異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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10章  破滅か支配か  『選択肢。俺か、俺以外』

書の8後半 ログアウトⅢ『幸せを望む果ての不幸』

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■書の8後半■ ログアウトⅢ Hope you'll be happiness the end of miserable

「……狂人……ルル、か」

 ルル・クルエセルは、エトオノが潰れた後エトオノの経営を手中に収めた人物でもある。
 ようするに、その頃クルエセルの経営責任者トップについていたはずだ。

 ……潰れたエトオノの尻を持ってくれた人だぞ?その所業の、どこが狂っているのだろう?ライバル会社の尻ぬぐいをしてくれるなんて噂と違って良い奴じゃん、とか当時、俺は素直にそう思ったんだけどな……。

 それとも……まさか、エトオノが潰れる運びになったのはそもそも、奴の思惑が絡んでいたとでも言うのか?

 エトオノを潰してしまったのは俺だ、というか、俺達だ。
 一人生贄になって首を括る羽目になったけど、その責任は『俺達』にあるのだという事を忘れない、忘れやしない。テリーだってそれ分かっていて何も語らず黙って、クルエセルを出たんじゃないのか。

 俺は……ずっとそうだと思っていた。

 違うのか?俺達の所為じゃなく、俺達はそうやって誰かに踊らされただけだというのか?
 筋肉馬鹿の集まりだからそりゃ確かに頭は良くない。案外簡単に騙されていたという可能性もない訳じゃないけど……。

 だいたい、ルルがうわさ通り『狂人』だってんなら、緻密な策略敷けないんじゃね?それともそういうアホな事に頭を使う奴だから『狂っている』とテリーは吐いたのか?だとするなら……
 ……まさか。
 もし本当にルルの采配でクルエセルに限らずエトオノも潰したというのなら……それは、彼一人で成し得た事じゃない。多くの協力者がいたはずだろう?

 テガミのマスター、メエルさんから聞いた話によると……クルエセルのトップが、つまりルルが突然に二つの闘技場の経営停止を決めたそうだ。
 俺はその頃すでにイシュタル国を出ていたから、正しい事は分からない事ながら、当時のクルエセルの経営陣トップといえばルル・クルエセルになるはずだ、時期的にそうなっていた筈。まず、奴が承諾しなければクルエセルが潰れる、なんて事態は起きなかったはず。でなければ……かつてのエトオノのように……経営陣トップを強引に、引きずり下ろすような真似でもしなければ、闘技場という一つの社会が潰れる、だなんて。そんな事は、起きないはずだ。
 残念ながら闘技場の運営システムってのは、リアルにおける株式会社のソレとは違う。どっちかって言うとヤクザな組織に似ているかな。血と、縦の繋がりが大事だ。頭が潰れると全部なし崩しになる可能性がある為、ファミリー上層部は大事にされている。

 エトオノが潰れたのは奴の仕業?

 伝統を腐らせた事により客離れが進んだ……単なる経営不振じゃねぇのかよ。
 俺達がその腐った部分を切り取ろうと動き出す前に……すでに、誰かの意図があったってのか?

 そう考えれば確かに、おかしな事は幾つか起こっていたような事を今更リコレクトしてしまうな。

 うむ……考えるに色々と、心当たりがあったりして俺は俯いてしまった。たまたまそれが俺達の活動に有利だったからなぜそうなったか、なんて事考えた事無かったかもしれん。
 所詮戦いバカの集まり。そこまで頭回ってないというのが正しいのか。

 という事はエトオノが潰れたのはルルの所為で。
 俺達がそうなってしまうだろう流れを作ったのも、奴の思惑の通りで。

 俺が生きるにがんばってしまったのも……すべて。
 ルルの……?いや、


 エトオノとクルエセルが潰れたのはキリさん曰く、キリさんの所為だ……って?


