異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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10章  破滅か支配か  『選択肢。俺か、俺以外』

書の7前半 戦いを捧げろ!『神聖なる殺し合い』

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■書の7前半■ 戦いを捧げろ! Offer a struggle to for Ishtart

「じゃ、エトオノの経営権握った後すぐにクルエセルも潰れたのか!」
「そう言う事」
「……意味ねぇじゃん」
 それじゃぁエトオノが潰れた意味が無い。
 俺は無意味だったアレとかコレを思い出して床を睨み付けてしまった。
 ……なんでエトオノが潰れたのか?
 いやまぁ、無所属である俺には関係ない話な訳でして。気にしているなら無関係じゃないだろうって?いや、だから……無関係なのだがあそこには色々お世話になっていてだ、な。ええと、うんと……だったら関係ないけど運営面も気になるだろ?悪いか?開き直るぞ俺?
「話を聞くにつまり、二大闘技場が経営権を巡って策略があって、その所為でエトオノが潰れちゃったんでしょ?というか……勝手にクルエセルがエトオノを潰そうとしたの?」
 アインが諸々の話を聞くに、理解した所の確認として俺の顔を窺ってくる。しかしそれにはマスタが答えた。
「噂ではそうも言われているわね……当時……というのは彼がまだここで剣闘士をやっていた頃だけど。エトオノの経営が傾いた事があってね、結局それを立て直せずにクルエセルがエトオノを買収したのよ。ヤトはその事件が起った年の大大会優勝者なの」
「ふぅん」
 グラスに差したストローを銜えたままアインは答えたのでぶくぶくとオレンジジュースを泡立たせている。テリーがここにいたら行儀悪いとデコピンされてる所だぞ、アイン。
「ところが、その後1年経たない内にクルエセルの経営者が闘技場の経営を破棄しちゃったの。倒産じゃないわ、突然の経営撤退。理由もはっきりしないけど……おかげでクルエセルで抱えられていた二大闘技場のスタッフや剣闘士達が路頭に迷う事になった……大変だったのよ?」
「クルエセル、廃墟だったな」
 閉鎖されているエトオノとは状況が違った。
 クルエセルの門は破壊され、壁もあちこち壊されていたし落書きも酷かった。何か問題があったな、という気配はしていたが……。
「せめて後を引き継ぐ経営陣がしっかりしていればあんなことには成らなかったのに。外部からクルエセルを引き受けるという申し出もあったのになかなか上手く行かなかったみたい。それでスタッフや剣闘士達が暴徒化してね……」
 それで廃墟か。
 バカめ、飼われているんなら大人しく次の飼い主が決まるまで大人しくしてりゃぁいいものを。
 そうやって我慢をするようにまとめる人間も居なかったって事か……くそ、俺とテリーがその場にいればそんなアホな事は防げたかもしれないよな?

 というかテリーの奴、なんで俺と同じタイミングでクルエセルを出たんだ?

 これは奴の触れるなと言う過去には関係ないよな?無いと信じたい。
 俺はなぜ、アイツがアベルの都合に付き合う事にしてクルエセル専属を辞めたのか、その理由をちゃんと聞いていない。だから少し、奴を疑う要素が出てきて少し……戸惑っている。

