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10~11章後推奨 番外編 縁を持たない緑国の鬼

◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼 -9-』

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◆BACK-BONE STORY『縁を持たない緑国の鬼 -9-』
 ※ これは、実は隠し事がいっぱいあるナッツ視点の番外編です ※

 影を元に戻すには、再び縁を結ぶ魔導が必要なのだという。
 確かに、切り離して『彼ら』を死霊にしてしまったのだから……そう簡単な事じゃぁない。死霊って事は、彼らは死んだって事だろう?彼らは、ついに生物としてを完全に逸脱してしまった。……死んだら生き返れないんだよ。死霊として動く事は出来るけれどもう二度と、生物として振舞う事は出来ない。

 権力に使役される、哀れな死ねずの鬼。

 ああ……再び同じものを今、目の前にしているのだとようやく僕は気が付いた。
 今の鬼は、滅ばずの姫と大差ないんだ。死の概念を失った、本当の意味での傀儡の男に同情する。死が無いのに常に滅びに怯えている。理由もなく、根拠もない。破綻した存在。

 いずれ、元に戻してあげるとトーナさんは約束したけど、これは……死霊調伏してやった方がいいんじゃないんだろうか?
 でもちょっとまって、良く考えると元に戻すのって……実現可能なのだろうか?
 僕は縁切り魔法を使う事に気を取られ、すっかりその後を想像せずにいた。

 緑国の鬼はその後ひたすら消費されるだけであり、それが相応だと僕は思っていた。心の底で許していなかったんだ。多くの人を殺戮し、姫をも殺したであろう、ふたつの人格に逃避して殺戮に甘んじた鬼の事、僕は心の底で地獄に堕ちろと思っていたに違いない。
 だから、その後なんて深く考えなかった。

 ところが今、すっかり弱くなってしまった鬼を見ていると……。
 その影に僕の存在が重なって僕自身が弱くなる。

 いわく、鬼は姫の事が好きだったと云う。
 影がかつて昔、そう囁いていた。
 鬼は姫に恋をして、……それなのに姫を殺さなきゃいけなくなって、そうしてしまった。

 思えば可哀そうな男じゃないか、自分の意思が在るはずなのに押し殺される。

 僕は確認せずにはいられなかった、ファマメントであるトーナさんに……切れた縁を再び結ぶ魔法なんてあるのですか、と。
 そうしたら彼女は苦笑しながら答えた。
 魔王さえ倒してくれたなら、この私の存在を消費してでも縁を結びなおしてあげるからそこは、心配しないで、と。

 その時は分からなかった、彼女がそれに苦笑を浮かべた意味。
 そして……それは実現するという彼女の言葉。

 ちなみに、今は分かるよ。
 ブルーフラグを立てた僕には、ホワイトフラグを立てた彼女の力がどれだけのものか、良く分かっているからね。
 でも当時は当然、そんな事分からないだろう?死人は何をしても還らない、その摂理をどう覆すつもりなのか、禁忌に触れたって出来る事なのか、僕は興味がある事にしか知識が無い、魔導に詳しい訳じゃないからその辺りさっぱり見通しが無いわけだし。
 僕は……結局詭弁で鬼を騙して使い切るつもりかと、彼女に少しだけ憤っていた。
 いつの間にやらそれだけ鬼に同情していたんだよ。


 今や天使教の権力を一手に握り、実力ともにハクガイコウとなった彼女は……最後まで抵抗したウィン家にも落とし前をつけさせる事にした。
 それで全て不問にしろ、というウィン家の交渉に応じたとも言える。
 緑国の鬼の手綱を握る者として、ウィン家の人間が彼の影を持って魔王討伐に同行する事になったそうだ。もっとも、もう鬼は影の命令に縛られてはいないんだけどね、でも二つは元々一つだ。一緒に合った方が『上手く働く』というのが、トーナさんの考えであるらしい。
 影を持って、ウィン家から魔王討伐に参加する人は、全体的な討伐士気を取る事になったらしい。
 結局僕は魔王討伐には加わらず、トーナさんに寄りかかりつつ、こっそり彼女を支える事を続けるつもりだ。それに……精神的にもうちょっと修行が必要だと言われたわけだしね。もう少しその為の努力をしようと思う。