 んなまさか。

 俺は顔を上げる。
「なんでだ?なんで……そんな事を願ったんだ」
「あたしがその二つの狭間にいたからよ。ようするに……崩れるはずがない二つの要としてエトオノとクルエセルを設定し、その間にマツミヤ君は私を閉じ込めていたわけ」
 キリさんは苦笑を浮かべて頭の後ろを掻きながら言った。
「ごめんね」
 なんで謝る。謝る相手が違う。
「……それ、俺に言ってもしょうがないだろ」
 俺は複雑な心境を隠しながらそのように答えた。
「ううん、そんな事ないよ」
「俺は関係ない、」
 強く断言する俺にキリさんは強情なんだからと笑って俺のおでこを突いてくる。この人は、全ての真実を穿ち、無意識とも云うべきレベルで理解していやがる。
「みんなあたしの都合に巻き込んだのよ」
「そんなの……だって、誰も知らないんだろう?」
 私の姿が誰にも見えなかったのだから、ようするにそう云う事になるわね、とキリさんは笑う。

 それなのに私の言葉をなぜだか聞き止めて、私の願いを叶えようとしたのはルルだけで、彼は『狂っている』と評価された。
 彼と私だけが知っていた事。

 そのように苦笑するキリさんに、俺は同じような苦笑を返す。
 それが事実かどうかは分からんし……それをあえて事実にする必要はあるのだろうか。
 大陸座なんて本来、見えない存在の……介入が招いた不幸。
 ここにもそれがあったって事だ。マツナギの故郷、シェイディ国の暗黒神殿で起きていた不幸が、イシュタルトでも起っていたんだ。
 時に次元を遥かに超えた規模で、世界を変えてしまう大陸座の『思い』。

「いや……いいんだよ。やっぱり謝られる筋はない。しょうがないだろ、それに……そうならなきゃ奴は……自由になれてないから」

 幸せを俺は願った。

 その先に例えとんでもない不幸が待っていたとしても……先の事なんか分からない。ただその時最善の幸福があればいいと、願う事しか人には出来ないじゃないか。
 なぁ、そうだろう?そういうもんじゃねぇか。
 どんなに未来確実と予言したり予測ができても、その通りになる確率は100%じゃないし、そうならないという確率も0%にはならない。
 どっちが有利か。どっちを選べば幸せに出来るか。
 俺は無い頭絞って考えた末に、今あるこの未来を選んだんだろう?

「自由……か。貴方もね」
 キリさんのその言葉に、俺は自分を鼻で笑う。
「俺は自分で自由を買える。でも奴は自分で何も手に入れられないんだって……そっか……なら、俺はルルに感謝するな。キリさんにもそうだ。……ありがとう」
 どうして俺が感謝するのか、アホなお姉さんではあるが真実の精霊イシュタルトの大陸座。事実は見抜いてくれているものと思う。
 キリさんはにっこり笑って一歩背後に下がった。
「恨んでも良いのにね、そしたらあたしは貴方や貴方が大事にしている人から恨まれて、それをダシにと戦う口実が得られるのに」
「うぉい」
「まぁいいわ、じゃぁ、そろそろ行くから。『それ』は貴方に完全に渡したわ、渡したから!そう信じて、……じゃぁね!」

 明るく元気にそう言い残してぱっと姿が消えた。

 俺は……何かがあるようには見えないし感じない、デバイスツールを受け取った手を未だ差し出したままで……ちょっと呆然とそれを見送って暫く黙ってしまった。

「ね、それってアベちゃんの事でしょ」
 それというのは、ようするに。

 俺がここで、イシュタル国で、エズで……エトオノで……がむしゃらに幸せを願った相手。

「……だったら何だ」
「あ、否定しなかった」
 俺は苦笑してそこに『在る』デバイスツールを握り込む。

 俺が幸せを祈った相手、それがアベル・エトオノである事は散々明言してこなかったけど否定はしない。

 ああ?そういや言ってませんでしたね。奴もあえてフルネームを名乗るような愚行はしてこなかったはずだ。
 奴のフルネームはアベル・エトオノ。そうだ、俺達が崩壊させた……過去、大きな規模を誇っていた闘技場の名前を持っている、ようするに奴は経営陣ファミリーだったのだ。
 言ったろ?エズにおける闘技場経営は会社というよりやくざな世界に近いって。手腕じゃない、大切なのは血だ。

