異世界創造NOSYUYO トビラ

RHone

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12章  望むが侭に   『果たして世界は誰の為』

書の1前半 神の庭『ぶっちゃけて、ぶっちゃけてる所』

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■書の1前半■ 神の庭 Center Land is Developer Layer

 不機嫌な顔、および納得が行ってない人達多数。
 いってらっしゃいと手を振ってくれる、空気を読んでいないかあるいはわざとそういう事をしている天使教の皆さん。それらを見回してレッドはため息を吐いた。
「……諦めません?」
「諦めません」
 断言し、俺は持っていく最低限荷物を担ぎ直す。
「ギガースが手の届く所にいるんだぞ?奴がそもそもの原因だってのは、はっきりしたじゃねぇか」
 あえて言葉には出さないが、最終的には奴からも俺達はデバイスツールを取り上げないといけない、そうだろう?力業で奪えるのかどうかは分からん、出来れば話し合いで穏便に手放して貰いたい所だが、そもそも会話が成立するかどうかが疑問だ。
 とりあえず会ってみて様子を見る必要はあると思うんだ。
 俺は……一度奴と顔を合わせているけれど……その時会話は全く成立しなかったと思う。
 会話できなかったのは奴ではなく、俺の方。
 対面した途端俺は得体の知れない恐怖に支配されて、それでほぼ強制ログアウトをやらかしたような気がする。また同じ事になる可能性もあるが……成らない可能性だってあるだろ。今は他の大陸座から預かっているデバイスツールも在る訳だし。
 行くのか、行かないのか。
 俺とランドールを送り出す連中が煮え切っていないのをやや、いらいらした様子で待ってくれているギルが舌打ちしている。
「とにかく、開けてみるしかないだろ?」
 またナドゥに先回りされる前に先手を打つべきなんだからな。
「貴方達だけを送り出すのが不安なんです」
「しかたねぇだろ、俺……俺達しか行けない状況だ」
 レッドはもう一回深くため息を漏らした。
「さっさと話を付けろ、そんなにコイツをやりたくないなら俺達だけでも行ってくる」
 その話をするのは俺では無く、貴様であり貴様の仕事だと俺は取り囲んでいる連中を無視してレッドにだけ話をしている状況だな。で、レッドはその仕事がとても骨折りなのを知っているので、俺の方が諦める方向で話をしている。
 ちなみに、俺だけがギガースと会って来るぜ!と主張しているわけでは無い。ランドール先生も今回は味方です。
 強硬な姿勢は俺だけじゃなくランドールも全く同じでな、そういう状況ならギガースとやらをぶん殴るのが一番手っ取り早いとお考えです。だが、部下もとい仲間達からの信頼度においては何故だか奴の方が上手なんである。……悔しいが。
 俺のお仲間と違い、ランドール側の人達はランドールが『俺一人で行ってくる、お前らは危険だからここに残れ』という命令に従順なのな……。
 ランドール側はテニーさんだけ居ない状況であるが、単純に魔王ギガースと対面する危険性を感じて素直に敬遠した人が大半で、残り二人は従順なだけかもしれん。
 テリーの兄貴であるテニーさんがこの場にいたら、私も一緒に!とか言ったかもしれないし……言わないのかもしれない。すでに言えないからこの場にいないのか?
 テニーさんはどうしたんだって聞いたら、お前には関係ない事だって話をぶった切られた。ふんだ、どーせお前他人の都合とか無頓着だから知らないだけだろっ!
 当然テリーも知るかよ、と返して来た。
 今だ兄嫌いは改善していないようだな。
 ナッツが言ってたゴシップの噂がマジならテリーの反応はまさしくアレだ、アレ……ええと、ガチに思い出せないが……男には、父殺しの劣等感てのがあるらしいじゃねぇか。そいつを発動させてる感じだよな。目の前に立ち塞がる強大な壁としての父、有名なコンプレックスだ。テリーにとってテニーさんの存在は……そういう意味合いもあるんだろう。
 実は俺、それがあまりよくわからない。
 その儀式は必ず経過しなければいけないものなのだろうか?
 でも俺には、サトウハヤトにも、父親なんていないんだよなぁ。ホンモノの父親じゃなくてもいいのだっけ?よくわかんねぇけど。
「彼らのやりたいようにしてやるしかないでしょ」
 ワイズは脳天気に肩をすくめている。
「一応、それで僕らの意見も纏まった訳だし」
「纏まってるかしら?」
 アベルが零した言葉にナッツの口が引きつった。不機嫌なアベルを宥めるためにテリーが腕を組んで極めて神妙な顔で酷い事をアベルに向けて言い出す。
「しゃーねーだろ、現状奴しか魔王連中の攻撃の耐久性が認められてねぇんだから。俺達を無用な危険に巻き込まない、その為に最初から最後まで人柱に自ら志願するってんだ、快く送り出してやろうぜ」
 便乗するアインさん。
「がんばってね、人柱!」
「お前ら、それ全然応援になってねぇ」 
 脱力する俺に対し、マツナギは苦笑しながら近くまで来て俺の手を取った。
「危険だと思ったら…………無茶しちゃいけないよ」
「あ、ああ……うん」
 先日の事もあって色々ドギマギしてしまう俺です。
 マツナギは俺のうろたえなど察した感もなく、水龍銀の籠手のはまった左手を取り上げて……何の動作の躊躇いもなく、海竜を模したそれの小さな頭の部分に軽い接吻を施してくれたりする。
「ぅえっ!?」
「まじないだよ、……嫌だったかい?」
「あ?いや?全然」
 そういう場合額がスタンダードじゃないんだ?そっちにしてくれた方が……いや、誰かの視線が痛いのでそれを所望するのは止めます、止めますとも!
「じゃ、用意はいいかな」
 ワイズが封印の封印を施して閉じているモノの解呪の手順に着手する。

