162 / 366
10章 破滅か支配か 『選択肢。俺か、俺以外』
書の5前半 精霊の海『望みの果ての海』
しおりを挟む
■書の5前半■ 精霊の海 Central Ocean
なんでお前がそこにいる。どうしてお前がそこにいて俺がここにいるんだ。
なんでだ?なんでだ、なんでだよ!
その感情の叫びが狂気に近く繰り返されている気がする。
そこは俺の居場所だ。ここがお前がいるべき場所だ。
俺にその場所を返せ。返せ、かえせ、カエセ。
かえせ?
その言葉をどこかで聞いた。いや、どこでだって聞くだろ。
金借りたら相手からさっさと返せと言われるだろうし……いや、戦士ヤトはあんまり人から金借りたりした覚えはないんだけど。
死んだと思ったけど生きていたんだな『俺』。
散々な姿だけどちゃんと、生きていたんだ……。いや、待てよ?死んだよなぁという意識が間違いなく俺にある。そこまでの記憶は俺にも残っている。
俺は一体どこで『俺』になったのだろう。
レッドの言葉を思い出している。
ナーイアストの石の、レプリカを作り出して見せながら、これを魔王八逆星の連中に渡したくなかったと奴は言った。石を隠すために酷い怪我を謎の蔦で再生し続ける俺にこっそり、石を隠したと言った。
本物を渡さなかった都合が後に魔王八逆星にバレて、奴はアーティフィカルゴーストという人工バグ幽霊を体の中に入れる羽目になったんだよな。
どこまでそれが真実かどうかわからん。奴はひどい嘘つきだからもしかしたらまだ、どこかに嘘を混ぜている可能性もある。
しかしとりあえず今奴が明言した言葉をまとめると……そういう事だ。
ナーイアストの石、ようするにデバイスツールは魔王八逆星の目をごまかして無事、俺の体の中に隠されて南国に送り付けられた。ナーイアストの石が俺の中にあるから、俺は『俺』だろうと言ったテリー。
ようするにレッドの奴は騙されていたという事なのか。
それとも、奴は俺の事情を悟った上で今までやっぱり、いつもの如く嘘をついて俺を騙そうとしたのか。再び嘘がばれるのが嫌で今回は同行したくないと言ったのか?
そんな事どうだっていいだろう。
俺は今、現実から目をそらしている。
見上げてくるあの視線が送ってくる感情の重さに怯み、誰かに責任を転嫁できないかと探しているに過ぎないんだ。
これは俺の所為じゃない、だから俺をそんな目で見るな!
俺の所為?お前の所為?どっちも俺だ、どこまでも俺だ。
なんでお前がそこにいて俺がここにいるのだ、その場所を俺に返せ、そして代わりにお前がそこの瓶の中に入ってみろ。
いつまでたっても誰も俺を助けに来ないわけだ、だってお前がそこにいるんだものな。
忘れられた、死んだ事になっているならそれでもいいのに。まだその方が救いがあるというのに、
なんだお前は。
どうして『俺』を差し置いてお前がそこにいるんだ。
知らなかった、みたいな顔をして……ふざけるな、畜生、畜生!
わかった……苦しかったんだよな。それはよくわかる。
それでも、そいつは絶対に俺にそれを願ったりはしなかった。俺だからな。俺だから……たぶん、そのお願いは自分に向けて出来ない都合も良く分かる。
たった一言それを言ってくれれば俺は剣を振り下ろせるのに。
言い訳だ。
笑い出す、黙って消えろ偽物野郎。いいから黙って俺にその場所を返せばいいんだよ。
さっさと消えろ!消えろ、消えるのはお前だ!俺じゃないお前の方だ!
得体のしれないトビラをくぐってこっちにやってきた、貴様の方だ!
ああ、そうだ。
「ちょっと!大丈夫?」
気が付いたら肩で息をしている。足下には血の海。
アベルに肩を揺すられて俺は正気に戻った。強く握っていた剣の柄から左手を放して自分の、ばくばくいっている心臓の上に置く。
「……生きてる……な」
「……何が?」
と思ったら、なんだか力が抜けた。倒れそうになった所アベルから支えられている。
「ちょっと、こんくらいの流血沙汰で倒れないでよ」
「すまん、そうじゃなくて……だな」
剣の切っ先にゆっくり視線を合わせる。
あぁ、本当に証拠隠滅しちまったなぁ。
グチャグチャだ。なまじ良く切れるもんで頭がい骨ごと脳髄までかち割って……いや、それでもかろうじて上半身人間だった形跡は残っているけどな。
これじゃ、これが『何』であったかなんてアベルには分かるはずがない。
しかし匂いで世界を認識できるアインはおそらく……。
「これ、何?」
まずい、答えられない。嘘でもいいからごまかせと頭で考えているのだが言葉が出てこない。
「新生魔王軍のサンプル?」
そんな俺の状況も恐らく……わかってくれている、アベルの言葉に答えたのはアインだった。
「ならこんなヒステリーみたいにグチャグチャにする必要ないでしょ?どうしたのよ」
「……俺と同じ顔をしていた」
「え?」
言い逃れはできそうにない。俺は回らない頭を回す。
「南国で……どうにもそっくりさんが出回っているって話は聞いてたしな。どうにもその出来損ないか、そんなんだろう」
……何が出来損ないだ。出来損ないなのは俺の方だっつの。
そんな内心をひた隠しに、俺が言えるのはそれが精いっぱい。
でも、これでいい。
全ての感情に関するサブルーチンを受け取って、俺は胸を押さえて収まらない動悸に息を呑む。
大丈夫だ。
まだ俺の頭はまともに動く。
「ちょっと気持ちが悪くてつい、」
「えー、ホントに居たんだそんなの。どんなんだったのよ」
本心から興味だけで言うよなぁお前。ゲテものを見たいんですか貴方は。
というか……そういえばこいつは怪物とかを見て気持ち悪いとか怖がるような奴ではないのだった。流血沙汰すら平然と傍観するような肝っ玉の据わった女だ。
現に、俺が肉塊にしてしまったモノを前にして平然としているもんな。
でも、これが『何』であったかを知ったら……。
知ったら、どう思うだろう?