 いつか誰をも支えられるように。強くある為に。

 そうして影と縁が切れてしまった鬼は、本人の意思など関係無く魔王討伐に連れて行かれたな。
 最後に影と一緒にいる所を見たよ。
 とはいっても、影は相変わらず鼠捕りの中の干からびたネズミのぬけがらに封じられているから、これがはたから見ると物凄く滑稽な光景に見えたりする。
 巨漢の男が鼠捕りの箱の前で小さくなっている、その中から聞こえるかしましい影の声に、縮こまっている。息の合っていない漫才を見ているようだった。

 トーナさんが言っていた通り、各国から集って来た魔王討伐を志す者達と共に、彼らが旅立って行くのを僕は窓から見送った。
 正直、なんとも珍妙な連中ばっかりだったね。トーナさんも集まった人達に『実力は分かるとしてこれで大丈夫なのかしら?』とかぶっちゃけてぼやいてたし。
 魔王討伐は秘密裏に画策された事だから大々的なパレードがあるわけでもない。各国から集まった……なぜか曰くつきの人達とその世話係りの一個小隊。それらが荷車を引いて朝霧の中、こっそりと消えていくのを僕は見送ったんだ。レズミオからは転位門が開かれて、そこからどこかへ……具体的にどこなのか、ってのは勿論知ってるんだけど詳細は物語のネタバレになっちゃうから僕は、黙っているよ。
 僕はねぇ、基本的にいっぱい沈黙している事があるんだけど、それがすなわち僕のキャラクターの『背景の重さ』なんだね。レッドは事あるごとに嘘をつくでしょ?僕は黙って知らないフリをしている。
 知っている、けど、何も言えない。
 そういう事情が僕にとって、本編において『重い』んだ。

 
 そして十年遡らない、過去の話。


 その魔王討伐隊が失敗に終わったのは……ご周知の通り。

 そして今度は僕自身が魔王討伐をする事になっている。
 正直、そうなる流れは必然だと思っているから嘆く事は無いよ。僕に、そうしろと勅命が下っていた訳じゃないけど、でも出来るならそうしたいと思っていて……気がついたらそういう事になっていた。

 ファマメント事、トーナさんは魔王討伐の失敗とともに失脚、というのもこれはすでに話してある通りだね。
 大陸座が『触れられなくなった』からだ。
 具体的にはそういう事態に陥って、それによって魔王討伐が失敗した事を彼女は悟ったようだ。
 トーナさんが必然的にお飾りになってしまった。彼女がそうしたかったんじゃない、突然そういう事態に陥ってしまった。
 彼女の周りに触れ得ない壁が出来て、誰も彼女に触れられなくなった。彼女の言葉が届かなくなり、彼女は誰にも触れる事が出来なくなってしまったんだ。

 事態を知った旧勢力がこれ見よがしに再び力を取り戻した、いやぁ見事な復活だったよ。
 ……まるでそうなる事が分かっていたくらい、見事な手際だったね。

 あっという間に彼女は再び『お飾り』のハクガイコウになり、僕はお飾りのお飾りと云う事になる。
 こうなってしまったらもう僕もお手上げだ、この国にしがみついている意味が無い。でも……彼女を見捨てる事は出来ないから神官職だけは辞めずにいる。前から個人的にパイプを結んだ宣教師の仕事をする事にして外遊する許可を願った。
 もちろん、僕の存在を厄介だと知っている連中は喜んでこれを許可してくれたね。

 トーナさんが世界に触れられなくなった理由、それを探しに行くつもりだった。

 僕は唯一、その後もトーナさんと会話が出来る訳だろう?ほら、青旗が立っているからね。
 当時は当然、なぜ僕だけ彼女と世界を隔てる壁を突破できるのか分からなかったけれどさ。
 トーナさんは、僕がそういう特殊なキャラクターである事は知っていたようだ。勿論……僕だけが彼女と話しが出来るという状況が他に知れると、また余計な事になるんだけど……これが、秘密にしていたつもりで勘繰られちゃったね。
 完全な飾りとなったはずの大陸座、ファマメントと何かしら画策してるんじゃないかと疑われ始めて、仕方がないので僕は天使教と距離を取り、彼らの懐疑心を解消する必要に迫られたんだ。