 あの怪力馬鹿娘はエトオノの人間だ。
 であるからして、奴隷剣闘士の俺には到底手の届く存在ではない。

「アイン、ここであった事は他言無用で頼むよ。キリさんが言っていた事とか……全部。黙っててくれないか?」
「なんで?」
「……ここでの話をアベルが嫌がる……こっそりお前にだけはちゃんと話すから。だから、黙っててくれよ。頼む」
 アインさん、ため息を漏らして頭を下げる俺に合わせ首を振る。
「ふぅん、まぁそこまで言われたんならあたしもねぇ、嫌だとか言わないけど……どうして貴方達、アベちゃんもそうだけどさ。素直じゃないのよ」
 ここにいるのがアインだけでよかった。正直、心から俺、そんな風に思っている。
 アインか、あるいはテリー以外にはこんなに素直にその事は言えなかった気がする。
 テリーは俺らの事情を知っているもんな。
 まどろっこしい説明はいらない。今どう思っているかを素直に言えればそれまでなのだ。
 でアインの方は俺の、俺達の『リアルの方の』事情を知っている。知っているはずだ、阿部瑠の姉、ペンネーム・カイン事、アベーカナコの趣味同人における相方なんだろう?だったら、俺と阿部瑠のリアルの『あの事情』も知っているのだろう。
 だからこっちのエズでの出来事など多く知らなくても、俺とアベルがどういう関係性でこの世界に在るか位、察しが付いているはずだ。

 素直に、かぁ。
 ダメだな、どうしても苦笑いになる。

「素直だったら気持ち悪いだろ?お互いに」
「そうかしら」
「俺は奴が素直だったら正直引く」

 アベル・エトオノ。
 潰れた闘技場の一人娘。その事情を彼女は多分絶対に口に出さないだろうし、出したくないだろう。テリーが過去を説明するのを頑なに嫌がるように、アベルも自分の過去を話すつもりが無いと言っていたはずだ。

 アインにはその事情を、大凡話す事にした。
 俺が話した事も含めてアベルには黙って貰う事にしてな。
 このチビドラゴン、聡いので約束はちゃんと守ってくれるだろう。


 俺、――奴が嫌がる事は本当に、したくないんだ。


「どうして?」
「……すでに嫌がるだろう事をやったから。これ以上は……な」
「……ふぅん?」
 そのあたりもっと詳しく説明しなさいよ、と聞かれている訳だが……ようするに……アレだ。
 ムカつく事に俺とアベルの事情は、『俺』と阿部瑠の事情に通じている。
 ぶっちゃけて……リアルと同じなのだな。
 リアル事情を混ぜる訳にはいかないよなぁと、俺は必死にリアルの事情から逃げている。同じである必要はないだろう?似ていたとしても同じにする必要はないはずだ。
 でも結局同じになったので俺は頭が痛い。

 だから、……同じ事を話すのに覚悟を必要とした訳だな。ほら、トアイアン地方でのアベルとのやり取りを思い出してくれ。

 俺はお前を幸せには出来ない。

 これ、理由はリアルとは別だけど、シチュエーションって奴は実は全く同じであったりする。
 なんでこっちでも『同じ背景』になってなきゃいけないのかしら、とかいつぞやアベルが言ったと思うが憶えているか?
 その通りなのだ。
 アインは知っている。
 リアルにおいてサトウ-ハヤトが、アベ-ルイコに何をしたのか知っているはずだ。
 何をしたか?

 サトウハ-ヤトはアベ-ルイコを盛大に、振ったんだよ……というより『全速力で逃げた』って言った方が合っているかもしれん。

 自分に自信が無いばっかりに、女を傷つけるという最低な事をやったのだ俺は。いやいや、俺じゃねぇ。サトウ-ハヤトの方が。
 で、普通はそこで最悪なお別れとなり、お互いに後味悪い具合に疎遠になるべきなのだが。
 成らなかったという事が『俺』をもの凄くイライラさせている。
 ぶっちゃけてよく分からん。
 女というのはなぜ、何でもないようにその後も俺の周りをうろつけるのだろう?
 『俺』は勘弁だ。いい加減にしてくれと思っている。それで必死に逃げているのだが逃げられない。
 何故だかどうして『俺』は全く逃げられずにいる。


 何でだろう?と親友であるカトウ-ナツメ事ナッツさんに相談すると、お前が悪いだろ?と言われて終わる。
 努力もしないで逃げるから、彼女は追いかけてくるんだろうと言われる。
 彼女は動くものを見ると無条件に狩りモードに移行するネコ科か?
 冗談じゃねぇ、その追っかけてくるのが嫌なのだと言っているのだが、それでもナッツからはお前が悪いと言われてそれ以外、何も受け付けてくれないのでああ、そうとも。

