異世界創造NOSYUYO トビラ

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10~11章後推奨 番外編 ジムは逃げてくれた

◆BACK-BONE STORY『ジムは逃げてくれた -2-』

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◆BACK-BONE STORY『ジムは逃げてくれた -2-』
 ※これは、10~11章頃に閲覧推奨の、アベル視点の番外編です※

 いや、でもやっぱりウザいかも。
 日々揺れ動く感情。
 今日は、そんなパパに同情する余地、あたしにはない。

 いやまず何より、その前に睨んでやらなければいけないのはコイツか。

 あたしは斜め後ろで何食わぬ顔をして控えているカーラスを横目で睨む。
 すると惚けたような軽薄な笑みを顔に貼り付け、こっそりと肩をすくめてカーラスはごまかそうとする。

 バカな男、アンタ以外に誰があたしの事情を知っているっていうのよ。

 こんな事をして点数が稼げるとでも思っているのかしら。ホント、バカな奴。
 そして……そんなバカを少しでも信用したあたしもバカだった。


「……本当なのか」
「ええ、本当よ?」
 今更言い訳がましく言うのはあたしのスタイルじゃない、大体……あたしは悪い事をしているという意識は無いのだし。
 パパが口を開く前にあたしは先手を打つ。パパが言い出す事くらい大体想像がつくもの。
「ラダは悪くないのよ?」
「むぅ」
 まさしく今、飼育係であるラダを悪く言うつもりだったに違いない、パパは開いた口を閉じた。
「ラダは何度も何度もあたしを拒否したの。このあたしのお願いをことごとく、断ろうとしたの。だからあたしはそれに反発して……彼の仕事を強引に手伝った。そういう事」

 これは事実だ。
 パパもそれは素直に認めてくれると思う。

 誠実なラダの仕事をパパはかなり買っているし、あたしがラダの仕事場に強引に出入りしているのは知っている。珍しい魔物を見るのを楽しみにしているあたしに対し、パパは別段、気分を害した様子は無かった。

 問題なのは、秘密にしているはずの奴隷の子供達の世話を――あたしが、手伝っていたという事だ。

 人身売買なんてこのエズにおいて、そんなに珍しいものではないし大罪という程ではない。
 まぁちょっと法律には触れるみたいなんだけど。世界的な取り決めの上では、あまりよい事では無いんだけど、国技を行う為に奴隷に近い扱いで剣闘士の卵を集めてくる必要性があるエズでは、文化的な都合として大目に見られている所はあるらしい。それで、公認と勘違いした人買いがひっきりなしに奴隷の子供を売りにイシュタル国にやってくる。
 遠東方エズの人身売買市場は、は一部西方や魔導都市程露骨に隠されて、違法に肥大化している訳はないので逆に健全なのかもしれない、とメルア先生がこっそり教えてくれた。
 それに奴隷という身分はここでは、一生続く訳でもない。
 西方では奴隷だったら死ぬまで奴隷という身分が続くのだと聞いたわ。
 どんなに努力しても身分を変える事は出来ないのだそうだ。
 それに比べればエズはまだ良い方と言えるはずよ。

 ううん、……そんな事はないか。

 あたしはパパを見上げながら、あの小屋の、子供達の行く末に僅かに眉をひそめる。
 闘技場に集められる子供達がどんな事に使われるのか、今はもう全て知っている。奴隷に対し何が良くて何が悪く、何が不幸で何が幸せかなど比較する資格はあたしには無いのだけれどね。

「別に、あたしに対してそんなに必死に隠す事じゃないでしょ?」
 苦い顔をしているパパにあたしは、救いの手を差し出すように妥協案を提示する。
「娼婦業やってる訳じゃないし、一応はちゃんとした手順で買った子供達なんだから別に、誰が世話しようと構わないでしょ?」
 正直な感情など語ったって無駄だ。
 この世界ではこの世界に向けた、あたしが言うにふさわしい言葉がある。
「正直珍しいじゃない?別大陸の人間なんて……あたしにとっては珍獣みたいなモノな訳よ。言葉を教えればちゃんと喋るし、話し相手にはそこらのろくでもない男どもよりよっぽど楽しいのよ」
 と、斜め後ろに控えるカーラスに目配せ。
 例えばこんなろくでもない男よ、と向けた視線にカーラスは流石に気分を害したようだ。
 無表情になってあたしを伺っている。
「……お前は、彼らがどうなるか知っていてそんな事を言うのか」