「……テリーの奴、まさか、知ってたって事じゃぁないだろうな?」
「クルエセルが経営破棄するのをかい?……彼は専属だ、自由契約闘士じゃないわ。彼が事前に事情を知っているなら、他の剣闘士だってクルエセルに危機感を抱くはずでしょう?というか」
 マスタは俺の空になったグラスに水を注ぎ入れながら尋ねてくる。
「テリーはどこにいったの?今どこに居るのか知っている?貴方は理由があるとして、彼は突然居なくなったから。誰もその後何処に行ったかとか聞いてないみたいなの」
「ん?ああ……今ちょっと別行動になってるけど一緒に行動してるぜ。そっか……マスタが知らないって事は……」
 俺はここだけの話だぜと声を細めて、自分達がイシュタル国認定魔王八逆星討伐隊になっている事を伝えた。それは、あんまり大々的に宣伝されても困る。恥ずかしいし。
 それに……西方で結成した第一陣の存在が『秘密』であったのと同じく、魔王なんてものが居て、本当に世界を壊すという大陸座のお告げがあって……って事を広めるべきじゃないんだよな。そんな話が在るだけで不安を煽る事になる。
 マスタは関心気味に頷いている。
「魔王討伐隊が結成したとは聞いたのよ。詳細は機密なのかあまり聞かないけれどね……国内縁の者より輩出したらしいとか噂があったけど……貴方はこの国を出て行った後の事で時期が合わない。でも貴方達の行方が分からないからまさか……とは思っていたのよ」
「ホントかよ」
「本当よ。貴方達はいずれそういう事もするような、可能性に満ちあふれていると思う。最年少優勝者ですもの。早くもエズを出て行ってしまった貴方がどこかの城のつまらない警備の仕事でもしているのかしら、と思ったら正直、勿体ないって思うでしょ。ましてや子供がいる訳じゃないし。稼ぐ必要ないですものね……で?」
 にやりと笑ってマスタは俺の顔を覗き込んでくる。
「その後、いい人見つかった?」
「やめろよ、こっぱずかしい」
「ねぇメエルさん、この人ってショ……年下好みなの?」
 ショタ、すなわちショータローコンプレクスなんて言葉はもしかすると、こっちの世界では通用しないかもしれないからな。アインは言い直したようだが……年下好みとショタではなんか、ニュアンスが微妙に違うような気がする。
「んー?違うわよね?明らかに年上好きよね?」
「マスタ!やめろってば!」
「その様子だと意中の子はいるものと見た」
 俺とアインは一瞬目を合わせ……お互いに指と羽を差し合った。
「俺がコイツが好きだと言ったらどう思う?」
「ヤトはあたしが好きだって言うのよ?」
 ……アインさん、分かってらっしゃる。
 そんな俺らを少し不思議そうに見てからマスタは言った。
「それは、好きであって『愛してる』じゃぁないでしょ?」
 にっこり笑ってほっぺたを摘まれてしまった。
「イデデ」
「まぁいいわ、昔から貴方そういうのはっきり言わない子だったし。一体誰に引け目があるのか何時もこっそり……」
「だーもう、その話はもういい!それで、エトオノとクルエセルのスタッフとかはその後どうなったんだ?食いっぱぐれてないよな?」
 マスタは小さくため息を漏らし、ふっと仕込み再開すべく席を離れる。
「暴動でね、少なからず亡くなった人もいるの。あの場にいなかったのなら詳しいその後は聞かない方が良いんじゃない?」
「……そんなに酷かったのか」
「でも、その後ちゃんと上の介入があって、多くの人は他の闘技場に引き取られたりしたみたい。勿論全員じゃないわ……でも少なくとも」
 マスタは明るい顔で振り返る。
「ここに出入りしている子達はみんながんばっているわよ」
「……ああ、そうか」

 俺はそれを知るだけに留めた方が良いのかもしれない。
 過去に戻って、俺ならばこうしたなどと言っても何にもならない。かといって今、俺に何か手助けが出来る訳じゃないもんな。
 ……頂きに立った俺にはこの町で、俺がかつて属していた世界に戻る事は出来ない。頂きに立つと云う事はそういう事を意味する。

 世界に旅立たなければ行けない。
 お前にはそれだけの『力』があるのだと、国を挙げて証明してくれやがるんだもんな。その旅支度金を用意されてさぁ、手にした『力』で生きろと祝福される。

 俺は席を立ち上がった。
「行くの?」
「そろそろ開業だろ?昔の馴染みに顔合わせたら面倒だし……」
 するとマスタ、俺が言い出す前に木箱をカウンターに出してきた。
「……流石だな、そういう所敵わない」
「真っ先に私の所に来てくれたんですもの。これしかないでしょ?」
 俺は古い箱を掴み上げ……フックを外す。出てきたのは大きな金貨だ。西方で使われている珍しい紋章金貨と呼ばれるモノ。通常のレートとは別で……ええと……。相変わらず西方グラム単価の繰り上がりが憶えられない俺。
『紋章金貨はおよそグラム金貨の十倍の価値がありますよ』
 というメージンからコメントもらいました。うへ、すいません何時も何時も。
 というわけで、西方では最も価値のある通貨『グラム金貨』、その10枚分の価値を持つ紋章金貨が……おお、12枚もある。
「俺、こんなに余計に払ったか?」
「貴方は人一倍お金の使い方が下手だったわね。一番不安定な生活をしていた癖に他に使う先がないって節約もしない。だから、支払いの時に何時も余計に請求してやってたのよ?」
 なんだとぅ?
「貴方がお金に困った時に貴方が困らないように。貴方は一度も金融業もやっている私を頼らなかったわ。お金に困るような事もないし、むしろもてあましているようだったから」