「だって、お前は彼女が嫌いな訳じゃないだろう?」

 ……そうかな?
 俺はあんなしつこい女好きじゃねぇ。
 ナッツから顔逸らすなとどつかれながらも俺は、しっかり目を逸らしてその様に考えていた。
「好きなら好きでいいじゃないか」
 だから、……自信が無いんだって。
 なんで俺なんだ?奴はなんで俺が好きなんだ?
 なんでこんなヘタレを奴は追っかけてくるんだ?
 意味不明だ。訳が分からん。
 理屈じゃない?
 知るかそんなの。

 俺が悪いですさーと、開き直って今も全力で逃げている。

 そんな俺の、リアルでのヘタレ具合をアインは知っているはずなのだ。

 だから、ようするにこの異世界での俺とアベルの事情も『リアルと同じだ』と答え、それで……この闘技場で過去起った出来事の根底については、説明は免除して貰った。
 アインは阿部瑠の姉の同人という趣味の上での相棒で、阿部瑠ともゲーム友達をやっている人だ。当然アベルから色々と相談は受けているはずである。カイン&アインは俺をネタに散々弄りやがったからな。それは……その、ようするに。
 妹を苛めた報復にと、カインがしでかした……俺への嫌がらせだろうと今は、思っている。
 なんでアベルの気持ちを裏切ったんだ?それってつまりそー言う事か?と、とても悪質な悪ふざけ兼、嫌がらせをして来たのだろうと俺は、思っている。
 それを怒らないのかって?もちろん、当時は腸が煮えくり返るくらい激怒した。全面的に縁を切ろうとして、俺が出来るのは全速力で退避だったわけで……結局の所逃げ切れずにいる。
 ところが全面的に奴らが悪い訳じゃないだろ、少なくとも俺にも悪い所はある。悪い事をした、という自覚が俺にはあった。
 だから後ろめたい気分もあったりして、一方的に怒り散らせない、というとっても面倒な事情になっている。
 そんなどうしようもない俺を、どうしてアイツは見限らない?どうして、諦めて追いかける事を止めてくれない?

 俺には理解不能だ。分からないものは怖い。

 そうだ、怖い。

 怖い、世界が怖い。
 この世界は怖い……だから足がすくむ。逃げ出したくなる。だから逃げる。それのドコが悪い?
 怖いものから逃げる俺の、何が悪い。
 お前が悪い?

 どうして俺が悪いんだ。



 抱え込んだ顔を上げるとそこに、厳つい顔をした彼女がいて俺は顔が引きつった。



「アベル」


 ばーか、そう言われて思いっきり頬を叩こうとするその手にびくついて、俺は目を閉じたが衝撃は来ない。
 彼女の手はすり抜け、彼女の変わりに俺の前にトビラがある。


 逃げよう。


 俺は再びトビラを開けてその先に逃げていく。





 …………。
 なんか今回、もの凄く嫌な夢を見ていた気がするなぁ。
 思い出したくない……。
 ……何だろう、何やったんだっけ?

 といった感じで『知りたい』という理由を元に結局、俺はR・リコレクトをするのだろう。


 3度目のログアウトに、俺は起き上がって……今回は俺が最初にログアウトじゃないのかな?丁度皆さん今起きた、という様な様子を見渡していた。
 はっきり言おうか……実に、爽やかな朝です。
 おかげさまで………憶えていない。全く覚えておりません。
 何を?

 今見ていただろう夢の内容、を、だ!

 俺、今日夢見たっけか?見てないんじゃね?トビラにログインしてねぇんじゃね?ってくらいに良く寝たという意識が勝る。実に、快適な寝起きだ。こんなにすっぱり目が覚めて起き上がれるなんて、久しく無かった事じゃないかなと思う。故に、感激しているのだ。
 いやぁ、どこでログアウトしたのか全く憶えていない。すっぱり夢とのバイパスが切れた。思うに切りたいと俺が望んだからかもしれない。
 よくわからない。

 エントランスに強制退避した所までは覚えている……気がする。どうなんだ?必死に思い出すに、そこでなんだかものすごく情けない事があったような気が、する。
 ……ちゃんと覚えてないし、エントランスの出来事はログに残らんのだよな。俺が忘れてしまったら二度と思いだされる事はない。
 あそこでの出来事は本当に、夢だ。
 だから、過去の記憶が断片的に呼び出されては反復する。

 どこでログアウトしたのかなど、勿論覚えてはいないのだけど……状態的に例の、赤旗バグで俺が暴れだす危険が払拭されてなかったような気がする。確か……レッドらと別行動になってなかったか?その最中だった気がするんだが……大丈夫だろうか戦士ヤト。