俺は苦笑して胸に置いていた手を額に当てた。
反対側にあるガラス瓶に寄りかかり、息を整える。
だめだ、どこからともなく笑いがこみ上げてくる。可笑しい、でも我慢しろ俺。
我慢できなきゃトチ狂ってしまうだけだ。
蹲り腹の痙攣を必死に抑えながら俺はアベルに尋ねた。
「他に……何かありそうか?」
それにはアインが答えたな。
「うーん、他の水槽には何も入ってないわねぇ」
「行き止まりだね、他の部屋はなさそうだ。アービス達の方に合流したらどうだろう」
クオレの声も聞こえてくる。
「そうね、行きましょアベちゃん」
………。
俺は少し顔をあげてアインを伺う。
彼女は……分かっている。どこまでもすべてを分かっている。俺一人胸にしまっておける事ではなさそうだ。そもそも……レッドの野郎。
あいつは最初から知ってやがったな?知ってたというか……こういう展開の予測をしていやがったと見る。
ここに俺がいる。俺が複製されている。どちらかがニセモノで、どこかにホンモノがいる。
そして俺が……ファルス、すなわち偽者ではない事を信じたいと、そう言っていたわけか。
「ほら、ヤト、行くわよ」
アベルから腕を引っ張られる……が、待て。俺はまだ激しい動悸と腹の痙攣がまだ収まっていないのだ。
「……悪い、ちょっと……吐きそうだ」
「何?どうしたのよ。そんなにヘンなものだったの?」
ぶっちゃけてそれだけヘンなものでした。
「悪いけど先行っててくんねぇ?」
「はぁ?」
俺はなんとか体を起こして、怪訝な顔をするアベルに具合が悪そうに言った。心臓バクバク不整脈気味で、腹が痙攣してたらそりゃ気持ち悪いってもんだ。
「それとも何か、俺がえれえれ吐いてる所をお前は見ていたいのか?」
それでなんとか上手いこと追っ払った。
俺は安堵し、その場で座り込みそうになった所クオレに支えられる。
「大丈夫か?」
「あー……あんまり、大丈夫じゃねぇ」
吐きそうってのはガチになってきた。……気持ちが悪い。
「とりあえずこっちに来て」
クオレから支えて貰いながら俺は部屋の階段付近まで戻ってくる。
怪しい液体やら血やらの海から脱出し、紫色の蛍光灯の隣に俺は腰を下ろした。腹の痙攣は治まったが未だに動悸が収まらない。
クオレも付き合ってしゃがみ込みながら言った。
「君は知らなかったんだな」
「……何がだ」
「僕はてっきり知っていて、それであんなに無茶をしているのだと思ってたよ」
「だから、何が?」
「君の体が代替品だって事」
まぁ、そういう事になるんだよな。
俺は自嘲の笑い声を漏らしてしまった。
「どうにも死んだあるいは、死ぬ程致命傷受けたよなという記憶はあったけど……な」
まさか、こんな形で生きて……いや。生かされていたとは知らなかった。
悪用される訳だ。俺のそっくりさんの暗躍は今に始まったことじゃない。
すでに前からそういう事になっていた。まさしく今の俺がそれだ。悪用されている極みだ。
表に出ているのが俺一人だっただけじゃねぇか。
吐きそうな口元を拭いながら俺は、ただ一つ不可解な事実を考えている。
問題なのはこの『俺』に青い旗がついているという事だ。
プレイヤーを示すサトウ-ハヤトが、なんであそこの血の海に浮かんでいる肉塊じゃなくて『俺』の方にくっついているかって事。それが全ての事態をややこしくしている。
いや?そもそも……異世界からの乱入者が存在するという事自体がこの世界では、物事をややこしくしているんだよな。
それさえなければ俺は『俺』じゃなくてもいいのに。
青い旗、すなわちサトウ-ハヤトという精神が俺を赤い旗から保護している。ようするにだ。
俺の精神がイカれちまうのを『奴』が止めている。
奴だけじゃない、奴の連れ全員が俺という存在を『俺』だと認定し、保証し、俺たらしめている。
え?奴とは誰だって?わからんか、サトウ-ハヤトの事だよ。
海は青い。
一人じゃそれは保証できない。俺一人じゃ海が青いと保障はされない。
俺一人信じていたって、その色が青いかどうかはわからない。
海って青いよなー?