 ここのバーマスタは変わった趣味を持っている。
 剣闘士に投資するんだ。気に入った若い剣闘士を応援するという名目で金を貸してくれる。
 別に装備品とか自前で用意しなくちゃ行けない訳じゃないのにな。金の行方は飲食および風俗支払いに向く場合がほとんどだというのに。
 でも剣闘士ってのは死と隣り合わせだ。何時商売道具である体を失ってしまうか分からない。ヘタすりゃあっさり死ねる職業である。
 そんな者達に金貸して、返ってくるかどうかも分からないだろうに。
 だからマスタは自分の目に見合った剣闘士にしか金貸さない。そんでそれを投資って言っているんだ。

「今だから教えてあげる、私が破産しないのはそういう理由」
 成る程、金借りに来るここの常連達から少しばかり飲食代を多く取っているんだな。そしてそれは……この人の事だ。相手の懐具合を見て請求金額決めているんだろう。つまり……飲食代の原価が安いって事か?まぁマスタの事だ。一般的な酒場ではしっかり取っているだろう人件費とか極限まで削ってるんだろうけどな。
「これは貴方がここにいるあいだ、私が貴方に投資した分」
「こんなに……」
「元は貴方のお金よ。気にする事はないわ」
「店の移転費用だってあるんじゃないのかよ」
「貴方はそれ、気にする必要はないの。貴方は私が見込んだ通り凄い男になっていた。鼻が高いわ……今でもここは、貴方とテリーが通っていた酒場って看板なんだから。その看板を今後も出させて貰えればそれで十分、おつりが来る」

 俺は、この金の受け取りを一度拒否していたりする。
 こういう金がある事は知っていたが、こんな大金だとは知らなかった。
 金額も確認せずそんなものはいらない言って、困ってる奴にでもくれてやれと捨て置いたんだ。
 そんな今在るかどうかも分からない金を期待してどうするんだって?
 ……いや、マスタとはこれで結構長いからな。
 あの人は勝手に使えと言った所で使い込んだりしない事くらい知っている。
 俺が死んで、俺が死んだという事実を知った時に始めて俺の言葉を実行するだろう。迷惑掛けるがそれでも良いと思っていた。

 金なんてそんな要らない。莫大な賞金もあったし、一応退職金も出た。些細な額だがばっちい冒険者やるなら十分な額だ。
 大金はたいて武器を手に入れたんだが実は、最終的にはほとんどまけて貰っている訳だから全財産すっからかんにした訳じゃないんだよな。国から貰った賞金をつぎ込んだだけ。


 別れを惜しむのも何だ。
 でも、また来るよ……とはなんだか言い辛い。

 俺の運命は決まっている。もう一度ここに戻ってこれるという保証はない。

 昔、帰る時に言っていたのと同じくらい軽い挨拶で俺は、アインを頭に乗せて店を出た。
「それだけあれば船に乗れる?」
「とは思うが、いやぁ、ここでこんなに貰えるとはな。後は国の方からどうやって分捕ろうとか思ってたけど、必要ないかもしれん。とにかく……」
 細い通路を歩いてくる人影に気が付き、俺は慌てて足を前に運ぶ。
 すれ違う、昔俺を慕っていた弟分にあたる奴。
 元気そうだな……ちょっと安心した。
「あとは役所だ、近くにある。エトオノを正式閉鎖してもらわねぇと。あと……そうだ」
「レッド達は定期的にイシュタル国に状況報告していたはずだわ。もしかすると……それで連絡取れるかもしれない!」
「ああ、それも頼んでおこう。……急ごう、ゆっくりし過ぎた」

 慌てた声が俺を呼びかけたのが背後から聞こえる。
 いや、聞こえない。聞こえないなぁ俺には。
 急ごうと言ったからには俺は急ぐぜ?早足に役所のある方向に足を運ぶ。
 アインは俺の頭の上で後ろを振り返りながら言った。
「……今の、ヤトの事呼んでたんじゃないの?」
「人違いだろ」

 俺の名前はヤトだもんな。俺は『そんな』名前ではない。



 結構時間喰った理由の大半が役所である、と主張しておく。役所ってのは……どうしてああも面倒なのだッ!