 俺はレッドとマツナギを離れ、腕を組んでイライラと待ってくれていたギルの方へ向かう。
 振り返る。

 俺と、アービスとランドール、それからギル。

 共に頭上に赤い旗を灯した、あるいは灯した事のある者。

 これより俺達はギガースへ続いているであろう『トビラ』へ挑む。
 とはいえ、まぁ……これも色々懸念があるんだけどな。

 その前にちょっとだけ過去を振り返り、どーしてこうなったのかという事をリコレクトしようか。




 俺が不貞寝して次の日。全員集合と集められて何をするのかなーと思ったら。
 ギルをとりあえず封印から外すか、と云う話になってた。
 おいこらまて、仮にも破壊魔王だぞ?折角無力化しているのに鎖から解放してどーするんだ!
「なんで外さなきゃ行けないのよ」
「危険じゃないのかい?」
 アベルとマツナギの言葉に俺も同意。ついでに鎖に繋がれたままのギル自身も呆れ気味に続ける。
「俺が言うのも何だが……俺も危険だと思うぞ」
「ふぅん、喜ぶかと思ったけど。そりゃまたどうしてだい?」
 相手が身動き取れないと知っているせいかナッツは余裕だ。ワイズと一緒に奴のすぐ側にいるが、すでにギルの事を警戒している雰囲気はない。
「俺ははさっさとこの世界とおさらばしたいと言っている、その気持ちは今の所変わらん」
「……ああ」
 ナッツは少し神妙な顔でギルを振り返る。
 ギルの奴、そういえばすでに捨て鉢だったな。そもそも何を目的として破壊活動してたんだ?ナドゥにたてついた所、奴に利用されていただけなのかもしれない。俺にはよく分からん。

 ……いや、分からんと言う事はないか。

 ようするに『おさらば』したいって事なのかもしれない。

 ギルの野郎、アホみたいに強いからな。魔王八逆星だからすでに生物じゃないが、それだけに誰も自分を倒してくれないという悩みもあるわけだ。実にアホらしい悩みだが。
 ならテメェで死ねよ、と俺は思いっきり叫んだ事があった俺だ。
 ところが、実はこの世界自で害行為はペナルティがすこぶる重いらしい。システムでそうなっている事が、世界においては倫理としてしっかり根付いている。
 じゃぁテメェで死ねよ、迷惑掛けんな、誰にも迷惑を掛けないで勝手に死ね!
 その気持ちは実は、俺自身に向けて言っている言葉でもあったと今は、分かってる。
 俺はいかなる不運に見舞われて絶望しても、自殺という行為を選べなかった。ようするに、くだんの世間倫理によってそういう行為を選択する頭が無かったのだ。
 それでいて、誰かに迷惑を掛けてまで死のうとするのはアホだという思いがある。
 ここ、嘘はない。
 故に俺は生きてきたのだ。決して死にたいと願いながら生きていたわけじゃない。そういうアホな選択肢が俺になかっただけ、とも言う。
 最悪な人生だったと過去を振り返りながら、それでも生きるしかないんだと茨の道を突き進んでいる。
 でもそれはもう、終わった。
 俺は今、生きてはいない。
 俺が今続けているのは『存在』する、ただそれだけ。この所ギルも同じなんだと思う。すでに生きては居ない、ただ無用に世界から『おさらば』出来ずに『存在』するだけになっている。

