋力でなんとか上によじ登って屋根に上がるぜ。
まだ明るい所為で一般の人通りが多いかと思いきや、塀の向うは閑散としている。おかげで塀を越えるのに苦労しない。高い塀を飛び越え、固い石畳に着地。衝撃を緩和しながら転がり降りて、俺は再び視線がないかどうか当たりを見渡した。
「……なんだ、この閑散っぷりは?」
「落ち着いた町じゃない」
「いや、闘技場の町だぞここ?」
落ち着いててたまるか、熱気と殺気と血のっけの多い町としてエズは世界的に有名なんですけど。
「でも、ここ使われてないんだもの。人通り無いのは当たり前じゃない?」
そうじゃない。
俺は早足で再びアインを頭に乗せたまま誰もいない道を表通りに向かって歩いた。
こっちは流石に人通りはある。でも……昔はこんなもんじゃなかったんだ。
そんなに昔じゃないぞ、そんな……昔の事じゃないのに。
まるでもう、この町を離れて何年も立ってしまったのではないかと錯覚する。
大通りに面して向かい合っていた大きな闘技場、エトオノとクルエセル。
二つの看板が下ろされていた。
「……無い」
「何が?」
「なんでクルエセルが無いんだ……!?」
「クルエセル?」
「こっちの闘技場の名前だ!おかしいだろ、なんでクルエセルも潰れてやがるんだ?」
かつて二大闘技場と呼ばれた場所が機能していないんだ。その界隈の酒場もすっかり廃れている。
知っている店の殆ど店を閉じていた。ここいらの飲食店は殆どエトオノとクルエセルに流れてくる客、およびそこに属する剣闘士やスタッフなどに支えられていたはずだものな。仕方がない。
それでもなんとか生きている店を見つけ、俺は馴染みの飲み屋がどこに越したかという情報を得る。二大闘技場が潰れた理由についても聞きたい所だったが……それは、事情をちゃんと話してくれる奴に聞こう。
再び早足で町を歩く俺に、アインは首を回して覗き込んでくる。
「ヤト、まさか当てが外れたって事?クルエセルからお金借りようとしたとか」
「そりゃない、俺ぁそこの闘技場の運営者からよく思われてない。テリーならともかく……テリーはクルエセル所属だったから奴なら顔が利くんだけどな。いや、どっちみち無いんだ、当てはあそこじゃない」
「もう一つはエトオノ、だったっけ?」
「いや、エトオノは潰れた。俺はそれを見届けたようなもんだ」
「ヤトはそこの所属だったの?」
その質問は微妙だな。
俺は苦笑し、この辺りだと歩みを緩めて道行く人々の流れの間から看板を伺う。
「いや……俺は、無所属だ」
正確にはそう云う事になっている、なんだけど。
「ん、ああここ中央路に近いんだな」
目的の店を見過ごして通り越したらしい事に気がついた、いっそここまで来たなら、と道を先に進む。
そして大きな石版の並んでいる広場へ向かい、新しい石版の一つをアインに案内した。
「見ろ、これが俺がここのチャンピオンであるという証明だ」
「うわ!ホントだ!」
ホントだって、疑ってたんですかアインさん。
案内した大きな御影石に俺の名前が比較的新しく彫りこんであるのを指さすと、アインはそれを首をかしげていろいろな角度から見てから俺を覗き込む。
「ヤト・ガザミ……無所属。ホントね」
「俺はレッドみたいに無用な嘘はつかないぞ?」
「うん、それは知っているけれど。なんか3人で黙りになる事あるでしょ?何なの?」
「何なのって、俺は俺の過去は……コモンコピー渡しただろう」
他人に聞かれると経験値が減るであろう単語を小さな言葉で囁く。
「他に何が知りたい」
「具体的にはどこでアベちゃんと会ったとか」
「ここの首都レイダーカだな」
嘘付くのって体力使う。
俺はとっさにその『事実』を告げたが、そう云う事になっているという事情を説明するつもりがないので黙っているしかない。それが、まるで今アインに告げた『事実』が実は嘘であるという事になっちまってる気がして……。とっても疲れる。
「なんで?」
「魔導都市に行く為の……この場合は道案内だろうな」
「テリーと一緒に?」
「奴に道案内が務まると思うのか」
アインは頭上で唸る。
「そう言われると……当てにならないような気もしてきた」
「だろう?アイツ結局良いトコのぼんぼんだろ?割と非常識で道案内とか役に立たないんだよ。……俺がここで現役張ってた頃は、エトオノやクルエセルは大舞台だ。それがそろいも揃ってツブれてるってどういう事だよ」
「その理由に、ホントに心当たり無いのね」
「当たり前だろ?……戻ろう、知り合いに事情とか聞き出さねぇと」
俺は元来た道を戻りようやく……昔なじみだった酒場の案内看板を見つけた。