そのように俺以外の人に問いかける。
そうね、海は青いわ。
答えが返ってくる。他人によって海が青い事を事実と確認する。
そんな感じだ。そんな感じで俺は、俺って事になっている。
堪んねぇ。
アイツから受けた妬みの視線に、俺は俺って事を手放しそうだ。返してやろうにも返せない。そもそも、俺に『俺』であるという称号を返すつもりがあったか?
そのつもりが無いから俺は証拠隠滅に走ったんじゃないのか?だって、返してしまったら俺は今度は嫉む立場になる。嫉まないという保証なんか無い。無理だ。
例えもう生かされるだけの死んでるような状態でも。
そんなんだから自分という称号を誰かに譲ってもいいという事はあるまい。死んで消滅して全ての世界から縁が切れるまで自分は自分だ。それなのに、いつの間にか自分とは違う自分がいたらそりゃ嫌だろ。それで、そいつは俺じゃない、別者だと言い切れるならいいのだがそうじゃないんだぞ。
分裂して二つになったんじゃねぇんだ。
俺っていうのはどこまでも一本の、一つの道を歩いている。道が一つしかないから互いに譲れず戦うんだろ。どっちか蹴落とすしかないんだ。そもそも、一つの道を歩くのは一人だ。
二人あるいはそれ以上になるという状況がまずおかしい。
「はぁ……成る程」
俺はため息を漏らし、強ばっていた肩を落とす。
だいぶ動悸が落ち着いてきた。ついでに、沸騰しかけていた頭の方もな。
「やっぱり俺はバグってるんだなぁ」
「バグ?」
「あ、いや。こっちの話だ、独り言」
経験値マイナス?あーもう、どうでもいい!……と思ったがそうでもないな。総合経験値がマイナスになると戦士ヤトのログは悪性条件転生に付き合わなければいけない。これ以上このくそったれなログを反芻するのは沢山だ。
などと、俺はどっちの都合で考えているんだろうな。
笑える。
そんでもって……すまん『俺』。
立ち上がる。頭がくらくらするけど……とりあえず気持ちは少し落ち着いた。
この冒険の書、引き受けちまったからにはやり遂げるしかないんだよな。もう嫌だと逃げる理由にはならない。むしろ……何がなんでもやり遂げなきゃいけない状況だよ。
俺は、負けねぇ。
右手にぶら下げたままだった剣の露を払い鞘に収める。
「行こう、クオレ」
「……大丈夫じゃないならもう少し、休んだらどうだ?……君の気持ちが穏やかじゃないのは察するし」
俺はそんなクオレの言葉を鼻で笑ってしまった。
「んな簡単に察するなんて言うな」
息を呑んだ音がするほどクオレの奴、引いたな。
「………ごめん」
息苦しそうに謝ってくる。俺は……クオレのそんな様子をお構いなしに決心の末、言葉を切り出す。
「なぁ……クオレ」
「何だい……?」
途端クオレが怯んだ。
自覚無いけど多分、俺は彼を睨み付けていたか何か、凶悪な顔を浮かべたのかもしれない。
「魔王八逆星を殺すとその称号が移るって話。マジか?」
「……あ……?」
あくまで優しくな。
「そんな怖がるなよ。別に今お前の命を取ろうって訳じゃないんだ」
俺は引きつりそうになる顔でなんとか笑いながら、逃げようとするクオレの腕を掴んだ。
「どっちみちお前ら全員殺すのが俺の役割だ。お前は……あれだろう。何とかすればその称号を誰かにくれてやれる、とか安易に思ってんだろ?」
「それは……その」
「譲る時には死ななきゃいけない。譲るんだったら兄貴に……か」
俺は目を細め、クオレの仮面を引き剥がす。
案の定、その下には怯えた顔が隠されていた。
「その称号、俺に譲れ」
「……何を言うんだ?」
「面倒だな。じゃぁはっきり言う。いずれお前を殺すのは俺だ。それを約束しろ」
息を呑んで、俺の言葉の真意を探そうとクオレの視線は泳いでいる。
「それでミストから恨まれても俺は、構わない。お前を救う方法は……それ以外に無いんだからな」
「そんな事、分かっている」
「でも希望を持っているんだろ?あるいは俺達ならどうにかするんじゃないのか。そういう思いもあるんだろ。ミストに殺してもらいたいだなんて、要するにそうやって自分の気持ちをミストにも分からせてやりたいからだろう?大丈夫だ。あいつはもうちゃんと分かっている。でもきっとあの兄貴はお人好しだから……お前が望んだらその通りの事をするだろう」
逃げようとする腕を強く引っ張る。仮面を奪い、隠す事の出来ない顔に迫って俺は言った。
「そうなったらミストを『救って』やるのは俺だ」
「……どうしてッ」
何故そうなるのだというとまどいの声に、俺は囁く。
「それが俺の、魔王討伐隊としての仕事だからだ」
「………」
「先の事なんて何も考えていなかったのなら今理解しろ。俺だってな……二人も殺すのは嫌だ」
どっちにしろ自分がカウントされているんだという事にクオレはちゃんと気が付いてくれたようだ。
「出来れば人数は少ない方がいいんだ……俺は。一人も二人も同じだなんて考えは認めねぇ」