「いつまでお預けくらってりゃいいんだ」
 ギルの言葉の意味を俺が分かるんだ、ナッツが分からん筈がない。ナッツも十二分にギルの『望み』については分かっているだろう。

 世界から去る。ようするに討伐される。
 それが魔王八逆星の願いって事。

「なるべく多くナドゥを理解する手がかりが知りたいんだ。悪いけど……もう少しだけ協力をしてくれないかな」
 ギルはそこで俺達でさえ瞬間震え上がらせる、凄まじい殺気を全開にしてナッツを睨み付けた。普通の人だったら卒倒するだろう。恐ろしい獣が牙向いて目の前で飛びかかって来ようとしている雰囲気を、しかしナッツはしっかり受止める。
 神官が平然としているのを見てギルは呻いた。
「テメェは、その肝の据わりっぷりが昔から気にくわねぇな」
「職業柄顔の皮は厚いと自負はするよ、というか……そろそろ慣れてきたね」
 ナッツは今、平然とギルと睨み合っているが、対岸に居たワイズはそうではない。気が付いたら俺らの側まで退避している。
「代理ぃ、よく平気でいられますね。それは慣れの問題じゃないですよ?」
「鎖が付いてなければこんなに近づいてないよ。でも慣れは本当だ。過去において僕は彼の睨みを貰ってまともに動けた試しがないけど……いつまでも変わらないんじゃダメだって気持ちはあった。克服したいと思ってた、心構えの問題さ」
 ナッツは肩をすくめて笑っているが……やっぱりちょっとぎこちないかな。
 というか、前にも睨まれた事があるって?ナッツも自分の過去ははっきり言わないもんなぁ。その、第一次魔王討伐隊を派遣する時にでも一悶着起こしたんだろうか?
「とりあえず、君の封印を信じている。彼、今のままだと手出し出来ないって言ったじゃない」
「言いましたけど……」
「おい、ハクガイコウ」
 だから、代理だっつったじゃん。ワイズもそー言ってんじゃん。そんな俺の進言を全く無視してギルは引き続きナッツをハクガイコウと呼んでを睨む。
「まだこれ以上余計な事を俺に押しつけるつもりなら、鎖を解いてみろ。俺を自由にした事を後悔させてやる」
「それは困るね」
 困るよ、超困るよ。
 隣を見ると、怪我は回復したらしいランドールがいる。奴は俺達のやり取りを不機嫌な顔で伺っているが……奴が参戦したとしても、ギルとガチに戦って勝てるかどうかの保証なんて俺、しないからな!
 少なからずエズの町に被害が出るような事は推奨出来ない。アベルも物騒な事態を感じ取ってさらに不機嫌になっているので、奴が口を開く前に俺が前に出た。
「ナッツ、お前、奴に何させようってんだ」
 心配した俺にナッツは目配せし、あくまで微笑んで……。殺気を全く抑える気配のないギルにさらに近づく。
 一層強まった殺気によって周辺の野生生物が慄いて鳥がばたばた空を逃げ、獣の遠吠えなんかが騒がしくなってきた。凄まじい威圧だ、今ギルが身動き出来ていたならこの近辺全てが吹っ飛んで消し飛ばされているのではないかという幻が見えそうだぞ。
 近づけば噛みついてきそうなギルの形相も恐れず、そっとナッツが何か……奴に耳打ちした。