 太陽がすっかり傾いた頃に闘技場跡に帰還した俺だったが、マスタが持たせてくれたサンドイッチと飲み物に、ちょっと厳つい顔をして待っていたリオさんの表情が緩んだ。ありがとうマスタ!


「じゃぁ、話は付けたのね」
「ああ、ただ……レイダーカが島にあるだろ?担当官がここにはいないとかどうたらこうたらって、詳しくは明日に、それまで待てとか言われちまって」
「大体そうなる事は予想はしていたわ。それでも明日ならまだ良い方よ」

 ギルをここに放置、というのもなんだか不安なので、結局あの狂犬の近くで一晩明かす事に。
 見た感じ完全にエトオノは閉鎖されていて、何者かが侵入してきているという雰囲気はない。でもな、絶対に無いとは言えない。
 たとえばギルに、ここに入ってきた来た相手に『封印解くな、なにも見なかったことにして帰れ』とか言えよと、言い含めてよしんばいいだろう、そうしてやると了解したとしても……。
 本人が動けないんじゃぁなぁ。殺気だけで相手を威嚇して追い返す事も奴には出来るだろうけどそれじゃぁまずい……場所が悪い。ここエズだ。自分が強いと自負する連中がわんさかいるのでそういう威嚇行為は墓穴を掘る行為以外の何者でもない。
 国の強権を働かせて立ち入り禁止、にするべきだ。
 とりあえず某魔導都市みたいに『蓋をされると覗き込みたくなる』という気質の連中デフォルトという場所ではないし、それなりに法は通用するだろう。
 あんまり目立った動きをすると今度は魔王八逆星の連中、特に言うとナドゥあたりに俺達が今、ギルと一緒にどこにいるのかというのがバレてしまうだろう。
 リオさん曰く、転移門でこの場所に運ばれているなら暫くは逆門、すなわちどこと転移したかという情報が読み解けるものなのだそうだが……これは時間経過と共にいずれ分からなくなるそうだ。恐らく魔王八逆星側は、ギルと何らかの封印がこんな遠くの国に移転した事をすぐには感知しないだろうと言っている。
 なぜならファマメント国軍があの場所をぐるりと取り囲んでいたし、俺らが突入する前にフォンがわざとちょっかい出している。
 あれから一日の猶予もなくファマメント軍があの杜に進行してきているはずだ。
 国から直接制圧されたら、いくらナドゥとはいえ出入りは難しくなるだろう。奴の面は……ファマメント側には割れている可能性があるからな。
 ここに置いておけば安心という訳ではないが……リコレクトしている。ナドゥの奴、どうにもイシュタル国にはあんまり勢力を伸ばしていない様な事昔、ぼやいてた。いまはそれを信じておくしかないだろう。

 ……あと問題は……あの場に残してきてしまったアベルとマツナギだ。アベルだけならどーしようと青くなる所だが、マツナギがいるならなんとか冷静な判断をしてくれるだろう。強力な魔法が働いた事くらいは精霊使いの勘で把握するだろうし。

 とにかく、一刻も早く合流しないと。
 なにはともあれそのあたりは決定事項だ。




 被っていた毛布を引っ張って出ていた肩を隠す。
 寒い……!常夏カルケードからトライアンに向かう道中、どうやら季節は晩秋でこれから冬らしい事情を紅葉する木々の様子から察した俺ですが。 
 イシュタル国に来たと云う事は、いっきに北極圏に近づいたという事だ。
 あー……余談ですが赤道直下がちょうどカルケード国の南側の森であり、八精霊大陸はほとんど北半球にある。南半球には何があるかというと伝承的には『外海』だ。
 今の所海以外に陸があるという事は分かっていない。
 見つけられないだけかもしれないらしいけどな。
 それはともかく、寒いんですよ!イシュタル国はフツーに雪降る地域なんです!決して薄着で出かけてきた訳じゃないが、空が見える場所での野宿はそろそろキツい季節だ。
 寒さで目が覚めてしまい、俺は仕方がないから起きる事にした。……武器の手入れでもしよう。