「そうかなぁ、同じだと思うけど」
また出たな。
階段の上に、少年が腰掛けてこちらを伺っている。
「残念、もう終わっちゃったんだ?」
「……見たかったのか?悪趣味な奴だな」
「よく言われるよ。まぁでも、言ったよね。僕は君の方がいい」
インティは笑って首をかしげた。
「君になら僕も、殺されても良いな」
「いー事言うな、よし、じゃぁおとなしくそこに直れ」
俺は呆然としているクオレを押しのけ、今しがた収めた剣を抜きはなった。
「痛いのは嫌だなぁ」
「我が儘言うな」
階段をゆっくり登っていく。インティは暫く余裕の表情で俺を見ていたが……ふっと、真顔になって立ち上がる。
「あ、本気なんだね」
「当たり前だろう」
「当たり前かぁ……違うよね。そういう決心をしただけでしょ」
「俺は最初からそういう決心をしている」
インティはため息を漏らして目を閉じた。
「そっか、気持ちは変わってないんだね」
背後でクオレが息を呑んだ音が聞こえる。
がん、と重い音を立てて俺の剣は石で出来ている階段にのめり込んでいた。
「いや、でも無理なのさ」
俺の剣で真っ二つに割れた少年はにっこりと笑う。二つに裂けている口の端がそれぞれに上がり、微笑んでいる様子を示している。
「君には無理だ。クオレはともかく僕はね、素質はあるんだけど」
手応えは……あったぞ?切れ味の素晴らしいこの剣は今、少年を間違いなく二つに裂いた。しかし……血も流さずインティは俺に笑いかけた後霧のようにかき消えた。
くそ、また幻か?前に斬った時もそうだったがやけに生々しい幻だよなぁ。
気配に顔を上げる。
何事もなかったかのように階段の上にインティが立っていた。
「結局お兄ちゃんには無理だったんだ。協力してくれって頼んだのにお断りだの一点張でしょ?仕方がないから別の人にナドゥは白羽の矢を立てて、それでどうにか僕らの悲願は達成されそうなんだよ」
「何だと?どういう事だそれは」
「大丈夫」
にっこりと笑い、追いかけようとして階段を駆け上がった俺をあざ笑うかのようにインティの姿は背後に逃げていく。
「お兄ちゃんの一番の『懸念』だってきっと、その人が叶えてくれるよ」
「……っ!」
「僕も……そうしてもらうんだ。ばいばい」
「ちょっと待て!インティ!」
俺は、あいつの目的知ってるよな。
インティに限らない。
魔王八逆星の連中の悲願とやらが何なのか俺、知っている。
奴らは何で魔王だなんて自称していると思う?悪ふざけなんだ、要するに『魔王』という称号は奴らの望みそのもの。
魔王八逆星、連中の頭上に赤い旗がある。バグを示すものだ。俺達青い旗を持つ異世界からのプレイヤーにだけ見える、世界を壊す可能性のあるもの。
ところが、結局連中にはその赤い旗は見えていない。
自分が世界を壊す可能性を秘める異端だという認識があり、だからこそ魔王だなんて名乗る通りなのだが。……自分達が世界を壊すなら、同じ存在も世界を壊しうるという事に気がついてしまった。
旗や旗の色こそ見えないが、同じ存在だという勘は働いている。そんな感じだ。
魔王八逆星は世界を『破壊しうる存在』を『破壊したい存在』だ。ついでに、自分らも世界を壊す可能性がある事をちゃぁんと把握していやがる。
把握した上で自分達しか干渉出来ないに違いないと、自分達に良く似た存在であると認識した『大陸座』を攻撃している。
ついでに俺達もなんだか変な存在だと認識されちゃってて、さてお前らは何ものだと色々干渉されたり、人体実験につきあわされたりした。
悲願。
レッドが俺に望んだ事だ。
クオレが兄のミストに望む事だ。
魔王として討伐されるという事だ。ようするに、自身の破滅。
その願いを叶える?誰が?
俺達以外の誰が叶えるというんだ。
そのように考えた瞬間脳裏に出てくるのは一人である。
ぶっちゃけて奴だろう。俺じゃなきゃ奴しかいない。
あの、爆裂勇者の事か……!
ところがあれは今、勇者という王道から転落してるんだぞ?王道マンセーのレッドさんにあれは勇者としてどうよと聞いたら肩をすくめながら『フー、ダメですね、あれはダメダメです』とか笑いながら言うに決まっている。そんくらいは俺でも分かる。光属性っぽくない!完全に闇落ちしている気配がするじゃねぇか!
転落した理由は未だ分からないが、魔王八逆星の仕業じゃないとでも云うのか?
というかそもそも連中にはバグを示したり、管理者を意味したり、プレイヤー在中を示す『フラグ』が見えてない。
爆裂勇者、ランドール・アースドもまた世界を破壊しうる存在になっちゃってる事に、魔王八逆星は気が付いてない!
そういう事か!?
なんでお前がそこにいる。どうしてお前がそこにいて俺がここにいるんだ。
なんでだ?なんでだ、なんでだよ!
その感情の叫びが狂気に近く繰り返されている気がする。
そこは俺の居場所だ。ここがお前がいるべき場所だ。
俺にその場所を返せ。返せ、かえせ、カエセ。
かえせ?