 途端、さっとギルの表情が変わったのが分かる。
 もちろん、殺気は手品みたいに消え失せた。

「……ね?」
 同意を引き出すナッツの笑みに、ギルの顔が別の意味で怒りの形相で歪み出した。間違いない、怒っている顔だがその怒りはすでにナッツに向いていない。その顔のまま俯いてしまう。
「くっ……それは、しかたねぇ」
 そしてついに、ギルから同意を引き出しやがった。
 脅す?もしかして脅す発動?
 ナッツさんそんな手段も隠し持ってたんですね!?流石はパーティの第二軍師か、ギルについてはレッドもナッツに一任している感じがするな、一切口出しないでいる。
「だが、ギガースの所に案内するまでだからな!俺は奴とは戦わねぇ!あと、その件は必ず保証しろよ、しなかったら……マジでこの町と言わず国と言わず、無条件に全部ぶっ壊してやるからな……!」
「それは大丈夫、ヤト自身が強く決意してるだろうから」
「え?俺が何を決意してるんだよ」
「魔王八逆星は俺が倒す~とか、どうせ心に誓ってるでしょ」
 ……間違ってはいないな、魔王八逆星にとどめを刺す事で赤旗感染する可能性が在る事がクオレの件で分かった。なら、赤旗感染しない、あるいはすでにしていてその毒は受け付けない俺が、倒すんだ。
 そう誓っている所はある。他の奴らにはやらせねぇ。
 今ランドールから横目で睨まれているわけだけど……目下ライバルにだってやらせやしねぇよ。俺は負けじと睨み返してやった。負けねぇ。
「しかし、本当に君は……」
 ナッツはそれを音にせず、途中で言葉を止めた。
「いや、ようやく元の望みを取り戻したんだね」
「……みたいだ。……ようやくな」
 ナッツの言葉にギルは小さくため息を漏らした。どういう意味なのか俺にはさっぱり分からん。
「じゃ、本当に封印から解いてしまって……ダイジョブなんですかねぇ代理」
「いいよ、ギルだけ自由にしてやってくれ。下に封じられてるのはそのままで、出来るんだよね?」
「それはお任せください」
 ワイズは封印師だ、封印術にだけ特化している魔法使い、つまり魔術師であるらしい。
 そもそも天使教の上位神官に魔法使いがいる事自体珍しいらしいけど。
「ああ、じゃぁやってくれ。この状態じゃ詳しい話は聞き出しにくいしさ」
「ナッツさん、ウリッグの件は大丈夫なんですか」
 今まで黙っていたレッドがここでようやく口を挟む。
 おおそうだ、そういやウリッグを逃がしちゃったと言っていたな。というか、

 俺は恐る恐るギルを振り返る。

 そも、ウリッグはギルにとって地雷もとい核弾頭じゃなかっただろうか?