 僕はトーナさんに、解決策を探してきますと伝えたんだけど……多分彼女は全部分かってたんだろう。今はそう思う。
 彼女は全てを知っていてこう答えた。
「そんな事はしなくてもいいの、貴方は貴方がやりたい事をすべきだわ。それが必ず、必要な事に結びつくから」
「……どうしてです?」
「あたしが大陸座だと言う事、まだ貴方は半信半疑?」
 正直に言えば……信じていなかった。

 僕に欠けているのはもしかすると、全体的に信じる心かもしれないなぁ。

 人が思う程、僕は従順じゃない。心の中でいつも何かを疑ってかかっている。
 大切な事だよね、でも僕は無条件に信じる事が出来ないんだ。
 それができる、この世界のヤトの事を……レッドと同じく眩しく思うよ。

 ま、リアルだとあいつ、それが出来てないんだけどな。

「貴方……やりたい事があるでしょう?」
 心を見透かすように彼女は笑う。
「何の事でしょう?」
「色々と裏事情を聞くに、貴方……ワイズと同じで例の姫の事、好きなんでしょう」
 余計な事を彼女に暴露しすぎたかもしれない。
 でも、いろいろ緑国の鬼について説明するにあたり、僕らは共犯するしかなかったんだ。これはワイズも了承している、むしろ彼は僕以上に大陸座と名乗るトーナさんを信用しているのかも。
「だとするなら、やっぱり一方的な恋だと思いますよ」
「素直になりなさい、貴方は素直じゃないわ。そのままだと一生損しっぱなしよ?恋でもいいの。それは悪いことじゃぁないんだから」
「……はぁ」
 じゃぁ素直に暴露するけど。
 僕は昔に縁が切れた滅ばずの姫より、ずっと貴方の方が魅力的に見えるけどな。
 ……でもやっぱりそれは口には出せないわけで。
「あの鬼さんも同じくでね……話は聞いてあげた?」
「何のですか?」
 正直、緑国の鬼と会話するのは怖くて……話すなんてとんでもない。僕の彼に対する知識はほとんど間接的なものだ。他人から聞いた話ばっかりだよ。
 殺気に毒されて、と言うのもあるけどそれだけじゃない。
 姫の事実を聞き出すのが多分怖かったのだと思う。
 それについて彼が被った悲劇を聞き出すなんて……とんでもなかった。なまじ最後には親近感がわいて、かわいそうにと思ってしまっただけにね。

 昔々と始まる話で縁を切ったんだ。余計な事実なんて……僕はいらない。

 それに。
 誰にも言っていないけれど、僕は答えを知っている。

「そっか、じゃぁ聞きたくないかなぁ」
 にやりとわらって、トーナさんは逃げようとした僕の腕をつかんだ。今、僕だけが彼女と触れ合える。言葉を交わせる。
 酷いや、当時は何故か分からなかったけれど……どうして彼女は僕だけに触れる事が出来て、僕だけが彼女と会話できるんだろう。

 理不尽だと思ったものだよ。

 のちにトーナさんを遮った壁、これが魔王の仕業と知れる訳だね。いや、正確には……ゴニョゴニョ……なんだけど。
 でも……大陸座である彼女はそれを知っていた、同時に僕もそうである事は知らされていた。
 ごめん、これについても僕は全部知っていたんだ。

 オレイアデントは知らなかったみたいだけど、それはその『人それぞれ』という事だ。

 理不尽だと思いつつ……全ての真実を僕は聞かされている。それを背負う様にと願われている。

 知っていて僕が積極的にヤトやレッドに真実を言わなかったのか、疑問に思うかい?
 だって、それを確信的に語るには僕は、ファマメント国で自分がどう言う立場で、どういう事をしていたのか語る必要に迫られるだろう?僕は僕の都合で、どうしてもそれを彼らに説明したくないんだよね。
 言うなれば、これ以上縁を結ばせたくないんだよ。
 だから、僕は知っていて、僕が黙っていたっていずれ知る事だろうから……知らないふりをしていたんだ。今後もそうするだろう。
 僕がすでに知っている事実は、早急に知る必要がある事じゃないのも『知っている』。
 物事には手順が必要なんだよ。
 必要があるなら、そのように物語は自然に紡がれる。そして時には僕が、それを語る時が来るんだ。
 この世界の賢者には約束があるんだよ、知る者は語るべからず、だ。
 そういえば、そういう『語らずの賢者』は……北神イン・テラールの事でもあったな。