その言葉をどこかで聞いた。いや、どこでだって聞くだろ。
金借りたら相手からさっさと返せと言われるだろうし……いや、戦士ヤトはあんまり人から金借りたりした覚えはないんだけど。
死んだと思ったけど生きていたんだな『俺』。
散々な姿だけどちゃんと、生きていたんだ……。いや、待てよ?死んだよなぁという意識が間違いなく俺にある。そこまでの記憶は俺にも残っている。
俺は一体どこで『俺』になったのだろう。
レッドの言葉を思い出している。
ナーイアストの石の、レプリカを作り出して見せながら、これを魔王八逆星の連中に渡したくなかったと奴は言った。石を隠すために酷い怪我を謎の蔦で再生し続ける俺にこっそり、石を隠したと言った。
本物を渡さなかった都合が後に魔王八逆星にバレて、奴はアーティフィカルゴーストという人工バグ幽霊を体の中に入れる羽目になったんだよな。
どこまでそれが真実かどうかわからん。奴はひどい嘘つきだからもしかしたらまだ、どこかに嘘を混ぜている可能性もある。
しかしとりあえず今奴が明言した言葉をまとめると……そういう事だ。
ナーイアストの石、ようするにデバイスツールは魔王八逆星の目をごまかして無事、俺の体の中に隠されて南国に送り付けられた。ナーイアストの石が俺の中にあるから、俺は『俺』だろうと言ったテリー。
ようするにレッドの奴は騙されていたという事なのか。
それとも、奴は俺の事情を悟った上で今までやっぱり、いつもの如く嘘をついて俺を騙そうとしたのか。再び嘘がばれるのが嫌で今回は同行したくないと言ったのか?
そんな事どうだっていいだろう。
俺は今、現実から目をそらしている。
見上げてくるあの視線が送ってくる感情の重さに怯み、誰かに責任を転嫁できないかと探しているに過ぎないんだ。
これは俺の所為じゃない、だから俺をそんな目で見るな!
俺の所為?お前の所為?どっちも俺だ、どこまでも俺だ。
なんでお前がそこにいて俺がここにいるのだ、その場所を俺に返せ、そして代わりにお前がそこの瓶の中に入ってみろ。
いつまでたっても誰も俺を助けに来ないわけだ、だってお前がそこにいるんだものな。
忘れられた、死んだ事になっているならそれでもいいのに。まだその方が救いがあるというのに、
なんだお前は。
どうして『俺』を差し置いてお前がそこにいるんだ。
知らなかった、みたいな顔をして……ふざけるな、畜生、畜生!
わかった……苦しかったんだよな。それはよくわかる。
それでも、そいつは絶対に俺にそれを願ったりはしなかった。俺だからな。俺だから……たぶん、そのお願いは自分に向けて出来ない都合も良く分かる。
たった一言それを言ってくれれば俺は剣を振り下ろせるのに。
言い訳だ。
笑い出す、黙って消えろ偽物野郎。いいから黙って俺にその場所を返せばいいんだよ。
さっさと消えろ!消えろ、消えるのはお前だ!俺じゃないお前の方だ!
得体のしれないトビラをくぐってこっちにやってきた、貴様の方だ!
ああ、そうだ。
「ちょっと!大丈夫?」
気が付いたら肩で息をしている。足下には血の海。
アベルに肩を揺すられて俺は正気に戻った。強く握っていた剣の柄から左手を放して自分の、ばくばくいっている心臓の上に置く。
「……生きてる……な」
「……何が?」
と思ったら、なんだか力が抜けた。倒れそうになった所アベルから支えられている。
「ちょっと、こんくらいの流血沙汰で倒れないでよ」
「すまん、そうじゃなくて……だな」
剣の切っ先にゆっくり視線を合わせる。
あぁ、本当に証拠隠滅しちまったなぁ。
グチャグチャだ。なまじ良く切れるもんで頭がい骨ごと脳髄までかち割って……いや、それでもかろうじて上半身人間だった形跡は残っているけどな。
これじゃ、これが『何』であったかなんてアベルには分かるはずがない。
しかし匂いで世界を認識できるアインはおそらく……。
「これ、何?」
まずい、答えられない。嘘でもいいからごまかせと頭で考えているのだが言葉が出てこない。
「新生魔王軍のサンプル?」
そんな俺の状況も恐らく……わかってくれている、アベルの言葉に答えたのはアインだった。
「ならこんなヒステリーみたいにグチャグチャにする必要ないでしょ?どうしたのよ」
「……俺と同じ顔をしていた」
「え?」
言い逃れはできそうにない。俺は回らない頭を回す。
「南国で……どうにもそっくりさんが出回っているって話は聞いてたしな。どうにもその出来損ないか、そんなんだろう」
……何が出来損ないだ。出来損ないなのは俺の方だっつの。
そんな内心をひた隠しに、俺が言えるのはそれが精いっぱい。
でも、これでいい。
全ての感情に関するサブルーチンを受け取って、俺は胸を押さえて収まらない動悸に息を呑む。
大丈夫だ。
まだ俺の頭はまともに動く。
「ちょっと気持ちが悪くてつい、」
「えー、ホントに居たんだそんなの。どんなんだったのよ」
本心から興味だけで言うよなぁお前。ゲテものを見たいんですか貴方は。
というか……そういえばこいつは怪物とかを見て気持ち悪いとか怖がるような奴ではないのだった。流血沙汰すら平然と傍観するような肝っ玉の据わった女だ。
現に、俺が肉塊にしてしまったモノを前にして平然としているもんな。
でも、これが『何』であったかを知ったら……。
知ったら、どう思うだろう?