細い路地を潜った先、まぁ時間が時間だ。準備中の札が掛かっているのを見つける。看板は昔のままこっちに運んだな、見間違えることは無い、間違いなくここだ。
「すいませーん……」
誰もいない酒場は薄暗い。その奥で、仕込みをしていた人が驚いて顔を上げる。
「お客さん!まだ準備中よ」
そう言ってバーマスターは目を細める。
そうか、逆光で眩しいんだな。俺は扉を閉めてアインと一緒に薄暗い部屋に入る。
「ども、久しぶりです」
「……!?」
……そうだった。
一つ段取りが必要だったのに今気が付く。俺はアインを頭上から引き剥がし、椅子の一つに置いた上で素早くマスターの所に近づき段取りを説明。
「マスタ、俺です。俺、ヤト・ガザミ」
「あ、ああ!ヤトね!ヤト!久しぶり!」
「……怪しい」
怪しくお互いを認識して苦笑する俺とマスターにアインは訝しげな視線を送ってくる。
「本当に馴染みなの?」
「え?そ、そうよ?あれ以来町に戻ってきていないから本当に久しぶりだけど……どうしたの?今ドコで何しているの?」
「はは、まぁいろいろと……所でマスタ、事情説明してくれよ!」
何の事情なのかは勿論、馴染みですもん。分かってくれている。
少しふくよかな体格のバーマスターは神妙な顔で頷いた。
「クルエセルの事は聞いていないのね。って事は、貴方国を出ていたようね」
「まぁ、居づらいってのもあるからな」
「……そうね」
「なんで居づらいのよ。チャンピオンなんでしょー?」
「いろいろあるのよ、この町にもね」
ここのバーの名前は『テガミ』。
そんでもって、切り盛りしているマスターの名前はメエル。分かりやすいだろ?
そんな大きな店じゃない。有名というわけでもない。でもそこが重要だったんだ……当時はな。
小さなドラゴンのアインを覗き込んで、マスターのメエルさんは笑った。
「変わったのを連れているのね。おしゃべりするドラゴンなんて、珍しいわ。かわいいわねぇ、貴方昔から歳下受けする所があったけど、こういうのにもモテるのね?」
「な、なんだよ、そんな事無いと思うけど?」
俺は慌てて否定するが……確かに。年上からは嫌われて、年下からは慕われるというのがはっきりしていた。
親しくなれるのは同年代までが限界だった。理由ははっきりしている。
俺が年上を全く敬わないからだ。
はははは、敬語?何それ!食えるの?
珍しいチビドラゴンを抱き上げて、マスタはカウンターバーに乗せる。
「私はメエル。みんなからはマスターと呼ばれている通りこの店の主よ。今は準備中だけど……ここは一見さんお断り。剣闘士だけが入れるお店なの」
「そうなんだ、あたしはアイン。魔導都市でヤトに拾われたの。助けて貰った……というのはちょっと違うみたいだし?」
う、そんな疑わしそうに言うなよアイン。最終的に助けてやったんだからいいじゃんか。
「ん、結局魔導都市に行ったんだ」
にこにこ微笑みながら聞かれてしまった。俺は、頭を掻いて口を濁す。
「あー……まぁ、な。俺も用事があったし」
「よかったわね、……おかげで貴方なのかどうかすぐ分からなかったもの」
俺とマスタはそのまま、無言でいてしまう。
何が良かったのか?ふふふ、秘密だ。
その間に……言葉になってない会話が成立したと思いねぇ。面白いもんだ。お互い考えている事が同じだと、言葉にしなくても視線を交わすだけで意思疎通って本当に成立するんだな。
よくレッドとナッツが無言で目配せしているが、それと同じように今、俺はマスタと目配せで会話している。
ん?……何か違和感を感じている……?……何だ?
「……クルエセルの事だったわね……座って。何か飲む?」
そのように進められて引っかかった件は後回しにして、深く考えないでおいてしまった俺。
「悪いな、経営時間外に」
「そうでなきゃ覗きに来れないんでしょう?なるべくなら会いたくない人もいるでしょうに」
その通り。
顔がそんなに割れている訳じゃないが、俺が『ヤト』だと知っている奴は今も多くいるはずだ。余計な事を聞いてくる奴もいるだろう。マスタみたいに俺の事情をちゃんと把握して余計な所すっ飛ばしてくれる奴だけとは限らない。
人を待たせている事を説明して、あんまりまったりもしてらんないと言ったんだがマスタ、さり気なく空腹だった俺達に軽食まで出してくれた。手早くパンに野菜やハムなどを挟み込んで豪快にパンナイフで切り分ける。
サンドイッチの少しは包んで貰ってリオさんに食べて貰おう。
アービスらは魔王八逆星だから飲まず食わずでもいいらしいのでおみやげ無し。
そんなんしながら、俺達が去った後、エズで起こった出来事を聞く事になった。
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