 ウチで飼われてる子供達は大体、男の子。
 年齢不詳が多いけれど大体5歳から15歳位までの子供達で、それをラダは世話していた。
 この子供たちは大きく二つの種類に分けられている。
 一つが不具のある子供達。
 種類は様々で……とにかくどこかしら体に欠陥がある。
 もう一つは奴隷剣闘士の卵だ。剣闘士として試合に登録できるのは16歳からという決まりがあるので、それまでは闘技場で正式に面倒を見てやる事ができないのね。
 だから魔物や動物の飼育係であるラダが幼い子供達をまとめて面倒を見ているという訳。これが、多分『法』に触れる所かな。
 育成機関と称して最低限の人権を守った『施設』であるなら問題は無いだろう。たとえ、そこに属する人達が人買いから攫われて来た子供であっても、だ。でもそういうちゃんとした施設を設けるのってぶっちゃけてお金がかかるのね。育てれば誰でも剣闘士になる訳じゃないんだから……そう、脱落者もすこぶる多くて、そういう脱落者の始末も含めて『二種類』を、エトオノでは纏めて世話しているって訳。
 そうして16歳という称号を得た彼らは晴れて、闘技場の晴れ舞台へと引っ張り出されていく。
 闘技場の舞台は神聖な所なのよ、だから上がったからには勝敗は付けなければいけない。
 必ず勝者と敗者が出る。性質上、どうしたってそれは生きる者と死ぬ者って事になっちゃう。

 でも……ラダはこっそり教えてくれた。
 彼らの一部は俗に言う売れ残り、なのだと。
 人身売買には色々な種類があるけれど、エズで行われているのは主に子供の売買。娯楽施設が主な商業であるエズでは風俗業が圧倒的に多い。闘技場で戦う血のっ気の多い男どもが多い分、それをお相手する酒場を含めた風俗店も流行る、って訳よ。
 それで主にあちこちの地方の貧困層の口減らしや、盗賊達なんかに攫われて来たと思しき子供達がエズでは取引される。風俗店にも色々と、作法みたいなものがあって……あたしはその辺りあんまり興味が無いからよくリコレクト出来ないんだけどざっくりとした雰囲気で言えば『吉原』みたいな感じだろうか。借金とかはさほどひどくは無くて、ある程度働けば独立が許されて、隷属っていう枷は簡単に外れる様になっている。
 働き手としての奴隷を買う、という文化はイシュタルにはないのね。
 だから、飲食店とか、港の力仕事などででは奴隷を買って使う、という事は無い。そういう所では一々子供から育ててるヒマが無いからね。
 風俗店であっても必ず育成をしなければならず、仕事を始めたらちゃんと賃金を貰う事になっている。
 ここを誤魔化した場合はイシュタル国、ひいてはエズの法に触れるのでしょっ引かれるわね。
 働き口は大切なのよ。殆どがサービス業なのだから、そういう仕事は無知の人間や信用の無い人には任せて置けないでしょ?。
 『商品』あるいは『働き手』として仕込むなら子供の方が都合が良いのだろうし、闘技場が商売にする闘技士を育てるなら当然と子供のうちから仕込まないといけない。
 だから、エズで取引されるのは子供ばっかり。
 
 で、女の子および顔や体格の良い男の子はちゃんと売れてく訳だけど……それ以外、どうしても売れ残りが出てしまう。
 エトオノファミリーはその、売れ残りの子供達も安く買い叩いているらしいのね。
 そしてその使いどころのない子供達を育てて、闘技場を盛り上げる前戯の小道具として使っているのだ。

 不具の子供達を程度によってはそれ自体を見世物として。
 魔物や獣の気を立てる為や、その怪物と戦う事となる挑戦者の物語を盛り上げる為、そしてその中から未来の拳奴を作る為。
 哀れ、子供達は殆どが死ぬ宿命に置かれて道具として利用されるために飼われている。

 どこの闘技場でもやっている事じゃない。
 闘技場では専属の剣闘士が何人かいて、それに腕の憶えのある者が挑戦するという運営が多い。
 エトオノファミリーにおいてもそれは同じであるけれど、闘技場としての人気や収入の差は専属剣闘士の質に左右される。