 全てを知っていて語るなら、僕は昔話として縁を切った話も彼らにしなくちゃいけない。

 大陸座の状況を知っていて、魔王との縁も知っている。
 そして僕は、何が魔王とよばれているのかもとっくの昔に知っているんだ。
 でも知っている事を知られたくなかった。すべては、僕の過去に縁ある事だから。賢者が黙っているのは、知った場合の責任を問う事をも知るからだ。知ったからには後戻りはできなくなる、縁が出来る。
 知識というのは素晴らしい事だけど、出来る限り正しく知ろうと自ら縁を繋いで行って欲しいんだ。

 僕は昔話以上にするつもりはない。
 全て知っている、きっとそれが、僕のとって重い過去だから。

 だから、知っているけど僕は黙って、彼らの旅に同行して彼らの行く先を見守る。
 背後に立って、彼らを守ってやる事にしている。
 全ての守り手として、いずれ……大好きな『強い人』も守れるようにね。
 無条件にさ。黙っている代償だよ。
 損じゃないか、理不尽じゃないかと思われていても気にしない。

 どう思われているかなんてどうだっていいんだよ、僕には関係の無い事なんだ。


 *** *** *** *** ***


 大体、
 暴露されなくたって……知っている。

 久しぶりに全ての肩書が無くなって、軽くなった背中。
 大きな翼が霧に濡れ、しっとりと重い。そして……背負っている過去が重く圧し掛かっている事を僕は意識する。
 ワイズは辿り着いただろうか?
 いや、彼は僕に比べ人並みに『信じる』という事が出来る人だ。
 いつまでも疑ってはいないだろう、信じ込んでおくことが楽である事も知っているに違いない。

 でも僕は、信じる事が出来ないからいつでも、自分の目で真実を見ようとする。そうして余計な縁を結んじゃう。そうなんだ、結局僕に足りないのは……世界を疑わずに受け入れると言う事だよ。
 そうやって疑い続ける限り、僕は損をし続けるんだ。そうと知っていて、どうしても自分を変える事が出来ない。

 でもこうやって答えを得たなら、心の底から安心して、僕は……その縁を切る事が出来るのだと思う。
 いや、それならどうしてまた再び、僕はこんなところにいるんだろう。
 縁は……切れてないのかな。
 切れないのか、それとも僕が切りたくないと願うのか。
 よくは分からない。
 緑の中に埋もれる森の中、わずかな祈りの生きる墓に花を手向けて、僕は彼女に平穏に眠る事を願う。
 ワイズも同じように願っているだろう。そう、きっと緑国の鬼だって同じだ。
 心の中で十字を切り僕は、一人この小さな墓の為に平穏を祈ろう。
 その祈りが、死者の眠りを約束するのだから。


 すっかり寂れたな、久しぶりに訪れる村は……いつの間にやら全体的な移動をしたようだ。
 まぁ、そうしたい気持ちは分かる。
 十年数年程前にこっそり訪れた頃とは景色が全く違う。昔栄えていた村の中心はすっかり寂れ、森の中に還ろうとしていた。

 十数年前?そう疑問に思うだろう、まだファマメント事トーナさんも居ない、魔王の噂も立っていない。
 緑国の鬼のごたごたが収まって……すっかり色々な縁が切れて。
 むしろ半分任意で忘れかけて、これからまた平穏が続くと思われていた頃かな。