 ところが奴はきょとんとした顔をしていやがった。
 すでにその単語は何と云う事はなく、なんで今更そんな事を聞く?という疑問さえ呈した顔でギルが、ナッツを伺う。
「なんだ、ハクガイコウ、説明してないのか」
「これからするトコだよ」
「というか代理……ウリッグがどうこうって何の話ですか」
 明らかにワイズが引き直した。
 封印解くためにギルの方に元に戻ろうとしてたのを止めて、凄い速さで再び俺らの所に引き返してきた。
 こいつ、ナリはデカい癖にすげぇ小心なんだな。
「ワイズ、君だって察しただろ。どうにも君が施した封印が壊れちゃった件はさ、それを確かめるために君はランドールを怒らせて死にそうになった訳じゃないか」
 そういえば、今この場にランドールとワイズが一緒に居る訳だがすでに、ランドールはワイズを目の敵にはしていないな?
 いつの間にか仲直りしたのか?
「そんな事の為に?」
 いや、ランドール。
 完全に許していないっぽいぞ?
 じろりとワイズを睨み付けたのにワイズ、その場で平謝り。
 膝から崩れ落ちてそのまま頭を地面に擦りつける様に土下座。
「ややっ!そんな事って軽い問題じゃないんですって!坊ちゃんだって迷惑したでしょ、あれはそりゃーもぅ大変な代物で!」
「そもそもお前が封印したままだったのが問題だったとテニーは言っていたがな」
「ああ、テニーはそんな事言ってたんですか!それで色々納得!」
 ワイズはそう叫ぶ様に言うと少し悔しそうに地面を叩いた。
「今はもう理解されたでしょ、坊ちゃん。あれは……」
「本来俺の『中身』になるもの、だろう」
 ランドールは目を細めてそのように、言い切った。
「……俺は外見だ、それくらい知っている。あいつは俺の中身を奪っていった。中身なんてどうでもいいはずだったが俺は……どうしてもその執着が捨てられなかった。どういう感情なのか理解出来ないのは貴様に言った通りだ」
 そう言ってランドール、俺を一瞥する。
「坊ちゃん、では……」
「俺は、俺の中身を奪った怪物を斬った。そうする事で俺は失ったはずの中身を取り戻す事が出来るのだと言われた」
「ナドゥからか」
 俺は理解出来ない話を理解しようとすかさず突っ込む。そんな事言いそうなのは、テニーさんというよりはナドゥじゃねぇのかと思ったのだ。
「あのいけ好かないノーザーの魔導師は、そうだな。ナドゥとか言ったか」
 ノーザーというのは北方人って意味だ。範囲が広いがシーミリオン国に多い水貴族種も含む。間違いない、ランドールがイメージしてるのはナドゥだろう。
「確かにソイツもそんな事を言っていたが、俺は、最初からウリッグを倒す事が目的だった」
「ファマメント政府に一矢報いる事がどうしてウリッグに結びつくんです?」
 と、聞いたのはワイズである。こいつ、ずっとランドールの隣に居た癖にランドールがウリッグに執着する本当の意味を把握していなかったみたいだ。というか、俺達も今聞かされている訳だけど。
「決まっているだろう、政府が俺の中身を取り上げたからだ」
 ワイズは深くため息を漏らして土下座のまま項垂れてしまった。なんかよく分からんが……色々行き違いでもあったのかもしれない。
「成る程、それで繋がりました……テニーの意図する所も把握出来ます。あの人も喰えない人ですよねぇ」
「当然だろう、奴は今ウィン家なんだぞ、認識が甘い」
 と、言ったのはテリーである。ワイズはその声に乾いた笑みを漏らして顔を上げた。ランドールはそんなワイズを見下ろしたまま言う。
「正直、別に中身なんて取り戻さなくてもいいかとも思っていたけどな。……中身が欲しいからウリッグに執着したのか、そうでないのか俺にはよく分からなかっただけだ」

 だから確かめる為に一度手中に納めてみる。

 その為に執着する。
 それが復讐というもので、果たして自らが抱く執着は『愛』か『憎悪』か。
 どっちなのか判別がつかない、素直に分からないと言ってランドールはため息を漏らしているんだな。

 ナッツはそういうランドールの欠陥に気が付いた節がある……死の国で言った言葉の意味がようやく理解出来る。

 ついでにいうとランドールはナッツからそのように言われるまで、自分が抱える『欠陥』の正体を掴めていなかったんじゃないんだろうか?

 分からないと素直に認め、ランドールは今ようやく自分の疑問を口に出して反芻している。
「それとも俺は、俺自身の存在に執着していたのだろうか?……成したい事を成せば答えが出るだろう……と、テニーは言っていた。俺もそうだと思った。自分のものにして、手にする事で答えは出る」
 ランドールは自分の右手に視線を落とす。
「だが……、俺が執着しようがしまいが、どうにも『そいつ』は俺を必要としたようだ。そうやって他人から執着される事もあるのだという事を俺は、その時知っていた。俺の隣にはテニーが居たし、お前も居た。気が付けば多くの人が俺の存在を無視出来ずに取り囲んでいる」
 ランドールは……人との何らかの繋がりを『執着』ってしか認識できねぇんだ。それが奴の抱える致命的な『欠陥』
 というか多分こいつ、善悪の判断って奴をさ、つけられないんじゃねぇのかな。道徳とか倫理観がめちゃくちゃだし、教育はされたんだろうけど上手く呑み込めないまま唯我独尊で大人になっちゃった様な雰囲気がある。
 そのくせ全部の事を、自分に備わってる欠陥気味の感情だけで判断している。だがそういう右と左の区別がつけられないらしい自分の事、薄々気が付いていて、なんとか分別は付けようと努力はしているのだろう。
 ランドールにとって一番耐え難い状況は『無縁』だ。
 つまり、存在が認識してもらえずに『執着』されない状態を一番嫌う。
 だからだ、だから、昔ヘルトで会った時俺が奴の協力要請みたいな会話を全面的に断って関わり合いを拒否した途端怒り出した。そんでもってランドールを無視するアベルには逆に執着した。
 悔しい事にランドールは外見的に美形だ。男の俺から見ても非の打ち所のない、非常に整った顔立ちをしていやがります。
 基本的に女性から徹底的に存在を無視された事無かったんだろうなぁ。ランドールにとって自分を完全無視したアベルの存在はいろいろな意味で、強烈だったんだろう。