俺は苦笑して胸に置いていた手を額に当てた。
反対側にあるガラス瓶に寄りかかり、息を整える。
だめだ、どこからともなく笑いがこみ上げてくる。可笑しい、でも我慢しろ俺。
我慢できなきゃトチ狂ってしまうだけだ。
蹲り腹の痙攣を必死に抑えながら俺はアベルに尋ねた。
「他に……何かありそうか?」
それにはアインが答えたな。
「うーん、他の水槽には何も入ってないわねぇ」
「行き止まりだね、他の部屋はなさそうだ。アービス達の方に合流したらどうだろう」
クオレの声も聞こえてくる。
「そうね、行きましょアベちゃん」
………。
俺は少し顔をあげてアインを伺う。
彼女は……分かっている。どこまでもすべてを分かっている。俺一人胸にしまっておける事ではなさそうだ。そもそも……レッドの野郎。
あいつは最初から知ってやがったな?知ってたというか……こういう展開の予測をしていやがったと見る。
ここに俺がいる。俺が複製されている。どちらかがニセモノで、どこかにホンモノがいる。
そして俺が……ファルス、すなわち偽者ではない事を信じたいと、そう言っていたわけか。
「ほら、ヤト、行くわよ」
アベルから腕を引っ張られる……が、待て。俺はまだ激しい動悸と腹の痙攣がまだ収まっていないのだ。
「……悪い、ちょっと……吐きそうだ」
「何?どうしたのよ。そんなにヘンなものだったの?」
ぶっちゃけてそれだけヘンなものでした。
「悪いけど先行っててくんねぇ?」
「はぁ?」
俺はなんとか体を起こして、怪訝な顔をするアベルに具合が悪そうに言った。心臓バクバク不整脈気味で、腹が痙攣してたらそりゃ気持ち悪いってもんだ。
「それとも何か、俺がえれえれ吐いてる所をお前は見ていたいのか?」
それでなんとか上手いこと追っ払った。
俺は安堵し、その場で座り込みそうになった所クオレに支えられる。
「大丈夫か?」
「あー……あんまり、大丈夫じゃねぇ」
吐きそうってのはガチになってきた。……気持ちが悪い。
「とりあえずこっちに来て」
クオレから支えて貰いながら俺は部屋の階段付近まで戻ってくる。
怪しい液体やら血やらの海から脱出し、紫色の蛍光灯の隣に俺は腰を下ろした。腹の痙攣は治まったが未だに動悸が収まらない。
クオレも付き合ってしゃがみ込みながら言った。
「君は知らなかったんだな」
「……何がだ」
「僕はてっきり知っていて、それであんなに無茶をしているのだと思ってたよ」
「だから、何が?」
「君の体が代替品だって事」
まぁ、そういう事になるんだよな。
俺は自嘲の笑い声を漏らしてしまった。
「どうにも死んだあるいは、死ぬ程致命傷受けたよなという記憶はあったけど……な」
まさか、こんな形で生きて……いや。生かされていたとは知らなかった。
悪用される訳だ。俺のそっくりさんの暗躍は今に始まったことじゃない。
すでに前からそういう事になっていた。まさしく今の俺がそれだ。悪用されている極みだ。
表に出ているのが俺一人だっただけじゃねぇか。
吐きそうな口元を拭いながら俺は、ただ一つ不可解な事実を考えている。
問題なのはこの『俺』に青い旗がついているという事だ。
プレイヤーを示すサトウ-ハヤトが、なんであそこの血の海に浮かんでいる肉塊じゃなくて『俺』の方にくっついているかって事。それが全ての事態をややこしくしている。
いや?そもそも……異世界からの乱入者が存在するという事自体がこの世界では、物事をややこしくしているんだよな。
それさえなければ俺は『俺』じゃなくてもいいのに。
青い旗、すなわちサトウ-ハヤトという精神が俺を赤い旗から保護している。ようするにだ。
俺の精神がイカれちまうのを『奴』が止めている。
奴だけじゃない、奴の連れ全員が俺という存在を『俺』だと認定し、保証し、俺たらしめている。
え?奴とは誰だって?わからんか、サトウ-ハヤトの事だよ。
海は青い。
一人じゃそれは保証できない。俺一人じゃ海が青いと保障はされない。
俺一人信じていたって、その色が青いかどうかはわからない。
海って青いよなー?
そのように俺以外の人に問いかける。
そうね、海は青いわ。
答えが返ってくる。他人によって海が青い事を事実と確認する。
そんな感じだ。そんな感じで俺は、俺って事になっている。
堪んねぇ。
アイツから受けた妬みの視線に、俺は俺って事を手放しそうだ。返してやろうにも返せない。そもそも、俺に『俺』であるという称号を返すつもりがあったか?