 俺はそう思い立って武器を取り……。

 この剣でクオレを斬り伏せてしまった事を連鎖的に思い出している。
 首を切り落とした途端……クオレの顔に浮き出ていた紋様は黒く染みになって溢れた。次第に黒が勝り、彼の存在を溶かして消した。
 一瞬吹き出した鮮血が黒く濁り、煙を上げて溶けていく。
 その中で血を浴びた白い仮面だけが彼の血を赤黒く留めた様子を思い出し……。

 ミスト王はどんな顔をするのだろう。

 彼の事だ、きっと仕方がない事だったんだな、とか何でもないような顔をして国王という仮面を被って事実を受止めようとするんだろう。仮面を被りたがるのはクオレだけじゃない。そういう所、あいつらやっぱり双子だよな。
 仮面の下はきっとそうじゃない。
 どうして救う事は出来なかったのか。どうして俺ではなくお前が手を下したのかと責めているだろう。
 なぜこんな結末になったんだときっと、尋ねてくるんだろうな。
 そうしたら俺は何って説明すりゃぁいいんだろう。適切な言い訳が出てこない。魔王八逆星だから殺しました、じゃダメなのか?それで許してはくれないのか。

 それで、許されるような環境を保たなかった俺達が悪いのか。

 剣を抜いてみる。
 こびりついていたはずのクオレの血の染みは黒く酸化していた。

 井戸からくみ上げた水は濁っている。暫く使われていないから仕方がない。ペダルを漕いでようやく綺麗になった水で汚れを擦り落とすとそれは……簡単に剥がれていった。剥がれるんだ。水には、溶けないんだな……。

 武器の手入れを終えてリオさんの所に戻る途中、ギルの脇を通りかかって声を掛けられた。
「何だ?」
「クオレをやったって聞いたが本当か」
 俺はため息を漏らして止めた歩みを進める。
「ああ……ようやく一人だ」
「ふぅん、やっぱりソレもお前は受け付けないんだな」
「……何だよ?」
 と、リコレクトして事情を思い出す。再び歩みを止めて振り返った。
「ああ、魔王八逆星の感染だっけか」

 クオレは、叔父のアイジャンにとどめを刺した為に魔王八逆星の『称号』みたいなものを受け取ってしまった。
 俺達が全く知らなかった、赤いバグ旗の別の感染ルートだ。

 そうだ、アービスは当てにならないから魔王八逆星とは『何』なのかを聞いておこう。
 こいつも筋肉バカっぽいからまともな回答は貰えないだろうかとも思ったが……そうでもないのかも。
「アービスが当てにならん、ありゃ後から加わったって事情もあるんだろうけど……魔王八逆星ってのはそもそも、何だ?」
「知らんのか。まぁ、知らんよな」
 ギルは苦笑らしいものを漏らした。
「紋様が出てるだろ?コイツを持つ者が魔王八逆星だ。基本的には同じ紋様にはならないそうだぜ。ナドゥ曰わく、8つの別の紋様を条件にしてトビラを閉める……とかなんとかな」
「ふぅん」
 そう答えて俺は、魔王八逆星の数を数えてみる。
 俺が片棒担いだらしい時……ようするにタトラメルツでそのトビラを閉めるのに……いや、あの時俺は鍵を渡され、トビラを開けろと言われて開けさせられた気がするのだが。
 矛盾してねぇかと顔を上げるとギルは苦笑している。俺がどこに不満を持っているのか察している顔だ。
「ようするにだ、トビラを閉め直すに一旦開けなきゃいけねぇ」
「ああ、成る程」
 俺は魔法の作法はさっぱりわからないが、封印魔法を掛けるには前の古い封印は一旦解く、という作法を経てってのが確かに多い事例に思える。
 ゲームとかマンガとかライトノベルとかな。
 俺は魔王を数えた指を見て……折り返し薬指までしか指が上がっていない事に気が付いた。
「8つの種類じゃ、お前らの頭数足りてないじゃんか。……ウリッグも魔王八逆星なのか?」
 その途端俺は、吹き付けられた殺気にふっとばされそうになった。
 いや、吹き飛ばされたのは感覚上。俺の体はその場にすくみ込んで動いていない。
「な、……?」
 冷や汗流して恐る恐る顔を上げる。
「ほぅ、お前も奴を知っているのか?」
 ど、どうやら……
 ……ものすごい地雷らしい。

 地雷どころじゃねぇ、これ核弾頭!