 所が、ライバルの闘技場とちょっと人気が拮抗しているとかで……集客のために何かパフォーマンスをする事になったみたいなのね。
 そこで、エトオノ闘技場で始めたのがこの、残虐な前戯だった。

 力のない子供は、一人で生きる事は出来ない。
 エズで奴隷として売られてくる子供達の大半は、努力して自分の価値を生み出すべく足掻く必要に迫られる。
 男を多く銜え込むか、強くなって闘技場運営側から必要とされる価値を買い戻すか。

 可哀想な子供達。
 何の努力もしないで、あたしは種族的にも有能で、経済力も地位もある家族の一人娘として生まれ『強く』存在する。
 あたしに対し彼ら彼女らは何と弱く、儚い存在だろう。

 あたしは……アベルはそんな気持ちを奴隷達に抱いている。今もその気持ちには変わりは無いわ。

 正直に言ってあたしは、彼ら彼女らの気持ちは判らないから同調する事は出来ない。生まれた時すでに権力者の子供で、何不自由なく生きて来た。
 今は、まぁそこそこ努力が必要な生活をしているけど……ぶっちゃけ、あたしお金持ちなんだわ、豪遊する癖が無いから貯金みたいな感じで預けてあるんだけど……裏ステータスでめちゃくちゃお金持ってて、これ使えば多分、今後生きていくだけなら何とかなるレベル。
 それはともかく、……『私』というのはアベルもそうだし、アベールイコ的にもそうだと言える。
 最初からある程度、持ってるんだ。
 とすると、持って居ない人の気持ちなんて所詮、してみたって想像でしかない。よくわからないから同調の仕様が無いのね。
 そんなあたしは本来であれば彼らには、近づくべきではないのだとも思う。
 近づいて行っても何と言って近くに居ればいいのか、分からないじゃないの。

 それでも、彼らの所にはあたしでも手に入れられなかった『何か』が間違いなく、あったのだ。
 それが何なのかは今も良く分らない。でも『何か』あったからあたしは彼らの傍に居る事を望んだ。
 彼らの傍に居たかった。

 その存在を知ってしまって、あたしにはどうしてもそれらを無視する事が出来なかったから。


 でも本当の事なんか言わない。あたしは先手を打つ。


「アレに同情なんかしないわよ、同情してたらあたしはもっと早く、パパに子供達を飼うのは辞めてといっていると思わない?」
 うん、正論だ。
 あたしはずっと心に秘めて押さえつけている感情をなんとか宥める。
「世話を辞めろと言っても、お前は辞めるつもりはなさそうだな」
 椅子の背にもたれかかってパパはため息を洩らした。最近出てきた腹が逆に突き出る。このみっともない姿もウザい理由の一つ。
「アベル」
 短く呼びかけられ、あたしは何よと挑戦的な視線を投げた。
「……わしがそれを長らく知らなかったとでも思うのか?」
「え?」
 あたしは目をしばたき、カーラスを振り返った。
 カーラスも驚いた顔で一瞬あたしを伺ってから慌てたように視線を逸らす。
 今回このように呼び出されて、説教されているのはカーラスが告げ口したからだと思っていた。カーラスもそのつもりであったはずだ。
「今更報告されんでも……お前が奴隷の所に出入りしているのは知っていた。ラダからずっと昔に相談されておったよ」
「ええッ?嘘ッ?」
「ラダはお前に、あんな所に入り浸って欲しくはないのだ。だからわざわざワシに報告して来た。ワシの口から止めるように願い出て来ておった」
 あたしは……ラダの事は一番という位に信用していたからちょっと、呆然として返す言葉をすぐに見つけられない。

 すでにバレていた?パパに……何時から?