 ワイズは今だ土下座というか、膝を折りたたんで地面に座ったままランドールに向けて尋ねた。
「坊ちゃんはウリッグが……失った『中身』が、欲しかったんですか」
「ああ……多分な。復讐なのか、それともそうではないのか俺には……正直に言えばよく分からない。だがこれは復讐なのだと言い聞かせていた所はあるだろう」
 念願の仇、自分の故郷であったオーンを滅ぼした大蜘蛛の怪物ウリッグ。規模的に言えばオーンを滅ぼしたのはギルだ。だがランドールには大蜘蛛の姿が焼き付いた。
 この理由は至極単純であったりする。
 その時オーンの町で、ランドールが『執着』していたものを殺したのが大蜘蛛の方だったから。
 もっと分かりやすく言うか。
 ランドールにとってオーンの町が滅んだ事よりも、オーンで一緒に暮らしていた『家』の方がウエイトが重かったって事だよ。しかし、ランドールにとってはそれが全てだった。
 だから、家族を殺した大蜘蛛にだけ執着し、町そのものを破壊したギルには無関心だった訳である。
 前後関係はよくわからんのだがまず、大蜘蛛の中に封じられていたウリッグが逃げた。ランドールを求めてランドールの家を目指したがランドールが偶々オーンから離れていたばっかりに見つけられず家を、そこに住んでいた数少ないランドールの『執着』している存在を全て破壊した。
 このウリッグを捉える為か、あるいは……ギルの方で自主的に、か?
 ギルがオーンに駆け付けて来てオーンの町全体を破壊。
 後に、オーンに急いで戻って来たランドールが見たのは破壊された故郷であり、ランドールが信じられる誰かから、家を襲ったのが大蜘蛛のウリッグである……と、聞かされた。
 後にオーンを破壊したのは破壊魔王ギルだと聞かされても、一般的にはそう言われていてもランドールの中ではそうでは無かったのだ。あるいはそのギルというのが、大蜘蛛の別称なのかとも考えたが実際ギルに会った時に違うと知ってしまった。

「なんでですか、坊ちゃんは、坊ちゃんの意思で政府と戦うつもりじゃなかったんですか」
「俺は単なる外身だ、中身なんぞない。お前もそれは言っただろう」
 ワイズは言い返されて黙り込む。死国での事だな。しかしあれは命乞い紛いの……ウリッグが混じり込んだランドールに向けて自分は『裏切っていない』という事のアピールみたいだったようだが。
 どうにもそこら辺、逆に地雷だったんだろうな、などと勝手に俺は想像してみる。
 そうだ、ランドールは『王の器』だ。器ってのは外側の、入れ物の事を言う。
 器の中に収まるものがあるんだ。
 俺は、腕を組んで無言でランドールを見守っているテリーをこっそり伺った。

 お前は単なる入れ物だろう、なぁんて事を言われても普通の人ははぁ?で終わるだろう。
 所が、最初から自分が何かの器、自分とは別の何かが宿る事も前提にされ、外側が大事だとして育てられたら中身について空っぽだ、今のお前なんて仮の存在だ、とか言われたら……。
 ちょっとどころじゃなくムカつくかもしれないな。
 自分ってものを自覚し始めてしまったら尚更に。
 今の自分の存在を全部否定されるんだろ。外側の、見える形以外、それ以外の人格とか諸々否定されるんだ。
 俺が在る意味代替の存在で、ホンモノじゃない事を理解している分テリーやランドールの憤りが理解出来る気がする。