 絡みついた鎖をギチギチと震わせてギルが犬歯をむき出して笑う。いや、これ笑ってないよね?獣の威嚇ポーズですよね?
 相手が動けないとはいえ、俺はコイツに何度と無くぶっ飛ばされて殺されかけている。精神的に挫けているつもりはないのだが、肉体的な敗北に体が怖がって動いてくれない。
「どうしたんだ?」
 この異変に慌ててアービスが駆けつけてきた。
「おいアービス、お前も……ウリッグを見たのか?」
 その質問にアービス、息を呑んだ。このお兄さん、ウリッグがギルにとって核弾頭に値するの知ってやがったな!
「…………」
「答えろ」
「……ああ、少し……だけど。すぐにDSに邪魔されてしまった」
「どうするつもりだったんだ」
「……話しただろ。弟が……」
 言葉を止めて頷いたアービスに、ギルは殺気を収める。それで俺もようやく息が吸える。
「何なんだ、ウリッグって……蜘蛛の怪物……じゃぁないらしいけど?」
「お前らん所にゃハクガイコウがいたっけな。……本性は察したか」
「ナッツの事か?奴はハクガイコウじゃねぇぞ、代理だ」
「大した違いじぇねぇ」
 うん、そうかもしれない。
 昔ナッツはハクガイコウだった。ハクガイコウとは肩書きの事だもんな。ナッツがその肩書きに拘って代理ですとにっこり笑いながら言うにすぎない。立場的や背負ってきた歴史的には確かに、大した違いじゃないかもしれない。その些細な違いにこだわって、違うと言っているのはナッツだけだ。
「奴が魔王八逆星か、だと?クククッ、笑わせる」
「……違うのか?」
「まぁ人の事は言えねぇが。自分一人じゃ存在が証明できねぇような奴には紋様は背負えねぇだろ?……奴はどこにいる?」
「いや、……確かウリッグはランドール……っつー奴がいるんだけど」
「知っている、フェリアで会った」
 ギルが不機嫌に答えた。
 ああそう、そういや一度顔会わせたとか言ってたな。ただ、ランドールが『お前じゃない!』とか言ってギルを追っ払っちまったとか聞いている。ぶっちゃけ、奴の言動もギルの行動も意味不明である。何が『お前じゃない』のかいまいち事情がわからん。……仇の話か?
「そのランドールがウリッグは仇だっつって、仇は討った様な事言ってたぜ?実際ウリッグが『入っていた』らしい大蜘蛛の死骸もみっけたし……」
 入っていた……ってのもまぁ、変な感じだったな。軍師連中はそれで何やら都合は察していたが。
 リコレクト、レッドが言っていた。
 ウリッグの場合は何か規格が違う。大蜘蛛はウリッグというものの入れ物にすぎないのではないか……。
 奴がそれに気が付いたのは奴が、死霊使いという渾名を持つ為だろう。死霊ってのは3つの概念の内一つが欠けている存在だ。3界が壊れている、あるいはおかしな連結をしているという違和感を把握出来るセンスがあるのではないかと思う。だからウリッグが何か、赤旗バグをともしている以上に『おかしい』事に気が付いて警戒していたんだろうな。
「その後、俺達はウリッグは見てないんだよなぁ……。おかしくなったランドールには遭遇しているが」
 だがランドールはウリッグなのだろうか?
 少なくともランドールはウリッグなんて知らんと答えた。そもそもランドールは大蜘蛛の怪物をした仇の名前すら知らなかったようだ。あれがウリッグという名前だと知れたのは、その事情を知っているアービスと合流してからだしな。
 ランドールと親しい訳でも、付き合いが長い訳でもない俺は奴が、乱心しているという事情はあんまり納得出来ないのだが……というのも、元からああいうむちゃくちゃな奴だという認識が俺にはある。
 でもリオさんやマースはどうにも『違う』という。
 ランドールは確かに自分勝手で尊大不遜で、めちゃくちゃな奴だけどそれだけじゃない。絶対的なカリスマをも備えている。人には見せたがらない良い面、ってのもあるらしい。
 今はそれが無くなってしまったようだ、とかマースが言ってたのを思い出せる。
 それでもあれはランドールだと俺は思うんだよな、少なくとも俺は。
 奴には赤いバグ旗がすでについていたが、その所為で一旦ランドールという存在が完全に解体しているようには思えない。そこに例えばウリッグが混じってしまっているというのなら……ランドールは三界に加え一つ余計なものを持っている事になりやしねぇか?
 てっきりウリッグは魔王八逆星なのだと思っていた。だから、ウリッグを殺したランドールに魔王八逆星の称号が移ったのかと思ったけど……違うのかよ?