 僕はその平穏にかこつけて、少しだけ天使教に自分の仕事を残す事にしたんだ。

 お飾りで何もせずに座ってるのがハクガイコウなんだけどね……緑国の鬼について色々聞いている内に一つ思い立った事があってさ。言ったよね、宣教師とパイプが出来たって。
 各国に天使教を広める宣教師と呼ばれる人達がいるんだけど、ぶっちゃけてこれは厄介払い職だ。
 真面目にやってる人もいるけど一方で酷い話も聞こえてくる。でも余所で悪い噂を立てられるのは天使教としても困る訳だから、一応宣教師の手引きみたいなものがあってね……。
 僕は、ちょっと思う所あってこれに手を加える事を許してもらった。まだこの頃はハクガイコウだ、よく願いが通ったものだと思う。何もできないハクガイコウはどうかなっていう意識の改変がちょっとだけあって、それで一つの提案をしたんだよ。
 割と悪い案件じゃなかったから採用されたみたいだ、それで宣教師を派遣する部署と仲良くする様になった。……いや、立場的には僕が仲良くしてやっている事になるのかな?
 それはともかく。そういう都合、宣教師視察の長旅を許してもらった事がある。そう、ハクガイコウでありながらちょっと長めの暇を貰った、みたいな感じだ。

 真面目に天使教について考えるようになったのに、ちょっと天使教幹部も僕に心を許したのかな?いやでも、がっちりお目付け役は付けられたけどね。……後に代理になったら独りで投げ出されたのにさ。
 ともかく、当時何人かの神官を連れて行く必要があって自由に動けないかと思ったんだけどそうでもなかった。
 縁の無い人を連れて行けばいい。僕の行き先に文句をつけない人、つけられない人を選ぶ事は幸い出来た。

 そうやって騙し騙し、宣教師が多く派遣されている東から北に掛けて放浪した。
 実際、僕は真面目に宣教師をねぎらいう旅がしたくて国元を出た訳じゃないんだよね。悟られると色々面倒だから、もちろんそこが大本命である事などおくびにも出さず、北から回って、東を南下していったよ。
 本命がどこだって?察している人もいるだろうと思う。そう、とある村だね。

 名前を……シエンタという。
 ここの村は昔、鬼を出した。
 哀れな縁を持たない、鬼を出した歴史を背負っている。
 聞いたのさ、どうやらここが出身地だって。ここでどうやって鬼が生まれたのか、僕は人伝に噂を聞いてそれで、行動する事にしたんだ。
 なぜここで鬼が出たのか、その理由を僕は察する事が出来たからだね。
 その縁が繋がれ繋がれ、ファマメント国までやってきて一騒動起こしてくれたんだもの。
 だから再びここから鬼が生まれない為に……僕はその為に、宣教師のマニュアルに手を加えたのさ。子供達に勉強を無条件で教えろという項目を盛り込んでやったんだ。
 わけ隔てなく子供を味方につけて、まぁ……ようするに子供からターゲッティンして宗教改革に励めという具合にだね。

 この、緑に呑まれた村はシエンタ。

 ああ、もちろん今も健在だ。久しぶりに訪れる事になり、黙ってはいるけど……僕はこっそり懐かしいと思うよ。
 昔の集落が置き去りにされ、ちょっと離れた所に今もちゃんとシエンタと呼ばれている村はあった。

 きっと昔の事を忘れて、縁を切るのに必死なんだ。この村の人たちも同じだと僕は、崩れかけた屋奥を眺めながら目を眇める。
 結局僕は……彼女の言葉を信じようと今、必死になっている。
 やりたいようにすればいい、それが必ず……必要な事に結びつく。
 半信半疑だからこそ、実証するために僕は彼女の言葉に縋りつくのかもしれない。でも……おかしな話だよね。実証されたから信じられるのか、信じていたから実証されたのか、結論がどうであれ、わかんなくなる話なんだ。
 ようするに、僕が信じない事には始まらない。
 関係ない、信じられないと切り捨ててしまったら彼女の言葉は真実になる事はない。

 結局今僕が信じようとしているのは彼女の言葉ではなく、僕自身の行動なのかもしれない。

「あれ、なんでお前がここにいるんだよ」
 声をかけられて僕は、笑いながら振り返った。まさか僕がこんな所にいるとは思っていなかった、戸惑いの顔をしている我らが人柱勇者に僕は笑いかける。
「ああ、ちょっとした縁があってね」
「縁だぁ?」
 不審な顔をされる、まぁ当然かな。
「そういうお前はこんな奥まで何の様だよ?」
「何って……そりゃ、お前……」
 言いにくそうだねぇ、僕は彼の事情はよく知っているけれど。
 やっぱりこれも黙っていようかな。……それとも。
「僕の縁……知りたいかい?」

 ちょっとだけ意地悪してやろーかな。


 END
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