そのつもりが無いから俺は証拠隠滅に走ったんじゃないのか?だって、返してしまったら俺は今度は嫉む立場になる。嫉まないという保証なんか無い。無理だ。
例えもう生かされるだけの死んでるような状態でも。
そんなんだから自分という称号を誰かに譲ってもいいという事はあるまい。死んで消滅して全ての世界から縁が切れるまで自分は自分だ。それなのに、いつの間にか自分とは違う自分がいたらそりゃ嫌だろ。それで、そいつは俺じゃない、別者だと言い切れるならいいのだがそうじゃないんだぞ。
分裂して二つになったんじゃねぇんだ。
俺っていうのはどこまでも一本の、一つの道を歩いている。道が一つしかないから互いに譲れず戦うんだろ。どっちか蹴落とすしかないんだ。そもそも、一つの道を歩くのは一人だ。
二人あるいはそれ以上になるという状況がまずおかしい。
「はぁ……成る程」
俺はため息を漏らし、強ばっていた肩を落とす。
だいぶ動悸が落ち着いてきた。ついでに、沸騰しかけていた頭の方もな。
「やっぱり俺はバグってるんだなぁ」
「バグ?」
「あ、いや。こっちの話だ、独り言」
経験値マイナス?あーもう、どうでもいい!……と思ったがそうでもないな。総合経験値がマイナスになると戦士ヤトのログは悪性条件転生に付き合わなければいけない。これ以上このくそったれなログを反芻するのは沢山だ。
などと、俺はどっちの都合で考えているんだろうな。
笑える。
そんでもって……すまん『俺』。
立ち上がる。頭がくらくらするけど……とりあえず気持ちは少し落ち着いた。
この冒険の書、引き受けちまったからにはやり遂げるしかないんだよな。もう嫌だと逃げる理由にはならない。むしろ……何がなんでもやり遂げなきゃいけない状況だよ。
俺は、負けねぇ。
右手にぶら下げたままだった剣の露を払い鞘に収める。
「行こう、クオレ」
「……大丈夫じゃないならもう少し、休んだらどうだ?……君の気持ちが穏やかじゃないのは察するし」
俺はそんなクオレの言葉を鼻で笑ってしまった。
「んな簡単に察するなんて言うな」
息を呑んだ音がするほどクオレの奴、引いたな。
「………ごめん」
息苦しそうに謝ってくる。俺は……クオレのそんな様子をお構いなしに決心の末、言葉を切り出す。
「なぁ……クオレ」
「何だい……?」
途端クオレが怯んだ。
自覚無いけど多分、俺は彼を睨み付けていたか何か、凶悪な顔を浮かべたのかもしれない。
「魔王八逆星を殺すとその称号が移るって話。マジか?」
「……あ……?」
あくまで優しくな。
「そんな怖がるなよ。別に今お前の命を取ろうって訳じゃないんだ」
俺は引きつりそうになる顔でなんとか笑いながら、逃げようとするクオレの腕を掴んだ。
「どっちみちお前ら全員殺すのが俺の役割だ。お前は……あれだろう。何とかすればその称号を誰かにくれてやれる、とか安易に思ってんだろ?」
「それは……その」
「譲る時には死ななきゃいけない。譲るんだったら兄貴に……か」
俺は目を細め、クオレの仮面を引き剥がす。
案の定、その下には怯えた顔が隠されていた。
「その称号、俺に譲れ」
「……何を言うんだ?」
「面倒だな。じゃぁはっきり言う。いずれお前を殺すのは俺だ。それを約束しろ」
息を呑んで、俺の言葉の真意を探そうとクオレの視線は泳いでいる。
「それでミストから恨まれても俺は、構わない。お前を救う方法は……それ以外に無いんだからな」
「そんな事、分かっている」
「でも希望を持っているんだろ?あるいは俺達ならどうにかするんじゃないのか。そういう思いもあるんだろ。ミストに殺してもらいたいだなんて、要するにそうやって自分の気持ちをミストにも分からせてやりたいからだろう?大丈夫だ。あいつはもうちゃんと分かっている。でもきっとあの兄貴はお人好しだから……お前が望んだらその通りの事をするだろう」
逃げようとする腕を強く引っ張る。仮面を奪い、隠す事の出来ない顔に迫って俺は言った。
「そうなったらミストを『救って』やるのは俺だ」
「……どうしてッ」
何故そうなるのだというとまどいの声に、俺は囁く。
「それが俺の、魔王討伐隊としての仕事だからだ」
「………」
「先の事なんて何も考えていなかったのなら今理解しろ。俺だってな……二人も殺すのは嫌だ」
どっちにしろ自分がカウントされているんだという事にクオレはちゃんと気が付いてくれたようだ。
「出来れば人数は少ない方がいいんだ……俺は。一人も二人も同じだなんて考えは認めねぇ」
「そうかなぁ、同じだと思うけど」
また出たな。
階段の上に、少年が腰掛けてこちらを伺っている。
「残念、もう終わっちゃったんだ?」
「……見たかったのか?悪趣味な奴だな」
「よく言われるよ。まぁでも、言ったよね。僕は君の方がいい」
インティは笑って首をかしげた。
「君になら僕も、殺されても良いな」
「いー事言うな、よし、じゃぁおとなしくそこに直れ」
俺は呆然としているクオレを押しのけ、今しがた収めた剣を抜きはなった。
「痛いのは嫌だなぁ」
「我が儘言うな」
階段をゆっくり登っていく。インティは暫く余裕の表情で俺を見ていたが……ふっと、真顔になって立ち上がる。
「あ、本気なんだね」
「当たり前だろう」
「当たり前かぁ……違うよね。そういう決心をしただけでしょ」
「俺は最初からそういう決心をしている」
インティはため息を漏らして目を閉じた。
「そっか、気持ちは変わってないんだね」
背後でクオレが息を呑んだ音が聞こえる。
がん、と重い音を立てて俺の剣は石で出来ている階段にのめり込んでいた。
「いや、でも無理なのさ」
俺の剣で真っ二つに割れた少年はにっこりと笑う。二つに裂けている口の端がそれぞれに上がり、微笑んでいる様子を示している。