「中身なんてどうだっていいはずだった、だが」
 きゅっとランドールの腕を強く握っているシリアの存在を認めて、ランドールの纏っている気配が少しだけ揺るむ。
「……もしかすると俺は、いつしか俺自身、なんてあるかどうかもよくわからんものにに執着するようになっていたのかもしれない」
「坊ちゃん」
 ワイズはほぼ土下座の状態からようやく立ち上がり、顔を上げる。
「じゃ、改めて言わせてください。貴方にウリッグは相応しくない。あんなものを受け入れては行けない、受け入れるべきではない。例え貴方が切望した中身であっても」
「………」
 坊ちゃん、だなんて巫山戯た呼びかけを止め、ワイズは真剣にランドールに訴えた。
「貴方はからっぽじゃないんです、ちゃんとそこに貴方が居る」
「……ああ」
 ランドールは素直に頷いて少し項垂れた。うん、珍しく元気無く……なんか大人しいのな。
「それに。ウリッグはそこの、ギルのものですから」
 ワイズがさらりと言ってギルを指さす。当然俺達の視線がそっちに向く事になった。
「そういや、前にそんな事言ってたな。俺に返せ、とか何とか」
「うん。約束果たしたし、そう言う訳でもう暫く付き合ってよとお願いした訳だよ」
 ナッツがその通りだと言うように頷いている。そういや、その時ギルはこうも言っていたな。

 ……ハクガイコウとカイエン・ナッツを指して、『ウリッグを俺に返せ』と伝えろ、って言ってたっけ。

 俺はナッツを振り返る。
 そのよくわからん約束を果たした?ウリッグを返したって事……か?よくわからんが……
「お願いしたんじゃなくて脅したんじゃないのか」
「僕そんなに腹黒くないよ」
 どーかな?今更ながら俺、今まで取ってきたナッツの行動から相当に腹黒い成分を感知するんだけどな。そもそもナッツはこの冒険書の当初から……というのは、プレイヤーの視点ではあるが。色々と謎だらけだね、とか頭を悩ませていた段階でおおよその答えを知っていた訳じゃねぇか。
 それに、ナッツは悉く『分からない』って答えてたんだぞ。
 ……いや、リコレクトするに奴にとっては必要な嘘だったのかもしれない。むしろナッツは全ての事情に精通している事をリコレクトして驚いて、自分の立場を把握して、冒険当初から悩んでたのかもなぁ……。
 全部暴露すべきなのか、それとも自分のキャラクターに忠実に従って黙ってるべきなのか。
 どれが正しくて、どれが現状一番ベストなのか。
 知ってるはず無い事を全部、奴は最初から知っていたんだ。
 リコレクト・コマンドしたら答えが全部、全部思い出せちまうんだぞ。魔王と大陸座との関係からランドールの立場、魔王八逆星の元になった連中の経緯。全部最初っから分かっちゃったらどうなのだろう。最初に攻略ネタバレ見ちゃったに等しい感じか?俺には想像がつかねぇなぁ、俺、絶対そういうアホな背景背負うようなキャラやらねぇもん。いや、今背負っている背景十分アホなのかもしんねぇけど。
 自分の都合を話せない、それは奴が背負った重い背景。色々黙りしていた件が分かった時、そう云う事だと俺はようやく悟った。ナッツはそうだと明言したり弱音にしたりして吐き出したりはしねぇけど。
 全部最初から知っているのに何も語る事が出来ない。黙ってなきゃいけない。
 俺はさ、後ろ暗い、今はむしろ笑える過去とか暴露しちゃっただろ?抱えているのが堪らなくなって話しちゃう。俺の……戦士ヤトに限らずプレイヤーの性格上から言ってもナッツの立場に俺が立つ事はないだろう。断言するぜ。
「じゃぁ、ウリッグは……?今どこにいるの?」
 アベルが状況について行けず、自分が今疑問に思っている事を口に出す。まぁ、そーだな。
 俺も奴の行方は気になる。
「すでにウリッグに施してあった封印は解けている」
 ナッツは静かに言った。ワイズが調子よく続ける。
「僕が施した封印で、本来なら僕じゃないと解けないはずのとびきりの奴ね。ちなみに、僕はウリッグを解放するのには反対でした。出来ればやっつけてやりたい派です」
「そりゃそうだろうね、暗部握られてるもんねぇ」
「ちょ、代理!それ言わないでくださいよ!」
 と、ナッツがのほほんと暴露したのにワイズが泣きついている。ワイズがウリッグに握られている暗部とやらが何なのかは分からんしまぁ、あえて聞かないで置くけど……。
 ナッツ、やっぱりお前……元来腹黒いキャラなんじゃね?
「で?」
 アベルが答えを促す。
「だから、元に戻ってるよ」
「元に戻るって?」
 ナッツは何故かふて腐れて黙っているギルを示す。
「彼の所に戻っているよ。僕は、それをさっき教えてあげたのさ」
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