 ウリッグとは何なのだろう。

 そんな俺の疑問にアービスは口を閉じ、何時の間にやら起きてきて話の輪に加わっていたリオさんは肩をすくめる。
 ええと、アインさんは例によってまだ寝てます。
 ギルは低く呟いた。
「あれは、俺のものだ」
 ……もの?俺のモノって何だ。
「……ハクガイコウに伝えろ。もしウリッグが健在なら約束だ、あれを俺に返せと……伝えておけ」
「……どういう意味だよそれ」
「言えば分かるんだよ、いやまぁ……返してくれなくてもいいか」
 ギルはふっと目を逸らした。
「約束が生きているなら大陸座ファマメントは必ず俺にアイツを返すだろう。それを信じていない訳じゃないからな。釘を刺しておけ。約束を忘れるなよ、ってな」
 さっぱり事情が分からん……が、以来何を話しかけてもギルの奴、まともに返答しねぇで何やら考え込んでいる。
 なんか、色々起こりすぎてて俺のちっさい処理能力は既に限界だ。
 早くレッド達と合流してこの、訳の分からない状況をまとめて貰わないとだな……。
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2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

迷惑異世界のんびり道中記~ちびっ子勇者とともに~

沢野 りお
ファンタジー
なんということもない普通の家族が「勇者召喚」で異世界に召喚されてしまった。 兄、橘葵二十八歳。一流商社のバリバリエリートのちメンタルに負担を受け退職後、一家の主夫として家事に精を出す独身。 姉、橘桜二十五歳。出版社に勤める美女。儚げで庇護欲をそそる美女。芸能人並みの美貌を持つオタク。あと家事が苦手で手料理は食べたら危険なレベル。 私、橘菊華二十一歳。どこにでいもいる普通の女子大生。趣味は手芸。 そして……最近、橘一家に加わった男の子、右近小次郎七歳。両親が事故に亡くなったあと、親戚をたらい回しにされ虐げられていた不憫な子。 我が家の末っ子として引き取った血の繋がらないこの子が、「勇者」らしい。 逃げました。 姉が「これはダメな勇者召喚」と断じたため、俗物丸出しのおっさん(国王)と吊り上がった細目のおばさん(王妃)の手から逃げ……られないよねぇ? お城の中で武器を持った騎士に追い詰められて万事休すの橘一家を助けたのは、この世界の神さまだった! 神さまは自分の落ち度で異世界召喚が行われたことは謝ってくれたけど、チート能力はくれなかった。ケチ。 兄には「生活魔法」が、姉には「治癒魔法」が、小次郎は「勇者」としてのチート能力が備わっているけど子どもだから鍛えないと使えない。 私には……「手芸創作」って、なにこれ? ダ神さまにもわからない能力をもらい、安住の地を求めて異世界を旅することになった橘一家。 兄の料理の腕におばさん軍団から優しくしてもらったり、姉の外見でおっさんたちから優遇してもらったり、小次郎がうっかりワイバーン討伐しちゃったり。 え? 私の「手芸創作」ってそんなことができちゃうの? そんな橘一家のドタバタ異世界道中記です。 ※更新は不定期です ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています ※ゆるい設定でなんちゃって世界観で書いております。

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