「君には無理だ。クオレはともかく僕はね、素質はあるんだけど」
手応えは……あったぞ?切れ味の素晴らしいこの剣は今、少年を間違いなく二つに裂いた。しかし……血も流さずインティは俺に笑いかけた後霧のようにかき消えた。
くそ、また幻か?前に斬った時もそうだったがやけに生々しい幻だよなぁ。
気配に顔を上げる。
何事もなかったかのように階段の上にインティが立っていた。
「結局お兄ちゃんには無理だったんだ。協力してくれって頼んだのにお断りだの一点張でしょ?仕方がないから別の人にナドゥは白羽の矢を立てて、それでどうにか僕らの悲願は達成されそうなんだよ」
「何だと?どういう事だそれは」
「大丈夫」
にっこりと笑い、追いかけようとして階段を駆け上がった俺をあざ笑うかのようにインティの姿は背後に逃げていく。
「お兄ちゃんの一番の『懸念』だってきっと、その人が叶えてくれるよ」
「……っ!」
「僕も……そうしてもらうんだ。ばいばい」
「ちょっと待て!インティ!」
俺は、あいつの目的知ってるよな。
インティに限らない。
魔王八逆星の連中の悲願とやらが何なのか俺、知っている。
奴らは何で魔王だなんて自称していると思う?悪ふざけなんだ、要するに『魔王』という称号は奴らの望みそのもの。
魔王八逆星、連中の頭上に赤い旗がある。バグを示すものだ。俺達青い旗を持つ異世界からのプレイヤーにだけ見える、世界を壊す可能性のあるもの。
ところが、結局連中にはその赤い旗は見えていない。
自分が世界を壊す可能性を秘める異端だという認識があり、だからこそ魔王だなんて名乗る通りなのだが。……自分達が世界を壊すなら、同じ存在も世界を壊しうるという事に気がついてしまった。
旗や旗の色こそ見えないが、同じ存在だという勘は働いている。そんな感じだ。
魔王八逆星は世界を『破壊しうる存在』を『破壊したい存在』だ。ついでに、自分らも世界を壊す可能性がある事をちゃぁんと把握していやがる。
把握した上で自分達しか干渉出来ないに違いないと、自分達に良く似た存在であると認識した『大陸座』を攻撃している。
ついでに俺達もなんだか変な存在だと認識されちゃってて、さてお前らは何ものだと色々干渉されたり、人体実験につきあわされたりした。
悲願。
レッドが俺に望んだ事だ。
クオレが兄のミストに望む事だ。
魔王として討伐されるという事だ。ようするに、自身の破滅。
その願いを叶える?誰が?
俺達以外の誰が叶えるというんだ。
そのように考えた瞬間脳裏に出てくるのは一人である。
ぶっちゃけて奴だろう。俺じゃなきゃ奴しかいない。
あの、爆裂勇者の事か……!
ところがあれは今、勇者という王道から転落してるんだぞ?王道マンセーのレッドさんにあれは勇者としてどうよと聞いたら肩をすくめながら『フー、ダメですね、あれはダメダメです』とか笑いながら言うに決まっている。そんくらいは俺でも分かる。光属性っぽくない!完全に闇落ちしている気配がするじゃねぇか!
転落した理由は未だ分からないが、魔王八逆星の仕業じゃないとでも云うのか?
というかそもそも連中にはバグを示したり、管理者を意味したり、プレイヤー在中を示す『フラグ』が見えてない。
爆裂勇者、ランドール・アースドもまた世界を破壊しうる存在になっちゃってる事に、魔王八逆星は気が付いてない!
そういう事か!?
0
あなたにおすすめの小説
喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛
タマ マコト
ファンタジー
喪女として誰にも選ばれない人生を終えた佐倉真凛は、異世界の伯爵家三女リーナとして転生する。
しかしそこでも彼女は、美しい姉妹に埋もれた「地味枠」の令嬢だった。
前世の経験から派手さを捨て、魔法地雷や罠といったトラップ魔法を選んだリーナは、目立たず確実に力を磨いていく。
魔法学園で騎士カイにその才能を見抜かれたことで、彼女の止まっていた人生は静かに動き出す。
あざとしの副軍師オデット 〜脳筋2メートル義姉に溺愛され、婚外子から逆転成り上がる〜
水戸直樹
ファンタジー
母が伯爵の後妻になったその日から、
私は“伯爵家の次女”になった。
貴族の愛人の娘として育った私、オデットはずっと準備してきた。
義姉を陥れ、この家でのし上がるために。
――その計画は、初日で狂った。
義姉ジャイアナが、想定の百倍、規格外だったからだ。
◆ 身長二メートル超
◆ 全身が岩のような筋肉
◆ 天真爛漫で甘えん坊
◆ しかも前世で“筋肉を極めた転生者”
圧倒的に強いのに、驚くほど無防備。
気づけば私は、この“脳筋大型犬”を
陥れるどころか、守りたくなっていた。
しかも当の本人は――
「オデットは私が守るのだ!」
と、全力で溺愛してくる始末。
あざとい悪知恵 × 脳筋パワー。
正反対の義姉妹が、互いを守るために手を組む。
婚外子から始まる成り上がりファンタジー。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
婚約破棄したら食べられました(物理)
かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。
婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。
そんな日々が日常と化していたある日
リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる
グロは無し
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる