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10章 破滅か支配か 『選択肢。俺か、俺以外』
書の5前半 精霊の海『望みの果ての海』
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■書の5前半■ 精霊の海 Central Ocean
魔王八逆星の狙いは……単純に考えて良いのだろうか?
大陸座および大魔王と目される大陸座であろう、バルトアンデルトを含む全員をランドールに『倒して貰う事』……か?
それで世界を破壊しうる存在は確かに、消える。
ランドールが大陸座に剣を打ち立てることが出来れば、の話だが。けどま、どうにも滅ぼせない、殺してもすぐ別の姿に転生してしまうという大陸座の事を把握しているナドゥが絡んでいるのだから、ランドールになんらかの特別な力……。
大陸座の理さえも壊す事が出来る圧倒的な破壊の力がある……とか?
とりあえず……そう仮定してみよう。
それは俺達が、大陸座から権限を取り上げ開発者レイヤーとやらに退避させているのとどう違うのか俺には分からない。同じなのか?それとも――ランドールの方が一枚上手なのだろうか?
いや、仮定の話だ。
そもそも大陸座の条件転生ルールをぶった切るような力ってありうるのか?……赤旗バグだからあり得るのかもしれない。もちろん、だからこそ世界そのものを壊し兼ねない訳だよな……。
う、なんか仮定じゃなくてガチな気がしてきた。
どうしてそうなったか、というのは分からん。
俺の今の状況、すなわち代替の方に青旗がついてしまった状況も同じく……かなり不可解だな。
でもこの世界は……
八精霊大陸と呼ばれ『トビラ』と呼んでいるこの世界は、そいう不可解な事を容認してんだよ。
だから、いやまさか!と思う事が事実になっちゃうこともありうる。ある意味おっかねぇ世界だ。
理屈にはまっていない事がエラーだとか正しくないとか、排除しようと何らかの仕組みが働く訳じゃない。むしろそれもアリだという理屈が在る。ジーンウイントが保障する、すべての理を逸脱してもよいという理屈がそれだ。
俺たちの都合で言えばバグだから、それを取り除かなきゃいけないと……『世界』は必死になったりしない。
そういうわけのわからない存在もかっちり受け入れるだけの容量がある、柔軟な世界。
システムとかいうルールの、最後の壁さえ容易く突き崩すような絶対的自由、望みこそが全てという約束。
だからこそこの『トビラ』の開発者、この世界への『トビラ』を開いた者達は世界の改変を中から行おうと俺達に提案した。本来なら外から自由に弄れるはずなのだがな。外からはむしろ、細かい変更が出来ないという不思議な『異世界』
プレイヤーの世界、現実、リアルと呼ぶ世界ではこっちの世界にある約束が通用しない。望んだらその通りになるという事は『あっち』では無い。見かけ上そうなった、というのは別だ。
分かりやすく言えばこっちの世界にある魔法という技術はあっちには無い。そう言う事な。
この世界、トビラで魔法が生まれた経緯はこうだ。
望みによって理を曲げる。
その一言で事足りる。
リアルではどうだ。望んだ通りに理屈をねじ曲げる事は通用しねぇだろ?それを許したら世界は大変な事になる。
こうだったらいいのにな、の世界が繰り広げられちゃう訳だろう。そういう事にならないと云う事は、リアルの世界にはそういう理屈は働いていないと云う事だ。
そのようにプレイヤーの世界『現実』には理論の壁がある。あっちの世界はこっちの世界に比べて圧倒的に不便だ。
でもその不便は、世界が容易く誰かの願いで改編されない為に必要な事なのだから仕方がないのだろう。俺はそう思う。
ところがこっちの世界はそうじゃない。強い願いがすべてに勝る。
でも望む力が勝ってしまう事すら世界は容認する。それで、世界の危機なんてものが訪れたりする訳だよ。リアルの物語の中で繰り広げられる、セカイ系とか呼ばれるトンデモが起こりうる。
いきなりそういう力を持った人間が現れたら同種の人間にしか太刀打ち出来ない訳だが如何せん、トビラってのは昔っから同じ理屈で存在しているのだ。セカイ系よろしく魔王が君臨し、つまんねー世界だからぶっ壊しちゃおうと言い出す奴は現れる一方……待て!そんな事は私が許さない!という勇者もちゃっかり現れるようになっている。
望みが全てという理論のあるこの世界は、昔からこうだからこのように、上手いことバランスを取ってきたんだと思うんだ。
そのバランスを崩したのは誰だ。
……俺達だ。
理論の壁を越えられない世界に住んでいる者。
理論には壁があるというアイデンティティに縛られている、俺達、異世界の住人だ。
このままじゃ世界が壊れてしまうと騒いでいるのは俺達なんだ。
大陸座、青い旗の勇者。……ならば魔王八逆星はどうなのだろう?あれもある意味騒いでいる方だけど……ああ、ようするに9つ目の大陸座バルトアンデルトによって存在が狂い、影響を受けてしまったのだろうか?だとしたら、奴らはどこまでも被害者だよな……。
今は『俺達が悪かった』という過ちに気が付いている。
だからこそ壊れそうな世界を保全する為に内側からアプローチが出来るんだ。理論の壁があって出来ない事を、理論の壁をあるいはぶち壊せる世界であるからこそ俺達は、トビラの中から世界を救う事を選んだ。
何が原因だったかはもう突き止めた。
救える、それは可能だ。
俺達がそれを望む限り世界は救える。
この世界は望む限りその可能性がどこまでも開けている。
でも実は……世界が壊れつつあると知って、壊して成るものかと願った誰かの望みでも世界は救えるのだ。
実は設定、最強だな。
ようするにお前の努力は無駄だと言われているようでちょっとアレだが。この世界はゲームではあるが、そのゲームの世界にいる俺にとっては現実でもある。
コンピューターでプログラミングされて制御されている世界じゃない。だから目的に達する道順は沢山あって、目的を達成する方法も同じくなんだろう。
俺達は魔王八逆星が案外、それ程悪いものでは無い事にとっくに気が付いているよな?
ただ奴らは『大きいもの』を救う事に必死で、あるいはすでに力を手にし過ぎていて、関係のない者達や小さな問題を『仕方がない事』と巻き込み果てに、ぞんざいに扱いやがった。そんな連中のやり方は許せる所ではない。
もっと別のやり方が在るはずだ。世界全体から見たら些細であろう悲劇を前に俺達はそのように魔王八逆星を恨んだりもした。でもそれは、連中の思う壺だったのかもしれない。
奴らは待っていた。自分達を滅ぼしてくれる『勇者』の存在を。
ところがそれが一向に現れる気配がない。
だから。
事も在ろうか奴ら、勇者も自分らで作る事にしたんじゃねぇのか……?
いや……まさか……な。
ランドールが真っ当な経歴の人間ならそんなバカらしい事思わないんだけど……奴は『王の器』だと言われている何やら怪しい経歴をお持ちだ。テリーが漏らしていた、限りなく訳アリな存在である。
ナドゥと呼ばれる魔導師が『作った』とか聞いてる。作ったっていってもどういう意味での『作った』なのか事情を知っているウィン家の連中や天使教関係者は口を閉ざしやがるのだが。
いやいや、違うだろう。
大陸座が実体を持って現れた事、バルトアンデルトが大魔王と呼ばれるような危険な存在になってしまったのは同時期であり、それは今から約10年前だ。
ランドールが『作られた』経緯とは歴史が符合しない……気がしてくるぞ?あいつ実年齢10才じゃないよな?多分、俺と同じくらいか、レッドと同じくフレイムトライブならもう少し年上の様な気がする。
いや……でもなぁ。
奴が最初っから勇者として作られているとは限らんよな。その後都合がいいから使っちゃえ、って事になっているのかもしれない。……まだはっきりとはわからないがどうにも奴の周辺はきな臭い。
ランドールが悲願を果たす……か?
消えたインティに呆然としつつ、俺はため息を漏らしていた。クオレが慌てて追いかけて階段を上がってくる。
「インティは?」
「ああ、逃げられた」
振り返るとクオレ、仮面を手に持っていて、自ら嫌いだと言う顔をむき出しにしたままだ。
そういや、俺が無理矢理剥いじまったんだ。
クオレの頭上には赤旗がある……だから、誰かが滅ぼさなければいけない。赤い旗のバグを世界に許してはいけないのであれば赤い旗をつけているモノは『存在しない』……それが正常値だ。クオレに限らずみんなそう。
この世界には、赤い旗のバグを抱え込んでおける容量があった。今後もあるのかどうかはわからない。少なくとも、この世界『トビラ』へのトビラを開いた者達、開発者という名前の概念は放っておいてはいけないという判断をした。
だから赤い旗をせん滅する。それは俺が成し遂げてやる。ランドールなんかに任せてられるか。
それは、俺の仕事だ。
それで俺が魔王の皮を被るハメになってもいい。インティに指摘された通り、そういう決心をしたんだ。
魔王を殺すのはゲームみたいに単純な事じゃない。
勇者だって悩むんだよな。魔王だからって殺して良かったのかな……って。救えたんじゃないかなってさ。
そんなの勝手に悩んでろとバカバカしく思ってた訳だけど。
要するに、勇者ってのはそうやって悩んだあげく剣を振りあげる。魔王を殺してその称号を勇者が次に戴く可能性も承知した上で殺戮を選ぶ。
そういう、やっぱり……イタい子なんだな。……きっと。
「君は自分の顔を憎んだことは無い?」
クオレから問われ、俺は苦笑を浮かべる。
「……自分の顔だろ?嫌でも何でも付き合うしかねぇじゃんか」
「同じ顔の人が自分以外にいるんだよ、僕」
ああ、俺にもいるんだよな。同じ顔をした奴。
そいつらの顔が憎々しくないかと訊ねられたらぶっちゃけて、憎いと答えるかもしれない。俺じゃない癖に俺の顔してんじゃねぇよ、みたいな感じか。
……あいつもそうやって俺を見ていたんだよな。
恨めしく、無力な自分を知りつつ。素直に『俺』を嫉んだ。
「僕はミスト・ルーンザード・カルケードじゃない。あいつとは関係ない、そうずっと信じてきたのが突然覆された。やっぱり関係者だった、双子の弟だった?まさかと思ったけど顔を合わせた時……そういうの、不思議と分かるものなんだな。……僕は負ける、どうしても。だってあいつの方が僕より強い。比較されるのが怖いんだ、負けが決まっている。だから僕はあいつに……道を譲ろうと思った」
「……クオレ」
「君が言いたい事は分かるよ、僕は僕、ミストはミストだって言うんだろ。君と僕の状況は同じじゃない、けれど僕は……僕は君と同じだと思っていた。一つの顔を共有しているかわいそうな存在だ、とかさ。勝手に同情していたし勝手に……」
黒い瞳から涙を零したのは……見間違いじゃない……な。え?
待て、俺何か悪いことしたか?とか思い出し。
俺に殺させろ、がマズかったかと考えた末に、気が付いた。
違うな、その前か。
俺の気持ちを簡単に察するだなんて言うな、が……マズいのか。
……クオレは俺の状況を知ってたみたいだ。俺の本物がここにいて、俺は実は代替えの方でニセモノの方だったの、知ってみたいだ。俺がその事情すでに知っていて、事態を受け入れているんだと勘違いして、親近感とか色々感じていたのかもしれない。所がそうじゃない。
俺は知らなかった。
自分の存在を変えたくて、否定したくて名前も顔も捨てようとするクオレ。
ミストと双子で、色彩は逆だが同じ顔で。その双子の兄ミストがどうしても好きになれそうになくて大嫌いで……。それは、同じ顔だから、という理屈になるらしくて。
俺にはその理屈はいまいち分からないというか、なんでそこまでコンプレクスなのだと思うのだが。まぁ奴にも色々重い過去があるんだろう。
誰にだってそういう、他人から理解されにくい状況に陥った歴史があるもんだ。
そんな歴史を踏まえた自分の基準で、俺の事は『分かっている』つもりだった訳だろ?
それを俺は否定してしまった事になる。
わかったような事を言うなと鼻で笑って同調を拒絶した。
「いやでもさ、泣くなよ、男だろ?」
「分かってるよ、でもさ……唐突に気が付いた」
「何に?」
「……僕はミストじゃないんだ」
当たり前だろと言いたい言葉はなんとか抑えました。
「僕は君とは違う、そうだ、僕は……アイツじゃない。僕は僕だ、一々ミストに道を譲る必要なんかないんだよな。だって僕は僕だもの。アイツの邪魔になっている訳じゃない」
邪魔してる訳じゃないんだ……、と呟いてクオレは仮面を取り落とす。
そのまま俯いて小さな声で俺に……言っているんだよな。
「僕は……今でいい」
ゆっくり膝を突きながらクオレが求める、その意味を、俺は。
分かっているな。
「別に道を譲るんじゃない。それは今はっきり言えるよ」
クオレは目を閉じた。
「ただ、君の望みに僕が折れただけだから」
目を閉じて俺は、自分がどれだけイタいかを感じながら……剣を構えた。
今更同じ事を何回も反芻はしまい。
救えない、どう足掻いても俺は誰も何も救えない。
血のこびりついた白い仮面を手に、俺は地上に上がる階段の下でリオさん達を待っていた。
そんなに待つ必要はなく、大した収穫は無かったのかな。俺の姿を見つけて心配そうに駆け寄ってきて……そんで。
俺が何をしたのかすぐに察したと見える。
ぐんと引っ張られ、俺は驚いて目の前にある顔を睨み返してしまった。
胸ぐら掴んで引き上げたのは……マツナギだぜ?びっくりだ。
「守ってあげたかったんじゃなかったのか!」
「……出来ればな」
俺が覇気無く答えた言葉にマツナギは目を細める。
自分が酷く感情的に振る舞った事を察したように静かに、俺を階段に下ろしてくれた。
「あいつにとって望んでいない剣を振りかざすのは……俺だったんだ。槍と一緒に盾は出せねぇ」
「え?何?」
と、一人状況を把握していないお兄さんが惚けたのに対し、状況を受け入れたく無かったのだろう、アベルが漸く頭で状況を理解して噴火する。てゆーか、彼女はちゃんと察しているのにアービス、お前どこまで天然なのだ。
「何でそんな事したのよ……!」
まぁ、お前からはそう言う文句が来るよな。
それくらい、分かっていない俺ではない。
「……いずれ誰かがしなきゃいけないからだよ。当たり前だろ」
「だって!」
「デバイスツールか」
アービスが居るがまぁ、口に出した所でこのお兄さんは理解できないだろう。リオさんにはすでに説明してある。魔導士連中お得意の古代語にするとデバイスは装置って意味でな、大陸座が齎した世界を変え得る装置としての道具ってんで、リオさんにはそれをデバイスツールと呼んでいる事は伝えてあるのだ。彼女が元魔導師だからこそ理解するだろう、とレッドは判断した様である。
デバイスツール……神の道具だ。
大陸座から受け渡された理を大きくねじ曲げるツール。
「アベル、あれは魔王を救う為の道具じゃない」
「そんなの、まだ……」
「いや、実は確定事項なんだよ。……お前に話してないだけで」
「……何ですって?」
怒りを通り越し、状況把握に必死という風にアベルの顔が歪む。
「ヤト、それ……今やっちゃうの?」
アインが少し困ったようにアベルの胸の中から飛び出して俺に聞いてきた。
「ああ、踏ん切り付いたわ」
「単にやけっぱちになっている訳じゃないの?」
アインは必死に俺を……止めてくれてるんだな。でもさ、いずれ説明すると言って嘘ついてもらったのは俺の我が儘だ。
俺は首を伸ばしてくるアインのおでこを軽く弾く。
「……半殺しになったらすまん、ご迷惑おかけしますと先に言っておく」
問題は……ソコだ。
ぐだぐだ説明してもどうしようもない。そもそも、コイツには理解力が圧倒的に足りてない。
説明なんぞするだけ無駄だ。
これから俺達は殺し合いでも始めるのか?という具合に対峙する。
「お?なんだ?どうした?」
「空気読めギル」「少し黙ってて」
俺とアベルに同時にそのように言われ、ギルは大人しく口を閉じてくれた。
場所がなぁ。
ヘタすると俺、フルボッコだろ?ちょっと広い所、なるべくなら……逃げ場がある所がいい。
ところが逃げ込むべき先が今どこにも無いんだよな。ナッツもレッドもテリーもこの場にいない。
であるからして、俺はギルを避難場所に使う事にしました。この勢いだと盾になるかどうかも怪しいけどな。
狭い密室で出来る話じゃない。そんな逃げ場のない所で暴露出来る話じゃねぇんだ。第三者がいる事もよしとしよう。というより、修羅場を察して逃げ出さない第三者は重要だ。その点、動けない状態のギルは使える。
ナッツもレッドもテリーもこの場にいたら慌てて逃げ出すに違いないからな。奴ら、結構薄情だ。
「どういう事なの?」
アベルから催促され、俺は……勇気を持って一歩踏み出してそれに答えた。
「簡潔に言う」
当たり障りのない言葉を探そうとしている自分がバカらしくなった。
言い方変えたって同じだろ。
アベルに分かりやすく簡潔に。
なら、言うべき言葉は決まっている。
「お前を幸せにする事は俺には出来ない」
ギルがちょっと口を開けて呆れている気がするが、まぁいい。
「……よりにもよって……」
そのセリフなの、とアベルが怒りで身を震わせている。
そうとも、よりにもよってあのセリフだ。
これが一番お前を突き放せるのを俺は、知ってる。
キッとアベルが俺を睨み、凄まじい勢いで……少なくとも俺にはそのように感じられた……俺の目の前までやってくる。
「それで、諦める私だと思って?」
ぐわ、貴様……ッ!
まだ殴られていないのだが、まるで頭を殴られたような気分になる。
「よ、よりにもよってその言葉で返してくるか!」
「当たり前でしょ!そう言われたらあたしはこう返すしかないじゃない!」
「無いって、のは無いだろ!そもそもお前はアベルだぞ!」
「それ言うならアンタこそヤトじゃない!」
何の話をしているのかという具合に思われているのだろう。
でも、ギルは空気を読んでくれているらしく口出しはしてこない。うん、出したら負けだぞ。
途端俺達の矛先は貴様に向くからなッ 覚悟しとけ?
「俺は、お前のその諦めの悪さが嫌いだ!」
「あたしはアンタのその度胸の無さが嫌いなの!」
「嫌いだったら諦めろよ!」
「嫌よ、」
ぐっと胸元掴まれる。女がそれやるかフツー?そんなんされたら男は間違いなく引くんだぜッ!?
「それでもあたしはアンタがいいの!」
あぁあ、そういう話かとようやく状況を理解したらしいギルが一人で頷いているのが横目に伺えたりします。
「迷惑だっつってんだろ!」
「嘘吐き!ホントは迷惑じゃない癖に!」
「……や、もういいだろ。茶番は終わりにしよう」
俺はアベルが掴む両手の上に手を置いて、いたって真面目に言った。
これがリアルの俺に出来ればなー?
とか、そういうのはやらない事にしたってのにアベルの奴、悪のりしやがって。
ついそんな事思っちゃったじゃねぇかよ。
「ここまでだ」
「………」
『異なった』展開にアベルはとまどい、俺の視線を真っ直ぐに受止める。
「残念ながら本当に、出来ない」
「嘘、」
「いや、嘘じゃない。……俺には無理だ。俺には未来がない」
熱い衝撃、また、こいつはすぐに手を出す。
はたかれた頬がヒリヒリするが、俺は。
負けねぇ。
全く怯む様子のない俺に逆にアベルが怯む。それを真っ直ぐ見据えて俺は、告げた。
「世界が救われたら俺は、死ぬ」
「なにそれ……」
「具体的には大陸座が全部消えたらその時俺は死ぬって言っている」
ギルの手前だ、レイヤーがどうのこうのという話はしない。
「どうしてそうなるのよ?」
「俺は大陸座の恩恵で生きている。恩恵切れたら……」
いや、今俺は生きていると言えるのだろうか?
本当は生きていなければいけない人間をこの手で殺した。俺はそうしてまでこの世界に存在していいのか。いや、しちゃいけないから未来がないんだよな。
アイツに『俺』という称号を返していたら……。
生かされているという状況でも、生きてさえいてくれればアベルは、嬉しいのか?
違うよな。そうじゃないと俺は思うんだ。
あんな状態の俺を見たらきっとアベルは悲しむだろ。
どうしてこんな事になったんだって、意味もないのに理由探して憤るだろ。
それで……。殆ど死んでいる俺の為にアベルは、何か余計な事をしでかしてくれるだろう。
俺が望んでいない事を……俺の為だって言って……。
そういう奴だよこの女は、俺には身に余るくらいお節介焼きで……むしろ困る位。
これ以上、アベルを俺の所で引き留めたくない。
証拠隠滅に走ったのは……アベルにこれ以上悲しんで貰いたくないからだ。さっさと諦めて貰いたい。
俺の望みはずっと前からそうなのだから。
言葉を唐突に止めた俺を不審そうに見上げて来るアベル。
彼女を見ていて俺は込み上げる気持ちを必死に抑える。歪みそうになる顔をガッツで維持し、言葉を続けた。
「俺は、俺の正しい状況に戻っちまう」
「……正しい状況?」
本当の事は言えないよな。どうしたって。
本当の事とは『本物』を今さっき、この手で殺してきたという事。
嘘を付く時、相手の目を見ながらは言えない。俺、レッド程上手く嘘つけないし。
逸らしてるよなぁと意識しつつも奴の目を見たままは言えなくて、顔を反らしたまま言った。
「俺、死んでるんだ」
正確じゃない。
正確には、今さっき俺が俺を殺したのでそういう事になった。
もう一回位キッツいボディブローとか喰らうかな、と身を固くして構えていた俺であったが……。
アベルは唐突に力を抜いた。
あっさりと状況の把握をしれくれた……ように、見える。
油断大敵ッ、よかった理解してくれたかと胸をなで下ろした瞬間、神速で拳が飛んでくるという事もままある。
「……本当に?」
俯いたアベルから問われ、内心理不尽な暴力が何時始まるのかビクビクしながら答える俺。
「俺は……レッドみたいに真面目な顔で嘘は付けない。あ、笑いながらも無理だがな」
「……そうよね」
そうなんですよと同意した途端殴られるビジョンを見た気がして俺は、口が引きつった。
すいッと力無く、アベルは俺を掴む手を放して離れていく。それで……地下施設の入り口で様子を見守ってくれていたマツナギの方を向いて言った。
「……これって、本当なの?」
ちょ、俺の言うことが信用できねぇのかよッ!
そのアベルの問いを聞いたマツナギが施設から出てきて……無言でアベルを抱き留めた。
無言のマツナギにアベルが小さく呟いたのが聞こえる。
「そっか……」
いろいろな会話の仕方が在るもんだよな。
口先だけの奴もいれば、女の癖に拳しか知らない奴もいる。
俺は力が抜け、マツナギとアベルがこの場を静かに去って行ったのを確認してへたり込んでしまった。
「うぉおおお……一発殴られるだけで済んだ……」
き、奇跡だ。
そのようにぼやいたら頭上にアインが乗っかってきて額を叩かれる。
「そういう事言うから殴られるんでしょ?」
「まぁ、そうかもな……ふぅ、はぁ。重い……重かったんだなこれ、すごい今晴れやかな気分」
そろそろ口出しても良いのか?みたいな雰囲気を察したようにギルが首を伸ばす。
「お前ら、何やってんだ?」
晴れ晴れとしているのと、相手に首輪がついて鎖に繋がれているという安堵感もあって俺は奴にいつもの調子で言葉を返してしまったり。
「や、見ての通りです」
「……そういうプレイか?」
「アホか。どうしてそうなる。……てか、そうだ」
俺は思い出して相づちを打つ。
動けない相手に卑怯も何もない。
これは、チャンスだったのだ。
そのように考えた方が建設的だ。俺はこいつの要望を聞くつもりが無いしな。
たとえ貸し借りがあったとしても、だ。
俺は剣を抜きギルに構えた。
アービスと戦った時に砕け、その後ギルが直してくれた剣。
「お前をここで始末する事にする」
途端いつもの殺気を取り戻しギルは不敵に笑う。待ってました、みたいな顔しやがるのな。
「遅いんだよ、お前は俺に真っ先にそれを言うべきだろうが」
「そうだったな……悪い。待たせたんなら謝っとく」
「ちょっと待て」
案の定アービスが止めに入ってくる。大体展開は読んでた俺だ。
「クオレもうそうだけど突然なんでそういう事に?何かあったのか?」
クオレの件で俺の何かの『たが』が外れたんじゃないのかと思われたのかもしれない。
実際、勢いが付いてしまっている事は否定しない。俺だって心中穏やかじゃないんだ。
アベルに今行った事もそう、クオレに俺が行った事もそう。
間違いなく俺が『俺』に行った事に対する暴走と言っていいかもしれない。
その俺を止めてくれる奴がここにはいない。
ナッツも、レッドも居ないんだ。
奴らがここにいたら少しは展開が変わっていたのかもしれないが……奴らはこうなる事を知った上でここに来る事を拒否したんだろ。
俺の暴走を容認してやがる。
で、実際いずれこうやって俺はこうしなきゃいけない。クオレやアービス、他魔王八逆星。
連中が『誰か』によって始末されるのをのんびり待っている訳にはいかないんだ。
赤旗が伝染するって事もあるがそれが問題なのではない。そもそも、俺や俺達の仕事とは『魔王討伐』である。奴らをやっつけるのが仕事だ。仲良くなって、ううん倒しにくいなぁ、どうにか会心させて救ってやる事は出来ないかなぁ、などと考える事ではない。
俺は……もう選んでるだろ。
誰かを愛で救う事はしないのだって。する気もないし。
それを俺は出来ない。
レッドの件でそれがよぉく分かったし、赤旗感染していたら救いようがないって事も分かっている。
俺は俺の采配でこうやって、倒すべき敵に向かって剣を向けなければいけないんだ。
クオレを始末付けたのだってあれは、奴らに向けた愛じゃない。
俺は二人も殺したくないという我が儘だ。
魔王八逆星の狙いは……単純に考えて良いのだろうか?
大陸座および大魔王と目される大陸座であろう、バルトアンデルトを含む全員をランドールに『倒して貰う事』……か?
それで世界を破壊しうる存在は確かに、消える。
ランドールが大陸座に剣を打ち立てることが出来れば、の話だが。けどま、どうにも滅ぼせない、殺してもすぐ別の姿に転生してしまうという大陸座の事を把握しているナドゥが絡んでいるのだから、ランドールになんらかの特別な力……。
大陸座の理さえも壊す事が出来る圧倒的な破壊の力がある……とか?
とりあえず……そう仮定してみよう。
それは俺達が、大陸座から権限を取り上げ開発者レイヤーとやらに退避させているのとどう違うのか俺には分からない。同じなのか?それとも――ランドールの方が一枚上手なのだろうか?
いや、仮定の話だ。
そもそも大陸座の条件転生ルールをぶった切るような力ってありうるのか?……赤旗バグだからあり得るのかもしれない。もちろん、だからこそ世界そのものを壊し兼ねない訳だよな……。
う、なんか仮定じゃなくてガチな気がしてきた。
どうしてそうなったか、というのは分からん。
俺の今の状況、すなわち代替の方に青旗がついてしまった状況も同じく……かなり不可解だな。
でもこの世界は……
八精霊大陸と呼ばれ『トビラ』と呼んでいるこの世界は、そいう不可解な事を容認してんだよ。
だから、いやまさか!と思う事が事実になっちゃうこともありうる。ある意味おっかねぇ世界だ。
理屈にはまっていない事がエラーだとか正しくないとか、排除しようと何らかの仕組みが働く訳じゃない。むしろそれもアリだという理屈が在る。ジーンウイントが保障する、すべての理を逸脱してもよいという理屈がそれだ。
俺たちの都合で言えばバグだから、それを取り除かなきゃいけないと……『世界』は必死になったりしない。
そういうわけのわからない存在もかっちり受け入れるだけの容量がある、柔軟な世界。
システムとかいうルールの、最後の壁さえ容易く突き崩すような絶対的自由、望みこそが全てという約束。
だからこそこの『トビラ』の開発者、この世界への『トビラ』を開いた者達は世界の改変を中から行おうと俺達に提案した。本来なら外から自由に弄れるはずなのだがな。外からはむしろ、細かい変更が出来ないという不思議な『異世界』
プレイヤーの世界、現実、リアルと呼ぶ世界ではこっちの世界にある約束が通用しない。望んだらその通りになるという事は『あっち』では無い。見かけ上そうなった、というのは別だ。
分かりやすく言えばこっちの世界にある魔法という技術はあっちには無い。そう言う事な。
この世界、トビラで魔法が生まれた経緯はこうだ。
望みによって理を曲げる。
その一言で事足りる。
リアルではどうだ。望んだ通りに理屈をねじ曲げる事は通用しねぇだろ?それを許したら世界は大変な事になる。
こうだったらいいのにな、の世界が繰り広げられちゃう訳だろう。そういう事にならないと云う事は、リアルの世界にはそういう理屈は働いていないと云う事だ。
そのようにプレイヤーの世界『現実』には理論の壁がある。あっちの世界はこっちの世界に比べて圧倒的に不便だ。
でもその不便は、世界が容易く誰かの願いで改編されない為に必要な事なのだから仕方がないのだろう。俺はそう思う。
ところがこっちの世界はそうじゃない。強い願いがすべてに勝る。
でも望む力が勝ってしまう事すら世界は容認する。それで、世界の危機なんてものが訪れたりする訳だよ。リアルの物語の中で繰り広げられる、セカイ系とか呼ばれるトンデモが起こりうる。
いきなりそういう力を持った人間が現れたら同種の人間にしか太刀打ち出来ない訳だが如何せん、トビラってのは昔っから同じ理屈で存在しているのだ。セカイ系よろしく魔王が君臨し、つまんねー世界だからぶっ壊しちゃおうと言い出す奴は現れる一方……待て!そんな事は私が許さない!という勇者もちゃっかり現れるようになっている。
望みが全てという理論のあるこの世界は、昔からこうだからこのように、上手いことバランスを取ってきたんだと思うんだ。
そのバランスを崩したのは誰だ。
……俺達だ。
理論の壁を越えられない世界に住んでいる者。
理論には壁があるというアイデンティティに縛られている、俺達、異世界の住人だ。
このままじゃ世界が壊れてしまうと騒いでいるのは俺達なんだ。
大陸座、青い旗の勇者。……ならば魔王八逆星はどうなのだろう?あれもある意味騒いでいる方だけど……ああ、ようするに9つ目の大陸座バルトアンデルトによって存在が狂い、影響を受けてしまったのだろうか?だとしたら、奴らはどこまでも被害者だよな……。
今は『俺達が悪かった』という過ちに気が付いている。
だからこそ壊れそうな世界を保全する為に内側からアプローチが出来るんだ。理論の壁があって出来ない事を、理論の壁をあるいはぶち壊せる世界であるからこそ俺達は、トビラの中から世界を救う事を選んだ。
何が原因だったかはもう突き止めた。
救える、それは可能だ。
俺達がそれを望む限り世界は救える。
この世界は望む限りその可能性がどこまでも開けている。
でも実は……世界が壊れつつあると知って、壊して成るものかと願った誰かの望みでも世界は救えるのだ。
実は設定、最強だな。
ようするにお前の努力は無駄だと言われているようでちょっとアレだが。この世界はゲームではあるが、そのゲームの世界にいる俺にとっては現実でもある。
コンピューターでプログラミングされて制御されている世界じゃない。だから目的に達する道順は沢山あって、目的を達成する方法も同じくなんだろう。
俺達は魔王八逆星が案外、それ程悪いものでは無い事にとっくに気が付いているよな?
ただ奴らは『大きいもの』を救う事に必死で、あるいはすでに力を手にし過ぎていて、関係のない者達や小さな問題を『仕方がない事』と巻き込み果てに、ぞんざいに扱いやがった。そんな連中のやり方は許せる所ではない。
もっと別のやり方が在るはずだ。世界全体から見たら些細であろう悲劇を前に俺達はそのように魔王八逆星を恨んだりもした。でもそれは、連中の思う壺だったのかもしれない。
奴らは待っていた。自分達を滅ぼしてくれる『勇者』の存在を。
ところがそれが一向に現れる気配がない。
だから。
事も在ろうか奴ら、勇者も自分らで作る事にしたんじゃねぇのか……?
いや……まさか……な。
ランドールが真っ当な経歴の人間ならそんなバカらしい事思わないんだけど……奴は『王の器』だと言われている何やら怪しい経歴をお持ちだ。テリーが漏らしていた、限りなく訳アリな存在である。
ナドゥと呼ばれる魔導師が『作った』とか聞いてる。作ったっていってもどういう意味での『作った』なのか事情を知っているウィン家の連中や天使教関係者は口を閉ざしやがるのだが。
いやいや、違うだろう。
大陸座が実体を持って現れた事、バルトアンデルトが大魔王と呼ばれるような危険な存在になってしまったのは同時期であり、それは今から約10年前だ。
ランドールが『作られた』経緯とは歴史が符合しない……気がしてくるぞ?あいつ実年齢10才じゃないよな?多分、俺と同じくらいか、レッドと同じくフレイムトライブならもう少し年上の様な気がする。
いや……でもなぁ。
奴が最初っから勇者として作られているとは限らんよな。その後都合がいいから使っちゃえ、って事になっているのかもしれない。……まだはっきりとはわからないがどうにも奴の周辺はきな臭い。
ランドールが悲願を果たす……か?
消えたインティに呆然としつつ、俺はため息を漏らしていた。クオレが慌てて追いかけて階段を上がってくる。
「インティは?」
「ああ、逃げられた」
振り返るとクオレ、仮面を手に持っていて、自ら嫌いだと言う顔をむき出しにしたままだ。
そういや、俺が無理矢理剥いじまったんだ。
クオレの頭上には赤旗がある……だから、誰かが滅ぼさなければいけない。赤い旗のバグを世界に許してはいけないのであれば赤い旗をつけているモノは『存在しない』……それが正常値だ。クオレに限らずみんなそう。
この世界には、赤い旗のバグを抱え込んでおける容量があった。今後もあるのかどうかはわからない。少なくとも、この世界『トビラ』へのトビラを開いた者達、開発者という名前の概念は放っておいてはいけないという判断をした。
だから赤い旗をせん滅する。それは俺が成し遂げてやる。ランドールなんかに任せてられるか。
それは、俺の仕事だ。
それで俺が魔王の皮を被るハメになってもいい。インティに指摘された通り、そういう決心をしたんだ。
魔王を殺すのはゲームみたいに単純な事じゃない。
勇者だって悩むんだよな。魔王だからって殺して良かったのかな……って。救えたんじゃないかなってさ。
そんなの勝手に悩んでろとバカバカしく思ってた訳だけど。
要するに、勇者ってのはそうやって悩んだあげく剣を振りあげる。魔王を殺してその称号を勇者が次に戴く可能性も承知した上で殺戮を選ぶ。
そういう、やっぱり……イタい子なんだな。……きっと。
「君は自分の顔を憎んだことは無い?」
クオレから問われ、俺は苦笑を浮かべる。
「……自分の顔だろ?嫌でも何でも付き合うしかねぇじゃんか」
「同じ顔の人が自分以外にいるんだよ、僕」
ああ、俺にもいるんだよな。同じ顔をした奴。
そいつらの顔が憎々しくないかと訊ねられたらぶっちゃけて、憎いと答えるかもしれない。俺じゃない癖に俺の顔してんじゃねぇよ、みたいな感じか。
……あいつもそうやって俺を見ていたんだよな。
恨めしく、無力な自分を知りつつ。素直に『俺』を嫉んだ。
「僕はミスト・ルーンザード・カルケードじゃない。あいつとは関係ない、そうずっと信じてきたのが突然覆された。やっぱり関係者だった、双子の弟だった?まさかと思ったけど顔を合わせた時……そういうの、不思議と分かるものなんだな。……僕は負ける、どうしても。だってあいつの方が僕より強い。比較されるのが怖いんだ、負けが決まっている。だから僕はあいつに……道を譲ろうと思った」
「……クオレ」
「君が言いたい事は分かるよ、僕は僕、ミストはミストだって言うんだろ。君と僕の状況は同じじゃない、けれど僕は……僕は君と同じだと思っていた。一つの顔を共有しているかわいそうな存在だ、とかさ。勝手に同情していたし勝手に……」
黒い瞳から涙を零したのは……見間違いじゃない……な。え?
待て、俺何か悪いことしたか?とか思い出し。
俺に殺させろ、がマズかったかと考えた末に、気が付いた。
違うな、その前か。
俺の気持ちを簡単に察するだなんて言うな、が……マズいのか。
……クオレは俺の状況を知ってたみたいだ。俺の本物がここにいて、俺は実は代替えの方でニセモノの方だったの、知ってみたいだ。俺がその事情すでに知っていて、事態を受け入れているんだと勘違いして、親近感とか色々感じていたのかもしれない。所がそうじゃない。
俺は知らなかった。
自分の存在を変えたくて、否定したくて名前も顔も捨てようとするクオレ。
ミストと双子で、色彩は逆だが同じ顔で。その双子の兄ミストがどうしても好きになれそうになくて大嫌いで……。それは、同じ顔だから、という理屈になるらしくて。
俺にはその理屈はいまいち分からないというか、なんでそこまでコンプレクスなのだと思うのだが。まぁ奴にも色々重い過去があるんだろう。
誰にだってそういう、他人から理解されにくい状況に陥った歴史があるもんだ。
そんな歴史を踏まえた自分の基準で、俺の事は『分かっている』つもりだった訳だろ?
それを俺は否定してしまった事になる。
わかったような事を言うなと鼻で笑って同調を拒絶した。
「いやでもさ、泣くなよ、男だろ?」
「分かってるよ、でもさ……唐突に気が付いた」
「何に?」
「……僕はミストじゃないんだ」
当たり前だろと言いたい言葉はなんとか抑えました。
「僕は君とは違う、そうだ、僕は……アイツじゃない。僕は僕だ、一々ミストに道を譲る必要なんかないんだよな。だって僕は僕だもの。アイツの邪魔になっている訳じゃない」
邪魔してる訳じゃないんだ……、と呟いてクオレは仮面を取り落とす。
そのまま俯いて小さな声で俺に……言っているんだよな。
「僕は……今でいい」
ゆっくり膝を突きながらクオレが求める、その意味を、俺は。
分かっているな。
「別に道を譲るんじゃない。それは今はっきり言えるよ」
クオレは目を閉じた。
「ただ、君の望みに僕が折れただけだから」
目を閉じて俺は、自分がどれだけイタいかを感じながら……剣を構えた。
今更同じ事を何回も反芻はしまい。
救えない、どう足掻いても俺は誰も何も救えない。
血のこびりついた白い仮面を手に、俺は地上に上がる階段の下でリオさん達を待っていた。
そんなに待つ必要はなく、大した収穫は無かったのかな。俺の姿を見つけて心配そうに駆け寄ってきて……そんで。
俺が何をしたのかすぐに察したと見える。
ぐんと引っ張られ、俺は驚いて目の前にある顔を睨み返してしまった。
胸ぐら掴んで引き上げたのは……マツナギだぜ?びっくりだ。
「守ってあげたかったんじゃなかったのか!」
「……出来ればな」
俺が覇気無く答えた言葉にマツナギは目を細める。
自分が酷く感情的に振る舞った事を察したように静かに、俺を階段に下ろしてくれた。
「あいつにとって望んでいない剣を振りかざすのは……俺だったんだ。槍と一緒に盾は出せねぇ」
「え?何?」
と、一人状況を把握していないお兄さんが惚けたのに対し、状況を受け入れたく無かったのだろう、アベルが漸く頭で状況を理解して噴火する。てゆーか、彼女はちゃんと察しているのにアービス、お前どこまで天然なのだ。
「何でそんな事したのよ……!」
まぁ、お前からはそう言う文句が来るよな。
それくらい、分かっていない俺ではない。
「……いずれ誰かがしなきゃいけないからだよ。当たり前だろ」
「だって!」
「デバイスツールか」
アービスが居るがまぁ、口に出した所でこのお兄さんは理解できないだろう。リオさんにはすでに説明してある。魔導士連中お得意の古代語にするとデバイスは装置って意味でな、大陸座が齎した世界を変え得る装置としての道具ってんで、リオさんにはそれをデバイスツールと呼んでいる事は伝えてあるのだ。彼女が元魔導師だからこそ理解するだろう、とレッドは判断した様である。
デバイスツール……神の道具だ。
大陸座から受け渡された理を大きくねじ曲げるツール。
「アベル、あれは魔王を救う為の道具じゃない」
「そんなの、まだ……」
「いや、実は確定事項なんだよ。……お前に話してないだけで」
「……何ですって?」
怒りを通り越し、状況把握に必死という風にアベルの顔が歪む。
「ヤト、それ……今やっちゃうの?」
アインが少し困ったようにアベルの胸の中から飛び出して俺に聞いてきた。
「ああ、踏ん切り付いたわ」
「単にやけっぱちになっている訳じゃないの?」
アインは必死に俺を……止めてくれてるんだな。でもさ、いずれ説明すると言って嘘ついてもらったのは俺の我が儘だ。
俺は首を伸ばしてくるアインのおでこを軽く弾く。
「……半殺しになったらすまん、ご迷惑おかけしますと先に言っておく」
問題は……ソコだ。
ぐだぐだ説明してもどうしようもない。そもそも、コイツには理解力が圧倒的に足りてない。
説明なんぞするだけ無駄だ。
これから俺達は殺し合いでも始めるのか?という具合に対峙する。
「お?なんだ?どうした?」
「空気読めギル」「少し黙ってて」
俺とアベルに同時にそのように言われ、ギルは大人しく口を閉じてくれた。
場所がなぁ。
ヘタすると俺、フルボッコだろ?ちょっと広い所、なるべくなら……逃げ場がある所がいい。
ところが逃げ込むべき先が今どこにも無いんだよな。ナッツもレッドもテリーもこの場にいない。
であるからして、俺はギルを避難場所に使う事にしました。この勢いだと盾になるかどうかも怪しいけどな。
狭い密室で出来る話じゃない。そんな逃げ場のない所で暴露出来る話じゃねぇんだ。第三者がいる事もよしとしよう。というより、修羅場を察して逃げ出さない第三者は重要だ。その点、動けない状態のギルは使える。
ナッツもレッドもテリーもこの場にいたら慌てて逃げ出すに違いないからな。奴ら、結構薄情だ。
「どういう事なの?」
アベルから催促され、俺は……勇気を持って一歩踏み出してそれに答えた。
「簡潔に言う」
当たり障りのない言葉を探そうとしている自分がバカらしくなった。
言い方変えたって同じだろ。
アベルに分かりやすく簡潔に。
なら、言うべき言葉は決まっている。
「お前を幸せにする事は俺には出来ない」
ギルがちょっと口を開けて呆れている気がするが、まぁいい。
「……よりにもよって……」
そのセリフなの、とアベルが怒りで身を震わせている。
そうとも、よりにもよってあのセリフだ。
これが一番お前を突き放せるのを俺は、知ってる。
キッとアベルが俺を睨み、凄まじい勢いで……少なくとも俺にはそのように感じられた……俺の目の前までやってくる。
「それで、諦める私だと思って?」
ぐわ、貴様……ッ!
まだ殴られていないのだが、まるで頭を殴られたような気分になる。
「よ、よりにもよってその言葉で返してくるか!」
「当たり前でしょ!そう言われたらあたしはこう返すしかないじゃない!」
「無いって、のは無いだろ!そもそもお前はアベルだぞ!」
「それ言うならアンタこそヤトじゃない!」
何の話をしているのかという具合に思われているのだろう。
でも、ギルは空気を読んでくれているらしく口出しはしてこない。うん、出したら負けだぞ。
途端俺達の矛先は貴様に向くからなッ 覚悟しとけ?
「俺は、お前のその諦めの悪さが嫌いだ!」
「あたしはアンタのその度胸の無さが嫌いなの!」
「嫌いだったら諦めろよ!」
「嫌よ、」
ぐっと胸元掴まれる。女がそれやるかフツー?そんなんされたら男は間違いなく引くんだぜッ!?
「それでもあたしはアンタがいいの!」
あぁあ、そういう話かとようやく状況を理解したらしいギルが一人で頷いているのが横目に伺えたりします。
「迷惑だっつってんだろ!」
「嘘吐き!ホントは迷惑じゃない癖に!」
「……や、もういいだろ。茶番は終わりにしよう」
俺はアベルが掴む両手の上に手を置いて、いたって真面目に言った。
これがリアルの俺に出来ればなー?
とか、そういうのはやらない事にしたってのにアベルの奴、悪のりしやがって。
ついそんな事思っちゃったじゃねぇかよ。
「ここまでだ」
「………」
『異なった』展開にアベルはとまどい、俺の視線を真っ直ぐに受止める。
「残念ながら本当に、出来ない」
「嘘、」
「いや、嘘じゃない。……俺には無理だ。俺には未来がない」
熱い衝撃、また、こいつはすぐに手を出す。
はたかれた頬がヒリヒリするが、俺は。
負けねぇ。
全く怯む様子のない俺に逆にアベルが怯む。それを真っ直ぐ見据えて俺は、告げた。
「世界が救われたら俺は、死ぬ」
「なにそれ……」
「具体的には大陸座が全部消えたらその時俺は死ぬって言っている」
ギルの手前だ、レイヤーがどうのこうのという話はしない。
「どうしてそうなるのよ?」
「俺は大陸座の恩恵で生きている。恩恵切れたら……」
いや、今俺は生きていると言えるのだろうか?