「だがワシは……止めた所でどうせお前は好きなようにするだろうと思ってな」
 まさか……パパに行動が読まれているとは思わずあたしは赤面してしまった。
 優位に立っていたはずなのに。
 途端体の芯から発せられるこの熱は何?
「お前も今年で二十を数える、同年代の友人が居なかったお前にはあの場は……楽しかったのだろうなと思ってな。ラダから心配されて止めるように懇願はされていたが……」
「何それ、じゃぁ、何で今日はまた呼び出したのよ!ずっと見て見ぬふりしてればいいじゃない!」
「もちろん、もうそれは辞めろと言う為だ」
 体を起き上がらせ、パパは体をゆする。
「子供と戯れるのはもう辞めなさい」
「……あたしはまだ子供よ?」
 ふつふつと湧き上がる、この熱い思いは……何だというのだろう?
「辞めろと言うても辞めんだろうな、とは思う。だが……ならばわしを納得させてもらおうか。何時までも子供の理屈で我侭を言うではない」
「だから、あたしはまだ……」
「お前はもう二十歳なのだぞ?」
「年齢なんか関係ないわよッ!」
 大体、女の子の前でそんなに年齢連呼しないでよ!
 あたしは、アベルは二十歳でもアベールイコ的にはまだ二十台届いてないんだから!
 いずれそうなる事は決まりきっているけど……あたしは、自分が大人だとは思わない。


 でもどうなのだろう、二十歳になって成人式が過ぎたら確かにお酒は飲めるけど、大人って何なの?
 大人って何時から?

 法律上は二十歳未満でも、悪い事をしたら逮捕だってされちゃうのよ?
 二十歳過ぎてるけどガキっぽい奴だって一杯いるし……まぁ、誰とは言わないけどさ。

 
「……だからな」
 パパは深くため息を洩らして手を組み合わせた。
「つまり……間違いが起こってもらっては困るのだよ」
 あたしは、はっとなって顔をを赤らめ、そんな事ある訳無いじゃないと喚いてしまった。
 ふっと脳裏に青白い顔のメルア先生が浮かんできてしまって慌てて、打ち消す。
「あたしはッ、ただ、ラダの手伝いをしてるだけでッ!」
「本当に情を抱かないという保障があるのか」
「抱くはず無いじゃない!」
 あたし、割と面食いなのよ?自分でそう思うもん。
 大体……あたし、好きな人他にちゃんといるもの。

 それは誰にも、先生にも言えない事だけど。

 抱く気持ちに後ろめたくなり視線を逸らす。
「あたしの……あたしの言ってる事が信用できないの?」
 卑怯な手に出て見る。
 パパは困った顔をして組み合わせていた手を解き、頭を掻いた。
「そういう訳では無いが……」
 そこへ視界の奥にあった扉を開けて、パパの片腕の一人でファミリーの五本指に入るであろうベンジャーさんが何やら書類を抱えて入ってきた。
「あ、これはお嬢様」
 ベンジャーさんは俗に言う知的な感じのお兄さんで……いつも礼儀正しい。この人からお嬢様と呼ばれるのだけはあんまり、悪い気はしなかったりする。
「まだお話中でしたか……申し訳ありません」
「いいのよ、ごめん……もう終わるわ」
「いえいえ、私の事などお構いなく」
 パパの顔色を伺いながらベンジャーさんは慌てて手は書類を抱えていて塞がっているから首を振った。
「構わん、報告しろ」
 パパは途端に顔を引き締めてベンジャーさんに向き直った。部下の手前ある程度の威厳は保とうとする……その様子があたしから見ると滑稽であったりして。これも多分、ウザい理由の一つかもね。
「はい、では……あの」
 しかし何か言いにくそうに言いよどんでから静かに、パパの方に近づいていってベンジャーさんは小さく耳打ち。
「何よ、アタシには言えない事なの?」
 秘密にされれば何であろうとやっぱり、気分は悪いわよね。
「新しいモンスターの買収が成功したという報告だ」
「長、」
 ベンジャーさんが困った顔であたしと、パパの顔を交互に見てため息を洩らす。
「成功したともなればますます、お前には悪い遊びは辞めてもらわんと困るな……。カーラス」
「はい、」
 やや慌ててカーラスは返事して、背後で姿勢を正したのを感じるわね。
「ラダにもワシから強く言っておく。力づくでもアベルに世話の手伝いなどさせるな」
「力づくでも、」
 やや畏怖した風に鸚鵡返しにするカーラスをあたしは鼻で笑った。
 ふふん、そうよねぇ。
 力づくで止められるならパパにチクったりなんかしないわよね、アンタは。
「いいな、ワシはこれからモンスターの引き取りに行かねばならない……アベル、また明日な。子供の世話などお前はする必要は無いのだ、ラダに迷惑かけるんじゃぁない」
 ふんだ、そんなの知った事じゃないわ。
「はーい、いってらっしゃーい」
 ようやく開放されるから、あたしは空元気にパパに向けて手を振って送り出してやった。 
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