 そのように必死に今見ていたはずの夢を思い出そうと、額に手を当てて考えてみる。
 追いかければ追いかけるだけ遠ざかっていく。
 ダメだ、思い出せそうにない。
 ……でも頭の奥に、もやもやしたものがあるような気がする。もっかい寝たら思い出すかな?
 二度寝……出来る雰囲気じゃねぇよなと顔をあげたら、阿部瑠がすぐ目の前に立っていて俺は内心ちょっとビビっていた。
 なんでびっくりしたのか、いまいちよくわからん。
 ……いや、俺はいつもこいつの一挙一動にビクついているよな。
「あー……おはよう」
「おはようヤト、」
 何時までも寝ぼけてるんじゃないわよ、と俺の頭を軽く叩き、シャワーお先にといつもの調子で阿部瑠は駆けていった。
 ……別段、なにも変わった所はない。
 いつも通りの奴だ。

 そして、いつも通りの俺達の会話だ。

 違和感なんかないぞ、これが『いつも通り』なんだから。

 ……なんでそれをいちいち今、考えなおさなきゃいけないんだ?

「……あー?」
 俺は無意味に唸った。
 ダメだ、今回は夢を見たという気配すら忘れている。見た夢の内容を全く憶えていない。何度反芻してもダメだ、無理だ。こりゃ、あとでR・リコレクトするしかねぇ。
「どうしたんだよ、何唸ってんだ?」
 お節介焼きのテリーから聞かれ、俺は頭をかきむしる。
「いや、今回全然夢の内容憶えてねぇ……な……と」
「そう云う事もあるんじゃねぇの?」
「お前は?」
 どうなのだと顔を上げるとテリーは苦笑している。
「少しは憶えているが、あんま良い展開じゃねぇみてーだな」
「……そうなんだ、……誰が?」
「俺が、に決まっているだろ?」
 と、テリーが自分の胸を親指で差す。なんで決まっているんだよ。
 全く憶えていない俺は今、トビラの中でどういう展開になっていたのかも把握出来ていない。出来ていないと気になって仕方が無い。だから、多分家に帰ったらR・リコレクトするだろう自分の行動は予測出来る。
 この気持が変わらなければ俺は、睡眠を取るために生活するだろうな。大好きな、ゲームをする為に寝る時間を確保する事を第一として日々の生活を組み立てるだろう。
 この、新型ゲームするには寝なきゃいけない。かといって、無理に寝ようったって今ぐっすりやっちまったんだ。そう簡単じゃない。寝れば必ずログイン、すなわちゲーム出来るワケじゃ無いのに。
 普段寝る間も惜しむようにゲームばっかりしている俺には、考えられないような事だ。
「俺、まだゲームオーバーになってないよなぁ?」
 俺は起きあがり足を下に降ろして額を抑えた。
「ええ、とりあえずは大丈夫でしたよ。あの展開から……一応暴走してますが最小限に抑えたようです」
 レッドが思い出すようにして俺に言ってくれる。
 あれだよな、魔導都市ランで赤旗暴走するかもしれないって俺、物々しい警戒の中でログアウトしてその続きを今晩やったんだ。それはすでにR・リコレクトしているのだから分かっているんだけど。
 その後、今見た夢を全く憶えてないってどういう事だよ。
 ……いやぁ、見た夢の事をいつまでも考えてたってしょうがないよな。R・リコレクトすりゃ反復できるんだし。
「……ま、いっか」
 俺はそのように小さく呟き立ち上がった。
 ん?……全員は起きてないのか。アインはまだ寝ている……な。彼女、そういえば何時も一番最後だった。『寝起き最強』だからヘタに起こすなという事情がすっかり定着している。
「あたしは時間掛かるから、あとでいいよ」
 マツナギは寝癖を気にするように頭を撫でながら言うので、俺とテリーとナッツは顔を見合わせる。シャワー室は3つだ。
 先に阿部瑠が行ってしまったので……。
 あとレッドが暗黙の了解的にマツナギと同意見って事、分かってんのかなぁやっぱり……全員。
 少なくとも俺は分かっている訳だけど。奴が一応、その『時間掛かる』都合、な。

 シャワー先行決めるのに、打ち合わせなくジャンケンが成立する俺らです。

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