本当は生きていなければいけない人間をこの手で殺した。俺はそうしてまでこの世界に存在していいのか。いや、しちゃいけないから未来がないんだよな。
アイツに『俺』という称号を返していたら……。
生かされているという状況でも、生きてさえいてくれればアベルは、嬉しいのか?
違うよな。そうじゃないと俺は思うんだ。
あんな状態の俺を見たらきっとアベルは悲しむだろ。
どうしてこんな事になったんだって、意味もないのに理由探して憤るだろ。
それで……。殆ど死んでいる俺の為にアベルは、何か余計な事をしでかしてくれるだろう。
俺が望んでいない事を……俺の為だって言って……。
そういう奴だよこの女は、俺には身に余るくらいお節介焼きで……むしろ困る位。
これ以上、アベルを俺の所で引き留めたくない。
証拠隠滅に走ったのは……アベルにこれ以上悲しんで貰いたくないからだ。さっさと諦めて貰いたい。
俺の望みはずっと前からそうなのだから。
言葉を唐突に止めた俺を不審そうに見上げて来るアベル。
彼女を見ていて俺は込み上げる気持ちを必死に抑える。歪みそうになる顔をガッツで維持し、言葉を続けた。
「俺は、俺の正しい状況に戻っちまう」
「……正しい状況?」
本当の事は言えないよな。どうしたって。
本当の事とは『本物』を今さっき、この手で殺してきたという事。
嘘を付く時、相手の目を見ながらは言えない。俺、レッド程上手く嘘つけないし。
逸らしてるよなぁと意識しつつも奴の目を見たままは言えなくて、顔を反らしたまま言った。
「俺、死んでるんだ」
正確じゃない。
正確には、今さっき俺が俺を殺したのでそういう事になった。
もう一回位キッツいボディブローとか喰らうかな、と身を固くして構えていた俺であったが……。
アベルは唐突に力を抜いた。
あっさりと状況の把握をしれくれた……ように、見える。
油断大敵ッ、よかった理解してくれたかと胸をなで下ろした瞬間、神速で拳が飛んでくるという事もままある。
「……本当に?」
俯いたアベルから問われ、内心理不尽な暴力が何時始まるのかビクビクしながら答える俺。
「俺は……レッドみたいに真面目な顔で嘘は付けない。あ、笑いながらも無理だがな」
「……そうよね」
そうなんですよと同意した途端殴られるビジョンを見た気がして俺は、口が引きつった。
すいッと力無く、アベルは俺を掴む手を放して離れていく。それで……地下施設の入り口で様子を見守ってくれていたマツナギの方を向いて言った。
「……これって、本当なの?」
ちょ、俺の言うことが信用できねぇのかよッ!
そのアベルの問いを聞いたマツナギが施設から出てきて……無言でアベルを抱き留めた。
無言のマツナギにアベルが小さく呟いたのが聞こえる。
「そっか……」
いろいろな会話の仕方が在るもんだよな。
口先だけの奴もいれば、女の癖に拳しか知らない奴もいる。
俺は力が抜け、マツナギとアベルがこの場を静かに去って行ったのを確認してへたり込んでしまった。
「うぉおおお……一発殴られるだけで済んだ……」
き、奇跡だ。
そのようにぼやいたら頭上にアインが乗っかってきて額を叩かれる。
「そういう事言うから殴られるんでしょ?」
「まぁ、そうかもな……ふぅ、はぁ。重い……重かったんだなこれ、すごい今晴れやかな気分」
そろそろ口出しても良いのか?みたいな雰囲気を察したようにギルが首を伸ばす。
「お前ら、何やってんだ?」
晴れ晴れとしているのと、相手に首輪がついて鎖に繋がれているという安堵感もあって俺は奴にいつもの調子で言葉を返してしまったり。
「や、見ての通りです」
「……そういうプレイか?」
「アホか。どうしてそうなる。……てか、そうだ」
俺は思い出して相づちを打つ。
動けない相手に卑怯も何もない。
これは、チャンスだったのだ。
そのように考えた方が建設的だ。俺はこいつの要望を聞くつもりが無いしな。
たとえ貸し借りがあったとしても、だ。
俺は剣を抜きギルに構えた。
アービスと戦った時に砕け、その後ギルが直してくれた剣。
「お前をここで始末する事にする」
途端いつもの殺気を取り戻しギルは不敵に笑う。待ってました、みたいな顔しやがるのな。
「遅いんだよ、お前は俺に真っ先にそれを言うべきだろうが」
「そうだったな……悪い。待たせたんなら謝っとく」
「ちょっと待て」
案の定アービスが止めに入ってくる。大体展開は読んでた俺だ。
「クオレもうそうだけど突然なんでそういう事に?何かあったのか?」
クオレの件で俺の何かの『たが』が外れたんじゃないのかと思われたのかもしれない。
実際、勢いが付いてしまっている事は否定しない。俺だって心中穏やかじゃないんだ。
アベルに今行った事もそう、クオレに俺が行った事もそう。
間違いなく俺が『俺』に行った事に対する暴走と言っていいかもしれない。
その俺を止めてくれる奴がここにはいない。
ナッツも、レッドも居ないんだ。
奴らがここにいたら少しは展開が変わっていたのかもしれないが……奴らはこうなる事を知った上でここに来る事を拒否したんだろ。
俺の暴走を容認してやがる。
で、実際いずれこうやって俺はこうしなきゃいけない。クオレやアービス、他魔王八逆星。
連中が『誰か』によって始末されるのをのんびり待っている訳にはいかないんだ。
赤旗が伝染するって事もあるがそれが問題なのではない。そもそも、俺や俺達の仕事とは『魔王討伐』である。奴らをやっつけるのが仕事だ。仲良くなって、ううん倒しにくいなぁ、どうにか会心させて救ってやる事は出来ないかなぁ、などと考える事ではない。
俺は……もう選んでるだろ。
誰かを愛で救う事はしないのだって。する気もないし。
それを俺は出来ない。
レッドの件でそれがよぉく分かったし、赤旗感染していたら救いようがないって事も分かっている。
俺は俺の采配でこうやって、倒すべき敵に向かって剣を向けなければいけないんだ。
クオレを始末付けたのだってあれは、奴らに向けた愛じゃない。
俺は二人も殺したくないという我が儘だ。
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